02. 保険会社の経営分析

相次ぐ自然災害の発生

直近のinswatch Vol.949(2018.10.8)に執筆した記事のご紹介です。
「相次ぐ自然災害でも保険会社の経営は大丈夫なのか」という話を書いています。
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自然災害の頻発

今年は不幸にも比較的大規模な自然災害が相次いで発生する年となってしまいました。6月の大阪北部地震、7月豪雨、9月の台風21号、北海道胆振東部地震、台風24号と続いた大規模災害では、いずれも事故受付件数が数万件あるいは数十万件に上っています。
災害が広範囲におよび、全ての都道府県で何らかの被害が出ている状況なので、損害保険会社では損害調査担当の職員(および経験者)だけでなく、全社的な応援体制で支払い業務にあたっていると聞きます。

保険会社の経営は大丈夫なのか

金融庁は「これらの自然災害は、国内損害保険会社の財務内容に大きな影響を与えるおそれがある」(7月の日本損害保険協会との意見交換会における金融庁コメント)ことから、保険会社の引受方針や再保険手配等によるリスク軽減策などに注目している模様です。
保険会社の財務面に与える影響をどう見るかですが、家計向け地震保険は決算への影響はなく、費用保険と企業向けのみです。7月豪雨は9月12日の時点で1657億円の支払い見込みですが、まだ膨らむかもしれません。事故受付件数が非常に多い台風21号と、直近の24号(25号も?)をどう見るかにもよりますが、場合によっては、年度別の支払い額が過去最高となった2004年(7449億円)に匹敵することもあるのかもしれません。

とはいえ、ソルベンシー規制では伊勢湾台風(再現期間70年)に相当する規模の台風災害を想定しています。1991年の台風19号(支払い保険金は5680億円)から単純に換算すると約8900億円となりますが、現在の契約状況を踏まえると、より大きな金額を保険会社に求めているはずです(地震リスクと比べて大きいほうを採用)。
さらに言えば、保険会社は自らのリスク管理として、例えば再現期間200年など、ソルベンシー規制よりも厳しい基準で自然災害リスクを想定するのが一般的です。

ご参考までに、損保業界が保有する国内株式は約7.5兆円あります。株価が1年間で2割下がるのは、再現期間としてはせいぜい10年程度と考えられますが、これで1.5兆円もの経済損失が発生します。業界数値の多くを占める3メガ損保に関しては、自然災害リスクよりも株価下落リスクのほうが大きいと言えそうです。

決算数値は支払いの進捗次第で変わる

以上から、自然災害が相次いだとはいえ、総じて保険会社の健全性を揺るがすような話にはならないというのが私の現時点での見立てです。ただし、決算(損益計算書)には相応の影響が出てきます。
特に9月に発生した自然災害は、事故受付だけで保険金等の支払いに至っていないケースが多いとみられます。この場合、保険会社は見込み額を支払備金として計上しなければならず、これが損益を圧迫します。その後支払いが進み、火災グループの正味損害率が50%を上回れば、異常危険準備金を取り崩し、収益として計上することになります。
この結果、今年度の決算では、上半期は支払備金の計上が損益を圧迫し、下半期は異常危険準備金の取り崩しで増益、といったものになるのかもしれません。

損益計算書から自然災害による影響を見るのは難しく、むしろバランスシートを中心に確認したほうがよさそうです。
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※写真は「スイスの美しい村」グアルダです。

 

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高利率契約の動向

生保の破綻が相次いだ時代から20年近くたち、逆ざや問題なんて過去の話と思われるかもしれません。でも、このようなデータをご存じでしょうか。

先日公表された大手生保のディスクロージャー誌によると、予定利率の高かった1986年度から1995年度にかけて獲得した個人保険・個人年金保険の責任準備金は、10年前とほぼ変わらない水準で残っていることがわかりました(大手4社の合算値)。

さすがに1985年度以前の契約では、加入時から30年以上たっているので、責任準備金は10年前の50%まで減っています。例えば1980年に35歳だった人は、2018年には73歳です。80年代前半までの契約は死亡などにより消滅するケースが増えているのでしょう。

ところが、1986年度から1995年度となると、例えば1990年に35歳だった人は、2018年には63歳なので、死亡などにより契約が消滅するペースは緩やかです。しかも予定利率が高いので、責任準備金が一向に減らないという状況と考えられます。
特に1991年度から1995年度の契約は、足元でも責任準備金が増え続けていますし、ボリュームとしても全体の2割弱を占めているのです。

平均予定利率を見てしまうと、予定利率の低い団体年金で押し下げられているうえ、2000年代に各社が銀行などを通じて貯蓄性の強い商品を多く販売したことで、かなり下がっています。
しかし、現実には過去の負の遺産(契約者からすればお宝契約)の負担が未だに大きいということが、今回のディスクロ誌から確認できました。

※「せんば山にはタヌキがおってさ♪」の「せんば」に行きました。

 

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なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

23日に横浜で開催されるRINGの会オープンセミナーは「満員御礼」だそうです。私は第1部のコーディネーターを務めますので、パネリストの興味深い話が引き出せるよう、準備を進めているところです。
さて、週の途中ですが、直近のinswatch Vol.932(2018.6.11)に寄稿しましたので、ご紹介しましょう。

なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

3メガ損保や上場生保では、決算発表後の5月下旬に投資家・アナリスト向けの経営説明会を開いています。決算結果の説明だけではなく、経営トップ自らが今後の経営戦略を伝える機会となっていて、業界関係者にも役に立ちそうです。

各社の説明資料はこちらで入手できます。
 東京海上 
 MS&AD 
 SOMPO 

新中計で「ポートフォリオ変革」を掲げる

3メガ損保グループのうち、東京海上とMS&ADでは今年度から新たな中期経営計画がはじまり、今回の説明会でも中心テーマとなりました。
東京海上グループの重点課題には、「ポートフォリオの更なる分散」「事業構造改革(=販売チャネルの変革・強化など)」「グループ一体経営の強化」の3つが挙げられています。また、MS&ADグループの重点戦略は、「グループ総合力の発揮」「デジタライゼーションの推進」「ポートフォリオ変革」の3つです。
両グループとも業界再編や大規模買収により今の姿になったので、グループベースでの経営を強めようというのは自然な流れでしょう。その一方で、いずれも自らの「ポートフォリオ」、すなわち、収益・リスク構造のバランスをさらに変えようとしているのはどうしてなのでしょうか。

リスクポートフォリオの偏り

ヒントは各グループが開示している「リスク量の内訳」にあります。
保険会社では自らが抱える経営リスクを、例えば200年に1回の確率で発生しうる損失額などとして金額に置き換え、健全性の確保や資本効率の向上に活用しています。
東京海上の資料によると、リスク量として最も大きいのは「国内損保(資産運用)」で、全体の3割強を占めています。MS&ADでも国内損保の資産運用リスクがグループのリスクポートフォリオの3割強となっていますし、SOMPOでは自然災害リスクを抑えているためか、国内損保の資産運用リスクが5割弱に達しています(いずれも2017年度末)。地震や台風といった自然災害リスクを抱える損保グループで最も大きい経営リスクが資産運用のリスクというのは、考えてみれば不思議な話です。
言うまでもないかもしれませんが、国内損保の資産運用リスクの多くは、営業目的などで保有する国内株式によるものです。

海外事業拡大が本質ではない

中長期的な投資家の目線からすると、自然災害リスクは保険事業の収益の源泉であり、保険引受リスクのコントロールに強みがあると考えているからこそ、保険会社に投資します。
近年の国内勢による積極的な海外保険会社の買収には、日本に偏った事業ポートフォリオを分散するという意味もあると思います。もっとも、保険引受リスクの分散であれば再保険でも対応可能なので、海外M&Aをしなければ投資家がいい評価をしないというものではありません。
各グループともに事業ポートフォリオの分散を掲げ、海外事業の拡大を図るとしていますが、グローバル経営による成長を目指したいという経営者の判断によるものなのでしょう。

ところが、最大の経営リスクが国内株式保有によるものという現状を踏まえると、損保グループの経営者は、保険引受事業よりも日本株の保有のほうが高いリターンを安定的に上げられると考え、資本を最も多く使っていることになります。
ただし、株式投資に何か特別な強みを持っているのでなければ、投資家としては自分で株式投資を行ったほうが、少なくとも税金の分だけ有利なはずです。「特別な強み」など存在するのでしょうか。

政策株式保有を正当化するのは難しい

損保が保有するのは、いわゆる政策保有株式なので、株式を保有することで大企業から保険料を得ている面があります。しかし、かつての規制料率時代とは違い、コマーシャル分野は収入保険料を確保すれば利益が得られるという事業ではなくなりました。もはや株式投資における「特別な強み」とは言えません。
例えば、MS&ADは政策株式のROR(リスク対比リターン)を7~8%程度と示していますが、これは保険引受利益と配当をリターンとしたものだそうです。株価の変動を考えると、安定的に7~8%のリターンを上げられるものではありません。
損保グループの経営者もこうした状況を十分理解しているからこそ、中期経営計画の3本柱の一つに「ポートフォリオの変革」を掲げ、実行しようとしているのでしょう。

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inswatchは保険流通業界向けのメールマガジンです。
私は2か月に1度のペースで寄稿しています。

※久しぶりに札幌スープカリーを食べました。

 

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契約者への配当還元

6月8日の日経新聞によると、昨年度決算を受けた大手生保4社と富国生命の増配額は合計で521億円になるそうです。
ここで言う「増配額」とは個人保険・個人年金保険の契約者向け配当の増加分のことを指すのだと思いますが、毎度のことながら、これだけだとレベル感が全然わかりません。そこで、かなりラフではありますが、開示情報をもとに試算してみました。

非常に慎重な還元スタンス

この5社の配当準備金繰入額の合計は5905億円でした。団体保険の配当はディスクロージャー誌から過去の実績を見たうえで、ざくっと約3700億円と置き、団体年金の配当は各社が公表した配当率を参考に、これまたざくっと840~850億円とすると、個人保険・個人年金保険の配当は1300億円程度ということになります。
つまり、前年度の800億円弱から521億円増えて、1300億円程度になったということで、5社のソルベンシーマージン総額が2.1兆円増え、危険準備金繰入など内部留保だけでも1兆円近い水準を増やしたのに比べると、非常に慎重な配当姿勢だということがうかがえます。

もっとも、第一生命の契約者配当は日経によると「横ばい」とのことですが、同社は配当準備金繰入額の内訳を公表していて、個人向けは64億円増えています。他方、住友生命は「110億円の増配」と説明していますが、個人向けの配当準備金繰入額を推計すると、10億円程度しか増えていません。
おそらく何らかの入り繰りがあるのでしょうけど、各社は配当還元についてもっと情報を出さないと、余計な不信感を与えてしまうのではないでしょうか。

団体保険の配当はコスト扱い

なお、私はいろいろなところで基礎利益の限界みたいな話をしていますが、契約者配当との関係で言えば、団体保険の契約が大きい会社ほど基礎利益が大きくなる傾向があります。団体保険では危険差益の大半を配当することになっていて、いわば事後的な保険料の調整が行われているので、この部分はコストとして基礎利益から控除したいところです。
上記試算の数字を使えば、5社合計の基礎利益2.1兆円のうち、約3700億円がかさ上げされているということになりますね。

※写真は「手づくり和菓子教室」の私の作品です。運よくこちらに当たりました。

 

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マイナス金利政策後の生保経営

2018年3月期の生保決算をざっと確認しました(まだ国内系だけです…)。
大方のメディアは相変わらず保険料収入と基礎利益にしか関心がなさそうなので、私は大規模金融緩和の副作用を探ってみようということで、マイナス金利政策が始まった2年前と比べてみました。

各社の経営リスクは総じて増える傾向にあるとうかがえる一方、基礎利益は増えていても、多くの会社が実行してきた「外部調達を含め、金利低下でダメージを受けた支払余力を高めつつ、内外金利と為替リスクを取る」という経営行動は必ずしも会社価値を増やすことにつながらなかった、というのが現時点での総括となりそうです。

2016年3月期と比べると、各種準備金の積み増し(国内系8社で約2兆円増)と外部調達(同1.2兆円増)を行う一方、この間、資産長期化を概ねストップし(例外あり)、外貨建資産を増やしています。
しかし、国内金利は低水準のままであり、対米ドルでは円高が進み(生保の外貨建資産は米ドル建てが多い)、海外金利の上昇も著しく、ヘッジコストも上がっているとなると、この期間にかぎればリスクテイクが裏目に出ているように見えます(株価上昇で相殺されていますが)。

当然ながらリスクをとれば必ずリターンが上がるものではなく、リスクテイクが裏目に出ることもあります。問題は外部ステークホルダーがこのような経営を期待しているのかどうか、あるいは、経営陣が考え方をきちんと説明しているかどうかだと思います。
この点で、上場会社はそれなりに説明しているのに対し、相互会社による考え方の説明は少ないですね。今後の情報開示に期待しましょう。

※出張でソウルに来ています。

 

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少短保険会社の不適切会計

公文書改ざんの次は、事務方トップのセクハラですか。一般企業に比べると、組織としての中央官庁の体質は10~20年くらい遅れているというのが私の実感でしたが、一連の対応を見ていると、まさにそうだと改めて思いました。

個人負担で保険金支払い

さて、連日大きなニュースが相次ぐなかで、「保険金支払いに個人資産充当」という冗談のようなニュースがあったのをご覧になったでしょうか。保険料ではなく保険金です。

糖尿病でも入れる保険を提供することで知られるエクセルエイド少額短期保険が、2013年秋から2014年1月にかけ、幹部の個人資産を保険金支払いに充てる不適切な会計処理を行っていたと発表しました。会社の資産減少で保険金の支払いが遅れていたため、当時の社長で大株主でもある創業者が保険金部長(当時)に個人負担を求めたとのことです。
同社のサイトへ

加入者数の伸び悩み

そんなに苦しかったのかと同社の経営情報を確認しようとしたところ、例によってディスクロージャー誌はサイトにアップされておらず、財務内容の手掛かりは決算公告だけでした。

エクセルエイドは2007年7月に営業を開始しています。2008年度の事業計画では、第5期(2011/3期)の黒字転換、第6期(2012/3期)の累損解消を見込んでいたようです。
しかし、加入者数が見込みどおりに伸びなかったと見られ、損益計算書が公表されるようになった2011/3期は黒字決算でしたが、その後は113条繰延資産(=新契約費の資産計上)の影響を除くと実質赤字が続きます。

問題の不適切会計が行われた2014/3期(過年度修正後)の決算データを見ると、確かに苦しい状況がうかがえます。
その前年度から113条が使えなくなったこともあり、2期連続の赤字決算となりました。累積損失は5億円に達し、純資産から113条繰延資産を除くとわずか0.1億円です。同社はそれまでも累計5億円以上の増資を行ってきており、さらなる増資が難しくなっていたのかもしれません。

その後はコスト削減を進めたことなどにより、2016/3期からは実質黒字となっています。しかし、保険料収入が2.3億円、加入者数が6000件程度にとどまっていることが、引き続き最大の経営課題なのでしょう。

なぜ簿外処理が可能だったのか

それにしても不思議なのは、どうしてそのような会計処理ができてしまい、かつ、なかなかバレなかったのかという点です。
保険金・給付金の支払いを社員が負担し、決算数値がよくなるということは、加入者からの請求をなかったことにするとか、会社以外のシステムから会社名で保険金支払いを行うとかの異例な処理が行われたと考えられます。

少額短期保険会社とはいえ内部監査の担当者はいたでしょうし、保険計理人もいます(外部委託かもしれませんが)。資本金3億円以上であれば外部監査も必要です。
2014/3期の保険金・給付金0.9億円に対し、保険金部長が個人負担したという112件/0.1億円は同社にとって決して小さい数字には思えないのですが。

※写真は明治神宮です。ここも外国人観光客が多いところなのですね。

 

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金利敏感株に明暗

16日の日経・マーケット総合面に「金利敏感株に明暗」という見出しの記事があり、「保険上昇/電力・不動産は軟調」という株式市場の動きを伝えていました。
ただし、「米金利の上昇を受けて保険株が上昇」「生損保はともに外国債券の保有額が多く、海外の金利が上昇すれば中長期的に運用益が増加する」という説明は、さすがに無理があるように思います。

米金利上昇と生保経営

ちょうど14日から15日にかけて主要生保の4-12月期決算が公表されましたので、こちらのデータも参考にしながら確認してみましょう。
生保のバランスシートで米金利上昇の影響を直接受けるのは、保有している米国の公社債と、グループで展開する米国の保険事業です。このうち後者の保険事業については、一般的に米国生保では以前からマッチング型のALMが浸透しているため、金利変動の影響をそれほど受けないと考えられます。

問題は前者の公社債です。最近でこそ外貨建ての商品提供が目立つようになってきたとはいえ、保険負債の大半は円建て、かつ、固定金利の長期保証ですので、生保の外債運用は負債とのマッチング目的ではなく、純粋に資産運用でリターンを目指す取り組みです。

生保の外債投資は増加基調

2017年9月末と12月末を比べると、一部の会社を除き、外貨建資産の増加基調が続いており、いまや一般勘定資産の2~3割が外貨建資産という状況です。
このうち、ヘッジ外債(為替ヘッジを行っている公社債)については米金利上昇の影響を受けにくいことも考えられますが、少なくとも為替ヘッジのない米国公社債は金利上昇によって価格が下落し、中長期的に運用益が増加するとか言う前に、今の時点でやられているはずですね。

保険株(特に生保)が金利敏感株であるという見方に異論はありません。米欧の中央銀行に続き、日銀も金融緩和の出口に向かい、金利の上昇基調が見込まれるようになれば、生保経営にとってプラスに働きます。
ですが、同じ金利上昇でも、円建ての保険負債を大量に抱える日本での金利上昇と、資産運用でリターンを目指す米国での金利上昇では、日本の生保経営に対する影響は正反対と捉えたほうがよさそうです。

※この週末(17~18日)は横浜・大倉山の梅まつりでした。

 

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損害保険統計号から(inswatch原稿のおまけ)

今週のinswatchに「損害保険統計号から」という記事を寄稿しました。後日こちらでも紹介したいと思いますが、ボリュームの関係で書かなかったことを、私の備忘録を兼ねて残しておきましょう。

ダイレクト自動車保険

inswatchでは3メガ損保や外資系損保の市場シェアを改めて確認しました。
加えてダイレクト系の元受シェアも見たところ、29社ベースの全種目合計(地震・自賠を除く)では5.6%、自動車保険では7.7%となっていました(2016年度)。昨年10月の産経新聞に出ていた「自動車保険全体の8%程度」を検証できました。

この「7.7%」という数字をどう見るかです。
ダイレクト自動車保険は20年前の1997年にはじまり、10年前の2007年度の元受シェアは4%弱でしたので、徐々にシェアを確保してきているといったところでしょうか。ただし、自動車保険には企業向けも含まれることから、個人向けにかぎればちょうど1割くらいを占めるようになったと考えられます。
都市と地方、あるいは世代によっても、ダイレクト自動車保険の普及度合いは違うのでしょう。

日本の消費者は価格差があっても簡単には動かなかったとはいえ、今後もダイレクト保険のシェアは高まっていくのではないでしょうか。
ネット通販のさらなる普及のほか、事故が起きにくくなると、今の付加保険料の水準を維持するのは徐々に難しくなるでしょうから、代理店が主力に据える商品ではなくなっていくのかもしれません。

元受と正味の違い

また、元受正味保険料と正味収入保険料を比べてみて、格付会社から金融庁に移った時のことを思い出しました。
格付会社で担当していた損保会社は大手から中堅規模ののフルライン会社ばかりで、元受保険料と正味保険料の差がそれほどありませんでした。しかし、金融庁がモニタリングの対象としているのは損害保険会社免許を持つすべての会社なので、50社以上にもなります。
こちらをご覧いただくと、特定分野に特化した会社がたくさんあることがわかります。

加えて、再保険政策も会社によって大きく異なります。特に外資系の場合、元受のかなりの部分を出再するケースが目立ちます。
2016年度データを確認すると、例えばこの1月に富士火災と合併したAIU保険は、元受正味保険料が2511億円、正味収入保険料が648億円ということで、元受保険料の7割以上を出再しています。

アリアンツ火災はもう少し複雑で、元受正味保険料71億円と受再正味保険料75億円の大半を出再しているため、正味収入保険料はわずか1億円です。
元受保険料のほとんどを出再してしまうということは、日本の拠点は実質的に引受リスクを負わないということになります。出再先が海外であれば日本の保険行政の力が及ばない(及びにくい)ので、一般的にはモニタリングが難しいと思われます(もちろんアリアンツに何か問題があるという意味ではありません)。

いずれにしても、生保会社を含め、外資系保険会社では再保険が多用される傾向があり、分析には注意が必要ですね。

※写真は六本木です。光の色が突然白から赤に変わり、びっくりしました。

 

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生保の4-9月期決算から

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主要生保の4-9月期決算が出そろいました。

今回の注目ポイントは、営業面で言えば、4月からの標準利率引き下げに伴い、各社の業績がどのように変わったかということでしょう。
新聞には業績指標として保険料等収入しか掲載されませんが、ここからは、貯蓄性商品の販売休止や料率引き上げにより、大手5社(日本、第一、住友、明治安田、かんぽ)ともに減収となったことくらいしかわかりません。
ただ、もう少し中身を見ると、各社の戦略の違いが数字に表れているようです。

例えば、第一生命、住友生命、かんぽ生命は減収の傍らで、第三分野の新契約年換算保険料を前年同期よりも伸ばしました。
特に、第一生命は前年同期の1.5倍の水準です。営業職員の評価基準を調整するなど、保障性商品へのシフトを進めた効果が出ているのでしょう。
かんぽ生命は貯蓄性の強い養老保険を主力としており、料率引き上げの影響を受けやすいのですが、医療特約をセットで提供しており、この部分が第三分野の増収につながった模様です。
住友生命は、昨年9月に発売した就労不能保障「1up」が好調だったとのこと。他社よりも減収が大きく見えるのは、前年同期に個人年金保険で契約をかなり伸ばしたため、その反動でもありますね。

他方、日本生命は、銀行窓販を除けば、保険料等収入が増収でした。新契約年換算保険料も増えています(第三分野は減収)。
これは、4月に発売した経営者向け保険「プラチナフェニックス」が、営業職員および代理店チャネルで好調だったことが大きく寄与していると見られ、いわゆる保障性商品へのシフトとは異なるようです(なお、第一生命でも経営者向けの第三分野商品が好調だったとのこと)。

明治安田生命は新契約件数が前年同期に比べて2割以上も増えました。
こちらは、2016年10月から販売している小口の貯蓄性商品「じぶんの積立」がヒットしたことが挙げられます。この商品で新しい顧客層を獲得し、その後につなげていこうという戦略なのでしょう。

なお、多くの会社が外貨建ての貯蓄性商品を取り扱うようになったにもかかわらず、ごく一部の上場生保を除き、情報開示がないのは、どうしたことでしょうか。
少なくとも、外貨建て商品の保険料収入や、外貨建て保険負債の残高を開示しなければ、ALMをはじめ、生保経営の実態がますますわからなくなってしまいます。
2017年度決算の発表では、前向きな対応に期待したいですね。

※香港は坂の町なので、このエスカレーターは便利です。

 

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生保の超長期債需要

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人口減少で生命保険の購入層が減り、生保の超長期債需要が低下する可能性について財務省が言及したという記事(7日の日経)を見て、一体どんな議論が行われているのかと思い、「国の債務管理の在り方に関する懇談会」の資料や議事要旨を確認してみました。

議事要旨によると、財務省(理財局)は「生保の超長期債需要が減る」という表現は使っていませんが、次のような分析から、超長期債の需給構造が変化する可能性があるとしています。

「生命保険会社の年換算保険料収入は順調に伸びている。一方、保険金等を控除した収支は7~8兆円程度で推移。また、昨年の金融レポートにおいて、金融庁は、今後の人口構成の変化により、保険加入の中核層である30~40歳代が減り、保険料のボリュームが縮小したり、終身保険から医療・介護保障へのニーズの変化をもたらす可能性があるという分析をしており、今後生保の負債サイドが質・量両面で変化する可能性も示唆。」

要は、保険加入の中核層が減っていき、保障内容も変わるから、中長期的な超長期債需要が減っていくだろうという分析結果なのですが、本当にそうなのでしょうか。

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図表は懇談会の資料1(21ページ)です。2007年度以降、生保が超長期債を積極的に購入してきたことがわかります。その背景としては、金融庁が経済価値ベースのソルベンシー規制導入に向けて舵を切ったことや、保険会社で経済価値ベースのリスク管理を導入する動きが進んだことが挙げられます。

こうした資産長期化により、生保はすでに負債の金利リスクを十分抑制できたのかといえば、必ずしもそうではありません。新契約の有無にかかわらず、生保が金利変動の影響を依然として受けやすいことは、金融庁によるフィールドテストの結果からも明らかです。
つまり、日銀が国債をガンガン購入し、金利水準が著しく低下したという異常事態により、近年の購入ペースは鈍化していますが、既契約だけを考えても、生保が超長期債を購入する余地は依然としてそこそこ大きいと考えるのが自然でしょう。

新契約についても検討してみましょう。死亡保障から生存保障(医療、介護、年金など)へのシフトは今に始まった話ではなく、国内系生保の主力商品はかなり前から定期の保障性商品です(=超長期債のニーズは小さい)。他方、第三分野マーケットの主力商品は終身医療保険なので、それなりに金利リスクがあると考えられます。

この10年間は終身保険が売れました。これは「保険加入の中核層」向けではなく、主に銀行で貯蓄性商品として販売したものなので、高齢層が中心です。
今の金利水準では魅力的な円金利の貯蓄性商品を提供するのは難しいものの、それこそ人口構成を考えると、貯蓄性商品へのニーズはしばらく強いでしょうから、ある程度金利がある世界となれば、再び超長期の貯蓄性商品が売れるでしょう。

議事要旨からは、財務省が「今後は人口構成の変化により、生保負債は縮小に向かい、かつ、短期化する」と考えていることがうかがえます。
しかし、以上のように、既契約からも新契約からも、「生保負債が縮小に向かい、かつ、短期化するので、超長期債ニーズが減る」というのはかなり先の話であり、国債発行計画の検討材料にするのであれば、時間軸があまりに違い過ぎると言えそうです。

※東京駅のこの駅弁屋さんでは、全国の駅弁を取り扱っていて、楽しいです。

 

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