台南の旅

 

連休中に台湾の古都、台南に行ってきました。

羽田から台北までは飛行機で約3時間。
そこから新幹線に乗れば、2時間弱で台南に到着です。

台湾は古来から中国の一部というイメージがありますが、
中国(清)に組み込まれたのは17世紀後半のこと。
日本は江戸時代です。

最初に台湾を統治(占有?)したのはオランダで、
東インド会社が17世紀前半に台南に城を築き、
商業・行政の中心としました。

そのオランダを破ったのが明の遺臣・鄭成功です。
大陸で明が滅び、清の勢力が拡大するなかで、
鄭成功は「反清復明」を掲げて抵抗したものの、
1661年に拠点を大陸から台湾に移しました
(近松の国性爺合戦ですね)。

しかし、鄭氏政権は1683年に清に敗れ、
以降、清が台湾を統治することになります。

このような歴史とは、今回、台南に行くことになるまで、
恥ずかしながら知りませんでした。

その後、19世紀になると、再び列強が進出するようになり、
明治維新後の日本も登場します。

清は台湾の重要性を踏まえ、統治を強化するのですが、
日清戦争で敗れ、日本の統治が50年間続きます。

1945年の日本の敗戦で、台湾は中華民国に編入され、
今度は大陸から移ってきた、いわゆる「外省人」が
行政の中核を占めることになります。

1949年には大陸で共産党に敗れた蒋介石が台湾に移り、
国民党による独裁体制が長く続きます。
民主化が進んだのはごく最近のことです。

ざっと台湾の歴史を眺めてみましたが、17世紀以降、
常に外部からの圧力や支配にさらされてきたことがわかります。

それにしても、台南の観光地はすごい人出でした。
この時期、中国も連休なので、おそらく大陸からの観光客が
多かったのではないでしょうか。

中国人観光客が増えたのは、2008年に国民党が政権に復帰し、
中台間の交流に力を入れてからのことです。
2010年以降、中国からの訪問者数は日本人を上回っています。

他方、この3月には中国と台湾のサービス貿易協定をめぐり
学生を中心とした大規模なデモが起きています。
日本ではあまり大きくは報道されなかったような気がしますが...

※左の写真はオランダが築いた安平古堡(ゼーランディア城)、
 右は大勢の人でにぎわう花園夜市です。

 

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「公的年金運用を考える」

 

先週の日経「経済教室」(4/24、25)をご覧になったでしょうか。

テーマは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産運用。
24日は伊藤隆敏先生による「債券減らし 分散投資急げ」、
25日は玉木伸介先生による「リスク投資 国民の理解を」でした。

どちらの論文も、昨年11月に公表された有識者会議の報告書
(伊藤先生はこの会議の座長ですね)を踏まえたものだったので、
この分野にはあまり明るくないものの、改めてこの報告書を読んでみました。
有識者会議報告書(PDF)へ

有識者会議の主な提言は次のようなものです。
 ・国内債券を中心とする現在のポートフォリオを見直す
 ・運用対象の多様化を図り、分散投資を進める
 ・ガバナンスやリスク管理の見直し

最初に「国内債券を中心とするポートフォリオの見直し」、
つまり、国内債券の比率を引き下げろということなのですが、
報告書にはその理由として、次のようにあります。

「デフレからの脱却を図り、適度なインフレ環境へと移行しつつある
 我が国経済の状況を踏まえれば、収益率を向上させ、金利リスクを
 抑制する観点から、見直しが必要」

これって、要は相場観ですよね。

私が最も気になるのは、有識者会議の報告書を見ても、
経済教室の両論文でも、公的年金の財政や負債特性について
あまり考慮されていないように思えることです。

例えば、経済教室の伊藤論文には、次のようにあります。

「毎年5%の利回りを確保すれば、元本を減らすことなく
 毎年6兆円の取り崩し要請に応えていけるが、利回り0.6%台の
 国債の大量保有に固執していれば、6兆円の取り崩しの継続で
 元本はどんどん減少していく」

今の年金財政の検証では積立金を取り崩さないどころか、
後述する「マクロ経済スライド」まで見込んでいるのですが...

それはそうとして、現役人口が減っていくため、保険料収入と
年金給付のバランスが悪化していくのはほぼ間違いありません。

しかし、その際の選択肢は「リスクをとった運用」だけなのでしょうか。

確かに資産ポートフォリオのリスクを高めれば、高いリターンが
期待できるものの、大きな損失が出る可能性も高まります。
リスクをとらず、保険料をさらに上げるという方法もあるでしょう。

選択肢を示さないということはく、初めから運用リスクの拡大
(というか債券から株式へのシフト)ありきに見えてしまうのですね。

先に触れたとおり、今の公的年金には「マクロ経済スライド」、
すなわち、給付削減の仕組みが採り入れられています。

例えば前回の財政検証結果をみると、100年間のシミュレーションを行い、
約20年間のマクロ経済スライドの実施により、財政均衡を図っています。
H21年の財政検証要旨(PDF)

つまり、制度としてはすでに給付削減を組み込んでいる中で、
財政バランスをどのようにしてとるべきかという話をすべきであって、
単に「国債を減らせ」「運用の専門家を置け」という議論ではないはず。

ちなみに、伊藤先生が挙げている「海外の先進的な年金基金」
の代表例が新聞掲載の「ノルウェー」「オランダ」等だとすると、
「ノルウェー政府年金基金グローバル」をネットで調べてみたところ、
これはノルウェーの石油・ガス収入を積み立てているものなのですね。
「オランダ公務員総合年金基金」は文字通り公務員のための年金です。

GPIFが運用する資金は基本的に国民からの保険料と税金ですし、
給付を受けるのも公務員ではなく一般の国民です。
資金の性格はかなり異なると思います。

なお、公的年金には定額部分と報酬比例部分があり、
負債特性が異なるはずですが、今回はスルーさせて下さい。

※お花がきれいな時期になりましたね。ハナミズキとチューリップです。
RINGの会 オープンセミナー

 

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今年もオープンセミナー

 

今年も国内最大規模の保険(流通)業界向けセミナー
「RINGの会オープンセミナー」の季節が近づいてきました。
6/14(土)に横浜で開催されます。
詳しくはこちら → RINGの会オープンセミナーのHPへ

私が関わるようになったのは2007年以降のことです。
セミナーはもう16回目にもなるのですね。

ちなみに毎年のテーマはご覧の通り(2007年以降)。

 第 9回(2007年) 代理店経営の近未来戦略 ―最新保険業界事情―

 第10回(2008年) これからの代理店経営を語る
             ・・・あなたの未来戦略に一石を投じる・・・

 第11回(2009年) 保険大再編!! 「顧客・代理店はどうなる」

 第12回(2010年) プロ代理店は死滅の道を辿るのか?

 第13回(2011年) 期待と課題(今私達に求められる事・出来る事)

 第14回(2012年) 代理店価値の再認識

 第15回(2013年) 主役交代 ~その最前線を知れば、変化の道筋が読める~

 第16回(2014年) 2024年、進化した保険代理店が業界を変える!
             ~RINGの会が分析する近未来の保険代理店像とは~

その時その時の保険流通を取り巻く外部環境を踏まえつつ、
代理店経営を考えていこうという内容になっています。

当日は朝から夜まで保険漬け。会場での情報交換を含め、
普段はなかなか得られない情報や気づきがあるはず。

特に今回は保険業法が改正され、保険流通の規制環境が
抜本的に変わるなかでの開催です。
ご参考 → 保険業法等の改正案(PDF)

そのような状況で、午前中のパネルには、金融庁時代の同僚で
この分野に非常に明るい増島弁護士が昨年に続き登場します。
さらに午後のパネルには、「イノベーション」というキーワードで
ライフネット生命保険社長の岩瀬大輔さんも登壇します。

今回はこの二人の話を聞くだけでも、セミナーに参加する価値が
あると思いますよ。
(RINGのHPではあまりアピールしていないようですが...)

それでは皆さん、6/14に横浜でお会いしましょう。

※神戸・北野の洋館です。2年半ぶりに行きました。

RINGの会 オープンセミナー

 

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標準利率の見直し

 

少し前になりますが、金融庁が1日に改正案を公表し、
5月1日まで意見募集をしています。
金融庁のHPへ

生保の保険料は保険会社がそれぞれ設定できます
(ただし、金融庁の認可が必要です)。
他方、将来の保険金等の支払いに備え、保険会社が
用意しておく「責任準備金」の計算基礎となる利率は
法令で決まっているので、保険会社はこの利率から
かけ離れた保険料を設定することはできません。

今回の見直しは、一時払終身など貯蓄性の高い商品には
平準払いとは異なる利率を適用しようというものです。

「10年国債利回りの3年平均と10年平均のいずれか低い方」
を参照し、年1回だけ見直すという現行の枠組みのままでは、
金利が上昇に転じても利率がなかなか反映しないので、

・超長期国債の流通量が増えた
・ALMの高度化が進んだ

などを背景に、貯蓄性の高い商品の利率決定方式を

「10年国債利回りと20年国債利回りの和半」
「過去3か月平均と過去12か月平均の低いほう」
「年4回判定」

といった仕組みに見直そうというものです。

確かに反映が現行よりも早くなるとはいえ、金利が上がるにつれ、
「安全率係数(=掛目)」が小さくなる点はそのままなので、
例えば10年国債や20年国債の利回りが4%水準だった場合、
一時払終身保険の標準利率は2.65%にとどまります。

しかも、安全率係数の対象レンジが見直されているため、
例えば5%水準では標準利率が2.9%と、さらに差が広がります。
高金利になるとALMが難しくなると考えているのでしょうか?

「10年国債利回りと20年国債利回りの和半」というのも不思議です。
対象は一時払終身保険ですよね。
いくら銀行窓販で高齢者が多いといっても、どうしてなんでしょう。
「超長期国債の流通量が増えた」「ALMの高度化が進んだ」のに。

なお、今回の見直し案について、s_iwkのブログ
s_iwkさんが詳細な解説とコメントを記しているのを見つけました。
4回にわたる大作ですので、勝手ながらご紹介させていただきます
(私も大変参考になりました)。

※写真は阪堺電車です。初めて乗りました。

 

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教養としての「世界史」

 

旅行中にライフネット生命・出口治明さんの近著
「仕事に効く 教養としての『世界史』」を楽しく読みました。

本書は出口さんも書いているように「歴史書」ではなく、
歴史を学ぶことの大切さや楽しさを教えてくれる本です。

ペリーが日本に来た本当の目的を考えるところから始まり、
中国の文書行政、キリスト教と仏教の誕生、ローマ教会、
東西交易、遊牧民の活躍、アヘン戦争などが取り上げられ、
最後にまた日本に戻ってきます。

あくまで私の感想ですが、本書のメッセージは、
次の記述に凝縮されているように思いました。

「世界のこと、過去のこと、今日のことなど、いろいろなことを
 知れば、一つの地域や国の歴史に引っ張られずに、
 ものの見方や考え方が多面的になります」(P328)

タイトルにある「仕事に効く」とは、「歴史を知っていると、
コミュニケーションをとりやすい」という狭い意味だけではなく、
地理的、歴史的背景を知り、いろいろと考えていくうちに、
多面的かつ論理的に物事を考えることができるようになる、
ということではないでしょうか。

それにしても、「歴史が好きなアマチュアの一市民」(はじめに)
である出口さんの博覧強記ぶりには驚かされます。

私は山川の世界史だけではなく、大学でも西洋史学科というところで
歴史を学んだはずなのですが、ローマ教皇の名前など、
すっかり忘れていました^^

 

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大阪で「プチ発見」

 

週末に家族で大阪・神戸へ行ってきました。
二泊三日の家族旅行でも、それなりに発見があるものです。

妻が気に入ったのは法善寺横丁で食べた「おでん」。
関東でおでんと言うと、鍋に大根や竹輪、はんぺんなどを
入れて煮込む鍋料理のことを指しますよね。

大阪で食べた「おでん」はあの料理ではありません。
汁気が少なく、田楽味噌がたくさんついたものでした。
こちらがおでんのルーツなのだそうです。

たこ焼き屋も面白かったです。ホテルが心斎橋だったので、
近くのアメリカ村にたこ焼き屋が何店もありました。

たこ焼きがとろっとして美味しかったのもさることながら、
見ていると、若い女性が夜一人でたこ焼きを買いにくるのですね。
家族へのお土産なのか、遅い晩ご飯なのかわかりませんが、
たこ焼きが身近な存在なんだなあと、妙に関心してしまいました。

最後は阪急電車の話。

阪急は梅田がターミナル駅で、ここから京都方面、宝塚方面、
神戸方面に電車が向かいます。
ヨーロッパのターミナル駅(あるいは上野駅)を彷彿させます。

これら3方面の特急や急行はなんと同時に発車するのです。
噂には聞いていましたが、3つの列車が同じ方向に走る姿は
なかなか見られるものではありません。
しかも、しばらく並んで走るので、なんだかワクワクしました。

いずれも関西人にとっては当たり前のことかもしれませんが、
関東人の私たちには発見の連続でした^^

※左の写真は地下鉄心斎橋駅です。
 NHKの朝ドラ「ごちそうさん」でこの駅の話がありましたね。

 

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損保関連ニュース2題

 

まず、2月の大雪に伴う保険金の支払見込額のニュースから。

発表によると、東京海上が550億円程度(3/18時点の速報値)、
MS&ADが750億円規模(3/20時点)の支払いを予想しているそうです。
NKSJも、公表した事故受付件数などからすると、数百億円規模でしょう。
損保による自然災害の支払額としては、おそらくワースト5に入るのでは。

各社とも火災保険が支払見込額の大半を占めているようですが、
モノ保険だけではなく、物流が止まったことによる損害などもあり、
台風による風水災とは請求の特徴が異なるかもしれません。

この時期なので保険金の支払いが次年度にずれ込み、
支払備金の繰入が会計上の損益を圧迫することになりそうです
(支払いがなければ異常危険準備金が取り崩されないため)。
東日本大震災のときもそうでしたね。時期の問題だけなのですが。

他方、24日の日経に「再保険コスト下げ局面」という、
比較的大きめの記事が掲載されました。

日米欧などで金融緩和が長引き、再保険市場に年金基金などの
資金が流入しているため、来年度の国内損保の再保険コストが
約15年ぶりに減少する見込みというものです。

「緩和マネーの流入が、損保の採算改善にもつながってきた」
「海外の再保険会社は日本の再保険引き受けを敬遠していた」
かはともかく、確かにこの分野への資金流入は見られるようです。

一つは記事にあるような、大災害債券(キャットボンド)など、
保険リスクを対象とした証券への投資があります。
もう一つはバミューダ勢など再保険会社への出資です。

このような資金流入もあり、近年の再保険市場では
キャパシティの拡大が続き、多少の自然災害が発生しても、
そう簡単には市場がハード化しない構造となっているとか。

記事には次のような気になる記述もありました。

「(損保各社は)リスクに見合った保険料を徴収できていない」
「企業向けの火災保険や地震保険が実質的に赤字の損保も多い」

事実であれば「逆ざや」が恒常化しているということですが、
真相はどうなのでしょう。

※井の頭公園の池に水が戻っていました。
 桜は三分咲きといったところでしょうか。

 

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大学生が狙われる50の危険

 

三菱総研と大学生協・共済連による書籍です。
2011年2月に出た「大学生がダマされる50の危険」に
最新の情報を加えたパワーアップ版とのことで、
大学生の息子がいることもあり、目を通してみました。

第1章「大学生が狙われる、いまどきの危険」には、
次の9項目が取り上げられています。

 ①新入生勧誘に見せかけた罠
 ②SNSのトラブル
 ③ネット炎上
 ④ストーカー
 ⑤校則違反
 ⑥飲酒・アルコール中毒
 ⑦自転車事故
 ⑧新手のキャッチセールス
 ⑨迷惑行為

私の学生時代はいわゆるバブル期なので、
もう四半世紀も前のことですが、①の宗教勧誘や、
⑥の飲酒、⑨の迷惑行為などは、当時も同じですね。

他方、SNSのトラブルやネット炎上といった、
携帯やスマホの普及に伴う危険が挙げられています。
ストーカー被害や自転車事故(=加害者になる危険)
などもあり、時代の流れを感じます。

2011年版と比べても、「アカウント乗っ取り」
「ネットゲーム」「スマホ(のアプリ)」「ネット依存症」
といった危険が新たにリストアップされていて、
ここ数年のスマホやタブレットの普及を反映しているのでしょう。

ちなみに、本書で取り上げられた50の危険は
どのような基準で選ばれたのでしょうね。

「就職活動」「社会に出る前に」といったものもあるので、
50の危険はあくまで例示なのだとは思います。

ただ、次に改訂版が出るときは、危険を防ぐポイントに加え、
発生する頻度と、発生した時の損失をイメージできる
手掛かりがあるといいですね...なかなか難しそうですが。

※写真は御茶ノ水を代表する二つの橋です。
 電車の写真にしか見えないかもしれませんね^^

 

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関東部会でスピーチ

 

3/14(金)に日本保険学会・関東部会でスピーチをしました。
演題は「保険会社ERMの現状と金融行政の動向」です。
日本保険学会のHPへ

質疑応答の際、「行政がERMを促すのは不可解」という質問がありました。
ERMが会社価値の拡大を目的とするのであれば、行政がそれを促すのは
理解できない。最低資本要件だけ設定すれば十分ではないか、という
ご質問だったと思います。

確かに、保険会社にしてみれば、株主から言われるならともかく、
もし行政から「会社価値を高める経営をせよ」と言われるのは、
余計なお世話という気持ちになるのもわかります。

ERMはあくまで保険会社自身のために推進するものですし、
誰かに言われて取り組むものではないと思います。

他方、行政の立場になって考えてみましょう。

保険契約者を保護するには、もちろんコンプラ面も重要ですが、
何より保険会社が潰れてしまっては困るわけです。
そこで行政は保険会社の健全性を確保するため、規制を設けます。

一番簡単なのは、万一に備え、バッファーを持たせることです。
最低限保有すべき資本を設定し、保険会社に守らせます。

しかし、設定すべきバッファーの水準はなかなか難しいものです。
バッファーが小さければ、万一の際に役立ちません。

求めるバッファーを大きくすると、潰れる確率は減るものの、
契約者や株主への還元は犠牲になります。
極論すれば、あまりに要求されるバッファーが大きいと、
保険会社に投資する株主はいなくなってしまいますし、
保険会社を経営しようという人がいなくなってしまいます。

しかも、バッファーが大きくなると、経営者が安心してしまい、
リスク管理が疎かになりがちです。

そこで行政が目を付けたのがERMです。

保険行政として「リターンを挙げて下さい」とは言わないまでも、
「健全性を確保しつつ、会社価値の持続的向上を図る」ための
ERMであれば、健全性の確保という点で契約者保護が図れますし、
「会社価値の向上」ということで経営者の関与も期待できます。

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政府が財宝を泥棒から守るため、ガードマンを雇うことにしました。
まず、ガードマンを雇う基準を決めなければなりません。

そこで、強いガードマンを雇うべきという考えから、明確な基準として
「100㎏のウエートを持ち上げられること」としました。
100人の応募があり、政府はこのうち10人を採用しました。

ところがある日、財宝の一部が泥棒に奪われてしまいました。
政府が残る財宝を守るためには、どうしたらいいでしょうか。

ガードマンを雇う基準を厳しくして、100㎏のところを200kgにする。
それも一案かもしれませんが、応募者は減るでしょうし、
そもそもこの基準がリスクに見合っていないのかもしれません
(まあ、そうでしょうね)。

ある警備会社に聞くと、「うちでは、単なる力持ちではなく、
A、B、Cの条件を満たしたガードマンを派遣している」とのこと。
その結果、この会社は業界で優良企業と言われています。

もう一つの警備会社にも聞いてみました。すると、
「A、C、Dの条件を満たしたガードマンを育て、事業を拡大している」
とのことでした。

どうやら警備業界では、強いガードマンをそろえるのではなく、
A、B、C、Dなどの条件を満たしたガードマンを派遣している会社が
顧客の支持を得ているようです。

そこで政府はガードマンの採用基準を見直すことにしました。
ウエートを150kgに上げるとともに、A、B、C、Dの条件を満たす
ガードマンを雇うと発表し、10人を採用しました。
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やや無理がある例えかもしれませんが、このような政府の行動は
不可解でしょうか?

※写真はオランダの市場です。

 

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自動車保険100周年

 

今年(2014年)は日本で自動車保険が発売されてから
100年の節目の年なのだそうです。

保険毎日新聞の特集によると、100年前(大正3年)の
国内での自動車保有台数は1000台余りだったそうで、
自動車保険は事故の際の賠償責任への備えというよりも、
自動車という当時はまだ珍しかった財産に掛ける財物保険
としての意味合いが強かったとか。

海外からの輸入品だった当時の自動車は、
今の価値で少なくとも1000万円以上したと思われます。

その後、戦後の高度成長とともにモータリゼーションが進み、
自動車が急速に普及するにつれ、自動車保険は
損保の主力商品に成長していきます。

しかし、1990年代からの20年間をみると、保険自由化や
リスク細分型保険、通販といった新たな動きの半面、
成長が止まり、各社は収支確保に苦労するようになりました。

同じ特集のなかで、損保協会の深田一政常務理事は、
インタビュー記事の中で次のようなコメントをしています。

「自動車保険自体が利益率の高い商品ではなく、
 世界中の保険マーケットを見ても各保険会社はぎりぎりの
 経営努力の中で競争に生き残っているのが現状」

「どういったマーケットにフォーカスし、どういったチャネルを活用して、
 どのような付加価値をつけて自動車保険を販売するのか」

「そもそも自動車保険を引き続き経営の柱にするのか、
 それとも新たな基幹商品を模索するのか、各社ごとに
 自動車保険に対する位置付けが大きく変わる可能性もある」

まさに、10年先、20年先を見据えたビジネスモデルの構築が
求められているように私も思います。

※写真は渋谷駅です。

 

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