リスクと保険を学ぶ大学生の全国大会を開催

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1208(2023.11.13)に寄稿したものを当ブログでもご紹介します。今回は12月のRIS2023についてです。
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今年は福岡大学で開催

久しぶりに大学関係の話を書かせていただきます。

来月12月2日(土)の午後から3日(日)にかけて、全国12の大学の「リスクと保険」を学ぶ大学生が福岡大学に集まり、日ごろの研究成果を報告するという大会(RIS2023)を開催します。
RISは全国学生保険学ゼミナールの通称で、2004年度から始まり、今回は20回目の大会となります。参加しているのは保険論関係のゼミナールが中心ですが、報告テーマは幅広く、保険やリスクマネジメントのほか、金融、ファイナンス、社会保障、経営戦略までカバーしています。ご参考までに、昨年度は下記のような報告がありました(全25報告の一部です)。

「食品ロスのリスク」
「男性の育児休業の関する考察」
「自動運転化社会の将来展望-コミュニティバスの自動運転化へ」
「テレワークに関するリスクマネジメント」
「環境規制というリスクが産業に与える影響」
「日本の生命保険会社が中国事業を継続する要因」

ちなみに昨年度の植村ゼミの報告は「地震保険の加入動向」「コロナで苦しむ学生向けの保険」の2つでした。今年度は3つの班があおり運転や対面販売、物流問題について報告を行う予定です。

実務家の参加も多い

こうした大学の枠を超えたゼミナール活動の背景には、少子化が進むなかでの将来の保険研究・教育の衰退に対する危機感があります。
日本人にとって保険は身近な存在ですし、昨年度のコロナ保険の給付金、今年度のBM社による保険金不正請求事件など、保険に関する出来事は大きなニュースとして扱われることが多いと感じます。さらに言えば、保険会社(特に大手)は大学生にとって人気の就職先となっています。ところが大学では、保険関連の講座は縮小傾向にあり、この分野に関心を持つ若い世代を育てるのが徐々に難しくなりつつあるのです。
そこで、何かの縁があってリスクと保険を学ぶことになった大学生に向けて、RISは大学の枠を超えて切磋琢磨できる機会を用意し、大きな舞台で報告や交流を行うことを通じて彼らの成長を促そうとしています。それは保険業界の将来にとっても有益な取り組みではないかと自負しています。

RISの大会は大学生と教員だけで閉じられたものではありません。毎年多くの実務家にご参加いただき、報告への質問・コメントをいただいています。今回は福岡での開催(オンライン参加はありません)ですが、土曜日の夕方には懇親会もありますので、リスクと保険を学ぶいまの大学生に触れる貴重な機会となるかもしれません。
現在、RISのサイトから大会参加の申し込みを受け付けていますので、ご興味のあるかたはぜひご参加いただければ幸いです。
RISのサイトへ

リアルな交流を重視

今回のRIS2023は、福岡という首都圏や関西圏から遠く離れた開催地にもかかわらず、対面参加のみとしました。それには対面・オンライン併用が物理的に難しい(同時に最大4教室で報告がある!)というだけではなく、大学生にリアルな緊張感や交流を体験してもらうためです。

コロナ禍で私たちはzoomをはじめ、オンラインミーティングの便利さを知りました。私自身も、福岡にいながらにして保険会社の本社スタッフへのインタビューができたり、大学の研究室からテレビに出演したりと、多くの恩恵を受けています。
その一方で、私たちは対面のありがたさや、対面でなければ難しいことがあるのにも改めて気付きました。オンラインミーティングは効率的な半面、対面よりも情報が少ないというか、どこか平坦なやり取りになってしまいます。新たに人間関係を構築するのは至難の業ですし、会話のなかで気付きを得られる機会が少ないように思います。
特に若い世代にとって、RISは同年代との交流だけではなく、皆さまのような社会人とリアルに話ができる貴重な機会です。そこで今回は利便性よりも対面参加のメリットを優先させていただきました。
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※福岡も一気に冬の寒さとなりました。

 

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「ソウル おとなの社会見学」

10月31日の週刊金融財政事情の書評(一人一冊)をこちらでもご紹介します。今回取り上げた書籍は大瀬留美子さんの『ソウル おとなの社会見学』です。
9月24日のブログは、この最後の1行(インバウンドの復活に比べ、日本人出国者数の回復は鈍い)を書くために調べたものでした。
以下、引用となります。

旅に出れば見えてくるものがある

20年ほど前、希代の教養人として知られる出口治明さん(立命館アジア太平洋大学学長)と初めてお会いして、意気投合したことがあった。金融界では珍しい歴史学科出身の私が、「格付けアナリストとしてタテ(歴史)とヨコ(地理)を軸に考え、旅に出ることを心掛けている」と話すと、出口さんは大いに共感してくださった。もっとも出口さんは世界1,200都市を訪れている方なので、「意気投合」と言うのはおこがましいかもしれない。

旅に出ることをお勧めするのは、当然ながら「事件は現場で起きている」からであり、実際に足を運ぶとさまざまな気付きを得られるからである。私たちはコロナ禍でオンラインのありがたさとともに、リアルで会うことのメリットも再認識した。
とはいえ、旅に出て何かを見てやろうと思っても、予備知識次第で見えるものがまったく違う。通常のガイドブックに頼るのもいいが、本書のような「短期間の滞在では気付きにくく、興味を持たなければ通り過ぎてしまうテーマの鑑賞ポイントとうんちくをたくさん詰め込んだ」(本書から引用)書籍に巡り合うと、それまで見えなかったものが見えるようになるから不思議だ。

例えば本書では、ソウルの「渋い喫茶店」をテーマの一つに挙げている。ソウルの町を歩くと至る所にしゃれたカフェがあり、おいしいコーヒーやデザートにありつける。しかし、渋い喫茶店とはそのような所ではない。何十年も続く老舗のタバン(茶房)と呼ばれる喫茶店で、コーヒーはインスタントだったりする。ハングルの壁もあり、知らなければ通り過ぎてしまうだろう。
また、都市部の河川や水路を地中化した暗渠(あんきょ)も興味深いテーマである。ソウルの都市化に伴い、多くの河川が暗渠化された一方、近年では暗渠となっていた川を、市民の憩いの場として復元した所もある。それぞれに経緯があって、著者のうんちくがふんだんに盛り込まれているのがいい。

旅に出るのを勧めるもう一つの理由は、自分の日常を客観的に見ることができるからである。ソウルは日本から近いといっても、外国である。本書を読んでソウルの町歩きを楽しむと、おのずと日本の現状と比べたくなるだろう。それに海外に行けばいやでも円安を実感するし、日本の存在感がどの程度なのかを考えるきっかけにもなる。
インバウンドの復活に比べ、日本人出国者数の回復は鈍い。そろそろ積極的に海外に出るときではないだろうか。

※この3連休は福岡大学の学園祭(七隈祭)でした。

 

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マイクロ保険

10月28日から29日にかけて、日本保険学会の年次大会がありました。今年度は久しぶりに懇親会も開かれ、にぎやかな大会となりました。

初日のシンポジウムのテーマ「先端医療と保険」には、報告者として同僚の伊藤先生が登壇したにもかかわらず所用により私は参加できず(すみません)、2日目の共通論題「マイクロ保険の現状と課題」に参加しました。
マイクロ保険(マイクロインシュアランス)について私はあまり馴染みがなかったのですが、ニッセイ基礎研究所の片山さんの資料によると、2022年現在、加入者は34か国、2億人超で、導入する地域が増えているとのことでした。

報告を聞いて、私は次のような理解をしました。正しいかどうかは自信がありません…

・マイクロ保険も通常の保険もしくみは同じ
・マイクロ保険は低所得者・貧困層などを加入対象としており、通常の保険にはない存在意義を持つ
・加入対象の特性から小口かつ保険料滞納リスクなどがあり、さらに保険事業への理解も低いことから、極力コストを抑えつつ、加入者を引き付ける(引き留める)ための工夫がないと持続可能な事業になりにくい

事業者目線からすると、「採算ベースに乗りにくい保険事業が技術革新によって実現できるようになった」というのはわかります。
他方で「採算ベースに乗らない保険事業をあえて行う」というのはどう考えたらいいでしょうか。他の事業があって、社会貢献あるいは市場参入のためのコストとしてとらえればいいのでしょうか(株主など他のステークホルダーが許容する範囲において)。こちらを保険事業と言っていいのか、私には疑問です。

複数の先生が「アグリゲーター」と呼ばれる非保険業の事業体について触れていました。この事業体が関わるマイクロ保険と、無尽や頼母子講といった共同体の互助金融を比べた議論はありそうですね。

※写真は会場の京都産業大学です。

 

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近況報告

佐賀で出張授業(10月20日)

佐賀市にある県立高校の1年生に出張授業で「リスクと保険」の話をしてきました。
高校に入学してまだ半年の生徒でも「ビッグモーター」事件は浸透しているのですね(スライドを見せたら「わぁ」と声が上がりました)。
ただし、事件を知っていても「車をわざと壊して不正にお金を受け取った」くらいの理解ですので、保険のしくみを説明したうえで、ビッグモーター事件のどこが問題なのかをお話ししました。

佐賀は博多駅から特急で40分という近さにもかかわらず、町の中心部に行ったのは今回が初めてでした。
駅から30分ほど歩くと佐賀城跡があって、本丸御殿が再建されています。写真のレトロな洋館は旧古賀銀行の本店です。現在は歴史民俗館・カフェレストランとして使われています。

RIS九州ブロック中間報告会(10月22日)

西南学院大学で九州の4大学のゼミが報告会を行いました。
今の植村ゼミ3年生は、2年生の12月に学内の報告会を経験しているとはいえ、他流試合は初めて。しかも、研究はどの班もまだまだゴールが見えない状況です。それでも他大学の報告を目の当たりにしたり、実務家からアドバイスをいただいたりしたなかで、何かを得ることができたのではないかと思います。ここからの約1か月が勝負なので、がんばりましょう。

RIS2023の全国大会は12月2日、3日に福岡大学で行います。今回は対面のみの開催で、久しぶりに懇親会もあります。
申し込みが始まりましたので、リスクと保険を学ぶ学生にご関心のある方はぜひご参加願います。お申し込みはこちらです。

東洋経済『生保・損保特集』に寄稿

毎年恒例の週刊東洋経済の臨時増刊『生保・損保特集』が本日発売されたようです。
今回は久しぶりに執筆しました(新しいソルベンシー規制について)。業界人だけではなく、保険業界に関心のある学生にも理解できるように書いたつもりなのですが、どうでしょうか。

 

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平成時代の社会変化と生命保険のニーズ

寄稿の紹介が続きますが、今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1204(2023.10.16)に寄稿したものです。

<参考資料>
グラフで見る世帯の状況 ※最新版は有料のようです
専業主婦世帯と共働き世帯
50歳時の未婚割合の推移

なお、日本の未婚化について、ニッセイ基礎研究所の天野さんによるレポートを見つけました。ご参考まで。
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世帯構造の変化

皆さんにいくつか質問です。まず、現在の日本では何人世帯が最も大きな割合を占めているかご存じでしょうか。
正解は2人世帯でして、世帯数全体の約3割を占めています。次に多いのは1人世帯で、全体の4分の1くらいです。1970年代から80年代にかけて最も大きな割合を占めていたのは4人世帯だったので、これだけでも平成時代の30年間に日本の世帯構造が大きく変わったことがわかります。

次の質問です。2022年現在、専業主婦世帯と共働き世帯の割合はどの程度でしょうか。
正解は約3:7で、共働き世帯が多数派となっています。1980年代までは共働き世帯のほうが少数派でしたが、90年代に両者の割合がほぼ同じとなり、2000年代以降、共働き世帯の割合が高まりました。
もっとも、女性雇用者の約5割が非正規雇用であり、年齢が高いほど非正規雇用の割合が高まる傾向にあります。

もう1つ質問です。2020年において、50歳時の男性の未婚割合、つまり、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合はどれくらいでしょうか。
正解は28.3%です(計算方法の違いにより25.7%という数字も公表されています)。ちなみに女性は17.8%です。30年前の1990年には男性が5.6%、女性が4.3%でして、年々割合が高まり、今や4人に1人を超す男性が50歳時点で結婚経験がありません。
日本は婚外子の割合が2%強と少ないので、結婚しなければ子どもが生まれないということになります。

生命保険の事業環境は激変

いかがでしょうか。平成という時代は、日本の世帯構造が大きく変化した時代だったことが改めてわかります。
これらの影響を多くの産業が受けているのですが、とりわけ生命保険業界には猛烈な影響がありました。遺族保障のニーズが強いであろう夫婦2人・子ども2人で妻が専業主婦の4人世帯は、もはや少数派となってしまいました。シニアの2人世帯は「そろそろ生命保険から卒業」でしょうし、共働きの2人世帯では、普通に考えれば、子どものいる専業主婦世帯に比べて遺族保障のニーズは小さいはずです。1人世帯にいたっては、親が受取人となる生命保険に加入する人は少ないでしょう。

他方で、どの世帯においても、老後の生活保障ニーズはますます強まっていると考えられます。他の金融機関・金融商品との激しい競争を覚悟したうえで魅力的な資産形成手段の提供に活路を求めるのか、あるいは、生命保険会社が得意としている(はずの)死亡率等を使った長生きリスクへの対応を強めるのか。
いずれにしても事業環境の激変に対し、生命保険会社が国内でできることはまだまだあると思います。
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※福岡タワーの影が砂浜に!

 

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「リスク」と「損失」を分けて考える

インシュアランス生保版(2023年10月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。
文中に「2026年」とありますが、台湾では2026年にIFRS17号とICS(経済価値ベースのソルベンシー規制)が同時に導入される予定となっています。
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アジア生命保険振興センター(OLIS)が4年ぶりに開催した海外セミナーの講師を務めるため、8月下旬に台湾を訪問した。OLISは1967年から国内外での研修・セミナーなどを通じてアジア諸国の生命保険事業の発展に尽くしてきた財団で、アジアの生命保険会社の経営陣や監督官庁にはOLISセミナーの卒業生が数多く存在する。今回の台湾でも、セミナー後の懇親会には大手生保の経営トップが何人も集まり、保険行政の責任者との意見交換を行うこともできた。こうした人的つながりはOLISの長年にわたる継続的な取り組みの賜物であろう。

さて、懇親会で大手生保のトップどうしが中国語で真剣に意見を交わしていたので、気になってたずねてみると、IFRSとICSへの対応をどうするか、つまり、2026年に予定されている経済価値ベースに基づく新たな会計基準と健全性規制の導入に向けてどう対応するかという話だった。保険行政との意見交換でも、課題として真っ先に上がったのがIFRS・ICSの導入支援だった。
近年、台湾生保の主力商品は外貨建ての貯蓄性商品となっている。とはいえ、既存の保険負債には現地通貨建てが多く、かつ、過去に獲得した高利率契約も残っている。これに対し、台湾でも低金利が長く続き、各社は運用利回りの向上を図るため、外国公社債への投資を進めてきた。この状態のままで経済価値ベースの会計・規制を導入すると、おそらく保険負債が膨らみ、金利などのリスク評価も厳格に行われることから、資本増強が必要となるのかもしれない。

話をしていて気がついたのは、「リスク」と「損失」が混在していることだった。外国公社債への積極的な投資の理由を尋ねると、「逆ザヤとならないように」という答えが返ってくる。だが、低金利下における過去に獲得した高利率の契約は、経済価値ベースで見ればすでに損失が発生している状態であり、もはやリスクではない。そのなかで外国公社債への投資を増やすのは、損失を抱えつつ新たに外国公社債のリスクをとるという行動なので、資本への負荷が一層かかってしまう。現地通貨建ての長期債市場が非常に小さいという事情を踏まえても、損失を損失と認識しなかった結果が、バランスシートの6割前後を外国公社債が占めるという現状につながっているのではないだろうか。

日本の生命保険会社は30年前から主力商品の保障性シフト、短満期シフトを進めてきた。過去に獲得した高利率契約を抱えつつも、内部留保によって支払余力を増やし、超長期債の購入によって金利リスクを減らしてきた。とはいえ、この10年間の外貨建て資産の動向を見ると、いまだに単年度の逆ザヤをリスクとして意識しているようにも見える。果たして「リスク」と「損失」を分けて考えることができているのだろうか。
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※福岡大学でライトアップのイベントがありました。

 

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遅延の頻発

2020年4月から福岡と東京・横浜を月に1、2回は往復する生活を送っていますが、このところ飛行機(ANA)の遅延が目立つようになりました。この半年の遅延状況は以下の通りです。

4月20日(木)福岡⇒羽田22:30着=遅れなし
4月23日(日)羽田⇒福岡11:25着=遅れなし
5月11日(木)福岡⇒羽田21:25着予定が53分遅れ
5月14日(日)羽田⇒福岡16:10着予定が61分遅れ
5月25日(木)福岡⇒羽田21:25着予定が23分遅れ
5月28日(日)羽田⇒福岡11:30着=遅れなし
6月 8日(木)福岡⇒羽田21:25着=遅れなし
6月11日(日)羽田⇒福岡11:30着=遅れなし
6月22日(木)福岡⇒羽田21:25着=遅れなし
6月23日(金)羽田⇒福岡16:50着=遅れなし
7月13日(木)福岡⇒羽田21:25着予定が23分遅れ
7月17日(月)羽田⇒福岡11:25着=遅れなし
7月26日(水)福岡⇒羽田11:20着=遅れなし
7月27日(木)羽田⇒福岡16:05着予定が欠航
(天候不良のため羽田に引き返し)
8月12日(土)福岡⇒羽田11:20着=遅れなし
8月23日(水)羽田⇒福岡11:25着予定が17分遅れ
8月25日(金)福岡⇒中部17:20着予定が欠航
(飛行機の手配がつかないため)
9月19日(火)福岡⇒羽田20:15着予定が56分遅れ
9月20日(水)羽田⇒福岡20:50着予定が38分遅れ
10月 5日(木)福岡⇒羽田21:00着予定が27分遅れ

ここで言う「遅延」とは15分を超えて到着が遅れたことを指しています。
遅延の理由は全て「使用機到着遅れのため」でした。特に福岡を夜に出発する羽田便の遅延が目立ちます。
新型コロナ感染症が5月から5類感染症となり、人の移動が活発になったためなのだと思いつつ、羽田-札幌便と並んで旅客数がトップクラスの羽田-福岡便がこの状況というのは、寂しいかぎりです。コロナ前も夜の便はこれほど遅延が頻発していたのでしょうか。
ANAは2022年の定時到着率(国内線&国際線)が2年連続で世界一なのだそうですけどね。

データを探すと、国土交通省が航空輸送サービスに係る情報公開のなかで、航空会社ごとの「定時運航率」データを公表していました。定時運航とは到着ベースではなく、出発予定時間の15分以内に出発できたかどうかで、四半期ごとのデータです(最新は2023年1-3月)。

過去10年の定時運航率データを確認すると、10年前には95%程度だったものが、コロナ直前には90%を下回る水準まで悪化していました。その後コロナ禍で定時運航率が一時的に改善したものの、旅客数の回復とともに再び悪化し、コロナ前の水準に近付いています。ちなみにANAの定時運航率が悪化した時期の輸送人員に大きな変化はありませんでした。

つまり、最近の遅延頻発はコロナ後の旅行客の増加に対応できていないというだけではなく、2010年代後半以降のオペレーションに何か問題があるのかもしれません。
もっとも、JALも同じような傾向なので、航空会社だけの問題ではない可能性もありますね。

 

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損保の価格調整問題

大手損害保険会社が企業向け保険で保険料の事前調整を行っていたという問題について、9月29日のBloomberg記事「損保4社が報告書提出、調整行為の範囲など金融庁が実態解明へ」に私のコメントが載りました。

<以下引用>
福岡大学の植村信保教授は、報告書の提出を受けて調査が進めば「個社の問題ではなく、業界の問題ということが明らかになるだろう」と期待する。損保の担当者に「法令違反をしているという意識はなく、取引慣行として長年行われていた可能性がある」とみており、「経営陣が何も知らなかったということはないのではないか」と指摘。保険市場を「より透明性の高い環境に変えていくべきだ」と話す。
<引用終わり>

実のところ、取材では損害保険業界の問題だけではなく、顧客である大企業についても辛口のコメントを出しています。
というのも、ビッグモーター問題とは違い、こちらの保険契約者は企業のリスクマネジメントの一環として保険を活用してきた、いわばプロであるべき契約者だからです。なかでも、より高いガバナンス水準が求められる東証プライム市場に上場するような会社であれば、保険のことは企業内の系列代理店(実質的には特定の保険会社とその出向者?)に任せっきりというのは本来許されることではありませんし、特定の保険会社と優先的に取引してきたのであれば、その理由を株主などに合理的に説明できなければなりません。

価格調整が取引慣行として長年行われてきたのは保険会社の都合だけなのでしょうか。企業代理店が価格調整の存在をある程度知っていたケースも多いのではないかと思いますし、そうだとすると、企業サイドも好都合と考えていたのではないでしょうか。
あるいは、企業サイドが価格調整の存在を全く知らなかったとしても、料率の本格的な引き上げ局面になるまで問題が発覚しなかったのは、保険をリスクマネジメントの手段というよりは、単なるコストの一項目くらいにとらえてきたということなのでしょう。

例えば再保険市場で料率が大きく上がっても、大手損保は長年の取引関係を考慮し、元受保険料に全面的に転嫁するような対応をしてきませんでした。寡占市場といっても、例えばブローカーを使って外資系などこれまで取引のない保険会社から保険を手配することは可能でしたが、そのような動きは一部を除き、聞いたことがありません(おそらく外資系のほうが総じて料率が高いのではないかと思いますが…)。

もっとも、保険を手配するコストを抑えることができていたとしても、その代償として、企業に保険に通じた人材が育たず、総務部や人事部を窓口にして、工場や建物に財物保険をかけておしまい、といったことになっている企業が多いのではないでしょうか(統計などがないので断定はできませんが)。

保険会社の事前価格調整は許されるものではありませんが、大企業のリスクマネジメント意識の低さが、今回の問題の背景にあると私は考えています。

※日本金融学会の秋季大会が九州大学で開催されました。

 

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出国日本人数の伸び悩み

日本政府観光局の統計によると、インバウンドの回復が鮮明となっています。8月に日本を訪れた外国人旅行者は3か月連続で200万人を超え、コロナ前の2019年8月と比べて86%の水準まで回復しました。
福岡はやはり韓国からの観光客が多いようですね。たまに博多駅や天神の繁華街に行くと、ハングルの会話を耳にすることが本当に多いです。中国語もよく耳にしますが、台湾や香港の皆さんでしょうか。

他方で海外に行く日本人の数は、回復途上にあるとはいえ、2019年の5、6割にとどまっています。年代別データを確認できていないのですが、シニア層が海外旅行に依然として慎重なのと、ビジネス出張がオンラインに置き換わっていることなどが考えられます。

ただ、コロナ禍でオンライン会議などを経験して、改めてリアルの価値を再認識した人も多いのではないでしょうか。もちろん福岡を拠点にしながら東京とつながったり、取材を受けたりと、私はかなり恩恵を受けているのですが、オンラインだとどうしても情報が限られてしまいますし、新たな出会いや発見は難しいように思います。
それに海外に行かなければ円安を実感することも少ないでしょうし、日本の存在感を意識することもないでしょう。海外旅行は日本での暮らしを客観的に見ることのできるいい機会ですので、皆さん、機会を見つけて国の外に出たほうがいいと思いますよ。

※写真は韓国の市場での一コマです。

 

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サムスン生命のIR資料より

先週訪問した韓国では、今年(2023年1月)から保険会社の会計基準とソルベンシー規制が変わりました。
ソルベンシー規制は、日本のソルベンシー・マージン比率のようなRBC規制から、経済価値ベースのK-ICS(キックスと呼ぶようです)に移行し、会計基準はIFRS4号から17号になりました(より正確にはIFRS9号と17号の組み合わせ)。
日本の経済価値ベースのソルベンシー規制導入は2025年ですし、会計基準は現行のままです。台湾でもIFRS17号と新たなソルベンシー規制を導入するのは2026年となっていますので、東アジアでは韓国が先行したことになります。
もっとも、K-ICSのほうは申請すれば最長10年の移行期間が認められるそうなので、業界全体としてどれだけの会社がIFRS17号とK-ICSの世界に移行したのかは未確認です。

最大手サムスン生命のIR資料を見ると、同社は移行期間を申請せず、会計基準はIFRS17号、ソルベンシー規制はK-ICSのもとで経営管理を行っていることがわかります。

決算結果の概要(Earnings Results)を見ると、2022年までの同社は新契約年換算保険料と純利益、保険引受利益、資産運用利回り(定義は未確認)、RBC比率などを主要指標として示していました。それが2023年上半期では、新契約のCSM(契約サービスマージン)をはじめCSMの動向、保険サービス利益の内訳、資産運用利益の内訳、K-ICS比率などと、主要な指標が大きく変わりました。
とりわけCSMを経営の重要指標としているところが目を引きます。アクサやアリアンツなど欧州大手保険グループの生保事業でも今年から同様の開示が見られるので、グローバル投資家にとっては格段に比較しやすくなったと思います。

こうなってくると、今後の日本勢の動きが気になりますね。

※写真は柳川ひまわり園です。

 

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