05. 金融・経済全般

コメ先物市場の復活

米(コメ)の先物取引が72年ぶりに復活しました(8日)。

早稲田大学の森平爽一郎教授によると、
江戸時代には大阪堂島に世界最初の組織化された
先物市場があり、ここで決まった米の値段が
旗振り通信等により、ただちにに全国に伝えられたそうです。

しかし、日本の米先物取引は戦時統制が進むなかで
1939年に廃止されてしまいます。
今回の東京穀物商品取引所関西商品取引所での
試験上場はそれ以来のことです。

米先物取引の復活で最も期待されるのは
透明な価格形成だと思います。

1995年まで続いた「食糧管理制度」では
米価はかなり政治的に決まっていたようです。
その後、米の流通自由化が進んだとはいえ、
JAグループが国内流通の5割を占めていることもあり、
どうも米価の決まり方は不透明です。

唯一の公的市場だったコメ価格センター
(全国米穀取引・価格形成センター)は
この3月に廃止されてしまいました。

今回の試験上場にJAグループは反対しています。
「コメが投機の対象になる」ので取引に参加しないとのこと。

しかし、食糧管理制度の時代ならまだしも、
米の流通自由化が進み、政府の支援も価格維持から
所得補償にシフトしているなかでは、需給を反映した
価格形成の透明性はますます重要となります。
それとも透明になると困る人が出てくるのでしょうか。

私がたまたまテレビで観た生産者や卸売業者、小売業者の
コメントはどれも前向きなものばかりでした。

ふと思ったのですが、この話、

「経済価値がわからなければ収益・リスクの管理はできない」
「経済価値のように振れる指標では適切な経営ができない」

といった保険会社の経済価値評価をめぐる議論とも
共通するものがありますね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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震災後の経済構造の変化

 

少し前の話で恐縮ですが、12日の日経夕刊のコラム
「震災が加速する経済の構造変化」は、
非常によくまとまっていて、頭の整理になりました。
執筆者はJPモルガン証券の菅野雅明さんです。

長い文章を書くほうが大変と思われがちですが、
限られたスペースで簡潔に述べるほうが難しいのですね。

さて、菅野さんは、今後予想される経済の変化について
次の4点を挙げています。

1.日本企業の海外生産比率の上昇

 ・日本企業は企業活動の地理的リスク分散の観点から
  海外シフトを一層加速させる。

2.財政悪化の加速

 ・地域復興のためには、赤字国債発行による財政出動は
  必要だが、同時に一部増税による財源手当てについても
  あらかじめ合意しておく必要がある。

3.デフレ脱出・インフレ傾向への転換

 ・今後供給網の回復の遅れからボトルネックが生じ、
  局所的な需給逼迫を背景に価格の上昇を引き起こしやすい。

4.迎合主義の台頭の可能性

 ・大災害の後には人々のストレスが高まり、「口に苦い良薬」は
  政策の選択肢から外される傾向が強まる。

考えてみれば、3を除けば震災による変化というよりは、
それ以前からの動きが震災で加速されるというものです。
つまり、ソフトランディングを実現するために残された時間は、
震災でより短くなったと理解すべきでしょう。

※写真は町田市の「尾根緑道」です(24日)。
 かつてここは戦車のテストコースだったとか。

 

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節電の目的は何か

夏の電力不足に協力するため、始業と終業の時間を繰り上げる
サマータイムを導入しようとする動きが目立ってきました。

ただ、節電の目的を考えると、ややずれているように感じるのは
私だけでしょうか(意味がないとは言いませんが)。

震災発生直後は、東京電力の供給力が震災前の5200万kWから
一気に3100kWまで落ちたため、とにかく節電が必要でした。
プロ野球のナイターなどもってのほかだったわけです。

しかし、今考えなければならない節電は、夏のピーク時対応です。

記録的猛暑だった昨年の需要は約6000万kWに達しました。
7月には供給力が5200万kWまで高まる見込みとはいえ、
ピーク時には不足してしまうので、電力需要の削減が必要なのです。

ここで重要なのが「ピーク時の不足に対応するため」という点です。

1日のうち、朝10時から夜9時がピーク中のピークです。
仮にスーパーの開店を朝9時から8時に、閉店を夜10時から9時に
それぞれ1時間繰り上げても、朝10時から夜9時は営業するので、
ピーク時の節電効果はかなり限定的であることがわかります

例えば休日を分散する、夜間操業にシフトするといった、
ピーク時に電力需要を集中させない対策が効果的でしょう。

また、夜間は例年と同じ生活でかまわないはずです。
というのも、夏期でも夜中から朝8時くらいまでの電力需要は
4000万kWを下回っており、電力不足ではないからです。

もちろん、資源の無駄遣いや地球温暖化を避けるための節電は
大いに結構な話ですが、体を壊したら元も子もありません。

「冷房のきいた部屋で夏の甲子園をテレビ観戦」が
電力需要を高めているという話が本当であれば、
今年の甲子園はナイター開催にしたらいいかもしれませんね。
あるいはNHKがテレビ中継をしなければいいのかも。

関係者は猛反対しそうですが^^

ご参考
※資料第1-3、第2-2あたりが参考になります

 

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電気供給約款

 

今日(19日)は東京電力の計画停電が実施されず、
家族は久しぶりに落ち着いて過ごすことができたようです。

ところで今回の計画停電は「電気供給約款」に基づいたものの
ようです(約款というと、つい反応してしまいます^^)。

そうだとすると、具体的には次の通りです。

40 供給の中止または使用の制限もしくは中止
(1) 当社は,次の場合には,供給時間中に電気の供給を中止し,
 またはお客さまに電気の使用を制限し,もしくは中止していただく
 ことがあります。
イ 異常渇水等により電気の需給上やむをえない場合
ロ 当社の電気工作物に故障が生じ,または故障が生ずるおそれが
  ある場合
ハ 当社の電気工作物の修繕,変更その他の工事上やむをえない場合
ニ 非常変災の場合
ホ その他保安上必要がある場合

東京電力HPへ

今回は「イ」あるいは「二」に該当するのでしょう
(公表文がないので確認できません)。

ただ、同じ約款の42が気になります。

42 損害賠償の免責
(1) 40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)(1)によって
 電気の供給を中止し,または電気の使用を制限し,もしくは
 中止した場合で,それが当社の責めとならない理由によるもの
 であるときには,当社は,お客さまの受けた損害について
 賠償の責めを負いません。

私は法律の専門家ではないのでよくわかりませんが、
もしどこかに「当社の責めとなる理由」があった場合
(例えば点検を怠っていたとか)、裁判で勝てるのかなあと
素人ながら思ってしまいます。

例えば、原子力安全・保安院は東京電力に対し、
次のような注意処分をしていますので(3月2日です)。
保安院のHPへ
毎日新聞HP

※写真は17(木)夕方の東横線渋谷駅です。
 私の後ろの人がNHKのインタビューに答えていました。

 

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震災後の円高

大震災後に円高が進んだ背景として、
「保険会社が多額の保険金支払いに備え、海外資産の売却を進める」
という話を耳にします。

それはないだろう、というのが私の見解です。

例えば損保です。

地震保険の責任限度額は政府分を入れると5.5兆円。
このうち元受会社の負担分は0.6兆円にすぎません。
これに地震火災費用保険、企業保険の一部がどの程度加わるかどうか。

しかも、請求は一気にというよりは五月雨式に来ますし、
請求があれば即支払いというものでもありません
(もちろん可能な限り迅速な支払いは求められますが)。

再保険からの回収には時間差があり
一時的な資金負担は考えられるとしても、
昨年度末の現預金・コールローンの残高は1.2兆円、
国債も4.4兆円あります(インシュアランス統計号より)。
加えて毎月の収入保険料や当座貸越等も活用できます。

他方、損保が保有する外国証券は4.4兆円です(同)。
このなかには円建外債やヘッジ付きもあるでしょうし、
そもそも外国為替市場の規模は1日100兆円単位ということを
忘れてはなりません。

生保については、より現実的な話ではありません。

仮に数万人への支払いだったとしても
数百億円から数千億円というオーダーにしかならず、
生保が保有する流動性の高い資産残高
(現預金・コールローンは約7兆円、国債は12兆円)
を考えると、ほとんど問題になりません。

また、生保の外国証券残高は数十兆円になるものの、
公表資料によると、ヘッジ付きがかなりを占めています。
強いストレスを受けたのは日本なので、
海外資産を一気に手放す理由がありません。

円高の背景はよくわかりませんが、こうしてみると、
少なくとも保険会社が「犯人」ではないように思えます。
いかがでしょうか?

 

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林原の倒産

 

岡山を代表する優良企業と言われていた林原が
2/2に会社更生法の適用を申請しました。

林原は不動産で稼ぎ、研究開発に投資するといった
同族企業ならではの事業構造だったようです。
これが甘味料「トレハロース」や抗がん剤「インターフェロン」など
世界的な発明につながっています。

しかし、不動産投資や研究開発費が過剰債務となり、
さらに、多額の簿外債務など不正経理問題も発覚し、
経営が行き詰まった模様です。

ERMという観点から林原の倒産をみると、
やはりガバナンスの欠如ということになるのでしょうね。

非上場の同族企業で、社長は就任してから50年にもなります。
メインバンクの中国銀行は林原が10%強の大株主です。
外部チェックが入りにくかったのは明らかでしょう。
会計監査人も置いていなかったそうです
(銀行は何をしていたのでしょうか?)。

よくある話と言えばそれまでですが、
ある程度の社会的存在になると、それでは済まないでしょう。

※地元・大倉山の梅林です(下の写真は大倉山記念館)。

 

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S&Pの日本国債格下げ

 

27日の夕方にこのニュースを聞いた時、
AA水準にとどまったうえ、アウトルックが「安定的」だったため、
「やっぱりね」といった程度の感想でした。

市場関係者の多くも同じような反応だったようです。
ですから、ここまで大きく報道されるとは予想外でした。

今回の格下げ報道を、与野党の政治家が警告と受け止め、
財政再建に向けた議論を促す効果があるのであれば、
むしろポジティブな話かもしれませんね。

ただ、「疎い」発言の揚げ足取りに終わってしまう可能性も
否定できません。

S&Pは発表分のなかで、

「連立与党が参議院選挙で過半数議席を確保できなかったこともあり、
 民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けている」

「国債発行額の承認を含めた、2011年度予算案と関連法案が
 国会の承認を得られない可能性さえあるとS&Pはみている」

と、政治の混乱を格下げ要因のひとつに挙げています。
単に政府の借金が増えたから格下げ、ではないのですね。

財政健全化への道筋を示せるかどうか。
自分の子孫にこれ以上つけを回すのは勘弁してほしいです。

※今年は富士山がよく見えますね。

 

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ハッピーベンダー事業

 

テレビで自動販売機(飲料)の契約トラブルの話をみました。

詳しくはこちら(毎日放送HPへ)

通常の自販機ビジネスは、飲料メーカーが設置場所を借り、
設置先は場所代として手数料を受け取るというものです。

一方、A社が提供する「ハッピーベンダー事業」では、
個人・法人が自販機のオーナー(リース契約を結ぶ)となり、
A社の支援のもとで、自販機事業の運営をします。

番組によると、このA社は、

「ほとんど赤字にならない」
「高い収益をあげることができるサイドビジネス」

として、事業主を募集していたようです。

ところが、実際には自販機の大半が赤字となり、
事業主にはリース料の支払い負担だけが残る事態が相次ぎ、
トラブルになっているとのこと。

このハッピーベンダー事業のポイントは
「リース契約」だと思います。

契約した事業主はおそらく、月々の収入と支払いを比べて、
「リスクが少ない」「魅力的なサイドビジネス」と判断したのでしょう。

しかし、リース契約の本質は、物を介した「借り入れ」です。
100万円の自販機のリース契約を結ぶということは、
100万円の借金をして自販機を買ったのと大差ありません。
ここが理解されていたのかどうか。

たぶん、「借金して自販機のオーナーになりませんか」
と言われていたら、契約しなかった人も多かったのではないでしょうか。

A社の行為が法的にどうなのかはわかりません。
ただ、改めて金融の基本的な知識の重要さを感じました。

学校でパソコンの使い方を教えるくらいなら、
基本的な金融教育をもっとやったほうが有益でしょうね。

※写真は年末に訪れた「姨捨駅」です。
 まるで展望台のような駅でした。おすすめです。

 

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農協からの信共分離

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政府の行政刷新会議「規制・制度改革に関する分科会」では
JA(農協)から金融(信用)事業、保険(共済)事業を分離し、
農業関係の事業に専念させる改革を検討するそうです。

2008年度のJA部門別損益(770組合の合計)をみると、
信用事業(2143億円)と共済事業(1712億円)の黒字で
購買、販売、指導といった農業関連事業の赤字を補い、
2189億円の当期利益を計上しています。
このような損益構造は08年度だけではありません。

JAの信用事業は組合員から貯金を集め、貸出を行います。
貯貸率は3割弱にすぎず、多くは信連への預金に回ります。
貯金・預金の利ざやは資金運用収益の半分を占めており、
信連や農林中金の運用益が信用事業を支えているのです。

他方、共済事業はJA共済連との共同引受とはいえ、
JAでは引受リスクを負わず、販売に特化しています。
つまり、共済事業は実質的に手数料ビジネスです。

こうして見ると、信共分離のハードルは高そうですが、
やはり気になるのがJAのガバナンスの問題です。

JAは協同組織であり、組合員のために存在します。
ただ、同じ組合員でも、貯金者や共済加入者と、
農業関連事業の利用者ではJAに求めるものが違うはず。

例えば、共済加入者にとって、掛け金は安いほうがいいでしょう。
しかし、JAの経営を考えれば掛け金が安くなると、
JAに入ってくる手数料(付加掛金)が減ってしまいます。

兼業農家が圧倒的に多く、かつ、准組合員も多い
(組合員の約半数が准組合員です)なかで、
貯金者や共済加入者の利益が十分守られているのか、
今後の議論に期待しましょう。

※いつもの通り、個人的なコメントということでお願いします。

※左は丸の内、右は新横浜の駅ビルです。

 

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金融システムレポート

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先日(9/28)日本銀行が「金融システムレポート」を発表しました。

ここ数年、日銀は半年に1度のペースで同レポートを出しています。
足元の金融システムについて様々な分析があり、参考になります。
日銀HPへ

今回のレポートに、「蓄積が進む金利リスク」という分析がありました。
銀行による国債保有残高はすでに100兆円を超え、
金利リスク量(ここでは100bpv)も増えているというものです。

特に地域銀行での増加が顕著で、
100bpvは自己資本(TierⅠ)の30%に達しています。
平均残存期間をみると、大手行が2年程度まで短期化する一方、
地域銀行はむしろ残存期間を伸ばしています(3.5年超)。

もちろん、流動性預金の残存期間をどう見るか、
つまり、平均残存期間を1、2カ月とみるか、あるいは、
コア預金を踏まえ、例えば5年程度とみるかによって、
金利リスクの評価は全く異なります。

しかし、残存期間を5年程度とみる前提は、
「低金利が続き、資金移動が低調」というものです。
この前提が崩れることはないのでしょうか。
生保の負債とはかなり特性が異なるように思うのですが。

そうだとすると、やはり地域銀行の金利リスクは
もはや無視できる状況ではないのかもしれません。

※いつもの通り、個人的なコメントということでご理解下さい。

※この週末は地元のお祭りでした。
 ただ、残念ながら今回は所用につき不参加でした。
 数年前に雨の中おみこしを延々と担いだのを思い出します。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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