15. 執筆・講演等のご案内

生保リテール戦略

6月18日号の週刊金融財政事情は「人生100年時代の生保リテール戦略」という特集でして、大手生保4社の商品開発責任者が自社の健康増進型保険や関連サービスについて語り、インシュアテックの第一人者である弁護士の増島雅和さんが寄稿しています
(そのあとの「規制のサンドボックス」でもPolicyPalが紹介されていますね)。

私も「超低金利と技術革新が迫るチャネル戦略の再構築」というタイトルで執筆しましたので、機会がありましたらどうぞご覧ください。

ちなみに本稿の図表として、「専属チャネルと乗合チャネルの違い」を出してみましたが、いかがでしょうか。

【専属チャネル(営業職員など)】
・高価格だが(保険会社いわく)充実した特定会社の保障をパッケージで提供
・信頼できる相手から話を聞いて買いたい(=受け身的)
・既契約市場(重ね売りや紹介など)
・乗合チャネルに比べれば商品開発・価格競争は緩やか
・営業職員の大量採用・大量脱落構造あり

【乗合チャネル(保険ショップなど)】
・保険会社から独立した立場から、シンプルで低価格(に見える)複数会社の商品を提供
・比べて買いたい(=自発的)
・イメージとしては都市部の20~40代
・商品開発・価格競争が激しい
・比較推奨販売に関する規制対応が重要

ところで、本誌を読み進めていくと、人気コーナー(?)「支店長室のウラオモテ」にこんな記述が…

「(ネット銀行で住宅ローンを)申し込まれるお客さまは、損得だけのシビアな判断をされる浮気性の方々。多くのお客さまは、一生の買い物だから返済に困ったときに銀行の担当者と会って相談できるかどうかを心配されている」

「浮気性の方々」とはしびれる表現ですが、「旧世界」の本音と不安を感じます。年間4万2000円の差額を乗り越えることのできる人間力はすごいと思いつつ、技術革新が進み、情報格差も解消していくなかで、いつの間にか「浮気性の方々」が増えていくような気もします。

 

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なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

23日に横浜で開催されるRINGの会オープンセミナーは「満員御礼」だそうです。私は第1部のコーディネーターを務めますので、パネリストの興味深い話が引き出せるよう、準備を進めているところです。
さて、週の途中ですが、直近のinswatch Vol.932(2018.6.11)に寄稿しましたので、ご紹介しましょう。

なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

3メガ損保や上場生保では、決算発表後の5月下旬に投資家・アナリスト向けの経営説明会を開いています。決算結果の説明だけではなく、経営トップ自らが今後の経営戦略を伝える機会となっていて、業界関係者にも役に立ちそうです。

各社の説明資料はこちらで入手できます。
 東京海上 
 MS&AD 
 SOMPO 

新中計で「ポートフォリオ変革」を掲げる

3メガ損保グループのうち、東京海上とMS&ADでは今年度から新たな中期経営計画がはじまり、今回の説明会でも中心テーマとなりました。
東京海上グループの重点課題には、「ポートフォリオの更なる分散」「事業構造改革(=販売チャネルの変革・強化など)」「グループ一体経営の強化」の3つが挙げられています。また、MS&ADグループの重点戦略は、「グループ総合力の発揮」「デジタライゼーションの推進」「ポートフォリオ変革」の3つです。
両グループとも業界再編や大規模買収により今の姿になったので、グループベースでの経営を強めようというのは自然な流れでしょう。その一方で、いずれも自らの「ポートフォリオ」、すなわち、収益・リスク構造のバランスをさらに変えようとしているのはどうしてなのでしょうか。

リスクポートフォリオの偏り

ヒントは各グループが開示している「リスク量の内訳」にあります。
保険会社では自らが抱える経営リスクを、例えば200年に1回の確率で発生しうる損失額などとして金額に置き換え、健全性の確保や資本効率の向上に活用しています。
東京海上の資料によると、リスク量として最も大きいのは「国内損保(資産運用)」で、全体の3割強を占めています。MS&ADでも国内損保の資産運用リスクがグループのリスクポートフォリオの3割強となっていますし、SOMPOでは自然災害リスクを抑えているためか、国内損保の資産運用リスクが5割弱に達しています(いずれも2017年度末)。地震や台風といった自然災害リスクを抱える損保グループで最も大きい経営リスクが資産運用のリスクというのは、考えてみれば不思議な話です。
言うまでもないかもしれませんが、国内損保の資産運用リスクの多くは、営業目的などで保有する国内株式によるものです。

海外事業拡大が本質ではない

中長期的な投資家の目線からすると、自然災害リスクは保険事業の収益の源泉であり、保険引受リスクのコントロールに強みがあると考えているからこそ、保険会社に投資します。
近年の国内勢による積極的な海外保険会社の買収には、日本に偏った事業ポートフォリオを分散するという意味もあると思います。もっとも、保険引受リスクの分散であれば再保険でも対応可能なので、海外M&Aをしなければ投資家がいい評価をしないというものではありません。
各グループともに事業ポートフォリオの分散を掲げ、海外事業の拡大を図るとしていますが、グローバル経営による成長を目指したいという経営者の判断によるものなのでしょう。

ところが、最大の経営リスクが国内株式保有によるものという現状を踏まえると、損保グループの経営者は、保険引受事業よりも日本株の保有のほうが高いリターンを安定的に上げられると考え、資本を最も多く使っていることになります。
ただし、株式投資に何か特別な強みを持っているのでなければ、投資家としては自分で株式投資を行ったほうが、少なくとも税金の分だけ有利なはずです。「特別な強み」など存在するのでしょうか。

政策株式保有を正当化するのは難しい

損保が保有するのは、いわゆる政策保有株式なので、株式を保有することで大企業から保険料を得ている面があります。しかし、かつての規制料率時代とは違い、コマーシャル分野は収入保険料を確保すれば利益が得られるという事業ではなくなりました。もはや株式投資における「特別な強み」とは言えません。
例えば、MS&ADは政策株式のROR(リスク対比リターン)を7~8%程度と示していますが、これは保険引受利益と配当をリターンとしたものだそうです。株価の変動を考えると、安定的に7~8%のリターンを上げられるものではありません。
損保グループの経営者もこうした状況を十分理解しているからこそ、中期経営計画の3本柱の一つに「ポートフォリオの変革」を掲げ、実行しようとしているのでしょう。

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inswatchは保険流通業界向けのメールマガジンです。
私は2か月に1度のペースで寄稿しています。

※久しぶりに札幌スープカリーを食べました。

 

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いつまで「社長が社長を選ぶ」なのか

インシュアランス生保版(2018年4月号第4週)にコラムが載りましたので、こちらでもご紹介します。
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2月22日付の本紙(生保版)に、日本生命の社長交代に関する記者会見の記事があり、そこに次の記述があった。

「昨今のコーポレートガバナンスの高まりを受けて社外取締役委員会を設け指名機能を持たせている。昨年9月から重視するトップの要件、それに照らした複数の候補者をあげて審議し、清水君を取締役会に推挙することにした」(筒井社長のコメント)。

今年度も保険会社をはじめ、多くの会社で新社長が誕生する。しかし、報道される社長交代ニュースの多くは、現社長が次期社長を選んだというトーンのものが大半を占める。引用した日本生命の事例でも、私が確認したかぎり、前述のような社長選任プロセスを報じたのは業界紙だけである。
日本企業の社長は社内からの登用が多く、現社長が候補者の情報を多く持っているのは確かであろう。しかし、社長やそのOBが社内で力を持ち続ける日本の会社の統治構造が問題視され、社長選任の透明性を求めるコーポレートガバナンス改革が進んでいるなかで、社長が社長を選ぶのを当然視したかのような報道をおかしいと感じないのだろうか。

実際のところ、社長選任プロセスの透明性向上は道半ばである。
ガバナンス改革の一環として2015年に策定されたコーポレートガバナンス・コードには、「取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである」という原則がある(補充原則4-3①)。上場企業による実施率は、すでに昨年7月時点で98%となっている。

ところが、経済産業省が16年に上場会社(東証第一部・第二部)を対象に行ったアンケート調査によると、次期社長・CEOの選定プロセスに関し、「複数の候補者を選定し、そこから絞り込む」という回答は12%のみ。他方で「特に決まっていない」「わからない」という回答が合わせて43%もあった。また、指名委員会(任意のものを含む)を設置していると回答した会社は36%に達したものの、その委員会で社長・CEOの指名を諮問対象にしていないという回答が3割弱もあった。
形式面だけを整えても意味はないが、最近ガバナンス・コードの改訂案が示され、新たに「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである」(補充原則4-3②)が加わったのも理解できる。

無能な社長を選んでしまえば、持続的な成長や中長期的な企業価値の向上は期待できない。元アナリストのデービッド・アトキンソン氏も近著「新・生産性立国論」のなかで、日本に求められているのは、働き方改革よりも経営者改革だと主張する。マスメディアは旧態然とした報道姿勢から脱却し、これ以上、無能な経営者を喜ばせないでほしい。
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※今年はツツジの花も咲くのが早いですね。オフィスの近所のツツジはもう見ごろが過ぎてしまいました。

 

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inswatchへの寄稿など

いくつかの媒体に執筆した記事が載りましたので、まとめてご紹介しましょう。
まずは直近のinswatch Vol.923(2018.4.9)に執筆した記事をそのまま転載します。

金融庁と業界団体の意見交換会

中央官庁の情報開示姿勢が問題になっていますが、インターネットの普及とともに、かつてに比べれば官庁から公表される情報は格段に増え、かつ、入手しやすくなっているのは確かです。
昨年から公表されるようになった「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」をもとに、保険業界に対する金融庁の問題意識を探ってみましょう。

金融庁と業界団体との意見交換会とは

この意見交換会は金融庁幹部と業界団体(実質的には業界各社のトップ)が直接会って話をするというもので、10年ほど前から行われているようです。
大蔵省不祥事の後、官と民の交流を過度に避けるような風潮が広がってしまった反省から、このような会を開くようになったと理解しています。

論点の公表が始まった昨年1月以降、「生命保険協会」「日本損害保険協会」との意見交換会はそれぞれ6回ありました。ちなみに「主要行」は12回、「全国地方銀行協会(地銀協)」「第二地方銀行協会」はそれぞれ13回だったので、銀行がほぼ毎月開催だったのに対し、保険は2月に1回という頻度でした。
開催頻度と金融庁の問題意識の関係は定かではありませんが、参考までに「日本証券業協会」は9回開かれています。

主な論点

最近公表された2月の意見交換会の主な論点は次のとおりです(保険業界出席分のみ)。

・マネロン等に関するガイドラインの公表 ※銀行業界と共通
・ERMの取組み
・金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習 ※証券業界と共通
・検査・監督の見直し
・スチュワードシップ責任 ※生保のみ
・販売時の分かりやすい情報提供等 ※生保のみ
・「遺伝」情報の取扱い ※生保のみ

このうち「ERM」では、一部の生損保で地政学リスクやパンデミックなど定性的なリスクを網羅的に把握する取り組みが遅れているという指摘がありました。

「販売時の分かりやすい情報提供等」では、生命保険商品は特に複雑で、顧客との情報の非対称性に関する課題が多いという問題意識を示したうえで、

「特に、投信と類似の貯蓄性保険商品については、『運用』という同様の機能を提供する金融商品である以上、各種のリスクや、費用を除いた後の実質的なリターンなどについて、投信と同じレベルの情報提供・説明が求められる」

と、顧客に分かりやすい情報提供の工夫を求めています。
(なお、昨年12月の意見交換会では損保や乗合代理店の話も出ています)

金融庁の改革

「監督・検査の見直し」では、「検査マニュアルに書いてあるルールよりも良いやり方があれば、それを試みやすい環境を作りたい」「社内での議論に際し、一つひとつの問題を経営全体の中で考えやすい環境を作りたい」「金融庁の側においても、金融行政の根本目的に立ち返って考えることができる力をつけるようにしたい」と、新しい時代の金融行政を感じる記述が並んでいました。
もっとも、「金融庁の組織を変えたり、検査マニュアルをなくしたり、といっても、検査官がいなくなるわけでも、検査がなくなるわけでも、監督が甘くなるわけでもない」という記述も見られます。ここ数年、かつてのような立入検査が少ないため、仮に現場の規律が緩んでしまっているとしたら、要注意でしょう。(転載終わり)

次に、先日ご紹介したAERAの記事がサイトで読めるようになったので、こちらも張り付けておきましょう。
台風、豪雨、地震…自然災害「大型化」のいま、損保は破綻しない? 専門家が解説
保険会社、どう選ぶ? 知っておきたい三つの「指標」

もう一つ、先週の週刊金融財政事情(2018.4.9)の書評「一人一冊」で、大門正克さんの「語る歴史、聞く歴史」を取り上げています。岩波新書です。「オーラル・ヒストリーの現場から」という副題がついています(こちらはご紹介のみ)。

※写真はドンラム(DUONG LAM)村というところで、伝統的な農村集落として知られています。ハノイから車で1時間ちょっとです。

 

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AERAに寄稿しました

今週発売のAERA(アエラ)2018.4.9号に、生損保経営の現状と、経営を知る手掛かりとなる指標について書いた記事が掲載されています。タイトルは「気になる海外のリスク」ではありますが、そこだけ取り上げたものではありません。
生保の注目指標として、あえて「基礎利益」はスルーして、エンベディッド・バリューを載せてしまいました^ ^

この号は「保険料『値下げ』の衝撃」という保険特集です。雑誌の保険特集というと、プロがすすめる保険商品ランキングや保険ショップ関連の記事が目立つ印象がありますが、AERAの特集はちょっと毛色が違っていて面白かったです。
例えばこちらとか、こちらには破綻や再編、行政処分の歴史が出ていて、足もとの動きだけでなく、業界動向を過去からの大きな流れで捉えようとしています。

破綻前日に「明日、これが紙くずになると知っているけど、売れないよな」と語った経営幹部が旧T社(もし生保だとしたら非上場の旧K社ですね)に本当にいたのかなあとは思いましたが…

※今年は「花筏(はないかだ)」も楽しめました。先週末の江戸川公園です。

 

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20回目のオープンセミナー

保険代理店の情報交流組織であるRINGの会が主催する「RINGの会オープンセミナー」が今年で20回目を迎えます。
RINGの会 オープンセミナー

第1回のセミナーが開かれたのは1999年10月で、当時日本FP協会理事長だった牧野昇氏の基調講演の後、保険ジャーナリストの中崎章夫さんと石井秀樹さんをパネリストに迎えた「これからの保険業界」、RINGメンバーによるパネルディスカッション「勝ち残る代理店営業戦略は何か?」という構成だったようです。

1999年10月といえば、三井海上と日本火災、興亜火災の3社が将来の事業統合・再編を目指した包括提携を発表し、損保業界再編の口火が切られた時でした。その後、第1次再編、第2次再編を経て、現在のような3メガ損保グループが市場シェアの大半を占める状態となりました。
他方、生保では1999年6月に東邦生命の経営が破綻し、その後も中堅生保の経営破綻が相次ぐとともに、外資系・損保系生保の存在感が高まっていくことになります。

日本最大級の保険流通セミナーに成長

オープンセミナーに話を戻しますと、毎年1回のペースでセミナーが開かれ、近年はパシフィコ横浜の国立大ホールで1000人規模の保険流通関係者が集まる大イベントに成長しました。

私がオープンセミナーに関わるようになったのは2007年の第9回からで、途中からアドバイザーに就任したこともあって、これまでに5回登壇しています。
そして20回目の今回は、午前中のパネルディスカッション「自由化後20年 保険ビジネスはどこに向かうのか」のコーディネーターを務めることになりました。

パネリストは、生損保経営の経験があり、今は日本最大級の来店型代理店トップを務める窪田泰彦さん、長年にわたり外資系保険会社(AIGですね)の経営を担ってきた横山隆美さん、日本損害保険代理業協会の専務理事として10年近く保険代理店に寄り添ってきた野元敏明さんです。
いずれも保険業界を「よく知っている」皆さんですから、コーディネーターとしては、保険流通の現場ではなかなか聞くことのできない話をお届けできるのではないかと、自分でも楽しみにしています。

予定調和ではないプログラム

それはそうと、今回のプログラム全体を見わたすと、会場の多くを占めるであろうプロ代理店の経営者は1人(ソフィアブレインの小坂学さん)しか登壇しません。
第2部は保険会社の未来戦略の本当のところを中崎ジャーナリストが引き出そうという企画ですし、第3部は「真の顧客本位とは何か」について深掘りするものです。

これまでのオープンセミナーでは、第2部または第3部にプロ代理店の経営者がずらっと登壇し、成功事例や工夫している取り組みを語っていただく。それを聴いた会場のプロ代理店の皆さんも話に納得し、安心して帰る、というパターンが多かったように思います(あくまで個人的な見解です)。
しかし、20回目の節目を迎えた今回は、いろいろと検討した結果だとは思いますが、そのような予定調和的な企画ではない、ある意味挑戦的(挑発的?)なプログラムのようです。

「代理店が主役ではないのか?」「上から目線?」そんなお叱りもあるかもしれませんが、保険流通に関わる皆さんは、6月にぜひ横浜にお越しいただき、RINGの会の挑戦を正面から受け止めていただければと思います。

↓お申し込みはこちらから↓
RINGの会 オープンセミナー

 

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ジャストインケースの挑戦

インシュアランス生保版(2018年2月号第4週)に寄稿したコラムをご紹介します。
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保険とテクノロジーの融合である「インシュアテック」という言葉は、日本の保険業界でも広く知られるようになった。
ところが、日本のインシュアテックは海外より数年遅れているという識者の声をしばしば耳にする。確かに「A社が健康増進活動の成果を保険料等に反映する新しい商品を開発」「大手損保グループB社が米シリコンバレーに拠点を置き、インシュアテックを推進」など、大手保険グループによる取り組みが活発化する一方、「トロブ」「レモネード」といったスタートアップ企業が次々に台頭する海外に比べると、既存の保険ビジネスに破壊的創造をもたらす存在となるスタートアップの動きは目立たない。

そのようななかで、少額短期保険の枠組みを活用したインシュアテックサービスの提供を目指すスタートアップ企業が現れた。
ジャストインケース(justInCase)社はアクチュアリーやデータサイエンティストなど専門技術を持つメンバーが立ち上げた会社で、ウェブサイトをのぞくと、「アプリで必要な補償を必要なときに気軽に選べる世界の実現を目指します」「よりオープンな新しい保険の仕組みのもとに、気軽に安心を得られる未来を作ります」などとある。

第1弾の「スマホ保険」はスマートフォンの画面割れ・水没・破損等の修理費用を補償するもの。AIを活用して事務処理を自動化するほか、スマホ利用の安全度合いをAIが判定して更新時の保険料に反映したり、友達プール機能により不正請求を防いだりと、詳細は不明だが、随所に最新技術を取り入れ保険料の最適化を実現するそうだ(2月1日現在、少額短期保険業者の登録準備中)。
スマホ修理費用の補償としては、アップルケアや携帯会社が提供するサービスのほか、「モバイル保険」を販売する少額短期保険会社が登場しているとはいえ、大手が参入していないニッチ分野と言える。

保険としてだけとらえると、果たして数万円単位の損失に毎月保険料を支払って備える必要性があるのかという見方もできる。しかし、インシュアテックによってスマホユーザーに新たな価値を提供できるかもしれないし、そもそも同社がスマホ保険の専門会社としての成長を目指しているとは考えにくく、ニッチ分野で培った経験をもとに、ニッチではない分野への進出を図っていくのだろう。

同社が少額短期保険の枠組みを活用するというのも興味深い。少額短期保険制度はもともと根拠法のない共済の受け皿として創設されたという経緯があり、通常の保険会社に比べると設立のハードルは低い。既存の生損保が手掛けてこなかったユニークな商品提供のほか、顧客基盤を持つ異業種からの新規参入も目立っていたが、同社のように新しいビジネスモデルのいわば実験場として少額短期保険を活用するというのは、うまくすると日本のインシュアテックの一つのモデルケースとなるかもしれない。
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※写真は大倉山記念館です。内部はこんな感じ。ロケ地としても時々使われているみたいです。

 

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損害保険統計号から(inswatchに掲載)

直近のinswatch Vol.915(2018.2.12)に執筆した記事のご紹介です。
他の記事では、小林俊幸さん(イーアライアンス/イーブレイン)の「ライフプランって良い結果ばかりじゃないでしょ!?」が印象に残りました。

損害保険統計号から

最新版の「インシュアランス損害保険統計号」(保険研究所)が手元に届きました。昨年度のデータなので、もう少し早く刊行されるとありがたいのですが、業界分析にあたり、個社の財務データを横比較で把握できるなど、生命保険統計号とともに重宝しています。
今回はこの統計号を使い、日本の損保業界の姿を探ってみましょう。

3メガ損保の高シェアは不動

直近の統計号には元受会社として28社が掲載されていました。非掲載のチューリッヒを含め、改めて市場シェアを確認すると、3メガ損保グループに所属する会社が元受保険料の85%前後を押さえているとわかりました。これは10年前とほぼ変わらない水準です。
これに対し、外資系の元受シェアは1割弱で、10年前に比べるとやや下がり気味です。ダイレクト保険のシェアが年々高まっているとはいえ、今やダイレクト保険9社(セゾンを含めると10社)のうち、外資系は3社のみ。この分野でも3メガ損保グループが目立ちます。

自動車保険に限ると、昨年度は2ケタ成長を果たした会社が4社ありました(朝日火災、セゾン、SBI、イーデザイン)。
このうちSBIとイーデザインはダイレクト自動車保険の新興勢力、セゾンは数年前からSOMPOグループの通販会社として、やはりダイレクト自動車保険で業績を伸ばしています。
もう1社の朝日火災は近年、長期分割払い契約が可能な自動車保険を、比較推奨型代理店などに向けて投入し、急成長しています。

代理店手数料率は強含み

次に、事業費内訳表に「代理店手数料等」という項目がありますので、こちらを確認してみましょう。

決算発表で公表される「諸手数料及び集金費」には出再または受再に係る手数料が含まれています。このため、出再の多い会社では事業費が小さくなる傾向があります(出再手数料は出再先から受け取るものなので)。
例えば、昨年度のAIU(現AIG)の諸手数料及び集金費は207億円のマイナスでした。当然ながら同社の代理店手数料がマイナスということはありません。AIUは元受保険料の7割以上を出再していたため、受け取る手数料が752億円に上り、事業費を吸収していました(ただし、出再により正味の付加保険料も小さくなります)。

元受保険料に対する代理店手数料(直販社員の募集費を含む)の割合は、大手の場合、16~17%となっています。10年前と比べると、おそらく代理店の皆さんの実感とは異なり、むしろやや高まっているようです。手数料率の低い代理店が減ったことが一因と考えられます。

負の遺産も存在

1年契約が中心とはいえ、損保会社の負債の多くは責任準備金です。このうち、実質的には支払余力として考慮すべき異常危険準備金を除いた「普通責任準備金」のなかには、未経過保険料のほか、会社によっては今でも生保のような長期の円金利負債(払戻積立金)を抱えています。

元受28社のうち、昨年度末時点で普通責任準備金に占める払戻積立金のウエートが4割以上の会社は、東京海上日動(43%)、損保ジャパン日本興亜(42%)、三井住友海上(46%)、共栄火災(45%)、朝日火災(79%)の5社でした。
大手3社の払戻積立金の大半は、1990年代前半に販売した年金払積立傷害保険と考えられます。高金利時代に提供したものなので予定利率(保証利率)が高く、大手損保のいわば負の遺産となっています(加入者にとってはお宝契約ですね)。
中堅2社については、それぞれのビジネスモデルと関係がありそうです。

なお、長期契約といえば、2015年上半期に駆け込み販売があった長期火災保険を思い起こします。前年の統計号をざっと見たところ、責任準備金が増えたとはいえ、貯蓄性の強い商品ではないため、規模としては限られているようです。
ただし、最長36年契約でしたので、提供した損保会社は数十年先までの自然災害リスクを抱えていることになります。仮に風水災害のリスクが高まっていった場合には、どこかの時点で負債を再評価(=損失を計上)しなければなりません。
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※沖縄に「赤道」という地名があるのですね(「あかみち」です)。下の写真も沖縄ならでは。

 

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日経プラス10に出演

先週(19日の夜)、BSジャパンの報道番組「日経プラス10」にゲスト出演しました。

この番組は、「BSジャパンが日本経済新聞社や日経BP社など日経グループ各社及びテレビ東京と総力を挙げて作る本格的な報道番組(番組概要より)」ということで、小谷真生子キャスターの投げかけに対し、日経新聞の編集委員やゲストスピーカーが解説するというスタイルでした。

私が出演したのは、「人生100年時代 長寿化で保険料はどうなる?」というトークコーナーで、4月からの標準生命表の改定とその影響について解説しました。

標準生命表についてはこちら(昨年8月のブログ)でも書きましたが、当日も、

・あくまで責任準備金の基礎率だが、各社の保険料に影響がある
・影響の表れかたが商品の種類により異なる
・4月からの新契約が対象で、既契約の保険料には影響しない

といったことを、いかにわかりやすく説明するかに腐心しました。
いかがでしたでしょうか。

死亡率と保険料の話をさんざん説明したあとで、「高齢化が進むと死亡する人が増えるので、生命保険会社の経営は厳しくなるのでは?」という質問が出て、ズッコケた人が多かったかもしれません。

実のところ、あれは事前の打合せにはなかった質問でして、「だったら責任準備金なんて必要ないでしょ、何を聞いていたんですか」という話ではあるのですが、案外そのように考えている視聴者も多いのかもしれないので、そう考えると、いい質問だったのでしょうね。

鈴木編集委員がそう考えてあえて質問したのかどうかは未確認ですが、確かに、生保関連の書籍などでも、保険料収入と保険金等支払の差額がマイナスだと危ないとか、損益計算書で責任準備金の戻入が続く会社は不安だとか、生保の仕組みを理解していない記述をたまに見かけますので。

いずれにしても、おそらく今後続々と発表されるであろう、各社の商品戦略に注目したいです。

 

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政策保有株式の削減

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直近のinswatch(2017.12.11)に寄稿しましたので、ご紹介します。
今回は政策保有株式について書きました。

他にも「人工知能と保険ビジネス」「1000年企業の作り方」などの記事が出ていますね。ご関心のあるかたはこちら ⇒ inswatchのサイトへ

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 政策保有株式の削減

◇自然災害の影響で業績予想を下方修正
北米ハリケーンなど国内外の自然災害の影響等により、3メガ損保は2017年度4-9月期決算発表時にいずれも2017年度の業績予想を下方修正しました。
今年度の自然災害による保険金支払額は、東日本大震災やタイ大洪水が発生した2011年度以来の規模となりそうです。

<3メガ損保の自然災害発生保険金(各社発表ベース)>
 東京海上HD 982億円(国内251億円、海外731億円)
 MS&AD HD 1122億円(国内248億円、海外874億円)
 SOMPO HD 962億円(国内256億円、海外706億円)

ただし、これほどの発生保険金にもかかわらず、下方修正後の利益水準が堅調なのは、好調な国内損保事業(自然災害を除く)に加え、政策保有株式の売却益が結果的に利益を下支えしていることも挙げられます。

◇ガバナンス改革と政策保有株式
政策保有株式の削減は損保業界固有の話ではありません。近年、取り組みが加速しているコーポレートガバナンス改革では、日本企業の政策保有株式に厳しい視線が注がれています。
例えば、東京証券取引所は2015年にコーポレートガバナンス・コードを制定し、上場会社の行動原則を示していますが、そのなかには政策保有株式に関する原則もあり、政策保有株式を持つ会社に対し、その方針を開示し、保有の狙いや合理性を説明するよう求めています。

純粋な投資行動ではない政策保有の場合、資本効率が下がる(=ROEを押し下げる)のが一般的ですし、議決権が適切に行使されず、株主という立場からの監視機能が形骸化することにもつながります。
しかし、そのような状況にもかかわらず、事業法人では政策保有株式の縮減が必ずしも進んでいない模様です。

◇損保や大手銀行はなぜ売却を進めているのか
他方、3メガ損保や大手銀行の政策保有株式は、足元では依然として高水準とはいえ、具体的な削減計画を公表し、実際に売却が進んでいます。
例えば、東京海上ホールディングスの2017年9月末の簿価ベースで見た政策保有株式の残高は、2003年度末の41%まで減っていますし、SOMPOホールディングスでも、2001年3月末の40%の水準です。

3メガ損保が政策保有株式の売却を進めているのは、ガバナンス改革の観点からというよりは、株価変動リスクを抱えすぎているという認識に基づいたリスク管理の面から、あるいは企業価値向上を目指したERMの観点からという側面が強いのではないかと思います。

なお、大手生保も多額の株式を保有していますが、その大半は政策保有ではなく、純投資という位置付けです。一般勘定で多額の株式を保有する合理性があるとは考えにくいのですが...

※写真は地元・大倉山駅前のツリーです。

 

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