業界専門紙の役割とは

インシュアランス生保版(2019年7月号第1集)にコラムを執筆しました。
改めて石井さんのご冥福をお祈りいたします。

<以下、掲載されたコラムです>
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4月末に急逝した保険ジャーナリスト石井秀樹さんのお別れの会に参加した。石井さんのご冥福をお祈りするとともに、氏が長く保険毎日新聞の記者を務め、独立後もインスウォッチをはじめ、保険業界人が目にする媒体で健筆をふるっていたことから、業界専門紙誌や業界専門ジャーナリストの役割について改めて思いを馳せてみた。

業界専門紙の存在意義は何か

保険業界には本紙「インシュアランス(週刊)」のほか、「保険毎日新聞(日刊)」「新日本保険新聞(週刊)」「保険情報(週刊)」「インスウォッチ(週刊)」といった数々の業界専門紙がある。かつてに比べれば少なくなったとはいえ、1つの産業に複数の業界紙が存在するのは、それだけ保険業界の関係者が多く、かつ、業界に関する情報が必要とされてきたことの表れであろう。

業界専門紙を文字通り「業界人のための専門情報を提供する新聞」と定義すると、業界紙の役割は、一般の新聞や経済誌には載らないような詳細で正確な業界情報を提供したり、同じ情報でも一般紙誌とは違い、業界関係者向けの目線で伝えたりすることである。業界関係者を主な読者層としているのだから、一般紙と同じ目線でニュースを伝えていたのでは存在意義は乏しい。

ネット時代が到来する前は、保険会社のニュースリリースや監督官庁の公表する資料をそのまま掲載するだけでも価値があっただろう。だが、環境は劇的に変わっている。各社の発表をそのまま記事にしたようなものに大きな紙面を割く意義を見出すのは難しい。
亡くなった石井さんは、例えば保険ショップの全体像を取材の積み重ねにより報じていたが、業界紙にはこうした付加価値のある情報提供がますます求められている。

ファクトに基づく継続的な発信を

特に求められるのは、ファクトに基づいた継続的な情報発信であろう。
以前、保険毎日新聞が会社別の変額個人年金保険の販売状況を一覧表にして、それを定期的に掲載していた時期があった。各社の公表資料には保有契約と資産残高くらいしか情報がないなかで、銀行窓販の現状を知る貴重な情報だった。

こうしたニーズは今でもある。例えば各社が公表する「契約高・件数」「年換算保険料」などを見ても、業績動向をつかむのは難しい。年換算保険料が増えていても、貯蓄性の強い外貨建て保険の販売が前年度よりも多かっただけかもしれない。ブームとなっていた経営者向け保険が各社の業績にどの程度反映されているのかも全くわからない。
保険業界の健全な発展のためには米国AMベスト社のような存在が日本にも必要ではないだろうか。

さらに言えば、業界専門紙に期待される役割は関係者向けの情報提供にとどまらない。
サポーターと言うとやや誤解を招きそうだが、業界べったりの代弁者ではなく、業界の内外をつなぐ存在であったり、辛口のご意見番だったりと、関係者に対して「ムラの外ではこう見ている」という、いわば風を吹き込むような役割もあると思う。
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※写真(上)は昨年3月末の椿山荘、
 下はお別れの会のスナップです。

 

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コメント掲載など

最近のメディア対応から3点ほどご紹介します。

日経のコメント

6月29日の日経マーケット総合面「社債、金融規制が追い風」の取材を受け、私のコメントも載りました。
国内社債市場で空前の好需給が続いている背景に銀行や保険会社の規制対応があるという記事で、採用されたコメントは(超低金利下での積み増しに慎重な生保は多いものの)「超長期債への潜在的なニーズは根強い」というものです。

見出しの「生保健全性に新指標 超長期債に需要」からすると、突然降ってわいたような話のように見えてしまいます。でも、保険業界の皆さんにはご承知のとおり、この件は何年も検討が続いていることであり、かつ、すでに多くの会社で経済価値ベースの経営管理が採用されているという状況です
(活用の程度はともかくとして)。

それにこの規制は、今まで認められていたものが禁止されるというのではなく、今までの規制ではうまく反映されていなかったものが反映されるようになるという話です。ですから、規制導入後にリスクを抱えすぎていることが見えてしまうのであれば、今でもリスクを抱えすぎているということになります。

inswatchのレポート

6月28日のプロフェッショナル・レポートに「3メガ損保グループ決算にみる意外なリスクテイクの現状」を寄稿しました。

・メディアの増益報道はミスリード
・自然災害が各社の財務健全性に与えた影響は軽微
・経営に最も影響を与えたのは生保事業だった

このような内容でして、下記の図表などを使い、グループにおける生保事業の影響力が高まっていることを説明しました
(図表から、国内生保事業の経営リスクが無視できない割合となっていることがわかります)。

損保グループの生保事業に関しては、金利リスクをどうコントロールしていくかという課題のほかに、経営者向け保険のブームが終焉した影響も無視できないのではないかと考えていまして、ひそかに(?)注目しているところです。

書評「本当にそうなのか?」

週刊金融財政事情(2019.7.1)の書評「一人一冊」に寄稿しました。
今回取り上げたのは一橋大学の円谷昭一先生による「コーポレート・ガバナンス『本当にそうなのか?』-大量データからみる真実-」です。

本書では開示されている大量のデータを使い、コーポレート・ガバナンスに関する議論のなかで通説とされていることが本当にそうなのかをあぶりだそうとしています。
ガバナンスをめぐる議論において、「ごくごく一部の事例や個々人の経験や思い込みをもって議論がなされ、その結果として何らかの社会的制度が新設・改訂されたとしても、影響は全員(全上場会社)が受ける」という問題意識が円谷先生を動かしているとのことで、好感を持ちました。

※明大中野キャンパスで楠岡成雄先生の記念講演がありました。

 

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生命保険論集に論文が載りました

生命保険文化センターの論文集「生命保険論集」の第207号(6月20日発行)に論文が載りました。
タイトルは「生命保険業界における経済価値ベース評価の活用状況に関する考察」です。
1年くらいたつと文化センターのサイトから論文を読めるようになるのですが、ざっと中身をご紹介しましょう。

総資産5兆円超では全社が活用

いよいよ経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に向けた検討が進みつつある(例えば有識者会議の設置フィールドテストの毎年実施など)とはいえ、まだ導入時期が固まっていない状況下において、経済価値ベースの評価に基づく経営管理が生保業界にどの程度浸透したと言えるのか。本稿はこれを公表資料から探ったものです。

経営管理という、外部からは把握が難しいテーマではあるのですが、本稿ではまず、公表資料における経済価値ベースの経営管理に関する記述を調査してみました。
具体的には、生保41社が2018年に公表したディスクロージャー誌に経済価値ベースの経営管理に関する記述があるかどうかを確認しました。記述の有無を判断する際、「経済価値」という記述のほか、「市場整合的な手法」「資産と負債を時価評価」「新契約価値で評価」などの記述も含めています。

もちろん、2018年のディスクロ誌に経済価値に関する記述がなかったからといって、その会社が経済価値ベースの評価を経営管理に取り入れていないと判断するのは無理があります。ただ、記述がある会社に関しては、少なくとも何らかの形で経済価値ベース評価を活用していると判断できます。
調査の結果、41社のうち23社で何らかの記述があり、さらに、総資産が5兆円を超える18社については全社で記述がありました。

活用は道半ばと総括

次に、経済価値ベースの評価が実際の経営管理に活用されている可能性、あるいは活用されているとは考えにくい状況証拠をいくつか挙げてみました。

活用されている可能性を示唆する状況証拠としては、近年の大手・中堅各社における資本調達(主に劣後債務の調達)ラッシュがあります。ソルベンシーマージン比率は高水準で推移し、基礎利益や当期純利益は微増傾向にもかかわらず調達ラッシュが起きているのは、長期金利の水準が下がり、経済価値ベースでみた健全性が悪化したためと考えるのが自然です。

その一方で、金利が下がり、経済価値ベースでみた健全性が悪化した状況下における対応として、それまでのリスク抑制姿勢(特に金利リスク)を改め、金利リスクの更なる抑制をやめ、さらに新たな資産運用リスクをとるという行動をどう理解したらいいのでしょうか。
同じモノサシを使った行動とはとても考えにくく、経済価値ベース評価が示す経営内容への対応よりも、経営として優先すべき何かがあると理解するほかありません。

こうした趣旨の論文ですので、機会がありましたら、ぜひご覧いただければと思います。

※築地市場の解体がだいぶ進みました。
 下の写真は正門跡です。

 

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週刊ダイヤモンドの保険特集

ランキング以外も充実

今年の保険特集は例年よりもやや遅いタイミングでの刊行でしたが、例年にも増して力作だったという印象です。
プロローグの節税保険では、短期払いスキームというタイムリーな話題のほか、過去の経緯も紹介しています。外貨建て保険の記事にも「保険会社シェア」「銀行が受け取る商品カテゴリー別手数料額」があり、代理店の記事には損保代理店の図解や新手数料体系の分析があるといった、ファクトに基づいた情報を提供しようという姿勢に好感を持ちました
(もちろんデータが正しいという前提で)。

それにしても、これだけの特集なのにスタッフの名前がわずか2人しか出ていないというのも驚きでした。怪奇現象が起きるのもわかります(編集後記を参照)。

緩和型コラムも健在

実のところ個人的に保険特集で最も楽しみにしている記事は、「掲載基準緩和型コラム」という小ネタだったりします
(すみません、本文も読んでいますよ^^)。

今回は畑中元金融庁長官の話とか、地面師グループに元セールスレディ、ADIとトヨタの関係といった、「だからどうなの」という話ではあるのですが、楽しく拝読しました。おそらく骨太の本文があるからこそ、こうした小ネタが生きるのでしょう。
拡大版のコラム「代理店周辺のうわさ話」も関係者にはウケたのではないでしょうか。こうしたメーカー(保険会社)と乗合代理店の関係は将来的にどうなっていくのでしょうね。

見かけと実態のギャップ

自分の原稿についても多少触れておきましょう。
「最高益は見せ掛けにすぎない 生保経営の真実に迫る」というもので、以前のブログでご紹介したように、決算発表報道で示される「保険料等収入」と「基礎利益」では、マイナス金利政策の副作用に苦悩する生保経営の本当の姿は見えてこないという内容です。

少しだけ裏話をしますと、元の原稿のタイトル案は「最高益は見かけにすぎない」だったものが、編集の過程で「最高益は見せ掛けにすぎない」となっていたのに、ボーっとしていてそのまま返してしまい、今になって多少反省しています。「見かけ」と「見せ掛け」ではニュアンスが違いますよね。
本文を読めばわかりますが、保険会社が決算をお化粧しているという趣旨ではありません。

経営者は表面的な会計数値を重視するのでしょうか。
例えば、5月24日に開かれたMS&ADのIR説明会の質疑応答要旨に次のコメントが出ています。

「株主の皆さまへの還元の原資がグループ修正利益であり、基本的に重視する指標は、グループ修正利益です。一方で、マスメディアでの報道等でとりあげられるのは財務会計利益であることもあり、また、財務会計上の利益を重視する投資家もおられることから、マネジメントとしては財務会計利益も重視しています」

異常危険準備金の取り崩しによって高水準となった会計利益が経営実態の手掛かりになるとは考えにくいのですが、「マスメディアに取り上げられるから」という(おそらく)経営トップのコメントをどう受け止めたらいいのでしょうか。
これはメディアに変わってもらうしかないのかもしれません。

※2月の金沢駅の写真もアップ。

 

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「生保決算を読む」

直近のinswatch Vol.984(2019.6.10)に執筆した記事のご紹介です。
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2018年度の国内系生保11社の決算データを見ると、「増収」「増益」といった見かけの好調さと実態の厳しさのギャップが非常に大きいことがうかがえます。

「増収」は外貨建て保険の販売増

個人分野の保険料等収入は11社合計で前期比6200億円の増収でした(第一フロンティア生命、フコクしんらい生命を含む)。このうち銀行窓販による保険料収入の増収が6700億円程度(大樹生命を除く)とのことなので、銀行窓販による保険料収入の多くが一時払いの外貨建て貯蓄性保険であることを踏まえると、増収は外貨建て保険の販売増によるものと説明できてしまいます。
裏を返せば、経営者保険の販売が絶好調だったにもかかわらず、外貨建て保険の増収がなければ保険料等収入はマイナスだったわけです。要は貯蓄性商品の販売が多ければ増収、少なければ減収となるのが保険料等収入なので、この指標は生保ビジネスの一部分だけを示しているにすぎません。

では、銀行窓販以外の生保ビジネスはどうだったのかといえば、第三分野で増収を果たした会社もあれば、新契約件数が今ひとつ伸び悩んだ会社もあり、統一感はありません。ただし、昨年度は経営者向け保険が好調だったことを考慮すると、今年度の業績がかなり下振れする会社も出てくるのではないかと思います。

「増益」は外貨建て資産の利息収入が貢献

次は「増益」についてです。昨年度は大手を中心に、基礎利益が増益となる会社が目立ちました。
基礎利益(最低保証リスク対応の影響を除く)は11社合計で1300億円の増収でした。このうち逆ざや(順ざや)額の改善効果が1000億円、それ以外が300億円でした。それ以外がプラスになったのは3社だけで、何か特殊要因がありそうですが、いずれにしても、基礎利益の増益には逆ざや(順ざや)額の改善が大きかったことがわかります。11社合計で見ると、平均予定利率の低下による効果が大きく、さらに、会社によっては利息配当金等収入の増加も貢献しています。
利息配当金等収入の内訳は現時点では公表されていません。前々年度データによると、外債投資の増加とともに外国証券利息・配当金収入の割合が概ね3、4割まで高まっていることが確認できます(ソニー生命、かんぽ生命を除く)。外債投資の残高は年々増えているので、昨年度はさらに高まったかもしれません。
基礎利益には安定的に貢献しても、外債投資ですから、為替リスクや海外金利の変動リスク、外国債の信用リスクなど、運用リスクを伴う投資を増やした結果の、これまた一部分だけを見ているにすぎません。

実態はどうだったのか

では、全体として生保の損益はどうだったのかといえば、30年国債利回りが0.5%まで下がってしまった影響は大きく、各社が公表するEV(エンベディッド・バリュー)をご覧いただければ、厳しさの一端をうかがうことができます。
昨年度も生保各社は、健全性指標を下支えするべく劣後債務の調達を相次いで行いました(日本生命、第一生命、明治安田生命、かんぽ生命など)。このことだけを見ても、国内系生保が少なくとも好決算で浮かれた状況にはないことがわかります。

実のところ、2月に行われた「生命保険協会との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」には、「今後クレジット市場全般において、リスクが顕在化した際には、保険会社の財務にも、相応の影響を与えるのではないかと考えている」「最近のドル円の為替ヘッジコストの上昇は、外国証券による運用成果にも大きな影響があるものと考えている」という辛口の記述がありました。
浮かれているのはメディアと保険販売の現場だけとならないよう、生保経営の実態をしっかり確認していく必要がありそうです。
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なお、今週の週刊ダイヤモンドの保険特集でも、同じく生保の経営内容に関する分析記事を執筆していますので、機会がありましたらこちらもご覧いただければ幸いです。

※写真は横浜・みなとみらいです。

 

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高齢社会における資産形成・管理

このタイトルの金融審議会・市場ワーキンググループ(WG)報告書が非難されています。
高齢社会において個々人は何を求められ、それに対して金融サービスの提供者はどうあるべきかという議論を取りまとめたものが、ご承知のとおり「老後に2000万円必要」という数字が一人歩きしてしまいました。

「2000万円」の根拠

メディアや野党が飛びついた「2000万円」を確認してみると、分析結果というよりは、「こうだったらこうなる」という単純な計算によるものでした。
厚生労働省が4月12日のWG会合で示した現在の高齢世帯の収支不足額(月5.5万年)をもとに、「毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填する」「不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1300万円、30年で約2000万円の取崩しが必要になる」というのが、今回の「2000万円」です。

4月12日の議事録によると、厚労省の課長から「今後、実収入の社会保障給付は低下することから、取り崩す金額が多くなり、さらに余命も延びることで取り崩す期間も長くなるわけで、今からどう準備していくかが大事なことになります」という説明があった模様です。

しかし、現在の高齢世帯の収支はそれなりの金融資産を保有していることが前提です(平均純貯蓄額2484万円とあります)。貯蓄が少ない高齢世帯は、同じ収入であれば、もっと支出を抑えているはず。さすがにこの約5万円を使って「30年で約2000万円の取崩しが必要」と書いてしまうのは無理がありますね。
数字を出すにしても、「今の高齢世帯は平均して約2500万円の貯蓄があるので、月5万円の収支不足でも30年以上は大丈夫(だから若い世代も金融資産を形成しましょうね)」という話にすればよかったのだと思います。

民間保険の役割は?

保険アナリストからすると、報告書に民間保険の役割がほとんど出てこないのも気になりました(49ページの注記くらいでしょうか)。
資産形成が大事だとわかっていても、病気で働けなくなるリスクもあるでしょうし、反対に保険料負担が資産形成の妨げとなっているケースもありそうです。

何より不思議に感じたのは、社会保障の補完としての民間保険の役割について記述がないことです。
私の勝手な推測ですが、公助の部分をどうするかという議論はWGのテーマではないため、社会保障に関する議論は対象外、記述もできるだけ避けるということなのかと思いました。

もっとも、同じく4月12日の議事録には、次のような発言が見られます。
「(中長期的な年金給付の水準が減ることについて)はっきり言うべきことははっきり言わなきゃいけない【池尾委員】」
「(マクロ経済スライドと非消費支出の増加により)月々の赤字は5.5万円ではなくて、団塊ジュニアから先の世代は10万円ぐらいになってくるのではないか【駒村委員】」
「自助と公助がある中で、自助の割合を高めていくことの必要性を、強いメッセージとして出していく必要があると思っております【永沢委員】」

委員からは公助の限界を示すべきという声が出ていたことがわかります。

報告書のメッセージは「長寿化に応じて資産寿命を延ばすことが重要」なので、高齢世帯の収支が厳しいことをもって金融庁を責めるのは筋違いです。
でも、図らずも年金制度に社会の関心が向かうことになったのは、悪い話ではないかもしれません。今年は5年に1度の財政検証もあることですし。

※地下鉄博物館に行きました。

 

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生保決算から

こんどは生保決算について。
見かけと実態のギャップが大きいというのが私の総括です。

メディアは好決算と報道

ここ数日の業界紙(保険毎日新聞)の1面トップはご覧のとおりでした。

「日本生命 基礎利益が開示以来の最高益」(5月29日)
「明治安田生命 グループ・単体共に2年連続最高益」(30日)
「住友生命 連結基礎利益、堅調に推移」(31日)

29日の日経「生保決算を読む(上)」も、見出しは「マイナス金利でも最高益」で、次のような記述がありました。

「外国債券や株式など、国債以外のリスク資産に運用資金を配分し、マイナス金利による運用難の逆風をはね返した」
「最高益によって保険契約者には配当増という恩恵が及ぶが、膨らんだ運用リスクをどう管理するか新たな課題も浮かぶ」

金利低下の影響は小さくない

しかし、好決算はあくまで見かけ上の話であって、実態は結構厳しかったというのが私の見方です。
何より長期金利の水準が、日銀がマイナス金利政策を開始した直後の2016年3月末よりも下がってしまったのは、多くの生保にとって誤算だったと思います。
「誤算」というのは、ここ数年の各社が行ってきた、金利リスクの削減を主な目的とした超長期債の購入を抑え、あえてリスクを抱えるという判断が裏目に出ているからです。
損保グループの健全性が金利低下の影響を受けて悪化しているのですから、より大きな金利リスクを抱える生保が影響を受けていないはずはありません。

外貨建資産の積み上げも、基礎利益には確実にプラスとはいえ、株式保有とともに経営のボラティリティを高める要因となっています。
外貨建資産のうち6割程度は為替リスクをヘッジしているようですが、昨今のヘッジコストの上昇を受け、一定の為替リスクをとるかたちでのデリバティブ活用も見られるなど、ヘッジ外債戦略はますます苦しくなってきたように思えます。

最高益は見かけにすぎない

「最高益」といっても、外国証券の利息配当金収入などが増えたことによる基礎利益が過去最高益では、そこに積極的な意味を見出すのは難しいのではないでしょうか。
日経記事の「最高益によって保険契約者には配当増という恩恵が及ぶ」というのも、本当にそうなのか、甚だ疑問です、

実はこうした内容の文章を、今月のどこかで発売される週刊ダイヤモンドの保険特集に寄稿しました。機会がありましたらご覧ください。
保険特集の全体像は私も知らないので、楽しみにしています。

(追記)週刊ダイヤモンドの保険特集は6月10日発売(つまり次週号)の掲載という案内が出ていました。

※写真の美麗島駅(台湾・高雄)は美しい地下鉄駅として知られています
 (ちびまる子ちゃんもいました)。

 

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損保決算から

生損保の2018年度決算が概ね出そろいました。
今回は損保について取り上げたいと思います。

過去最高の支払い額

昨年度の風水災による支払保険金が、12月ころの見込み(1兆円程度)を大幅に上回ったことがわかりました。
20日に損保協会が公表した3つの巨大災害、すなわち、「7月豪雨(1955億円)」「台風21号(1兆142億円)」「台風24号(3060億円)」の支払保険金の合計は1.5兆円に達しました。
また、同じく20日に3メガ損保が公表した支払保険金(元受・国内のみ)の合計は1.66兆円(東京海上5067億円=報道ベース、MS&AD 6550億円、SOMPO 4988億円)となりました。

財務内容には大きな影響なし

支払保険金は過去にない規模となりましたが、3メガ損保の財務内容に深刻な影響があったのかといえば、答えはノーです。
先ほどの1.66兆円は元受ベースであり、再保険回収後の正味ベースでは6400億円とのこと。経営内容を揺るがすといったレベルではありません。

各社は健全性の手掛かりとして、ESR(Economic Solvency Ratio)という、内部モデルに基づいた独自の健全性指標をそれぞれ公表しています。
リスクに対して経営体力をどの程度備えているかを示したもので、高いほうが余力があることになります。
各社の数値は次のとおりです(2018/3末 ⇒ 2019/3末)。

 東京海上 201% ⇒ 174%
 (ターゲットは150~210%、信頼水準99.95%)

 MS&AD  211% ⇒ 199%
 (ターゲットは180~220%、信頼水準99.5%)

 SOMPO  229% ⇒ 227%
 (ターゲットは180~250%、信頼水準99.5%)

いずれも低下したとはいえ、各社が定めたターゲットの範囲に収まっています。
実のところ、ESRを押し下げた要因は自然災害の影響で純資産が積み上がらなかったことのほか、長期金利の低下によって生保事業の純資産が減ったことが大きい模様です。

ESRから見える各社の経営方針

計算方法や想定するストレスの程度が異なるので単純な比較はできませんが、東京海上の下げ幅が大きいように見えます。
公表資料からは、おそらく次のような説明ができるのではないかと思います。

・MS&AD、SOMPOに比べて出再が少なく、保有が大きかった。
・政策株式の売却規模が3社のなかで最も小さかった。
・MS&ADは劣後債を発行し、純資産を増強。
・SOMPOは生保事業で終局金利を使用(ESRの金利感応度が低い)。

(追記)
「出再・保有」の話は資本の積み上げに影響する要因として挙げましたが、それなら株主還元にも触れたほうがよさそうですね。
各社の説明を総合すると、金利の影響が最も大きかった模様です。

※高雄(台湾)では数年前からトラムが走っています。

 

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契約者保護機構の国際会議

台北で保険契約者保護機構の国際会議に参加し、日本のソルベンシー規制についてスピーチをしてきました。

保険契約者のためのセーフティネットは国によって組織形態も保護スキームも異なりますが、2013年に国際組織(IFIGS)が結成され、毎年どこかで情報交流が行われています。
メンバーはご覧のとおりで、日本は今のところ加入していません。
IFIGSでは台湾の保険安定基金(TIGF)が積極的な役割を果たしているようで、今回の2019 IFIGS Asian Conferenceも数年前に続き、台北で開かれました。

今回のテーマは「平時の保護機構」ということで、保険会社の再建・破綻処理計画(RRP)と、破綻を防ぐための取り組みの2点について各国のスピーカーが発表し、議論が行われました。

私の役割は専ら後者で、日本のORSAについて、「形式的な対応に陥りがち」という声が出ていることを紹介したところ、「ドイツではソルベンシーIIの情報開示負担が重くて困っている」というコメントがあったほか、懇親会などでも「ORSAはコンプライアンスとして受け止めている」という声を耳にしました。

特にアジアの保険会社では、経営陣は「リスク管理は重要」と言うのだけれど、それが当局主導で進めるERMやORSAとは必ずしも結びついておらず、コンプライアンスと化してしまい、リスク管理部門はその対応に追われるという実態があるようです。
「上層部の意識を変えるにはどうしたらいいか」という声も耳にしました。

あと、破綻を防ぐための取り組みとして、カナダの損保保護機構(PACICC)から、「過去の破綻事例を研究し、そのレポートを公表している」という紹介がありました。
カナダ損保の事例だけでなく、昨年は規模の大きい事例としてオーストラリアのHIH社の事例を研究したそうです。後日読んでみようと思います。

カナダの場合、外資系保険会社が多いので、経営危機に陥る要因として「親会社の破綻による影響」が重要なのだとか。確かに日本でも、損保は規模の小さい外国損害保険会社(支店形態)がそこそこありますね。

※最後の写真はお昼のお弁当です。

 

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生保の資産運用

株式・貸付金から公社債・外国証券へ

4月19日に生命保険協会が公表した提言レポート「生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組について」の3ページめに、過去70年間の生保運用資産の構成割合の推移が示されています。
70年間というスパンで見ると、日本国債をはじめとする公社債と、年々増えている外国証券が中心を占めるようになったのは最近のことであって、かなりの期間は株式と貸付金が主体だったことがわかります。
外国証券の割合がここまで高いのも、過去にはなかったことのようです。

生保資産運用の社会的役割

レポートによると、生保の資産運用が果たしてきた社会的な役割は時代によって変わっています。
高度成長期(1950年代~70年代初)には融資・株式投資を通じて、重工業中心の経済成長に貢献しました。低成長期(石油危機~90年頃)には多様な産業への投融資を通じて、第三次産業の発展に貢献しました。そして低成長期(90年代~現在まで)には国債投資を通じて、高齢化社会移行に伴う財政負担を下支えしており、加えて2000年代後半からはESG投融資等を通じて、持続可能な社会の実現に貢献しています。

確かにそのとおりなのですが、民間企業としての生命保険会社の資産運用を考えた場合、これらはあくまで結果としてそうだったという話であって、これらの社会的役割を果たすために生保が加入者から保険料を集めてきたのではないと理解すべきだと思います。
例えば、米国の生保(一般勘定)が株式や国債ではなく社債を中心に運用しているからといって、「米国の生保が社会的な役割を果たしていない」と批判するのはおかしいですよね。

何を優先すべきなのか

生保として最も優先すべきことは長期にわたる保険契約を全うすることであり、資産運用もそのために行っているはずです。
そこを踏まえないと、生保はいつまでも「お金が湧いてくる便利なポケット」のようにとらえられてしまいます。株式と貸付金が主体の資産運用の時代の亡霊は令和の時代にはふさわしくありません。

生保が提供している商品は超長期にわたり固定金利を保証しているので、よほど自己資本が余っていて、それが許容される状況であれば別ですが、そうでなければ保険負債の金利リスクをヘッジする投資行動となるのが自然な姿だと思います。

※写真は釜山の甘川文化村です。町おこしの成功例と言えるのかもしれません。

 

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