格付情報の活用

かつての生保危機の時代に比べると、保険会社の格付が注目されることは少なくなりました。
それでも格付会社の出す情報は、ディスクロージャー誌やIR資料とともに、保険会社の経営内容をつかむうえで貴重な情報源です。

格付会社の出す情報は格付符号だけではありません。例えば私が以前所属していた格付投資情報センター(R&I)の場合、原則として1年に1回は格付を見直し、格付に変化がなくてもコメントを発表しています。
R&Iのサイトへ

R&Iは2月21日に大手生保グループ4社(日本、第一、住友、明治安田)の格付を維持したと公表しました。
4社ともAAゾーンという高い格付ですが、リスク耐久力に対する次のような共通したコメントに注目しました。

「2019年度はグローバルに金利低下が進行し、ALM(資産・負債の総合管理)リスクが大きい大手生保の経営への逆風は強まっている。国内の超長期金利は8月から9月にかけて2016年6月末以来の水準まで切り下がり、〇〇生命グループの経済価値ベースのリスク耐久力は格付対比で見劣りする状態まで悪化したとR&Iでは考えている」

その後、金利が若干ながら持ち直し、リスク耐久力もやや回復したため、現時点で格付の見直しを行わなかったということですが、R&Iは金利の影響をかなり気にしていることがうかがえます。

公表文を細かく見ると、リスク耐久力の評価に違いがあることも見えてきます。

<日本生命グループ(AA)>
「資産運用リスクの削減に取り組んでいるものの、収益確保の観点から大幅な削減は進められていない。株式リスクも大きく、リスク耐久力は金融・資本市場の変動の影響を受けやすいことからAAゾーン下位と評価している」

<第一生命グループ(AA-)>
「(自己資本の拡充やリスクコントロールなど)これらを勘案すればグループのリスク耐久力はAAゾーンに見合う水準を維持できるとみている」

<住友生命グループ(AA-)>
「(前略)株式など価格変動リスクの保有は大手生保の中でも低く、ALMリスクをコントロールしている。グループのリスク耐久力の安定性は相対的に高く、格付に見合う水準を維持できるとR&Iはみている」

<明治安田生命(AA-)>
「資本の充実度を背景にリスクを取って利回り確保に取り組んでおり、株式リスクなど資産運用リスクの削減はあまり進んでいない。経済価値ベースでみると金利低下の影響が上回り、EV(エンベディッド・バリュー)は減少傾向にある。リスク耐久力はAAゾーン下位と評価している」

保険会社の格付情報がメディアで取り上げられることは滅多にありませんが、生保の経営内容に関心のあるかたは、時々格付会社のサイトをチェックしてみてはいかがでしょうか
(ただし、S&Pとムーディーズは無料で得られる情報は限定されています)。

※エール交換だそうです

 

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アルコール離れ

ニッセイ基礎研究所の久我尚子さんによるレポート「さらに進んだ若者のアルコール離れ」をきっかけに、若者および中高年のアルコール離れが話題になっています。
若者のほうは、飲酒習慣率が下がったということだけでなく、飲めるけど、あえて飲まない「ソーバーキュリアス」が20代の約4分の1を占めているとのこと。ソーバーキュリアス(Sober Curious)とは初めて耳にしましたが、飲まないのがクールという風潮なのでしょう。

せっかくなので、飲酒習慣率(飲酒習慣者の割合)のデータを厚生労働省「国民健康・栄養調査」で確認してみました。
この調査では、週に3回以上飲酒し、飲酒日1日あたり1合以上を飲酒するという回答を飲酒習慣者としています(日本酒1合はビール500ml、ワイン1/4本)。私は毎日は飲みませんが、この定義だと飲酒習慣者です。

まず、飲酒習慣者の割合は男女で大きな差があります。2017年の結果では、男性33.1%に対し、女性8.3%でした。
ただし、かつてに比べ、その差はかなり縮まってきました。男性の飲酒習慣率が下がる一方、女性はどちらかといえば上昇傾向にあるためです。

久我さんは1997年と2017年のデータを比べていて、確かに男性はどの年代でも飲酒習慣者の割合が減っています。
私の世代(50代男性)の2017年の飲酒習慣率は43.8%ですが、20年前の50代男性は61.2%も飲酒習慣者がいたのですね。ついでに言えば、喫煙習慣のある人も6割近かったようで、確かに当時の飲み会はたいてい煙くて嫌でした。

さらに、この20年間を前半の10年間(1997年から2007年)と後半の10年間(2007年から2017年)に分けて比べてみました。すると、30代と40代は継続的に比率が低下しているのに対し、20代および50代以上は前半の10年間のみ下がっています。
飲酒習慣率は30代あたりで高まります。2017年の40代は2007年の30代、1997年の20代に相当するので、それまでの世代とちがい、1997年の20代からは年齢を重ねても飲酒習慣がつきにくくなったと言えそうです。健康志向や職場の飲み会の減少といった世代に共通した理由のほか、雇用環境などこの世代以降に特有の理由があるのかもしれません。

※地元・大倉山の梅祭りです。

 

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地域金融機関の経営統合

2月7日に金融庁は地域金融機関の経営とガバナンスの向上に資する主要論点(コア・イシュー)を公表しました(3月9日までパブコメ受付中)。

「あくまで経営トップや取締役会等が自らの経営やガバナンスの現状を振り返るに当たって、参考として活用されることを目的とするもの」
「金融庁のモニタリングにおいて、本文書を一つの解を前提にチェックリストとして用いるものではなく、いわゆる『コンプライ・オア・エクスプレイン』を求めるものではない」

と明記されていますが、これまでの地域金融機関の動きの鈍さや危機意識の低さに金融庁は業を煮やしているのでしょう。

ところでクイズです。次の銀行持株会社の傘下にある銀行はどこでしょうか?

1.じもとホールディングス
2.めぶきフィナンシャルグループ
3.三十三フィナンシャルグループ
4.西日本フィナンシャルホールディングス
5.九州フィナンシャルグループ

すべて答えられたら、かなりの地銀通ですね♪

金融庁の遠藤長官は昨年末の共同通信のインタビューで、「地方銀行が地域の企業や経済を支える存在であり続けるための手段として有効ならば、他行との経営統合や合併、資本業務提携を進めるべきだ」と述べたそうです。ただし長官は、「金融庁が促しているのは健全性の確保であって再編ではない。統合や合併はそれぞれの経営判断だ」とも語っています。
合併してもビジネスモデルが変わらなければ時間稼ぎにしかなりませんし、持株会社方式の経営統合の場合は、時間稼ぎにもならないかもしれません。

週刊金融財政事情の2月10日号のコラム「支店長室のウラオモテ」にこんなコメントが載っていました。

「本部機能の一部を統合したところで、審査や人事機能が各行ごとのままであれば、行員の行動様式はまったく変わらない」
「(システムの一本化について)それぞれのシステム部門がベンダーの後ろ盾を得て優位性を主張しており、今後も全く話が進みそうにない。そうこうしているうちに、銀行の稼ぐ力は大幅に落ちてしまった。メンツ争いをしている時間的余裕はもうないはず」

金融庁が過剰介入の批判を覚悟して(?)地域金融機関の経営に関わろうとする気持ちもわかります。

<地銀を中核とした銀行持株会社>
・フィデアホールディングス(荘内銀行、北都銀行)
・じもとホールディングス(きらやか銀行:山形しあわせ銀行と殖産銀行が合併、仙台銀行)
・第四北越フィナンシャルグループ(第四銀行、北越銀行)
・めぶきフィナンシャルグループ(常陽銀行、足利銀行) 
・東京きらぼしフィナンシャルグループ(きらぼし銀行:東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京が合併)
・コンコルディア・フィナンシャルグループ(横浜銀行、東日本銀行)
・三十三フィナンシャルグループ(三重銀行、第三銀行)
・ほくほくフィナンシャルグループ(北陸銀行、北海道銀行)
・池田泉州ホールディングス(池田泉州銀行:池田銀行と泉州銀行が合併)
・関西みらいフィナンシャルグループ(関西みらい銀行:関西アーバン銀行と近畿大阪銀行が合併、みなと銀行)
・山口フィナンシャルグループ(山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行)
・トモニホールディングス(香川銀行、徳島大正銀行:徳島銀行と大正銀行が合併)
・ふくおかフィナンシャルグループ(福岡銀行、熊本銀行、親和銀行、十八銀行)
・西日本フィナンシャルホールディングス(西日本シティ銀行:西日本銀行と福岡シティ銀行が合併、長崎銀行)
・九州フィナンシャルグループ(肥後銀行、鹿児島銀行)

 

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国がちがえば主力商品もちがう

inswatch Vol.1019(2020.2.10)に寄稿した記事をご紹介します。
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ドイツ生保市場の変化

保険の国際的な規制を決めるIAIS(保険監督者国際機構)で2017年まで事務局長を務めた河合美宏さんが最近、日本経済新聞(電子版)へ寄稿した文章のなかで、ドイツでは低金利と新たな健全性規制への対応として、生保業界の主力商品が変化したという紹介がありました。
伝統的な利率保証のある長期の貯蓄性商品(養老保険や個人年金保険)から、利率保証が限定(既払い保険料のみ保証)される一方で、伝統的な商品よりも高いリターンが期待できる「ハイブリッド年金保険」という投資性商品にシフトしたというのですね。

主力は個人年金

ドイツ生保の商品構成については、金融庁の「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」第3回の資料に掲載されています。
資料によると、ドイツ生保は定期保険や就業不能保険などの保障性商品も取り扱っているものの、個人年金のように老後に備えた貯蓄性商品を中心に提供していることがわかります。ユニットリンク型(変額型)は意外に普及しておらず、その点は日本と共通しているようです。

これに対し、日本で個人年金保険は生保の主力と言えるほど提供されていません。例えば、2018年度の個人分野の新契約年換算保険料(約3兆円)のうち、個人年金保険は17%(0.5兆円)を占めるにすぎません。新契約件数では、個人分野に占める割合は6%まで下がります。
保険料収入や新契約件数などを総合的にみて、日本の生保市場は死亡保障や生前給付保障、医療保障といった保障性商品が中心と言えるでしょう。

生保市場は地域性が強い

ドイツ以外の国でも、生保といえば貯蓄性商品(または投資性商品)というところは多いようです。
例えば、イギリスで生命保険といえば一時払いの個人年金保険ですし、最低保証のない変額タイプの商品や実績配当型の商品が多くなっています。年金開始前(ペンション)と開始後(アニュイティ)で商品が分かれているのも特徴です。米国も保険料収入で見れば個人年金保険の割合が大きく、大手生保グループの多くは自らを金融サービス事業者と規定しています(他方で米国では健康保険を民間保険会社が提供)。

生保市場は地域性が強く、国や地域によって特性がかなり異なっています(これは販売チャネルについても言えることです)。主力商品をちょっと比べただけでも、同じ「生命保険」「生命保険会社」とはいえ、日本の常識が世界でも同じとは限らないことがよくわかります。
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※大人の修学旅行 in 歌舞伎町。
 由緒あるバーにおじゃましました。

 

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新資本規制とランオフ

有識者会議メンバーが寄稿

国際資本規制、生保『2025年の崖』(有料会員限定)」という記事をご覧になったでしょうか。IAIS(保険監督者国際機構)で事務局長として保険の国際資本規制に長く関わってきた河合美宏さんが書いたものです。
河合さんは金融庁の有識者会議(経済価値ベースのソルベンシー規制見直しに関するもの)のメンバーでもあります。

例えば、次のようなことが書いてあります。

「世界的な金融危機の火種を消そうと健全性確保を強める規制強化で、25年がマイナスの影響に傾いていく『崖』と映るかもしれない。しかし、この新規制は国際競争力を備える契機となる『登山道の入り口』と考えた方がよい。チャンスと捉え、積極的に前向きに準備を急ぐべきだと筆者は考えている」

「国際新規制をいち早く受け入れれば、健全性をタイムリーに把握するだけでなく、自社を客観的に分析でき、不採算事業を整合的に整理することにもつながる。世界的な競争の中で、日本の生保が国際競争力を身につける絶好のチャンスだ」

新資本規制が社会との摩擦を招く?

私が気になったのは河合さんの書いた文章ではなく、これを受けた「編集者から」のコメントです。
この匿名の編集者は、日本で新資本規制を導入した場合、新しい規制に乗り遅れた劣後する生命保険会社が「禁断の領域(=ランオフの実施)」に入るか注目しているそうです。保険契約を一方的に第三者に譲渡することに日本の顧客は抵抗が強く、「新規制は生保が国際競争力を高める好機となる一方で、社会との摩擦が起きそうな予感がする」とのこと。

確かに、現行よりも経営実態を示すであろう新規制のもとでは、早期に退出する会社が出てくるかもしれません。
でも、これは「意図せざる影響」というよりは、むしろ意図どおりの影響です。過去の生保破綻では、健全性に問題があったにもかかわらず、規制をクリアしていたため、結果的に対応が遅れたというケースが多く見られました。日本のソルベンシー規制の見直しはこうした過去の反省に立って行われています。
規制の目的は国際競争力を高めるためではなく、河合さんもそうは書いていません。

ランオフが禁断の領域というのもどうかと思います。
例えば、リーマンショックの後、銀行向け貯蓄性商品を提供していたハートフォード生命や東京海上日動フィナンシャル生命などが新契約の募集を停止し、既契約の維持管理会社となったという事例があります。
その後両社はそれぞれオリックス生命、東京海上日動あんしん生命に吸収されました。顧客の心理的な抵抗はあったかもしれませんが、破綻したわけではなく、もちろん契約条件は元のままです。経営が破綻し、将来受け取れるはずだった保険金額がカットされるような話とはまるで違います。

「資金繰りに窮したり、新規事業へ資源を集中したりする際、国際資本規制下では経済合理的な判断として、事業の選別を強化する方向に傾くとみている」というのも考えてみればおかしな話です。
こうした経営判断は規制の有無にかかわらず行われるものですし、事業の選別はむしろ低金利や高齢化といった外部環境の変化を踏まえ、経営としてどこでリスクをとっていくかという意思(リスクアペタイト)によるところが大きいのではないでしょうか。

そもそも検討されている規制は事業の制約を設けるものではなく、見えにくかったものを見えやすくする規制なので、新たな規制の下でできない事業があるとすると、今でも本当はできないはずなのに、無理をしているということになりますね。

河合さんの文章の後にこうした「解説」を載せるのは、何かの意図があるのでしょうか?

※写真は仙台です。

 

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わりかん保険

日本でもP2P保険がデビュー

インシュアテックのスタートアップ企業であるjustInCase(ジャストインケース)が28日に「わりかん保険」の取り扱いを始めました。
日本初のP2P保険ということで、IT技術を利用した助け合いの実現と、保険料が後払い(かつ低廉)なのが従来の保険にはない特徴です。
政府のサンドボックス制度を活用した実証実験の案件でもあります。

相互宝の加入者は1億人

P2P保険は日本では初めての試みですが、中国には「相互宝」などの成功事例があり、ジャストインケースも参考にしたそうです。
相互宝はアリババグループ傘下のアント・フィナンシャルが運営するP2P保険で、がんを含む重大疾病保障を提供しています。アリペイ(スマホ決済)で加入を受け付けたところ、サービスを始めてからわずか1年間で加入者数が1億人を超えました。
(ちなみにライバルのテンセントは「水滴互助」というP2P保険を提供しており、こちらも加入者が8000万人に達しているそうです)。

若年層に受け入れられるか

「相互宝」が短期間にこれだけ多くの加入者を獲得したのは、アリペイという中国で最も普及した決済プラットフォームを活用したサービスだからでしょう。相互宝では加入手続きも保険料の支払いも給付金の受け取りも、すべてアリババ経済圏のプラットフォームで完結します。
ジャストインケースはこうしたプラットフォームを持たない代わりに、提携企業の力を借りることで加入者を集めようとしています。まずはこの1年間が勝負なのでしょうね。

「相互宝」の存在意義は、会員向けに安い保障を提供している点だけでなく、これまで保険加入機会がなかった層(農村や地方都市に住む層)に保障を提供しているところです。
ジャストインケースの価格設定をみると、やはり保険加入機会に乏しい若年層を取り込もうとしているように見えます。
確かに、助け合いを感じられる仕組みや運営の透明さは、今の20代、30代にフィットしているようです。今の若い人たちは、「がんになった加入者がいなかったので、保険料がゼロ円だった」よりも、「がんになった加入者が○人いたので、保険料をみんなで××円ずつシェアした」という体験のほうに価値を感じるかもしれませんね。

※梅が咲いていました。大倉山公園です。

 

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自賠責保険の値下げ

先週、自賠責保険の料率引き下げについて某テレビ局から取材の打診があったのですが、あえなくキャンセルとなってしまいました
(取材を受けたのに使われなかったという話ではありません)。
せっかくなので、備忘録としてここでも少し書いておこうかと思います。

基準料率を16.4%引き下げ

自賠責保険の基準料率は4月から16.4%下がることになりました。報道によると、平均して年2000円程度の値下げとなるそうです。

内訳は次のとおり。
 <純保険料>
 水準是正による改定:△8.5%
 滞留資金活用による改定:△14.1%
 <付加保険料>
 社費(人件費、物件費など):△1.7%
 代理店手数料:+3.8%

詳しくはこちら(自賠責保険審議会)をご覧ください。

自賠責は値下げ、任意は値上げ

自賠責保険の料率が下がる一方で、任意の自動車保険の料率は上昇傾向にあります。
23日の日経には、「損保大手4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン日本興亜、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)の任意加入の自動車保険料は1月に約3%の水準で引き上げられた」とありました。

同じ自動車保険なのに、どうして反対の動きなのかというと、補償内容がちがうからですね。
自賠責保険は対人賠償責任(死亡と傷害)のみ補償するのに対し、任意の自動車保険は対人賠償のほか、対物賠償、人身傷害・搭乗者傷害、車両の損害と広くカバーします。

2017年度に支払われた任意保険の保険金のうち、対人賠償は19%にすぎず、対物賠償と車両保険で全体の70%を占めていました。
損害保険料率算出機構によると、対物賠償の保険金の約5割、車両保険の保険金の約8割が修理費とのこと。最近の自動車には安全装置など高価な部品が増えているので、死亡事故は減っているのですが、支払い1件あたりの修理費は増加傾向が続き、これが任意保険の料率に影響しています。

昨年10月の消費増税も任意保険の料率引き上げ要因です。
保険料に消費税はかかりませんが、修理費には消費税がかかるので、増税分を値上げしなければ、保険会社の負担がかさんでしまいます。

人口減の影響はこれから

こうしてみると、当面は任意保険の料率引き下げは考えにくそうですが、人口動態を踏まえると、これまで概ね横ばいだった契約台数が減少基調に向かい、収入保険料の増加は徐々に厳しくなると見られます。
これまでの10年間は、総人口が2008年をピークに減少に転じたとはいえ、自動車保険の加入対象である18歳以上の人口は増加基調でした。しかし、今後は減少に転じますし、増えるのは75歳以上人口なので、車を運転できなくなる人も増えていきます。

しかも、1世帯あたりの保有台数の伸びはすでに止まっています。「一家に一台から一人一台へ」という流れは2007年ころまでの話であって、この10年間は世帯当たりの台数が横ばいのまま、軽自動車へのシフトが続いています。

企業向け自動車保険は人口動態よりも景気動向に左右されますが、個人向けに関しては厳しいマクロ環境が見込まれます。

※写真は日産スタジアムです。

 

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井の中の蛙にならないために

インシュアランス生保版(2020年1月号第2集)にコラムを執筆しました。
なぜ私が旅に出るのかを説明しているようにも読めますね。
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給与水準は東京を上回る

12月中旬の日経新聞の特集記事『安いニッポン』のなかで、データサイエンティストやサイバーセキュリティー・コンサルタントといった専門職の最高給与額を比べた図表があり、いずれも中国が日本を上回っていた。
同じような話を11月に訪れた中国・深圳(しんせん)でも聞いた。すでに中国ではエンジニアの給与が東京と同じ水準であり、BATと呼ばれる中国3大ネット企業(バイドゥ、アリババ、テンセント)ともなると、東京を上回る給与水準とのことだった。

チャイニーズドリームを目指す

実際に深圳の町をまわると、ひと昔前(といっても5年程度だが)の中国のイメージはどこかに吹き飛んでしまう。世界の工場、すなわち、政府が大企業を誘致し、安い賃金を武器に製造業の拠点となっていた時代はとうに終わり、今の深圳は「世界のイノベーションの拠点」である。政府や大手IT企業が起業家向けに大規模なインキュベーション施設(低賃料のスペースやマーケティング支援などを提供するところ)を用意し、中国全土からチャイニーズドリームを目指す若い人材が次々に集まってくる。人口は約1300万人と、隣接する香港(約750万人)をはるかに上回る。ちなみに住民のほとんどが町の外から来た人たちなので、この地域の言語である広東語よりも普通語(標準語)が幅を利かしており、料理についても「深圳料理」というものは存在しないそうだ。

中国では、政府が経済を強力に引っ張る姿を想像しがちだが、今の深圳の発展は、中国情報の提供を専門とするhoppin滝沢氏いわく、「ボトムアップのイノベーション」によるものだ。共産党との関係など中国ならではの事情も見え隠れするとはいえ、起業家を動かしているのは「ビジネスで世の中をよくしたい」、あるいは「成功したい」という、資本主義のマインドそのものである。

模倣からオリジナルへ

また、中国というと、「ニセモノ」「パクリ」というイメージを持つ人も多いだろう。しかし、このイメージも過去のものとなりつつある。深圳には今でも偽ブランド品を大々的に提供するショッピングビルがあるが、全体としてはすでにオリジナルで勝負する段階に入っている。
例えば、最近日本市場に参入した小米(シャオミ)は出荷台数で世界第4位のスマホメーカーだが、深圳のショップ「小米之家」にはスマホに加え、スタイリッシュなデザインのハイテク家電や生活雑貨が並び、しかも安い。テンセントが展開するオン・オフ融合のスーパー「超級物種」ではレジで並ぶ必要がなく、スマホでその場で決済できるうえ、品揃えは日本の成城石井のような高級感を醸し出していた(この分野ではアリババが先行)。
いずれにしても、ハイテクで便利というだけでなく、オシャレなのだ。

私たちはどこかで「日本が世界で1番」と考えているところがあり、確かに水準の高さは否定しない。ただ、それが本当なのか、自分の眼で確かめることをおすすめしたい。
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企業向け損害保険

開示情報が少ない

15日付の日経朝刊に載った3メガ損保グループのトップインタビュー(有料会員限定)を読むと、3人のうち2人が企業向け保険の料率が低いことを示唆するコメントをしていました。

柄沢社長(MS&AD HD)「火災保険は老朽化が問題で、インフラを更新したところは保険料を下げていく。(中略)企業の防災体制によっては大幅な値上げが必要になる」

桜田社長(SOMPO HD)「日本の企業保険は世界的にみて保険料が競争的すぎる。背景には、様々な保険の損益を顧客ごとに合算している面がある」

同じ火災保険でも、個人向けと企業向けではリスク特性が異なりますので、それぞれを分析したいのですが、残念ながら情報開示が非常に少なく、企業向けの保険料が競争的と言われても、確認するすべがないというのが現状です。
ディスクロージャー誌でわかる企業向け保険の情報は、賠償責任保険(収支やロストライアングルを開示)くらいではないでしょうか。

算出機構のデータ

業界全体の火災保険については、損害保険料率算出機構の火災保険・地震保険の概況に新契約の件数と保険料が出ているので、一般物件および工場物件の過去8年分の推移を確認してみました。

これによると、新契約件数が2012年度から2015年度あたりまで年々増加し、単価(保険料÷件数)も上昇傾向だったことがわかりました。2011年に東日本大震災やタイ大洪水があり、その後、保険を購入する企業が増え、料率も引き上げやすかったのかもしれません。
もっと過去にさかのぼりたいのですが、残念ながら算出機構のサイトで確認できたのは過去8年分だけでした。

スイス再保険のレポート

企業向け損害保険に関する情報を探していたら、スイス再保険の「日本の企業向け保険市場(PDF)」というレポートを見つけました。

これによると、日本の企業保険の元受保険料は4.5兆円で、日本の損保市場の48%を占めているとのこと。48%はやや高いような気もしますが、そこはスイス再保険の知見なのでしょう。

2017年度は企業保険の約4割(40.2%)を自動車保険(自賠責を含む)が占め、賠償責任保険(19.6%)、企業向け財物保険(18.4%)と続きます。
市場の特徴としては、「自然災害へのエクスポージャーが高い」「保険付保が不十分な日本企業が多く、とりわけ事業中断リスクへの備えが不足している」「多くの日本企業では、リスク軽減を目的とするリスク評価と対策のベストプラクティスを構築できていない」などとありました。

※今年も香川のお雑煮をいただきました。
 白味噌にあんこ入りのお餅です。

 

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保険会社は契約者に何を提供しているのか

inswatch Vol.1014(2020.1.6)に寄稿した記事をご紹介します。
現場のかたを念頭に、保険会社が経済的にみて何を提供しているのかという話を書いたのですが、ご理解いただけたでしょうか?
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将来のキャッシュフローを提供

新年ということもあり、今回はそもそも保険とは何かについて、改めて考えてみたいと思います。

読者の皆さんは保険流通に関わっているかたが多いでしょうから、保険会社が契約者に何を提供しているのかと聞かれると、「安心」「万一への備え」あるいは「愛情」といった答えが返ってきそうです。それはその通りなのですが、もう少し本質的に考えてみると、「キャッシュフロー」という言葉が浮上します。
保険会社は契約者から保険料を受け取り、将来、死亡や事故などのイベントが発生したら、契約者との間で予め決めておいた保険金額(査定による決定額を含む)を支払います。つまり、保険会社は契約者から取得したキャッシュフローをもとに、将来のキャッシュフローを提供しているのです。これは生保でも損保でも同じです。

生保と損保の経営リスクの違い

ただし、生保と損保では一般に契約期間が異なります。生保の契約期間は非常に長く、キャッシュフローの提供がかなり先になることが多いので、保険会社の経営リスクとして最も重要なのは、この間に経済環境や金融市場が大きく変動することです。死亡率や疾病の発生率もそれなりに変化するとはいえ、損保に比べれば限られています。
他方で、損保の契約期間は1年であることが多く、キャッシュフローを提供するまでの期間は短いのですが、事故の内容によって保険金の支払額が大きく変動するため、保険引受リスクの管理が重要となります。

原材料を仕入れる前に価格が上昇

保険が通常の商品と違うのは、原材料を仕入れなくても商品を提供できてしまうところです。
それでも損保の場合には、前述のように保険引受リスクの管理が重要なので、企業物件を中心に、保険会社が引き受け可能と判断した範囲内で保険を提供するのが以前から一般的な実務となってきました。

ところが生保の場合には、原材料を仕入れずに商品を大量に提供してしまったため、後になって困るということが起きています。

保険会社が将来のキャッシュフローを提供するためには、原材料として金融市場からキャッシュフローを仕入れてこなければなりません。原材料の価格は金利水準によって変わり、金利が上がると原材料が安くなり、金利が下がると原材料の価格が上がります(公社債の価格をイメージしていただければいいと思います)。
それを、「今は原材料価格が高いから、後で調達しよう」「そもそも日本では原材料を仕入れるのが難しい」などと後回しにしていたら、金利水準が一段と下がってしまい、仕入れる前に原材料の価格が上がってしまいました。これが今の生保が直面している現状です。

こうした現状は、現在公表されている基礎利益やソルベンシーマージン比率を見てもわかりません。
金融庁が経済価値ベースのソルベンシー規制を導入しようというのは、今の規制や会計の枠組みでは把握できない、保険会社が直面している現状を把握しようという取り組みなのです。
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※私の母が孫娘の着付けをしました。

 

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