『財閥のマネジメント史』

2024年2月20日の週刊金融財政事情の書評(一人一冊)をこちらでもご紹介します。今回取り上げた書籍は武藤泰明さんの『財閥のマネジメント史』です。「はじめに」にあるように本書は論文ではなく、マネジメントを専門とする著者が日本企業を独自の視点で解説したものです。

企業集団のルーツに日本企業の本質

本書は、日本企業について理解の深まる労作である。バブル経済の崩壊後、大手銀行が三つに集約されてからは、6大企業集団という言葉を目にすることはほとんどなくなった。それでも依然、巨大企業の4分の1程度が企業集団に属しており、韓国やASEAN諸国の財閥ほどではないにしても、日本経済におけるその存在感は大きい。本書は、「三井」「住友」「三菱」の3大財閥に焦点を当て、その歴史を通じて近代日本の経営史を記し、日本の企業集団の本質に迫ろうとしている。

明治期の財閥は非関連分野の多角化を一気に進めた。現在の発想だと、関連する事業に進出した方がリスクは小さく、シナジー効果も得られると思ってしまう。ところが当時の日本企業には技術やノウハウがないので、すでに海外で起きたイノベーションを導入すれば参入リスクはそれほど大きくなく、つまるところ「多角化していく分野は何でもよかった」。むしろ非関連分野の多角化を進めた方が、戦争に伴う景気変動や恐慌などに耐えることができたという。途上国ならではの経営戦略といえよう。

非関連多角化を進めるには潤沢な資金が必要となる。3大財閥はそれぞれ銀行だけではなく鉱業という資金源を持っていた。政府との距離の近さも、財閥形成期には強みとなった。これに対し、新興財閥の場合には多角化の度合いが低く、グループ内の「機関銀行」に資金調達を依存するケースも多かった。恐慌の際には銀行と事業会社が共倒れとなるリスクを抱えていたわけで、実際そうなったケースも目立つ。

とはいえ、3大財閥は政府に近いが故に、都合よく使われた歴史もある。2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』では、三井の大番頭だった三野村利左衛門が主人公の渋沢栄一と対立する悪役として描かれていた。
しかし本書によると、三井は政府によって散々振り回されたことが分かる。公金取り扱いの問題(戦費調達のため急な返済を求められた)で経営危機に追い込まれたり、政府から中央銀行の設立を頼まれ、わざわざ祖業の越後屋を切り離して準備したにもかかわらず反故にされたりしている。
三井はその後、渋沢栄一(当時は大蔵省にいた)に言われて第一国立銀行を設立したのにオーナーシップを取れず、別途に三井銀行を設立することになった。ドラマとは違い、財閥が政府との関係維持に苦労してきた姿を見てとれる。

※いつも羽田でお世話になっている電車です。

 

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生命保険会社の異業種買収

日本生命によるニチイ学館グループの買収、第一生命によるベネフィット・ワン買収と、大手生命保険グループによる異業種の買収発表が相次ぎました。これをどう考えるべきか。
このようなお題を「日経モーニングプラス(BSテレ東・2月26日放送)」からいただいたので、次のようにまとめてみました。

背景として「人口減少によって国内の保険市場の縮小が見込まれる」(2023年12月8日のNHKニュース「生命保険大手 異業種の企業買収の方針を発表 収益基盤を強化へ」)と言ってしまえばそれまでですが、自分がコメントするとしたら次の2点を挙げたいです。

1つは、大手生保グループが金融市場に影響を受けやすい現在の経営構造を見直そうとしていることが挙げられます。
伝統的な生命保険では将来にわたり予定利率を保証しており、ヘッジが不十分であれば金利リスクを抱えます。しかも、大手生保は多額の株式を保有していますし、最近まで外貨建資産を増やしてきました。その結果、経営リスクの多くが金融市場関連という状況にあるとみられ、例えば第一生命グループはこうしたリスク構造の見直しを図るとしています。

もう1つは、人口動態の変化を受け、死亡保障ニーズが急速に縮小するなかで、保険会社が長生きリスクへの備えに活路を見出そうとしていることです。
この30年間に、かつて多数派だった「夫婦&未婚の子ども」世帯の割合は大きく下がり、単身世帯と夫婦のみ世帯の割合が増えました。しかも、かつて多かった「専業主婦」は今や少数派です。こうした変化を受けて、すでに各社は長生きリスクへの備えとして医療保険や長寿対応の保険を提供しており、「異業種」とはいえ、介護サービスや福利厚生サービスもその延長線上にあると考えられます。買収によって介護サービスや健康関連のデータにアクセスできるのであれば、その価値は大きいでしょう。

人口減少と言ってしまえば何でも説明できるとはいえ、もう少し踏み込んで考えてみました。

※福岡からのリモート出演でした。

 

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政策保有株式の売却

既報のとおり、SOMPOホールディングスは2月15日のIR説明会「次期中期経営計画の方向性」のなかで、政策保有株式の削減ペースを加速し、最終的に保有残高ゼロを目指すという方向性を打ち出しました。

損保グループ各社はこれまでも資本効率向上の観点から政策保有株式の削減を進めてきました。削減を加速する背景には、金融庁が企業保険分野における適正な競争を妨げる要因の1つに政策保有株式の存在があると認識したことがあります。
鈴木大臣は13日の会見で、「政策保有株式の売却の加速は重要であると考えておりまして、現在、大手損保4社に対して、今月末までに提出を求めている業務改善計画が、そのような観点も含めたものとなるよう、各社との対話を進めているところです」と話しています。そうである以上、おそらく行政処分を受けた他の損保グループも同じような動きになる可能性が高そうです。

企業保険分野における適正な競争という観点からすると、政策保有株式や本業支援の問題は確かに大きいと思います。さらに言えば、例えば「従業員向けの火災保険・自動車保険で収益を上げているので、管財物件の料率が取れていなくてもOK」という発想(慣行)にもメスを入れる必要がありそうです。

短くてすみませんが、とりあえずコメントまで。

※大阪での会合の後、久しぶりに奈良に行きました。

 

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保障性商品の販売不振

このところ気になっている生保営業職員チャネルの保障性商品の販売低調について、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1220(2024.2.12)に寄稿しました。当ブログでもご紹介します。
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決算発表の注目点

今週は主な保険会社の決算発表(2023年度第3四半期)が予定されています。損害保険会社では特に、国内の自動車保険、火災保険の収支動向に注目したいと思います。
他方、生命保険会社で気になるのは、営業職員チャネルによる保障性商品の新契約動向です。例えば日本生命グループでは、23年度上半期に営業職員チャネルの新契約年換算保険料(個人保険・個人年金)が増加したものの、IR資料によると、日本生命単体の個人向け保障性商品の販売は大幅に減った模様です。第一生命グループでも、営業職員チャネルによる新契約年換算保険料(同)は大きく伸びている一方、第一生命の商品に限れば前年同期比でマイナスが続いています。

死亡保障の販売は難しい

日本生命の営業職員チャネルの増収は、昨年1月に予定利率を引き上げた一時払い終身保険の販売拡大が大きいとみられます。第一生命では、兄弟会社である第一フロンティア生命の米ドル建て商品などの販売が増収に寄与しました。両社ともに、顧客ニーズの強い貯蓄性商品の販売にチャネルがやや傾斜してしまい、死亡保障などの保障性商品の提供が不振に陥っている構図が見てとれます。
生命保険の販売に携わっている皆さんにとって、「生命保険(個人向けの死亡保障)」「医療保険」「貯蓄性商品」のうち、最も売るのが難しいのはどれでしょうか。顧客基盤によって異なる答えとなることもありえますが、一般的には生命保険の提供が最も難しいと思います。生命保険の本来のニーズは遺族保障であり、保険金を受け取るのは加入者自身ではありません(医療保険や貯蓄性商品は自分が受け取れます)。貯蓄性商品には「お金が増える」といった楽しみもありますが、生命保険が役に立つ場面を想像するのは楽しいことではありません。だからこそ、営業職員をはじめ、対面チャネルによってニーズを掘り起こし、加入の決断を促すという販売手法がとられ、保障性商品の普及が進みました。

過去の事例

一時払いの貯蓄性商品への傾斜に伴い、保障性商品の販売力が弱まった例として、2000年に経営破綻した協栄生命のケースをご紹介しましょう。
協栄生命は特定の企業グループに属していなかったこともあり、教職員団体や各種の同業組合などと提携し、その団体の共済制度として主に保障性商品を提供していました。ところが、他社を後追いする形で1987年から一時払い養老保険の販売に踏み切り、しかも、他社が販売を抑えるようになってからもしばらく売り続けました。これには顧客基盤である提携団体からの強い販売要請に加え、「営業職員が保障性商品を売る力が落ちており、1万人体制を達成するために一時払い養老保険に走った」(当時の本社スタッフの証言)など、貯蓄性商品に傾斜した影響で営業現場の販売力が衰退していたという事情もあったそうです。
チャネルのあり方として、顧客ニーズの強いものを提供すべきというのが正論かもしれません。ただし、ドアノックツールとしての貯蓄性商品の販売にとどまらず、主力商品として新人層からベテラン層までが、比較的売りやすい貯蓄性商品に走り、保障性商品の販売力が落ちてしまうと、時間がたつほど復活が難しくなるということをこの事例は示しています。

*参考文献:植村信保『経営なき破綻 平成生保危機の真実』
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※写真は太宰府天満宮です。

 

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生命保険会社の情報開示

先週は東京で某再保険会社のセミナーでお話をする機会がありました。テーマは損保関連ではなく、経済価値ベースのソルベンシー規制に関するものです。
参加者には生命保険会社のCFOやCROが多かったこともあり、今後のソルベンシー規制として求められる情報開示だけではなく、現状において早急に開示すべき項目についても「直訴」しました。

1.国内公社債の7割を「10年超」が占めているにもかかわらず、その内訳が示されていない

資産・負債のミスマッチに伴う金利リスクを減らすため、各社が多額の超長期債を保有していることはわかります。しかし、10年以内は細分化して示しているのに、肝心の10年超を一くくりで示したままというのは理解できません。
なお、上場会社(第一生命HD、T&D HD)は10年超を2つに分けて開示しています。

2.外国証券に関する情報開示が少ない

メディア向けの資産運用方針の説明にはしばしば「オルタナティブ投資」が出てきます。ところが、ディスクロージャー誌などを探しても開示はありません(上場会社はIR資料で開示)。これらは外国証券のうち「外国株式等」に含まれます。

3.外貨建負債に関する情報が開示されていない

銀行窓販をはじめ、近年では外貨建ての保険を提供している会社が目立ちます。ところが、保険負債に占める外貨建て保険の手掛かりはほとんどありません。外貨負債の情報がないと、外部からALMの現状をつかむのが極めて難しくなります。同じ外債投資でも、外貨負債のリスクヘッジ目的と、追加リターン獲得目的とではリスクに対する考えが全く異なるからです。
先週お話した3つのなかで、これが最も深刻かもしれません。

このブログでも何度か同じ話をしていると思います。しかし、20年以上経ってもそのままというのは一体どういうことなのでしょうか。
市場規律を軽視するということは、つまるところ第1の柱でガチガチに縛られたいということになるのですが。

※もう梅がかなり咲いていました。横浜・大倉山にて。

 

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SOMPO報告書の低評価

金融庁によるSOMPOグループに対する行政処分に関してメディアにコメントが載ったので、備忘録としてご紹介します。
金融庁サイト(行政処分について)
SOMPOホールディングスのサイト

Bloomberg(1月26日)

SOMPO桜田氏が引責辞任、『痛恨の極み』と謝罪-不正請求問題」のなかで、次のコメントが載りました。
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福岡大学の植村信保教授は「ビッグモーターの保険金不正請求問題の被害者は、自動車保険の加入者すべて。損害額を判断しにくい立場にある加入者と保険会社との信頼関係で成り立つ保険の仕組みを揺るがすような深刻で大きな問題だ」と指摘。「個社の問題で終わらせず、代理店との関係など保険全体の仕組みを業界挙げて見直していく必要がある」との見方を示した。
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個社だけではなく「業界を挙げて」というコメントです。
そうは言っても実際に対応するのは個社なのですが、SOMPOグループが公表した再発防止策の方向性にある「代理店管理態勢の強化」として何をしていくのかが示されていないのは、ちょっと気になるところです。

産経新聞(1月26日)

ガバナンス機能不全で経営陣を刷新 SOMPO、問われる信頼回復」の最後にちょっとだけコメントが出ています。
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福岡大の植村信保教授は「失った信頼を回復するにはやれることはすべてやらないといけない」と指摘する。
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何だかよくわからないコメントですね(すみません)。
企業文化全般について話をしたのではなく、今回発覚した自動車関連業の保険代理店との不適切な取引慣行に関して、再発防止につながることを実行すべしという趣旨のコメントでした。

ところで、SOMPOホールディングスが設置した社外調査委員会の調査報告書(中間報告書を含む)について、弁護士、ジャーナリストから成る「第三者委員会報告書格付け委員会」が評価を公表し、委員8名のうち4名がD(最低評価)、4名がF(不合格)という低い評価をしました。

Fとした委員の個別評価を見ると、「事実認定の正確性・深度に重大な疑義がある上に、原因分析に関する説得力が不足している」「SJ、SHD の BM 対応は、損害保険そのものへの信頼を大きく貶めた。にもかかわらず、報告書ではそれに対する SJ、SHD の組織的な問題点追及が浅く、具体的かつ説得力のある改善策、再発防止策を提示しておらず、社会の損害保険への信頼回復につながっていない」などなど。
委員の中で最も保険業界に詳しいとみられる野村修也委員(評価D)は、「調査委員会の中に保険に関する専門性の高い委員を配置しなければ、SHDないしSJから提供される情報のバイアスに気づかない危険性が高い」「誰を調査対象にしてどのような調査が行われたかに関する部分が『別紙』とされ、非公表になっている」「本件の真因を考えるに当たっては、『修理』という保険事故及び損害査定に深く関わる業者が同時に保険代理店を兼ねるといった構造的問題と、その種の保険代理店との向き合い方に潜む歪みを分析することが何より重要であった(=なされていない)」「再発防止策は、本件に特有な事実認定や真因分析と必ずしもリンクしておらず、どんな不祥事でも書けるような内容にとどまっており、教訓を得にくい内容になっている。」などと厳しいコメントをしています。

近年、不祥事が起きた会社では社外委員からなる調査委員会を設置し、調査報告書の公表をもって一件落着という流れがあるように思います。本件を含め、こうした調査報告書には役に立つ情報も多く、私もしばしば活用しているのですが、以前このブログでも書いたように、原因究明が不十分なものもあると考えておくべきでしょう。

※福岡県代協でスピーチをしました。

 

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『お金の知識があるだけで・・・』

R&I時代の同僚だった安藤真由美さんが最近、『お金の知識があるだけで あなたが見られるはずの とびきり輝く世界について』という長いタイトルの本を出したということで、拝読してみました。
安藤さんは金融業界で勤務した後、現在はコーチングやコンサルティングを多数手掛けるとともに、女性向けの各種講座を提供しています。

かわいい表紙から若い女性に向けた投資ガイドのように見えますが、もっと本質的な「女性の生き方」についての熱い書籍でした。いわゆる投資の話が出てくるのは、なんと220ページ以降です(全部で342ページ)。
安藤さんは「最高の投資は自分への投資」と言い、「お金はあなたの人生のためにある」「自分の人生の舵を他人に渡してはいけない」と説きます。おそらくコーチングや各種講座などの経験から、自分の軸がなく、自分らしいお金とのつきあいができていない人が多いことを痛感しているのでしょう。

男性には見えにくい、日本社会における女性の生きづらさを伝えてくれる記述も多く、思わず考えさせられます。例えば次のようなものです(本書218ページ)。

「自分がマイノリティになったとき、人は気をつかいます」「(女性は)マイノリティの立場にあるため気をきかさざるを得ない場合が多いのです」「自分は組織で生存するためにどういうキャラがいいか考えたことがないと思った方は、自然体で暮らせるという特権を持っている可能性があります」

209ページの「日本型雇用の組織のイメージ図(金融機関の例)」も多くの人に見てもらいたいですし、(マーケティング上はともかく)女性向けの書籍にとどめるのはもったいないと感じました。

※写真は台北に残る日本家屋です。

 

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保険料調整行為の調査結果

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1216(2024.1.15)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介します。
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新年にあたり、自分がいつから本誌への寄稿を始めたのか調べてみたところ、初回は2001年4月でした。ざっと確認すると、外部寄稿者のなかで3番目に長く連載を続けているようです。とりあえず休載の予定はありませんので、本年も引き続きよろしくお願いいたします。

金融庁による行政処分

既報の通り、金融庁は昨年12月26日に大手損害保険会社4社に対し、行政処分(業務改善命令)を出しました。保険料調整行為など独占禁止法に抵触すると考えられる不適切行為等について、業務改善計画の策定・提出・実行を求めるというものです。
金融庁は行政処分とともに、「大手損害保険会社の保険料調整行為等に係る調査結果について」という資料を公表しました。大手損保各社はそれぞれ調査委員会を設置し、不適切な行為について調査を行っていて、今回の公表によって調査結果(の一部)が初めて明らかになりました。
金融庁のサイトへ

広範囲かつ継続的

まず、不適切な行為が例外的なものではなく、広範囲かつ以前から行われてきたことが示されています。金融庁が4社からの報告を集計したところ、不適切行為等があるとされた保険契約者は576先に上り、その半数以上は2020年以前から続いているとわかりました。
とりわけ自然災害の多発などにより料率引き上げが急務となった2018年あたりから、不適切行為等が始まった案件が増えています。

調査によると、不適切行為等の目的として最も多かったのが「現状維持(幹事、シェア等)」で、全体の50%を占めました。他社からの打診に応じたというのも39%あり、この2つが主要な行動類型となっています。
なお、企業保険の入札では複数の保険種目を対象にすることが多いという理由から、種目別のデータは示されていません。そもそも企業がどのような保険に加入しているかというデータがないのは、ちょっと残念です。

多くは「不適切」認識なし

問題となった契約について違法だという認識は7%、違法ではないが不適切だと認識していたケースは26%でした。裏を返せば、67%の取引は不適切という認識がなかったということです。他社からの打診に応じたというケースであっても、「悪いことだと認識していたが応じた」という回答はかろうじて過半数(53%)にとどまっています。
これらを踏まえると、「不適切だとわかっていても、やむを得ない」というよりは、シェアを維持するための通常の行動として保険料調整が行われてきたことがうかがえます。

企業向け保険に関する公開情報は非常に少なく、今回の調査では保険会社側の取引実態の一端が示されたにすぎません。企業側はどのような部門がどのようなスキルを持って担当しているのか、保険会社による株式保有や営業協力が取引にどのような影響を与えているのかなど、取引慣行の適正化を図るには、実態をさらに明らかにすることが必要だと思います。
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※写真は宇都宮のLRT(路面電車)です。

 

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『金融リスク管理を変えた大事件20』

金融リスク管理の「語り部」として、藤井健司さんが新たに『金融リスク管理を変えた大事件20』を出版しました。

拝読して改めて思うのは、2013年刊行の『金融リスク管理を変えた10大事件』から10年の間にも大事件が頻繁に起きていたという事実です。新型コロナだけではなく、アルケゴス事件やコインチェック事件、シリコンバレー銀行の破綻など、言われてみればリスク管理が試されるような事件が立て続けに生じ、金融機関のリスクマネジャーは休む暇がなかったのではないかと思います(笑)

すでに『10大事件』『10大事件+X』で書かれていた内容ではあるのですが、『大事件20』を読んでいて、デリバティブ仕組取引の記述に目が留まりました(第5章)。
1990年代に株価リンク債などの仕組債を積極的に購入していたのは、インカム収入がほしかった日本の生命保険会社でした。本書では仕組債について、アレンジする金融機関にとって収益性の高い業務であると述べています。

「仕組取引に組み込まれたスワップやオプション等のデリバティブ取引は相対取引であることから、そもそもその価格が外からはみえない。加えて、複雑な仕組取引を組成するためには、複数の複雑なデリバティブが組み込まれることになり、その原価ともいうべきストラクチャリングのコストは、機関投資家の側からは、よりいっそうわかりにくいものとなった。アレンジャーである金融機関は、複雑で手がかかる仕組取引をアレンジすることで多額の手数料を享受することができたのである。」
(本書94-95ページから引用)

歴史は繰り返されます。低金利が続くなかで、最近まで金融機関は個人・法人に向けて仕組債を積極的に提供していました。

1990年代前半のバンカーズ・トラスト銀行による不適切なデリバティブ販売が発覚し、その後バンカーズからクレディ・スイス銀行に移籍したデリバティブチームの活躍で、1990年代後半の日本で金融機関が餌食となりました。さらには2020年代になって、巨額損失事件でクレディ・スイス銀行は消滅してしまいます。
以前、ブログで書いたとおり、金融ビジネスでは健全な企業文化を育てることが重要かつ難しいのだと思い知らされます。

ということで、金融リスク管理の歴史を学びたい中堅・若手の金融パーソンだけではなく、シニアの業界人にも楽しく読める良書です。

※ガイドブックに出てきそうな写真ですよね。

 

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リスク評価の難しさ

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。

台湾・淡江大学で開催されたワークショップ(EARMI)に参加するため、新年早々に海外に出かけてきました。このワークショップは日本、韓国、台湾のリスク&保険関係の学者によるもので、今回は午前に2つ、午後に4つの研究報告がありました(このうち私は午後の前半の座長を務めました)。
EARMIは東アジアの同業者と交流する貴重な機会であるとともに、グローバルな学会動向や様々な研究手法に触れたり、さらには自分の英語力についても反省したりと、得るものが多い出張でした。

ところで、年始の能登半島地震に関して、本日(8日)の日経新聞に「能登半島地震、元日滞在3割多く避難所満杯 物資足りず」という記事がありました。石川県輪島市・珠洲市・能登町では、地震が発生した元日の滞在人口が、1か月前の休日よりも3割多かったとのことで、帰省者や観光客など住民以外が災害に巻き込まれ、避難者が想定以上に膨らんだという内容です。記事によると、珠洲市の飯田小学校の避難所には約800人が避難してきたそうですが、石川県の資料によると、この避難所の対象地区の人口は約500人です。

地震国日本ですので、石川県も各市町村とともに避難計画を作成してます。ただし、避難計画は基本的に人口をもとに立てるのでしょうから(ある程度の旅行者などを想定するとしても)、1年に2回しかない帰省シーズンのことまで考えていなかったのかもしれません。もし事前に考えていたとしても、滞在人口がピークの時期を前提に避難計画を立てるとなると、コストがかなり膨らみます。
企業のリスク管理ではないので、旅行者を含めた住民の命を守ることを最優先すべき。とはいえ、財源は限られているなかで、果たしてどこまで想定しておくべきなのか。住民の合意形成を含め、難しい判断だと思います。

※台湾でも日本の地震のニュースを何度も観ました。

 

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