保険料調整行為の調査結果

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1216(2024.1.15)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介します。
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新年にあたり、自分がいつから本誌への寄稿を始めたのか調べてみたところ、初回は2001年4月でした。ざっと確認すると、外部寄稿者のなかで3番目に長く連載を続けているようです。とりあえず休載の予定はありませんので、本年も引き続きよろしくお願いいたします。

金融庁による行政処分

既報の通り、金融庁は昨年12月26日に大手損害保険会社4社に対し、行政処分(業務改善命令)を出しました。保険料調整行為など独占禁止法に抵触すると考えられる不適切行為等について、業務改善計画の策定・提出・実行を求めるというものです。
金融庁は行政処分とともに、「大手損害保険会社の保険料調整行為等に係る調査結果について」という資料を公表しました。大手損保各社はそれぞれ調査委員会を設置し、不適切な行為について調査を行っていて、今回の公表によって調査結果(の一部)が初めて明らかになりました。
金融庁のサイトへ

広範囲かつ継続的

まず、不適切な行為が例外的なものではなく、広範囲かつ以前から行われてきたことが示されています。金融庁が4社からの報告を集計したところ、不適切行為等があるとされた保険契約者は576先に上り、その半数以上は2020年以前から続いているとわかりました。
とりわけ自然災害の多発などにより料率引き上げが急務となった2018年あたりから、不適切行為等が始まった案件が増えています。

調査によると、不適切行為等の目的として最も多かったのが「現状維持(幹事、シェア等)」で、全体の50%を占めました。他社からの打診に応じたというのも39%あり、この2つが主要な行動類型となっています。
なお、企業保険の入札では複数の保険種目を対象にすることが多いという理由から、種目別のデータは示されていません。そもそも企業がどのような保険に加入しているかというデータがないのは、ちょっと残念です。

多くは「不適切」認識なし

問題となった契約について違法だという認識は7%、違法ではないが不適切だと認識していたケースは26%でした。裏を返せば、67%の取引は不適切という認識がなかったということです。他社からの打診に応じたというケースであっても、「悪いことだと認識していたが応じた」という回答はかろうじて過半数(53%)にとどまっています。
これらを踏まえると、「不適切だとわかっていても、やむを得ない」というよりは、シェアを維持するための通常の行動として保険料調整が行われてきたことがうかがえます。

企業向け保険に関する公開情報は非常に少なく、今回の調査では保険会社側の取引実態の一端が示されたにすぎません。企業側はどのような部門がどのようなスキルを持って担当しているのか、保険会社による株式保有や営業協力が取引にどのような影響を与えているのかなど、取引慣行の適正化を図るには、実態をさらに明らかにすることが必要だと思います。
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※写真は宇都宮のLRT(路面電車)です。

 

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『金融リスク管理を変えた大事件20』

金融リスク管理の「語り部」として、藤井健司さんが新たに『金融リスク管理を変えた大事件20』を出版しました。

拝読して改めて思うのは、2013年刊行の『金融リスク管理を変えた10大事件』から10年の間にも大事件が頻繁に起きていたという事実です。新型コロナだけではなく、アルケゴス事件やコインチェック事件、シリコンバレー銀行の破綻など、言われてみればリスク管理が試されるような事件が立て続けに生じ、金融機関のリスクマネジャーは休む暇がなかったのではないかと思います(笑)

すでに『10大事件』『10大事件+X』で書かれていた内容ではあるのですが、『大事件20』を読んでいて、デリバティブ仕組取引の記述に目が留まりました(第5章)。
1990年代に株価リンク債などの仕組債を積極的に購入していたのは、インカム収入がほしかった日本の生命保険会社でした。本書では仕組債について、アレンジする金融機関にとって収益性の高い業務であると述べています。

「仕組取引に組み込まれたスワップやオプション等のデリバティブ取引は相対取引であることから、そもそもその価格が外からはみえない。加えて、複雑な仕組取引を組成するためには、複数の複雑なデリバティブが組み込まれることになり、その原価ともいうべきストラクチャリングのコストは、機関投資家の側からは、よりいっそうわかりにくいものとなった。アレンジャーである金融機関は、複雑で手がかかる仕組取引をアレンジすることで多額の手数料を享受することができたのである。」
(本書94-95ページから引用)

歴史は繰り返されます。低金利が続くなかで、最近まで金融機関は個人・法人に向けて仕組債を積極的に提供していました。

1990年代前半のバンカーズ・トラスト銀行による不適切なデリバティブ販売が発覚し、その後バンカーズからクレディ・スイス銀行に移籍したデリバティブチームの活躍で、1990年代後半の日本で金融機関が餌食となりました。さらには2020年代になって、巨額損失事件でクレディ・スイス銀行は消滅してしまいます。
以前、ブログで書いたとおり、金融ビジネスでは健全な企業文化を育てることが重要かつ難しいのだと思い知らされます。

ということで、金融リスク管理の歴史を学びたい中堅・若手の金融パーソンだけではなく、シニアの業界人にも楽しく読める良書です。

※ガイドブックに出てきそうな写真ですよね。

 

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リスク評価の難しさ

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。

台湾・淡江大学で開催されたワークショップ(EARMI)に参加するため、新年早々に海外に出かけてきました。このワークショップは日本、韓国、台湾のリスク&保険関係の学者によるもので、今回は午前に2つ、午後に4つの研究報告がありました(このうち私は午後の前半の座長を務めました)。
EARMIは東アジアの同業者と交流する貴重な機会であるとともに、グローバルな学会動向や様々な研究手法に触れたり、さらには自分の英語力についても反省したりと、得るものが多い出張でした。

ところで、年始の能登半島地震に関して、本日(8日)の日経新聞に「能登半島地震、元日滞在3割多く避難所満杯 物資足りず」という記事がありました。石川県輪島市・珠洲市・能登町では、地震が発生した元日の滞在人口が、1か月前の休日よりも3割多かったとのことで、帰省者や観光客など住民以外が災害に巻き込まれ、避難者が想定以上に膨らんだという内容です。記事によると、珠洲市の飯田小学校の避難所には約800人が避難してきたそうですが、石川県の資料によると、この避難所の対象地区の人口は約500人です。

地震国日本ですので、石川県も各市町村とともに避難計画を作成してます。ただし、避難計画は基本的に人口をもとに立てるのでしょうから(ある程度の旅行者などを想定するとしても)、1年に2回しかない帰省シーズンのことまで考えていなかったのかもしれません。もし事前に考えていたとしても、滞在人口がピークの時期を前提に避難計画を立てるとなると、コストがかなり膨らみます。
企業のリスク管理ではないので、旅行者を含めた住民の命を守ることを最優先すべき。とはいえ、財源は限られているなかで、果たしてどこまで想定しておくべきなのか。住民の合意形成を含め、難しい判断だと思います。

※台湾でも日本の地震のニュースを何度も観ました。

 

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最近のインタビュー記事

2023年もあっという間に過ぎつつあります。
個人的にはこれだけメディアに登場したのは、2000年代前半の生保危機以来かもしれません。
長年の保険業界ウォッチャーとしては、物事の表面をなぞるのではなく、より本質に迫る解説やコメントを心がけていく所存です(機会があれば)。

年末にインタビュー記事がいくつか出ていますので、こちらでご紹介します。

1.産経新聞「損保大手4社の事前価格調整、水面下で横行 信頼回復に道険しく」(12月26日)

金融庁が26日に大手損害保険会社に対する行政処分と保険料調整行為等に係る調査結果を公表したのを受けたものです。
この調査結果は予想通りの結果とはいえ、組織的かつ法令違反の自覚がないまま不適切な取引が継続的に行われていたことが示されています。

2.日経フィナンシャル「経営理解する社外取締役を 金融庁も体制強化必要」(12月28日)

有料媒体なので購読者限定ですが、先日寄稿した日経新聞・経済教室「曲がり角の損保経営 収入・シェア偏重体質改めよ」をさらに深掘りしたようなインタビュー記事になっています。
経済教室では「社内で当然視される取引慣行に疑問を投げかけるのは執行への過剰干渉ではなく、社外取締役の重要な役割だ」と書きました。こちらのインタビュー記事では最近のガバナンス研究を踏まえ、社外の目を機能させるには人選が重要になるとも述べています。

3.日刊自動車新聞「指針 流通・アフター業界 ビッグモーター問題をみる」(12月20日)

こちらも有料記事です。「損保の営業支援 政府で議論を」という副題が付いています。

以上になります。それでは皆さま、来年もよろしくお願いいたします。

※今年も家族みんなで栗きんとんを作りました

 

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企業文化を変えるのは難しい

金曜日の夜たまたまテレビをつけたら、ガイアの夜明けというテレビ東京の番組がビッグモーターを取り上げ、現社長への密着取材(のような演出?)をしていました。創業者親子が7月以降、世間に全く姿を見せないなかで、現在の社長が奮闘しているのがわかったとはいえ、過去との決別を判断するには早すぎるというか、材料が限られているように思いました。
というのも、株主問題は未決着で、当時の幹部が一掃されたということもないなかで、企業文化がそう簡単に変わるとはとても考えられないからです。

残念ながら同じことが、損害保険業界を揺るがしている企業向け保険料の事前調整問題にも言えそうです。
以前、保険会社のERM経営をどのように実践・実行していくかについて、大手損保グループ3社のリスクマネジャーと保険研究者で検討し、2015年1月に『保険ERM経営の理論と実践』(損害保険事業総合研究所・ERM研究会編)として発信したことがあります。
本書の第4章では、主に日本の大手損害保険会社グループの現状を踏まえつつ、あるべき方向性を示しました。最近読み返したところ、リスクベース・プライシングについて次の記述がありました(いずれも本書114ページ)。

「たとえば、企業物件において長年にわたり大事故が発生しないことも多く、その場合保険料引き下げ圧力がかかることが一般的に考えられるが、数十年に一度といった大事故・災害を考慮すると、十分な適正保険料が収受できないことも考えられる」

「保険料規模はだれにでもわかりやすい指標であり、マスコミ等がこの順位があたかも会社の優劣のように取り上げるので、マーケットシェアを優先した営業戦略が正当化されやすいという面もある」

「保険市場の競争環境下で、リスクに見合った適正な保険料を設定することがむずかしい状況にあるのも理解できるが、日本でも各社におけるERMカルチャーの浸透とともに、保険料設定においても商品の収益性評価においても、リスクベース・プライシングの考え方の浸透が図られていくことが望ましい」

企業向け保険の取引慣行やインハウス代理店について直接触れてはいないものの、当時から「競争環境」「シェア優先の営業戦略」によって適正保険料が設定できていないという問題意識があり、リスクに基づいた判断を行うといったERMカルチャーや、リスクベース・プライシングの考え方の浸透が不十分だと認識していたことがうかがえます。
しかし、その後「ERM」という言葉がグループ内に広く浸透したとしても、少なくとも企業向け保険の現場にはERMカルチャーが浸透していなかったことがわかってしまいました。

ちなみにテレビ番組のラストは「潰れたほうがいいんですかね」というビッグモーター現社長の言葉で締めくくられていました。

※写真は志賀島の金印公園です。

 

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アンケート調査

毎年11月下旬から12月上旬にかけて、卒業論文チェックにRISの全国大会や学内プレゼン大会が重なり、学生の文章や報告資料の確認に追われる日々が続きます。
卒業論文に関しては、私は今のところ「リスク」「保険」に少しでも関係するテーマであれば何を選んでもいいという方針にしています。その結果、今年の4年生も「ネット保険」「バイク保険」「地震保険」といった保険をテーマにした学生もいれば、「性格診断」「駅メロ」「アイドルグループ」といったテーマを選ぶ学生もいて、私もにわか勉強しています。

論文を書くにはテーマ(=問いを立てる)のほか、根拠となるデータを集める必要があります。学生に任せっきりだと、ネットで適当な資料を探してきて「はい完成!」ということになってしまいがちなので、文献調査に加え、「アンケート調査」「インタビュー調査」「観察」などにより、できるだけ自分でオリジナルのデータを集めるように求めてきました。

このうち、曲者なのがアンケート調査です。
20世紀の大学生にとって、アンケート調査を行うのは大変なことでした。それは、アンケートの協力者を探すのが大変だったからです。ところが今はネット時代なので、アンケート調査のハードルがものすごく低くなりました。Formsで質問票を作り、インスタなどのSNSでURLを拡散すれば、50件くらいの回答ならあっという間に集まります。
しかし、そうして集めたデータが研究の役に立つかどうかは別の話。多くの場合、極端に言えば「ゴミデータ」であることが多いのです。例えば、あおり運転について大学生にアンケートをしても、首都圏の学生と福岡の学生では自動車の運転頻度が違うので、福岡大学の学生が知り合い中心にアンケート調査を行った結果にはおそらく偏りがあります。それを理解したうえでアンケートを行うのであればいいのですが、こちらが油断すると、回答者の属性を聞いていないアンケートを実施してしまい、誰に聞いたのかよくわからないデータが集まってきてしまいます。

集めたデータの分析にも課題があります。もちろん、ごく基礎的なデータ分析の方法を教えてはいるのですが、(私の指導力の低さを棚に上げると)スマホ時代の大学生にとって、パソコン(PC)を使ってエクセルシートを分析するというのはハードルが高いようなのですね。
そもそもこちらが指示しなければ、文献調査もスマホだけで行おうとする世代ですから、私たちの世代よりもPCになじみがありません。時間の制約もあって、せっかく集めたデータのごく一部(ぱっと見てわかること)だけしか活用せずに終わってしまうことも多いようです。

ちなみに、今年の4年生の卒論では、3名がアンケート調査を行い、3名がインタビュー調査、1名が観察、1名が実験によってオリジナルデータを集めていました。

※帝国ホテルのクリスマスツリー(?)です

 

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保険負債がマイナスに!

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1212(2023.12.12)では、IFRS(国際財務報告基準)に関する話を書きました。当ブログでもご紹介します。
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保険会社の負債

事業会社に比べると、保険会社の財務諸表はかなり特徴的です。なかでも生命保険会社ではバランスシート(貸借対照表)の負債が大きく、その大半を責任準備金などの保険負債が占めています。事業会社の負債は銀行借り入れなど債権者から受け入れた資金なのに対し、保険会社の負債は加入者(保険金受取人)に将来支払うであろう保険金や給付金、解約返戻金などを計上したものです。
ところが今年度に入り、なんと保険負債がマイナスという生命保険会社が現れました。

保険負債がマイナス

ライフネット生命の決算短信でバランスシート(2023年9月末、連結ベース)を確認すると、負債の大半は繰延税金負債となっていて、保険契約負債がほとんどありません。他方で資産のなかに「保険契約資産」という見慣れない項目があって、291億円も計上されています。

財政状態の説明には、次のような記述があります。

「保険契約は一般的には負債として計上されるものの、当社グループは以下の表『保険契約負債の内訳』のとおり、個人保険の保険契約負債はマイナスとなることから保険契約資産として計上しています」

参考までに、同社の2023年3月期の決算短信では、負債530億円のうち保険契約準備金(大半が責任準備金)が509億円を占めていました。どうしてこのようなことが起きたのでしょうか。

IFRSの採用

理由は、ライフネット生命が今年度から会計基準としてIFRS(国際財務報告基準)を採用したことと、同社の歴史が比較的浅いうえ、保有契約が平準払いの保障性商品だけで、満期保険金や解約返戻金がないことです。

やや専門的になりますが、ライフネット生命の決算短信やIR資料などを参考に説明します。
これまでの会計基準(日本基準)では、契約獲得時の保守的な予定死亡率や予定利率に基づいて算出した責任準備金などを保険負債として計上していました。これに対し、IFRSでは保守性を排除し、会社が最善と考えた前提に基づいて将来キャッシュフローの現在価値を計算し、これに「リスク調整」と「CSM」を加えたものを保険負債として計上します(リスク調整とCSMの説明はとりあえず省略します)。

将来キャッシュフローの現在価値とは、将来の支出(保険金支払額など)の現価から将来の保険料収入の現価を差し引いた金額です。平準払いの「定期保険」「終身医療保険」「就業不能保険」「がん保険」を主力とするライフネット生命の場合、会社が最善と考えた前提に基づいて将来キャッシュフローを計算したところ、おそらく今後の支出が保険料収入を下回る状態が何年も続くのでしょう。全体で見て将来の支出が将来の保険料収入を下回る計算結果となり、保険負債がマイナスになりました。つまり、この前提によれば、同社はいわば加入者への借金を負っていないことになります。

ただし、保険負債がマイナスだから儲かるということではなく、収益性を見るには、先ほど説明を省略したCSMの動きに注目してください。CSMは将来利益を表す負債で、CSMが増えていけば将来利益も総じて増えていきます。
ライフネット生命のCSMは、2023年3月末の836億円から9月末には875億円に増えていることがIR資料からわかります。

保険会計のあり方が問われる

IFRSを採用すれば、財務諸表の利用者は、日本基準では把握できなかった生命保険会社の財政状態をつかむことができるようになります。
ただし、日本ではIFRSの採用は強制ではなく、あくまで任意です。このため、今後はIFRSを採用した会社と、引き続き日本基準でのみ決算結果を公表する会社が併存することになります。さらに、2025年度に経済価値ベースのソルベンシー規制が導入されると、「IFRSの財政状態」と「日本基準のバランスシート」に「経済価値ベースのバランスシート」が加わり、利用者は消化不良に陥ってしまうかもしれません。

これまで本誌でもしばしば取り上げてきたように、保険会社の経営内容を把握するうえで日本基準には問題が多いという現状があります。そろそろ日本の保険会計のあり方について、本格的に方向性を打ち出すべき時期に来ているのではないでしょうか。
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※今月はあと二回、東京に行きます。

 

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RIS2023全国大会を開催しました

11月13日のブログでご案内したRIS(全国学生保険学ゼミナール)2023の全国大会を12月2日、3日に福岡大学で開催しました。

当日はリスクと保険を学ぶ12大学14ゼミナール、200名を超える大学生が福岡大学に集結し、これまでの研究成果を報告しました。今年は4年ぶりに懇親会を行うことができたので、植村ゼミのシャイな学生たち(?)も他大学との交流を楽しめたようです。

RISの特徴の1つは保険業界を中心に、毎年多くの実務家が参加して、報告への質問・コメントをいただいていることです。当日は福岡開催にもかかわらず、30名以上の実務家の皆さんにご参加いただきました。ありがとうございました。

さて、備忘録として、当日の運営について少しだけ記録しておきます。
今回は現地幹事として「できるだけ簡素に」「リアルな交流を重視」というコンセプトのもとに準備を行いましたが、実のところ250名もの規模の会合を仕切るのは初めての経験でしたので、やってみて初めて分かったことも多々ありました。

まず、予想していたよりも参加者の移動に時間がかかりました(懇親会会場への移動など)。これは人数の多さだけではなく、荷物が多かったためです。遠方からの参加者が多く、しかも真冬の寒さだったため、大きな荷物とかさばるコートを抱えての移動となり、どうしても時間がかかってしまったのですね。
もちろん報告会場でも懇親会でも荷物スペースを確保していたのですが、報告会場では2階まで階段で上がっていただくことになり、懇親会では荷物スペースへの通路が狭くて、いずれも大変だったと思います。

RISは外部の業者さんを使わず、教員の手弁当で運営しています。そのため、今回は私なりにいろいろと考えたうえで、対面参加のみとさせていただきました。「リアルな交流を重視」というコンセプトに沿ったと言えばその通りなのですが、同時に複数の会場で報告を行うので、対面・オンライン併用は物理的に難しいと判断したためでもあります。
その結果、各教室にPC対応者を張り付けなくても運営できるはずだった(マイク係は配置しました)のですが、準備段階では大丈夫だったスライド投影がうまくいかなくなったり、マイクが突然切れたりして、その度に報告者の皆さんや座長の先生に自ら対応していただくことになってしまいました(そこに私がいれば対応しましたが、分身はできませんので)。
オンライン対応がなくてもPC担当のゼミ生を張り付ける、そのためには事前にゼミ生に機器の使い方を教える、程度の労力はかけるべきだったかもしれません。

当日は25の報告がありました。例年と同じく1報告あたり1時間(討論・質疑応答を含む)としたため、同時に最大4報告を行う時間帯もありました。毎年、特に実務家の皆さんから「同時に複数の報告があって残念」という声を耳にしていたので、個人的には検討してみたのですが、例えば1報告あたりの時間を40分にすると、同時に2または3報告にはできるものの、RISのよさである討論・質疑応答を犠牲にすることとなり、なかなか悩ましいです。

うっかりしていたのが「ゴミ問題」です。250名もの参加者がいて、しかも土日は学食や周囲の飲食店が休みなので、昼食を各自で持参するようにお願いしていました。こちらでお弁当を用意するとなると、人数確認や運搬などかなりの作業となり、「できるだけ簡素に」というコンセプトから外れてしまうためです。
それにもかかわらず、持参した昼食を250名の参加者が一斉にとると、ゴミが大量に出ることをすっかり忘れていました。福岡大学では土日の清掃はないので、何もしないとゴミ箱があふれてしまいます。
そう気がついたのが日曜日の朝で、代表幹事の根本先生に「どうしましょう!」と相談したところ、先生は全く動じることなく、「ゴミ箱にはたいてい予備の袋が入ってますよ」と、実際にゴミ箱を開け、予備の袋を見つけてくれました。あとはゴミ箱の分散利用を呼び掛けたうえで、いくつかのゴミ箱の袋を入れ替えることで問題は解決しました(「手伝います」と声をかけてくれた学生たちもいて、これはうれしかったですね)。

ということで、現地幹事としての大会運営は私にもいい経験になりました。ご協力いただいた全てのかたに御礼申し上げます。

※いかにも手弁当という感じですね(笑)

 

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曲がり角の損保経営

すでにご覧になったかたも多いかもしれませんが、11月23日の日経『経済教室』に「曲がり角の損保経営~収入・シェア偏重体質改めよ(有料会員限定)」という論稿が載りました。

『経済教室』への寄稿は3回めとなります。1回めは2001年11月20日の「生保契約者の保護充実を」、2回目は2008年8月22日の「生保経営統治向上急げ」で、いずれも格付投資情報センター(R&I)のアナリスト時代に書いたものです。2001年当時は保険会社への調査でも取材を受ける時でも自分が年下ということが圧倒的に多かったのですが、それから22年たったいま、相手が年下のほうが多いかもしれませんね。

さて、改革の方向性として、経済教室では次のように述べています。

・筋論からすると、保険金をビジネスとして受け取る会社に保険代理店を委託してはならない

・加入者のいまの利便性を今後も維持すべきだと考えるならば、保険会社の営業部門と損害調査部門の壁を高くしたり、損害調査の透明性を高めたりすることで、信頼回復に努めるほかない

・保険会社は代理店政策のダブルスタンダードを改め、大型兼業代理店やインハウス代理店にも保険業務の専門性を求め、それを公に示すことが不可欠

・社外の目を活用し、経営内部に染み付いた不適切なコンダクトを発見し、是正できる体制を構築

「筋論を通すと大きな混乱が生じる」と書いたものの、あくまで「当面は」という話です。利便性に関しても、考えてみればそれほど不便にはならないかもしれません。実は19日の産経新聞「「兼業代理店」は利益相反か ビッグモーター問題で〝不正の温床〟と指摘」のなかで、「(自動車関連業者への代理店委託を禁止すると)顧客が不便になる可能性がある」とコメントしてしまったものの、自賠責保険はどの保険会社でも共通なので、例えば保険業界がスマホアプリなどで加入者への支援を行えば、それほど不便を強いることにはならないでしょう。任意保険の加入率維持は課題となりそうですが、こちらもDXの出番かもしれません。

それでも筋論を通すのが難しいとなると、なかなか決定打はなく、信頼回復のためにできることは何でもやるという姿勢が必要でしょう。それくらい深刻な問題だと私は考えています。

保険会社の営業部門と損害調査部門の壁を高くする一環として、保険事故の損害調査を行うアジャスターに期待する声も耳にします。ただし、どうやって保険会社におけるアジャスターの地位と権限を高めればいいか、かなり工夫が必要だと思います。
業界ウォッチャーの方々と意見交換していたら、損害調査の透明性を高めるために作業現場を可視化するというアイディアが出てきました。具体的には保険事故に関する作業をすべて保険会社が録音・録画するというもので、警察による取り調べの可視化と同じ発想です。近年の日本社会はプライバシーよりも記録を通じた安心を優先するようになっていますし、自動車関連でもドライブレコーダーが急速に普及しています。まじめに仕事をしている修理工場を守ることにもなりますので、DXの活用という意味でも検討に値するかもしれません。

※このところ順調です。

 

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大手損保の4-9月期決算から

上場保険会社の決算が出そろいました。これから開催される決算説明会の情報なども参考に、いろいろと分析しようと思います。
今回は3メガ損保の状況を少しだけご紹介しましょう
(今回はと書いてしまいましたが、次回があるかどうかは未定です)。

最初に確認したのは自動車保険のEI損害率です。1年前のEI損害率と比べてみます。

TMN 62.7% ⇒ 68.5%(+5.8p)
MSI 63.9% ⇒ 70.0%(+6.1p)
ADI 63.2% ⇒ 71.1%(+7.9p)
SJ  61.9% ⇒ 68.6%(+6.6p)

上昇分のうち1、2ポイントは自然災害の影響(今年もひょう災がありました)とはいえ、自動車保険の収支が急速に悪化していることがわかります。EIベースのコンバインドレシオ(事業費率は会計ベースで計算)が100%を下回ったのはTMNだけで、他の3社は100%を上回りました。

4-9月期は経済価値ベースの純資産が大きく増えたのも特徴かもしれません。各社が独自に計測・公表しているESR(経済価値ベースのソルベンシー比率・呼称は様々)の分子にあたる純資産を、2023/3末と2023/9末で比べてみます。単位は兆円です。

TM  4.3 ⇒ 4.9(+0.6)
MS&AD 5.4 ⇒ 6.1(+0.7)
SOMPO 3.4 ⇒ 3.9(+0.5)

上半期の利益が貢献したのに加え、国内株式の時価上昇と円安の影響が大きかった模様です
(日経平均株価も円ドル相場も1割以上の変動でした)。

他方でBM事件やカルテル問題の影響は、一部の会社で月次の営業業績(自動車と自賠責)に多少表れているように見えるものの、行政処分が出されたわけでもありませんし、少なくともこれまでのところ、特定の保険会社の業績が極端に悪化するようなことにはなっていないようです。

※写真は先日訪問した大津です。

 

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