減収は増益要因

inswatch Vol.993(2019.8.12)に寄稿した記事の紹介です。
メディアが生保会計を理解したうえで報じてくれるといいのですが、そうでないと不信感をあおることになってしまいそうです。

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日本郵政グループの不適切な保険販売は、商品供給を担うかんぽ生命や日本郵便の上層部と、現場で販売を担っている郵便局の距離の遠さをはじめ、グループ固有の要因が大きいのかもしれません。
それでも、他の保険関係者にとって対岸の火事と言い切れるでしょうか。「こんなことありえない」と切り捨てるのではなく、自らに置き換えて考えてみることが代理店経営を強くするのではないかと思います。

業績予想は「修正なし」

ところで、かんぽ生命の植平社長は7月の会見で、2020年3月期の業績予想は今のところ「修正なし」とコメントしています。
かんぽ生命は上場会社なので、当期純利益などの大幅な増減が見込まれるようであれば、適時開示制度に基づいて速やかに公表しなければなりません。当面は積極的な営業活動を行わない方針を打ち出したこともあり、今期の新契約が大きく落ち込むのは避けられないでしょう。それにもかかわらず「修正なし」というのは、影響の大きさが現時点ではよくわからないというだけではなく、保険会計の特殊性が関係していると考えられます。

新契約の減少は増益要因

生命保険会社が新契約を獲得すると、その年度に入ってくる保険料を「保険料収入」として計上します。平準払(回払)であれば、契約者は何年もかけて保険料を支払うので、当期の決算に計上されるのは実際に払い込まれた数回分の保険料だけです。
他方で、保険会社が事業を遂行するための経費は、発生した時点で「事業費」として計上します。新契約を獲得するには代理店手数料や広告宣伝費をはじめ、多額のコストがかかります。大手生保(かんぽ生命を含む)の場合、事業費総額の3、4割が営業活動費です。
保険料収入として計上するのは実際に払い込まれた数回分にもかかわらず、新契約獲得のためにかかった費用はその時点で計上しなければならないため、新契約を獲得すればするほど減益となり、反対に、前年度よりも新契約が減れば増益要因となる、というのが現行の保険会計です。

新契約価値は減少へ

もちろん、新契約が落ち込んだにもかかわらず増益になったとしても、保険会社の経営にとって喜ばしい話ではありません。エンベディッド・バリュー(EV)を公表している会社であれば、新契約価値の減少がEV成長の足かせとなっていることが公表資料からわかるはずです。
さらにいえば、保険会社の会社価値には、将来にわたり新契約を獲得する能力も含まれています。営業基盤の悪化はただちに会計損益に表れるものではありませんが、会社価値には深刻な影響を及ぼします。
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※写真は伊東温泉です(8/3撮影)。

 

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損保代理店の現状

4-6月期決算の分析はこれからということで、今回は別の話題を。
日本損害保険協会が7月30日に発表した2018年度の損害保険代理店統計を確認してみました。

緩やかな減少が続く

2018年度末の代理店数は18.0万店で、緩やかな減少傾向が続いています。
2000年代に比べ、2010年代の減少ペースが緩やかなのは、廃止となる代理店が2000年代よりも少ないためです。
保険会社の再編が進んだ2000年代の代理店廃止率(=前期末代理店数に対する廃止数の割合)は毎年10%台前半でした。しかし、2010年代は概ね8、9%程度で推移していて、保険業法の改正を受けて代理店の淘汰が加速しているということは今のところなさそうです。

代理店の集約が進んだことで、1店当たりの保険料は拡大傾向が続いています。
代理店数と代理店扱いの元受保険料を単純に比べると、2009年度に3386万円だったものが、2018年度は4901万円となりました。専業代理店1店当たりの募集従事者数も6.0人(2009年度)から9.3人(2018年度)となっています。
ただし、一部の大型代理店が数値を押し上げているのか、あるいは全体として大型化が進んでいるのかは、これらの統計だけでは何とも言えないところです。

新設代理店の減少

他方で、新設代理店数が1万店を割り込んでしまった(8935店)という気になるデータもありました。
代理店の新設率(=前期末代理店数に対する新設数の割合)は、委託型募集人制度の廃止という特殊要因があった2014年度を除き、6%前後で推移してきましたが、2017年度は5.2%に下がり、2018年度はさらに4.8%に下がってしまいました。

保険会社による乗合代理店の買収や、流通大手に代表される異業種からの新規参入が時々ニュースとなりますが、いずれも資金力を持つ大手企業によるものです。
新たに損保代理店をやろうという事業者は、数としては少なくなっていることがうかがえます。

※写真は横浜・みなとみらいです。

 

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銀行のRAFと保険のERM

週刊金融財政事情の最新号(2019.8.5)を読んでいたら、「先行してRAF(リスクアペタイトフレームワーク)構築を進めている金融機関の事例を見ると、統合リスク管理(ERM)の延長程度の対応にとどまるケースも散見される」「ERMの場合、一般的にリスク管理部門が所管することになるが、RAFの本来の趣旨に鑑みて期待されるべき所管部門は経営企画部門である」といった記述がありました
(「顧客にも配慮した日本型モディファイドRAFに転換を」NTTデータ経営研究所・大野博堂氏)。

銀行のRAFは保険のERM

このブログの読者はおそらく保険関係者が多いと思いますので、読んで「あれ?」と感じたのではないでしょうか。
違和感が生じるのは、ERMなどリスク管理の枠組みを示す用語について、同じ用語を銀行業界と保険業界では違う意味で使っているからなのです。
そこで、以前書いたことのある銀行のRAFと保険ERMの関係をはじめ、用語の違いを私なりに整理してみましょう。

銀行業界のRAFは、保険業界のERMとほぼ同じものと考えていいのではないかと思います。

保険業界でもERMの取り組みのなかで、リスクアペタイトを明示した「リスクアペタイト・ステートメント」を作成するのが一般的となっていますが、RAFという用語はあまり使われておらず、リスクアペタイトはERMの一要素という位置付けです。

他方で銀行業界で普及しつつあるRAFは、金融安定理事会(FSB)が2013年に示した「実効的なリスクアペタイト・フレームワークの諸原則」によると、RAFとは「リスクアペタイトを組織内に確立して、コミュニケーションをとり、モニタリングするための方針、プロセス、コントロール、システムを含む全体的なアプローチ」で、包括的な枠組みです。キーワードの違いなどはあるにせよ、リスクを資本の範囲内にコントロールするだけでなく、とると決めたリスクをテイクすることでリターンを目指すという点など、保険業界のERMとかなり類似しています。

同じ「統合的リスク管理」でも…

保険業界のERMは日本語で「統合的リスク管理」と呼ばれることが多いようです。ところが、銀行業界で「統合的リスク管理」と言うと、RAFに進化する前の枠組みを指すようで、リスクを個々にではなく統合的、総体的に捉えることや、統合的に捉えたリスクを資本の範囲内にコントロールすることが主眼となっています
(日本の銀行業界で「ERM」の用語はあまり普及しておらず、一部の銀行がCOSO-ERMを参照した取り組みを行っているようです)。

そもそも当時、一般には「統合リスク管理」と言われていたものを「統合的リスク管理」としたのは金融庁だと思います。金融庁は「統合的リスク管理」と「統合リスク管理」を区別していて、「統合的リスク管理方法のうち各種リスクをVaR等の統一的な尺度で計り、各種リスクを統合(合算)して、金融機関の経営体力(自己資本)と対比することによって管理するもの」としています。

さて、金融庁の金融検査マニュアル(=預金等受入金融機関向け)の定義は次のとおりです。

「統合的リスク管理とは、金融機関の直面するリスクに関して、自己資本比率の算定に含まれないリスク(与信集中リスク、銀行勘定の金利リスク等)も含めて、それぞれのリスク・カテゴリー毎(信用リスク、市場リスク、オペレーショナル・リスク等)に評価したリスクを総体的に捉え、金融機関の経営体力(自己資本)と比較・対照することによって、自己管理型のリスク管理を行うことをいう」

これに対し、保険検査マニュアルにはこう書かれています。

「統合的リスク管理とは、保険会社の直面するリスクに関して、潜在的に重要なリスクを含めて総体的に捉え、保険会社の自己資本等と比較・対照し、さらに、保険引受や保険料率設定などフロー面を含めた事業全体としてリスクをコントロールする、自己管理型のリスク管理を行うことをいう。保険会社の統合的リスク管理態勢は、収益目標及びそれに向けたリスク・テイクの戦略等を定めた当該保険会社の戦略目標を達成するために、有効に機能することが重要である」

両マニュアルを比べると、金融検査マニュアルの統合的リスク管理が、戦略目標にあった手法かどうかという目線で書かれているのに対し、保険検査マニュアルの統合的リスク管理は、戦略目標を達成するための枠組みとして位置付けられているのがわかりますし、「リスク・テイクの戦略等」の記述は、リスクアペタイトの設定を念頭に置いたものだとうかがえます。

進化の道すじの違い

こうした違いは、リスク管理の枠組みが過去どのように進化してきたかが影響しています。

銀行業界では市場リスク、信用リスク、流動性リスクといった個別リスクの管理が整備されていった後、これら以外のリスクを含め、リスクを総体的に捉えて管理する枠組みが広がりました。これには2004年に完成したバーゼルIIが強く影響していると考えられます(特に「第2の柱」)。

しかし、2008年からの金融危機でバーゼルIIや統合的リスク管理の限界が取りざたされ、金融当局は規制の強化(バーゼルIIIの導入など)に突き進む一方、リスクガバナンスも強化する必要があるという認識が広がり、現在のRAFに至っています。

他方、日本の保険業界では、銀行を追いかける形で個別リスクの計測や、それらを統合して管理する手法が取り入れられていきましたが、早い会社では2000年代半ばから企業価値の持続的成長を目指すERMへの取り組みが始まります。これには欧州大手保険グループや格付会社によるERM重視の姿勢が影響したものとみられます。
さらに2011年には前述の保険検査マニュアルが採用され、金融庁はその後「ERMヒアリング」「ORSA導入」へと進んでいくなかで、ERM導入の裾野が広がっていきましたが、銀行業界と違い、保険業界のERMは必ずしも規制主導で浸透していったのではありません。

保険業界では現行会計ベースによる「リスク」「資本」「リターン」の把握が難しく、経済価値ベースの経営管理が進化していったことや、内外ソルベンシー規制の進展が銀行よりも遅いことなども関係しているかもしれません。

いずれにしても、銀行業界と保険業界で用語の意味が違うことを知っておかないと、両者で議論がかみ合わないことになってしまいます。

※写真は長崎の市電です。

 

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最近の読書から

夏休み前ということで(?)、久しぶりにブックレビューを。

「戦前・戦時期の金融市場」

著名ファンドマネジャーである平山賢一さんによる、戦前・戦時期の金融市場に関する研究成果をまとめたものです。
戦前・戦時期の国債市場と株式市場を分析するにあたり、国債と株式のパフォーマンスインデックス(PI)を算出しているのですが、単にデータ収集が大変というだけでなく、当時の市場の特殊要因を調整する必要があるため、ものすごく労力がかかっていることがうかがえます。
このPI算出によってはじめて、戦前・戦間期の金融市場を市場参加者の目線から分析することが可能となったわけで、この点だけでも本書の功績は大きいと思います。

「サイバーセキュリティ」

著者の谷脇康彦さん(総務省総合通信基盤局長)は行政の立場からサイバーセキュリティに携わってきたかたです。
サイバーセキュリティ関連の情報を探すと技術的なものが多く、全体像がよくわからないと思っていたところ、この本に出会いました(正確にはご本人にお会いして、本書を知りました)。
サイバー空間における脅威を正しく理解し、政府・民間、そして国際的な動向をつかみたいかたに、おすすめの書籍です。

「日本軍兵士」

副題に「アジア・太平洋戦争の現実」とあるように、凄惨な戦場の現実を史料やデータから浮き彫りにしたもので、著者は歴史学者の吉田裕さんです。

第1章 死にゆく兵士たち
1 膨大な戦病死と餓死
2 戦局悪化のなかの海没死と特攻
3 自殺と戦場での「処置」

第2章 身体から見た戦争
1 兵士の体格・体力の低下
2 遅れる軍の対応--栄養不良と排除
3 病む兵士の心--恐怖・疲労・罪悪感
4 被服・装備の劣悪化

こうして目次の前半部分だけを取り上げても、戦場の凄惨な現実が見えてきます。

「日本の異国 在日外国人の知られざる日常」

著者の室橋裕和さんはバンコクで10年間暮らした経験があるライターで、本書では大きくなりつつある「日本のなかにある異国」の最前線を紹介しています。
新大久保や高田馬場といった有名どころだけでなく、「こんなところに外国人のコミュニティが!」といったスポットがいくつも紹介されていて、興味深く読みました。
外国人として暮らした経験があるためか、著者の目線が一貫して暖かいのにも好感を持ちました。

※写真は長崎です。坂と階段の町でした。

 

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保険の対象となるリスク

7月20日に日本保険学会・九州部会の25周年記念大会が福岡大学で開かれました。
10月の全国大会で登壇することもあり、大雨の九州に杖を持って出かけてきました。

当日は石田重森先生の記念講演、シンポジウム2つという構成で、シンポジウムのテーマは「保険・保険業の過去・現在・未来を考える」。
たまたま重なったとのことでしたが、石田先生と福岡大学の伊藤豪先生のお二人が、公的医療保険における高額な医療・医薬品の問題を取り上げていました。

石田先生によると、「本来、保険の対象となるリスクは、同種・同質性のリスクで、大数の法則が機能し、リスクの分散、リスクの平均化の図れるもの」「高度医療・高額薬のようなごく少数で高価格のリスクは保険システムとして不適当である」と説明したうえで、どこまで保険適用にするのか、その基準をどこで誰が決定するのかという問題を指摘していました。

他方、伊藤先生はケースごとに検討を行い、(価格が下がる前に)利用が進めば、医療費の拡大や保険料負担の増加につながるとしつつも、医療技術や情報技術の革新は医療費を減らす効果が期待されるものもあることを示しました。

確かに、技術革新によって高額な医療・医薬品が出現し、それが保険適用となって利用が増えると、医療保険財政を圧迫することになりえます。
とはいえ、過去の事例を見るかぎりでは、技術革新は価格引き下げにもつながると考えられますし、伊藤先生が指摘するように、技術革新は高額な医療・医薬品を生み出すだけでなく、無駄な医療を排除したり、効率化を進めたりもします
(部外者から見た医療の世界は不透明な部分が多いと感じるので、後者の技術革新には大いに期待したいです)。

保険の加入者にとっては、処方箋があったほうが湿布を安く入手できるといったことよりも、万一の際に高額な医療・医薬品を使えるほうが重要です。
自動車保険でも、かつては想定されていなかった億円単位の損害賠償に対応すべく、対人無制限の補償が一般的になっています。それに、高価格といってもほとんど発生しないのであれば、リスク量としては限られるはずです。

ただし、医療技術の革新がこれまでの延長線上ではなく実現し、低頻度高価格のものが、急に高頻度高価格になったりすると、収支バランスが崩れ、保険システムの限界という状況になるのかもしれません
(だからこその公的保険なのかもしれませんが)。

他にもいろいろと刺激を受けた記念大会で、福岡まで遠征した甲斐がありました。

※写真は軍艦島です。

 

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右足を痛めて感じたこと

右足を痛め、歩くのが不自由になって10日ほどたちました。
せっかくなので、東京近郊に住む私が、通勤・外出時に感じたこと、気が付いたことを残しておこうと思います。

優先席の世界

優先席に限らず、大変そうな人には席を譲るのが当然なのかもしれません。そうは言っても一般席はこわいので、努めて優先席に向かっています。
ただ、朝の電車はピークをずらしても混んでいるので、電車を選ばないとそもそも優先席に近づけないのですね(東急東横線の場合)。

それでは優先席にたどりつけば座れるかといえば、「座れることのほうが多い」といったところでしょうか。途中駅なので空席はなく、杖を持って乗ってきた私に気が付いてくれたかたは、ほぼ席を譲ってくれますが、全く気が付かない(少なくともそう見える)かたもいます。
なかには後ろからトントンとタッチして、「こちらへどうぞ」なんて言ってくれるかたもいて、先週はかなり辛かったので、これは涙が出るくらいうれしかったですね。
この気持ちを忘れないようにしたいです。

もっとも、一見すると大変そうに見えなくても、実は大変なかたもいるのでしょう。私だって、もし杖を持っていなければ、「なんでコイツは優先席に座っているんだ」と思われるだろうなあと、ついつい考えてしまうので、見るからに大変そうではない人があの席に座るのは相当なプレッシャーかもしれません。

優先席から見た朝の東横線は、高齢者が意外に少ない一方で、妊婦さんが目立ちます。
ところが新橋駅からの都営バスはシニアが多くて、むしろ席を譲ったりすることもありました(1回だけですが)。

地下鉄のバリアフリー状況

行動範囲が限られているので、あくまで私が体験した事例としてお読みください。

先週は100メートル進むのにものすごく時間がかかったうえ、階段なんかとんでもない(特に下り)という状態だったのですが、地下鉄やJRには苦しめられました。
まず、会社の最寄り駅(築地市場駅)に泣かされました。地上からの出入口が3か所あって、そのうち1か所にエレベーターがあります。たまたま会社から最も遠い出入口で、何とかたどり着いてエレベーターに乗ると、そこから改札口まで100メートル歩かなければなりません。古い駅ではないのに、なぜこんな構造なのでしょうか。

それから同じく都営の大門・浜松町駅では、JRに乗り換えようと地上に向かうエレベーターに乗ったら、途中から階段になっていて、あとは上がるのも下がるのも階段を使うしかありません。
こうした出入口は他にもいくつもあるようで、おそらくどこかにバリアフリールートがあるのだと思いますが、事前に調べておかないと大変なことになります。

都営ばかりで恐縮ですが、神保町駅では改札を入ろうとしたら、親切な駅員さんに、「ここは階段だけですが、もう一つの改札ならエレベーターがありますよ」と教えてもらったのはよかったのですが、その「もう一つの改札」が遠くて涙が出ました。
まあ、これは仕方がないのかもしれませんが、そもそも駅には下りのエスカレーターがあまりに少ないですね。東京メトロの大手町駅でしたか、せっかくエスカレーターが2つあるのに、どちらも上りでガッカリしたこともありました。

横断歩道を渡り切れるか

地上にも難所がいくつもありました。都心部の歩道は広いので、あまり困るようなことはなかったのですが、地元では歩道が狭いうえに起伏が激しく、段差も多いので、体力を消耗してしまいます。歩道って、どうして車道よりも高くなっているのでしょうか。

都心部は歩道が広いだけでなく、車道も広いので、信号が青のうちに横断歩道を渡り切れるかというプレッシャーを何度も感じました。
バリアフリー状況もそうですが、恒常的に歩くのが不自由なかたは、いつもこのような思いをしているのでしょう。横断歩道を渡り切れないなんて、考えたこともありませんでした。

そうそう、何をするにも時間がかかってしまうのには閉口しました。
特に雨の日は、杖と傘で両手がふさがってしまい、ただでさえ動作が遅いのに、電車やバスに乗るにしても、コンビニで買い物をするにしても、やたらと時間がかかってしまいます。当初はどうしても自分にイライラしてしまいましたが、これにはすぐに慣れました(周りには迷惑をかけているのでしょうけどね)。

 

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終身保障の現状

inswatch Vol.989(2019.7.15)に寄稿したものです。
7月7日のブログの続きと言えるかもしれません。
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新たな健全性規制を懸念する声

金融庁が検討している新たな健全性規制について生保業界から、「規制の数値目標の達成を目指す行動が、顧客の期待に反するものになりかねない」「契約期間の長い終身保険などは販売の見直しにつながる可能性がある」など、新たな健全性規制の導入によって長期の保障が提供できなくなるという声が出ているようです(7月5日の日経新聞から引用)。
新規制が長期の生保商品に与える影響に関するコメントは私のブログをご覧いただくとして、規制導入への懸念を表明するほど保険会社は長期の保障を提供しているのでしょうか。

終身保険は主力商品と言えるか

長期保障の典型は終身保険です。過去10年間の個人保険の種類別新契約件数の推移を確認すると、終身保険は常に全体の2割前後を占め、医療保険とともに生保商品の主力であるように見えます。
2018年度の終身保険シェアは18%と、前年度から2ポイント下がりましたが、これは定期保険の販売が好調だったため(経営者向け保険でしょうか?)で、終身保険の新契約件数はほぼ横ばいでした。

しかし、このなかには主に銀行などで提供されている一時払いの終身保険が含まれています。各社の資料等からざくっと推測すると、全体の1/3~半分近くを占めると思われます。これらは終身保障ニーズへの対応というよりは、預金代替の貯蓄性商品として販売されていて、顧客はシニア層が多いとみられます。しかも、円金利の低下を受けて、一時払い終身保険の大半は外貨建てです。
残る終身保険についても、国内系生保の場合、主力商品の定期化(10年更新など)が一段と進んでいて、顧客に提供する保障パッケージのなかに、終身保険部分の保険金額は数十万円のみというケースも珍しくありません。例えば、ある大手生保の平均保険金額は51万円でした(2017年度の終身保険)。

個人年金保険も長期の保険ですが、終身の個人年金保険はあまり売れていないようです。
個人年金全体の新契約件数も縮小気味で、2018年度の個人年金保険の新契約100万件(外貨建てや変額年金を含む)は10年前の2/3、ピーク時の1/3です。

以上を踏まえると、外部環境(特に超低金利)の制約から、多くの会社はすでに長期の保障ニーズを満たすような生命保険・個人年金保険をあまり提供していない(特に円建てでは)というのが実態のようです。

終身医療保険への疑問

医療保険にも終身タイプが多いと考えられます。定期タイプを更新していくのと比べると、終身タイプは保険料が上がらないのがメリットと受け止められているようです。
こちらも終身保障ということで、金利低下の影響を受けるのは確かです。しかし、終身保険とはちがい、多くの会社が終身医療保険を提供し続けているのは、発生率の変動に備えた保守的な料率となっていることや、「解約返戻金がない」「保険料が終身払い」といったことなどが関係しています。

ただ、顧客本位に考えた場合、終身医療保険は本当にニーズにかなったものなのでしょうか。
死亡保険や個人年金とは違い、医療保険は時間がたつと技術革新などにより保障内容が陳腐化してしまいます(毎年新たな医療保険が次々に登場していますよね)。かつては主流だった入院時の保障を主眼とした終身医療保険に加入した人は、その後の変化(例えば入院日数の短期化など)に直面しても、変化によるメリットを享受するには、基本的に今の保険を解約して新たな医療保険に入り直すしかありません。
しかも、単品商品の大半が無配当なので、保守的な料率を設定した結果、発生した危険差益の還元を受けることもできません。

だいぶ前に疑問を呈したことがあるのですが、医療保険といえば終身医療保険というのは一見顧客ニーズを反映しているようで、実は会社にとって都合がいいものとなっているのではと考えてしまいます。
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※今年も慶大で講師を務めました。

 

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業界紙のインタビュー記事

7月9日と10日の保険毎日新聞に私のインタビュー記事が載りました。
いずれも2018年度決算の総括と19年度の展望ということで、9日が生保、10日が損保でした。
これまでブログで紹介した決算関連のコメントと基本的には同じ内容ですが、以下のような話もしています。

基礎利益について(9日)

「もともと基礎利益という指標は、生保業界で破綻した会社が出たり、毎年多額の逆ざやが計上されていたりした時代に、『生保会社は、逆ざやが危険差益や費差益で埋めきれないで、支払余力を取り崩して身を削っているので、何年間かたつと支払余力がなくなってしまうのではないか』という外部からの誤った見方に対する反論として、三利源損益を見せる代わりに、それらの合算に近い基礎利益という指標を開発し、公表したという経緯がある。(中略)当時は意味があったのかもしれないが、今の状況では基礎利益に意味を見いだすのは難しい。メディアで取り上げるから経営が重視せざるを得ないというおかしなことになっている」

損保の事業費構造(10日)

「各社の事業費率の構造のうち、諸手数料および集金費、つまり、代理店手数料まわりの部分は高止まりしており、場合によっては正味収入保険料に対して上昇している。(中略)代理店の大型化に伴い、代理店手数料テーブル(水準)が高い代理店の募集人が増えた結果だとは思うが、この状況を保険会社としていつまで許容できるのか。今後の動向に注目していきたい」

海外展開の影響(10日)

「今後、海外事業における収益の貢献が一定程度を占める保険グループでは、かつてのように国内中心の事業運営で、国内の経営陣だけが経営を担っていくことは難しくなってくるだろう。仮に海外で買収した企業には高い規律を求め、リスクに対する高いリターンを要求する一方で、国内では従来通りの『シェア重視』『利益よりはトップラインを重視』といったダブルスタンダードになっている保険グループがあるならば、今後はそうしたグループ運営はできなくなっていくだろう。(中略)保険グループが海外事業に注力すればするだけ、より経営の変革を迫られることになるだろうし、また、そうあるべきだと思っている」

※歩くのが不自由になって、エレベーターやエスカレーターのありがたさを実感しています。

 

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生保に資本積み増し促す

5日の日経・金融経済面に「生保に資本積み増し促す 金融庁『低金利』で新規制検討」という記事が出ました。
「金融庁は保険会社に対し、自己資本の積み増しなどを求める新規制の検討に入った」なんて書いてあると、まるで金融庁が近年の金利低下を受けた新たな規制を検討しているみたいですが、そうではなく、2007年の金融庁報告書が示した段階的なソルベンシー規制見直しの第二弾がようやく実現に向かうという話です。

電子版にコメント

実は紙版と電子版では記事が微妙に違っていて、電子版(有料会員限定)には私のコメントが載っています。
紙版ではスペースの関係で最後の部分がカットされてしまったみたいでして、その部分は次のとおりです。
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(前略)キャピタスコンサルティングの植村信保氏は「今後は時価評価を意識した経営管理が求められる」と話す。
一方で業界では反対論も根強い。富国生命保険の鳥居直之取締役は「規制の数値目標の達成を目指す行動が、顧客の期待に反するものになりかねない」と警戒する。規制が先行した欧州の生保では、予定利率を保証する商品の販売停止や保有契約の売却が相次いだ経緯がある。」
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「業界では反対論も根強い」とありますが、すでに多くの保険会社では検討される規制(経済価値ベースのソルベンシー規制)と同じ考え方による経営管理を導入しています。
私のコメントも、「今後は『ますます』時価評価を意識した経営管理が求められる」のほうが正しいのでしょう。

規制強化に備えた動きとして記事で紹介されている日本生命の自己資本強化ですが、清水社長のコメントをよく読むと、将来の規制云々ではなく、金利水準が一段と下がり、それが長続きしそうなので、自己資本を増やすというものです。
第一生命のリスク移転も新たな規制検討を意識したというよりは、経済価値ベースでの経営管理の一環としてリスク削減に取り組んだものです。
第一生命HDのIR資料(PDF)(17~18ページ)

つまり、6月12日のブログなどで書いたように、生保の経営環境は非常に厳しいので、新規制の検討とは別に、資本増強やリスク削減をしないと健全性を維持できないという経営判断があるのだと思います。

長期商品への影響

さらに、この記事で気になったのが、新たな規制が導入されると、「契約期間の長い終身保険などは販売の見直しにつながる可能性がある」「特に契約期間が長い商品では、運用リターンを高められなければ『商品開発が難しくなりかねない』」といった、長期商品の販売見直しについて繰り返し懸念が示されていることです。

でも、本当にそうなのでしょうか。

仮に、「保険金額が1000万円を超える死亡保険の提供を禁止する」「米ドル建て保険の提供を禁止する」といった規制が検討されているのであれば、「1000万円を超える死亡保障ニーズに応じられなくなる」「米ドル建て保障へのニーズに応じられなくなる」という懸念を繰り返すのは理解できます。
しかし、検討されている規制(経済価値ベースのソルベンシー規制)は現行のルールを制限しようというものではありません。現行のソルベンシーマージン比率ではうまく把握できていない保険会社の経営リスクをより捉えられる規制に見直そうというものです。

いわばモノサシの感度をよくしようとする内容なので、新たな規制になると長期商品が提供できないというのであれば、いまでも提供できないはずなのです。
言い換えれば、新たな規制のもとでは提供できないような長期商品を提供している会社は、経営リスクに対し、(おそらくわかっていながら)目をつぶっていることになります。

もし、時間がたてば外部環境がよくなる(=だから経済価値ベースの規制は弊害が大きく、顧客の期待に応えられなくなる)というのであれば、結果としてそのような考えをとっていた生保経営や保険行政が、過去にはどういう結末を迎えたか、破綻した日産生命や協栄生命の事例を私の本などでもう一度確認していただければと思います。

※週末は毎年恒例RINGの会オープンセミナーでした
 (今年は第1部だけの参加となってしまいましたが…)

 

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業界専門紙の役割とは

インシュアランス生保版(2019年7月号第1集)にコラムを執筆しました。
改めて石井さんのご冥福をお祈りいたします。

<以下、掲載されたコラムです>
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4月末に急逝した保険ジャーナリスト石井秀樹さんのお別れの会に参加した。石井さんのご冥福をお祈りするとともに、氏が長く保険毎日新聞の記者を務め、独立後もインスウォッチをはじめ、保険業界人が目にする媒体で健筆をふるっていたことから、業界専門紙誌や業界専門ジャーナリストの役割について改めて思いを馳せてみた。

業界専門紙の存在意義は何か

保険業界には本紙「インシュアランス(週刊)」のほか、「保険毎日新聞(日刊)」「新日本保険新聞(週刊)」「保険情報(週刊)」「インスウォッチ(週刊)」といった数々の業界専門紙がある。かつてに比べれば少なくなったとはいえ、1つの産業に複数の業界紙が存在するのは、それだけ保険業界の関係者が多く、かつ、業界に関する情報が必要とされてきたことの表れであろう。

業界専門紙を文字通り「業界人のための専門情報を提供する新聞」と定義すると、業界紙の役割は、一般の新聞や経済誌には載らないような詳細で正確な業界情報を提供したり、同じ情報でも一般紙誌とは違い、業界関係者向けの目線で伝えたりすることである。業界関係者を主な読者層としているのだから、一般紙と同じ目線でニュースを伝えていたのでは存在意義は乏しい。

ネット時代が到来する前は、保険会社のニュースリリースや監督官庁の公表する資料をそのまま掲載するだけでも価値があっただろう。だが、環境は劇的に変わっている。各社の発表をそのまま記事にしたようなものに大きな紙面を割く意義を見出すのは難しい。
亡くなった石井さんは、例えば保険ショップの全体像を取材の積み重ねにより報じていたが、業界紙にはこうした付加価値のある情報提供がますます求められている。

ファクトに基づく継続的な発信を

特に求められるのは、ファクトに基づいた継続的な情報発信であろう。
以前、保険毎日新聞が会社別の変額個人年金保険の販売状況を一覧表にして、それを定期的に掲載していた時期があった。各社の公表資料には保有契約と資産残高くらいしか情報がないなかで、銀行窓販の現状を知る貴重な情報だった。

こうしたニーズは今でもある。例えば各社が公表する「契約高・件数」「年換算保険料」などを見ても、業績動向をつかむのは難しい。年換算保険料が増えていても、貯蓄性の強い外貨建て保険の販売が前年度よりも多かっただけかもしれない。ブームとなっていた経営者向け保険が各社の業績にどの程度反映されているのかも全くわからない。
保険業界の健全な発展のためには米国AMベスト社のような存在が日本にも必要ではないだろうか。

さらに言えば、業界専門紙に期待される役割は関係者向けの情報提供にとどまらない。
サポーターと言うとやや誤解を招きそうだが、業界べったりの代弁者ではなく、業界の内外をつなぐ存在であったり、辛口のご意見番だったりと、関係者に対して「ムラの外ではこう見ている」という、いわば風を吹き込むような役割もあると思う。
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※写真(上)は昨年3月末の椿山荘、
 下はお別れの会のスナップです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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