02. 保険会社の経営分析

主要生保の決算発表

 

主要生保の2011年3月期決算が出そろいました。
報道とは少し違う視点からコメントしてみましょう。

保険料等収入で明治安田生命が第一生命グループを
逆転したことが話題になっていますが、
一時払い商品の販売しだいで大きく変わるので、
あまり意味があるとは思えません。

私が注目したのは営業職員数の減少です。

ここ数年、主要生保は営業職員チャネルの改革に取り組み、
職員を数年かけてじっくり育てる姿勢を打ち出していました。
そのためか、主要生保の営業職員数は2008年3月期を底に
増加傾向にありました。

ところが2011年3月期の職員数は、前期に比べ大きく減っています
(8社合計で21.4万人 → 20.4万人)。
現場で何が起きているのか気になるところです。

震災の影響がそれほど大きくなかったため(?)、
報道ではソルベンシー・マージン比率の新基準も注目されました。

「基準の厳格化 → 株式売却」といった思い込みに近い
報道が目立つなかで、ロイターは一味違う記事を出しています。

記事によると、住友生命は「特別の行動を取ることは考えていない」、
日本生命も「従来のスタンスを大きく変えることなく、資産運用していきたい」
と述べたとのこと。
これを見ると、各社の目線はすでに新基準への対応ではなく、
その先にあることが伺えます。

ロイターのHPへ

他方、「規制強まり体力低下」という見出しをつけたのが朝日新聞。
最もしてほしくない誤解を全国紙がやってしまいました。

比率の算出基準が厳しくなった、つまり、モノサシが変わったのであって、
保険会社の体力が変わったわけではありませんよね。

朝日新聞のHPへ

「従来の基準より6割ほども下がった」、というのも変です。
1000%前後のものが600%前後に下がったのですから、
「4割ほども下がった」あるいは「従来の基準の6割ほどに下がった」
のはず。

あまり難しい話ではないと思うのですが。

※写真は募金活動をしていた宮城県登米市の中学生たちから
 いただいたカードです。修学旅行のプログラムとして
 自分たちで募金活動を企画したとか。いい話ですね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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大手損保の決算発表

大手損保3グループの決算発表がありました(19日)。

朝日新聞では決算発表に絡め、
「保険金支払い2.3兆円 震災で損保・共済」
という記事を掲載し、他のメディアも、

「大手損保 震災で赤字や減益に」(NHK)
「東京海上など2社減益 NKSJ赤字転落」(毎日)
「地震保険 重い負担」(産経)

と大震災の影響を報じています。

確かに国内の自然災害による保険金支払額は
過去最大級の見通しですが、大手損保の経営体力には
大きな影響を与えなかったと総括できそうです。

まず、業界全体で9700億円とされる「地震保険」の支払いは
危険準備金を事前に積んでおり、決算へはニュートラルです。

企業向け地震特約など「地震保険」以外の発生保険金は
大手3グループで約2000億円でした。

小さい数字ではないにせよ、過去最大ではありません。
台風災害が頻発した2004年度の発生保険金は
正味ベースで5000億円を超えています。

大震災の発生後、一時的に暴落した株価が戻ったのも
ラッキーでした。
有価証券含み損益への影響はざっと見て▲8500億円程度。
リーマンショックの2008年度は3兆円以上の減少でした。

むしろ心配なのは、自動車保険の収支悪化に
全く歯止めがかからないことです。
自動車保険のコンバインドレシオが100%を下回った
大手損保は1社もなく、軒並み悪化しました。

正味収入保険料(除く自賠責)の5割以上を占める
最大種目である自動車保険の赤字構造が
定着してしまった感があります。

※写真は松崎の旧家です。
 「内国生命病災保険」という会社があったのですね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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銀行窓販で明暗?

 

今回の生保4-12月期決算は、「銀行窓販で明暗」という切り口で
語られることが多いようです。

定額年金や一時払終身で収入を伸ばす会社がある一方、
変額年金主体の会社は最低保証リスク対応が利益を圧迫し、
売り上げも伸びなかったためです。

日本ではすっかり厄介者扱い(?)の変額年金ですが、
金融危機の震源地だった米国の販売状況をみると、
2010年の販売高は前年を9%も上回っています。

下がったとはいえ、日本に比べると金利水準が高い、
販売の担い手が必ずしも銀行に偏っていない
(日本のように預金代替商品としての性格が強くない)
といった背景はありそうですが、ずいぶん違いますね。

他方、日本の窓販商品の主役となった定額系の貯蓄商品に
落とし穴はないのでしょうか。

定額系商品ですから、保険会社が予定利率を保証しています。
規模にもよりますが、ALMの失敗は命取りです。

その際、気になるのは金利上昇時の契約動向です。
販売の担い手は自前チャネルではなく銀行なので、
保険会社が想定していた以上の資金流出が発生し、
やむなくALMを崩し、損失が発生することも考えられます。

ですから、単純に「銀行窓販で明暗」といった話ではなく、
貯蓄性商品による規模拡大に伴うリスクについて
むしろ警戒するべきなのかもしれません。

※いつもの通り個人的なコメントということでお願いします。

※名古屋市内にこのような町並みが残っているとは奇跡的ですね。

 

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生保運用 国内株離れ

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1週間前の記事で恐縮です。12/18(土)の日経に、
「生保運用 国内株離れ」「5年で半減、国債シフト」
という記事が載っていました。

来年度からの資本規制強化を前に、生保各社が
運用資産内容を見直しているというのですが、

「国内株式の残高は規制強化の議論が始まる直前
 (2005年度末)に比べ、ほぼ半減した」

とあります。読者は、
「そうか、生保はそんなに株式を売却したのか!」
と普通は思うでしょう
(ちなみに「売却した」とは書いてありません)。

ざっと調べてみたところ、事実は次の通りでした。

大手9社の国内株式残高(時価ベース)は確かに半減です。
 2006/3末:26.8兆円 → 2010/9末:13.8兆円

ところが、簿価ベースではどうか。
 2006/3末:13.1兆円 → 2010/9末:12.0兆円
 (この間の株式等評価損の計上額は合計1.4兆円)

つまり、「5年で半減」の中身は圧倒的に時価下落によるもので、
売却はあまり進まなかったことになりますね
(ただし、この上半期は第一と明治安田の売却が目立ちました)。

なお、この記事には、

「一方で国債など公社債での運用比重が高まっており、
 低金利下で運用益を原資とする契約者配当の維持が
 難しさを増している」

「(債券シフトで)逆ざやを保険会社が穴埋めするリスクも高まりやすい」

といった記述もあり、このあたりも非常に疑問です。
株式から公社債にシフトすると、どうして配当維持が難しくなったり、
逆ざやを穴埋めするリスクが高まったりするのでしょうか。
過去20年間とは違い、株のほうが安全ということなのでしょうか。

記事にいちいち目くじらを立てても仕方がないとは思いつつ、
つい反応してしまいました。

※毎度のことですが、個人的なコメントということでお願いします。

※写真は横浜港シンボルタワーです。
 横浜は港なんだなあと実感できる場所でした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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生損保決算から(その3)

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損保系生保が業容を拡大しています。
変額年金が主体の2社はやや苦戦しているようですが、
いわゆる「ひらがな」生保は、大手生保が契約を減らすなか、
保有契約高、年換算保険料ともに拡大が続いています。

損保系生保のビジネスモデルといえば、
損保代理店が生保も販売する「生損保クロスセル」
というイメージをお持ちだと思います。

ところが、各グループのIR資料を見ると、意外にも(?)
チャネルの多様化が進んでいることがわかります。

例えば、あんしん生命のチャネル別保険料のうち、
「損保代理店」は全体の55%にすぎません(2010/9期)。
他には「ライフプロ」(生保代理店)が30%、
「ライフパートナー」(営業職員)が10%を占めています。

NKSJグループの生保(ひまわり生命、日本興亜生命)でも、
「損保代理店(研修生を含む)」は39%、「生保プロ」が26%、
金融機関11%などとなっています(2009年度)。

注目すべきは、グループ損保の代理店とは別の、
一般代理店の存在が大きいことです。

MS&ADグループの生保(きらめき生命、あいおい生命)の
チャネル別データは公表されていませんが、
「当社の強みである来店型保険代理店のノウハウを活用」
(あいおい生命)という記載がIR資料にありました。

保険ショップに代表される一般代理店チャネルは
成長市場とはいえ、乗合かつ大規模な代理店なので、
保険会社間の競争が非常に激しい市場でもあります。

チャネル別収益などをしっかり管理して、
規律ある競争ができるかどうかがポイントなのでしょう。

それにしても、大手生保の動きだけを見ていては、
市場の動向をつかむのが難しくなったと感じます。

※写真はトレッサ横浜です。

 

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生損保決算から(その2)

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今回は生保の話を。
国内大手生保9社のソルベンシー・マージン比率(SMR)は
朝日生命が小幅低下となったほか、8社で上昇しています。

株価が約11000円から9000円台まで15%も下がったのに、
SMRはむしろ改善しているなんて、不思議に思いませんか?
そう思ったかたは、アナリストに向いているかも^^

SMRは分子のソルベンシー・マージン総額(支払余力)と
分母のリスク合計額で計算します。
2010年9月末は、分子が9社単純合計で▲800億円、
分母が同▲1700億円と、分母の減少が大きかったため、
各社のSMRが概ね上昇しました。

分母の減少は、「株価下落で資産運用リスクが減った」で
ほぼ説明できます。
いくつかの会社では株式の売却も行っているようです。

他方、分子では、株価下落の影響が▲1.5兆円もありました。
これをカバーしたのが内部留保の積み上げ(5000億円強)と、
公社債含み益の拡大(約6600億円)、
外国証券含み益の拡大(約3100億円)でした。

それでは、この上半期に国内主要生保の健全性は、
SMRが示すように高まったのでしょうか。

注目すべきは、公社債含み益の拡大が
支払余力を下支えしている点です(その他有価証券区分のみ)。

この上半期には長期金利がかなり下がりました。
9月末の10年国債利回りは0.93%です(期首は1.39%)。
例外を除き、主要生保が持つ公社債の残存期間は長いため、
金利低下が公社債価格の上昇につながったというわけです。

しかし、これはあくまで現行会計ベースの話。
会社価値という観点からすると、超長期の負債を抱える生保には、
長期金利の低下は大きなダメージとなります。

これは、第一生命やT&DのEEV(特に保有契約価値)を見れば、
金利低下の影響がいかに大きいかわかります。

報道では「増収・増益」「逆ざやが改善」などとありましたが、
株安と金利低下、ついでに円高のトリプルパンチですから、
当の生保はそんな状況ではないと思っていることでしょう。

 

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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生損保決算から

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主要生損保の4-9月期決算が出そろいました。

格付会社のアナリストをしていた昨年までは、
決算発表の集中日となると、データ収集&分析をしつつ、
緊急対応(格付け見直し)やメディア対応に追われていました。

今は仕事が変わり、落ち着いて分析できると思いきや、
なかなかそうもいきません。
このところ時間管理がますます重要になってきました。

それはそうと、少しはアナリストらしい話をしましょう。

大手損保の4-9月期決算で私が注目していたのは
自動車保険の損害率の動向でした。

発表されたデータは次の通りです(損調費を含むE/Iベース)。

           2009/4-9   2010/4-9
 東京海上日動   67.1% →  69.5%(+2.4ポイント)
 三井住友海上   69.3% →  74.5%(+5.2ポイント)
 あいおい損保    64.8% →  66.7%(+1.9ポイント)
 ニッセイ同和    74.0% →  84.9%(+10.9ポイント)
 損保ジャパン    68.4% →  70.8%(+2.4ポイント)
 日本興亜損保   63.8% →  71.1%(+7.3ポイント)

E/Iベースは既経過保険料と発生保険金で計算します。
正味損害率(正味収入保険料と正味支払保険金等で計算)と違い、
収入と支払の期間が対応しているというメリットがあります。

7-9月に交通量が増えた影響も大きいようですし、
会社によっては特殊要因があるかもしれません。
とはいえ、ここまで高くなると、多少料率を引き上げたくらいでは
焼け石に水という感じもします。

さりとて料率を急激に引き上げるのは現実には難しいでしょうし、
引受面や支払面で大手が思い切った対策をとるわけにもいかず、
残るはコスト面での対応となるのでしょうか?

※いつもの通り、個人的なコメントということでお願いします。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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生損保の4-6月期決算

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予告通り(?)今回は生損保の4-6月期決算について。
もちろん個人的なコメントということでお願いします。

新聞(日経など)をみると、生保は保険料等収入と基礎利益、
損保は正味収入保険料と当期純利益が示されています。

決算発表のたびに保険会社担当の記者さんが
どの指標を掲載すべきか悩んでいるのは承知していますし、
おそらく今回は私でも同じような指標を選んだでしょう
(「売上高」と「利益」ですから無難ですよね)。

ただ、冷静に考えてみると、生保の保険料等収入は
一時払商品が売れたかどうかで大きく振れてしまい、
何を示しているのかわかりません
(一部の生保では再保険の影響も大きいようです)

基礎利益や当期純利益はさらに難しいです。
季節要因が大きいだけではありません。
例えば変額年金では株安の影響が損益に直接反映されますが、
保有株式の評価損は一定以上の株安でないと計上されません。
必ずしも「赤字だから他社よりも厳しい」ではありません。

また、販売好調な会社ほど初期コストが利益を圧迫します。
もちろん年度決算でも同じことですが、四半期決算では
いっそう目立ってしまいます。

だからといって、四半期決算が役立たずなわけではありません。
注目すべきは貸借対照表(資産構成や純資産等)の変化です。

この4-6月期で言えば、債券価格の上昇に打ち消されているとはいえ、
やはり株安の影響はそこそこ大きかったようです。
加えて、4-6月期の大手生保の株式運用が、
会社によってかなり違っていたこともわかります
(第一と明治安田は売却、住友はもともと他社より少ない)。

足元では株安と円高が一段と進んでいるため、
引き続き四半期ごとのバランスシートの動向から目が離せません。

※同じホテルに泊まるのであれば、ビルしか見えない
 左の部屋よりも右の部屋に泊まりたいですよね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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長期金利の低下

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サッカー日本代表の活躍に気を取られているうちに
金融市場が大変なことになっています。

とりわけ10年国債利回りは1.08%と7年ぶりの低水準です。
20年債も1.8%、30年債も1.9%割れという水準に下がっています。

資産・負債のフル・マッチングをしていない生保にとって、
長期金利の低下は深刻です。
単年度の決算では運用利回りの低下としか表れませんが、
会社の価値には大きなダメージとなります。

会社価値の参考としてEV(エンベディッド・バリュー)を
開示している第一生命や大同生命の金利感応度を見ると、
リスクフリーレートが50bp下がると、第一生命のEVは2.8→2.4兆円、
大同生命は0.8→0.7兆円と、いずれも大きく減ることがわかります
(2010/3末時点の分析結果による)。
両社とも株式・不動産価値の10%下落よりも、影響が大きいのです。

どうしてもEVを開示している会社が目立ってしまいがちですが、
開示していない国内系生保も状況は概ね似たようなものと思われます。
日本の生保にとって厳しい経営環境です。

※毎度のことながら、コメントは個人的なものです
 (そのように書かない時も含めて)。ご理解下さい。

※写真は箱根です。アジサイを見に行ったところ、
 今年は天候不順でいまいちでした。
 代わりに(?)温泉に入ってきました^^

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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主要生保の決算発表から

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先週末に主要生保の決算が出そろいました。
銀行窓販をはじめ、貯蓄性商品へのニーズの強さが
改めて浮き彫りになったように思います。

新聞に出ているようなことをコメントしてもつまらないので、
四半期ごとの契約動向について何点かご紹介しましょう。

大手4社の新契約の推移を見ると、傾向の違いがわかります。

日本=転換純減が続くなかで、下半期は純新規Sが好調。
    また、今年に入り第三分野が増加している。
    個人年金は引き続き慎重姿勢のようにうかがえる。

第一=転換純減が比較的少なく、1件当りSを維持。
    他方、第三分野の保険料は前年割れが続いている。
    第一フロンティアの年金販売は今年に入り抑制した模様。

住友=昨年秋以降、銀行窓販の中心が個人年金から個人保険に
    シフトしたことがデータにも表れている。
    第三分野が堅調に推移。

MY =個人保険(貯蓄性商品)、個人年金とも高水準の販売が続く。
    転換純減が続くなかで、第三分野の保険料が減り続けているのが
    やや気になるところ。

ちょっと意外に思えるかもしれないのがアフラックです。
個人保険の新契約ANPは前年を大きく上回って推移しているのですが、
第三分野は新商品を投入した10-12月期を除き、前年割れでした。
米国の決算データによると、がん保険の落ち込みが効いているようです。

アリコの新契約ANPの推移にも注目です。
個人保険では顧客情報流出問題がクローズアップされたこともあり、
下半期は上半期よりも減っています。
それでも、AIGショックに見舞われた前年よりは高い水準です。
他方、個人年金の回復ペースは遅く、以前の1/4程度にとどまっています。

保険会社の四半期開示はB/S関連を除き、活用が難しいですが、
各社の販売戦略の手掛かりにはなりそうです。
もちろん、いつものように個人的なコメントということでご理解願います。

※娘の宿題のため、ごはんミュージアムに行きました。
 お米やごはんに関するパンフレットやゲーム、ショップがあり、
 意外に楽しめますよ。
 

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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