金融庁が「統合的リスク管理態勢ヒアリング」の結果を
HPで公表しました(6月30日)。
金融庁HPへ
ヒアリングの中身もさることながら、今回はORSAレポート
(≒ERMに関する自己評価)の試作と提出を要請し、
そのレポートに基づいてヒアリングを実施したことが特徴です。
しかも、対象となった保険会社・保険持株会社25社を見ると、
大手保険グループだけではなく、朝日火災、オリックス生命
といった中堅生損保や、かんぽ生命も含まれています。
注目される「ORSAレポートの提出義務化」に関しては、
「検討を引き続き行って参りたい」としかありませんでしたが、
・監督当局として各保険会社のERM態勢を、業界横断的に
横串を通して把握するツールとして有用であることが確認できた
・多くの会社から社内・グループ内におけるリスク文化の醸成・
ERM態勢の浸透に有用なものであるとの声が多く聞かれた
といった前向きなコメント。
今回はレポートの試作にあたり、予め項目を示した模様です。
この記載要領をどこまで示すべきかは悩ましいところでしょう。
自己規律という点を重視するのであれば、大項目だけを示し、
不足分はヒアリングでカバーすればいいと思います。
ただ、レポートを検証する行政当局は大変です。
他方、記載要領を細かく規定すればするほど、当局としては
横串を通しやすくはなるものの、記載要領に当てはめる作業が
ORSAレポート作成の中心になってしまいがち。
それでは何のためのORSAだかわからなくなってしまいます。
個人的にはあまり細かくしないほうがいいと考えていますが、
いかがなものでしょうか。
さて、内容についての詳細はHPでご覧いただくとして、
私が興味深く感じたのは次の2点です。
まず、ORSAの定義として広義と狭義の2つを示していることです。
狭いほうは、
「自らが抱えるリスク量と、リスクに対する備えとなる資本を比較する
ことにより、自らの健全性を評価するもの」
と、文字通り「リスクとソルベンシーの自己評価」を示すのに対し、
「保険会社・グループが現在及び将来のリスクと資本等を比較し、
資本等の十分性の評価を自らが行うとともに、リスクテイク戦略等の
妥当性を総合的に検証するプロセス」
「ORSAは統合的リスク管理(ERM)における中核的なプロセス」
など、金融庁は広い意味でのORSAの定義も示しており、
ORSAレポートはこちらのORSAについての記載を求めています。
すなわち、「リスクテイク戦略等」を含むレポートです。
もう一つは、次のくだりです。
「損害保険会社に加え生命保険会社においても、リスク選好に基づく
ERM フレームワークの具体的な整備を実施ないしは検討を開始する
社があり、ERM 態勢の改善・充実が進展していることが確認できた」
前回のヒアリング結果には、「損害保険会社が進んでいる」という
記載はなかったので、興味深く読みました。
※今年も慶大で講師を務めました。質問は少なめでしたが、
熱心な学生さんが多かったようで、うれしいですね。