02. 保険会社の経営分析

資産・負債キャッシュフロー構造の開示

日本の上場生保グループでは、資産と負債のキャッシュフロー構造を開示するのが一般的になりつつあります。
例えば2025年3月期決算を受けた説明のなかで、次のような開示がありました。

第一生命(PDF) ※13ページ
太陽生命・大同生命(PDF) ※18ページ
ソニーグループ(PDF) ※39ページなど

この開示があると、保険会社が保険負債の金利リスクをどのようにコントロールしようとしているのかを外部からうかがうことができます。逆に言えば、こうした開示がなければ、ESRの金利感応度だけでは保険負債の構造やリスクテイクの状況はよくわかりません。
上場生保だけではなく、できればスタンダードの開示になってほしいです。

なお、生保の2025年3月期決算といえば、大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の契約動向を確認すると、第一生命がやや持ち直したとはいえ、営業職員チャネルによる保障性商品の販売低調が続いているようです。
新型コロナ感染症の影響(顧客接点が持ちにくくなった)というだけではなく、円金利復活に伴い、チャネルが貯蓄性商品の提供に軸足を移している(あるいは経営の意図に反して移ってしまった)ということもあるのかもしれません。

出張中につき、今回はここまで。

※校務で宮崎に来ました(もうすぐ帰ります)。

 

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生保の国内公社債運用

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1284(2025.6.9)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。保険代理店向けの内容ではなかったかもしれませんが、生保決算関係の記事ということでご容赦ください。
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国内公社債の含み損が拡大

近年の長期金利の上昇で、生命保険会社が保有する国内公社債の含み損が注目されています。
生保は超長期の保険負債のリスクヘッジを目的に、多額の超長期国債を保有しています。約3年前、2022年3月末の30年国債利回りは1%を下回っていました。当時の大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の国内公社債は6.6兆円の含み益でした。その後、25年3月末には利回りが2.5%に上昇し、4社の国内公社債は8.5兆円の含み損となりました。

5月26日のブルームバーグニュースは多額の含み損について、生保は一般的に債券を満期保有で保持しているとしたうえで、
(1)債券の時価が帳簿価格よりも50%以上下落した場合は、減損処理実施の可能性が生じる、
(2)大幅な金利上昇に伴う想定外の保険解約があった際には、含み損を抱えた債券の売却による現金化を迫られるなど損失計上につながる可能性もある、
(3)含み損の拡大は運用資産の配分でリスクを取りにくくする要因にもなる、
と述べています。

私の見解を申し上げると、まず(1)はそれほど深刻ではないと考えています。金利要因のみによる価格下落であり、償還時までには必ず額面に戻るため、その債券を持ち続けるという意思を示せるのであれば減損処理は不要なはずです。
(2)は銀行窓販の貯蓄性商品などでは解約が増える可能性があり、商品・チャネルによっては確かに注意が必要です。だからといって、あまりに非現実的な前提を置いて対応するのは、かえって資産構成を歪めることになりかねません。
これらに比べると(3)は意味不明です。金利上昇によって超長期国債の価格が下がる一方で、保険負債の価値も小さくなっています。時価ベースでみれば、生保の経営体力が低下して、リスクを取りにくくなったとは考えられません。来年には各社の経済価値ベースのバランスシートが公表されるので、この記述が意味不明であることがはっきりわかると思います。

債券の入れ替えとは

同じく5月26日の日経は、「生保は債券の長期保有を前提に運用しており足元の影響は限定的」としたうえで、「運用利回りの向上のためには債券の入れ替えが必要になる」と述べています。
日経は24年12月決算発表を受けた2月にも「保有資産の入れ替えが急務となっている」と報じています。
確かに25年3月期決算では、大手4社をはじめ、国内公社債の売却損を計上した会社が目立ちました(富国、ソニー、かんぽなど)。過去に購入した低い利率の債券を売り、利率の高い債券に入れ替える取り組みとみられます。

しかし、売却損を出して債券を入れ替えると、本当に運用利回り(投資のリターン)は向上するのでしょうか。
まずは株式で考えてみましょう。昨年3万円で買ったA社の株式が2万円に下がり、1万円の含み損となってしまったので、入れ替えることにしました。具体的には含み損となったA社の株式を売却し、1万円の売却損を計上したうえで、再びA社の株式を2万円で買いました。その後、株価が3万円に上がり、1万円の含み益となりました。
さて、3万円の株式投資のリターンは、入れ替えによって向上したでしょうか。株式投資のリターンとは含み損益の増減ではなく、投資金額がいくら増えたか(減ったか)なので、入れ替えしてもしなくても、リターンは変わらない(この事例ではゼロ)とわかります。

債券でも同じです。現在、残存期間が5年の国債は、利率0.1%の国債だと価格が約95円、利率2%の国債だと価格が約104円で流通しています。いずれの債券に投資しても、5年後のリターンは同じです。つまり、残存期間が同じ債券を入れ替えて、含み損を消したとしても、そこで高まるのは利率だけで、債券投資のリターンは向上しないはずです。
それにもかかわらず、売却損を出して債券を入れ替えるのは、生保が時価ベースの運用ではなく、利息収入をターゲットとした運用を行っているからなのかもしれません。利回りは同じでも、利息収入が増えれば基礎利益を増やすことができます。
とはいえ、皆さんは時価ベースのリターンをターゲットとしない投資家に資産運用を委ねたいと思うでしょうか。
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※週末は金融学会の大会で久しぶりの東大でした。

 

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2024年度損保決算から

損保大手が2年連続最高益 強まる運用頼み、5年で利益4倍」(日経)
大手損保3社 昨年度の最終利益 いずれも過去最高に」(NHK)

大手損保グループの2024年度決算は、主として政策保有株式の売却益により会計利益が過去最高となりました。
決算資料をざっと確認したところ、大手3グループの連結純利益2.1兆円に対し、国内損保の株式売却益は計1.6兆円(税引前)とのことで、売却益の影響の大きさがわかります。2025年3月末の国内株式含み益は3グループ合計で4.7兆円なので、株価と売却ペースによりますが、当面は同じような決算が続くのでしょう。

参考までに、各社の時価総合利回り(時価ベースでの運用資産全体の運用効率を示す指標)を確認したところ、いずれもマイナスでした。国内損保は2023年度とは違い、資産運用でリターンを上げられなかったということになります。

TMN △1.72%、
MSI △4.82%
ADI △2.24%
SJ  △0.49%

国内損保事業で目立ったのは、自動車保険の損害率上昇と代理店数の減少です。
後者について、このところ年3%程度の減少が続いていたのですが、昨年度は約8%もの減少です。何か統計上の特殊要因があるかもしれませんが(特にADI)、一連の損保問題と関係がある動きなのか注目したいです。

※旧朝鮮銀行本店(現在は韓国銀行貨幣博物館)です。

 

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2025年度の生保運用計画

28日の日経報道で「主要生命保険、保有国債1兆円超削減へ 規制対応一巡で転換(会員限定)」とあったので、大手各社の2025年度運用計画をロイターとBloombergの記事で確認してみたところ、実際には以下の通りでした
(毎回言っていますが、どうしてメディアに説明するだけで、一般に公表しないのでしょう)。

<日本生命>
・過去の利回りが低い(価格が高い)時に購入した債券を売却し、代わりにより利回りの高い(価格の安い)債券を買うため、日本国債については簿価ベースの残高は減るものの、時価ベースで見れば残高は増える。

<第一生命>
・円債については、足元は資産と負債の規模がおおむねマッチしている状況で、年限別のキャッシュフローを踏まえた責任準備金対応債券の入れ替えが中心となり、残高はおおむね横ばいと見込む。

<住友生命>
・円債は、「償還期間10年超」の日本国債を機動的に投資することにより、数千億円規模で積み増す計画。

<明治安田生命>
・金利リスク削減と長期安定的な利配収入確保に向けて、従来通り20年債と30年債を軸とした超長期国債を中心に買い入れる。購入のペース配分は「平準買い」を基本としつつ、金利上昇局面をとらえて追加投資も検討する。ただ償還が買い入れを上回るため、残高は「昨年度の3900億円(簿価ベース)と同程度」減少するという。

<かんぽ生命>
・20年物を中心とした長期・超長期国債に幅広く、「グロスで5000億円程度」の買いを想定している。ただ保有債券の償還が1兆3000億円程度あって投資額を上回るため、残高は減少する見込み。

日本生命は時価ベースでみれば残高を増やす、第一生命は横ばい、住友生命は増加に転じるとのこと。かんぽ生命は資産規模の縮小が続くなかでの残高減少なので、方針として残高を減らすというのは実質的に明治安田生命だけのようです。

記事によると、明治安田生命は1年前(2024年4月下旬)には「平準買いを基本としつつ金利が上昇した局面では積み増す」と述べ、その半年後(2024年10月下旬)にも「金利が上がったら買いに動く」とコメントしていました。
ところがその後、金利が上がったにもかかわらず買いには動かず、「(前年度は)金利先高観により円債の買い入れを抑制」と、国内債を簿価ベースで3900億円減らしたそうです。さらに「(負債と資産のデュレーションのマッチングはほぼ終了しており)円債をどんどん積み増すのは金利リスクが高い」という記述もあり、どうも昨年のコメントとの整合がとれません。

ちなみに日本生命は、1年前は「金利上昇を待って国債買いのペースを加速させる方針」、半年前は「全体としてはやや抑制的なペースで年度を通じて投資」で、今回は「基本は平準ペースで買い入れ、市場動向次第で機動的にペースを調整していく(4月は多めに購入)」ですから、確かに金利上昇に伴って国債を多く買っているようです。
住友生命も、1年前は「金利上昇時には追加投資も検討」、半年前は「金利の上昇局面で少しまとまった金額を投入」で、今回は前述の通り「『償還期間10年超』の日本国債を機動的に投資することにより、数千億円規模で積み増す計画」です。

※ソウルのおしゃれなカフェです。

 

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「挑む相互会社の壁」

4月18日にアップされたNIKKEI Financial「ホケンの変革 日本生命保険 挑む相互会社の壁(上)/相互会社で進める大型買収、企業統治改革は道半ば」にコメントが載りました。
有料媒体なので私に関する部分だけ引用します。詳しくはNIKKEI Financialをご覧ください。
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24年5月、韓国で開いた韓国保険学会。元著名保険アナリストで現在は福岡大学で教鞭(きょうべん)をとる植村信保教授は日本の保険会社のM&Aについて出席者から問われると「相互会社が海外の保険会社を買収し、グループとして非社員契約を増やすのは、契約者が会社の構成員(社員)となっている相互会社のあり方として適切なのかという疑問が生じる」と指摘した。
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「元著名保険アナリスト」というのは「元R&Iの格付アナリスト」の誤りではないかと思いますが(笑)、こちらのブログ(日本の保険会社による海外M&A)で書いた内容を参考にしていただいたものです(取材も受けました)。

そもそもは「(日本の保険会社による)海外M&Aの目的は純投資なのか、それとも事業による利益獲得をねらったものか」という質問に対し、純投資ではなく、事業による利益獲得をねらったものと答えたうえで、相互会社についても触れました。引用していただいた内容に続き、「株主と相互会社の社員では、経営陣への期待(リスクのとり方など)も異なると考えるのが妥当」とも述べています。

なお、ブログでは相互会社のガバナンスに関する記事を何度か書いていますので、ご参考まで。

相互会社の保険会社買収(2015.9.13)
週刊ダイヤモンドの保険特集(2018.4.28)
2020年の生保総代会(2020.7.26)
「質疑ゼロの生保総代会」(2023.7.17)

※キャンパスに学生が戻ってきました。

 

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MSIとADIの合併

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1276(2025.4.7)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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合併による経営効率改善へ

MS&ADグループの中核会社である三井住友海上火災保険(MSI)とあいおいニッセイ同和損害保険(ADI)が2027年4月をめどに合併する準備に入りました。
読者の皆さんには釈迦に説法かもしれませんが、MSIは旧財閥系の大手損保どうしが対等に近い形で合併した会社である一方、ADIはパーソナル分野に強い大東京火災がトヨタと親密な千代田火災、日本生命グループとなっていたニッセイ同和損保と一緒になった会社です。同じグループとなって久しいものの、この15年間に両社の融合が進んだようには見えません。国内損保事業の構造的な問題が明らかになるなかで、両社を併存させるメリット(MS&ADの船曳真一郎社長は昨年9月のIR説明会で「代理店シェア最大化のため」と説明)よりも、合併で1つにしたほうがよりメリットが大きいという判断をしたのでしょう。
そう考えると、「それぞれの強みを維持・結集し、さらに拡大するために強力に取組みを進める」(ニュースリリースより引用)というのは、合併によるマイナス効果を何とか最小限にとどめたいという意味であり、1プラットフォーム戦略など、これまで進めてきた一体運営ではさらなる効率化には限界があるので、合併で経営効率の改善を一気に図り、「経営資源の全体最適を実現」(同)させるということだと理解できます。

持株会社によるガバナンス強化

筆者は、国内損保事業の効率改善以上に重要なのは、持株会社によるガバナンス発揮ではないかと考えています。
これまで様々なメディアで、企業向け保険料の事前調整問題と、旧ビックモーターによる保険金の不正請求事件は、損保業界が護送船団行政の時代に形成したコンダクト(企業行動)を、自由化後も温存してきたことが問題の本質であると指摘してきました。情報漏えい問題も同じです。不適切なコンダクトを温存できた要因は、各社がビジネスモデルの見直しではなく、業界再編によって競争相手を減らす戦略を選んだことが大きいと見ていますが、再編で設立された持株会社のガバナンス機能が弱く、グループ管理のダブルスタンダードがまかり通ってきたことも挙げられます。
持株会社は、新たに買収した海外事業の経営者には、当然ながら投資(すなわちリスクテイク)に見合ったリターンを求めるのに対し、国内自然災害と政策保有株式という2大リスクを抱えているにもかかわらず、こうしたリスクベース経営ではなく、規模やシェアを追求する国内損保事業をなかなか変えようとはしませんでした。会社価値の拡大を求める株主からすると、持株会社がむしろ盾(たて)の役割を果たしてきたことになります。

お気付きの通り、これはMS&ADグループだけではなく、同じく中核損保で問題が発覚した他の大手2グループにも共通した課題です。とはいえ、MS&ADでは傘下に中核損保が2つあることで、持株会社が監督・指導よりも、調整や対外説明に労力を費やしていた可能性があります。
筆者は、合併で国内トップシェアの損保が誕生すると誇るのではなく、中核損保の合併を契機に、持株会社のガバナンスを十分に発揮できる体制づくりができるかどうかが重要だと考えています。

※今年は天守台から桜を眺めることができました。福岡にて。

 

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急務なのは会計見直しではないか

生命保険会社の第3四半期(4-12月期)決算を受けた報道ですが、さすがにこれはひどいミスリード記事だと思いました。
2月20日の日経「生保 国内含み損11兆円」という記事で、「保有資産入れ替え急務」という小見出しまで付いています(さらに言えば、紙の新聞では同じ面に「農林中金、運用の改革急ぐ」という記事があり、あたかも次は生保と言わんばかりの構成です)。
今回はベトナムの話を書こうと思っていたのですが、こちらを取り上げることにしました。

生命保険会社は多額の超長期債を保有しているため、金利上昇により国内債券の含み損が拡大しているのは事実です。しかし、あたかも生保が資産運用に失敗し、含み損の解消が急務とでも言うような見出しと内容は事実に反しています。
来年度から新たな健全性規制が導入され、経済価値ベースの貸借対照表をベースにしたソルベンシー・マージン比率が入るのは、少なくともご担当のかたならよくご存じのはず。それなのに資産サイドの時価変動だけに注目した記事が大々的に出てしまうのは、いったいどうしてなのでしょうか。

金利上昇によって生じた国内債券の含み損に注目するのであれば、「責任準備金対応債券という保有区分が認められていて、含み損益が実現しなければ収益に与える影響は限定的」などという説明よりも、

・負債サイドの評価はどうなっていて、全体としてどうなのか
・金利上昇でどの程度の解約が生じ、それが債券の実現損につながっているのかどうか
・国内債券の減損を求められる可能性(およびその是非)について
・経済価値ベースでは意味のない国内債券の入れ替えを各社はなぜ行っているのか

などを取り上げてほしいです。
この記事を見た契約者が心配になって解約に走らないことを祈ります。

日経報道だけではなく、Bloombergでも「大手生保3社で国内債売却損4700億円、運用資産健全化-4~12月」と、国内債券の含み損を問題視する論調です。他方で、内部管理上の経済価値評価に基づいた指標を公表していても、どのメディアも報道しません。
特に決算報道では、メディアの関心は会計損益とその変動要因にあるようなので、つまるところ会計を変えないと、せっかく新たな健全性規制を入れても、いまの報道姿勢は大きく変わらないおそれがあります。

拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』の第3章で述べたように、金融庁は契約者保護の観点からも、企業価値の向上を目指す観点からも、保険会社の経営内容を把握するうえで、経済価値ベースのソルベンシー規制と親和的な監督会計(結果として会社法や金商法の会計も変わります)の策定を急ぐべきだと、改めて強く思いました。

念のため、過去のブログ記事もリンクしておきます。
国内債の含み損(2024.8.18)
「中堅生保、債券偏重の死角」(2024.9.14)

※ホーチミンで開業したばかりのメトロに乗りました!

 

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大手損保の第3四半期決算から

旅に出る前に少しだけコメントを。
予想どおりではありますが、政策保有株式の売却益が会計利益を押し上げています。この状況がしばらく続くのでしょう。
含み益が実現益になっただけですので、過去最高益などと言ってもほとんど意味がないことがよくわかります。

他方で、今回の自動車保険のEI損害率を見ると、ADIは何か別の要因がありそうですが、総じて当初の見込みよりも悪化しているのではないでしょうか。

TMN 67.9% ⇒ 71.1%(+3.2p)
MSI 68.2% ⇒ 71.2%(+3.0p)
ADI 70.0% ⇒ 69.4%(-0.6p)
SJ  69.1% ⇒ 72.9%(+3.8p)

※前年同期との比較

ここまで損害率が悪化すると、おそらくコンバインドレシオが100%を大きく上回り、数百億円規模の減益要因となってくるように思います。

ということで、短くてすみません。

※14日は横浜にいてよかったです!

 

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大手生保の営業職員

とある原稿執筆の関係で、大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の営業職員数の推移を確認する機会がありました。
2021年に出した拙著『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』では、第11章で生命保険の営業職員チャネルを取り上げていて、次のような記述があります。

「大手4社のデータを見ると、2000年代前半までは毎年在籍数の4割程度にあたる営業職員が退職していました」(149ページ)

各社のディスクロージャー誌には営業職員の在籍数と採用数が載っているので、そこから試算した退職数をもとにした記述となります。この計算方法では入社した年度内に退職した職員は含まれず、やや過小評価となっていますが、各社のデータを確認すると、1990年代後半から2000年代前半にかけての退職率(期首在籍数に対する退職数の割合)は各社ともざくっと言って4割前後で、当時は在籍数の減少も続いていました。
しかし、2000年代後半から退職率は低下傾向となり、在籍数の減少傾向にも歯止めがかかります。拙著では次のように記しています。

「2005年に発覚した保険金不払い問題を経て、各社は新契約に過度に偏重した営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業活動に舵を切りました。採用後の教育を重視し、固定給を増やすなど、早期退職を減らす取り組みもターンオーバーの改善に効果を上げたと考えられます」(150ページ)

それでは足元ではどうなっているかというと、日本生命、第一生命、住友生命の3社は、新型コロナの影響を受けた2020年度をピークに在籍数を年々減らしているのに対し、明治安田生命の在籍数は増加傾向となっています。直近(2023年度)の退職率は日本生命と住友生命が18%台、明治安田生命が17%弱、第一生命が13%強で、第一生命の退職率が際立って低く、明治安田生命は退職率の上昇を抑えつつ在籍数を増やしていることがうかがえます。

他方で4社に共通しているのは営業職員の性別です。例外なく、在籍数に占める女性営業職員の割合は97%以上となっていて、採用した職員もほぼ100%女性となっています。ここまで徹底しているとはちょっと驚きですね。

※写真はソウルでいただいたナツメ茶です。

 

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予定利率の引き上げ

報道のとおり、日本生命が2025年1月から、平準払いの終身保険や個人年金保険の予定利率を約40年ぶりに引き上げると発表しました。日経報道によると、富国生命も終身保険で予定利率を引き上げる方針とのこと。
背景には、今後の超長期金利が1%を割りこむようなことはもうないだろうという判断と、これまでの内部留保や資本増強などで健全性の面でも不安がないという判断があるのだと想像しますが、実際のところ、どのような議論があったのか興味深いです。

例えば、日本生命が公表している内部管理上の連結ESRは227%と、リスク量の2倍を上回る支払余力を確保しています。富国生命のESRも250.5%とのことです(いずれも2024年9月末)。
拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』でも書いたように、ESRは高ければ高いほどいいというものではありません。相互会社の社員(契約者)は株式会社の株主よりも破綻リスクへの許容度が低いとしても、破綻リスクを極力減らすために支払余力の拡大を続ける経営を求めているとは考えにくいです。なぜなら、同じ保険市場に株式会社と相互会社があるなかで、相互会社の存在意義は、株式会社よりも実質的に安い保険料(契約者への配当還元を含む)で保障を提供することにあるからです。
予定利率の引き上げは今後獲得する新契約に適用されるものなので、既契約者(特に近年の低い予定利率の契約者)への還元についてどのような議論がなされたのか、外部に示してほしいところです。

主要生保の4-9月決算を確認すると、貯蓄性商品の動向でわかりにくいものの、保障性商品をはじめ各社が主力とする商品の販売は引き続き低調だった模様です。おそらくコロナ前の水準を回復できていないのではないでしょうか。
そのようななかでの利率引き上げという判断が、単に営業現場の要請を受けて、あるいは営業現場のてこ入れを主眼としてなされたとしたら、何とも寂しいかぎりです。

※福岡と東京・横浜の湿気の違いにびっくりです。

 

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