保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1232(2024.5.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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韓国保険学会が創立60周年を迎え、日本保険学会を代表するかたちで記念大会に参加し、スピーチをしてきました(5月10日)。日本保険学会と韓国保険学会の関係も50年前から続いているそうで、改めて日韓の近さを感じました。
保険会社のM&Aについて講演
私の講演テーマは「日本の保険会社のM&Aについて」。これは韓国保険学会からのリクエストに応えたものです。
韓国でも少子高齢化が進み、国内市場の将来的な縮小が見込まれるなかで、近年の日本の保険グループによるM&Aを通じた積極的な事業ポートフォリオ見直しに非常に関心があるとのことでした。そこで、日本の保険会社による主な海外M&Aを紹介したうえで、大手損害保険グループのM&Aを通じた海外保険事業(特に先進国市場)の拡大について、次の4つの背景が考えられるという話をしました。
・将来的に国内市場の縮小が見込まれる
・海外再保険会社に頼らずに保険引受リスクの分散ができる
・高い信用力を活用できる
・株主からの資本有効活用への強い期待に応える
海外M&Aのほか、近年では介護事業など、M&Aによる異業種への進出も目立つという話も紹介しました。
なぜM&Aなのか
うれしいことに、講演後には多くの質疑応答がありました。そのなかで特に印象に残った質問は次の2つです。
1つは、「海外に子会社を設けるのではなく、なぜ買収による事業拡大なのか?」という質問です。あくまで私の考えではありますが、簡潔に言えば「時間をお金で買った」という趣旨の説明をしました。
過去の成功事例として、損害保険会社による子会社方式での生命保険事業進出を振り返ってみても、損保の顧客基盤や販売網などを活用できたにもかかわらず、一定規模となるにはかなりの時間を要しています。他方で韓国の大手保険会社による海外M&Aは新興国が中心なので、グループへの利益貢献が非常に小さいとのことでした。
ちなみに、講演のなかではM&Aの失敗事例の話もしています。
純投資なのか事業投資なのか
もう1つは、「海外M&Aの目的は純投資なのか、それとも事業による利益獲得をねらったものか」という質問です。
私の考えでは後者、つまり、事業による利益獲得をねらったものという回答になります。純投資であれば、ある保険会社1社に多額の資金を投じるよりも、同じ金額を使って多数の保険会社に投資したほうが、同じ期待リターンでもリスクは小さくなります(ポートフォリオ理論ですね)。
それでも特定の会社に投資をするというのは、国内中心の事業展開から脱却したほうが将来的にグループ全体としての価値を高めることができるという経営判断が、どこかの時点であったはずです。さらに、自らが大株主となることで、買収先の価値をこれまで以上に高めることができるという期待もあるのでしょう(プレミアムを支払ってまで買収しているので)。
ただし、ここで問題になるのが相互会社の場合です。純投資であればまだ理解できるとしても、成長が期待できるからといって海外の保険会社を買収し、グループとして非社員契約を増やしてしまうのは、契約者が会社の構成員(社員)となっている相互会社のあり方として適切なのかという疑問が生じます。また、株主と相互会社の社員では、経営陣への期待(リスクのとり方など)も異なると考えるのが妥当です。
おそらく質問者にそこまでの意図はなかったでしょうが、これはいい質問だと思いました。
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※韓国の鉄道博物館に行きました。
※いつものように個人的なコメントということでお願いします。
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