02. 保険会社の経営分析

2012年度の損保決算

 

タイミングが合わず、損保決算をスルーしてしまいました。
まあ、先週から今週にかけて3メガ損保の投資家向け説明会が
開かれていることもあり、いまコメントしても遅くはないでしょう。

全体としては、株高や円安の影響はプラスに効いているものの、
国内損保の収支改善は道半ばであり、国内生保と海外事業に
支えられている姿が鮮明だったと言えそうです。

ここから先は多少アナリストっぽい(?)話を。
各社のコンバインドレシオを見ると、2011年度よりはマシとはいえ、
こんなに高いのかと思われたかたがいるかもしれません。

 TM  99.7%(前年度は113.5%)
 MS 105.7%(同118.1%)
 AD 104.5%(同114.8%)
 SJ 103.4%(同113.6%)
 NK 109.7%(同119.7%)

実態としてはここまで収支は悪くありません。
タイの洪水など2011年度に発生した多額の保険金が
実際に支払われたのは2012年度だったためめ、
正味ベースの損害率が上がってしまったのですね。

ざっと見たところ、実質的な保険収支はプラスに転じた会社が
多いのではないでしょうか。

他方、大手5社の当期純利益はいずれも黒字となったものの、
こちらにも「異常危険準備金の取り崩し」という特殊要因があります。

異常危険準備金も保険金の発生ではなく、支払いに連動します。
すなわち、発生保険金がかさんだ2011年度ではなく、
それが支払いに転じた2012年度に取り崩しとなっており、
損益にプラスに寄与するというわけです。
5社合計で800億円ほどのプラス効果(税引前)と思われます。

しかし、火災保険の異常危険準備金の残高を見ると、
いくつかの会社ではピークだった2010年度から半減しています。

支払余力全体で考えれば健全性に問題はなさそうですが、
自然災害対応の規制もあるので、そのままというわけにはいきません。

※週末に横浜中華街で高校時代のクラス会がありました。
 クラスの半数以上が横浜市に住んでいることが判明。
 地元の県立高校とはいえ、ちょっと驚きました。
 なお、写真は横浜3塔の2つ、「キング」と「ジャック」です。

 

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2012年度生保決算の感想

 

主要生保の2012年度決算が出そろいました。

「少子高齢化で保険料収入が伸び悩んだ」
「円安・株高の追い風で逆ざやが縮小し、増益となった」
「国内債、国内株、外国証券の含み益は6年ぶりの高水準」
「金融市場の混乱で資産運用が難しくなっている」

新聞報道は総じてこんな感じでしょうか。

まず、今回の保険料収入の伸び悩みをもって、
少子高齢化の影響と言ってしまうのは、飛躍しすぎでしょうね。
確かに少子高齢化や若年層の保険離れといった構造問題は
生保にとって重要な課題ですが、それを伺わせるような
データを示さなければ、単なる作文になってしまいます。

次に、毎度のことですが、金利変動の影響を
もっとしっかり見てほしいものです。

2012年度は長期金利が大きく下がったため、
円安・株高がなければ企業価値が縮小したであろう会社も
いくつか見られました。
「逆ざやが縮小してよかった」なんて状況ではないのです。

生保にとって金利水準の変動が何を意味するのか、
なぜ生保が超長期国債にせっせと投資しているのかなどを
おそらく理解していないのでしょうね。
ご参考(4/13のブログ)

報道によると、明治安田生命の殿岡副社長は、
「今の水準なら日本国債に資金を振り向けられる」と語り、
住友生命の松本運用企画部長も、
「今の水準が続けば、国債を増やし外債の残高を
据え置くこともできる」とコメントしているようです。
日本生命の大関財務企画部長のコメントは
「今は流動性が少し落ちており、一般的に国債に手を出しにくい」です。

日銀が異次元緩和で長期金利の低下をターゲットにしたため
(少なくとも当初は)、これは大変なことになる心配したところ、
金利は反対に3月末の水準よりも上がったので、とりあえず安心。
ただ、実際に超長期債を買おうとすると、日銀と取り合いになり、
マーケットを変に動かしかねない...

私が勝手に解説すると、こんなところでしょうか。
だれも「金利が上がると困る」とは言っていませんので、
誤解なきように。

※写真は福島交通の電車なのですが、よく見ると、
 昔、東横線で走っていた電車を改造したものです。
 走り出すと懐かしい音がしました。

 

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生保の第3四半期報告

 

主要生保の平成24年度第3四半期報告
(≒2012年4-12月期決算)が出そろいました。

現行会計の下で、3ヶ月ごとに基礎利益や
保険業績の傾向が大きく変わることはまずない
(累計ということもありますしね)ため、
自ずと金融市場変動による影響に目が行きます。

ということで、ソルベンシー・マージン総額や
有価証券含み損益の動向をみると、
前期末に比べて概ね増加していました。

「株価回復のため」と言いたいところですが、
12月の時点では、株式含み益が前期末の
水準を上回るところまで回復した会社は少なく、
それよりも円安等による外国証券の時価上昇が
効いているようです。

ソルベンシー・マージン比率も前期末に比べ、
各社とも軒並み上昇しています。
分母のリスク相当額の動きよりも、
分子のソルベンシー・マージン総額の増加が
影響したようです。

資産含み益の回復に加え、基金や劣後債務など
外部調達を実施した会社で上昇が目立ちます。

もう少し時間があれば、四半期ごとの業績動向なども
確認したいところですが、取り急ぎ今回はこんなところで。

※週末は保険流通の勉強会に出席。
 現場の生の声を伺うことができました。

 

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米国生保の資産運用

ニッセイ基礎研究所の松岡博司さんが、
「米国生保の経営は日本化するか」
というレポートを発表しています。よくまとまっていて参考になります。
ニッセイ基礎研HPへ

「(規制強化で)株を買えない生保」と、事あるごとに
日本の生保は株を買うべしと言わんばかりのキャンペーンをする
どこかの経済紙がありますね。
このレポートによると、米国生保の株式保有はわずか2.3%です
(一般勘定)。しかも、以前から株式保有は多くありません。

「生保は公社債投信になりさがっている」といった声も
時々銀行系のかたから耳にします。米国生保も同じです。
一般勘定資産の7割が内外公社債なのだそうです。

どうも日本では生保を長信銀などと同じ目線で見る向きが
いまだに多いようです。
生保が株式市場などに長期資金を供給するのは
あくまで副次的な役割であって、保障の提供こそが
生保が社会に存在する意義だと思います。

そして、予定利率が固定された長期の保障を提供するのは
日本でも米国でもそう簡単ではないということなのでしょう。

ところで、レポートに次のような記述がありました。

「保有公社債の平均残存期間は 9 年~10 年程度と長い。
 残存期間 20 年超という、たいへん期間の長い公社債が
 約 20%を占める」

気になったのは、米国生保の負債構造がどうなっているかです。

実は日本の大手生保の公社債残存期間も同程度なのです。
しかし、負債が長いので、金利リスクを相殺しきれていません。

米国生保は金利リスクをとらず、信用リスクでリターンをえる戦略
(金利リスクを本当にとっていないかどうかは別として)
と言われますが、日本の生保より一般勘定の負債が短いのでしょうか。

保有契約ベースであれば、依然、終身保険も大きいように思います。
期間の短い団体年金などで打ち消されているということなのか、
終身保険とはいえ、解約してしまうのが一般的なのか...

ご存じのかたがいらっしゃれば、ご教示いただきたいです。

※写真は錦糸町駅です。

 

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逆ざやと株式保有

 

10月28日のブログで日銀「金融システムレポート」の
生保に関するコラムについて、次のようにコメントしました。

 筆者の意図がどうであれ、このコラムの読者が、
 「生保の金利(上昇)リスクは銀行よりも大変」
 といった誤った印象を持たないことを祈ります。
 業態別の金利リスク量

しかし、案の定、今回の生保決算報道のなかで、こんな記事が。

 生保各社の9月中間決算では株式の運用リスクが鮮明に
 なった半面、歴史的な低金利が続く国債の含み益が
 財務基盤の健全性維持に貢献した。

 ただ衆院選後に発足する新政権の政策で、財政赤字に対する
 市場の懸念が高まれば国債価格が下落(金利上昇)し、
 一転して含み損が膨らむ危うさも抱え込んでいる。

 (中略)

 日銀の試算によると、国債の金利が1%上昇した場合に
 発生する評価損は、国内銀行・信用金庫の計5.3兆円に対し、
 生保は8兆円で、国債の保有リスクは国内金融機関の中で最大。
 金利が上昇に転じれば財務状態は急激に悪化する可能性がある。
 (SankeiBiz 11/28)

金利低下で逆ざやが拡大し、生保経営を苦しめているという見方が
一般的ななかで、この記事はむしろ金利は下がったほうがいい、
金利が上昇に転じれば財務状態が急激に悪化する可能性がある、
日銀もそのような試算をしている...

少し考えれば変だということがわかりそうなものですが...

その「逆ざや」ですが、一部で
「株式から公社債へのシフトが逆ざやを拡大させている」
という論調を耳にしました。

おそらく、日本生命と明治安田生命が「順ざや」なので、
そのように考えたのでしょう。

公表される「逆ざや」は、利息配当金収入を中心とする基礎利回りと
平均予定利率から計算しますので、確かに株式配当金が減れば、
逆ざやが拡大する要因となります。

でも、利息配当金収入に占める株式配当金のウエートは
大手4社で最も大きい日本生命で11%、明治安田生命が10%
(2011年度)と、そもそもあまり大きくありません

それではなぜ両社が「順ざや」なのでしょうか。
中間期のデータはないので、2011年度のデータを見てみましょう。

    基礎利回り 平均予定利率
 日本  2.69%    2.61% 
 第一  2.38%    2.73%
 住友  2.51%    2.89%
 明安  2.33%    2.25%

日本生命が順ざやなのは、4社のなかで基礎利回りが高く、
平均予定利率もやや低めであること。
明治安田生命は平均予定利率が低いことが主因です。

日本生命の基礎利回りが高いのは、外貨建資産のウエートが
高いことが効いているようです。ヘッジポジションも大きいのですが、
ヘッジコストは基礎利回りに反映されません。
あと、公社債に占める国債のウエートが第一と明治安田よりも
日本、住友は低いので、この影響もあるのかもしれません。

明治安田生命の平均予定利率が低いのは、
一つは団体年金一般勘定のウエートが大きいことがあります。
ただ、その分を考慮しても他社より40~50bpほど低いようです。
追加責任準備金の集中的な積み立てによる効果のほか、
そもそもの負債構造が違うのかもしれません。

参考までに、公表されたEEVをみると(日本生命は非公表)、
明治安田生命の保有契約価値が小さいので疑問に思ったところ、
第一と住友のリスクフリーレートが国債利回りなのに対し、
明治安田は金利スワップレートを使っているためとわかりました。

ということで、少なくとも「株式が多いから順ざや」といった
単純な話ではないということですね。

※写真は横浜市資源循環局(=ごみ処理を担当)のマスコット
 左が「イーオ」、右が「ふや星人ゴミーヨ」だそうです。
 ほかにも「へら星人ミーオ」「ふや星人ゴミーナ」がいました。

 

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損保の2012年4-9月期決算

 

大手損保の4-9月期決算が公表されました(19日)。

いつもながら、期間損益を重視する見方では、
損保の経営内容をつかむことはできないと感じます。

MS&ADとNKSJが赤字となった最大の原因は、
株価下落に伴い多額の有価証券評価損を計上したためです。

ただし、損保各社の減損基準は一般よりも厳しい(=3割基準)うえ、
経営統合により保有株式の取得価額が上がっているため、
評価損が発生しやすくなっていることを忘れてはなりません。

ここ数年、「本業不振」が決まり文句のようになっています。
しかし、火災保険のように自然災害の有無によって
収支が大きく振れる種目の場合、短期の損益を見て
黒字だ赤字だと言っても意味がないでしょう。

ちなみに、このところ自然災害が相次いでいるとはいえ、
過去10年間で大手損保の火災保険のコンバインドレシオが
100%を上回ったのは、2005/3と2012/3の2回だけです。
リスクベースで見たリターンはどうなっているのでしょうね。

自動車保険では、料率改善効果が表れているようです。
大手5社のうち、東京海上日動を除く4社でE/I損害率が
改善しています。さすがに流れが変わってきたのでしょうか。

とはいえ、収益性の改善が道半ばなのは間違いありません。
2、3兆円もの資本を使っておきながら、修正利益やコア利益が
500~800億円レベルというわけにはいかないはずですよね。

※11/10にJARIPの年次大会が東大駒場キャンパスでありました。
 キーワードは「見知らぬ明日」。リスク管理は奥が深いです。
 JARIPのHPへ

 

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生保の基礎利益

 

11月は保険会社の中間決算が発表される月です。
3月に比べると株価も長期金利も下がっているので、
各社のEVはそこそこ減っているのではないかと想像されます。

ところで、生保の利益指標の一つに「基礎利益」があります。
経常利益から有価証券売却損益や評価損など臨時的な損益を
控除したもので、今やすっかり定着した感がありますね。

ニッセイ基礎研・荻原邦男さんの最近のレポートによると、

「導入の背景には、『生保の多くが逆ざや状態に陥っているなかで、
 利差損ではあるものの、トータルで見ると利益はプラスであることを
 明示する』という目的があった」

とありました。ニッセイ基礎研HPへ

基礎利益は歴史の長い生保が「3利源ではプラス」
ということを示すために開発されたという面もあることは
知っておいたほうがいいかもしれません。
確かに当時(基礎利益の導入は2000年度決算から)は
「逆ざやが累積していて大変」といった珍説もありましたからね。

荻原さんはレポートのなかで、基礎利益の留意点として
次の3つを挙げています。

①変額年金の保証にかかる責任準備金の繰入・取崩が
 基礎利益を撹乱する要素となっている

②インカムゲインとキャピタルゲインの区分が曖昧で、
 各社で経費処理方法に差異がある

③基礎利益イコール公表されている3利源ではない

これらに加え、次のような点もありそうです。

④有配当契約が多い会社のほうが基礎利益が大きくなりやすい。
 特に大半が配当として流出してしまう団体保険の死差益は
 基礎利益を実質的にかさ上げしてしまっている。
 (これは主に大手生保ですね)

⑤いわゆるヘッジ外債を保有していると、ヘッジコストは
 キャピタル損益となり、円債を保有するより基礎利益が大きくなる。

⑥保有契約に対し新契約が大きい会社の場合には、
 新契約獲得コストがかさみ、基礎利益が小さくなりやすい。
 (これは大手だけ見ているとわからない話かもしれません)

⑦追加的な責任準備金の繰入が基礎利益のマイナス要因
 となっている会社がある。

特に⑥は基礎利益の本質的な弱点です。
大手を中心に見る場合には基礎利益は有用かもしれませんが、
業界全体を見る場合には、かなり留意が必要だと思います。

※右の写真は「卒業旅行」で見た釧路湿原の夕日です。

 

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業態別の金利リスク量

 

半年ごとに出される日本銀行「金融システムレポート」が
今月19日に公表されています。
日銀のHPへ

金融機関の現状を知るうえで大変役に立つので、
過去にもこのブログで何回か取り上げています。
すでに「秒読み」となり何かと慌ただしくて、
レポートのフォローが遅くなってしまいました...

このレポートには保険会社に関する記述もありました。
まず目を引いたのが「負債デュレーションの試算値」です。
グラフを見ると、この5年間どんどん長期化したものが、
今後は反対に短期化していく試算となっていました。

ただ、よくよく見ると、長期化といっても15.2年から15.4年。
短期化も10年間で同程度なので、グラフの見かけはともかく、
むしろ「あまり変動しない」と見るべきでしょうか。

とはいえ、このような意欲的な分析は好感できるのですが、
最後ののBOX(コラム)「生命保険会社の金利リスク量」は、
本文に比べるとちょっと残念なコラムでした。

コラムでは「業態別の金利リスク量」を計算し、

「銀行の国債保有残高は生保よりも大きいが、デュレーションが
 短いため、銀行の金利リスク量は生保よりも小さい」

としています。

「ここでの金利リスク量は、国債保有に限定したリスク量
 である点には注意が必要」

と書いてあるものの、そもそもこの計算の目的がよくわかりません。

筆者は業態別の保有状況ではなく、あえて金利リスク量を示し、
生保が国債の金利リスクの最大の引き受け手である
ということを明らかにしています。
それなら生保経営はどうなっているのか、という話に
普通はなりますよね。金融システムレポートなのですから。

しかし、生保経営に与える影響ということであれば、
少なくとも会計上の保有区分を反映しなければ不十分です。
国債保有だけ取り上げて「生保の金利リスクは大きい」
という分析はないでしょう。

あるいは、保有区分とは関係なく、時価評価して見れば
生保の金利上昇リスクは大きいと言いたいのであれば、
資産に加え、負債を含めた経済価値ベースで見なければ、
生保経営への影響はわかりません。

この点について、コラムでは経済価値ベース的な分析結果を
示しているのですが、

「金利リスクをバランスシート全体で把握するためには、
 資産サイド・負債サイド双方を時価ベースで捉えるべき
 との見方もある」

という書きぶりなので、結局のところ生保経営にとって
金利上昇リスクは大きいのか、大きくないのか、
読者は混乱しそうです。

そもそも生保はなぜ超長期債を保有しているかといえば、
負債で抱えている金利リスクを軽減するためです。
金利リスクを増やす行為ではないのです。
だからこそ「責任準備金対応債券」なんていう区分があったり、
経済価値ベースで評価しようという流れがあったりするのですね。

筆者の意図がどうであれ、このコラムの読者が、
「生保の金利(上昇)リスクは銀行よりも大変」
といった誤った印象を持たないことを祈ります。

※女子校の文化祭に初めて行きました^^

 

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歴史的低金利

 

ドイツ・米国の長期金利が過去最低水準を更新しています。

 独10年債利回り=1.17%、30年債利回り=1.67%
 米10年債利回り=1.45% 30年債利回り=2.52%

ドイツの30年債利回りはなんと日本(1.78%)を下回っているのですね
(いずれもBloombergより。6/1時点)。

日本では歴史的低金利がもう10年以上続いていますが、
ドイツや米国では少し前まで長期金利が3%以上ありました。
保険アナリストとしては欧米保険会社の経営への影響が
気になるところです。

かつての日本の生保とは違い、一般に欧米の保険会社では
ALMを意識した資産運用を行っていると聞きます。

とはいえ、AXAやAllianzのEV(エンベディッド・バリュー)をみると、
金利感応度はそれなりに大きいようです。

例えばAXAでは、金利水準が1%下がると、生保のEEVが
34億ユーロ減少します。これは生保EEV381億ユーロの約9%です
(2011年末時点)。

Allianzでは影響がもっと大きく、金利1%の低下によって
MCEVは73億ユーロ減となり、MCEVは35%も減ってしまいます
(同)。

両グループはリスク管理態勢に定評があり、高格付を維持しています。
他の保険会社はどうなのでしょうか。

米国の変額年金も気になりますね。

米国では最低引出保証(GMWB)のついた変額年金が人気のようで、
終身保証も多いとか。
保証期間が長くなれば、金利による影響も大きくなるでしょう。

公表されている「Milliman Hedge Cost Index」によると、
終身保証のGMWBのヘッジコストは、すでに昨年後半以降、
リーマンショック後の2008年末の水準に匹敵しています。
金利要因による上昇が大きい模様ですが、詳細はよくわかりません。
MillimanのHPへ

材料不足でまだ何とも言えませんが、資産価格の下落だけではなく、
歴史的低金利による影響も無視できないかもしれません。

※昨日(2日)は横浜の開港祭でした。

 

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主要生保の2011年度決算

 

「12生保が増益」(日経) 「生保大手、全社増益」(朝日)
「生保決算 8社すべてで増益確保」(NHK)

25日(金)に出そろった生保の2011年度決算について、
メディアは基礎利益が増えたことに注目したようです。

基礎利益が増えた説明として、
「3月末にかけて株価が上昇し、運用成績が好転したためだ」(日経)
というのはややミスリードのように感じます。

大手4社の基礎利益は約1800億円増えていますが、
変額年金等の最低保証に係る影響は約400億円だけです。
それに基礎利益には株式の売買損益や評価損は入りません。

「全社とも増益となった理由の一つは、東日本大震災の
保険金支払いが震災直後の見込みより少なかったため、
多めに用意しておいたお金が戻ってきたことだ」(朝日)

2010年度には東日本大震災に係る支払備金の計上があり、
2011年度にはその影響がなくなったうえ、上記の理由から
全社増益になったという説明をするべきなのでしょうね。

Bloombergには、日本生命は「実質減益の厳しい内容だった」
というコメントが載っていました。BloombergのHPへ
保有契約高の減少が続き、第三分野の年換算保険料が
あまり増えていない現状を考えると、他社も胸を張って増益
という感じではなさそうです。

ただ、同じBloombergの記事によると、明治安田生命は
「それを除いても増益」だったそうです。
同社の場合、銀行窓販を中心に保険料収入が急増し、
資産平残が2兆円以上増えたことが影響しているのかもしれません。

ところで、以前このブログで大手生保の債券運用に関して、
「同社が『その他有価証券』の公社債をどんどん増やしている」
と書きました。生保の4-12月期決算から

今回も気になったので、さっそく12月末と比べてみると、
「その他有価証券」が急減し、「満期保有目的債券」が急増していました。
四半期決算もなかなか役に立ちますね。

※写真は旧東海道です(左が台町、右が軽井沢)

 

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