2024年6月18日の週刊金融財政事情の書評(一人一冊)をこちらでもご紹介します。今回取り上げた書籍は丸木強さんの『「モノ言う株主」の株式市場原論』です。先週の株主総会関連ニュースと合わせてご覧ください。
文体がいつもとやや違うのは、私が間違えて「ですます調」で原稿を出してしまい、それを編集で直していただいたためです。
時代がアクティビストに追いついてきた
「個人的な見解ではあるが、PBR(株価純資産倍率)が1倍割れしていなければそれでいいとは思っていない」。
誰の発言だろうか。アクティビストにも思えるが、実は金融庁の栗田照久長官。5月に埼玉大学で開催された日本金融学会春季大会の特別講演での発言だ。
東京証券取引所は昨年3月、すべての上場会社を対象に、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請し、特に「PBR1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される一つの目安」とした。要請を受けた多くの企業が自社株買いなどでとりあえずPBR1倍超えを目指している現状を踏まえ、その場しのぎの対応に走るのではなく、資本コストを意識した持続的な収益成長が重要だと警鐘を鳴らした。
本書の「はじめに」には「時代がアクティビストに追いついてきた」とあるが、まさにそのことを印象付ける発言だった。
アクティビストは「モノ言う株主」とも称される。著者の丸木氏はあえて書名に使ったのだと思いつつ、評者はいい加減やめたほうがいいと考えている。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードで株主と経営者の対話を求めるようになってもう10年も経つ。政策保有に代表される「モノを言わない株主」のほうが問題だ。
とはいえ、アクティビストとはどのような投資家で、どのような考えに基づいて活動しているのかを知る上で、アクティビストファンドの当事者による本書は貴重である。読者は、「金の亡者」の自己主張ではなく、資本主義の本質や日本企業の課題を気軽に学ぶことができる。
ただし、著者は株主価値を毀損させる存在には容赦なく切り込んでくるため、読者は覚悟が必要かもしれない。例えば、アクティビスト対策を指南すると喧伝している証券会社や信託銀行等のフィナンシャル・アドバイザー、経営コンサルティング会社、弁護士などについては手厳しい。アクティビストのみならず一般株主の利益にもまったく寄与しないアドバイスを行い、高額の報酬を受け取る「資本市場の寄生虫」だと指摘する。
読者諸氏の仕事は、果たして顧客企業の株主価値向上に寄与しているだろうか。再確認してみてはいかがか。
※この花、最近よく見かけるような気がします。
※いつものように個人的なコメントということでお願いします。
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