07. 規制・会計基準

金融庁が新規制の検討状況を公表

金融庁の事務年度は7月から6月なので、6月末にいろいろと公表されています。そのなかに「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する検討状況について」がありました。
全部で143ページもの資料で、技術的な内容を多く含んでいますが、「はじめに」のところに「2022年に制度の基本的な内容を暫定的に決定することを目標に、検討を継続していく予定である」とあります。昨年6月公表の有識者会議報告書(PDF)を受けて、経済価値ベースのソルベンシー規制導入に向け、金融庁はスケジュール感を持って動いていることが示されました。

第2の柱、第3の柱に関する記述が相変わらず少ないのはやむを得ない(第1の柱の標準モデル検討を優先)のかもしれません。
しかし、少し気になったところもあります。今回の「検討状況」には第2の柱について、有識者報告書の「標準モデルにおいて十分にカバーされていないリスクの捕捉」についての記述はあるのですが、「ERMやORSAの枠組みに関する一定の目線を定め、実態把握に基づいて改善・高度化を促していく」についての記述が見当たりません。
有識者報告書では第1の柱と第2の柱をセットでとらえ、第1の柱を「最大公約数的」「政策措置あり」としたうえで、第2の柱でリスク管理の高度化を促す、こうした規制を想定していると読めます。ですから、技術的な検討とは別に、第2の柱を具体的にどう機能させるのかといった議論が必要であり、今後の課題なのだと理解しました
(もしかしたら別のレポートで何か示されるのかもしれませんが…)。

関連情報(私の備忘録?)として、6月28日付けで日本アクチュアリー会が保険負債検証レポートに関する資料を公表しています(資料の日付は3月5日となっていますね)。
もっとも、検討の背景や検討項目、結果の概要などを一般に示していないので、これだけ見てもよくわからないかもしれません。

執筆のご案内

最後にご案内です。大手損保グループの2020年度の決算発表を踏まえ、今年もInswatch週刊金融財政事情に寄稿しました。もし両媒体を目にする機会がありましたら、ご覧いただけるとうれしいです。
過去10年間に自動車保険の保険料シェアがどう変わったのかを確認しようとしたところ、分母の業界全体の数値が途中で変わってしまい、補正でもしないと実態がよくわからないことが(今さらですが)わかりました。合併によって取れない数値があることも判明し、こういうときにAIだったらどう対応するのだろうなんて余計なことも考えてしまいました。
火災保険の元受保険料に占める出再保険料の割合が4割前後まで高まっているのにも注目すべきかと思います。

※RINGの会オープンセミナーが2年ぶりに開催されました(オンライン開催)。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ソニーがIFRSを任意適用へ

ソニーが連結決算で適用する会計基準を、従来の米国会計基準(US-GAAP)から国際財務報告基準(IFRS)に替えるという発表がありました。2021年度の決算(第1四半期)からIFRSによる開示が始まります(2021年度って、この4月からですよね!)。
ソニーのニュースリリースはこちら(PDF)です。

ソニーがIFRSを任意適用するということは、昨年ソニーの完全子会社となったソニーフィナンシャルホールディングス傘下のソニー生命も、連結決算のためにIFRSによる決算対応を行うことになります。グループがIFRSを適用している生命保険会社にはアクサ生命や楽天生命などいくつかありますが、ここに資産規模が10兆円を超えるソニー生命が加わります。3メガ損保など上場保険グループは今後どう対応するのでしょうか。

IFRS17号(保険契約)の発効は2023年なので、早期適用が可能とはいえ、この4月からは暫定基準のIFRS4号を使うことになるのでしょうか。そうだとすると、US-GAAPと日本基準の違いである繰延新契約費(新契約コストを繰延資産として計上)がIFRSでも受け継がれ、これまでとあまり変化はないのかもしれません。
ただ、遅くとも2年後のIFRS17号適用となると、保険負債の評価が大きく変わり、毎期の損益もだいぶ違うものとなりそうです。もっとも、契約上のサービスマージン(CSM)の残高と取り崩し方法、あるいは割引率の設定方法しだいという気もします。

過去の決算データを確認すると、ソニーのセグメント別利益のなかで、金融はこれまで安定的に利益を計上してきました。2016年3月期のように超長期金利が低下し、MCEVが大きく減っても、他のセグメントでしばしば見られるような損益の大きな落ち込みはありませんでした。
これは、ソニー生命が金利以外の資産運用リスクをできるだけ抑えてきたことと、US-GAAPも日本基準と同様に責任準備金がロックイン方式なので、金利変動による負債面の影響をほとんど反映していなかったことが大きいと考えられます。

※福岡・愛宕神社からの景色です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

「国際的に活動する保険グループ」の指定

今週のInswatch Vol.1058(2020.11.09)に寄稿しました。
このような話も進んでいるという情報提供です。
——————————

保険数理の専門家が集まる日本アクチュアリー会の年次大会がありました(6日)。例年であれば東京駅周辺の会場で行うのですが、今年はライブ配信を中心としたオンラインでの開催となり、ありがたいことに福岡から参加できました。

保険の国際規制

さて、今回は国際的な規制の話です。
3メガ損保グループをはじめ、大手保険グループは近年、海外での保険事業を拡大してきました。保険会社がグローバル化する一方、各国の規制当局は法域を超えた監督・規制を行うことが実質的にできませんので、国際的な連携が不可欠となります。
そこで、日本の金融庁もメンバーとなっている保険監督者国際機構では、資本規制を含む新たな監督・規制の枠組みを整備してきました。具体的には、各国の規制当局がその国に本拠を置く保険グループのうち、国際的に活動するグループ(IAIG)を指定し、IAIGを中心に追加的な対応を行うというもので、先月末に金融庁が日本のIAIGを初めて公表しました。

日本のIAIGは4グループ

金融庁が指定したIAIGは次の4グループです。

・第一生命ホールディングス株式会社
・東京海上ホールディングス株式会社
・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社
・SOMPOホールディングス株式会社

IAIGに指定する定量基準は、「3以上の法域で保険料を計上」かつ「本拠法域外のグロス計上保険料が、グループ合計のグロス計上保険料の10%以上」という国際的な活動状況と、「総資産が500億米ドル以上」または「総グロス計上保険料が100億米ドル以上」(いずれも3年移動平均)というものです。加えて、各国の当局が必要と判断すれば、これらの基準に合わないグループもIAIGに指定できます。

3メガ損保グループのIAIG指定は定量基準から順当です。
他方で大手生保5社のうち、今回指定されたのは第一生命グループだけでした。金融庁は定量基準に合ったグループのみを指定し、規模の大きい日本生命や住友生命、明治安田生命、かんぽ生命は指定外としました。

指定による制約は限定的か

IAIGに指定された保険グループは、ストレス発現時の再建計画の策定や国際資本基準(ICS)の遵守が求められ、海外当局と連携した「監督カレッジ」によるモニタリングを受けます。
もっとも、監督指針の改正案(10月末公表)によると、金融庁はIAIG以外にも必要に応じて再建計画の策定を求めるようなので、IAIGに指定されなかったとしても、おそらく大規模で複雑な業務を行う保険グループはIAIGと同じ対応が求められます。
また、2025年の導入が見込まれている新たなソルベンシー規制はICSをベースとしたものとなる見込みなので、IAIG指定で競争上不利になることはなさそうです。

なお、一部は非公表ですが、アクサや米プルデンシャルといった日本で活動する外資系保険グループの多くもIAIGに指定されているとみられますので、国内勢だけが新たな規制を受けるのではありません。
——————————

※カナダとUSAに行ってきました^^v

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

金融庁が新規制の関連情報を公表

経済価値ベースのソルベンシー規制に関して、金融庁が関連情報を取りまとめたサイトを新設しました。
金融庁のサイトへ

有識者会議の報告書を公表したのと同じ6月26日に、金融庁は「2020年フィールドテストの実施及び有識者会議を踏まえた今後の方向性について」という資料を出し、規制導入に向けたフィールドテストを保険会社に求めています。
フィールドテストの実施はこれで6回目となりますが、今回金融庁は「仕様書」「テンプレート」を初めて公表しました。

金融庁がフィールドテストを保険監督者国際機構(IAIS)の検討するICSに準拠して実施していることから、今回の「仕様書」もICSの2020年版データコレクション(市場調整評価手法)がベースとなっています。
ただし、「『動的な監督』の一環として、保険会社の健全性の将来的な持続可能性の検証や保険会社との対話等において、本試行の結果を活用することを予定している」とあり、フィールドテストを新規制の標準的な手法を確立するためだけでなく、現在の監督・規制にも役立てるとのことです。

このところICS準拠でのフィールドテストが続いていたため、仕様書やテンプレートの開示内容に大きなサプライズはないと思われます。とはいえ、経済価値ベースのソルベンシー規制に関する新たなサイトを設け、関連情報を開示したことで、有識者会議報告書を受けた金融庁の「本気度」が伝わってきます。

※梅小路の京都鉄道博物館に行ってきました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

有識者会議の報告書

経済価値ベースのソルベンシー規制の導入などについて検討を行ってきた有識者会議の報告書が公表されました。
「ソルベンシー規制の今後あるべき姿として、経済価値ベースで保険会社のソルベンシーを評価する方法を目指すべきである(5ページ)」と提言した2007年4月の報告書(PDF)の公表から10年以上がたち、「保険会社の内部管理において経済価値ベースの考え方を取り入れる動きが進む一方、保険監督者国際機構(IAIS)における国際資本基準(ICS)をはじめとする国際的な動向の進展もみられた」(報告書1ページより)なかで出されたものです。

個人的な注目点をいくつか取り上げてみましょう。

検討タイムラインの設定

2007年の報告書にも「平成22年(2010年)を見据えて不断の作業を進める」とありましたが、今回の報告書では2025年の導入を前提に、より具体的なタイムラインが示されました。

・2022年頃 制度の基本的な内容を暫定的に決定
・2024年春頃 基準の最終化
・2025年4月より施行

まずは2022年をターゲットに、金融庁が来月からの2事業年度で制度の基本的な内容を詰めていくことになります。

第1の柱と第2の柱の関係

報告書では「保険会社の内部管理のあり方も踏まえた多面的な健全性政策」を念頭に、新たな健全性政策の内容を「3つの柱」の考え方に即して整理しています。

・第1の柱(ソルベンシー規制)
・第2の柱(内部管理と監督上の検証)
・第3の柱(情報開示)

第1の柱と第2の柱のバランスは結構難しくて、第1の柱のあり方によって、報告書でも懸念する意見があるように、保険会社のリスク管理の高度化が停滞する可能性があります。さりとて「第2の柱で見ればいい」となってしまうと、監督介入が遅れたり、恣意的なものとなったりしてしまいます。

「経済価値ベースの第1の柱は2025 年に導入することを前提として検討を進めていくべきである。一方、それまでに保険会社の内部管理態勢及び金融庁の監督態勢の双方を高度化し、経済価値ベースの制度への円滑な移行を促す観点からは、第2の柱に関する取組みは、第1の柱の導入を待たずに早期に開始することが適当である」(33ページ)

「リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)上では、割引率につき標準モデル上の手法(終局金利(UFR)に基づく補外等)以外の手法も用いて評価を行うことや、自社の保険契約・運用資産のポートフォリオの特性を反映した粒度の高いデータに基づく、より精緻なリスク計測手法を用いること等も視野に入りうる」(35ページ)

報告書のこうした記述を見るかぎりでは、第1の柱はあくまで「最大公約数」であり、リスク管理の高度化を促すフェーズでは、第2の柱が重要という整理のようです。

「厳格化」には触れず

2007年4月の報告書(PDF)では、ソルベンシー・マージン比率の信頼性を向上させて行く努力が必要として、次の記載がありました。

「段階的な取組みの一歩として、例えば95%程度を信頼水準引上げの目標とするのであれば、保険会社に対する財務上の影響や、健全性評価に対する信頼性の向上の両面からみて適当ではないかと考えられる。(中略)そして、経済価値ベースのリスク評価への移行を前提とした上で、国際的な動向も見据え、更に信頼水準を引き上げていくことが適切である」

所要資本(リスク量)の計算を90%から95%へ引き上げるのはあくまで段階的な取り組みの一歩であり、経済価値ベースの規制に移るとともに、さらにハードルを上げることが提案されていました。

今回の報告書には、第1の柱における信頼水準について記載がありません。
ただ、「国内規制における標準モデルについては、ICSと基本的な構造は共通にしつつ検討を進めていくことが適当である」(14ページ)とあり、これまでの国内フィールドテストでもICSを参照してきたことから、普通に考えればICSの「99.5%」がそのまま採用されるのでしょう。
20年に1回から200年に1回の水準に上がるので、前回の変化よりも大きそうですね。

※宮崎県産の完熟マンゴーと福岡県産のブルーベリーです♪

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

保険代理店との対話

金融庁(および財務局)は6月が年度末なので、連日いろいろな公表物が出ています。
保険関係では19日(金)に関東財務局が保険代理店に対するヒアリングの実施結果を公表しています。タイトルは「保険代理店との対話を通じて『見て、聞いて、感じた』こと。」です。

改正保険業法の施行から3年以上が経過したので、保険代理店に対してアンケート調査とヒアリングを実施し、新たな保険募集ルールの定着状況を確認したとのこと。「行政の現場は事務室や会議室だけではない。保険募集の現場を知らずに監督ができるのか?」と考え、対話を実施したそうです(本当にそう書いてあります)。

具体的な記述のなかには、代理店経営に参考になるものもありそうです。

読後感として、あえて辛口のコメントをするとしたら、次の2点でしょうか。
1つは対話を終えて、当局として現状をどう評価し、今後どうしたいのかが、必ずしも明らかになっていない点です。
「多くの気付きや強い感銘を与えてもらえるものであった」とは書いてあるのですが、それでは「保険募集の現場は変わったのか(=新ルールが定着し、意図していた効果を発揮しているか)」という当局の疑問は果たして解消したのでしょうか。

もう1つは、ヒアリングを実施したのは2019年10月から2020年2月というコロナ流行前であっても、その後のコロナ禍で保険代理店の経営環境が大きく変わっているのに、それについては全く触れていない点です。
例えば、「電話募集がメインであったところ、『顧客に顔もみせない営業方針なのか』と苦情を承り、全ての契約者と面談を実施することにした。結果、的確な意向把握等といった業務改善に至っている」という事例をいま紹介されても…とつい思ってしまいます。

3月以降のコロナ禍での新たな知見はなかったのでしょうか。現場ではいろいろなことが起きていると思うのですよね。
オンライン営業を求める代理店と、解禁を渋る保険会社との攻防が各所であったとも聞きますし。

もちろん、保険代理店に対する監督当局の理解が深まるのは非常にいいことなので、この知見を関東財務局(の今の担当者)だけに留めてしまってはもったいないです。金融庁とも連携し、継続して取り組んでいただければと思います。

※写真は福岡市赤煉瓦文化館。日本生命の九州支店だった建物だそうです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

会計基準の柔軟な運用

週刊金融財政事情(2020.4.20)の書評「一人一冊」で、沢渡あまねさんの「仕事ごっこ その”あたりまえ”、いまどき必要ですか」をご紹介しました。本書は日本の職場ならどこにでもありそうな12の事例を取り上げ、なんと童話を使ってわかりやすく伝えています。
形骸化した仕事や慣習、仕事のための仕事といった「仕事ごっこ」はなかなか絶滅しません。でも、新型コロナで思いがけず業務の見直しを迫られた結果、こうした「仕事ごっこ」がなくなるといいですね。

会計基準の柔軟な運用

25日の日経1面トップ「決算、コロナの影響緩和」「引当金や減損 世界で柔軟対応」によると、日米欧の当局が会計基準を柔軟に運用できるよう動き始めたとのことで、将来の価値を過度に悲観的に見積もらなくてもいいようにし、経済収縮の悪循環につながることを防ぐのだそうです。

当局が金融機関の健全性規制を一時的に緩和し、実体経済の悪化に拍車をかけないようにするというのはまだ理解できます。もし事態がさらに悪化し、金融機関の経営が一段と悪化しても、当局ができることはあります。
しかし、ある事業会社が会計基準を柔軟に運用し、監査法人も楽観シナリオを許容し、結果として決算数値がそれほど悪くならなかったとして、銀行は「(例えば)決算が赤字にならなくて、ホッとしました」と、そのまま取引を続けるのでしょうか。もしかしたら、事業会社と銀行の関係だとそうなるのだとしても、投資家は同じような目線でその事業会社を見るでしょうか。

ガバナンス改革の真価が問われる

こうした会計基準の話になると、私の偏見かもしれませんが、どうも情報発信者の論理が優先されがちで、情報の利用者は二の次となってしまうように思えてなりません。
でも、考えてみてください。公表された会計情報が信用できないと判断した投資家は、どのように行動するでしょうか。情報を必要以上に保守的にとらえ、相手に大きなディスカウントを要求する、あるいは、そもそも投資を見送るでしょう。やはり経済は収縮します。

日本は間接金融が中心だと言われてしまえばそれまでです。ただ、日本銀行「資金循環の日米欧比較(PDF)」によると、2019年3月末における民間非金融法人企業の金融負債に占める借入の割合は24.3%で、ユーロエリア(28.7%)よりも低い水準です(米国は7.1%)。1990年代までに比べると、借入の位置付けはかなり下がっています。
この間、証券市場からの調達が増えたのではなく、資本(内部留保)が積み上がったからこそ、日本では政府主導でガバナンス改革が進められてきました。

会社経営のガバナンスは平時にどう機能しているかも重要とはいえ、非常時にはその真価が問われます。非常時ゆえに決算発表の延期は仕方がないにしても、もし決算数値そのものを歪めるるような対応をとるのであれば、投資家をはじめとしたステークホルダーが理解し、納得できるような説明をする必要があると思います。

※自宅でシイタケ栽培。美味しくいただきました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

新資本規制とランオフ

有識者会議メンバーが寄稿

国際資本規制、生保『2025年の崖』(有料会員限定)」という記事をご覧になったでしょうか。IAIS(保険監督者国際機構)で事務局長として保険の国際資本規制に長く関わってきた河合美宏さんが書いたものです。
河合さんは金融庁の有識者会議(経済価値ベースのソルベンシー規制見直しに関するもの)のメンバーでもあります。

例えば、次のようなことが書いてあります。

「世界的な金融危機の火種を消そうと健全性確保を強める規制強化で、25年がマイナスの影響に傾いていく『崖』と映るかもしれない。しかし、この新規制は国際競争力を備える契機となる『登山道の入り口』と考えた方がよい。チャンスと捉え、積極的に前向きに準備を急ぐべきだと筆者は考えている」

「国際新規制をいち早く受け入れれば、健全性をタイムリーに把握するだけでなく、自社を客観的に分析でき、不採算事業を整合的に整理することにもつながる。世界的な競争の中で、日本の生保が国際競争力を身につける絶好のチャンスだ」

新資本規制が社会との摩擦を招く?

私が気になったのは河合さんの書いた文章ではなく、これを受けた「編集者から」のコメントです。
この匿名の編集者は、日本で新資本規制を導入した場合、新しい規制に乗り遅れた劣後する生命保険会社が「禁断の領域(=ランオフの実施)」に入るか注目しているそうです。保険契約を一方的に第三者に譲渡することに日本の顧客は抵抗が強く、「新規制は生保が国際競争力を高める好機となる一方で、社会との摩擦が起きそうな予感がする」とのこと。

確かに、現行よりも経営実態を示すであろう新規制のもとでは、早期に退出する会社が出てくるかもしれません。
でも、これは「意図せざる影響」というよりは、むしろ意図どおりの影響です。過去の生保破綻では、健全性に問題があったにもかかわらず、規制をクリアしていたため、結果的に対応が遅れたというケースが多く見られました。日本のソルベンシー規制の見直しはこうした過去の反省に立って行われています。
規制の目的は国際競争力を高めるためではなく、河合さんもそうは書いていません。

ランオフが禁断の領域というのもどうかと思います。
例えば、リーマンショックの後、銀行向け貯蓄性商品を提供していたハートフォード生命や東京海上日動フィナンシャル生命などが新契約の募集を停止し、既契約の維持管理会社となったという事例があります。
その後両社はそれぞれオリックス生命、東京海上日動あんしん生命に吸収されました。顧客の心理的な抵抗はあったかもしれませんが、破綻したわけではなく、もちろん契約条件は元のままです。経営が破綻し、将来受け取れるはずだった保険金額がカットされるような話とはまるで違います。

「資金繰りに窮したり、新規事業へ資源を集中したりする際、国際資本規制下では経済合理的な判断として、事業の選別を強化する方向に傾くとみている」というのも考えてみればおかしな話です。
こうした経営判断は規制の有無にかかわらず行われるものですし、事業の選別はむしろ低金利や高齢化といった外部環境の変化を踏まえ、経営としてどこでリスクをとっていくかという意思(リスクアペタイト)によるところが大きいのではないでしょうか。

そもそも検討されている規制は事業の制約を設けるものではなく、見えにくかったものを見えやすくする規制なので、新たな規制の下でできない事業があるとすると、今でも本当はできないはずなのに、無理をしているということになりますね。

河合さんの文章の後にこうした「解説」を載せるのは、何かの意図があるのでしょうか?

※写真は仙台です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保の解約と手数料体系

釜山に出張

写真が先行しましたが、1月4日に韓国・釜山でリスクマネジメントと保険の国際学会(日本、韓国、台湾の保険学者がメンバー)があり、発表をしてきました。
私の発表は、日本、ドイツ、韓国、台湾という、伝統的な生保商品が中心で、かつ、歴史的な低金利に直面しているマーケットにおいて、保険会社がどのような経営行動をとったのかを比較するというもので、このところ継続的に行っているケーススタディのアップデートです。いずれは日本語でもどこかに掲載したいと思っています。

ちなみに発表者の多くはデータを用いた実証分析で、ケーススタディは私だけでした。

手数料と解約の関係

韓国の研究者の発表に、生命保険の解約に関するものがありました。
韓国生保の解約状況を月次データで追うと、契約してから1年後と2年後にピークがあり(特に1年後がどの保険種目でも顕著)、分析の結果、初年度に傾斜した販売者への手数料体系が解約に影響していることがうかがえたとのことです。

韓国や台湾の解約率は日本に比べると相当高いようで、貯蓄性の強い商品をプッシュ型セールスで提供している弊害が表れているのかもしれません。
こうした早期解約と手数料の関係は、おそらく現場では広く知られているのでしょう。ただ、アカデミズムの視点でこの問題を取り上げることが重要なのだと思います。

そういえば、昨年12月18日に公表されたかんぽ生命の特別調査委員会の調査報告書でも、不適正募集を助長した要因として、新規契約獲得に偏った手当等の体系が挙げられていましたし、乗換契約に関する特有の原因として、「社内ルールに不明確な点があったため、形骸化や潜脱を招き、適切な運用がなされていなかった」という指摘がありました。

各社ともリスク管理の一環として解約データの分析を行っているはずですが、どのような分析を行っているのかは会社に委ねられています。
他方で、外部からのモニタリングはデータの制約があり、たいした分析ができません。あとは金融庁がどこまで深くモニタリングを行うかですが、金融庁のリソースにも限りがあります。例えば金融庁が入手した解約等のデータを外部の研究者等に提供し、手数料体系や商品特性、チャネル属性と解約の関係を分析してもらうといった取り組みがあってもいいように思います。

※写真は韓国・釜山港です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ソルベンシー規制の方向性

18日に公表されたかんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会の調査報告書をざっと読んでみました。
報道のとおり、募集人アンケート(かんぽ生命の募集業務に従事する日本郵便の職員3万8839人が回答)で、不適正募集を職場で見聞きしたことがあると回答した人が半数程度もいたというのが衝撃的です。多くの職員が不適正募集の事実を知っていたにもかかわらず、その情報が上層部に届くことはなかったのですね。
さらに、監督官庁の1つである総務省の事務方トップが日本郵政の幹部に機密情報を漏らしていたとは。これを契機に法令を改め、監督は金融庁に一本化すべきではないでしょうか(もちろん総務省からの出向も禁止ですね)。

タイムラインを仮置き

さて、本題はこれからです。金融庁が公表した「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議(第5回)」の事務局資料を見ると、金融庁は11月の会議で規制の方向性をある程度示そうとしたことがうかがえます。

例えば4ページには、「単純にESRの水準のみに基づく機械的・画一的な規制とするのではなく、『3本の柱』の考え方に基づく健全性政策全体のあり方を検討していく」(ESRは経済価値ベースのソルベンシー比率のことです)とありますし、1つの考え方として、「第1の柱の基準や監督介入の内容を過度に厳しいものとしない一方で、第2の柱と第3柱を通じて適切な規律が働くような枠組みとする」(5ページ)とも書かれています。

より注目すべきは、「現時点においては2025年からの国内規制の適用開始を一旦の前提とし、それまでの準備期間に必要な対応についても議論を深めていくことが必要ではないか」(6ページ)とタイムラインが示されていることでしょうか。
確かにそうでもしないと、いつまでも先に進まないでしょうから、タイムラインの設定は重要だと思います。これですんなり決まるかどうかはわかりませんが、導入時期が決まれば保険会社も必要な準備を進めることができるでしょう。

実質資産負債差額について

事務局資料には、「経済価値ベース規制への移行時には、ソルベンシー規制からは実質資産負債差額に関する定めを撤廃したうえで、会計ベースのバランスシートに関する補完的な指標として必要な場合に活用していくことが適当ではないか」(11ページ)という記述もありました。

経済価値ベースのソルベンシー規制を導入したら、実質資産負債差額は当然廃止するのだろうと思いきや、メンバー・オブザーバーの意見は必ずしも一致していないようです。
これまでの議事要旨にも廃止に反対する意見が載っています。

「(新規制下においては)経済価値ベース指標のみに機械的に依存するのではない多面的な監督の枠組みを確保することが重要であり、実質資産負債差額はその1つの方策としての可能性はあると思う。仮に廃止するとことになった場合、経済価値ベースの指標のみでデジタルに会社の状況が判断されることがないように、標準責任準備金制度や商品認可制度なども含め多面的な監督の枠組みを確保する必要があると思う(後略)」(11月)

「実質資産負債差額は、解約返戻金もしくは全期チルメルベースの標準責任準備金を上回る時価ベースの資産を保有しているかという指標であり、金利リスクへの対応というよりも別のものを見るためのものと理解している。標準責任準備金制度の中では非常に重要なパーツであり、一定の修正は必要かもしれないが、存置する方向ではないかと思う」(10月)

「実質資産負債差額は、財務諸表を見るための補強材料として機能している部分があるので、そうした観点からの意義はあるのではないか」(10月)

過去の議事要旨やJARIP(日本保険・年金リスク学会)大会での議論などからすると、実質資産負債差額という規制を残したいという声は、どうも業界サイドから上がっているようです。
しかし、解約返戻金または全期チルメル式の標準責任準備金を上回る資産を常に確保しておかなければならないとすると、生命保険会社はどうやってALMを実行したらいいのでしょうか。経済価値ベースの保険負債とロックインの責任準備金を両立させるには、多額の資本を持つしかありません。

それでも事務局資料は一定の方向性を打ち出そうとしたということで、20日の会議を含め、今後の議論に引き続き注目しましょう。

※汐留のクリスマス・イルミネーションです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。