海外M&A研究会報告書

経済産業省の「我が国企業による海外M&A研究会」(座長は早大の宮島英昭教授)の報告書が公表されたので、さっそく読んでみました。
報告書の概要と、重要ポイントをまとめた「9つの行動」もあわせて公表されていますが、本文のほうが具体的にいろいろと書いてあり、参考になりそうです。
経産省のサイトへ

以前私は、東洋経済の特集号で保険会社の海外M&Aについて書いた際、M&Aそのものがゴールではなく、1)そもそも海外事業で積極的なリスクテイクを行うという経営判断がいかになされたのか、2)海外大型M&Aの実行、3)買収先をグループのメンバーとしていかに経営体制に組み込むか、の3つの局面について述べました。
この報告書でもM&Aの実行局面のみならず、「前」と「後」の重要性を踏まえ、「海外M&A成功に向けた3つの要素」として次の3つに整理して説明しています。

・M&A戦略ストーリーの構想力
・海外M&Aの実行力
・グローバル経営力

日本企業による海外M&Aの特徴

日本企業による海外M&Aを扱った報告書なので、日本企業を意識した記述をいくつかご紹介しましょう。

「いきなり大きな案件や複雑な案件に取り組むのではなく、ある程度小型の案件で自社の海外M&Aの経験値を高めてから、より複雑な大規模案件に取り組むという戦略的アプローチを意識的に実行している海外企業は多い」(p.18)

「特に投資銀行等の外部からの持込案件については、戦略より案件が先行し、準備期間が短く、結果として買収前の想定と、買収後明らかになった実態との乖離が大きいケースがある」(p.27)

⇒ 日本企業は身の丈に合った海外M&Aではなく、特に外部からの持込案件などで、対応可能範囲を超えたリスクを伴う案件や、買収金額が高すぎる案件に乗り出してしまう可能性が高いということかもしれません。

「日本企業の中には、交渉の場に大勢の関係者が参加するが、結局意思決定を行える者が誰なのかよくわからないケースや、交渉の場で提起された論点についてその場で決定せず持ち帰るケースがある。こうしたケースでは、売り手からすると意思決定者が誰かわからず、疑念が増し、信頼感を損なうことが懸念される。さらに最悪のケースは、条件交渉をFAや投資銀行の担当者に全て任せてしまうことである」(p.50)

⇒ 実感としてはケースバイケースのように思いますが、このような事例も多いのかもしれませんね。

「日本企業では『飲み会』や企業をあげた地域行事への参加など、業務時間外で従業員同士が集まる機会も多いことから、企業の価値観や風土融合を重視するのは日本企業の特徴と思われがちであるかもしれない。しかし、欧米企業でもPMIにおけるチームビルディングを通じて信頼関係を構築する取組みが行われており、また日本企業が欧米企業を買収する場合にも風土融合の施策に積極的であるという事例もみられた」(p.66)

⇒ 企業の価値観や風土融合を重視するのは日本企業だけの特徴ではないという指摘は、当然と言えば当然ですが、興味深いです。

「日本企業は、欧米の買収者に比べ相手企業の既存経営陣への依存度が高く、買収後も経営陣が買収前に有していた権限を害しないように独立した会社として運営する傾向が強いという指摘がある。しかし、経営ビジョンや価値観を共有できない場合や買収先のさらなる成長を目指すうえで経営者として実力や倫理観が不足と判断される場合には、躊躇なく買収前の経営陣を交代させることも必要である」
「企業価値を創出するのは買収者であり、買収者たる企業自身で主体的に買収プレミアムの回収を可能とする業績向上策に取り組むべきものであり、買収先の経営陣にその全てを任せていても、買収プレミアムの回収は担保されない」(p.68)

⇒ 「企業価値を創出するのは買収者」というのは重要な指摘ですね。

「海外M&A は買い手にとっても変革を実現する絶好の機会でもあり、海外M&A によって自身をグローバル化していくことも海外M&A の成果の一つである」
「欧米企業は、リスクは顕在化した時点で対応すればよいという姿勢である一方で、まだまだ日本企業はリスクを過度に回避しようとする傾向が強いとされる。過度のリスク回避、慎重さは、成長阻害要因であり、可能な限りの準備をして実施し、リスクが顕在化したらそれに全力で当たるという姿勢が重要ではないだろうか」(p.87)

⇒ M&Aにかぎらず、リスクテイクを促すのであれば、失敗に寛容な企業文化や社会風土(メディアを含む)が必要ですね。

ヒアリング協力企業の顔ぶれを見ると、金融・保険業は含まれていませんでしたが、実際の体験を踏まえた記述も多く、参考になると思います。

<ヒアリング協力企業>
 旭化成、亀田製菓、関西ペイント、グローリー、小松製作所、サトーホールディングス、サントリーホールディングス、ダイキン工業、電通、ニコン、日本板硝子、日本たばこ産業、日本電産、日本電信電話、日立製作所、ボッシュ パッケージング テクノロジー、丸紅、リクルートホールディングス

※写真は浜離宮です。

 

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20回目のオープンセミナー

保険代理店の情報交流組織であるRINGの会が主催する「RINGの会オープンセミナー」が今年で20回目を迎えます。
RINGの会 オープンセミナー

第1回のセミナーが開かれたのは1999年10月で、当時日本FP協会理事長だった牧野昇氏の基調講演の後、保険ジャーナリストの中崎章夫さんと石井秀樹さんをパネリストに迎えた「これからの保険業界」、RINGメンバーによるパネルディスカッション「勝ち残る代理店営業戦略は何か?」という構成だったようです。

1999年10月といえば、三井海上と日本火災、興亜火災の3社が将来の事業統合・再編を目指した包括提携を発表し、損保業界再編の口火が切られた時でした。その後、第1次再編、第2次再編を経て、現在のような3メガ損保グループが市場シェアの大半を占める状態となりました。
他方、生保では1999年6月に東邦生命の経営が破綻し、その後も中堅生保の経営破綻が相次ぐとともに、外資系・損保系生保の存在感が高まっていくことになります。

日本最大級の保険流通セミナーに成長

オープンセミナーに話を戻しますと、毎年1回のペースでセミナーが開かれ、近年はパシフィコ横浜の国立大ホールで1000人規模の保険流通関係者が集まる大イベントに成長しました。

私がオープンセミナーに関わるようになったのは2007年の第9回からで、途中からアドバイザーに就任したこともあって、これまでに5回登壇しています。
そして20回目の今回は、午前中のパネルディスカッション「自由化後20年 保険ビジネスはどこに向かうのか」のコーディネーターを務めることになりました。

パネリストは、生損保経営の経験があり、今は日本最大級の来店型代理店トップを務める窪田泰彦さん、長年にわたり外資系保険会社(AIGですね)の経営を担ってきた横山隆美さん、日本損害保険代理業協会の専務理事として10年近く保険代理店に寄り添ってきた野元敏明さんです。
いずれも保険業界を「よく知っている」皆さんですから、コーディネーターとしては、保険流通の現場ではなかなか聞くことのできない話をお届けできるのではないかと、自分でも楽しみにしています。

予定調和ではないプログラム

それはそうと、今回のプログラム全体を見わたすと、会場の多くを占めるであろうプロ代理店の経営者は1人(ソフィアブレインの小坂学さん)しか登壇しません。
第2部は保険会社の未来戦略の本当のところを中崎ジャーナリストが引き出そうという企画ですし、第3部は「真の顧客本位とは何か」について深掘りするものです。

これまでのオープンセミナーでは、第2部または第3部にプロ代理店の経営者がずらっと登壇し、成功事例や工夫している取り組みを語っていただく。それを聴いた会場のプロ代理店の皆さんも話に納得し、安心して帰る、というパターンが多かったように思います(あくまで個人的な見解です)。
しかし、20回目の節目を迎えた今回は、いろいろと検討した結果だとは思いますが、そのような予定調和的な企画ではない、ある意味挑戦的(挑発的?)なプログラムのようです。

「代理店が主役ではないのか?」「上から目線?」そんなお叱りもあるかもしれませんが、保険流通に関わる皆さんは、6月にぜひ横浜にお越しいただき、RINGの会の挑戦を正面から受け止めていただければと思います。

↓お申し込みはこちらから↓
RINGの会 オープンセミナー

 

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ネット損保 淘汰の波

3月20日の日経新聞にコメントが載りました。
「ネット損保 淘汰の波」「解禁20年 シェア1割届かず」という記事のなかで、ダイレクト自動車保険市場が伸び悩んだ背景について、

「価格競争に陥ることなくサービス競争を展開した大手損保の戦略が奏功した」

とコメントしています。
日経記事のサイトへ(有料版)

実は半年前の産経新聞の記事に載った私のコメントは、

「(今後の市場動向について)ゆるやかに増加する傾向は今後も続くだろう。ただ、インシュアテックの技術が進めば、ビッグデータなどを活用し、個人に合わせた個別性の高いサービスや保険が生まれることも考えられる」

「(インシュアテックの進展とともに)通販型保険の市場は今後、大化けする可能性がある」

というものでした。

どちらも取材では同じような話をしているのですが、20年もたったのに未だシェアが1割弱というところに注目すると今回のような記事になり、技術革新や技術革新に伴う社会の変化が従来の保険ビジネスを大きく変える可能性があると考えれば、産経記事のような話になるのでしょう。

※築地には戦前の町家建築が残っています。下の写真は築地本願寺です。

 

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公文書の書き換え

国立国会図書館では「調査と情報-Issue Brief-」という、時々の国政上の課題に関する簡潔な解説レポートを出しています。
2月27日号はタイムリーなことに「行政機関における文書管理-国の説明責務に係る論点と改善方策-」で、行政の文書管理制度がどのように変遷してきたかをわかりやすくまとめていました。

本稿によると、日本で国民共有の知的資源としての公文書管理制度が確立したのはつい最近のことだとわかります。久しく行政運営の能率化という内部目的のために行われてきた公文書管理に、情報公開制度の整備が進むなかで、ようやく2011年に「公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)」が施行され、「国の活動を現在および将来の国民に説明する責務を全うすること」という目的が加わりました。

しかも、2016年に総務省が実施した「公文書管理に関する行政評価・監視結果報告書」では、公文書管理法の趣旨および公文書管理法に基づくルールについて、文書管理者を含む職員に十分徹底されていない状況にあるという指摘がなされているとわかりました。
本稿ではこうした状況を踏まえ、行政機関内部による改善と、外部の関与による改善を示しています。

今回の件で、公文書(決裁文書)の書き換えが起こりうるとわかってしまった以上、政府はかなりの取り組みをしなければ国民の信頼回復はできません。また、国民も忘れずに追求し続ける必要があります。

記録を残すことも促してほしい

おそらく今後、原因究明を進めるとともに、再発防止策が検討されるでしょう。その際、書き換えが起こらない仕組みを作るだけではなく、ぜひ文書主義の原則を徹底し、個人メモではなく行政文書として記録を残すことを促すような仕組みも作ってほしいと思います。

行政のみならず、日本では文書として記録を残す、あるいは、業務などを文書化するという習慣や文化が総じて薄く、議事録が残らないところで実質的な経営判断が行われていたり、担当者が変わると業務のやり方が大きく変わってしまったりしがちです。
しかし、家業であればまだしも、政府や大会社といった組織において、納税者や株主、債権者、従業員といったステークホルダーから透明性を求められるのは当然の話であって、「内輪の話は外に出さない」では済みません。

そもそも記録に残すのは意思決定を明快に行うためでもありますし、後世の歴史家だけでなく、今の自分たちに役立つ話でもあります。
なぜ記録を残すのか

決裁文書の書き換え発覚という前代未聞の事件を受けて、行政がかえって記録を残さなくなり、透明性が後退してしまうのであれば、文書管理制度を整備してきたこれまでの取り組みが無駄になりかねません。
表面的な書き換えや紛失の防止だけでなく、ぜひ「記録を残す」ことにも配慮した改革に期待したいです。

※小田急の複々線化がついに完成しましたね。いつか赤いロマンスカー(GSE)にも乗ってみたいです。

 

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自由化後の自動車保険

直近の「損害保険研究」(第79巻第4号)に「損害保険自由化20年目の検証」という、自由化後の自動車保険の推移に関する論文があり、興味深く拝読しました。筆者は元損害保険料率算出機構職員の大島道雄さんです。

自由化で保険料は下がらなかった

本稿で大島さんは、各種統計資料データから自由化後の自動車保険の推移を調査した結果、期待された事業費率の低下や保険料単価の低廉化は認められず、両者はむしろ上昇傾向にあることを指摘しています。

大島さんによる主な考察結果は次のとおりです。

<事業費率>
・自動車保険の事業費率は算定会料率時に比べ一時的であっても低下することはなく、2005年以降は逆に上昇している(損害調査費率の上昇が主因)。
・損保事業全体の事業費率の低下は、もっぱら保険会社の人件費削減によって賄われ、代理店手数料費率の低下には及んでいない。

<損害率>
・自動車保険の特約部分はどの年次においても極めて高い損害率を示し、全体の損害率の悪化を招いている。

<保険料単価>
・自由化以降、保険料単価を切り下げる競争が展開されたが、下押し効果は全体で見れば数%と推定される。
・他方、特約が多数販売され、自由化による保険料低減額以上の収入が得られている。
・年齢構成や車齢の伸びなど、自由化とは関係なく参考純率を押し下げる要因も長期にわたり認められる。

とりわけ、「インシュアランス統計号(=特約を含む保険料・保険金)」と「損害保険料率算出機構統計集(=参考純率に対応する保険料・保険金)」の差に着目することで、特約部分の単価や収支を分析しているのが素晴らしいと思います。

ダイレクト自動車保険の普及ペースが緩やかだったこともあり、単純な料率競争による収支悪化よりも、むしろ特約競争による収支悪化を招いたというのは、私の認識とも同じです。
しかし、特約競争による収支悪化も、本来必要な保険料をとれていなかったという意味では実質的に料率競争と同じですし、(大型再編もあって)人件費や物件費を引き下げたからこそ、この程度の料率引き上げで済んでいる可能性もあるので、保険料単価が自由化直後と同じ水準に戻ってしまっても、自由化の効果が全くなかったということではないかもしれません。

ただし、ここ数年にかぎれば、事故あり等級の導入によって、かつての自動車保険とは違い、実質的に少額損害をカバーしない保険に変わっています。自由化後の市場で担保範囲の半強制的な縮減が起きたことをどう捉えるか、という議論はありそうです。

企業代理店の存在

ところで、本稿では日本の損害保険販売網についても分析し、「根幹をなす大規模乗合代理店をはじめとする大規模代理店の存在が、代理店手数料費率の低下の阻害要因となったと考えられる」としています。数では全体の1/4弱にすぎない乗合代理店が、扱い保険料で70%を占めていることから、主に企業代理店(いわゆる機関代理店)であるとしているのですが、ここはちょっと違和感を感じました。

例えば、販売チャネル別営業成績を開示している損保ジャパン日本興亜(決算データ集を参照)では、企業代理店の収入保険料は全体の19%、自動車保険だけだと13%にすぎず、他方で専業プロが29%、自動車保険だけでは39%を占めています。市場全体でも「根幹をなす」と言うほど機関代理店の存在は大きくないかもしれません。

自動車保険では企業代理店よりもディーラー代理店が気になるところですが、何かを語れるほど公表データがないのが残念です。

※写真は井の頭公園です。池の水を戻しているところでした。

 

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金融機関窓販マーケット

日本生命によるマスミューチュアル生命の買収が発表されました(3月2日)。
三井生命を含む3社により、「金融機関窓販マーケットにおけるお客様からのご要望に幅広くお応えする体制構築を目指してまいります」ということで、日本生命はマスミューチュアル生命の富裕層向け商品供給力や証券会社・メガバンク等へのサポート体制を評価した模様です。
日本生命のサイトへ

現在の主力は外貨建て

その金融機関窓販マーケットでは、2007年12月の全面解禁から10年(銀行の場合)たったとはいえ、依然として販売の中心は一時払の貯蓄性商品となっています。
中核となる商品は、2008年のリーマンショックころまでは最低保証のある変額年金、その後は円建ての定額商品に移行しました。さらに、2012年あたりからは外貨建て商品の販売が目立つようになり、最近では、マイナス金利政策などによる円建て商品の退潮を受け、外貨建て商品が窓販マーケットの主力を占めています。

顧客の中心が預金を持つ高齢の「資産活用層」だとすると、ニーズが変わったというよりは、保険会社がその環境で供給できて、かつ、やはり金融機関が販売しやすいものが提供されているのでしょうか。
(資産活用層ではなく)資産形成層向けの商品に急に切り替えるのは無理だとしても、アベノミクス以降、ある程度株価に連動するような商品がもう少し売れてもよさそうなものですが、外貨なのですね。

2強の強みは何か

この市場は金融機関という第三者の有力チャネルが販売を担うことから、保険会社が市場シェアを確保し続けるのが難しいマーケットでもあります。実際、過去にはトップシェアの会社が毎年変わるようなこともありました。
しかし、ここ数年は「第一フロンティア生命」「三井住友海上プライマリー生命」が2強として、高いシェアを継続的に確保しているようです。

いずれも国内系なので、外貨の運用能力を販売会社向けにアピールするというのは無理がありそうですし、それぞれ「第一生命」「三井住友」の存在があるとはいえ、市場全体で2、3割のシェアを確保し続けるには、特定の親密先だけでは難しいでしょう。
ただ、両社は金融機関窓販に特化した保険会社という点で共通しており、商品開発力の早さとか、意思決定のスピードとかいった、専門会社であることのメリットを最大限活用できているのかもしれません。

会見によると、日本生命はグループ3社を無理に統合せず、それぞれの強みを生かしていくとのことで、その点は理解できますが、マスミューチュアル生命がいろいろな意味でユニークな会社ということもあり、せっかくの買い物をどう生かしていくか、今後の取り組みに注目です。

※築地市場で古い線路を再利用した柵がいくつもあるのを見つけました。当時の貨物線で使っていたものでしょうか?

 

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「絶滅の人類史」

絶滅した旧人類ネアンデルタール人が洞窟の壁画を描いていたというニュースがありました。
これまで洞窟壁画はすべて現生人類(ホモ・サピエンス)が描いたと考えられていたので、新しい発見です。

新たな発見により歴史が見直されるというのはよくある話ですが、とりわけ人類史は私が学生時代に学んだものから大幅に塗り替わっていることが、更科功「絶滅の人類史」(NHK出版新書)を読んでわかりました。
かつて猿人として習ったアウストラロピテクス(約420万年前に登場)のはるか前、約700万年前に(今のところ)最古の化石人類が登場し、これまでに25種くらいの化石人類が見つかっているのだそうです。いま生きているのは現生人類だけなので、他の種はみんな絶滅してしまったということになります。

旧人と新人は並存していた

話題のネアンデルタール人は現生人類が登場する前の「旧人」として習いました。ところが、彼らが生きていた時代は約30万年前から約4万年前までで、現生人類の起源も、本書によると約30万年前までさかのぼれるそうです。
つまり、ネアンデルタール人が絶滅するまでは、地球には少なくとも2種類の人類が並存していたということになります。

ネアンデルタール人の脳はなんと現生人類よりも大きく、発掘調査などにより、抽象的な概念を頭のなかで考えること、すなわち象徴化ができたとみられています。ニュースになった「壁画を描く」という行為はまさに象徴化ですし、本書では「貝殻のネックレス(と考えられているもの)」を紹介しています。
しかも、骨のかたちや使っていた道具などから推測すると、ネアンデルタール人はある程度の言葉を話していたと考えられているそうです。

なぜ私たちだけが生き残ったのか

ただし、結果として生き残ったのは私たち現生人類だけです。私たちよりも脳が平均的に大きく、身体的能力も優れていたネアンデルタール人がなぜ滅んでしまったのか。
そもそもの話として、暮らしやすい森林を出て(追い出されて)、外敵に見つかりやすい直立二足歩行をしていた人類が、なぜその後も生き残ることができたのかという疑問に対しても、本書では解説しています。

進化の不思議さを垣間見ることができる面白い本でした。

※写真は大倉山シリーズ第3弾。東横線開通90周年(渋谷-横浜が開通したのが1928年)を記念して、昔の塗装の電車が走っています。下の案内図はそのころ(昭和初期)のものだそうです。

 

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ジャストインケースの挑戦

インシュアランス生保版(2018年2月号第4週)に寄稿したコラムをご紹介します。
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保険とテクノロジーの融合である「インシュアテック」という言葉は、日本の保険業界でも広く知られるようになった。
ところが、日本のインシュアテックは海外より数年遅れているという識者の声をしばしば耳にする。確かに「A社が健康増進活動の成果を保険料等に反映する新しい商品を開発」「大手損保グループB社が米シリコンバレーに拠点を置き、インシュアテックを推進」など、大手保険グループによる取り組みが活発化する一方、「トロブ」「レモネード」といったスタートアップ企業が次々に台頭する海外に比べると、既存の保険ビジネスに破壊的創造をもたらす存在となるスタートアップの動きは目立たない。

そのようななかで、少額短期保険の枠組みを活用したインシュアテックサービスの提供を目指すスタートアップ企業が現れた。
ジャストインケース(justInCase)社はアクチュアリーやデータサイエンティストなど専門技術を持つメンバーが立ち上げた会社で、ウェブサイトをのぞくと、「アプリで必要な補償を必要なときに気軽に選べる世界の実現を目指します」「よりオープンな新しい保険の仕組みのもとに、気軽に安心を得られる未来を作ります」などとある。

第1弾の「スマホ保険」はスマートフォンの画面割れ・水没・破損等の修理費用を補償するもの。AIを活用して事務処理を自動化するほか、スマホ利用の安全度合いをAIが判定して更新時の保険料に反映したり、友達プール機能により不正請求を防いだりと、詳細は不明だが、随所に最新技術を取り入れ保険料の最適化を実現するそうだ(2月1日現在、少額短期保険業者の登録準備中)。
スマホ修理費用の補償としては、アップルケアや携帯会社が提供するサービスのほか、「モバイル保険」を販売する少額短期保険会社が登場しているとはいえ、大手が参入していないニッチ分野と言える。

保険としてだけとらえると、果たして数万円単位の損失に毎月保険料を支払って備える必要性があるのかという見方もできる。しかし、インシュアテックによってスマホユーザーに新たな価値を提供できるかもしれないし、そもそも同社がスマホ保険の専門会社としての成長を目指しているとは考えにくく、ニッチ分野で培った経験をもとに、ニッチではない分野への進出を図っていくのだろう。

同社が少額短期保険の枠組みを活用するというのも興味深い。少額短期保険制度はもともと根拠法のない共済の受け皿として創設されたという経緯があり、通常の保険会社に比べると設立のハードルは低い。既存の生損保が手掛けてこなかったユニークな商品提供のほか、顧客基盤を持つ異業種からの新規参入も目立っていたが、同社のように新しいビジネスモデルのいわば実験場として少額短期保険を活用するというのは、うまくすると日本のインシュアテックの一つのモデルケースとなるかもしれない。
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※写真は大倉山記念館です。内部はこんな感じ。ロケ地としても時々使われているみたいです。

 

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金利敏感株に明暗

16日の日経・マーケット総合面に「金利敏感株に明暗」という見出しの記事があり、「保険上昇/電力・不動産は軟調」という株式市場の動きを伝えていました。
ただし、「米金利の上昇を受けて保険株が上昇」「生損保はともに外国債券の保有額が多く、海外の金利が上昇すれば中長期的に運用益が増加する」という説明は、さすがに無理があるように思います。

米金利上昇と生保経営

ちょうど14日から15日にかけて主要生保の4-12月期決算が公表されましたので、こちらのデータも参考にしながら確認してみましょう。
生保のバランスシートで米金利上昇の影響を直接受けるのは、保有している米国の公社債と、グループで展開する米国の保険事業です。このうち後者の保険事業については、一般的に米国生保では以前からマッチング型のALMが浸透しているため、金利変動の影響をそれほど受けないと考えられます。

問題は前者の公社債です。最近でこそ外貨建ての商品提供が目立つようになってきたとはいえ、保険負債の大半は円建て、かつ、固定金利の長期保証ですので、生保の外債運用は負債とのマッチング目的ではなく、純粋に資産運用でリターンを目指す取り組みです。

生保の外債投資は増加基調

2017年9月末と12月末を比べると、一部の会社を除き、外貨建資産の増加基調が続いており、いまや一般勘定資産の2~3割が外貨建資産という状況です。
このうち、ヘッジ外債(為替ヘッジを行っている公社債)については米金利上昇の影響を受けにくいことも考えられますが、少なくとも為替ヘッジのない米国公社債は金利上昇によって価格が下落し、中長期的に運用益が増加するとか言う前に、今の時点でやられているはずですね。

保険株(特に生保)が金利敏感株であるという見方に異論はありません。米欧の中央銀行に続き、日銀も金融緩和の出口に向かい、金利の上昇基調が見込まれるようになれば、生保経営にとってプラスに働きます。
ですが、同じ金利上昇でも、円建ての保険負債を大量に抱える日本での金利上昇と、資産運用でリターンを目指す米国での金利上昇では、日本の生保経営に対する影響は正反対と捉えたほうがよさそうです。

※この週末(17~18日)は横浜・大倉山の梅まつりでした。

 

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損害保険統計号から(inswatchに掲載)

直近のinswatch Vol.915(2018.2.12)に執筆した記事のご紹介です。
他の記事では、小林俊幸さん(イーアライアンス/イーブレイン)の「ライフプランって良い結果ばかりじゃないでしょ!?」が印象に残りました。

損害保険統計号から

最新版の「インシュアランス損害保険統計号」(保険研究所)が手元に届きました。昨年度のデータなので、もう少し早く刊行されるとありがたいのですが、業界分析にあたり、個社の財務データを横比較で把握できるなど、生命保険統計号とともに重宝しています。
今回はこの統計号を使い、日本の損保業界の姿を探ってみましょう。

3メガ損保の高シェアは不動

直近の統計号には元受会社として28社が掲載されていました。非掲載のチューリッヒを含め、改めて市場シェアを確認すると、3メガ損保グループに所属する会社が元受保険料の85%前後を押さえているとわかりました。これは10年前とほぼ変わらない水準です。
これに対し、外資系の元受シェアは1割弱で、10年前に比べるとやや下がり気味です。ダイレクト保険のシェアが年々高まっているとはいえ、今やダイレクト保険9社(セゾンを含めると10社)のうち、外資系は3社のみ。この分野でも3メガ損保グループが目立ちます。

自動車保険に限ると、昨年度は2ケタ成長を果たした会社が4社ありました(朝日火災、セゾン、SBI、イーデザイン)。
このうちSBIとイーデザインはダイレクト自動車保険の新興勢力、セゾンは数年前からSOMPOグループの通販会社として、やはりダイレクト自動車保険で業績を伸ばしています。
もう1社の朝日火災は近年、長期分割払い契約が可能な自動車保険を、比較推奨型代理店などに向けて投入し、急成長しています。

代理店手数料率は強含み

次に、事業費内訳表に「代理店手数料等」という項目がありますので、こちらを確認してみましょう。

決算発表で公表される「諸手数料及び集金費」には出再または受再に係る手数料が含まれています。このため、出再の多い会社では事業費が小さくなる傾向があります(出再手数料は出再先から受け取るものなので)。
例えば、昨年度のAIU(現AIG)の諸手数料及び集金費は207億円のマイナスでした。当然ながら同社の代理店手数料がマイナスということはありません。AIUは元受保険料の7割以上を出再していたため、受け取る手数料が752億円に上り、事業費を吸収していました(ただし、出再により正味の付加保険料も小さくなります)。

元受保険料に対する代理店手数料(直販社員の募集費を含む)の割合は、大手の場合、16~17%となっています。10年前と比べると、おそらく代理店の皆さんの実感とは異なり、むしろやや高まっているようです。手数料率の低い代理店が減ったことが一因と考えられます。

負の遺産も存在

1年契約が中心とはいえ、損保会社の負債の多くは責任準備金です。このうち、実質的には支払余力として考慮すべき異常危険準備金を除いた「普通責任準備金」のなかには、未経過保険料のほか、会社によっては今でも生保のような長期の円金利負債(払戻積立金)を抱えています。

元受28社のうち、昨年度末時点で普通責任準備金に占める払戻積立金のウエートが4割以上の会社は、東京海上日動(43%)、損保ジャパン日本興亜(42%)、三井住友海上(46%)、共栄火災(45%)、朝日火災(79%)の5社でした。
大手3社の払戻積立金の大半は、1990年代前半に販売した年金払積立傷害保険と考えられます。高金利時代に提供したものなので予定利率(保証利率)が高く、大手損保のいわば負の遺産となっています(加入者にとってはお宝契約ですね)。
中堅2社については、それぞれのビジネスモデルと関係がありそうです。

なお、長期契約といえば、2015年上半期に駆け込み販売があった長期火災保険を思い起こします。前年の統計号をざっと見たところ、責任準備金が増えたとはいえ、貯蓄性の強い商品ではないため、規模としては限られているようです。
ただし、最長36年契約でしたので、提供した損保会社は数十年先までの自然災害リスクを抱えていることになります。仮に風水災害のリスクが高まっていった場合には、どこかの時点で負債を再評価(=損失を計上)しなければなりません。
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inswatchは保険流通業界向けのメールマガジンです。
私は2か月に1度のペースで寄稿しています。

※沖縄に「赤道」という地名があるのですね(「あかみち」です)。下の写真も沖縄ならでは。

 

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