07. 規制・会計基準

生保に資本積み増し促す

5日の日経・金融経済面に「生保に資本積み増し促す 金融庁『低金利』で新規制検討」という記事が出ました。
「金融庁は保険会社に対し、自己資本の積み増しなどを求める新規制の検討に入った」なんて書いてあると、まるで金融庁が近年の金利低下を受けた新たな規制を検討しているみたいですが、そうではなく、2007年の金融庁報告書が示した段階的なソルベンシー規制見直しの第二弾がようやく実現に向かうという話です。

電子版にコメント

実は紙版と電子版では記事が微妙に違っていて、電子版(有料会員限定)には私のコメントが載っています。
紙版ではスペースの関係で最後の部分がカットされてしまったみたいでして、その部分は次のとおりです。
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(前略)キャピタスコンサルティングの植村信保氏は「今後は時価評価を意識した経営管理が求められる」と話す。
一方で業界では反対論も根強い。富国生命保険の鳥居直之取締役は「規制の数値目標の達成を目指す行動が、顧客の期待に反するものになりかねない」と警戒する。規制が先行した欧州の生保では、予定利率を保証する商品の販売停止や保有契約の売却が相次いだ経緯がある。」
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「業界では反対論も根強い」とありますが、すでに多くの保険会社では検討される規制(経済価値ベースのソルベンシー規制)と同じ考え方による経営管理を導入しています。
私のコメントも、「今後は『ますます』時価評価を意識した経営管理が求められる」のほうが正しいのでしょう。

規制強化に備えた動きとして記事で紹介されている日本生命の自己資本強化ですが、清水社長のコメントをよく読むと、将来の規制云々ではなく、金利水準が一段と下がり、それが長続きしそうなので、自己資本を増やすというものです。
第一生命のリスク移転も新たな規制検討を意識したというよりは、経済価値ベースでの経営管理の一環としてリスク削減に取り組んだものです。
第一生命HDのIR資料(PDF)(17~18ページ)

つまり、6月12日のブログなどで書いたように、生保の経営環境は非常に厳しいので、新規制の検討とは別に、資本増強やリスク削減をしないと健全性を維持できないという経営判断があるのだと思います。

長期商品への影響

さらに、この記事で気になったのが、新たな規制が導入されると、「契約期間の長い終身保険などは販売の見直しにつながる可能性がある」「特に契約期間が長い商品では、運用リターンを高められなければ『商品開発が難しくなりかねない』」といった、長期商品の販売見直しについて繰り返し懸念が示されていることです。

でも、本当にそうなのでしょうか。

仮に、「保険金額が1000万円を超える死亡保険の提供を禁止する」「米ドル建て保険の提供を禁止する」といった規制が検討されているのであれば、「1000万円を超える死亡保障ニーズに応じられなくなる」「米ドル建て保障へのニーズに応じられなくなる」という懸念を繰り返すのは理解できます。
しかし、検討されている規制(経済価値ベースのソルベンシー規制)は現行のルールを制限しようというものではありません。現行のソルベンシーマージン比率ではうまく把握できていない保険会社の経営リスクをより捉えられる規制に見直そうというものです。

いわばモノサシの感度をよくしようとする内容なので、新たな規制になると長期商品が提供できないというのであれば、いまでも提供できないはずなのです。
言い換えれば、新たな規制のもとでは提供できないような長期商品を提供している会社は、経営リスクに対し、(おそらくわかっていながら)目をつぶっていることになります。

もし、時間がたてば外部環境がよくなる(=だから経済価値ベースの規制は弊害が大きく、顧客の期待に応えられなくなる)というのであれば、結果としてそのような考えをとっていた生保経営や保険行政が、過去にはどういう結末を迎えたか、破綻した日産生命や協栄生命の事例を私の本などでもう一度確認していただければと思います。

※週末は毎年恒例RINGの会オープンセミナーでした
 (今年は第1部だけの参加となってしまいましたが…)

 

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契約者保護機構の国際会議

台北で保険契約者保護機構の国際会議に参加し、日本のソルベンシー規制についてスピーチをしてきました。

保険契約者のためのセーフティネットは国によって組織形態も保護スキームも異なりますが、2013年に国際組織(IFIGS)が結成され、毎年どこかで情報交流が行われています。
メンバーはご覧のとおりで、日本は今のところ加入していません。
IFIGSでは台湾の保険安定基金(TIGF)が積極的な役割を果たしているようで、今回の2019 IFIGS Asian Conferenceも数年前に続き、台北で開かれました。

今回のテーマは「平時の保護機構」ということで、保険会社の再建・破綻処理計画(RRP)と、破綻を防ぐための取り組みの2点について各国のスピーカーが発表し、議論が行われました。

私の役割は専ら後者で、日本のORSAについて、「形式的な対応に陥りがち」という声が出ていることを紹介したところ、「ドイツではソルベンシーIIの情報開示負担が重くて困っている」というコメントがあったほか、懇親会などでも「ORSAはコンプライアンスとして受け止めている」という声を耳にしました。

特にアジアの保険会社では、経営陣は「リスク管理は重要」と言うのだけれど、それが当局主導で進めるERMやORSAとは必ずしも結びついておらず、コンプライアンスと化してしまい、リスク管理部門はその対応に追われるという実態があるようです。
「上層部の意識を変えるにはどうしたらいいか」という声も耳にしました。

あと、破綻を防ぐための取り組みとして、カナダの損保保護機構(PACICC)から、「過去の破綻事例を研究し、そのレポートを公表している」という紹介がありました。
カナダ損保の事例だけでなく、昨年は規模の大きい事例としてオーストラリアのHIH社の事例を研究したそうです。後日読んでみようと思います。

カナダの場合、外資系保険会社が多いので、経営危機に陥る要因として「親会社の破綻による影響」が重要なのだとか。確かに日本でも、損保は規模の小さい外国損害保険会社(支店形態)がそこそこありますね。

※最後の写真はお昼のお弁当です。

 

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改訂CGコードへの対応状況

本題とは関係ありませんが、この記事の「業界で縁起が悪いとされている地域」に思わず反応してしまいました(苦笑)
ただし、「早期解約の場合は保険会社の費差益がマイナスになってしまうケースが大半」ということはないと思います。
節税保険祭り終了、怒れる国税庁が鳴らした「生保業界再編」の号砲

問題は「順守率の低下」ではない

さて、私のほうは、22日の日経記事「統治指針、順守率が低下」「改定に対応追いつかず」(有料会員限定)が気になったので、こちらを取り上げます。
東京証券取引所がコーポレートガバナンス(CG)コードへの対応状況を公表したことを受けた記事です。

・東証がコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)への対応状況について2018年末時点の集計結果を公表
・「取締役の多様性確保」など2018年6月の指針改定で変更になった原則の順守率低下が目立った

CGコードを「統治指針」と表記するのはともかく、コンプライ率を「順守率」とするのはちょっと違和感があります。
このコードは上場会社が守るべきルールではなく、実効的なガバナンスを実現するための規範を示したものです(原則主義ですね)。ですから、文言や記載よりもその趣旨や精神が重要なのであって、すべての会社が100%のコンプライを目指すようなものではないのです。
「順守率が低下」というと、ルールを守っていない会社が増えたように読めますよね
(以下では「実施率」としておきましょう)。

とにかくコンプライ

改訂前のCGコードの実施率は非常に高い状況でした。高いからいいという話ではありません。上場会社はコンプライアンス対応と同じようにとらえ、原則の内容よりも、とにかくコンプライする方向に走ってしまったようです。

例えば、経済産業省が実施した「平成29年度コーポレートガバナンスに関するアンケート調査」では、CGコードへの対応状況について尋ねています。
そこでは、「コンプライしているものの、形式的な対応にとどまり、実質的な取組にまで至っていないものがある」という回答が28%、「他社の取組水準と遜色ない水準の取組を行う方向で検討いている」が16%、「コンプライすることが当然だという風潮になっていると感じ、強く意識している」が10%ありました(複数選択可)。
このアンケートへも形式的な対応(=優等生的な回答)をした会社があるはずなので、実際の数字はもっと大きいと考えられます。
経産省のサイトへ(参考資料2の26ページ)

形式的な対応で損をしている

東証が取りまとめたCGコードの対応状況で注目すべきは実施率が下がったことではなく、改訂後も実施率が総じて非常に高いことだと思います。
特に、原則3-1(情報開示の充実)が東証1部で92.7%(△1.5pt)、補充原則3-1(1)が99.6%(△0.3pt)という回答が実質を伴っているのであれば、金融審議会ディスクロージャーWG報告に基づく府令の改正も情報開示のガイダンスも必要ありません。

日本では原則主義にあまり馴染みがないとはいえ、形式的な対応をすることで、上場会社はせっかくの対話の機会を逃している、あるいは、開示情報が信頼されず、結果として会社価値を外部から低く見られることになるので、もったいないなあと思います。

※ハワイではなく、横浜で食べました

 

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情報開示が変わる

記述情報(非財務情報)の開示

成長戦略の一環として政府が進めてきたコーポレート・ガバナンス改革ですが、ここにきて情報開示についても進展が見られます。

昨年6月の金融審議会「ディスクロージャーWG報告」を受けて、1月末に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、上場会社に対し、財務情報とともに記述情報(非財務情報)の充実を求めることになりました。
さらに、記述情報の開示についての考え方をまとめたガイダンスとして、金融庁は記述情報の開示に関する原則(案)を公表しています。

「非財務情報」ではなく「記述情報(非財務情報)」としたのは、「財務情報」のほうを貸借対照表や損益計算書といった金商法の「財務計算に関する書類」で提供される情報に限定し、それ以外の開示情報を対象と整理したためかもしれません。
この定義だと、記述情報は財務情報とは別のものではなく、財務情報を補完するものであることがより明確になります。

リスクの羅列ではダメ

記述情報のうち、「事業等のリスク」について確認してみましょう。
このリスク情報は2003年3月期から有価証券報告書に記載されてきました。ただ、WG報告にもあるように、考えられるリスクの羅列となっている記載が多く、それぞれのリスクの重要性や、それらを経営陣がどう捉えているのかは、外部からは全くわかりませんでした。

東京海上HDの事例
SOMPO HDの事例
第一生命HDの事例

これに対し、改正府令が求める開示は、「主要なリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、対応策を記載するなど、具体的に記載すること」「リスクの重要度や、経営方針・経営戦略等との関連性を踏まえ、わかりやすく記載すること」です。
また、「記述情報の開示に関する原則(案)」には望ましい取り組みとして、「取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが期待される」などとあります。

非上場の保険会社も検討を

WG報告書には、「一部の我が国企業においては、そもそも経営戦略・財務状況・リスク等について十分に議論されていないとの指摘もなされている」と書かれています。
経営で十分に議論していなければ、開示ができないのは当たり前です。保険会社ではいかがでしょうか。

一連のガバナンス改革の対象となるのは上場会社なので、相互会社をはじめ、非上場の保険会社には適用されません。
しかし、保険会社は投資家として、上場会社に情報開示の充実を求める立場でもあります。
少なくともコーポレートガバナンス・コードに任意に対応している会社であれば、今回の開示情報の充実に対しても、ステークホルダーに自社への理解を深めてもらうべく、積極的に取り組んでいくべきではないでしょうか。

※写真はのと鉄道で保存している鉄道郵便車です

 

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保険行政はなぜ破綻を防げなかったのか

ご案内が遅くなりましたが、日本保険学会の機関誌である「保険学雑誌」の最新号(第643号)に論文が掲載されています。タイトルは「近年の日本の保険行政における健全性規制の動向とその考察」で、1年半前に行った九州部会での発表をもとに、その後の情報をアップデートしつつ、まとめたものです
(アブストラクトのみ閲覧可能です)。

拙著「経営なき破綻 平成生保危機の真実」では、2000年前後に生じた中堅生保の連鎖的な破綻について、厳しい外部環境だけではなく、経営内部の問題が大きかったことを明らかにしました。ただ、自由化以前の保険行政による影響力の大きさを踏まえると、当時の保険行政がなぜ破綻を防げなかったのかという点について、もっと触れるべきだったのかもしれません。

今回の論文では、前半でこの問題を取り上げ、次のように整理しました。

・純保険料式責任準備金と株式含み益への依存を柱とした健全性確保の枠組みを続ける一方、1980年代に複数回の予定利率の引き上げや高水準の契約者配当を認めてしまったうえ、ロックイン方式の弱点を見過ごした。
・財務内容の手掛かりとなる経営指標が生保の経営実態を十分に反映していなかったため、問題を抱えた生保への対応が遅れた。
・1995年の保険業法改正でソルベンシー・マージン比率を導入する際、生保経営の深刻な状況を踏まえ、緩やかな基準としたことが裏目に出た。

保険会社に対する規制は1995年の保険業法改正の前後で対比されることが多いと思います。
しかし、健全性規制に注目すると、業法改正で整備が進んだというよりは、護送船団時代の不備が明らかになるなかで、リスクベースの新たな規制を導入しても十分機能せず、自己規律の活用という新たな取り組みも含め、いまでも試行錯誤が続いていると言えそうです。

※新車の「えのしま号」で藤沢へ(少し前ですが)

 

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健全性規制の背景と方向性

最近、日本における保険会社の健全性規制を振り返る機会がありました。

保険会社に対する規制というと、1995年の保険業法改正の前後で対比されることが多いように思います。確かにそれ以前のいわゆる「護送船団」行政に比べると、業法改正後は規制緩和が段階的に進み、保険商品や料率、販売チャネル、さらには保険会社のビジネスモデルも多様になりました。
しかし、健全性規制に注目すると、業法改正で整備が進んだというよりは、護送船団時代の不備が明らかになるなかで、リスクベースの新たな規制を導入しても十分機能せず、自己規律の活用という新たな取り組みも含め、今でも試行錯誤が続いているということなのでしょう。さらに、銀行規制や国際的な保険規制の影響も受けていますので、銀行の健全性規制に比べると、はるかに理解が難しいのではないかと思います。

ですから、過去の経緯や当時の背景を知らないと、「どうしてフィールドテストが続くのか」「ウチの会社のERMに当局がいろいろコメントしてくるのはなぜか」といった疑問を感じつつも、ルーティンワークとなった(あるいは、なりつつある)業務をこなすだけになってしまい、しんどいのではないでしょうか。

そのようなことを考えつつ、損保総研の講演をお受けしました。9月3日(月)の夕方に、「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」というテーマでスピーチを行います。
損保総研は以前からオープンな姿勢をとっていて、私のような業界の外の人間にもありがたい存在です。損保総研の図書館は誰でも使えますし、この講演も損保業界限定ではなく、どなたでもエントリーできますので、ぜひご参加ください。

それにしても、リーマンショックから10年、日本の生保危機からだと約20年です。早いですね。

※海外の写真みたいですが、実は東京・代々木上原にある建物です。

 

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保険行政をどう考えているのか

事務年度の節目ということもあり、金融庁が先月から今月にかけて次々にペーパーを公表しています。

金融庁の自己改革

4日に公表された「金融庁の改革について」を興味深く読みました。改革すべき中心課題は「ガバナンス」と「組織文化」ということで、ガバナンス面と人事政策の見直しを行うそうです。
確かに人事は大きいでしょうね。例えば、金融庁はよく「職員の約1/4が民間出身」と言いますが、このうち課室長クラス以上の職員が何人いるかなんて考えると、改革の余地は大きいと思います。

ちょっと気になるのは、金融庁が「専門性」をどうとらえているかです。
当面の人事基本方針の「3.リーダーの育成」には、「将来のリーダー候補には、必ずしも専門分野にとどまることなく困難な業務を経験させ、国内外の金融・経済・社会全般に関する幅広い視野やマネジメント力といった、より上位のリーダーとしての能力を計画的に身に付させるための人事配置(出向を含む)を実施する」とあります。
ただし、これだと今の幹部育成のやり方と大差ないように思えます。金融機関に置き換えると、部長クラス以上には専門性を問わないということですよね。

保険行政の情報が少ない

今回の本題はここからでして、先月末に公表された「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」「金融システムの安定を目標とする検査・監督の考え方と進め方(健全性政策基本方針)」も遅ればせながら読みました。

保険アナリスト目線からすると、例示がほとんど銀行を念頭に書かれている(後者はそもそも「主に預金取扱金融機関を対象」とあります)こともあり、金融庁が保険行政の現状をどう考えていて、どのようにしていきたいのか、さっぱり見えてきません。
全国で数多くの対話会を行ったとのことですが、保険関連は対象外のようです。特定の業態に固有のテーマについては考え方・進め方・プリンシプルを示すとあるとはいえ、現時点では手掛かりはありません。

この「検査・監督の考え方・進め方」にかぎらず、要は一連の改革のなかで、保険行政に関しては「対象外ですか?」と聞きたくなるほど情報開示が少ないのです。
もしかしたら内部ではいろいろと議論を進めているのかもしれません。しかし、ガバナンスを効かせるうえでも、保険行政についての考え方や方向性をもっと公表すべきではないでしょうか。
個人的な経験からしても、銀行に対する検査・監督手法を保険会社向けに読みかえればいいかというと、それではかなり無理が生じます。同じ金融機関とはいえ、社会的に果たす役割や、収益構造もリスク特性も全く違うので、当然といえば当然です。

銀行に関しては、いつまでも不良債権問題ではないだろうというのはわかります。資本規制の見直しも進みました。
これに対し、保険会社の破綻では契約者負担を強いた(同時期の預金は保護されました)にもかかわらず、保険会社のソルベンシー規制は中途半端なままです。
天に唾するようですが、そこを忘れてはならないと思います。

 

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香港の保険行政

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せっかく香港に行く機会があったので、写真だけでなく、保険関係の話もご紹介しましょう。

1997年に英国から中国に返還されてからも、中国(保険監督管理委員会)が香港の保険市場を監督するのではなく、あくまで香港独自の保険監督機関が担当しています。

いま香港の保険行政は大きく変わりつつあるようです。
まず、保険監督機関が変わりました。日本の金融庁のように政府の組織だったものが、今年から、政府から独立した保険監督機関(Insurance Authority)となりました。運営費用は保険料の一定割合で賄うことになります。

保険流通(代理店やブローカー)に対する監督も、これまでは業界の自主規制機関だけだったのですが、同じく Insurance Authority が担うそうです。

このような取り組みの背景には、おそらく IMF の FSAP (金融セクター評価プログラム)の指摘があるのでしょう。2014年のFSAP報告書を見ると、これらに関する記述を見つけることができます。

ただし、やはりFSAP報告書で取り上げられている「リスクベースのソルベンシー規制」や「ERMに関する取り組み」については、あくまで公表資料を確認したかぎりでは、引き続き検討中という状況のようです。
中国では昨年、C-ROSSという包括的なソルベンシー規制がスタートしているので、この点では香港が中国を追いかけるかたちになりますね。

 

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金融庁の金融レポート

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まずは書籍のご案内から。
私の所属するキャピタスのメンバー3人(森本、松平、植村)で、「経済価値ベースの保険ERMの本質」(金融財政事情研究会)という書籍を出しました。
単に3人で分担して執筆するというのではなく、執筆の過程で改めてメンバーどうしで議論するなど、時間をかけて仕上げました。この分野に関心のあるかたは、ぜひご覧ください。

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さて、先週25日に金融庁が平成28事務年度の金融レポートを公表しましたので、こちらを取り上げましょう。

金融レポートは、金融庁による日本の金融市場・金融機関の現状分析や問題提起、そして、毎年公表する「金融行政方針」の進捗状況や実績等の評価を取りまとめたものです。
平成28事務年度っていつまでだっけ?という突っ込みはさておき、日銀の金融システムレポートとともに、日本の金融システムの現状を知るうえで有益ですし、何より金融庁の関心事項がよくわかります。

ただし、保険会社に関しては、あまり書かれていないというのが率直な印象でした。

このレポートの対となっている「平成28事務年度 金融行政方針」(以下「方針」とする)の記述と合わせて見てみましょう。
保険会社や保険募集人における顧客本位の取組みについては、

「商品販売時における顧客への適切な情報提供には課題が認められた【事例を提示】」「(一般代理店に対するインセンティブ報酬について)役務やサービスに照らした対価性に乏しく、『質』に問題があると考えられるものが認められ、また、金額水準(『量』)の高額化も進んでいる【事例を提示】」

など、実態把握の一端が示されています。こちらに関しては、「なるほど」「さすが」という感じです。

他方で、方針では「顧客利益につながる持続可能な収益構造や事業戦略の構築が求められている」と問題提起したうえで、「ビジネスモデルが、顧客のニーズに応えつつ持続可能なものとなっているか、実態把握を行う」としていました。

ところがレポートを見ると、

「将来的に国内生命保険市場の縮小が予想される中で、こうした収入保険料の量的拡大といったビジネスモデルは、全体としては中長期的には成立しない可能性がある」

と分析しているものの、その根拠が「今後も生産年齢人口が減り、保険料収入も減ると予想されるから」というだけでは、「環境変化が保険ビジネスへ与える影響について分析を更に進める」(方針から引用)にしてはあまりにマクロ的な分析すぎますし、

「生命保険会社においては、このような市場全体の動向に加え、IT技術の進展等による競争環境の大きな変化の可能性といった経営環境の変化にタイムリーに対応し、持続可能性のあるビジネスモデルの構築を進めていくことが課題となっている」

というまとめだけでは、金融庁がこの1年間、何をして、どのような実態を把握したのか全くわかりません
(生保の海外M&Aのフォローアップを行ったことは書かれていますが…)。

実は昨年のレポートでも、持続可能なビジネスモデルをテーマにモニタリングを実施(大手生損保を中心に総合的なヒアリングを実施したそうです)した結果、「環境変化に対応していくための共通の課題があることが窺われた」としたうえで、

「当面は、低金利環境の長期化等を見据え、各社の収益構造や事業戦略が、健全性の観点から長期にわたって持続可能なものとなっているか、実態把握を行っていく」
「国民経済の発展のための保険業のあり方や、今後予想される経済環境の中で、保険会社はどのような付加価値を生み出すことができるか等、より長期的な時間軸の中で幅広く検証をしていく」

などの宿題を自らに課しているのですが、1年後のレポートでは、他業態に比べても実態把握に関する記述やデータが極端に少ないのはどうしてなのでしょうか。

方針では、「自らが保険負債の質の改善を視野に入れつつ、リスク管理と一体となった資産運用の最適化」「環境変化に対応するリスク管理を伴った健全なリスクテイク」といった観点から保険会社と対話を行うとも示していました。

しかしこちらも、生保の有価証券構成比の推移を示した図表を掲載し、

「生命保険会社においては、自らの投資行動に応じた運用態勢の整備が引き続き課題となっており、このような活動を通じその資産運用能力の向上が期待される」
「自らの保険負債の質の改善にも留意しつつ、商品政策と一体となった適切なリスク管理の下、資産運用の高度化に取り組んでいくことが重要である」

と記述しているだけなので、やはり具体的な内容がほとんど紹介されていません
(というか、方針の記述とほとんど同じに見えます)。

昨事務年度はFSAP(IMFによる金融セクターの評価)があり、レポートの後ろのほう(118ページ)で「今後、これらの提言を国内金融行政の改善に活用していく」としているのですから、例えばFSAPを踏まえた記述があったらよかったのかもしれません。

ちなみに、保険行政に対するFSAPでの主な指摘事項として一番上に書いてあるのは、「金融庁は経済価値ベースのソルベンシー規制をできるだけ早く実行段階に進めるべき」というものでした。時間軸は「Near Term = 1 to 3 years」です。

※彦根でブラックスワンに会えました(ひこにゃんにも!)。

 

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少短保険の有識者会議

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9月1日に金融庁で「少額短期保険業者の
経過措置に関する有識者会議」が開かれ、
オブザーバー参加してきました
(NHKクロ現+でもコメントしましたので…)。
金融庁のサイトへ

後日に資料等が公表されるようですが、
経過措置に関する会議ということなので、
そもそもこの制度をどうしていくのかといった
議論ではなさそうですね。

少額短期保険業という制度ができたのは
根拠法のない共済への対応としてでした。
その際、すでにある共済から少額短期への
円滑な移行のために経過措置が設けられ、
引受可能な保険金額の上限を本則の5倍
(医療保険は3倍)としました。

経過措置ということだけを考えると、
制度が始まってからすでに12年にもなり、
「なぜ再延長?」となるのですが、この業態を
今後どうしていくかにもよるのだと思います。

もしこの業態をInsurTechのような、新しい
ビジネスの実験場として捉えるのであれば、
本則の見直しを議論する機会があっても
いいのではないかと思います。

また、認可特定保険業という制度との関係も
気になるところですね。

なお、「引受水準が上がるとリスクが高まる」
「セーフティネットがないのが問題となる」
といった話について一言。

今回は引受上限を上げるという話ではないし、
そもそも「少額・短期」の掛け捨てですから、
加入していた会社が破綻した場合に起こる
契約者の不利益は、速やかに別の補償に
入らなければならないという手間だけです
(極端に言えば)。

無保険期間をできるだけ短くすることで
対応できるので、高額・長期の保険と違い、
今の時点であまり目くじらを立てなくても
いいのではないかと思います。

他方、NHKクロ現+でも言及しましたが、
ディスクロージャー資料を自社のサイトに
載せていない会社が多いという現状は、
何とかしたほうがいいと思います。

※写真は小田原城です。
 展示スペースがきれいになっていました。

 

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