07. 規制・会計基準

損保総研で講師を務めます

セミナーのご案内です。
12月17日(火)に損保総研の特別講座で講師を務めます。
演題は「内外ソルベンシー規制の動向と経済価値ベースの保険ERM再考」です。

損保総研では2000年以降、ほぼ毎年講師を務めていまして、保険会社の経営内容や健全性規制などの「定点観測」をお伝えする機会となっています。
例えば10年前の2009年12月には「金融危機と保険会社経営」という演題で、保険会社の経営分析やリスク管理の現状などをお話ししました。
一昨年の演題は「今だからこそ問われる保険会社のERM」、昨年は「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」でした。

今回は、内外ソルベンシー規制にいろいろと動きがありましたので、まずはその話をしたうえで、後半は規制以外の話をしようと考えています。
師走のご多忙な時期だとは思いますが、機会がありましたらぜひご参加ください。

※ユーザー数が11億とは驚きです

 

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「生活協同組合研究」に寄稿

生協のシンクタンク(生協総合研究所)が毎月発行している「生活協同組合研究」2019.11に寄稿しました。

本号の特集「生協の共済を取り巻く事業環境」のなかで、私が書いたのは「生命保険における健全性規制の動向と保険会社の対応状況」というもの。
リクエストが保険会社の健全性規制でしたので、共済についてはほとんど触れていません。1か所だけ生命保険の責任準備金を説明した際、比較のために「一律保障・一律掛金」タイプの共済商品は「加入者の高齢化が進み、平均年齢が想定よりも高まると運営が難しくなる」という特徴を述べています。

他にも、著名FPである藤川太さんの「人生100年時代のライフプランと共済」や、保険のなかでも新たな業態である少額短期保険による商品開発の動向、ニッセイ基礎研究所の松岡博司さんによる「米国生保市場の動向」など、いずれも直接的に共済について述べたものではありませんが、興味深い論稿が載っていました。

機会がありましたらご覧ください。

※写真はワルシャワのトラムです。

 

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有識者会議メンバーによるパネルディスカッション

ご承知のとおり、金融庁で「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」が開かれています
(月1回ペースのようですね)。
この有識者会議のメンバーである河合美宏さん、松山直樹さん、森本祐司さんと、金融庁の担当者である白藤文祐さんによるパネルディスカッションが、11/9(土)の日本保険・年金リスク学会(JARIP)の研究発表大会で行われます。コーディネーターは有識者会議で座長を務める米山高生先生です。

有識者会議の資料と議事要旨は金融庁HPで公表されますが、メンバーの生の声を聞くことができる貴重な機会です。
ただ、パネルディスカッションの時間が限られているので、ぜひ懇親会までご参加いただければと思います。締め切りは10月30日ですので、お忘れなく!
(JARIPに個人会員として入会するのがお得かもしれません)。

※ポーランドの紅葉(黄葉)です。

 

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少短保険会社への行政処分

ペッツファーストへの行政処分

金融庁の「実践と方針」に、「検査・監督の過程において、法令等に定められた最低基準についての不備が複数の業者に認められ」「根本原因の一つとして、業者において適切なガバナンスが働かず、業容拡大が最優先とされた状況が認められた」とあったので、具体的な内容を知りたいと思っていたところ、5月のエイ・ワン少額短期保険への行政処分に続き、ペッツファースト少額短期保険への行政処分が公表されました。

内容は「決算状況表等の虚偽記載」ですが、読むと信じられないようなことが書いてあります
(以下は私が要約したもの)。

・当社で唯一、保険会社に勤務経験のある代表取締役に業務全般を任せきりにしている。
・代表取締役は、自らが試算したソルベンシー・マージン比率が健全性基準を下回ることが判明したため、架空の契約データを作成し、意図的に未経過保険料を過大計上し、ソルベンシー・マージン比率をかさ上げした。
・決算業務を担当している経営管理部は、データと証拠書類の突合を行っていない。
・内部監査担当は、決算業務に係る監査を行っていない。
・保険計理人や非常勤監査役も、十分な検証を行っていない。

同社には10月18日から3か月間の業務停止命令が出されるとともに、業務改善命令が出されました。
少額短期保険会社は年々増えており、すでに100社を超えました。しかし、このような経営管理レベルの会社も含まれているということを、残念ながら認識しておく必要がありそうです。

認可特定保険業に関する新たな動き

関連して、知人から気になるニュースを耳にしました。
少額短期保険業は、根拠法のない共済への対応として、2005年の保険業法改正で誕生しました。根拠法のない共済は、保険会社になるか、少額短期保険会社になるか、あるいは廃業するかを迫られました。
ただ、その後(2010年)の保険業法改正で「認可特定保険業」という制度ができ、保険会社にも少額短期保険会社にも移行していなかったところが、「当分の間」認可特定保険業者として保険業を続けることができるようになりました
(公益法人として保険事業を行っていたところも対象)。

認可特定保険業には新規参入はできません。ところが報道(有料会員限定)によると、中小企業向けの労働災害の共済に新規参入を認める法案を通そうという動きがあるとのこと。
認可特定保険業を将来的にどうするかという課題をそのままにしたうえで、特定分野だけに新たな共済事業を認めるようにする(行政はおそらく金融庁ではないのでしょう)というのは、にわかに理解しがたいものがありますね。

※お参りした甲斐がありました。

 

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保険会社の健全性政策の見直し

inswatch Vol.999(2019.9.23)に寄稿した記事をご紹介します。
今回は健全性規制見直しの話を寄稿しました。
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有識者会議が始まる

ソルベンシー・マージン比率規制に代表される保険会社の健全性政策を全面的に見直そうという動きがあります。
現行のソルベンシー・マージン比率の導入は1996年でした(比率に基づく早期是正措置の導入は1999年)。しかし、その後相次いだ生損保の経営破綻を防ぐことはできず、破綻会社の契約者は何らかの不利益を被ることになりました。金融庁は2010年にリスク計測やマージン算入の厳格化を行いましたが、これは段階的見直しの第1弾と位置付けられており、本格的な見直しはまだ実現していません。
こうしたなかで、金融庁は5月末に「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」を設置し、6月以降、国際的な議論も踏まえた国内規制の方向性について検討を進めています。

「意図せざる影響」への懸念

第一回事務局説明資料「4.主要な論点」には、新たな規制の導入が関係者にどのような便益をもたらすかといった点に加え、規制導入による「意図せざる影響」を考慮すべきという姿勢がうかがえます。
同じ資料の「3.保険会社の現状」に、「資本市場における保険会社の位置づけ」「保険会社の資産運用の状況」「保険商品の変遷」が示されているのを見ても、新たな規制導入によって保険会社の資産運用や商品戦略が変わりうることを意識しているのでしょう。

検討されている「経済価値ベースのソルベンシー規制」では、資産・負債を時価評価することで、現行規制よりも保険会社(特に生命保険会社)の経営実態やリスク特性をとらえたものとなる見込みです。
実のところ自己規律がしっかりしていれば、新たな規制が入ったとしても基本的には経営戦略を大きく変える必要はないと考えられます。ただし、仮に緩い内部管理に基づいて資産運用や商品開発を行っている会社があれば、新たな規制の導入は経営戦略の見直しを迫ることになるのでしょう。

社会的な役割よりも優先すべきもの

懸念されている「意図せざる影響」のなかには、長期投資家としての機能など、生命保険会社が果たしてきた社会的な役割が果たせなくなるというものがあります。
しかし、そもそもの当局の「意図」として、現行規制を見直すことで、保険会社の健全性を確保したいということはあるはずです(それ以上の意図はわかりませんが)。社会的役割が果たせなくなるからといって、不十分な規制となってしまったら、それこそ本末転倒です。

今後の有識者会議でどのような方向性が示されるのか、今後の議論に注目したいと思います。
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※写真はタイのメークローン市場です。

 

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金融行政方針ほか

出張前ということで、今週公表された金融庁と厚労省の資料から手短にコメントします。

金融行政の実績と方針

金融庁は28日に「利用者を中心とした新時代の金融サービス~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(令和元事務年度)」を公表しました。
本文をみると、金融行政の重点施策として最初に「金融デジタライゼーション戦略の推進」を挙げているほか、地域金融について20ページもの記述があります。

保険関係では、「顧客本位の業務運営の定着」「持続可能なビジネスモデルの構築」「ガバナンスの機能発揮」とありますが、保険販売に関わるかたはこちらよりも、27ページからの「販売会社による顧客本位の業務運営」に注目したほうがいいかもしれません。

今回のキーワードの一つは「心理的安全性」ですね。
本文87ページのコラムによると、心理的安全性とは、「一人ひとりが不安を感じることなく、安心して発言・行動できる場の状況や雰囲気」だそうです。もともとは職場等でのチーム構成員とリーダーとの対話場面を想定しているようですが、「金融機関と金融庁の対話に当たっては『心理的安全性』が重要である」と、立ち位置の違いはあるもののフラットな対話を心掛けているとしています。

厚労省若手チームの提言

厚労省は27日に「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」を公表していますが、こちらのレポート(厚生労働省の業務・組織改革のための緊急提言)も興味深く読みました。

2017年に経済産業省の次官・若手プロジェクトが社会構造の変化と中長期的な政策の考え方を示したことがありました。
資料はこちら(PDF)
今回の厚労省若手チームの提言はそうした政策提言ではなく、働き方改革の旗振り役による、自らの改革の必要性を問うものです。別の言いかたをすれば「ブラック企業における現場の悲鳴」でしょうか。
とはいえ、この提言も正式に公表されたものですから、実情はもっとひどいと思って読んだほうがいいのかもしれません。

「国会答弁資料については、国会開会中はほぼ毎日、深夜に全ての部局が作成をした後、各部局の書記室や大臣官房総務課において、質疑者順・質問順・質問ごとに並べ、場合によっては全部で1,000ページ超に及ぶ資料組みを行い、かつ、資料ごとに問番号等を記載したインデックスを付けるという作業を行っている」(本文28ページ)

「厚生労働省においては、平成30年に1,569回の審議会、検討会等を開催しており、この数は、他省庁と比べても圧倒的に多い。この審議会等の会場設営、受付、資料配布などは、各部局の担当者や、担当ラインではない現業業務のある職員の協力により行われている」(29ページ)

「現在、厚生労働省には、ひと月に平均で10万件を超える電話が寄せられてきている。このうちの相当数は、国民の皆様からのご意見、ご要望等であるが、現在の厚生労働省の『国民の皆様の声受付窓口』の体制では、ひと月に千数百件程度しか対応できておらず、残りは全て、本省内で該当政策の企画立案等を担当する職員がその応答等を行っている」(31ページ)

金融庁に在籍していたときに、いろいろと驚いている私に周囲の皆さんが、「他の省庁に比べて金融庁はずっとマシ」と話していたのを思い出しました。
いずれにしても、このままではいけないでしょう。

※娘がついに20歳になりました。
 父と孫娘の誕生パーティーです。

 

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保険資本規制の有識者会議

経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議(第1回)の資料と議事要旨が、開催から2か月近くたってようやく公表されました。
金融庁のサイトへ

事務局説明資料の最後のほうにある「主要な論点」に示されている基本的な着眼点(の案)は次のとおりです。

・規制導入がどのような便益をもたらすと考えられるか
・規制導入がどのような経路でどのような意図せざる影響をもたらし得ると考えられるか
・制度設計上の各論点の方向性
・移行措置と今後のタイムライン

この資料にはこれまでの検討状況のほか、国際的な議論の状況や保険会社の現状も出ているので、保険業界に関心のあるかたには参考になりそうです。
ただし、諸外国として取り上げられているのが欧州(ソルベンシーII)と米国だけなのがちょっと残念でして、例えばアジア各国ではすでに経済価値ベースの資本規制(あるいはそれに親和的なもの)が次々に導入されつつあります。

2018年11月の「生命保険経営」に掲載された「アジア太平洋地域の生保資本規制と国際資本基準」によると、著者Wang Luさんが所属する第一生命グループが事業展開している5か国(オーストラリア、タイ、インドネシア、インド、ベトナム)のうち、インドとベトナムを除く3か国で経済価値ベースとの親和性が一定程度認められる規制が導入されているとのことです
(タイは2019年の導入予定)。

他にも、中国では2016年からリスクベースおよび市場に基づく評価を特徴としたC-ROSS (China Risk Oriented Solvency System)を導入していますし、シンガポールも導入済みという認識です。
韓国では最近、金融当局がIFRS17号の採用と同じタイミングでK-ICS(Korean Insurance Capital Standard)を導入するとアナウンスしています
(長期間の移行措置が設けられるようですが)。

つまり、導入の賛否は別として、アジア・太平洋地域の主要国で経済価値ベースのソルベンシー規制を導入していない(または導入時期を示していない)国はもはや少数派と言える状況なのですね。

※スイーツ三昧!

 

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生保に資本積み増し促す

5日の日経・金融経済面に「生保に資本積み増し促す 金融庁『低金利』で新規制検討」という記事が出ました。
「金融庁は保険会社に対し、自己資本の積み増しなどを求める新規制の検討に入った」なんて書いてあると、まるで金融庁が近年の金利低下を受けた新たな規制を検討しているみたいですが、そうではなく、2007年の金融庁報告書が示した段階的なソルベンシー規制見直しの第二弾がようやく実現に向かうという話です。

電子版にコメント

実は紙版と電子版では記事が微妙に違っていて、電子版(有料会員限定)には私のコメントが載っています。
紙版ではスペースの関係で最後の部分がカットされてしまったみたいでして、その部分は次のとおりです。
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(前略)キャピタスコンサルティングの植村信保氏は「今後は時価評価を意識した経営管理が求められる」と話す。
一方で業界では反対論も根強い。富国生命保険の鳥居直之取締役は「規制の数値目標の達成を目指す行動が、顧客の期待に反するものになりかねない」と警戒する。規制が先行した欧州の生保では、予定利率を保証する商品の販売停止や保有契約の売却が相次いだ経緯がある。」
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「業界では反対論も根強い」とありますが、すでに多くの保険会社では検討される規制(経済価値ベースのソルベンシー規制)と同じ考え方による経営管理を導入しています。
私のコメントも、「今後は『ますます』時価評価を意識した経営管理が求められる」のほうが正しいのでしょう。

規制強化に備えた動きとして記事で紹介されている日本生命の自己資本強化ですが、清水社長のコメントをよく読むと、将来の規制云々ではなく、金利水準が一段と下がり、それが長続きしそうなので、自己資本を増やすというものです。
第一生命のリスク移転も新たな規制検討を意識したというよりは、経済価値ベースでの経営管理の一環としてリスク削減に取り組んだものです。
第一生命HDのIR資料(PDF)(17~18ページ)

つまり、6月12日のブログなどで書いたように、生保の経営環境は非常に厳しいので、新規制の検討とは別に、資本増強やリスク削減をしないと健全性を維持できないという経営判断があるのだと思います。

長期商品への影響

さらに、この記事で気になったのが、新たな規制が導入されると、「契約期間の長い終身保険などは販売の見直しにつながる可能性がある」「特に契約期間が長い商品では、運用リターンを高められなければ『商品開発が難しくなりかねない』」といった、長期商品の販売見直しについて繰り返し懸念が示されていることです。

でも、本当にそうなのでしょうか。

仮に、「保険金額が1000万円を超える死亡保険の提供を禁止する」「米ドル建て保険の提供を禁止する」といった規制が検討されているのであれば、「1000万円を超える死亡保障ニーズに応じられなくなる」「米ドル建て保障へのニーズに応じられなくなる」という懸念を繰り返すのは理解できます。
しかし、検討されている規制(経済価値ベースのソルベンシー規制)は現行のルールを制限しようというものではありません。現行のソルベンシーマージン比率ではうまく把握できていない保険会社の経営リスクをより捉えられる規制に見直そうというものです。

いわばモノサシの感度をよくしようとする内容なので、新たな規制になると長期商品が提供できないというのであれば、いまでも提供できないはずなのです。
言い換えれば、新たな規制のもとでは提供できないような長期商品を提供している会社は、経営リスクに対し、(おそらくわかっていながら)目をつぶっていることになります。

もし、時間がたてば外部環境がよくなる(=だから経済価値ベースの規制は弊害が大きく、顧客の期待に応えられなくなる)というのであれば、結果としてそのような考えをとっていた生保経営や保険行政が、過去にはどういう結末を迎えたか、破綻した日産生命や協栄生命の事例を私の本などでもう一度確認していただければと思います。

※週末は毎年恒例RINGの会オープンセミナーでした
 (今年は第1部だけの参加となってしまいましたが…)

 

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契約者保護機構の国際会議

台北で保険契約者保護機構の国際会議に参加し、日本のソルベンシー規制についてスピーチをしてきました。

保険契約者のためのセーフティネットは国によって組織形態も保護スキームも異なりますが、2013年に国際組織(IFIGS)が結成され、毎年どこかで情報交流が行われています。
メンバーはご覧のとおりで、日本は今のところ加入していません。
IFIGSでは台湾の保険安定基金(TIGF)が積極的な役割を果たしているようで、今回の2019 IFIGS Asian Conferenceも数年前に続き、台北で開かれました。

今回のテーマは「平時の保護機構」ということで、保険会社の再建・破綻処理計画(RRP)と、破綻を防ぐための取り組みの2点について各国のスピーカーが発表し、議論が行われました。

私の役割は専ら後者で、日本のORSAについて、「形式的な対応に陥りがち」という声が出ていることを紹介したところ、「ドイツではソルベンシーIIの情報開示負担が重くて困っている」というコメントがあったほか、懇親会などでも「ORSAはコンプライアンスとして受け止めている」という声を耳にしました。

特にアジアの保険会社では、経営陣は「リスク管理は重要」と言うのだけれど、それが当局主導で進めるERMやORSAとは必ずしも結びついておらず、コンプライアンスと化してしまい、リスク管理部門はその対応に追われるという実態があるようです。
「上層部の意識を変えるにはどうしたらいいか」という声も耳にしました。

あと、破綻を防ぐための取り組みとして、カナダの損保保護機構(PACICC)から、「過去の破綻事例を研究し、そのレポートを公表している」という紹介がありました。
カナダ損保の事例だけでなく、昨年は規模の大きい事例としてオーストラリアのHIH社の事例を研究したそうです。後日読んでみようと思います。

カナダの場合、外資系保険会社が多いので、経営危機に陥る要因として「親会社の破綻による影響」が重要なのだとか。確かに日本でも、損保は規模の小さい外国損害保険会社(支店形態)がそこそこありますね。

※最後の写真はお昼のお弁当です。

 

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改訂CGコードへの対応状況

本題とは関係ありませんが、この記事の「業界で縁起が悪いとされている地域」に思わず反応してしまいました(苦笑)
ただし、「早期解約の場合は保険会社の費差益がマイナスになってしまうケースが大半」ということはないと思います。
節税保険祭り終了、怒れる国税庁が鳴らした「生保業界再編」の号砲

問題は「順守率の低下」ではない

さて、私のほうは、22日の日経記事「統治指針、順守率が低下」「改定に対応追いつかず」(有料会員限定)が気になったので、こちらを取り上げます。
東京証券取引所がコーポレートガバナンス(CG)コードへの対応状況を公表したことを受けた記事です。

・東証がコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)への対応状況について2018年末時点の集計結果を公表
・「取締役の多様性確保」など2018年6月の指針改定で変更になった原則の順守率低下が目立った

CGコードを「統治指針」と表記するのはともかく、コンプライ率を「順守率」とするのはちょっと違和感があります。
このコードは上場会社が守るべきルールではなく、実効的なガバナンスを実現するための規範を示したものです(原則主義ですね)。ですから、文言や記載よりもその趣旨や精神が重要なのであって、すべての会社が100%のコンプライを目指すようなものではないのです。
「順守率が低下」というと、ルールを守っていない会社が増えたように読めますよね
(以下では「実施率」としておきましょう)。

とにかくコンプライ

改訂前のCGコードの実施率は非常に高い状況でした。高いからいいという話ではありません。上場会社はコンプライアンス対応と同じようにとらえ、原則の内容よりも、とにかくコンプライする方向に走ってしまったようです。

例えば、経済産業省が実施した「平成29年度コーポレートガバナンスに関するアンケート調査」では、CGコードへの対応状況について尋ねています。
そこでは、「コンプライしているものの、形式的な対応にとどまり、実質的な取組にまで至っていないものがある」という回答が28%、「他社の取組水準と遜色ない水準の取組を行う方向で検討いている」が16%、「コンプライすることが当然だという風潮になっていると感じ、強く意識している」が10%ありました(複数選択可)。
このアンケートへも形式的な対応(=優等生的な回答)をした会社があるはずなので、実際の数字はもっと大きいと考えられます。
経産省のサイトへ(参考資料2の26ページ)

形式的な対応で損をしている

東証が取りまとめたCGコードの対応状況で注目すべきは実施率が下がったことではなく、改訂後も実施率が総じて非常に高いことだと思います。
特に、原則3-1(情報開示の充実)が東証1部で92.7%(△1.5pt)、補充原則3-1(1)が99.6%(△0.3pt)という回答が実質を伴っているのであれば、金融審議会ディスクロージャーWG報告に基づく府令の改正も情報開示のガイダンスも必要ありません。

日本では原則主義にあまり馴染みがないとはいえ、形式的な対応をすることで、上場会社はせっかくの対話の機会を逃している、あるいは、開示情報が信頼されず、結果として会社価値を外部から低く見られることになるので、もったいないなあと思います。

※ハワイではなく、横浜で食べました

 

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