02. 保険会社の経営分析

少短保険会社の不適切会計

公文書改ざんの次は、事務方トップのセクハラですか。一般企業に比べると、組織としての中央官庁の体質は10~20年くらい遅れているというのが私の実感でしたが、一連の対応を見ていると、まさにそうだと改めて思いました。

個人負担で保険金支払い

さて、連日大きなニュースが相次ぐなかで、「保険金支払いに個人資産充当」という冗談のようなニュースがあったのをご覧になったでしょうか。保険料ではなく保険金です。

糖尿病でも入れる保険を提供することで知られるエクセルエイド少額短期保険が、2013年秋から2014年1月にかけ、幹部の個人資産を保険金支払いに充てる不適切な会計処理を行っていたと発表しました。会社の資産減少で保険金の支払いが遅れていたため、当時の社長で大株主でもある創業者が保険金部長(当時)に個人負担を求めたとのことです。
同社のサイトへ

加入者数の伸び悩み

そんなに苦しかったのかと同社の経営情報を確認しようとしたところ、例によってディスクロージャー誌はサイトにアップされておらず、財務内容の手掛かりは決算公告だけでした。

エクセルエイドは2007年7月に営業を開始しています。2008年度の事業計画では、第5期(2011/3期)の黒字転換、第6期(2012/3期)の累損解消を見込んでいたようです。
しかし、加入者数が見込みどおりに伸びなかったと見られ、損益計算書が公表されるようになった2011/3期は黒字決算でしたが、その後は113条繰延資産(=新契約費の資産計上)の影響を除くと実質赤字が続きます。

問題の不適切会計が行われた2014/3期(過年度修正後)の決算データを見ると、確かに苦しい状況がうかがえます。
その前年度から113条が使えなくなったこともあり、2期連続の赤字決算となりました。累積損失は5億円に達し、純資産から113条繰延資産を除くとわずか0.1億円です。同社はそれまでも累計5億円以上の増資を行ってきており、さらなる増資が難しくなっていたのかもしれません。

その後はコスト削減を進めたことなどにより、2016/3期からは実質黒字となっています。しかし、保険料収入が2.3億円、加入者数が6000件程度にとどまっていることが、引き続き最大の経営課題なのでしょう。

なぜ簿外処理が可能だったのか

それにしても不思議なのは、どうしてそのような会計処理ができてしまい、かつ、なかなかバレなかったのかという点です。
保険金・給付金の支払いを社員が負担し、決算数値がよくなるということは、加入者からの請求をなかったことにするとか、会社以外のシステムから会社名で保険金支払いを行うとかの異例な処理が行われたと考えられます。

少額短期保険会社とはいえ内部監査の担当者はいたでしょうし、保険計理人もいます(外部委託かもしれませんが)。資本金3億円以上であれば外部監査も必要です。
2014/3期の保険金・給付金0.9億円に対し、保険金部長が個人負担したという112件/0.1億円は同社にとって決して小さい数字には思えないのですが。

※写真は明治神宮です。ここも外国人観光客が多いところなのですね。

 

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金利敏感株に明暗

16日の日経・マーケット総合面に「金利敏感株に明暗」という見出しの記事があり、「保険上昇/電力・不動産は軟調」という株式市場の動きを伝えていました。
ただし、「米金利の上昇を受けて保険株が上昇」「生損保はともに外国債券の保有額が多く、海外の金利が上昇すれば中長期的に運用益が増加する」という説明は、さすがに無理があるように思います。

米金利上昇と生保経営

ちょうど14日から15日にかけて主要生保の4-12月期決算が公表されましたので、こちらのデータも参考にしながら確認してみましょう。
生保のバランスシートで米金利上昇の影響を直接受けるのは、保有している米国の公社債と、グループで展開する米国の保険事業です。このうち後者の保険事業については、一般的に米国生保では以前からマッチング型のALMが浸透しているため、金利変動の影響をそれほど受けないと考えられます。

問題は前者の公社債です。最近でこそ外貨建ての商品提供が目立つようになってきたとはいえ、保険負債の大半は円建て、かつ、固定金利の長期保証ですので、生保の外債運用は負債とのマッチング目的ではなく、純粋に資産運用でリターンを目指す取り組みです。

生保の外債投資は増加基調

2017年9月末と12月末を比べると、一部の会社を除き、外貨建資産の増加基調が続いており、いまや一般勘定資産の2~3割が外貨建資産という状況です。
このうち、ヘッジ外債(為替ヘッジを行っている公社債)については米金利上昇の影響を受けにくいことも考えられますが、少なくとも為替ヘッジのない米国公社債は金利上昇によって価格が下落し、中長期的に運用益が増加するとか言う前に、今の時点でやられているはずですね。

保険株(特に生保)が金利敏感株であるという見方に異論はありません。米欧の中央銀行に続き、日銀も金融緩和の出口に向かい、金利の上昇基調が見込まれるようになれば、生保経営にとってプラスに働きます。
ですが、同じ金利上昇でも、円建ての保険負債を大量に抱える日本での金利上昇と、資産運用でリターンを目指す米国での金利上昇では、日本の生保経営に対する影響は正反対と捉えたほうがよさそうです。

※この週末(17~18日)は横浜・大倉山の梅まつりでした。

 

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損害保険統計号から(inswatch原稿のおまけ)

今週のinswatchに「損害保険統計号から」という記事を寄稿しました。後日こちらでも紹介したいと思いますが、ボリュームの関係で書かなかったことを、私の備忘録を兼ねて残しておきましょう。

ダイレクト自動車保険

inswatchでは3メガ損保や外資系損保の市場シェアを改めて確認しました。
加えてダイレクト系の元受シェアも見たところ、29社ベースの全種目合計(地震・自賠を除く)では5.6%、自動車保険では7.7%となっていました(2016年度)。昨年10月の産経新聞に出ていた「自動車保険全体の8%程度」を検証できました。

この「7.7%」という数字をどう見るかです。
ダイレクト自動車保険は20年前の1997年にはじまり、10年前の2007年度の元受シェアは4%弱でしたので、徐々にシェアを確保してきているといったところでしょうか。ただし、自動車保険には企業向けも含まれることから、個人向けにかぎればちょうど1割くらいを占めるようになったと考えられます。
都市と地方、あるいは世代によっても、ダイレクト自動車保険の普及度合いは違うのでしょう。

日本の消費者は価格差があっても簡単には動かなかったとはいえ、今後もダイレクト保険のシェアは高まっていくのではないでしょうか。
ネット通販のさらなる普及のほか、事故が起きにくくなると、今の付加保険料の水準を維持するのは徐々に難しくなるでしょうから、代理店が主力に据える商品ではなくなっていくのかもしれません。

元受と正味の違い

また、元受正味保険料と正味収入保険料を比べてみて、格付会社から金融庁に移った時のことを思い出しました。
格付会社で担当していた損保会社は大手から中堅規模ののフルライン会社ばかりで、元受保険料と正味保険料の差がそれほどありませんでした。しかし、金融庁がモニタリングの対象としているのは損害保険会社免許を持つすべての会社なので、50社以上にもなります。
こちらをご覧いただくと、特定分野に特化した会社がたくさんあることがわかります。

加えて、再保険政策も会社によって大きく異なります。特に外資系の場合、元受のかなりの部分を出再するケースが目立ちます。
2016年度データを確認すると、例えばこの1月に富士火災と合併したAIU保険は、元受正味保険料が2511億円、正味収入保険料が648億円ということで、元受保険料の7割以上を出再しています。

アリアンツ火災はもう少し複雑で、元受正味保険料71億円と受再正味保険料75億円の大半を出再しているため、正味収入保険料はわずか1億円です。
元受保険料のほとんどを出再してしまうということは、日本の拠点は実質的に引受リスクを負わないということになります。出再先が海外であれば日本の保険行政の力が及ばない(及びにくい)ので、一般的にはモニタリングが難しいと思われます(もちろんアリアンツに何か問題があるという意味ではありません)。

いずれにしても、生保会社を含め、外資系保険会社では再保険が多用される傾向があり、分析には注意が必要ですね。

※写真は六本木です。光の色が突然白から赤に変わり、びっくりしました。

 

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生保の4-9月期決算から

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主要生保の4-9月期決算が出そろいました。

今回の注目ポイントは、営業面で言えば、4月からの標準利率引き下げに伴い、各社の業績がどのように変わったかということでしょう。
新聞には業績指標として保険料等収入しか掲載されませんが、ここからは、貯蓄性商品の販売休止や料率引き上げにより、大手5社(日本、第一、住友、明治安田、かんぽ)ともに減収となったことくらいしかわかりません。
ただ、もう少し中身を見ると、各社の戦略の違いが数字に表れているようです。

例えば、第一生命、住友生命、かんぽ生命は減収の傍らで、第三分野の新契約年換算保険料を前年同期よりも伸ばしました。
特に、第一生命は前年同期の1.5倍の水準です。営業職員の評価基準を調整するなど、保障性商品へのシフトを進めた効果が出ているのでしょう。
かんぽ生命は貯蓄性の強い養老保険を主力としており、料率引き上げの影響を受けやすいのですが、医療特約をセットで提供しており、この部分が第三分野の増収につながった模様です。
住友生命は、昨年9月に発売した就労不能保障「1up」が好調だったとのこと。他社よりも減収が大きく見えるのは、前年同期に個人年金保険で契約をかなり伸ばしたため、その反動でもありますね。

他方、日本生命は、銀行窓販を除けば、保険料等収入が増収でした。新契約年換算保険料も増えています(第三分野は減収)。
これは、4月に発売した経営者向け保険「プラチナフェニックス」が、営業職員および代理店チャネルで好調だったことが大きく寄与していると見られ、いわゆる保障性商品へのシフトとは異なるようです(なお、第一生命でも経営者向けの第三分野商品が好調だったとのこと)。

明治安田生命は新契約件数が前年同期に比べて2割以上も増えました。
こちらは、2016年10月から販売している小口の貯蓄性商品「じぶんの積立」がヒットしたことが挙げられます。この商品で新しい顧客層を獲得し、その後につなげていこうという戦略なのでしょう。

なお、多くの会社が外貨建ての貯蓄性商品を取り扱うようになったにもかかわらず、ごく一部の上場生保を除き、情報開示がないのは、どうしたことでしょうか。
少なくとも、外貨建て商品の保険料収入や、外貨建て保険負債の残高を開示しなければ、ALMをはじめ、生保経営の実態がますますわからなくなってしまいます。
2017年度決算の発表では、前向きな対応に期待したいですね。

※香港は坂の町なので、このエスカレーターは便利です。

 

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生保の超長期債需要

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人口減少で生命保険の購入層が減り、生保の超長期債需要が低下する可能性について財務省が言及したという記事(7日の日経)を見て、一体どんな議論が行われているのかと思い、「国の債務管理の在り方に関する懇談会」の資料や議事要旨を確認してみました。

議事要旨によると、財務省(理財局)は「生保の超長期債需要が減る」という表現は使っていませんが、次のような分析から、超長期債の需給構造が変化する可能性があるとしています。

「生命保険会社の年換算保険料収入は順調に伸びている。一方、保険金等を控除した収支は7~8兆円程度で推移。また、昨年の金融レポートにおいて、金融庁は、今後の人口構成の変化により、保険加入の中核層である30~40歳代が減り、保険料のボリュームが縮小したり、終身保険から医療・介護保障へのニーズの変化をもたらす可能性があるという分析をしており、今後生保の負債サイドが質・量両面で変化する可能性も示唆。」

要は、保険加入の中核層が減っていき、保障内容も変わるから、中長期的な超長期債需要が減っていくだろうという分析結果なのですが、本当にそうなのでしょうか。

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図表は懇談会の資料1(21ページ)です。2007年度以降、生保が超長期債を積極的に購入してきたことがわかります。その背景としては、金融庁が経済価値ベースのソルベンシー規制導入に向けて舵を切ったことや、保険会社で経済価値ベースのリスク管理を導入する動きが進んだことが挙げられます。

こうした資産長期化により、生保はすでに負債の金利リスクを十分抑制できたのかといえば、必ずしもそうではありません。新契約の有無にかかわらず、生保が金利変動の影響を依然として受けやすいことは、金融庁によるフィールドテストの結果からも明らかです。
つまり、日銀が国債をガンガン購入し、金利水準が著しく低下したという異常事態により、近年の購入ペースは鈍化していますが、既契約だけを考えても、生保が超長期債を購入する余地は依然としてそこそこ大きいと考えるのが自然でしょう。

新契約についても検討してみましょう。死亡保障から生存保障(医療、介護、年金など)へのシフトは今に始まった話ではなく、国内系生保の主力商品はかなり前から定期の保障性商品です(=超長期債のニーズは小さい)。他方、第三分野マーケットの主力商品は終身医療保険なので、それなりに金利リスクがあると考えられます。

この10年間は終身保険が売れました。これは「保険加入の中核層」向けではなく、主に銀行で貯蓄性商品として販売したものなので、高齢層が中心です。
今の金利水準では魅力的な円金利の貯蓄性商品を提供するのは難しいものの、それこそ人口構成を考えると、貯蓄性商品へのニーズはしばらく強いでしょうから、ある程度金利がある世界となれば、再び超長期の貯蓄性商品が売れるでしょう。

議事要旨からは、財務省が「今後は人口構成の変化により、生保負債は縮小に向かい、かつ、短期化する」と考えていることがうかがえます。
しかし、以上のように、既契約からも新契約からも、「生保負債が縮小に向かい、かつ、短期化するので、超長期債ニーズが減る」というのはかなり先の話であり、国債発行計画の検討材料にするのであれば、時間軸があまりに違い過ぎると言えそうです。

※東京駅のこの駅弁屋さんでは、全国の駅弁を取り扱っていて、楽しいです。

 

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自然災害による支払保険金

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台風18号は九州・沖縄から北海道まで
広い地域で被害をもたらした模様です。
以前に比べ、北海道でも台風の被害が
目立つように思います。

この機会に日本および世界の自然災害による
保険金支払いの上位を確認してみましょう。

日本損害保険協会の調査によると、
日本の上位は次のとおりです。

1.東日本大震災(2011/3)  1兆3113億円
2.平成3年台風19号(1991/9)  5680億円
3.平成16年台風18号(2004/9) 3874億円
4.平成28年熊本地震(2016/4) 3753億円
5.平成26年2月雪害(2014/2)  3224億円

世界の上位は、スイス再保険が毎年刊行する
SIGMA」のデータを見てみましょう
(1970年以降。金額は2016年価格に換算)。

1.ハリケーン・カトリーナ(2005/8、米国)
  807億米ドル
2.東日本大震災(2011/3、日本)
  373億米ドル
3.ハリケーン・サンディ(2012/10、米国など)
  301億米ドル
4.ハリケーン・アンドリュー(1992/8、米国など)
  274億米ドル
5.同時多発テロ(2011/9、米国) 255億米ドル

東日本大震災の支払額が損保協会のデータより
大きいですが、損保協会のデータは家計向けの
地震保険が対象なので、企業向け地震保険や
JA共済の支払額(JA共済は9361億円の支払)
などを含めると、このような数値になるのでしょう。

ちなみにSIGMA調査では、1991年の台風19号は
100億米ドルとなっていて、損保協会との違いは、
JA共済の1488億円とインフレ調整で概ね説明
できそうです。

SIGMA調査の10位は2011年タイの洪水です。
160億米ドルのかなりの部分を日本の保険会社が
支払ったと見られますので、日本の支払額2位は
実質的にはこちらになりそうです。

8月末に米国に上陸したハリケーン・ハービーの
支払見込額は、AIR Worldwideで100億米ドル超、
RMSで250~350億米ドルだそうです。
最近のイルマのほうは、AIRで320~500億米ドル
とのことなので(RMSは未公表)、2つ合わせると
かなり大きな金額となりそうです。

※写真は父が趣味で描いている絵です。

 

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生保の4-6月期決算から

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生保の4-6月期決算が概ね出そろいました。
今回のinswatchでは大手4社と損保系生保の
業績動向をレポートしましたが、こちらでは
別の視点をご紹介しましょう。

標準利率引き下げに伴う料率見直しもあり、
保険料収入がどこまで落ち込むか注目して
いたのですが、国内系生保に関して言えば、
意外に減らなかったという印象です。

国内系生保9社の保険料収入の推移は
以下のとおりでした。

 <2015年度>
  4-6月期 7-9月期 10-12月期 1-3月期
  4.5兆円  4.6兆円  4.2兆円  5.0兆円

 <2016年度>
  4-6月期 7-9月期 10-12月期 1-3月期
  4.1兆円  4.0兆円  4.0兆円  3.8兆円

 <2017年度>
  4-6月期
  3.6兆円

つまり、2016年度の収入の落ち込みに比べ、
減収はそれほどでもなかったとも言えます
(それなりに減ってはいますが…)。

おそらく、銀行チャネルの一時払終身保険の
販売がすでに収束していたため、4-6月期の
生保マネーは前期比ではあまり減らなかった
のでしょう
(ちなみに平準払の個人年金は激減した模様)。

その生保マネーがどこに行ったかといえば、
引き続き外貨建資産に向かったとみられます。
ヘッジ状況を公表している会社にかぎれば、
前期末に比べ、為替リスクをやや高めている
模様です。

他方、金利リスクや非金利の資産運用リスク
に関しては、大規模な変化はないにしても、
会社により考え方が多少は異なるようでして、
よく見ると興味深い結果となっています。

※左の写真は佐世保の防空壕を活用した商店街。
 右は佐世保バーガーです。

 

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新設保険会社の健全性指標

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とある会合で、保険会社の健全性指標
(ソルベンシー・マージン比率などですね)
について議論をする機会があり、そのなかで

「新しい会社のソルベンシー・マージン比率は
 総じて高いけど、健全性を把握する指標として
 役に立つのか」

という話になりました。

私の結論は、「単年度の比率だけを見ても、
あまり健全性の手掛かりにはならない」です。

当然ながら、事業を始めたばかりの会社は
保有契約が少ないため、保険引受リスクや
資産運用リスクが自己資本に比べて小さく、
ソルベンシー・マージン比率(以下SMR)は
高くなります
(1年後に大きく下がることはありますが…)。

しかし、考えてみれば、そもそも新設会社は
ビジネスモデルが確立できていないため、
事業そのもののリスクが非常に大きいはず。
ただ、このリスクを数値で表すのは困難です。

ですので、SMRでは新しい会社の健全性は
うまく示されていないと考えるべきでしょう。

では、基礎利益や当期損益はどうかといえば、
これらも残念ながらあまり役に立ちません。

特に生保事業では、新しい会社のように
保有契約に対して新契約のウエートが大きい
会社の場合、基礎利益や当期損益が小さく
出る傾向があります。
これは、新契約を獲得する際、販売経費など
コストがかさむため、売れば売るほど利益が
圧迫されてしまうためです。

それでは何を見たらいいのかという話ですが、
そもそも新設会社の経営リスクは大きいという
認識をお持ちいただいたうえで、「良質な契約を
順調に獲得しているか」なのでしょう。

契約数が少なければ初期投資の回収が遅れる
ばかりでなく、死亡率や発生率が安定せず、
収支の振れが大きくなってしまいます。

とはいえ、単に契約を増やせばいいのではなく、
良質な契約でなければ、数年後の収支が著しく
悪化することもありえます。
保有契約の動向とともに、新契約EVや発生率
など、契約の質の手掛かりとなる指標を探し、
ウォッチしていくことのが現実的でしょう。

なお、歴史の浅い会社では初期投資がかさみ、
歴史の長い会社とは資金繰りの構造が異なる点
にも注意が必要です(油断できないという意味)。
再保険を積極的に活用しているのであれば、
再保険活用の目的や出再先の信用リスクなども
注目事項です。公表資料だけでは難しいですが…

※写真は東海道・薩?(さった)峠です。

 

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金融庁が提起した主な論点

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今年から金融庁のサイトで、「業界団体との
意見交換会において金融庁が提起した論点
を公表するようになり、生命保険協会および
日本損害保険協会のものが出ています
(保険は2月以来の公表です)。

事務年度の終盤に行われた会合なので、
行政の取り組みの一端がうかがえます。

例えば[生命保険協会]を見ると、
「持続可能な収益構造等に関するモニタリング」
として、各社のコスト構造や保有契約の収益構造
について、次のような分析結果を示しています。

・全体の事業費に占める固定的な経費(ランニング
 コスト)の割合が多くの社で70%前後となっている
 など、販売が伸び悩んだ場合におけるコスト構造
 の弾力性は高くないと考えられる。

・いずれの社も保有契約全体で見れば、経済的
 ショックが起こらないという前提のもとでは
 今後も健全性を確保できる見込みであった。

・内部留保が更に蓄積されていった場合、資産
 運用高度化等を通じて利益を確保し、逆ザヤ
 契約からの損失をカバーすることや、内部留保
 の蓄積により健全性を維持することに加えて、
 利益や内部留保の一部を配当などによって保険
 契約者へ還元することをより意識すべき局面が
 いずれ訪れることとなる。

市場が縮小してもビジネスモデルが成り立つかを
見るには、新契約で利益を確保し続けることが
できるかも大事だと思うのですが、そこについては
特段言及はなかったようです。

「全体の事業費」も気になりますね。ここで言う
事業費とはどのような数字なのでしょうか。

まあ、さすがに損益計算書の事業費そのものでは
ないですよね。そうだとすると、保有契約に対する
新契約が多い会社は固定的な経費の割合が低く、
「コスト構造の弾力性が高い」となってしまうので。

「保有契約全体で見れば・・・今後も健全性を確保」
という記述も気になります。ストレスシナリオ下でも
現行会計ベースの利益を持続的に確保できる
という意味でしょうか。

文中に「逆ザヤ契約からの損失をカバー」とあり、
あくまで現行会計ベースの利益や内部留保の話を
しているようですが、他方で両協会の[共通事項]
の「統合的リスク管理の高度化」を見ると、

・(前略)持続的な成長性や収益性に資する態勢が
 整備・運用されているかという観点から、統合的
 リスク管理に係るモニタリングを実施した。

・リスク対比リターン指標であるROR(リターンオン
 リスク)の管理等を通じ、全社ベースでリスクと
 リターンのバランスを取る取組みが徐々に浸透し
 てきているが、セグメント別や商品別等の詳細な
 区分での取組みは今後の課題。

とあり、こちらの「リターン」は現行会計ベースとは
考えにくいです(リスクと対比するものなので)。

片や「持続可能な収益構造」、こちらは「持続的な
成長性や収益性」ということなのですが、果たして
両者の関係はどうなっているのか、話を聞いた
生命保険会社の首脳は混乱したかもしれません。

いずれにしても、おそらく詳細は「金融レポート」に
掲載されるのではないかと予想されますので、
楽しみに待ちましょう。

※写真は「宮城の小京都」村田の町並みです。

 

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生保決算

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ある生保の決算説明会で専門紙の記者から
次のように聞かれました。

「減収減益という結果だけど、話を聞くと、
 資産運用を積極化し、配当も出している。
 今回は果たしてどんな決算だったのか?」

報道では「マイナス金利が響き、減収」などと
保険料収入が減ったことばかりが注目され、
あとは基礎利益の解説が多少あるだけ。
確かに決算がよかったのか悪かったのか
これでは悩むのも無理はありません。

会社価値という観点から単純に1期前
(2016年3月末)と2017年3月末を比べると、
主に第三分野の保有契約積み上げに加え、
長期金利や株価の上昇により、ポジティブと
言うべきなのでしょう。

例えば各社が公表するEVを見ると、いずれも
数値が拡大しています
(日本、朝日、富国は非公表)。

ただし、金利のミスマッチは総じて広がり、
外貨建資産など資産運用リスクも増えてます。

また、各社とも保障性商品の販売に一段と
舵を切ったと思いきや、保険料収入の減収は
銀行窓販をはじめ一時払商品によるもので、
平準払の個人年金など(=収益性は低い)は
相当売れた模様です。

しかも、期中にはイールドカーブが極端に
フラット化し、健全性に余裕がなくなりました。
各社は劣後調達などに動きましたが、
再び金利が下がれば依然厳しいと思います
(もちろん個社による違いはありそうですが)。

ですので、「総じて厳しい決算だった」という
生保首脳のコメントは減収だからではなく、
基礎利益が減ったからでもありません。

メディアへの苦言となってしまいますが、
「保険料収入」では、必ずしも主力ではない
一時払の貯蓄性商品の動きだけを説明する
ことになってしまうので、販売動向を伝えたい
のであれば、他の指標を使い、各社が主力と
する営業職員チャネルや主力商品の動きを
解説すべきでしょう。

基礎利益(≒3利源)に関しても、もともとは
逆ざやを他の差益でカバーしていることを
示すために開示されるようになったものであり、
これで期間損益を語るのは無理がありますし、
ここまで外債投資が増えると、もはや何を
表しているかわからなくなっています
(外債投資で利息配当金収入が増えるため)。

せっかく各社が年換算保険料やその内訳、
EVや新契約価値などを示しているのですから、
記事ではこれらを活用してほしいです。
有力メディアが「保険料収入」と「基礎利益」に
こだわり続けると、保険会社の経営判断にも
悪影響を及ぼしますので。

 

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