損保の安定経営とは

NHKニュースでコメント

19日に大手損保グループの4-9月期決算発表があり、これに合わせてNHKニュースの電話取材を受け、その日の夜9時のニュースに出演(?)しました。
火災保険の保険料がテーマでして、先ほど確認したところ、「保険料が上がるというのは、消費者としてはうれしくないが、保険会社としては妥当」「(料率を上げるのであれば)効率化が求められる」といったコメントが使われていました。

来年の自然災害がどうなるかはわかりませんが、少なくとも昨年、今年と大型の災害が続いたので、考えてみればかなりのニーズ喚起になっているはず。そのような話もしたのですが、使われなかったようです。

損保の安定経営とは

翌日の日経は「損保の災害準備金、半減」「安定経営にきしみ」という見出しで損保決算を大きく報じていました。
大手3グループの異常危険準備金が2年前に比べて半減する見通しとなり、「損保経営の安定がきしみ始めた」というものです。

確かに異常危険準備金は毎期の期間損益を安定させる効果があります。ただ、損保の「安定経営」とは、こうした見かけ上の損益が安定して推移することではなく、毎期の損益は自然災害の発生などで振れるとしても、リスクに対する支払余力に常に一定の余裕があることではないでしょうか。
自然災害リスクを事業として引き受けているのですから、損益が振れるのはむしろ当然とも言えます。それに、異常危険準備金は支払余力の一部にすぎませんので、そこだけ取り出してもあまり意味がないように思います。

再保険のハード化が進むか

NHKの取材では、「損保はリスクを再保険に出しているのに、なぜ値上げとなるのか?」という質問もありました。
「翌年の再保険料が上がるから」というのが1つの回答だと思いますが、実のところ、再保険市場が今後も料率上昇トレンドで推移するとまで言い切る自信はありません。
世界的な金融緩和のなかで再保険市場への資金流入はまだまだ続きそうなので、このところ多額の保険金支払い発生が続いたとはいえ、局地的にはともかく、全体としては思ったほどマーケットがハード化しないことも考えられます。

※写真は多摩川です。

 

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生保決算から

上場生保の4-9月期決算発表がありました。
新契約が大きく減った会社のデータから、生保の「業績」について考えてみましょう。

かんぽ生命の業績上方修正

7月中旬から積極的な勧奨活動を停止した影響で、かんぽ生命の新契約は大きく落ち込みました。個人保険の新契約年換算保険料は前年同期と比べて▲28.7%、7-9月だけだと同▲57.6%でした。通常の営業活動を再開できる時期が見えていないため、通期でも相当な落ち込みが見込まれます。
ところが現行の会計では、新契約の不振は増益要因となります。新契約が減り、当期に計上する収入も減るのですが、それ以上に新契約を獲得するためのコスト(代理店手数料や広告宣伝費など)が減るためです。

日経の報道によると、決算発表翌日の株価が急騰し、その理由として「多くの市場関係者は減益を見込んでいたが一転増益となったことで、好感した買いが膨らんだ」とのこと。そんなバカなと思うのですが、株価が上がったのは確かなので、何か別の理由があるのでしょう。
新契約の減少は当期の会計利益を増やす要因とはいえ、会社価値への影響はどう考えてもマイナスです。すでに株価には織り込まれていたのかもしれませんが、さすがに新契約がこれだけ減れば新契約EVはかなり減ったでしょうし、加えて、将来にわたり新契約を獲得する力(=のれん)も影響を受けているでしょう。

経営者保険ブームの反動

4-9月期決算を発表した生保のなかで、中小企業市場に事業基盤を持つ大同生命と、昨年、経営者保険が大ヒットしたネオファースト生命の新契約年換算保険料は、いずれも大きく落ち込みました
(大同生命は前年同期比▲60.9%、ネオファースト生命は同▲93%)。

しかし、大同生命の会計損益は好調でした。「新契約高の減少に伴う標準責任準備金積増負担の減少を主因に」という説明があり、基礎利益も中間純利益も増益となっています。
他方で大同生命はEVを公表しており、4-9月期の新契約EVは前年度の3割強にとどまっているとのこと。金利水準の影響などもあるかとは思いますが、さすがに新契約の減少が影響しているのでしょう。

ネオファースト生命のほうは、もう少しややこしいことになっています。
新契約年換算保険料が大きく落ち込む一方、新契約件数は増加となり、中間純利益は減益で、新契約EVは半減という結果でした。
主力商品が経営者保険から第三分野にガラッと変わったため、会計損益は新契約獲得コストがかさんで減益となったようです。新契約EVは、前年同期の経営者保険のボリュームが非常に大きかったため、第三分野だけでは追いつかず、前年に比べると大きく減ったということなのでしょう。

生保で「業績」というと、会計損益のことを指す場合もあれば、契約獲得状況を指すこともあります。
いずれにしても、知りたいことは「業績」の数値そのものではなく、その結果として会社価値がどう変化したかであるはずなので、公表された手掛かりを上手に使っていきたいものです。

※親知らずを抜きました(涙)

 

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貯蓄と保険のちがい

inswatch Vol.1006(2019.11.11)に寄稿した記事をご紹介します。
本文中にある「終身年金パズル」とは、長生きリスクには貯蓄よりも終身年金のほうが有利にもかかわらず、民間が提供する終身年金があまり普及しないという現象のことです。
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長生きリスクへの備え

例えば90歳を超えて長生きした際の経済的な負担に対しては、貯蓄(資産形成)と終身年金(社会保険を含む)が代表的な手段となっています。
貯蓄の場合、自分が何歳まで生きるかわからないので、多め多めにお金を用意しておく必要があり、結果として多額の貯金を残して亡くなることになりがちです。
これに対し、保険の仕組みを使えば、長生きリスクに対して合理的に備えることができます。もちろん、平均寿命が将来的にどうなるかはわかりませんが、個々人ではなく集団として備えるので、これまで培ってきた保険の技術で対応することが可能です。

貯蓄ではなく保険

しかし、終身年金やトンチン年金など、長生きリスクに備えた保険を貯蓄としてとらえる発想が根強いようです。これだと、支払う保険料と受け取る給付の金額を比べ、損だ得だという話になってしまいます。
日本生命が2016年に「ニッセイ長寿生存保険」を発売した際も、「平均寿命まで生きた場合でも、年金の受取総額は保険料の支払い総額よりも少なく、損失が出る」という批判がありました。
こちらもご参照(過去のブログです)

長生きリスクに保険で備えようという発想であれば、このような考え方は誤りです。保険ですから、例えば90歳以降の保障を受け取るために、いわば掛け捨ての保険料を支払うというように考えるべきです。
一般的な生命保険(死亡保障)のことを考えていただければ、よりわかりやすいかもしれません。例えば40歳で20年間の定期保険に入った場合、60歳までの間に加入者が死亡したら、遺族に保険金が支払われます。加入者は60歳までの20年間の死亡リスクに対する備えとして保険に入ったのであって、60歳になって「これまで保険料を支払ってきたのに何も受け取れなかった」と保険会社に文句をいうのは筋違いだとわかります。
長生きリスクに保険で備えようとした場合もこれと同じことです。貯蓄として保険商品を提供するのであればともかく、保障を提供するのであれば、「返戻率が高い」といった話法からは卒業したほうがいいと思います。

民間保険会社の役割に期待

先ほど「長生きリスクへの備えとしては、貯蓄と終身年金が代表的な手段」と書きましたが、実のところ、民間の保険会社はこの分野で必ずしも大きな役割を発揮していないように見えます。というのも、終身年金の主な担い手は社会保険(国民年金、厚生年金など)であって、保険会社が提供する終身年金は主力商品とはなっていないためです。

平均寿命が延びるなかで、民間として長生きリスクを引き受けるのが難しいのは確かですが、他方で終身保険を提供しているので、両者でセルフヘッジ(終身の長生きリスクと死亡リスクが打ち消し合う)効果がえられるはずです。今の金利水準では魅力ある商品の提供が難しいということもあるとは思いますが、主力商品となっていないのは、保険会社のリスク管理上の制約というよりは、むしろ終身年金が顧客にあまり選ばれてこなかったというべきでしょうか
(「終身年金パズル」と言われています)。

しかし、貯蓄と社会保険だけでは老後を豊かに過ごせるかどうか不安が高まっているなかで、より長生きのリスクだけに焦点を絞った商品を民間の保険会社が積極的に提供していくべきではないでしょうか。
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※写真は慶大矢上キャンパスです。9日にJARIPの年次大会がありました。

 

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「生活協同組合研究」に寄稿

生協のシンクタンク(生協総合研究所)が毎月発行している「生活協同組合研究」2019.11に寄稿しました。

本号の特集「生協の共済を取り巻く事業環境」のなかで、私が書いたのは「生命保険における健全性規制の動向と保険会社の対応状況」というもの。
リクエストが保険会社の健全性規制でしたので、共済についてはほとんど触れていません。1か所だけ生命保険の責任準備金を説明した際、比較のために「一律保障・一律掛金」タイプの共済商品は「加入者の高齢化が進み、平均年齢が想定よりも高まると運営が難しくなる」という特徴を述べています。

他にも、著名FPである藤川太さんの「人生100年時代のライフプランと共済」や、保険のなかでも新たな業態である少額短期保険による商品開発の動向、ニッセイ基礎研究所の松岡博司さんによる「米国生保市場の動向」など、いずれも直接的に共済について述べたものではありませんが、興味深い論稿が載っていました。

機会がありましたらご覧ください。

※写真はワルシャワのトラムです。

 

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地銀経営の厳しさ

日銀の金融システムレポート

先週24日に日本銀行が半期ごとの「金融システムレポート」を公表しました。
今回のレポートでは定例のマクロ・ストレステスト(目先のストレス発生を想定したテスト)に加え、今後10年間に金融機関が経費削減、非資金利益の拡大といった経営効率の改善に向けた取り組みを行った場合、どの程度の効果が見込まれるかというシミュレーションを行っています。

結果としてはこうした取り組みが行われることの重要性が示されているのですが、特に非資金利益を増やすのはそう簡単ではないこともうかがえます。
レポート(73ページ)によると、コア業務粗利益に占める非資金利益の割合は、地域銀行は概ね横ばいで推移しているのですね。近年の地銀は投資信託や一時払い保険の販売に力を入れていると思っていたのですが、大手行とちがい、右肩上がりではありません。

投信から保険へ

他方でこんなデータもあります。
金融審議会「市場ワーキング・グループ(第25回)」資料によると、金融機関による投資信託の販売額は2017年度に増えて、2018年度は前年割れとなりました。預り残高もやや減り気味です。

     2016 2017 2018
主要行等 3.8  5.0  2.7 兆円
地域銀行 1.7  2.0  1.3 兆円

これを補うようにして伸びたのが外貨建て一時払い保険です(残高も右肩上がりです)。投信よりも手数料率が高いので、見掛けよりも銀行経営には貢献していそうです。

     2016 2017 2018
主要行等 1.1  1.2  1.4 兆円
地域銀行 0.5  0.7  1.0 兆円

非資金利益を伸ばせるのか

このような状況のなかで、外貨建て保険をめぐるトラブルが問題となっているわけでして、金融機関が非資金利益を増やしていくにはハードルがあることもはっきりしてきました。
銀行は商品を提供するだけなので、為替変動や保険会社が破綻するリスクを負っていないのは確かですが、広い意味での経営リスクを抱えるということかと思います。
まさに経営陣によるリスクアペタイトの設定と、その実行が求められているのではないでしょうか。

※水曜日は娘とここでデートでした♪

 

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スマホ利用の影

10月2日のブログでお伝えしたとおり、日本保険学会の全国大会でシンポジウム「保険法10年の経験と今後の課題」に登壇し、何とか役目を果たしてきました
(風邪気味で少し聞き苦しかったかもしれません。失礼しました)。

このシンポジウムでも私の報告でインシュアテックの進展との関係を少しだけ取り上げましたが、翌日午後の共通論題(講演とパネルディスカッション)は「インシュアテックと保険事業」でしたし、初日の講演の演題も「行動ファイナンスとAIによる資産運用」と、日本の保険学会でも技術革新による法律や経済への影響に注目が集まるようになりました。
なかでも私の印象に残ったのが、東京経済大学の佐々木裕一先生による基調講演「スマートフォン+アプリが作る『情報環境』と倫理」でした。

公開されている報告要旨をもとに少しご紹介しますと、人々がスマホでSNS/メッセージングアプリ(要はツイッター、フェイスブック、LINE、インスタグラムなど)を高頻度で利用するようになったことで、「情報過多」や「アルゴリズムによるフィルターバブル」の問題が生じているという話がありました。

情報過多は文字どおり情報が爆発的に増えているということですが、この結果、SNSでは複雑な話は好まれなくなり、「娯楽情報の流通が増えていることやフェイクニュースの流通にはそういう要素がいくぶん影響していると講演者は考えている」。
しかも、SNSではその人が見たいであろう情報をアルゴリズムが選び、人々は偏った情報のみに触れがちとなります。事態が進むと「民主主義が機能しなくなる可能性をもたらす」(=フィルターバブル問題)というのです。

こうした技術革新による負の影響、しかも、これから影響が起きるのではなく、残念ながらすでに現実に起きてしまっている問題だということで、佐々木先生のおっしゃるとおり、保険業界も意識して対応していく必要があると感じました。

※会場の関西大学にはこの電車で行きます
 たこ焼き、ごちそうさまでした

 

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有識者会議メンバーによるパネルディスカッション

ご承知のとおり、金融庁で「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」が開かれています
(月1回ペースのようですね)。
この有識者会議のメンバーである河合美宏さん、松山直樹さん、森本祐司さんと、金融庁の担当者である白藤文祐さんによるパネルディスカッションが、11/9(土)の日本保険・年金リスク学会(JARIP)の研究発表大会で行われます。コーディネーターは有識者会議で座長を務める米山高生先生です。

有識者会議の資料と議事要旨は金融庁HPで公表されますが、メンバーの生の声を聞くことができる貴重な機会です。
ただ、パネルディスカッションの時間が限られているので、ぜひ懇親会までご参加いただければと思います。締め切りは10月30日ですので、お忘れなく!
(JARIPに個人会員として入会するのがお得かもしれません)。

※ポーランドの紅葉(黄葉)です。

 

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ワルシャワ蜂起

今年は日本とポーランドが国交を樹立してからちょうど100年ということで(?)、首都ワルシャワや古都クラクフなどを訪れました。

ポーランドの歴史

ポーランドはあまりなじみがない国かもしれませんが、壮絶な歴史を持っています。
15~17世紀は東欧の大国でした。しかし、国力が弱まった18世紀には領地拡大を目指すロシア、オーストリア、プロイセンの3国により分割されてしまい(いわゆる「ポーランド分割」です)、1795年から第一次世界大戦が終わるまでポーランドという国はありませんでした。

その後、独立を果たしてからわずか20年ほどで、1939年にドイツによるポーランド侵攻で第二次世界大戦がはじまり、ポーランドはドイツとソ連に分割・占領されてしまいます。
終戦後、ポーランドという国は復活しますが、スターリンが率いるソ連の衛星国家としてであって、民主化の達成は1989年になってからです
(ちょうど30年前ですね)。

ワルシャワ蜂起

首都ワルシャワの旧市街は世界遺産として登録され、大勢の観光客でにぎわっています。ここは、第二次世界大戦でナチスドイツにより徹底的に破壊された町並みを、戦後ポーランド人が以前の姿を忠実に復元したものです。
町が徹底的に破壊されたのは、1944年のワルシャワ蜂起の失敗によります。ドイツの敗色が強まったとみたポーランドの抵抗勢力が1944年8月に蜂起したものの、ワルシャワの対岸まで来ていたソ連軍は動かず、西側勢力による支援も得られませんでした。蜂起勢力は2か月後にドイツ軍に鎮圧され、ワルシャワの町は報復として徹底的に破壊されてしまったのです。

このワルシャワ蜂起をテーマにした博物館に行ったのですが、現実の厳しさ、冷酷さに圧倒されました。
ワルシャワ蜂起を「無謀な試み」「指導者による情勢の読み間違い」と言うのは簡単です。ただ、独裁者スターリンの率いるソ連はナチスドイツから単にポーランドを解放するのではなく、支配下に置くことを念頭においていたので、ポーランドの独立勢力が、このままでは支配者がナチスドイツからスターリンに変わるだけだと考えて蜂起に動いたのも理解できます。
その後、廃墟となったワルシャワに進軍したソ連は、ワルシャワ蜂起で活躍したポーランド人を逮捕し、処分しています。

博物館には若いポーランド人がたくさん訪れていました。

 

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予定利率ゼロの時代

inswatch Vol.1002(2019.10.14)に寄稿した記事をご紹介します。
月次寄稿となってから生保関係の話を書いていて、今回は標準責任準備金を取り上げています。

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生命保険は加入してからの契約期間が長いため、将来の保険金や給付金の支払いに備えた「責任準備金」の確保が保険会社経営のキモとなります。そこで今回は「標準責任準備金」という規制について取り上げてみましょう。

標準責任準備金制度

生保には損保の参考純率のようなものはなく、会社が保険料率を自由に決めることができます(商品認可は必要です)。とはいえ、まったく縛りがないのかと言うとそうではなく、政府は生保の責任準備金を規制することで、保険会社の健全性を確保しようとしています。
定期保険や終身保険、養老保険などの、いわゆる生命保険は「標準責任準備金」規制の対象で、行政当局が定めた「標準生命表」「標準利率」に基づいた責任準備金を積み立てなければなりません(付加保険料や第三分野の入院・手術等の発生率は規制の対象外です)。

例えば、通常の生命保険(平準払い)の標準利率は現在0.25%です。保険会社はそれよりも高い予定利率を使い、保険料を低く設定することは可能ですが、責任準備金は標準利率で計算したものを積む必要があります。
つまり、予定利率を標準利率よりも高く設定してしまうと、顧客から受け取った保険料だけでは責任準備金を積むことができず、不足分を会社が補わなければなりません。それでは経営が持たないということで、標準責任準備金が生保の価格競争の歯止めとなっています。

一時払い終身の標準利率は0%に

標準生命表のほうは、2018年4月の改定に合わせ、多くの保険会社が保険料を変えたり、商品そのものを見直したりしたので、記憶に新しいかもしれません。トレンドとしては長寿化が続いているため、生命表の改定があると、定期保険のような死亡保障の保険料は下がり、個人年金のような生存保障の保険料は上がります。
これに対し、標準利率は一貫して引き下げが続いてきました。標準利率は責任準備金を計算するうえでの割引率なので、利率が下がると、より多くの責任準備金を積まなければならず、保険料は上がります。

標準利率は長期国債の利回りをベースに決めています。ただし、通常の平準払いの生命保険と一時払いの貯蓄性商品では設定方法が異なります。
通常の生命保険では、10年国債利回りの3年平均と10年平均の低いほうをもとに利率を設定するのに対し、一時払いの貯蓄性商品では、利回りの3か月平均と1年平均の低いほうをもとに設定します(一時払い終身保険では10年国債利回りのほか、20年国債利回りも活用)。

すなわち、一時払いの貯蓄性商品は標準利率が金利変動に連動しやすい仕組みとなっているのですが、一部で報道されているように、最近の低金利を受けて、来年1月から一時払い終身保険の標準利率がついに0%に下がることになりました。生保にとって厳しい経営環境が続きます。
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※写真はポーランドの古都クラクフです。旧市街全体が世界遺産とのこと。

 

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FPジャーナルに登場

日本FP協会の会報『FPジャーナル』10月号に登場しました。特集記事の「保険業界の最新動向と今後の見通しを探る(生命保険)」で私のコメントがいくつか使われています。
ただ、いま読み返してみると、やや舌足らずなところもあるので(すみません)、若干補足してみましょう。

生保市場は縮小?

冒頭に「ここ数年、生保市場は縮小しているイメージがありますが、実際はそうではありません」とあり、保有契約年換算保険料が右肩上がりで推移していることを紹介しました。
ここで言いたかったのは、生保に集まるお金が増えている(伸びたのは主に貯蓄性商品なので)ということですが、同時にこの図表からは、一般に成長市場とみられている第三分野の年換算保険料が意外に伸びていないこともわかります(記事ではそこまでコメントしていません)。

本格的な人口減少はこれから

「これまでは人口構成の変化に対応してきましたが、人口の総数が減っていく中で今後、生保業界にとって厳しい経営環境となると考えられます」というコメントにも補足が必要かもしれません。
人口構成の推移を見ると、これまでの10年、20年は、確かに生保がターゲットとしてきた保障中核層(30~40代)は縮小したものの、その上の世代はむしろ増えていましたので、ターゲットをシニア層に広げることで事業を展開することができました。しかし、これからの10年、20年は、高齢シニア層を除けばどの層も人口が減っていくという未体験の世界に突入するので、「厳しい経営環境となる」とコメントしました。
高齢化の推移と将来推計(PDF)

他の金融商品とのちがい

「株主はともかく、契約者にとって生保会社の成長は絶対ではありません」「経営リスクを抑え、経営の健全性を保ってくれればよく、契約者やFPの方々としては安全性を監督(監視…植村注)することが重要です」というコメントも、やや極端に見えたかもしれません。
これは読者がFPなので、他の金融商品とはちがい、保険では契約者が保険会社の信用リスクを負っているということを伝えようとしたものです。加入先の生保会社が破綻すると、契約者は何らかの不利益を被ります。

※お地蔵さまが縄でしばられていました。

 

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