保険代理店との対話

金融庁(および財務局)は6月が年度末なので、連日いろいろな公表物が出ています。
保険関係では19日(金)に関東財務局が保険代理店に対するヒアリングの実施結果を公表しています。タイトルは「保険代理店との対話を通じて『見て、聞いて、感じた』こと。」です。

改正保険業法の施行から3年以上が経過したので、保険代理店に対してアンケート調査とヒアリングを実施し、新たな保険募集ルールの定着状況を確認したとのこと。「行政の現場は事務室や会議室だけではない。保険募集の現場を知らずに監督ができるのか?」と考え、対話を実施したそうです(本当にそう書いてあります)。

具体的な記述のなかには、代理店経営に参考になるものもありそうです。

読後感として、あえて辛口のコメントをするとしたら、次の2点でしょうか。
1つは対話を終えて、当局として現状をどう評価し、今後どうしたいのかが、必ずしも明らかになっていない点です。
「多くの気付きや強い感銘を与えてもらえるものであった」とは書いてあるのですが、それでは「保険募集の現場は変わったのか(=新ルールが定着し、意図していた効果を発揮しているか)」という当局の疑問は果たして解消したのでしょうか。

もう1つは、ヒアリングを実施したのは2019年10月から2020年2月というコロナ流行前であっても、その後のコロナ禍で保険代理店の経営環境が大きく変わっているのに、それについては全く触れていない点です。
例えば、「電話募集がメインであったところ、『顧客に顔もみせない営業方針なのか』と苦情を承り、全ての契約者と面談を実施することにした。結果、的確な意向把握等といった業務改善に至っている」という事例をいま紹介されても…とつい思ってしまいます。

3月以降のコロナ禍での新たな知見はなかったのでしょうか。現場ではいろいろなことが起きていると思うのですよね。
オンライン営業を求める代理店と、解禁を渋る保険会社との攻防が各所であったとも聞きますし。

もちろん、保険代理店に対する監督当局の理解が深まるのは非常にいいことなので、この知見を関東財務局(の今の担当者)だけに留めてしまってはもったいないです。金融庁とも連携し、継続して取り組んでいただければと思います。

※写真は福岡市赤煉瓦文化館。日本生命の九州支店だった建物だそうです。

 

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2020年度上期ヒット商品番付

日経MJ(日経流通新聞)では半年ごとに「ヒット商品番付」を発表しています。
「消費動向や世相を踏まえ、売れ行き、開発の着眼点、産業構造や生活者心理に与えた影響などを総合的に判断して作成した」とのことで、日経流通新聞が創刊された1971年から発表されている人気の企画です。

先週発表された2020年上期のヒット商品番付は次のとおりでした(上位のみ)。

<東>
横綱:オンライン生活ツール
大関:応援消費
関脇:無観客ライブ
小結:手渡しなし宅配

<西>
横綱:任天堂「あつまれどうぶつの森」
大関:おうちごはん
関脇:テークアウト
小結:湖池屋「プライドポテト」

一見してコロナ関連が並んでいますね。
個人的には「zoom飲み会」を挙げたいです。福岡にいても東京にいる皆さんと飲み会ができるというのは画期的でした。

ところで、昨年12月に発表された2019年の番付上位は次のとおりでした。

<東>
横綱:ラグビーW杯
大関:令和
関脇:天気の子
小結:ウーバーイーツ

<西>
横綱:キャッシュレス
大関:タピオカ
関脇:サントリー「こだわり酒場のレモンサワー」
小結:任天堂「ニンテンドースイッチライト」

遠い昔のように感じると思いきや、「ウーバーイーツ」「キャッシュレス」「ニンテンドースイッチ」ですか。
コロナ禍で生活様式が変わる前からこれらはヒットしていたのですね。

 

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コロナ禍での生保販売動向

inswatch Vol.1036(2020.6.8)に寄稿した記事のご紹介です。
3社の決算は本日(6月10日)もまだ発表されていません。

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2019年度決算はまだ出そろっていません(6月5日時点でアクサ生命、エヌエヌ生命、メットライフ生命などが未公表)が、公表された会社のデータを使い、新型コロナの影響が出始めた1-3月期の各社販売動向を確認してみました。

保険料収入は既契約の影響が大きい

メディアでは生保決算について「保険料等収入」「基礎利益」の動きを説明するものが多く、私は毎度のように「保険料等収入は売上高には当たらない」「基礎利益は本業の儲けを示していない」と指摘しています。決算データから何を知りたいのかという視点が抜け落ちていて、定例の作業となってしまっているのでしょう。
その点、今回の日経新聞の生保決算報道は、保険料等収入とともに新契約年換算保険料を載せ(6月3日付)、基礎利益だけでなく最終利益の推移を示す(5月29日付)など、定型パターンではなくてよかったと思います。

例えば1-3月期のデータを見ると、営業自粛が続くかんぽ生命の保険料収入は前年同期比で25%の減少と、それほど落ち込んでいるようには見えません。しかし、新契約年換算保険料は前年同期の1%以下の水準です。かんぽ生命の販売の現状を示しているのはどちらでしょうか。
第一フロンティア生命のように、一時払いの貯蓄性商品を主力としている会社では、保険料収入と新契約年換算保険料が同じような動きをします。逆に言えば、保険料収入は貯蓄性商品(特に一時払い)の販売動向に大きく左右されるということで、これを事業会社の売上高になぞらえるのは無理があります。

コロナ禍の影響は

政府による緊急事態宣言の発令は4月になってからですが、思い起こせばすでに3月には活動自粛モードが強まっていました。私は2月下旬からテレワークを本格的に始めています。保険の対面販売活動にもかなりの影響があったと考えられます。
とはいえ、1-3月の業績動向を確認しても、新契約がここで大きく落ち込んだという会社はほとんど見られませんでした。前年同期比で年換算保険料や販売件数が2桁のマイナスという会社はいくつも見られます。しかし、多くの場合、1-3月だけでなく、昨年4月からその傾向が続いています。これは経営者保険の販売停止・見直しをはじめ、新型コロナとは別の要因が強く影響していると見るべきでしょう(コロナ禍対応で海外金利が下がり、外貨建て保険が売れなくなったということはありそうです)。

4-6月は対面販売の自粛や停止により、新契約の落ち込みが予想されます。ただ、もしかしたら保険ショップや一般代理店を主力チャネルとする会社に比べ、営業職員を主力とする会社(特に伝統的な国内系生保)の業績はそれほど落ち込まないかもしれません。
というのも、彼らは新契約の大半を既契約市場で獲得しているので、顧客を訪問できない時期が続いても、ベテラン営業職員であればそう簡単に顧客との繋がりがなくなったりはせず、常に見込み客を確保できる状況にあるからです。1-3月の契約動向にもこうしたチャネル特性が反映されているのでしょう。
もちろん、採用活動の難しさなどから、会社全体としては先細りとなる恐れはあります。でも、伝統チャネルの底力を軽視はできないでしょう。

極論すれば、今後はオンラインをフル活用した、新たな時代のビジネスモデルを築いた販売組織か、あるいは、すでに揺るぎのない顧客基盤を築いている募集人でなければ、生き残るのが難しい時代となるのかもしれません。今後の業績データに注目したいと思います。
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※大学近くのラーメン店なので「初心者」が多いのかもしれません

 

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生保決算(1-3月データ)から

2019年度決算では、新型コロナ禍に伴う金融市場の乱高下の影響で、多額の有価証券評価損を計上した国内系生保がいくつかありました。評価損の内訳は「株式等」「外国証券」が大半を占めています。
例によって四半期ごとに分けて見てみると、評価損の計上に合わせるかのように、有価証券売却益が1-3月期になって急増している会社がみられます。

好意的に見れば、価格が下がる前に利益を確定したのかもしれません。しかし、この時期だけ突出して売却益が多く、かつ、比較的動きが小さかった国内債券もそこそこ含まれているとなると、通常の資産運用というよりは、3月決算を意識した利益計上を行ったのではないかと考えてしまいます。
資産運用で積極的にリスクをとるという経営判断は理解できるとしても、決算を作りに行くような行動は、どう理解したらいいのでしょうか。

新型コロナ対応といえば、3月以降、大手生保の契約者貸付が急増しているというニュースがありました(5/24のNHKなど)。
そこで、各社の契約者貸付(保険約款貸付)を確認してみると、大手生保(日本、第一、住友、明治安田)の貸付残高は3か月前と比べてむしろ減っていました。
本格的に増えたのは4月以降なのかもしれませんが、中小企業を顧客基盤とする大同生命では貸付残高が急増していますし、顧客に中小企業のオーナーが多そうなソニー生命やプルデンシャル生命でも、通常よりも増えていますので、顧客基盤のちがいが大きいようです。NHKは取材する相手を間違えたのでは…

1-3月になって解約返戻金が急に増えた会社もありました。第一フロンティア生命とMSプライマリー生命が顕著に増えていて、明治安田生命や住友生命でも増えているので、おそらく銀行で一時払いの貯蓄性保険に加入した人が、何らかの理由で保険を解約したのでしょう。

※アクロス山の登頂に成功しました(笑)

 

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対面販売の自粛を活かす

インシュアランス生保版(2020年5月号第4集)に執筆したコラムです。
東日本大震災の時も感じましたが、非常時には元々抱えていた経営課題も浮き彫りになります。
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非対面販売の活用

新型コロナ対応で保険営業の対面販売の自粛が続くなか、営業職員による訪問販売を主力とする大手生保が、既契約者とその家族に限り、一部の商品について非対面での加入解禁に踏み切るとのこと。代理店に対しても、限定的にではあるが、非対面による加入を認める動きが徐々に広がりつつあるようだ。
対面での営業活動を、オンライン営業を含めた非対面に置き換えるのはそう簡単ではない。zoomなどを使ったオンライン営業であれば、対面とほぼ同じことができるとはいえ、相手のネット環境にも左右されるうえ、長時間になるとリアルな打ち合わせよりも集中力がなくなってしまいがちだ。

しかし、特効薬が登場するまで、ウイルスとの共存を余儀なくされるのであれば、対面販売を再現するという発想ではなく、非対面ならではの販売モデル確立に向けて、いち早く動くべきではないかと考える。
オンライン営業を含めた非対面販売には、移動時間がかからない、証拠を残しやすい、同じ場所に集まらなくても打ち合わせができる、などの特徴がある。消費者としては、これまでは家庭や職場で営業パーソンから一対一で話を聞いていたものが、オンラインであれば他の家族にも打ち合わせに加わってもらいやすくなるし、保険に詳しい知人に同席してもらうのもハードルが低くなる。個人的な感覚かもしれないが、セールスを受けているという圧迫感もオンラインのほうが弱い。

職人芸からの脱却を図る

何よりも、これまで営業パーソンの「職人芸」に頼っていた営業活動を共有化することで、組織としてのマーケティング活動ができることが大きい。とりわけ伝統的な生保の営業職員チャネルでは、そもそも新型コロナ以前からビジネスモデルの賞味期限が取りざたされていた。かつてに比べればやや改善したとはいえ、大量採用・大量脱落の構造は今も残り、顧客開拓からクロージングまで、基本的に個人のスキルにかかっている。
今回の対面販売の自粛がなくても、こうしたモデルの限界は意識されていたことだろう。この機会に、例えばデータサイエンスを全面的に用いるなどして、新しい時代に合った販売モデルを模索すべきである。

保険販売、特に生命保険は訪問販売でなければ売れないという声も根強い。確かに、ニーズが顕在化している自動車保険などに比べると、生命保険(死亡保険)は自らが保険金を受け取ることはなく、遺族保障の必要性を想像してもらわなければならない。各種の保障を組み合わせた商品も多く、業界以外の人は説明を受けても理解するのが難しい(業界人は、例えば携帯電話の説明を受けたときのことを思い出してほしい)。
ただ、せっかく新型コロナ禍で家族のきずなが強まり、保障に対する人々の意識も変化していると思われるのに、一歩踏み出さなければ、みすみすその機会を逃すことになりかねない。もはや危機対応の段階から、新たなビジネスモデルを模索する段階にきているのではないか。
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※写真は福大オリジナルクッキーです

 

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大手損保グループ経営の現状

先週は大手損保グループ各社のIRミーティングがあり、いろいろと気付きがありました
(いずれも対面形式ではなかったので、福岡にいてもアクセスできました)。

まず、損保事業への新型コロナの影響は、国内と海外(欧米)でだいぶ異なっているようです。
東京海上やMS&ADでは、海外事業で数百億円規模の保険金支払いが発生する見込みです。主にイベント中止や事業中断などの保険ではないかと思います(取引信用保険も考えられますね)。
他方で国内では、2期連続で風水災による多額の保険金支払いが発生したものの、新型コロナ絡みの支払いは今のところ目立ちません。いわゆる新種保険の普及は国内ではまだまだということなのでしょう。

再保険市場のハード化もはっきりしました。長い間、保険料率の低下基調が続いていたものが、少し前から上昇基調に転じたようです。
このところ世界的に自然災害が多発し、国内でも1兆円を超える自然災害に伴う保険金支払いが2期連続で発生したうえ、新型コロナ関連の支払いや金融市場の不安定さも加わり、再保険市場はハードマーケットに転じた模様です。
確かに損保各社の出再保険料(火災保険)をみると、各社ともかなりのペースで増えていることがわかります。

もっとも、各社とも政策株式保有を減らしてきているとはいえ、引き続き株価下落がグループにとっての最大リスクか、それに近いということも確認できました(金利リスクも大きいですね)。

※ラタトゥユとカルパッチョを作りました。
 すいかは今季初です。

 

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生保決算の概要

例年とちがい、生保決算はまだ出そろっていませんが、国内系生保に関しては大まかな傾向は見えたのではないかと思います。

まず、資産価格変動の影響です。
一時は株価が大きく値下がりしたものの、結果的に日経平均株価は前年度末から10%程度の下げにとどまりました。それでも株式保有の多い会社では、株価下落で支払余力が圧迫を受けています。
他方で、米国をはじめ海外金利が大きく下がり、こちらは外国公社債の時価を押し上げています(ただし、為替はやや円高なので、影響が相殺されているところもあります)。
これらは損益計算書には部分的にしか出てきませんが、公表されているEV(エンベディッド・バリュー)を見ると、会社価値への影響としては最も大きい要因だったようです。

保険関係では、会社によっては経営者保険の販売停止などにより、新契約価値が影響を受けています。第三分野の新契約年換算保険料が軒並み前年割れとなっているのもちょっと気になります。ただし、新型コロナの影響は、この段階ではほとんど見られません。
なお、大手生保が相次いで投入した健康増進型保険も大ヒットとまではいかなかった模様です。

こうしたことは、保険料等収入と基礎利益だけ追いかけていては、全く見えてきません。
メディアは今回のかんぽ生命(=営業を自粛していた)や大同生命(=経営者保険の販売を停止していた)の基礎利益が増えたのを見て、この指標に何も疑問を感じなかったとしたら、さすがにおかしいと思います。

国内系生保の経営が総じて保険ではなく、資産運用に左右されやすいのは、リスクの取り方がそうなっているからです。
このことについて、第一生命ホールディングスは決算説明会資料(PDF)のなかで、日本の大手生保グループとして初めてグループ統合リスク量の内訳を開示し、金利・株式を中心とした市場関連リスクが全体の7割を占めることを明らかにしました。
同社は金利リスクと株式リスクの削減に取り組み、市場の変動に左右されにくいリスクプロファイルにしていくとのことです。

※自宅からビーチまで歩いて行けました!

 

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日産生命破綻処理に関する覚書き

保険会社の2019年度決算発表が始まりました。
まずは上場生命保険会社グループということで、15日に第一生命ホールディングス、T&Dホールディングス、日本郵政・かんぽ生命の決算発表がありまして、今週は損保決算、(非上場の)生保決算と続きます。

政府の緊急事態宣言が出たのは4月上旬なので、今回の決算発表では対面販売自粛の影響は営業数値にほとんど出てこないのではないかと思います。
他方で、非対面での保険販売を主力とするライフネット生命は4月の業績速報(PDF)で、新契約業績が過去最高を更新したことを明らかにしました。アドバンスクリエイトも4月の業績概要(PDF)で、保険代理店事業において、対面販売が落ち込む一方、通信販売が急増したことを示しています。

予定利率の引下げ

さて、タイトルは「日産生命破綻処理に関する覚書き」でしたね。
生命保険経営学会の機関誌「生命保険経営」最新号(第88巻第3号)に、明治安田生命保険の佐藤元彦さんによる同名の論文が掲載されました。

1997年4月に破綻した日産生命の破綻処理は、その後も相次いだ生保破綻の処理に大きな影響を与えました。
なかでも、「既契約の予定利率引下げ」と「早期解約控除の設定」は、次の東邦生命(1999年破綻)をはじめ、全ての破綻処理で採用されています。

論文によると、保護基金の発動、イコール契約条件の変更ということではなかったそうです。しかし、「収支上の必要性から予定利率引下げは余儀ないものだった」(論文より引用)。論文の注記には、「資金援助上限額2000億円だけで処理が可能だったとしたら、予定利率は引下げなかったであろう」とありましたが、資金不足が大きく、そうもいかなかったようです。

数年後にアクサが日本団体生命を買収し、破綻後ではないので、当然ながら高利率の契約もそのまま引き受けています。当時のアクサがどう判断したのかはわかりませんが、もし将来収支がマイナスでも、顧客基盤や新契約獲得能力など(いわゆる「のれん」ですね)に大きな価値があると判断すれば、条件変更なしでの破綻処理もありえたのかもしれません。
もっとも、破綻により日産生命の事業基盤はダメージを受けており、のれんを高く見積もることもできず、予定利率の引下げはやむを得なかったということなのでしょう。

新日産生命構想

「新日産生命構想」は本当にあったのですね。
破綻した日産生命の既契約の受け皿会社を、日立・日産グループ各社の共同出資で新設するというもので、既契約の維持管理だけでなく、新契約の獲得も行う保険会社を新たに立ち上げる構想でした。日産生命の欠損額が大きく、保護基金の資金援助2000億円では賄いきれないので、「残りの欠損額については、新日産生命の営業力と予定利率引下げ後の既契約の収益力を評価し、営業権として資産計上することで補う」(論文より引用)というスキームです。

残念ながら日立・日産グループからの出資を得られず、新日産生命構想は頓挫しました。論文には早期解約控除についての言及がなく、日立・日産グループの信用が拠りどころということで、出資者としては再破綻の可能性を意識したのかもしれません。

早期解約控除

最終的に日産生命の破綻処理は、生命保険協会の100%出資により、既契約の維持管理のみを行う受け皿会社(あおば生命)を新設し、そこに日産生命の契約を移転するスキームとなりました。既契約に対しては予定利率引下げなど基礎率の変更を行い、さらに、ここで「早期解約控除」が出てきます。

早期解約控除とは、業務再開後の数年間は、通常の解約控除に加え、一定額の解約控除を上乗せするというものです。
初年度の控除率を15%としたのは、「(保護基金からの)資金援助がなされない場合、およそ15%程度の積立金毀損が発生する」との見解を佐藤さんは示しています。この15%が妥当だったのかどうかはわかりませんが、あおば生命の経営を安定させるのに寄与したのは間違いないでしょう。後に生保協会があおば生命を売却できたのも、「既契約の予定利率引下げ」「早期解約控除の設定」をセットで実施したからだと思います。

会員以外のかたが論文を読めるようになるのは2022年1月になってからですが、破綻処理策の原案作成者による覚書きは貴重だと思いまして、ブログで紹介しました。

※緑が濃くなりましたね。

 

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生命保険会社の会社数の推移

inswatch Vol.1032(2020.5.11)に寄稿した記事のご紹介です。

【5月14日訂正】生命保険会社の会社数は42社でした(チューリッヒ生命のカウント漏れ)。大変失礼いたしました。

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テレビのニュースもネットの見出しも新型コロナ関連の話ばかりなので(私も先月のinswatchで取り上げました)、今回は全く違うテーマを取り上げてみましょう。

日本に生命保険会社は何社あるか

正解は41社です(2020年5月1日現在)。日本では保険業は免許制(少額短期保険業は届出制)なので、金融庁から免許を取得している生命保険会社が41社あるということになります。

意外に多いと感じるかもしれませんし、「生保は大手銀行や損保に比べると再編が進んでいない」と言われることもあります。確かに大手生保(4社または5社が大手とされる)の市場シェアは圧倒的というほど高くはありません。
ただ、日本の生命保険市場が世界第2、3位の規模という巨大なマーケットであることを踏まえれば、会社数が多すぎるという指摘は当たらないようにも思います。

ご参考までに、損害保険会社は53社(同)あります。3メガ損保グループが収入保険料の8割超を占める超寡占市場なのに、どうして会社数が多いのかというと、3グループともに機能・役割の異なる保険会社を複数持っているうえ、規模が小さく、特定の分野に特化した会社が数多く存在するからです。
また、このなかには再保険会社も含まれていて、生命再保険を主力とする会社でも、損害保険会社の免許を取得することになります。

「増加」から「横ばい」へ

次に会社数の推移を見てみましょう。
生命保険協会が「生命保険の動向」という資料の中で、「生命保険協会加盟会社数の推移」というグラフを掲載しています。生命保険協会には全ての生命保険会社が加盟していますので、これが会社数の推移を示したものです
(損害保険会社には日本損害保険協会の会員ではない会社があります)。

グラフをご覧いただくと、過去50年間のトレンドは概ね右肩上がりに見えます。もっとも、2000年代以降だけで見れば、横ばいと言うべきかもしれません。
50年前の20社から外資や異業種からの参入により会社数が徐々に増え、1996年度には損保による生保子会社の設立で会社数が一気に増えました。その後、2000年の49社をピークに減少に転じ、一時は40社を割り込んだものの、新規参入もあり、現在に至っています。

生保は人口減少や高齢化の進展などから衰退産業と揶揄されることもありますが、再編による会社数の減少もあるなかでの41社ですから、新規参入者には依然として魅力ある市場に映っているのでしょう。

外資系生保の存在感

外資の存在感が高いことも、日本の生保市場の特徴と言えるでしょう。
規制緩和が進み、日本の金融・保険市場が閉鎖的と言われることはほとんどなくなりました。それでも日本の市場が外資系に席巻されることはなく、特に個人分野では圧倒的に国内系が顧客基盤を確保しています。銀行もそうですし、証券も損害保険もそうです。

ところが生命保険だけは、外資系が市場を席巻するとまではいかないにしても、一定の存在感を確保していると言えるでしょう。2000年前後に起きた中堅生保(いずれも国内系)の相次ぐ経営破綻のほか、国内系とは異なるビジネスモデルを採用してきたことが結果として顧客の支持につながり、現在の地位を築いていると考えられます。
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※大分県に行ったのではなく、近所に「別府」という地名・駅があるのですね。

 

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大学生の生活変化

大学生協共済の知人から、全国大学生協連が行った緊急アンケート結果のご案内をいただき、興味深く拝見しました。
大学生協連のサイトへ

自由記入欄には経済的な不安や、リアルなつながりがないなかでの不安や不満、そして将来や進路に対する不安が増したという声が数多く寄せられています
(調査期間は4/20-30で、回答の半数弱が1年生)。

web授業

母集団に偏りがあるかもしれないので、あくまで参考として集計結果を見ると、まず、web授業で同時双方向型(学生と教員が顔を合わせるスタイル)が意外に支持されていないのが目につきました(項目26)。理由はわかりませんが、動画教材を活用したオンデマンド型のほうが「よりよく学べる」と回答した学生が多かったようです。
もっとも、「授業の特性によって異なるため1つには選べない」という回答が一番多く、これはそうだろうなあと思います。

web授業の通信状態は「ストレスなく受信できている」「時々途切れることがある」が4分の3を占める一方、通信環境以外で困っていることとしては、「目が疲れる」「集中力が続かない」が上位に挙がっていました(項目25、29)。確かに私も、時間が長くなると、対面よりも疲れる感じがします。

生活への影響

外出自粛は食生活にもに影響を及ぼしているようです。新型コロナで食事環境がどのように変わったのかという質問に対し、「自炊の機会が増えた」「外食の機会が減った」のほか、「間食が増えた」「食事をする時間帯が変わった(不規則になった)」という回答も多く挙がっています(項目41)。食生活での不安としては、「栄養バランスが悪いと感じる」「体重が増えた」が上位となりました(項目46)。
参考までに、回答者の半数弱が一人暮らしです。

そして、最近の体調について多かった回答が、「やる気が起きない」「ストレスを感じる」「目の疲れ」でした
(「特に問題なし」という回答も多いです)(項目47)。
調査期間にはまだ授業が始まっていなかった学生が半分弱いて、かつ、一日のうち「SNS」「テレビ・映画・Youtubeを見る」に多くの時間を使っている調査結果(項目20)を踏まえると、そのような回答が多いのも理解できます。
逆に言えば、授業を含めた生活のリズムをうまく作るのが大切だということなのでしょう。

 

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