保険自由化20年

null null

日本保険学会の関東部会がミニ・シンポジウム
「保険自由化20年」を開催しました。
当日のレジュメはこちらでご覧になれます。
関東部会のサイトへ

確か「自由化後10年」という企画もあったはず、
と『保険学雑誌』のバックナンバーを調べると、
2008年10月の大会で「自由化後10年の検証」
というシンポジウムが開かれていました。

司会が東大(当時)の山下先生、シンポジストが
慶大の堀田先生、一橋大(当時)の米山先生、
弁護士の上柳先生という豪華メンバーでしたが、
実は私も登壇していたことが判明。
恥ずかしながらミニ・シンポジウムの席では
すっかり失念していました。
保険学雑誌第604号

当時はリーマンショック後の金融危機の最中で、
同じ10月にAIGが日本の生保事業からの撤退を
発表したり、大和生命が経営破綻したりと、
連日対応に追われていたのでしょう(言い訳)。

自由化10年では、経済・商学系の研究者と
実務法律家、アナリストという顔ぶれでしたが、
今回の「20年」は3名とも保険業界の方々でした。

内容は当日のレジュメをご覧いただくとして、
明治安田生命の上原さんが自由化後の20年を
前半と後半に分けていたのが興味深かったです。
前半の10年は規制見直しが進んだものの、
後半の10年はグループ規制を除き、規制緩和は
あまり進展がなかったことを示していただきました。

あえてコメントすれば、2006年でビシッと切らず、
前半の規制見直しフェーズと、後半の見直しによる
影響フェーズを多少オーバーラップして捉えるのが
妥当なようにも思えますし、もし、20年間を通じて
規制緩和が進まなかった事項があるとしたら、
合わせて示していただけるとありがたいでしょうね。

今回のミニ・シンポジウムを業界人から学界への
情報提供ととらえると、そもそも自由化の目的は
何であり、それが20年でどの程度達成できたのか、
あるいは、副作用や意図せざる状況を招いたのか、
といった視点のお話しも伺いたかったです
(そのような質問はありました)。

あと、自由化による競争促進とは、保険会社が
以前よりリスクテイクできる状況になることなので、
監督当局としては、財務・業務の健全性確保と
セーフティネット(広義)の整備が必須となります。

業務の健全性と各種のセーフティネットの整備は
それなりに進む一方、財務の健全性については
どうでしょうか。

せっかく2007年にソルベンシー規制の見直しを
当時の検討チームが提言したにもかかわらず、
10年たっても未だに見直しが道半ばなのですが、
そのような視点があってもよかったように思います
(ERMに関する言及は栗山さんからありましたね)。

とはいえ、いろいろ考えるきっかけををいただいた
という意味で、大変有益なシンポジウムでした。

※大倉山公園の近くにある大乗寺の境内には
 なぜか相鉄線の電車が飾ってあります。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保決算

null null

ある生保の決算説明会で専門紙の記者から
次のように聞かれました。

「減収減益という結果だけど、話を聞くと、
 資産運用を積極化し、配当も出している。
 今回は果たしてどんな決算だったのか?」

報道では「マイナス金利が響き、減収」などと
保険料収入が減ったことばかりが注目され、
あとは基礎利益の解説が多少あるだけ。
確かに決算がよかったのか悪かったのか
これでは悩むのも無理はありません。

会社価値という観点から単純に1期前
(2016年3月末)と2017年3月末を比べると、
主に第三分野の保有契約積み上げに加え、
長期金利や株価の上昇により、ポジティブと
言うべきなのでしょう。

例えば各社が公表するEVを見ると、いずれも
数値が拡大しています
(日本、朝日、富国は非公表)。

ただし、金利のミスマッチは総じて広がり、
外貨建資産など資産運用リスクも増えてます。

また、各社とも保障性商品の販売に一段と
舵を切ったと思いきや、保険料収入の減収は
銀行窓販をはじめ一時払商品によるもので、
平準払の個人年金など(=収益性は低い)は
相当売れた模様です。

しかも、期中にはイールドカーブが極端に
フラット化し、健全性に余裕がなくなりました。
各社は劣後調達などに動きましたが、
再び金利が下がれば依然厳しいと思います
(もちろん個社による違いはありそうですが)。

ですので、「総じて厳しい決算だった」という
生保首脳のコメントは減収だからではなく、
基礎利益が減ったからでもありません。

メディアへの苦言となってしまいますが、
「保険料収入」では、必ずしも主力ではない
一時払の貯蓄性商品の動きだけを説明する
ことになってしまうので、販売動向を伝えたい
のであれば、他の指標を使い、各社が主力と
する営業職員チャネルや主力商品の動きを
解説すべきでしょう。

基礎利益(≒3利源)に関しても、もともとは
逆ざやを他の差益でカバーしていることを
示すために開示されるようになったものであり、
これで期間損益を語るのは無理がありますし、
ここまで外債投資が増えると、もはや何を
表しているかわからなくなっています
(外債投資で利息配当金収入が増えるため)。

せっかく各社が年換算保険料やその内訳、
EVや新契約価値などを示しているのですから、
記事ではこれらを活用してほしいです。
有力メディアが「保険料収入」と「基礎利益」に
こだわり続けると、保険会社の経営判断にも
悪影響を及ぼしますので。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

非財務情報を巡る勘違い

null null

日経夕刊の十字路というコラムに載った
「非財務情報を巡る勘違い」を興味深く
読みました(17日)。
首都大学東京の松田千恵子先生による
ものです。
日経のサイトへ(有料版)

内容はタイトルの通りで、非財務情報として
開示が求められているのは、企業の将来に
向けた方針であり、どのように企業価値向上
を果たすかが重要なのに、そうなっていない
というものです。

「勘違いした統合報告書には、無味乾燥な数値実績と、きれいごとっぽい慈善活動だけが脈絡なく並んでいる。(中略) これでは投資家ならずとも、利害関係者としてその企業が将来をどう考えているのか判断しようがない」

何とも痛切なコメントですが、実のところ私も
似たように感じることがあります
(数値実績を無味乾燥とは思いませんが…)。

特に、近年ESG(環境・社会・ガバナンス)情報
が注目されているためか、非財務情報というと
環境保護や社会貢献関連の情報が目立つなど、
財務情報とは別の情報として捉えられやすい
のかもしれません。

日本IR協議会による実態調査などを見ると、
企業が「勘違い」しているのではなさそうですが、
非財務情報をどのように開示し、理解してもらうか
悩んでいる状況がうかがえます。

そこで思い当たるのが、上場保険会社による
「ERM関連情報の開示」の積極的な開示です。

ERM関連情報なので、リスクテイクの方針など、
経営の考え方を提示するのが一般的ですし、
こうした非財務情報を補うため、内部で活用する
独自の指標やそのターゲット水準、感応度分析
といった財務情報も公表しています。

つまり、経営がどのように企業価値の持続的な
拡大を目指そうとしているかを、非財務情報と
財務情報を結び付けて説明しているのですね。

もちろん、利用者としてまだまだ思うところは
ありますが、保険業界のこうした取り組みは
非財務情報の開示に悩む他業界にとっても
参考になるのではないでしょうか。

なお、関連する日本公認会計士協会の報告書
を見つけましたので、リンクしておきます。
日本公認会計士協会のサイトへ

※高校のOB会で再び横浜の崎陽軒本店へ。
 旧制中学の卒業生もお二人いらっしゃいました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

自動車保険の収支

null null

自動車保険の参考純率が引き下げられる
というニュースを各紙が一斉に報じています
(任意保険です。念のため)。

13日の日経によると、「平均8%引き下げ」
「事故率の低下もあって保険収支が安定して
おり、2003年以来、14年ぶりの引き下げとなる」
そうです。

近年の自動車保険の収支を確認するには、
損害保険料率算出機構の資料が便利です。
算出機構のサイトへ

「自動車保険の概況」(2016年度)によると、
確かに収支は5年前に比べ改善しています。

まず、保険料収入を2010年度頃と比べると
4000億円近く増えています。
主に料率引き上げの効果によるものです
(台数は伸び悩んでいるので)。

また、車両保険と対人賠償の支払減少により
支払保険金は約1000億円減っています
(対物賠償は微増です)。

衝突被害軽減ブレーキやバックカメラなど
ASV技術の普及などで事故が減ったことに加え、
車両保険の契約1台当たりの支払保険金が
2013年度から大きく下がっていることから、
前回(2011年)の参考純率見直しの際、新たに
導入した「事故あり等級」の効果が見られます。

保険金を請求すると、翌年の等級が下がる
だけでなく、「事故あり等級」になり、以前よりも
翌年以降の保険料が上がるようになりました。
このため、少額の保険金請求を見送る加入者が
増えたと考えられます。

ソニー損保のサイトでざくっと試算すると、
例えば、年間保険料6万円で20等級の人が
保険金請求によって3等級ダウンとなると、
元の無事故20等級に戻るのに3年かかるので、
保険を使うとその後の保険料が合計約11万円
増える結果となりました。

つまり、このケースでは請求額が11万円未満だと
受け取る保険金よりも翌年以降の負担増のほうが
多くなってしまうことになります。

事故あり等級の導入前でも、等級ダウンによる
翌年以降の保険料上昇はあったのですが、
「保険を使わないほうが得」という水準が少なくとも
10万円程度まで上がっているのですね
(免責設定がない場合)。

見方を変えれば、今の自動車保険は少額損害を
実質的にカバーしていないということになります
(示談サービスなどを受けることは可能です)。

私自身は、自己負担できるレベルの少額損害まで
保険でカバーする必要はないという考えです。
ただ、皆さん理解のうえで加入しているといいのですが。

※写真はウラジオストクのトラムです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保の資産運用計画

null null

生保各社がメディアに示した「資産運用計画」
に関する記事がいくつか出ていましたので、
日経(有料版)と東洋経済のものを見てみましょう。

「生保マネー 背水の脱・国債依存」(日経)

各社が発表した部分はともかく、どうも初めから
「脱・国債」を主張したい記事のように感じました。

確かに、全10社ともオープン外債投資に前向きで、
国内債券は10社中6社で減らすと発表したようです。

だからといって、書かれているような、

「運用利回りを確保するために外国債券や社債など
 国債以外の資産に資金を移さざるをえない」

「為替と信用リスクをとった運用を目指さなければ
 立ち行かない現状」

「マイナス金利が長期・安定運用の前提を突き崩した
 今、生保は脱・国債を迫られている」

と決めつけるのはどうかと思うのですね。

生保の国債投資は、国債が安全資産だからでは
ありませんし、超長期国債への投資が多いのは、
日本独自の「責任準備金対応債券」区分があり、
格付けと利回りが相対的に高いからというのは
さすがに無理があります。

保険負債の円金利リスクをヘッジしようとすると、
社債市場等の規模が小さい日本では、どうしても
超長期国債を保有することになるからです。

記事のなかにも、「長期の負債を持つ生保は、
金利変動による損失を抑えるため、満期保有を
前提にした債券を多く持たざるを得ない」という
記述があるのですが...

他方、さすがに外貨建資産がここまで増えると、
「これ以上増やしてもいいのか?」と考えるのが
第三者としては普通の反応だと思うのですね。
しかし、「リスク適切管理と機動的運用が必須」
とのこと。

「機動的なヘッジ」の必要性を否定はしませんが、
為替リスクを取っておいて、損失は発生させない
(つまりリターンだけを確実に確保)なんてことが
常にできるものなのでしょうか。

「大手生保の運用担当は市場をどう見ているか」
(東洋経済)

生保6社(大手4社とかんぽ生命、太陽生命)の
運用計画と市場動向見通しを紹介したものです。
なぜこの6社なのかはわかりません。

こちらは警戒モードというか、「今すぐに生保各社の
経営が大きく揺らぐことはないが、低金利の長期化は
生保の経営体力をじわじわと奪いつつある」で始まり、

「今年度も国内の超低金利とボラティリティ(変動性)
 の高い為替相場に悩まされそうだ」

とまとめています。

テーマである「運用担当者の相場感」については、

・ヘッジコストの上昇が見込まれ、ヘッジ外債は慎重
・当面は低金利環境が継続するが、金利上昇も警戒
・為替は幅の広いレンジ相場。大きく振れる展開も

といった紹介でした。

なお、いずれの記事でも引用しているのが、
日銀が4月に公表した金融システムレポートの
「生保資産構成の国際比較(日、独、英、米)」です。

先日のブログでは書きませんでしたが、
65ページからのBOX1に4か国の保険商品構成や
資産構成などを比べた図表が掲載されています。

ただ、記事では各国の資産構成だけを見て、
「(日本は)他国に比べると国債への偏りが歴然」
(日経)という記述になっています。

国債が多いのは確かなのですが、他国にしても、
米国は特別勘定を除けば債券(国債、社債、MBS)
ばかりですし、ドイツもユニット・リンクと投信が
対応すると考えると、残りはやはり金利ものが
中心ということになります。
英国はユニット・リンクと実績配当商品なので、
資産構成を比べてもあまり意味がありません。

逆に言うと、図表からは、変額商品でもないのに、
為替リスクや株式リスクをそこそこ取っているのは
日本だけということがわかるのですが…

ちなみに日銀は、日本以外で保険市場と投信の
つながりが強まっていることや、日本でヘッジ外債の
ウエートが高まっていることから、金融市場の混乱が
保険に波及しやすくなっていると指摘しています。

※写真はウラジオストク駅。シベリア鉄道の終点です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ウラジオストク訪問

null null

かねてから気になっていたこの町を
ようやく訪問することができました。

ウラジオストクは極東ロシアの港湾都市で
日本海を隔てた対岸に位置しています。
緯度は札幌と同じくらいです。

1860年に海軍基地として建設されて以降、
帝政ロシアの太平洋への玄関口として発展。
シベリア鉄道の開通でヨーロッパともつながり、
現在も沿海地方の中心都市となっています。

ソ連時代は軍事上の理由から閉鎖都市とされ、
立入禁止の時代(1952~1992)もありましたが、
今は基本的にどこでも自由に歩けます。

ご覧の写真のように、建物も歩いている人々も
どこかヨーロッパ的で、成田からたった2時間弱
のフライトで行ける場所とはとても思えません
(メーデーだったので、にぎやかでした)。

私がこの町に興味を持った理由の一つは、
日本との関係が深いことです。

1876年には早くも日本政府の貿易事務所が
置かれ(その後領事館に昇格)、ピーク時の
1920年頃には約6000人の日本人が住んで
いたそうです。

町の中心部には、旧領事館や旧横浜正金銀行、
旧朝鮮銀行など、当時の重厚な建物がそのまま
残っていました。

null
(左が旧日本領事館、右が旧朝鮮銀行です)

また、第2次大戦後に抑留された日本人により
造られたホテルやスタジアムもありました。

そのような歴史的な話のほか、何といっても
目立つのは日本車です。
町を走る自動車のほとんどが日本の中古車で、
右側通行にもかかわらず、右ハンドルの車が
たくさん走っていました。

null

日本食のほか、日本のお菓子やアニメなども
人気のようですし、当地の極東連邦大学には
日本学科があって、日本語だけではなく、
経済や文化を学ぶコースがあるそうです。

半日だけ日本語ガイドをお願いしたのですが、
彼女の大学時代の専攻は「源氏物語」との
ことでした。

いまの日本人にとってウラジオストクはあまり
馴染みのないところだと思います。
でも、ウラジオストクから見た日本は案外近い
存在なのかもしれません。

ロシア入国にはビザが必要なので、個人旅行が
難しいという印象があります。
しかし、代行業者を使えば大使館に行かずとも
ビザの取得ができましたし、この8月からは、
ビザ取得が簡単になるという情報もあります。
「2時間で行けるヨーロッパ」はおすすめです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

業界紙に登場

 

「保険毎日新聞」「週刊インシュアランス」という
2つの保険業界紙に相次いで登場しました。
少し長めにご紹介します。

保険毎日新聞(4月28日付)はインタビュー記事で、
金融庁が公表した「経済価値ベースの評価・監督手法
の検討に関するフィールドテストの結果について」への
感想や注目点などについて話しました。
保険毎日新聞のサイトへ

例えば次のようなコメントが載っています。

「今回の結果概要を読んでみて、『情報量が少ない』 というのが私の第一印象だった。(中略)前回までは金融庁独自の手法を使っていたが、今回は基本的にIAISの手法なので、計算方法の詳細な説明は不要という判断が考えられるほか、3回目のテストであり、対応状況や技術的な課題の把握よりも、規制導入に伴う定量的な影響をつかむことに力点が置かれたのかもしれない」

「情報量が少ないとはいえ、2016年3月末における経済価値ベースのソルベンシー比率(ESR)と分母のリスク量(所要資本)の内訳、分子の自己資本(適格資本)の内訳と変動要因が、保険会社全体の数値として示されている」

「損保会社、生保会社の16年3月末のESRはそれぞれ194%と104%だった。この数値は、損保会社は適格資本が所要資本の約2倍、生保会社は経済価値ベースでみると資本とリスクがほぼ同じ水準であることを表している」

「もちろん、あくまで16年3月末の経済前提において、IAISや金融庁の示した評価手法に基づいて出た結果なので、数字が独り歩きするのはよくないと思うが、現在のようにイールドカーブが低位かつフラット化した状況下では、生保会社の健全性には全体として余裕がある状態ではないとわかる。このところ、ソルベンシーマージン比率が高いにもかかわらず、多くの保険会社が劣後債務などの資本調達を行っているのも理解できよう」

「経済価値ベースでのソルベンシー規制導入に向けたフィールドテストはこれで3回実施された。しかも大手だけでなく全社ベースでの取り組みだ。ここまでコストをかけ(業界負担を含む)、慎重に準備を進めてきた政策を、常識的に考えて、もはや導入しないという選択肢はないだろう。そろそろスケジュールを提示し、具体的に導入を進める段階にきているのではないか」

もう一つの「週刊インシュアランス」(5月4日 生保版)は
「保険に対する理解の低さ」という題で寄稿しました。
週刊インシュアランスのサイトへ

多少要約していますが、次のとおりです。

「自民党小委員会が発表した『こども保険』の資料に、『年金も、支給開始前にお亡くなりになると、給付は受けられない。また、医療や介護も、健康だと給付は受けられない。あくまで保険なので、完全に給付と負担が一致するわけではない』とあり、これを読んで、保険への理解が低いと感じた」

「保険は個々の加入者が必ず給付を受けるというものではないが、結果的に給付がなかった加入者が損をしたわけではなく、加入期間中はリスクが発現したら給付を受けられるというメリットを享受していた。このような理解が欠けていると、単純に『掛け捨ては損』という発想になり、『年金も』『医療や介護も』という説明をしなければならなくなるのだろう」

「長生きリスクに対する保険についても、『平均寿命で死ぬと契約者が損する保険』『保険というよりはサバイバル・ゲーム』という異論が出た。一般に老後の備えとしては『支払った保険料を取り戻せなければ損』という考えが支配的なのだろう」

「しかし、長生きリスクに対して貯蓄だけで備えるとなると、自分が何歳まで生きるかわからないので、多め多めにお金を貯めておく必要があり、多額の貯金を残して亡くなる結果となってしまう。そう考えると、いわば掛け捨ての保険で想定外に長生きするリスクに備えようという発想は合理的だ」

「『掛け捨ては損』『払い込んだ保険料よりも給付額が少ないと損』という考えが根強いのは、想像するに、生保が安定的な長期資金の担い手として、個人の資金を企業部門に供給する役割を期待されていた時代(当時は商品もほぼ横並びだった)の名残なのかもしれない」

ということで、今回は両編集部のご厚意もあり、
掲載記事のご紹介としました。
皆さま、よい連休をお過ごしください。

※パシフィコ横浜の下見(?)に行きました。
 こちらもよろしくお願いいします↓
RINGの会 オープンセミナー

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

金融システムレポート

 

19日公表の日本銀行「金融システムレポート」
(2017年4月号)を見ると、

「金融機関は充実した資本基盤を備えており、
 当面収益力が下押しされるもとでも、
 リスクテイクを継続していく力を有している」

という記述に続き、

「今後、金融機関のポートフォリオ・リバランスが、
 経済・物価情勢の改善と結びついていけば、
 収益力の回復につながっていくと考えられる」

とあり、ちょっと首を傾げてしまいました。

例えば、ポートフォリオ・リバランスということで
地域金融機関の貸出金は確かに増えていますが、
その多くは不動産業向けです(17ページ)。

有価証券については、地域金融機関が保有する
外債と投資信託の残高が急増しています。
投信の半分は海外金利系とのこと(44ページ)。

これらを踏まえると、ポートフォリオ・リバランスで
将来の収益力回復に期待できるというよりも、
日銀のマイナス金利政策実施から1年たって、
副作用として金融システムの脆弱さが増した
と見るのが自然ではないでしょうか。

マイナス金利政策が金融システムに悪影響を
及ぼしているのは生保セクターも同じです。

レポートには、機関投資家等の資金運用動向
として生命保険会社の話も出ているのですが、
外債投資の増加と超長期国債投資の減速しか
言及がありません。

本来、分析すべきは、ALMのミスマッチを抱える
生保がマイナス金利政策により、どんな状況に
なっているかを見るべきだと思うのですが…
(各社のEVや金融庁フィールドテスト結果など
 分析のための素材も多少はありますよね)

なお、参考までに、レポートの27ページにある、

「外債の運用比率が上昇している背景には、
 国内債との利回り格差があるが、2010 年度に
 改正されたソルベンシー・マージン規制において、
 外貨建て債券のリスク係数が引き下げられたこと
 も影響しているとみられる」

という記述は、残念ながら誤解です。

外貨建て債券のリスク係数が 5%から 1%に
下がったことを見てのコメントかと思いますが、
改正前の「5%」は為替リスクを含んだもの、
改正後の「1%」は為替リスクを含まないもので、
為替リスクは別途に反映するようになりました。

合わせて為替ヘッジの反映方法も見直され、
改正前に見られたヘッジ効果の過大反映が
改正により解消されました。

つまり、規制としては厳しくなったのですが、
それでも生保各社は長引く低金利のなかで、
海外金利リスクやヘッジコストの変動リスクが
あるのを承知のうえで(だと思います…)で、
外債投資に注力しているという状況です。

※写真は愛宕山のNHK放送博物館です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

InsurTechのイベント

 

4/10(月)の「【緊急開催】 InsurTech Meetup」
というイベントに出席したところ、日本の現状は
「まだスタートラインにも立っていない」という、
かなりお寒い状況にあるとのことでした。

イベントは、弁護士の増島雅和さんの講演と、
原健一郎さん(DCM Ventures Investment)
佐俣アンリさん(ANRI GeneralPartner)、そして
増島さんによるパネルディスカッションがあり、
最後にネットワーキング(懇親会)というもの。

増島さんの講演も、パネルディスカッションも
非常に興味深い内容でした。

例えば増島さんによると、しばしば耳にする
次のような話は「間違った理解」だそうです。

・保険の規制は厳しく、従前の業界慣行を
 踏まえると、日本には海外のInsurTechの
 ビジネスモデルは入ってこれない。

⇒ 規制や業界慣行はInsurTechの流れを
  止めることができない。

・日本企業もテレマティクス保険やウエアラブル
 端末を用いた医療保険の開発に取り組んで
 いるからInsurTechに遅れていない。

⇒ InsurTechを進めるにはオープンイノベー
  ションが不可欠。

・海外のInsurTechサービスも大した規模ではなく
 InsurTechはニッチサービスに過ぎない。

⇒ 現在のInsurTechは、第四次産業革命による
  保険の革新に突入する準備フェーズ。

資料には「なぜ間違っているのか」という説明も
ありますので、こちらのサイトをご覧ください
(ご本人に確認済です)。

特に2つめの指摘は、目からウロコというか、
私見ですが、日本でInsurTechが遅れている
という最大の理由なのかもしれません。

増島さんは資料のなかで、

・ディスラプティブ(破壊的)イノベーションは
 狙ってできるものではなく、試行錯誤の中から
 しか生まれない

・イノベーションの成功確率を高めるには、
 最小コストでうまくいかない例を可能な限り
 多く試すこと

と述べているのですが、他方で日本企業には
「失敗を許さない文化」「大きな経営判断ミスより
粒々の損失を責められる」などが目立ちます。

だからこそスタートアップとの協業ということかと
思いますが、せっかく協業しても、この文化の
違いをちゃんと理解したうえで進めていかないと、
イノベーションは生まれないのでしょう。

InsurTechというと、AIやビッグデータの活用など
テクノロジーの進化に注目が集まっています。
でも、本質はそこではないのですね。

※左は中目黒駅のホームから撮った写真。
 右は浜離宮の菜の花です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生涯未婚率の上昇

 

4月3日に国立社会保障・人口問題研究所が
2017年版の「人口統計資料集」を公表し、
そのなかで2015年の国勢調査をもとにした
生涯未婚率の上昇が話題となりました。
人口統計資料集のサイトへ

生涯未婚率は50歳で結婚経験がない人の
割合を生涯未婚として計算しています
(正確には45~49歳と50~54歳の平均値)。

近年の推移は次のとおりです。

     2005年  2010年  2015年
男性  15.96%  20.14%  23.37%
女性   7.25%  10.61%  14.06%

日本では嫡出でない子(婚外子)の割合
2%程度で低位安定しているので、
未婚率が高まると少子化が進みます。

他方で核家族のうち「夫婦と子ども」世帯は
この5年間でわずかながら減っていました。
全体に占める割合も26.8%にとどまります
(1990年には37.3%の最大勢力でした)。
いま増えているのは単独世帯です(34.5%)。

さらに、機関誌「人口問題研究」の論文
わが国の結婚と出産の動向」によると、
出産後も就業を継続する女性の割合が
初めて5割を超えたことが示されています。
「人口問題研究」のサイトへ

以上のように、日本の結婚や家族構成に
これだけ大きな変化が生じているのですから、
かつてのような規模で遺族のための保障
(死亡保障)が売れるわけはありません。

ただ、生涯未婚率が高まると、例えばですが
純粋に長生きのリスクだけを保障する保険商品
(遺族がいなければ死亡保障は不要でしょう)
があれば、貯蓄と社会保険だけで備えるよりも
無駄なく対応できそうですね。

※地元・大倉山の桜です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。