海外M&A研究会報告書

経済産業省の「我が国企業による海外M&A研究会」(座長は早大の宮島英昭教授)の報告書が公表されたので、さっそく読んでみました。
報告書の概要と、重要ポイントをまとめた「9つの行動」もあわせて公表されていますが、本文のほうが具体的にいろいろと書いてあり、参考になりそうです。
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以前私は、東洋経済の特集号で保険会社の海外M&Aについて書いた際、M&Aそのものがゴールではなく、1)そもそも海外事業で積極的なリスクテイクを行うという経営判断がいかになされたのか、2)海外大型M&Aの実行、3)買収先をグループのメンバーとしていかに経営体制に組み込むか、の3つの局面について述べました。
この報告書でもM&Aの実行局面のみならず、「前」と「後」の重要性を踏まえ、「海外M&A成功に向けた3つの要素」として次の3つに整理して説明しています。

・M&A戦略ストーリーの構想力
・海外M&Aの実行力
・グローバル経営力

日本企業による海外M&Aの特徴

日本企業による海外M&Aを扱った報告書なので、日本企業を意識した記述をいくつかご紹介しましょう。

「いきなり大きな案件や複雑な案件に取り組むのではなく、ある程度小型の案件で自社の海外M&Aの経験値を高めてから、より複雑な大規模案件に取り組むという戦略的アプローチを意識的に実行している海外企業は多い」(p.18)

「特に投資銀行等の外部からの持込案件については、戦略より案件が先行し、準備期間が短く、結果として買収前の想定と、買収後明らかになった実態との乖離が大きいケースがある」(p.27)

⇒ 日本企業は身の丈に合った海外M&Aではなく、特に外部からの持込案件などで、対応可能範囲を超えたリスクを伴う案件や、買収金額が高すぎる案件に乗り出してしまう可能性が高いということかもしれません。

「日本企業の中には、交渉の場に大勢の関係者が参加するが、結局意思決定を行える者が誰なのかよくわからないケースや、交渉の場で提起された論点についてその場で決定せず持ち帰るケースがある。こうしたケースでは、売り手からすると意思決定者が誰かわからず、疑念が増し、信頼感を損なうことが懸念される。さらに最悪のケースは、条件交渉をFAや投資銀行の担当者に全て任せてしまうことである」(p.50)

⇒ 実感としてはケースバイケースのように思いますが、このような事例も多いのかもしれませんね。

「日本企業では『飲み会』や企業をあげた地域行事への参加など、業務時間外で従業員同士が集まる機会も多いことから、企業の価値観や風土融合を重視するのは日本企業の特徴と思われがちであるかもしれない。しかし、欧米企業でもPMIにおけるチームビルディングを通じて信頼関係を構築する取組みが行われており、また日本企業が欧米企業を買収する場合にも風土融合の施策に積極的であるという事例もみられた」(p.66)

⇒ 企業の価値観や風土融合を重視するのは日本企業だけの特徴ではないという指摘は、当然と言えば当然ですが、興味深いです。

「日本企業は、欧米の買収者に比べ相手企業の既存経営陣への依存度が高く、買収後も経営陣が買収前に有していた権限を害しないように独立した会社として運営する傾向が強いという指摘がある。しかし、経営ビジョンや価値観を共有できない場合や買収先のさらなる成長を目指すうえで経営者として実力や倫理観が不足と判断される場合には、躊躇なく買収前の経営陣を交代させることも必要である」
「企業価値を創出するのは買収者であり、買収者たる企業自身で主体的に買収プレミアムの回収を可能とする業績向上策に取り組むべきものであり、買収先の経営陣にその全てを任せていても、買収プレミアムの回収は担保されない」(p.68)

⇒ 「企業価値を創出するのは買収者」というのは重要な指摘ですね。

「海外M&A は買い手にとっても変革を実現する絶好の機会でもあり、海外M&A によって自身をグローバル化していくことも海外M&A の成果の一つである」
「欧米企業は、リスクは顕在化した時点で対応すればよいという姿勢である一方で、まだまだ日本企業はリスクを過度に回避しようとする傾向が強いとされる。過度のリスク回避、慎重さは、成長阻害要因であり、可能な限りの準備をして実施し、リスクが顕在化したらそれに全力で当たるという姿勢が重要ではないだろうか」(p.87)

⇒ M&Aにかぎらず、リスクテイクを促すのであれば、失敗に寛容な企業文化や社会風土(メディアを含む)が必要ですね。

ヒアリング協力企業の顔ぶれを見ると、金融・保険業は含まれていませんでしたが、実際の体験を踏まえた記述も多く、参考になると思います。

<ヒアリング協力企業>
 旭化成、亀田製菓、関西ペイント、グローリー、小松製作所、サトーホールディングス、サントリーホールディングス、ダイキン工業、電通、ニコン、日本板硝子、日本たばこ産業、日本電産、日本電信電話、日立製作所、ボッシュ パッケージング テクノロジー、丸紅、リクルートホールディングス

※写真は浜離宮です。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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