景気ウォッチャー調査

 

「景気ウォッチャー調査」というものがありまして、
いわば生活実感としての景況感をつかむために
内閣府が毎月実施しているアンケート調査です。

実際の調査から公表までの期間が短いのも特徴で、
例えば2月の場合、2/25~月末に調査した結果が
3/8に公表されています。

2月の調査結果は、景気の基調判断が下がり、

「景気は、円高、株安といった金融資本市場の不安定な
 動きの中、消費動向等への懸念により、このところ弱さ
 がみられる」

「先行きについては、春物商戦やローン金利低下への
 期待等がある一方で、引き続き、先行き不安や金融
 資本市場の動向が企業、家計のマインド等に与える
 影響に留意する必要がある」

というまとめでした。内閣府のサイトへ

アンケート調査なので、各地の景気ウォッチャーによる
様々なコメントが載っています。

そこで、調査結果(全体版)から、マイナス金利政策に
関連するコメントを拾ってみました。

<家計動向関連>
○突然のマイナス金利と、消費税率 10%への引上げ前の
 駆け込み需要が重なり、若い世代の顧客の動きが非常に
 良い 【東北、住宅販売会社】

●日銀のマイナス金利導入以降、百貨店友の会への入会
 希望者が明らかに増加している。預貯金の金利低下を懸念
 しての行動であり、消費者の生活防衛意識が高いことへの
 表れである【東北、百貨店】

●マイナス金利政策の副作用を含めた効果も不透明である
 など、外的環境が悪く、マインドの改善が望めない
 【近畿、百貨店】

●マイナス金利の影響で、住宅ローン金利の低下は更に進んで
 いるが、経済環境の先行きに対する不安感が高まっている。
 そのため、モデルルームへの来場者数が減少し、購入決定に
 移行する割合も低下している 【近畿、その他住宅[情報誌]】

*客からの問い合わせで新築物件の早期建築を要望するケース
 が増加している。その理由としては、マイナス金利政策による
 金融機関の金利優遇や消費税率引上げを見越した早期契約を
 要望している客が増加しているためである
 【中国、住宅販売会社】

<企業動向関連>
●今回の日銀のマイナス金利は、地方銀行にとって最悪である。
 この政策が資金需要の増加につながるとは全く思えない。
 これは景気に悪い影響を与えると思う 【南関東、金融業】

○日銀のマイナス金利の反響は大きく、住宅メーカーの景気は
 好調である。企業への貸付も緩和されて良いムードになりそう
 である 【南関東、税理士】

●特にマイナス金利の影響として、企業の立場からするといくら
 金利が低くても設備投資などの実需がなければ借入はしないし、
 個人の立場からも住宅ローン金利が低くなっても、個人所得の
 増加傾向が期待できない限り、将来の返済見込みが立たず、
 借入はしないと考える
 【北陸、一般機械器具製造業】

●マイナス金利や海外の不安定な原油価格相場、株価乱高下
 など、経営環境の不安要素の影響で設備投資が積極的には
 行われておらず、受注高も前年割れが続いている
 【中国、通信業】

*日銀のマイナス金利導入以降、顧客より新規融資案件や既存
 貸出金についての金利引下げ要請が増加している
 【四国、金融業】

●株価、為替、マイナス金利による銀行経営へのインパクト等、
 環境変化の乱高下が激しいニュースが相次ぎ今後どう動くのか
 全体的に様子見している感じがする。消費行動も当面慎重な
 動きになるのではないか 【沖縄、食料品製造業】

<その他>
●マイナス金利など先行きの不透明感が客の意識のなかに広まっ
 ており、購入マインドが少し弱まっている 【東北、家電量販店】

●マイナス金利政策による景気の先行き不安から、消費の冷え込
 みにつながる可能性がある 【近畿、家電量販店】

●将来に不安を持っている経営者が非常に増えている。世界経済
 の悪化、日銀のマイナス金利の導入、来年の消費税増税等で、
 経営者が設備投資に消極的になっており、景気は悪化しつつある
 【四国、公認会計士】

引用が長くなってしまい恐縮ですが、いかがでしょうか。

NHKニュースでは、「日銀のマイナス金利政策については
見方が分かれました」とあるのですが、ポジティブなコメントは
住宅関連だけで、どうもネガティブなコメントが目立つようです。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします

※越後湯沢の先にある貝掛(かいかけ)温泉に行きました。
 目に効く温泉なのだそうです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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遺伝子検査と保険

 

元同僚だった弁護士の吉田和央さんとお会いした際、
「生命保険論集に寄稿したのですよ」と教えていただいたので、
論集を探して読んでみました。

「遺伝子検査と保険の緊張関係に係る一考察」という論文で、
「米国及びドイツの法制を踏まえて」という副題付き。

「生命保険論集」は生命保険文化センターの論文集です。
今だと2015年6月以降の論文はまだネット閲覧できない
(吉田さんの論文は2015年12月号)なので、年間購読するか、
損保総研図書館などで閲覧が可能です。
生命保険文化センターのサイトへ

さて、本稿は遺伝子検査と保険の関係について、
遺伝子検査の現状や米国・ドイツの法制を参考に
議論を再整理したものです。

単に私の認識不足という話なのですが、
すでに日本でも遺伝子検査が普及しつつあるのですね。

検査の質をどう考えるかという問題はさておき、
確かにアマゾンでも検査キットがいくつも見つかりますし、
驚くほど高価なわけでもありません。

しかし、この「究極の個人情報」と保険の関係について、
本稿によると、2000年代前半に活発な議論が行われたものの、
具体的な法制化や指針等の作成には至らなかったようです。

様々な論点があることがわかります。

例えば、保険会社による危険選択の際、遺伝子情報を
活用できるかどうか。

現在の保険加入時に保険会社が活用している医療情報と
遺伝子検査による遺伝子情報を区別して考えられるか、
ということになります。

保険業法には、保険契約の内容や保険料に関して、
特定の者に対し「不当な差別的取扱い」を禁止しています
(保険業法第5条)。

とはいえ、現行実務では、病歴などの医療情報に基づき
危険選択を行っていて、保険数理上の合理性があれば
「不当な差別的取扱い」には当たらないとされています。

遺伝子情報による危険選択の場合はどうでしょうか。
保険業法の規定では、保険数理上の合理性があると
評価されれば認められることになりますが・・・

もっとも、遺伝子と疾病の関係は、単一遺伝子の変異で
発病を予測できるものと、多因子疾患(複数の遺伝子や
環境要因が関与)があるのだそうです。

後者の場合、特定の遺伝子が疾病リスクを高めるとはいえ、
合理的な危険選択と評価されるにはハードルが高いと
感じました。

保険会社が顧客に遺伝子検査を求めることができるか
という論点もあります。

現行法(保険業法・保険法)に禁止規定はないとのこと。
でも、自分の遺伝子情報を知りたくないという権利は
どうなるのか。

もちろん、逆選択のおそれもありえます。

遺伝子検査が普及すると、例えばアルツハイマー病になる
リスクを高める遺伝子の保因者ばかりが介護保険に入り、
そのことを知らなかった保険会社の健全性が悪化する、
といった事態です。

吉田さんは、遺伝子検査が保険業に与える影響分析が
不可欠であるものの、分析には時間がかかるため、

「本論点の検討は継続的に行う必要があるとしても、
 拙速な議論は避けるべきであると考えられる」

と結んでいます。

ということで(?)、今回はこれ以上私見をはさむのは
遠慮しておきましょう。

※朝ドラに「大隈夫妻」が登場しているようですね。

 

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コメント掲載の一時休止

コメント欄を今後どう運営するか、多少お時間をいただき、
考えてみることにしました。
このため、しばらくの間、コメント掲載を休止といたします。

ブログのほうは引き続き週1回程度のペースで書くつもりです。
よろしくお願いいたします。

 

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マイナス金利と生保経営

 

東洋経済オンラインに生保関連の記事を寄稿しました。
テーマは「マイナス金利政策と生保経営」です。
東洋経済オンラインのサイトへ

報道では貯蓄性商品の値上げや販売停止ばかりが
取り上げられるので、つい執筆を引き受けてしまいました。

記事をご覧になればわかりますが、タイトルの
「マイナス金利でリスクテイクが困難に」とは、
次のような意味です。

マイナス金利政策に伴う金利水準の低下によって
生保が超長期の保障を提供する負担はより重くなりました
(提供できなくなったとは言っていませんので念のため)。

そのようななかで、生保が資産運用によるリスクテイクを
積極化させるとは私には思えないのですね。

報道によると、生命保険協会の筒井会長(日本生命社長)は、

「日本国債を中心とする運用はもはや困難」

「外債へのシフトがメーンにならざるを得ず、外債以外もさらに
 ポートフォリオの分散にこれまで以上にチャレンジしていかな
 ければならない」

と2月19日の記者会見でコメントしたそうですが、同時に、

「保険商品も資産運用も両面でもっと創意工夫をこらせということ」

とも述べており、日本生命が大胆なポートフォリオ・リバランスに
踏み切るという話ではないと受け止めました。

それに、どんどんリスクテイクできるような体力があるのだったら、
従来はどうしてそれを契約者等に還元せず、貯めこんでいたのか
(あるいは、ターゲットとする健全性の水準を見直したのか)、
という疑問につながってしまいます。

いずれにせよ、期末に向けた生保各社の動きに注目しましょう。

※築地市場です。カモメがエサ(?)に群がるような光景も
 あと少しで見納めです。

 

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決算短信の見直し案

 

「非財務情報の開示」についての議論を聞くために
金融審議会ディスクロージャーWGに出席したところ、
情報開示が後退しかねない話をしていて驚きました。

このWGでは、持続的な企業価値の向上に向けて
企業と投資者の建設的な対話を促すという観点から、
開示情報の提供のあり方を有識者が議論しています。
金融審議会WGのサイトへ

議論のなかで、3つの開示書類、すなわち「決算短信」
「事業報告・計算書類」「有価証券報告書」について、
開示内容をそれぞれの目的に応じて整理しました。

決算短信の目的は「投資者の投資判断に重要な情報を
迅速かつ公平に提供する」となります。

そこで決算短信について次の提言案が示されました。

①情報についての速報性が要求され、公表前の監査は
 不要であることを明確にする。

②速報性がそれほど求められない項目(例えば、経営方針)
 については、有価証券報告書で記載することとする。

③記載を要請する事項をサマリー情報、経営成績等の概況、
 連結財務諸表及び主な注記に限定し、その他は企業が任意に
 記載できることとするなど、義務・要請事項を可能な限り減らす。

同時に示された東証の静委員による見直し案は次の通りです。
資料(静委員)

上記に沿った内容ですが、4ページが見やすいでしょう。
サマリー情報(=短信の表紙の部分)を「義務」から「要請」
としたうえで、

・財務諸表と主な注記の開示を要請していたものを、
 投資判断を誤らせる恐れがない場合には開示不要

・「継続企業の前提に関する重要事象等」も開示不要

などが示されています。

これらの整理・合理化によって、「より自由な開示を促す」
「空いた時間を投資者との対話にあてる」というのが
このWGの提言なのでしょうか。

そもそも現在の決算短信で開示義務があるのは
サマリー情報のうち、いくつかの指標だけ(監査も不要)。
あとは取引所の「要請」に基づいて記載しているもので、
有価証券報告書のような記載義務はありません。

「義務」と「要請」の違いは、WGの1回目で静委員から
説明があり、議事録では「要請」はあくまで任意と読めます。

それでも上場会社が充実した決算短信を出すのは
東証のガイドラインがあり、半ば義務として従っている
からなのか。私はそれだけではないと思います。

多くの投資家やアナリストは決算発表時に出てくる
決算短信を最も重要な情報源として捉えています。

有価証券報告書が公表されるのはだいぶ先なので、
まずは決算短信をもとに対話がなされるはずです。
だからこそ、上場会社も充実した決算短信を作成し、
公表しているのでしょう。

また、大企業では当日または数日後に決算説明会を
開いており、ここでは決算短信を予め分析したうえで
質疑応答がなされています。

投資家と企業との建設的な対話を促すという観点が
議論の出発点であるはずなのに、現在行われている
対話の重要なツールを後退させるような話になるのは、
いったいどうしてなのでしょうか。

しかも、見直し案は速報性の促進とバーターではなく、
投資家やアナリストにとって一方的に状況が悪化する
という内容です
(これ以上早くしてほしいという声は少なそうですが…)。

ご参考までにWGメンバーの名簿も挙げておきましょう。
投資者の声を代表する委員が少ないような気がします。
WGメンバー名簿

※銀座には意外なところに路地がありますね。
 写真は銀座8丁目です。

 

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国内系生保の資産運用

 

先週、生保の2015年度第3四半期(4-12月期)決算が
公表されたので、国内系生保の資産構成を中心に
9月末からの動きをざっと確認してみました。

引き続きあまり大きな変化は見られないようですが、
あえて特徴を挙げるとすれば、次の3点でしょうか。

1.「責任準備金対応債券」の減少

国内系生保10社のうち6社で小幅ながら減っています
(9月末対比。取得価額ベース)。
低金利のなかで資産長期化を見送る動きなのでしょう。

2.外貨建資産の増加

ヘッジ状況は非開示なので、ヘッジ外債を増やしたのか、
オープン外債を増やしたのかまではわかりませんが、
10社のうち8社で増えています(こちらは時価ベース)。
ただし、増加ペースは以前よりも緩やかです。

3.代替投資の増加

上半期に続き、「外国株式等」「その他の証券」を
増やしている会社が目立ちます。
中身はわかりませんが、投信・ファンドなどを購入すると
これらの区分に入ります。
他方で国内株式を増やす動きはあまり見られません。

1月以降の金融市場混乱は、国内系生保には総じて
逆風となっています。

まさかのマイナス金利政策で金利水準が一段と下がり、
株価急落、円高進行も、リスクテイクしている会社には
厳しい状況です。

もちろん、これまでの内部留保の蓄積を踏まえると、
財務の健全性を云々するような段階ではなさそうですが、
商品戦略をはじめ、今後のビジネスモデルについては
十分検討する必要がありそうですね。

※横浜アリーナが大規模改修工事を行っていました。

 

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保険収支と損益の関係

 

ある筋からのご依頼により、この記事を取り上げました。
生命保険大手がM&Aに走る理由?

まず、念のため記事の要旨をお示しします。

①生保の海外M&Aは「かんぽ」上場が引き金。パイを「かんぽ」
 に奪われるとの危機感が、大手各社をM&Aに駆り立てる。

②保険収支(=保険料等収入-保険金等支払金)が3.7兆円、
 運用収支(=資産運用収益-資産運用費用)が11兆円と
 2014年度は運用収支が圧倒的に多い。つまり、経常利益でも
 運用益が大きな比重を占めることになる。

 生保大手がM&Aに走るのは、今後、高齢化と人口減少で
 保険料収入が減る一方、支払保険金が急増し、保険収支の
 悪化が加速するのが目に見えているから。

③独自のニッチ路線を行く会社もあるが、42社は多過ぎる。
 再編が進まない理由は、大半の生保がとる「相互会社」
 という企業形態にある。

 今後、海外に活路を見いだすことが難しい多くの中小生保の
 経営が行き詰まるのは目に見えている。破綻が続けば
 社会不安を起こしかねない。

 相互会社再編の道さえ開ければ、大手生損保主導による
 国内生保業界の健全化が見えてくる。

M&Aの背景に「かんぽ」上場があるかどうかはともかく、
②と③には事実とかなり異なる記述がありますので、
この点をコメントいたしましょう。

まず、②の「経常利益に運用益が大きな比重を占める」
ですが、「保険収支」について誤解があるようです。

ここで言う「保険収支」とは、その期の保険料等収入と
保険金等支払金を比べただけなので、損益とは無関係です。
おそらく筆者のかたは「責任準備金」の存在をご存じない
のだと思います。

生保は自転車操業(=その期の収入でその期の支出を賄う)
をしているのではありません。その期の保険料等収入のうち
翌期以降に支払いが見込まれるものは責任準備金に繰り入れ、
その期に支払う保険金や給付金、返戻金は責任準備金から
支払います。

確かに長期にわたり保険収支のマイナスが続くのは、
持続的成長を目指す観点からは好ましくないかもしれませんが、
その期の保険収支を見ても、会社が儲かっているかどうかは
判断できません。

運用収支と経常利益の関係にも誤解があるようです。

生保は平たく言えば契約者に一定の利率(予定利率ですね)
を保証しており、これを運用益で賄っています。

利率保証にかかる毎期のコストは責任準備金繰入額に
含まれているのでわかりにくいのかもしれませんが、
毎期数兆円のコスト負担があるので、運用収支11兆円が
そのまま利益とはなりません。

もし運用収支がそのまま利益となるのであれば、
「逆ざや」など発生しようがありませんよね。

長くなったので、③についてはごく簡単にコメント。

「再編が進まない理由は、大半の生保がとる『相互会社』
 という企業形態にある」

とのことですが、相互会社は今や5社しかありませんし、
中小生保は全て株式会社形態です
(総資産5兆円超の会社を「中小」とは言わないでしょう)。

以上から、筆者のかたは一見して生保経営について
ご存じではないことがわかるにもかかわらず、

・海外に活路を見いだせない多くの中小生保は経営が
 行き詰まる。破綻が続けば社会不安を起こしかねない

・相互会社再編の道さえ開ければ、大手生損保主導による
 国内生保業界の健全化が見えてくる

という刺激的(?)なご主張をしているわけです。

少なくとも保険関係者のかたであれば、これをそのまま
情報提供してしまうのは、私には疑問に感じましたので、
失礼ながら今回このようなコメントをした次第です。

※久しぶりに横浜スタジアムを見ました!

 

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最近の読書から

 

※サーバーの不具合により、いろいろと試行錯誤しています。
 申しわけありませんがお含み置きください。

日銀が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」に突入。
イールドカーブが一段とフラット化してしまいました。
ALMミスマッチを抱える生保経営には厳しい事態ですが、
出口はさらに遠のいた感があります。

さてさて、今回は久しぶりに読んだ本のご紹介。
この数か月に読んだなかから印象に残ったものを
ごくごく簡単にコメントします。

1.「新・観光立国論」(東洋経済新報社)

銀行アナリストとして有名だったデービッド・アトキンソン氏
(今は「小西美術工藝社代表取締役社長」です)による
「短期移民」による成長戦略の提唱です。

氏によると、日本は観光立国の4条件である「気候」「自然」
「文化」「食事」が全てそろう稀有な国なのだそうです。

ただ、昨年も日本を訪れる外国人観光客が増えていますが、
それで喜んでいる場合ではないことがよくわかります。

2.「NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか」
  (東洋経済新報社)

コーポレートガバナンスの専門家である上村達男教授
(早稲田大学。前経営委員会委員長代行)による、
NHKのガバナンス問題を指摘した書籍です。

NHK問題だけではなく、最近のガバナンス改革を
考えるうえでも参考になると思います。

3.「世界の壁は高くない」(廣済堂出版)

サンリオで海外戦略を担当した鳩山玲人氏による
「海外で成功するための教科書」(=副題)です。

海外事業を展開する際、「一番高いのは社内の壁」
というところが最も印象的でした。

4.「大世界史」(文春新書)

池上彰氏と佐藤優氏による対談ですから
面白くないわけがなく、一気に読み終えました。

お二人は「現代をよりよく理解するためには
歴史の学習が欠かせないという点で意気投合」
したそうですが、私もそう思います。

5.「会社のITはエンジニアに任せるな」(ダイヤモンド社)

著者の白河克氏は数年前、友人の関尚弘くんと
共著で老舗企業の業務改革プロジェクトについての
ドキュメンタリーを書いています。

本書はコンサルタントとしての豊富な経験から
ITと経営者の関係についてきちっと書かれていて、
参考になります。

いかにITを経営者自身の問題として取り組んでもらうか。
「IT」を「ERM(あるいはリスク管理)」に置き換えても
同じことが言えるのでしょうね。

※写真は富山県高岡市・射水(いみず)市を走る「万葉線」。
 赤い電車は乗り心地が良かったですね。

 

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払込方法別収入保険料

 

各社のディスクロ誌とともに保険会社の経営分析
には欠かせない「インシュアランス統計号」に
「払込方法別収入保険料」という統計があります。

会社ごとに「初年度保険料」「次年度以降保険料」が
掲載されているだけではなく、初年度保険料の内訳
(一時払、年払、月払など)もわかります。

例えば、2014年度の初年度保険料(個人保険)のうち
年払のトップ3は、日本、エヌエヌ、あんしんでした。
「年払 ≒ 経営者保険」という傾向がありますので、
この顔ぶれには納得です。

全社合計データはこんな感じ(2014年度)

 保険料収入(個人保険) 24.5兆円
  うち 初年度保険料    8.8兆円
     次年度以降保険料 15.7兆円

  初年度保険料のうち
    一時払         6.5兆円
    年払           0.6兆円
    月払           1.6兆円

 <参考>
 保有契約年換算保険料 18.6兆円
 (個人保険)
 新契約年換算保険料(同) 2.2兆円

つまり、

 ・保険料収入の6割以上は既契約からの収入
  (ただし、一時払の収入で大きく変動)
 ・初年度保険料の7割以上が一時払の収入

なのですね。
一時払の影響が大きいことが一目瞭然です。
しかも、一時払の収入は毎年大きく変動します。

メディアが保険料収入で「首位奪回」と報じるのは
いったい何を伝えているつもりなのでしょうか。

年始の各紙トップインタビュー記事をみると、
メディアは相変わらず保険料収入を重視していて、
日本生命の筒井社長から、

「トップラインはきわめて重要だ」
「ナンバーワンにこだわる姿勢は堅持したい」

といった話を引き出しています。

しかし、日本生命の中期経営計画をよく見ると、
国内シェアNo.1は「件数・保障額・年換算保険料」
となっていて、単純な保険料収入ではありません。

他の数量目標も、「保有契約年換算保険料の伸び率」
「お客様数」「グループ事業純利益」などとなっていて、
少なくとも公表されているものに「保険料収入」はありません。

※写真はお茶の水です。

 

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社長人事

 

先週に続き、持株会社(純粋持株会社)関連の話です。

東京海上グループはグループ経営体制(人事)を見直し、
持株会社の社長が中核子会社(東京海上日動)の社長を
兼務する人事を改めることにしました。

日本の持株会社グループを見ると、

・純粋持株会社の傘下に大きな中核子会社があるケース

・経営統合に伴い設立した純粋持株会社の傘下に
 複数の中核子会社があるケース

の2つに分けられます。

もっとも東京海上グループやSOMPOグループのように、
設立当初は後者だったものが、その後子会社が合併し、
前者となったケースも目立ちますね。

前者の場合、実質的に「グループ ≒ 中核子会社」
ということが多いためか、持株会社と中核子会社の
社長が同じであることが多かったように思います。

ただ、持株会社の社長はグループ事業ポートフォリオを
いかにマネジメントするかが主な役割であるのに対し、
事業子会社の社長の役割は当該事業のマネジメントです。

東京海上の場合、海外子会社が東京海上日動の傘下に
あるとはいえ、さすがに「グループ ≒ 東京海上日動」
ではなくなっているのでしょうから、今回の経営体制の
見直しは私には理解できる話です。

参考までに、他の保険・金融グループを見てみましょう。
まずは保険持株会社グループから。

MS&ADは、持株会社の社長が中核子会社の一つである
MSIの社長を兼務しています。
ちなみにADIの社長は持株会社の会長を兼務しています。

SOMPOグループは、持株会社の社長が中核子会社の会長、
中核子会社の社長が持株会社の会長という体制です。
しかし、4月から中核子会社の社長が代わり、兼務人事でも、
SJとNKの統合に伴う「たすき掛け人事」でもなくなります。

T&Dは持株会社、中核子会社で社長の兼務はありません。

ソニーフィナンシャルでは、少し前まで持株会社の社長が
中核子会社(ソニー生命)の社長を兼務していましたが、
2015年4月からは兼務を解消しています。

大手銀行グループはどうでしょうか。

MUFGは、持株会社の社長が中核銀行のトップを
兼務しています。
報道によると、近いうちに兼務が解消される模様です。

SMFGとみずほFGは現在、いずれも持株会社の社長と
中核銀行トップの兼務はありません。
SMFGは2011年4月から、みずほFGは2014年4月から
現体制となっています。

三井住友トラストは持株会社の社長が中核銀行の会長、
中核銀行の社長が持株会社の会長という「たすき掛け」。

りそなGは持株会社と中核銀行のトップが兼務です。

全体としては、トップ人事の兼務やたすき掛け人事が
解消に向かっているように見えますね。

※暖冬のためか、大倉山公園の梅がもう咲いていました。

 

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