07. 規制・会計基準

情報開示が変わる

記述情報(非財務情報)の開示

成長戦略の一環として政府が進めてきたコーポレート・ガバナンス改革ですが、ここにきて情報開示についても進展が見られます。

昨年6月の金融審議会「ディスクロージャーWG報告」を受けて、1月末に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、上場会社に対し、財務情報とともに記述情報(非財務情報)の充実を求めることになりました。
さらに、記述情報の開示についての考え方をまとめたガイダンスとして、金融庁は記述情報の開示に関する原則(案)を公表しています。

「非財務情報」ではなく「記述情報(非財務情報)」としたのは、「財務情報」のほうを貸借対照表や損益計算書といった金商法の「財務計算に関する書類」で提供される情報に限定し、それ以外の開示情報を対象と整理したためかもしれません。
この定義だと、記述情報は財務情報とは別のものではなく、財務情報を補完するものであることがより明確になります。

リスクの羅列ではダメ

記述情報のうち、「事業等のリスク」について確認してみましょう。
このリスク情報は2003年3月期から有価証券報告書に記載されてきました。ただ、WG報告にもあるように、考えられるリスクの羅列となっている記載が多く、それぞれのリスクの重要性や、それらを経営陣がどう捉えているのかは、外部からは全くわかりませんでした。

東京海上HDの事例
SOMPO HDの事例
第一生命HDの事例

これに対し、改正府令が求める開示は、「主要なリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、対応策を記載するなど、具体的に記載すること」「リスクの重要度や、経営方針・経営戦略等との関連性を踏まえ、わかりやすく記載すること」です。
また、「記述情報の開示に関する原則(案)」には望ましい取り組みとして、「取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが期待される」などとあります。

非上場の保険会社も検討を

WG報告書には、「一部の我が国企業においては、そもそも経営戦略・財務状況・リスク等について十分に議論されていないとの指摘もなされている」と書かれています。
経営で十分に議論していなければ、開示ができないのは当たり前です。保険会社ではいかがでしょうか。

一連のガバナンス改革の対象となるのは上場会社なので、相互会社をはじめ、非上場の保険会社には適用されません。
しかし、保険会社は投資家として、上場会社に情報開示の充実を求める立場でもあります。
少なくともコーポレートガバナンス・コードに任意に対応している会社であれば、今回の開示情報の充実に対しても、ステークホルダーに自社への理解を深めてもらうべく、積極的に取り組んでいくべきではないでしょうか。

※写真はのと鉄道で保存している鉄道郵便車です

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

保険行政はなぜ破綻を防げなかったのか

ご案内が遅くなりましたが、日本保険学会の機関誌である「保険学雑誌」の最新号(第643号)に論文が掲載されています。タイトルは「近年の日本の保険行政における健全性規制の動向とその考察」で、1年半前に行った九州部会での発表をもとに、その後の情報をアップデートしつつ、まとめたものです
(アブストラクトのみ閲覧可能です)。

拙著「経営なき破綻 平成生保危機の真実」では、2000年前後に生じた中堅生保の連鎖的な破綻について、厳しい外部環境だけではなく、経営内部の問題が大きかったことを明らかにしました。ただ、自由化以前の保険行政による影響力の大きさを踏まえると、当時の保険行政がなぜ破綻を防げなかったのかという点について、もっと触れるべきだったのかもしれません。

今回の論文では、前半でこの問題を取り上げ、次のように整理しました。

・純保険料式責任準備金と株式含み益への依存を柱とした健全性確保の枠組みを続ける一方、1980年代に複数回の予定利率の引き上げや高水準の契約者配当を認めてしまったうえ、ロックイン方式の弱点を見過ごした。
・財務内容の手掛かりとなる経営指標が生保の経営実態を十分に反映していなかったため、問題を抱えた生保への対応が遅れた。
・1995年の保険業法改正でソルベンシー・マージン比率を導入する際、生保経営の深刻な状況を踏まえ、緩やかな基準としたことが裏目に出た。

保険会社に対する規制は1995年の保険業法改正の前後で対比されることが多いと思います。
しかし、健全性規制に注目すると、業法改正で整備が進んだというよりは、護送船団時代の不備が明らかになるなかで、リスクベースの新たな規制を導入しても十分機能せず、自己規律の活用という新たな取り組みも含め、いまでも試行錯誤が続いていると言えそうです。

※新車の「えのしま号」で藤沢へ(少し前ですが)

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

健全性規制の背景と方向性

最近、日本における保険会社の健全性規制を振り返る機会がありました。

保険会社に対する規制というと、1995年の保険業法改正の前後で対比されることが多いように思います。確かにそれ以前のいわゆる「護送船団」行政に比べると、業法改正後は規制緩和が段階的に進み、保険商品や料率、販売チャネル、さらには保険会社のビジネスモデルも多様になりました。
しかし、健全性規制に注目すると、業法改正で整備が進んだというよりは、護送船団時代の不備が明らかになるなかで、リスクベースの新たな規制を導入しても十分機能せず、自己規律の活用という新たな取り組みも含め、今でも試行錯誤が続いているということなのでしょう。さらに、銀行規制や国際的な保険規制の影響も受けていますので、銀行の健全性規制に比べると、はるかに理解が難しいのではないかと思います。

ですから、過去の経緯や当時の背景を知らないと、「どうしてフィールドテストが続くのか」「ウチの会社のERMに当局がいろいろコメントしてくるのはなぜか」といった疑問を感じつつも、ルーティンワークとなった(あるいは、なりつつある)業務をこなすだけになってしまい、しんどいのではないでしょうか。

そのようなことを考えつつ、損保総研の講演をお受けしました。9月3日(月)の夕方に、「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」というテーマでスピーチを行います。
損保総研は以前からオープンな姿勢をとっていて、私のような業界の外の人間にもありがたい存在です。損保総研の図書館は誰でも使えますし、この講演も損保業界限定ではなく、どなたでもエントリーできますので、ぜひご参加ください。

それにしても、リーマンショックから10年、日本の生保危機からだと約20年です。早いですね。

※海外の写真みたいですが、実は東京・代々木上原にある建物です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

保険行政をどう考えているのか

事務年度の節目ということもあり、金融庁が先月から今月にかけて次々にペーパーを公表しています。

金融庁の自己改革

4日に公表された「金融庁の改革について」を興味深く読みました。改革すべき中心課題は「ガバナンス」と「組織文化」ということで、ガバナンス面と人事政策の見直しを行うそうです。
確かに人事は大きいでしょうね。例えば、金融庁はよく「職員の約1/4が民間出身」と言いますが、このうち課室長クラス以上の職員が何人いるかなんて考えると、改革の余地は大きいと思います。

ちょっと気になるのは、金融庁が「専門性」をどうとらえているかです。
当面の人事基本方針の「3.リーダーの育成」には、「将来のリーダー候補には、必ずしも専門分野にとどまることなく困難な業務を経験させ、国内外の金融・経済・社会全般に関する幅広い視野やマネジメント力といった、より上位のリーダーとしての能力を計画的に身に付させるための人事配置(出向を含む)を実施する」とあります。
ただし、これだと今の幹部育成のやり方と大差ないように思えます。金融機関に置き換えると、部長クラス以上には専門性を問わないということですよね。

保険行政の情報が少ない

今回の本題はここからでして、先月末に公表された「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」「金融システムの安定を目標とする検査・監督の考え方と進め方(健全性政策基本方針)」も遅ればせながら読みました。

保険アナリスト目線からすると、例示がほとんど銀行を念頭に書かれている(後者はそもそも「主に預金取扱金融機関を対象」とあります)こともあり、金融庁が保険行政の現状をどう考えていて、どのようにしていきたいのか、さっぱり見えてきません。
全国で数多くの対話会を行ったとのことですが、保険関連は対象外のようです。特定の業態に固有のテーマについては考え方・進め方・プリンシプルを示すとあるとはいえ、現時点では手掛かりはありません。

この「検査・監督の考え方・進め方」にかぎらず、要は一連の改革のなかで、保険行政に関しては「対象外ですか?」と聞きたくなるほど情報開示が少ないのです。
もしかしたら内部ではいろいろと議論を進めているのかもしれません。しかし、ガバナンスを効かせるうえでも、保険行政についての考え方や方向性をもっと公表すべきではないでしょうか。
個人的な経験からしても、銀行に対する検査・監督手法を保険会社向けに読みかえればいいかというと、それではかなり無理が生じます。同じ金融機関とはいえ、社会的に果たす役割や、収益構造もリスク特性も全く違うので、当然といえば当然です。

銀行に関しては、いつまでも不良債権問題ではないだろうというのはわかります。資本規制の見直しも進みました。
これに対し、保険会社の破綻では契約者負担を強いた(同時期の預金は保護されました)にもかかわらず、保険会社のソルベンシー規制は中途半端なままです。
天に唾するようですが、そこを忘れてはならないと思います。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

香港の保険行政

null null

せっかく香港に行く機会があったので、写真だけでなく、保険関係の話もご紹介しましょう。

1997年に英国から中国に返還されてからも、中国(保険監督管理委員会)が香港の保険市場を監督するのではなく、あくまで香港独自の保険監督機関が担当しています。

いま香港の保険行政は大きく変わりつつあるようです。
まず、保険監督機関が変わりました。日本の金融庁のように政府の組織だったものが、今年から、政府から独立した保険監督機関(Insurance Authority)となりました。運営費用は保険料の一定割合で賄うことになります。

保険流通(代理店やブローカー)に対する監督も、これまでは業界の自主規制機関だけだったのですが、同じく Insurance Authority が担うそうです。

このような取り組みの背景には、おそらく IMF の FSAP (金融セクター評価プログラム)の指摘があるのでしょう。2014年のFSAP報告書を見ると、これらに関する記述を見つけることができます。

ただし、やはりFSAP報告書で取り上げられている「リスクベースのソルベンシー規制」や「ERMに関する取り組み」については、あくまで公表資料を確認したかぎりでは、引き続き検討中という状況のようです。
中国では昨年、C-ROSSという包括的なソルベンシー規制がスタートしているので、この点では香港が中国を追いかけるかたちになりますね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

金融庁の金融レポート

null null

まずは書籍のご案内から。
私の所属するキャピタスのメンバー3人(森本、松平、植村)で、「経済価値ベースの保険ERMの本質」(金融財政事情研究会)という書籍を出しました。
単に3人で分担して執筆するというのではなく、執筆の過程で改めてメンバーどうしで議論するなど、時間をかけて仕上げました。この分野に関心のあるかたは、ぜひご覧ください。

null

さて、先週25日に金融庁が平成28事務年度の金融レポートを公表しましたので、こちらを取り上げましょう。

金融レポートは、金融庁による日本の金融市場・金融機関の現状分析や問題提起、そして、毎年公表する「金融行政方針」の進捗状況や実績等の評価を取りまとめたものです。
平成28事務年度っていつまでだっけ?という突っ込みはさておき、日銀の金融システムレポートとともに、日本の金融システムの現状を知るうえで有益ですし、何より金融庁の関心事項がよくわかります。

ただし、保険会社に関しては、あまり書かれていないというのが率直な印象でした。

このレポートの対となっている「平成28事務年度 金融行政方針」(以下「方針」とする)の記述と合わせて見てみましょう。
保険会社や保険募集人における顧客本位の取組みについては、

「商品販売時における顧客への適切な情報提供には課題が認められた【事例を提示】」「(一般代理店に対するインセンティブ報酬について)役務やサービスに照らした対価性に乏しく、『質』に問題があると考えられるものが認められ、また、金額水準(『量』)の高額化も進んでいる【事例を提示】」

など、実態把握の一端が示されています。こちらに関しては、「なるほど」「さすが」という感じです。

他方で、方針では「顧客利益につながる持続可能な収益構造や事業戦略の構築が求められている」と問題提起したうえで、「ビジネスモデルが、顧客のニーズに応えつつ持続可能なものとなっているか、実態把握を行う」としていました。

ところがレポートを見ると、

「将来的に国内生命保険市場の縮小が予想される中で、こうした収入保険料の量的拡大といったビジネスモデルは、全体としては中長期的には成立しない可能性がある」

と分析しているものの、その根拠が「今後も生産年齢人口が減り、保険料収入も減ると予想されるから」というだけでは、「環境変化が保険ビジネスへ与える影響について分析を更に進める」(方針から引用)にしてはあまりにマクロ的な分析すぎますし、

「生命保険会社においては、このような市場全体の動向に加え、IT技術の進展等による競争環境の大きな変化の可能性といった経営環境の変化にタイムリーに対応し、持続可能性のあるビジネスモデルの構築を進めていくことが課題となっている」

というまとめだけでは、金融庁がこの1年間、何をして、どのような実態を把握したのか全くわかりません
(生保の海外M&Aのフォローアップを行ったことは書かれていますが…)。

実は昨年のレポートでも、持続可能なビジネスモデルをテーマにモニタリングを実施(大手生損保を中心に総合的なヒアリングを実施したそうです)した結果、「環境変化に対応していくための共通の課題があることが窺われた」としたうえで、

「当面は、低金利環境の長期化等を見据え、各社の収益構造や事業戦略が、健全性の観点から長期にわたって持続可能なものとなっているか、実態把握を行っていく」
「国民経済の発展のための保険業のあり方や、今後予想される経済環境の中で、保険会社はどのような付加価値を生み出すことができるか等、より長期的な時間軸の中で幅広く検証をしていく」

などの宿題を自らに課しているのですが、1年後のレポートでは、他業態に比べても実態把握に関する記述やデータが極端に少ないのはどうしてなのでしょうか。

方針では、「自らが保険負債の質の改善を視野に入れつつ、リスク管理と一体となった資産運用の最適化」「環境変化に対応するリスク管理を伴った健全なリスクテイク」といった観点から保険会社と対話を行うとも示していました。

しかしこちらも、生保の有価証券構成比の推移を示した図表を掲載し、

「生命保険会社においては、自らの投資行動に応じた運用態勢の整備が引き続き課題となっており、このような活動を通じその資産運用能力の向上が期待される」
「自らの保険負債の質の改善にも留意しつつ、商品政策と一体となった適切なリスク管理の下、資産運用の高度化に取り組んでいくことが重要である」

と記述しているだけなので、やはり具体的な内容がほとんど紹介されていません
(というか、方針の記述とほとんど同じに見えます)。

昨事務年度はFSAP(IMFによる金融セクターの評価)があり、レポートの後ろのほう(118ページ)で「今後、これらの提言を国内金融行政の改善に活用していく」としているのですから、例えばFSAPを踏まえた記述があったらよかったのかもしれません。

ちなみに、保険行政に対するFSAPでの主な指摘事項として一番上に書いてあるのは、「金融庁は経済価値ベースのソルベンシー規制をできるだけ早く実行段階に進めるべき」というものでした。時間軸は「Near Term = 1 to 3 years」です。

※彦根でブラックスワンに会えました(ひこにゃんにも!)。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

少短保険の有識者会議

null null

9月1日に金融庁で「少額短期保険業者の
経過措置に関する有識者会議」が開かれ、
オブザーバー参加してきました
(NHKクロ現+でもコメントしましたので…)。
金融庁のサイトへ

後日に資料等が公表されるようですが、
経過措置に関する会議ということなので、
そもそもこの制度をどうしていくのかといった
議論ではなさそうですね。

少額短期保険業という制度ができたのは
根拠法のない共済への対応としてでした。
その際、すでにある共済から少額短期への
円滑な移行のために経過措置が設けられ、
引受可能な保険金額の上限を本則の5倍
(医療保険は3倍)としました。

経過措置ということだけを考えると、
制度が始まってからすでに12年にもなり、
「なぜ再延長?」となるのですが、この業態を
今後どうしていくかにもよるのだと思います。

もしこの業態をInsurTechのような、新しい
ビジネスの実験場として捉えるのであれば、
本則の見直しを議論する機会があっても
いいのではないかと思います。

また、認可特定保険業という制度との関係も
気になるところですね。

なお、「引受水準が上がるとリスクが高まる」
「セーフティネットがないのが問題となる」
といった話について一言。

今回は引受上限を上げるという話ではないし、
そもそも「少額・短期」の掛け捨てですから、
加入していた会社が破綻した場合に起こる
契約者の不利益は、速やかに別の補償に
入らなければならないという手間だけです
(極端に言えば)。

無保険期間をできるだけ短くすることで
対応できるので、高額・長期の保険と違い、
今の時点であまり目くじらを立てなくても
いいのではないかと思います。

他方、NHKクロ現+でも言及しましたが、
ディスクロージャー資料を自社のサイトに
載せていない会社が多いという現状は、
何とかしたほうがいいと思います。

※写真は小田原城です。
 展示スペースがきれいになっていました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

地銀の新規制

null null

このところ金融庁関連のニュースが目立ちます。
例えば、こんな記事がありました。

銀行で“素人同然”の証券運用が大量発覚、
 金融庁調査で」(6/5のダイヤモンド・オンライン)

金融庁、地銀の金利リスクで新規制 19年3月期に導入へ
 =関係筋」(6/8のロイターほか)

「金融庁『強権』を封印 銀行検査、抜本見直し」
「中小企業の5割、政府系金融機関と取引
 金融庁調査」 (いずれも6/8の日経)

金融庁関連のニュースが目立つのは、実のところ
季節要因が大きいと思います。

金融庁の事務年度は7月から6月末までなので、
今月が年度末にあたります。
しかも、通常国会が終わると人事異動があり、
職員の約半分(!)が異動してしまいます。

ですので、今いろいろとニュースが出てくるのは、
(幹部の)異動前に仕事の区切りをつけていて、
その一部が何らかのルートでメディアに伝わって
いるのでしょう。

ところで、上記でロイターの記事を紹介しましたが、
日経は1面トップで「地銀の債券保有 新規制」を
報じました(有料版。5面にも解説記事あり)。

この記事を読むと、金融庁が地銀の債券保有を
制限する規制を導入し、融資への資金シフトを
促すとあります。
ただ、この規制はバーゼル規制に基づいた話だと
思われるのですが、そうだとすると、規制の本来の
目的は全く違います。

金融危機後のバーゼル規制見直しの一環として、
銀行勘定の金利リスクを従来より厳しく見ることで
2016年に国際合意がなされていまして、本件は
これを国内規制化する話です。

バーゼル規制については、かつて保険課長だった
白川さんのこのレジュメ(PDF)が参考になります。

こちらをご覧いただくと、金利リスクは資産として
保有する債券だけが対象ではなく、「銀行勘定の
資産や負債」なので、債券も貸出も金利リスクを
抱える資産としては同じ位置づけです。

「銀行勘定の金利リスクとは、金利水準の変動により、
 銀行勘定の資産や負債の経済価値あるいは収益が
 変動することにより生じるリスク」(6ページ)

ということで、保険業界の皆さんにはおなじみ(?)の
「経済価値」に基づいた規制ですね。

もちろん、地銀の有価証券保有に伴う金利リスクを
注視する必要はあると思いますし、他方で金融庁は
地域における金融機関の役割を厳しく問う姿勢を
見せているのは確かなのですが・・・

具体的な規制案が公表されていない現時点では
コメントしにくいものの、金利リスク規制の捉え方が
私の理解とはあまりに異なりますし、もしかしたら

「超長期債を多く保有する生保はリスクが大きい」
「保険会社にも債券保有を制限する規制が必要だ」

なんて声がすぐに出てこないとも限りませんので、
あえて取り上げることにしました。

※手づくり和菓子作り教室に参加しました!

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

バーゼルIIIの最終化を延期

 

銀行規制の話ですが、新年早々に発表があり、
関係者の皆さんを驚かせました。
金融庁のサイトへ

金融危機後にバーゼル銀行監督委員会が
進めてきた規制改革(バーゼルIII)の最終化が
年内に間に合わず、1月上旬に予定されていた
中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ
(=ここで規制案を承認)の開催が延期されました。

報道によると、意見調整がまとまらなかったのは、
自己資本比率の計測に内部モデル手法を採用する
銀行に対し、最低限保有すべき自己資本の水準を
どう設定するか(=資本フロア)という話のようです。

現行のバーゼルIIでも資本フロアは存在しますが、
バーゼル委員会は、内部モデルによるリスク計測は
銀行間でバラつきが大きすぎると考えているため、
資本フロアの見直しを検討してきました
(例えば、内部モデルを使わない「標準的手法」で
 計測したリスクの90%を最低基準とする案など)。

これも報道ベースですが、調整がまとまらないのは、
「内部モデルなんかとんでもない」とする米国当局
(=米国の規制と平仄を合わせようということ?)と、
これまで規制における内部モデルの活用を進め、
かつ、経営内容が必ずしも良好ではない大手銀行を
抱える欧州当局が対立しているためのようです。

確かにモデルはあくまでモデルなので、常に改良が
不可欠となります。これを規制として活用するには、
当局による承認というプロセスが必要ですし、
金融機関どうしの比較も難しくなります。

ただ、バーゼルIIやEUソルベンシーIIで内部モデルを
積極的に採用してきたのは、内部モデルのほうが
その金融機関の抱えるリスクを適切に反映するうえ、
金融機関自身による経営管理手法とも合致する、
あるいは、高度化を促す効果があるからです。

また、実質的に標準的手法だけになってしまうと、
「規制で求められる水準さえ確保すればいい」
という経営マインドになりかねません。

いまさらこのような話をしても仕方がないのですが、
保険の国際規制に関わってくる話でもありますし、
今後の動向に注目しましょう。

※今年も香川の雑煮を食べることができました。
 白味噌にあん入り餅です!

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

金融行政方針の公表

 

金融庁が21日に、本事務年度(2016/7-2017/6)の
金融行政方針を公表しましたので、その感想など。
金融庁のサイトへ

今回の行政方針では、次の3つを金融行政運営の
基本方針として掲げました。

 (1)金融当局・金融行政運営の変革
 (2)国民の安定的な資産形成を実現する
   資金の流れへの転換
 (3)「共通価値の創造」を目指した
   金融機関のビジネスモデルの転換

最初に「金融当局・金融行政運営の変革」を置き、
検査・監督のあり方の見直しや自らのガバナンス
改善に取り組もうとしているところが斬新です。

金融行政の中身に関し、総じて言えることは、
「健全なリスクテイクの促進」だと受け止めました。

例えば、話題となっている「日本型金融排除」
(担保や保証等に過度に依存した与信判断)
の実態把握の狙いは、地域金融機関に対し、
事業性評価に基づくリスクテイクを促す施策です。

国内で活動する預金取扱金融機関については、
各種リスクテイクが収益・リスク・資本のバランス
という面から適切な戦略となっているかに着目し、
対話を行うともあります。

家計における長期・積立・分散投資の促進も、
日本の家計金融資産を現預金から投資に
シフトできるよう、環境整備を図ろうというもの。

さらに、保険会社向けの記述(25ページ)にも、

「保険会社との対話を通じ、環境変化に対応する
 リスク管理を伴った健全なリスクテイクを促す」

とありました。ただし、

「低金利環境の継続等により、経済価値ベースでの
 必要資本の確保とリスクテイクによる収益の確保
 とのトレード・オフの問題が生じている」

すなわち、経済価値ベースでみると、必要資本を
確保するのがそう簡単ではない状況なので、
少なくとも、余裕があるのにリスクを取っていない
という認識を持っているわけではなさそうです。

特に生保については、

 ・保険負債の質の改善
 ・リスク管理と一体となった資産運用の最適化
 ・ストレスシナリオの想定と対応

などが対話のテーマに挙げられています。
こうした認識下での「健全なリスクテイク」なので、

「ERMの活用は健全性に関する取組みが中心」
「収益力の向上に関する取組みは今後の課題」

とは言うものの、銀行のようなリスクテイク拡大を
促すというよりは、具体的な手法はともかく、
保険会社が収益・リスクをどうコントロールするか
に着目するのだと私は理解しました。

※写真は坂本(滋賀県)の町並み。
 石垣の連なりが美しいです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。