15. 執筆・講演等のご案内

自己規律の活用

保険業界向けメールマガジン「inswatch」の直近号(Vol.941 2018.08.13)に寄稿しましたのでご紹介します。購読のお申し込みはこちらまで。

保険加入で健康増進

契約時に健康診断の結果を提出すると保険料が安くなったり、がん検診の受診や運動習慣などの健康増進活動で獲得したポイントが翌年の保険料に反映されたりする「健康増進型保険」が登場しています。
生命保険の販売では潜在的な加入者ニーズを掘り起こす必要があり、万一のリスクを強調する「脅し」のようなセールスも多いように思います。これが健康増進型の保険だと、「保険加入をきっかけに、健康になって長生きしましょう」という前向きな提案ができそうです。

健診も運動習慣も改善の余地は大きいが・・・

厚生労働省の国民生活基礎調査(直近は2016年)によると、20歳以上の男女のうち、3人に1人が健康診断を受けていないことがわかりました。特に女性の受診率は低く、30代女性の受診率は56%です。
運動習慣についても確認すると、厚生労働省の国民健康・栄養調査(同)では、運動習慣のある人(1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上続けていると回答した人)は20歳以上男女のうち30%強にすぎません。しかも、この10年間でみると、男性(2016年の「運動習慣あり」が35%)は概ね横ばい、女性(同27%)はなんと低下傾向です。

このような現状を踏まえると、健診を受けたり運動習慣をつけたりするには何かのきっかけがほしいところなので、保険加入を通じて保険会社が健康増進活動を促すことには社会的意義があると言えそうです。
ただし、いくら社会的意義があるとはいえ、「健康増進は自らの話であって、それを保険会社に強制されるなんて」と抵抗を感じる人もそれなりに存在するのではないかと思います。

規制でも自己規律を活用

実は、こうした商品を提供する保険会社に対しても、似たような話があります。
ここ数年、保険会社の中期経営計画などで「ERM」という言葉を目にする機会があると思います。ERMはリスク管理の進化形で、例えば東京海上では「リスクベース経営(ERM)」、MS&ADでは「ERM経営」、SOMPOでは「戦略的リスク経営(ERM)」という用語を使っていますが、ディフェンス重視のリスク管理ではなく、企業価値の持続的な拡大を目指す枠組みという点で共通しています。

この、各社によるERMの取り組みに保険行政が着目し、健全性規制の一環として活用する動きがあります。「ORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)」という規制がそれで、保険会社が自らのERMの現状を毎年レポートにまとめて金融庁に提出し、レポートを受け取った金融庁は対話を通じて各社のERMの高度化を促すというものです。

企業価値の拡大を目指す経営の取り組みに、どうして監督当局が口をはさむのかという声があるかもしれません。しかし、金融庁にかぎらず、監督当局はソルベンシー・マージン比率のような資本要件だけで保険会社の健全性を確保することはできないという考えが国際的な潮流となっていて、各国の当局がこうした自己規律を活用した規制を導入しています。

メリットとともに副作用にも留意

リスクマネジメントにおいて、保険はリスクが顕在化した際の備えとして機能しています。これに対し、リスクそのものを小さくしようというのがロスプリベンションで、先ほどの事例では保険会社による健康増進活動のサポートだったり、金融庁によるERM高度化の促進だったりします。
こうした予防活動がリスクマネジメントにとって重要なのは確かですが、本来は自律的に行うべきことを第三者が促すとなると、いわば「自己規律の強制」がもたらす副作用の可能性にも目を配る必要がありそうです。

ご参考ですが、9月3日(月)の夕方に損保総研の特別講座「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」で講師を務めます。先に述べたような自己規律を活用した健全性規制の話もしますので、ご関心のあるかたはぜひご参加ください。
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あくまで自分の健康増進や企業価値の維持・拡大が重要なのであって、保険料割引や特典獲得、監督当局からの高評価が目的となってしまっては本末転倒ということかと思います。

※暑い日はカレー料理がいいですね。

 

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健全性規制の背景と方向性

最近、日本における保険会社の健全性規制を振り返る機会がありました。

保険会社に対する規制というと、1995年の保険業法改正の前後で対比されることが多いように思います。確かにそれ以前のいわゆる「護送船団」行政に比べると、業法改正後は規制緩和が段階的に進み、保険商品や料率、販売チャネル、さらには保険会社のビジネスモデルも多様になりました。
しかし、健全性規制に注目すると、業法改正で整備が進んだというよりは、護送船団時代の不備が明らかになるなかで、リスクベースの新たな規制を導入しても十分機能せず、自己規律の活用という新たな取り組みも含め、今でも試行錯誤が続いているということなのでしょう。さらに、銀行規制や国際的な保険規制の影響も受けていますので、銀行の健全性規制に比べると、はるかに理解が難しいのではないかと思います。

ですから、過去の経緯や当時の背景を知らないと、「どうしてフィールドテストが続くのか」「ウチの会社のERMに当局がいろいろコメントしてくるのはなぜか」といった疑問を感じつつも、ルーティンワークとなった(あるいは、なりつつある)業務をこなすだけになってしまい、しんどいのではないでしょうか。

そのようなことを考えつつ、損保総研の講演をお受けしました。9月3日(月)の夕方に、「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」というテーマでスピーチを行います。
損保総研は以前からオープンな姿勢をとっていて、私のような業界の外の人間にもありがたい存在です。損保総研の図書館は誰でも使えますし、この講演も損保業界限定ではなく、どなたでもエントリーできますので、ぜひご参加ください。

それにしても、リーマンショックから10年、日本の生保危機からだと約20年です。早いですね。

※海外の写真みたいですが、実は東京・代々木上原にある建物です。

 

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生保ディスクロージャーの停滞

インシュアランス生保版(2018年7月号第2週)に寄稿したコラムをご紹介します
(見出しを付けてみました)。
情報を何でもどんどん出してほしいというクレクレタコラ(わかりますか?)ではなく、重要な経営リスクに関する情報を開示してほしいと言っているつもりです。

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近年の生保決算をみて感じるのは、経営情報開示の停滞である。
上場生保にかぎれば、投資家・アナリストに向けて経営情報を積極的に示そうという姿勢がうかがえるものの、生保業界全体としては、近年の状況変化を踏まえると、むしろ後退していると言ってもいいだろう。銀行と違い、内外の健全性規制が「検討中」のまま進んでいないことも、残念ながら停滞の一因となっているのかもしれない。

外貨建保険はどれだけ売れたのか

例えば、このところ外貨建保険の存在感が高まりつつあり、大手生保でも取り扱うようになっている。ところが決算情報では、一部の会社が断片的に販売状況を示しているだけで、新契約は円貨建ても外貨建ても一括りのままであるし、責任準備金がいくらに達しているのかといった情報もない。
特に後者は深刻で、外貨建て資産を増やした会社があったとして、外貨建て負債の増加に対応したヘッジ目的の投資と、運用収益を高めようとするための投資では意味がまるで違うのだが、外部からは判断できない。

有価証券の残存期間別残高の開示状況も利用者を軽んじていると言わざるを得ない。主要生保の国内公社債の6割以上が「10年超」となって久しいにもかかわらず、10年までの区分を5つに分けて細かく示す一方、10年超は何年たっても一括りのままだ。
もちろん、負債のキャッシュフローの開示がないなかで、資産だけ見てもしかたがないという声はありそうだが、そうは言っても各社のALM(資産と負債の総合管理)のスタンスをつかむうえで、公社債の保有状況はかなり参考になる(だからこそ残存期間別残高を開示しているのだろう)。上場生保の一部ではより細分化した保有状況を示しているところもあり、他社も見習ってほしい。

マイナス金利政策の影響はどうなったか

さらに、日銀のマイナス金利政策で一段と明らかになったのは、金利感応度に関する情報が足りないことである。
超低金利になってもソルベンシーマージン比率が高水準を維持し、基礎利益が堅調に推移しているのは、これらの指標が金利低下による生保経営への影響を適切に反映していないためであり、実態としては超低金利が企業価値に及ぼした影響は非常に大きい。だからこそ、各社はここ数年、劣後債務の発行までして支払余力の増強に努めているのである。

金利変動の影響をどの程度受けるかを知る手掛かりとして有益な指標に、上場会社と大手相互会社2社が開示するEV(エンベディッド・バリュー)がある。長期にわたり保障を提供する日本の生保事業は総じて金利変動の影響を受けやすいため、EVのような、資産と負債をあわせたベースでの金利感応度を知る手掛かりとなる指標の開示は不可欠だ。

投資家にとって重要な情報は、契約者をはじめとする投資家以外の外部ステークホルダーにとっても重要であることが多い。顧客の利益を第一に考えるのであれば、今のままではおかしいだろう。
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※写真は築地市場です。

 

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保険ビジネスはどこに向かうのか

3月のブログでご案内したとおり、20回目を迎えたRINGの会オープンセミナー・第1部に登壇し、コーディネーターを務めました。
パネリストの窪田泰彦さん(ほけんの窓口グループの会長兼社長)、横山隆美さん(AIGグループ損保の元経営者)、野元敏明さん(日本損害保険代理業協会の専務理事)には、それぞれのご経験を踏まえ、プロ代理店や保険会社に対して踏み込んだコメントをしていただき、ありがたかったです。

論客ぞろい

パネルディスカッションのコーディネーターにもいろいろなスタイルがあり、司会に徹することもあれば、パネリストと同じくらい話をすることもあります。
ただ、私がコーディネーターをお引き受けする場合、なぜか論客ぞろいのことが多いので、場をつなぐなんてことを考えなくてもいい半面、いかにパネリストから会場の皆さんが聴きたいことを引き出すかに腐心することになります
(そうでないと時間がいくらあっても足りないでしょうね^^)。

ということで、今回のセミナーでは「顧客」「保険会社」「行政」「代理店経営」について議論を行いましたが、パネリストの皆さんそれぞれに持ち味があり、事前の打合せでも、代理店経営者や保険会社に伝えたい内容がいくつも出てきました。
私も時間があれば、保険会社の経営姿勢や保険行政の考え方などを伝えたかったところですが、やはりというか、当日は時間があっという間にたってしまい、なんとか数分遅れで終了ということになりました。
とはいえ、このディスカッションが参加者の皆さんにとって、いろいろと考えるきっかけになれば幸いです。

保険ビジネスはどこに向かうのか

セミナー全般から感じたのは、保険流通の変化はむしろこれから本格化するということです。
確かにこの20年間にはいろいろなことがありましたが、第1部で申し上げたとおり、マクロ的に見れば、保険会社ほど保険代理店は変わっていないように見えますし、かつ、それでもやってこれたということなのでしょう。いわば「オオカミ少年」のような状況でしょうか。

午後2番目のパネルディスカッションで、コーディネーターがパネリスト3名に現状認識(キーワード)を問いかけたところ、ぜんち共済(障がい者向け保険)の榎本社長が「多様性」、ジャストインケース(スマホ完結の保険)の畑社長が「デジタル化」と答えたのに対し、プロ代理店のソフィアブレイン小坂社長の回答は「消耗戦」でした。
おそらく小坂さんが消耗戦で疲弊しているというのではなく、むしろ「保険の枠を超える」と話しているくらいですから、10年後に向けて着実に進んでいる代理店なのだと思いますが、この対比は何とも印象的でした。

 

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生保リテール戦略

6月18日号の週刊金融財政事情は「人生100年時代の生保リテール戦略」という特集でして、大手生保4社の商品開発責任者が自社の健康増進型保険や関連サービスについて語り、インシュアテックの第一人者である弁護士の増島雅和さんが寄稿しています
(そのあとの「規制のサンドボックス」でもPolicyPalが紹介されていますね)。

私も「超低金利と技術革新が迫るチャネル戦略の再構築」というタイトルで執筆しましたので、機会がありましたらどうぞご覧ください。

ちなみに本稿の図表として、「専属チャネルと乗合チャネルの違い」を出してみましたが、いかがでしょうか。

【専属チャネル(営業職員など)】
・高価格だが(保険会社いわく)充実した特定会社の保障をパッケージで提供
・信頼できる相手から話を聞いて買いたい(=受け身的)
・既契約市場(重ね売りや紹介など)
・乗合チャネルに比べれば商品開発・価格競争は緩やか
・営業職員の大量採用・大量脱落構造あり

【乗合チャネル(保険ショップなど)】
・保険会社から独立した立場から、シンプルで低価格(に見える)複数会社の商品を提供
・比べて買いたい(=自発的)
・イメージとしては都市部の20~40代
・商品開発・価格競争が激しい
・比較推奨販売に関する規制対応が重要

ところで、本誌を読み進めていくと、人気コーナー(?)「支店長室のウラオモテ」にこんな記述が…

「(ネット銀行で住宅ローンを)申し込まれるお客さまは、損得だけのシビアな判断をされる浮気性の方々。多くのお客さまは、一生の買い物だから返済に困ったときに銀行の担当者と会って相談できるかどうかを心配されている」

「浮気性の方々」とはしびれる表現ですが、「旧世界」の本音と不安を感じます。年間4万2000円の差額を乗り越えることのできる人間力はすごいと思いつつ、技術革新が進み、情報格差も解消していくなかで、いつの間にか「浮気性の方々」が増えていくような気もします。

 

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なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

23日に横浜で開催されるRINGの会オープンセミナーは「満員御礼」だそうです。私は第1部のコーディネーターを務めますので、パネリストの興味深い話が引き出せるよう、準備を進めているところです。
さて、週の途中ですが、直近のinswatch Vol.932(2018.6.11)に寄稿しましたので、ご紹介しましょう。

なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

3メガ損保や上場生保では、決算発表後の5月下旬に投資家・アナリスト向けの経営説明会を開いています。決算結果の説明だけではなく、経営トップ自らが今後の経営戦略を伝える機会となっていて、業界関係者にも役に立ちそうです。

各社の説明資料はこちらで入手できます。
 東京海上 
 MS&AD 
 SOMPO 

新中計で「ポートフォリオ変革」を掲げる

3メガ損保グループのうち、東京海上とMS&ADでは今年度から新たな中期経営計画がはじまり、今回の説明会でも中心テーマとなりました。
東京海上グループの重点課題には、「ポートフォリオの更なる分散」「事業構造改革(=販売チャネルの変革・強化など)」「グループ一体経営の強化」の3つが挙げられています。また、MS&ADグループの重点戦略は、「グループ総合力の発揮」「デジタライゼーションの推進」「ポートフォリオ変革」の3つです。
両グループとも業界再編や大規模買収により今の姿になったので、グループベースでの経営を強めようというのは自然な流れでしょう。その一方で、いずれも自らの「ポートフォリオ」、すなわち、収益・リスク構造のバランスをさらに変えようとしているのはどうしてなのでしょうか。

リスクポートフォリオの偏り

ヒントは各グループが開示している「リスク量の内訳」にあります。
保険会社では自らが抱える経営リスクを、例えば200年に1回の確率で発生しうる損失額などとして金額に置き換え、健全性の確保や資本効率の向上に活用しています。
東京海上の資料によると、リスク量として最も大きいのは「国内損保(資産運用)」で、全体の3割強を占めています。MS&ADでも国内損保の資産運用リスクがグループのリスクポートフォリオの3割強となっていますし、SOMPOでは自然災害リスクを抑えているためか、国内損保の資産運用リスクが5割弱に達しています(いずれも2017年度末)。地震や台風といった自然災害リスクを抱える損保グループで最も大きい経営リスクが資産運用のリスクというのは、考えてみれば不思議な話です。
言うまでもないかもしれませんが、国内損保の資産運用リスクの多くは、営業目的などで保有する国内株式によるものです。

海外事業拡大が本質ではない

中長期的な投資家の目線からすると、自然災害リスクは保険事業の収益の源泉であり、保険引受リスクのコントロールに強みがあると考えているからこそ、保険会社に投資します。
近年の国内勢による積極的な海外保険会社の買収には、日本に偏った事業ポートフォリオを分散するという意味もあると思います。もっとも、保険引受リスクの分散であれば再保険でも対応可能なので、海外M&Aをしなければ投資家がいい評価をしないというものではありません。
各グループともに事業ポートフォリオの分散を掲げ、海外事業の拡大を図るとしていますが、グローバル経営による成長を目指したいという経営者の判断によるものなのでしょう。

ところが、最大の経営リスクが国内株式保有によるものという現状を踏まえると、損保グループの経営者は、保険引受事業よりも日本株の保有のほうが高いリターンを安定的に上げられると考え、資本を最も多く使っていることになります。
ただし、株式投資に何か特別な強みを持っているのでなければ、投資家としては自分で株式投資を行ったほうが、少なくとも税金の分だけ有利なはずです。「特別な強み」など存在するのでしょうか。

政策株式保有を正当化するのは難しい

損保が保有するのは、いわゆる政策保有株式なので、株式を保有することで大企業から保険料を得ている面があります。しかし、かつての規制料率時代とは違い、コマーシャル分野は収入保険料を確保すれば利益が得られるという事業ではなくなりました。もはや株式投資における「特別な強み」とは言えません。
例えば、MS&ADは政策株式のROR(リスク対比リターン)を7~8%程度と示していますが、これは保険引受利益と配当をリターンとしたものだそうです。株価の変動を考えると、安定的に7~8%のリターンを上げられるものではありません。
損保グループの経営者もこうした状況を十分理解しているからこそ、中期経営計画の3本柱の一つに「ポートフォリオの変革」を掲げ、実行しようとしているのでしょう。

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inswatchは保険流通業界向けのメールマガジンです。
私は2か月に1度のペースで寄稿しています。

※久しぶりに札幌スープカリーを食べました。

 

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いつまで「社長が社長を選ぶ」なのか

インシュアランス生保版(2018年4月号第4週)にコラムが載りましたので、こちらでもご紹介します。
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2月22日付の本紙(生保版)に、日本生命の社長交代に関する記者会見の記事があり、そこに次の記述があった。

「昨今のコーポレートガバナンスの高まりを受けて社外取締役委員会を設け指名機能を持たせている。昨年9月から重視するトップの要件、それに照らした複数の候補者をあげて審議し、清水君を取締役会に推挙することにした」(筒井社長のコメント)。

今年度も保険会社をはじめ、多くの会社で新社長が誕生する。しかし、報道される社長交代ニュースの多くは、現社長が次期社長を選んだというトーンのものが大半を占める。引用した日本生命の事例でも、私が確認したかぎり、前述のような社長選任プロセスを報じたのは業界紙だけである。
日本企業の社長は社内からの登用が多く、現社長が候補者の情報を多く持っているのは確かであろう。しかし、社長やそのOBが社内で力を持ち続ける日本の会社の統治構造が問題視され、社長選任の透明性を求めるコーポレートガバナンス改革が進んでいるなかで、社長が社長を選ぶのを当然視したかのような報道をおかしいと感じないのだろうか。

実際のところ、社長選任プロセスの透明性向上は道半ばである。
ガバナンス改革の一環として2015年に策定されたコーポレートガバナンス・コードには、「取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである」という原則がある(補充原則4-3①)。上場企業による実施率は、すでに昨年7月時点で98%となっている。

ところが、経済産業省が16年に上場会社(東証第一部・第二部)を対象に行ったアンケート調査によると、次期社長・CEOの選定プロセスに関し、「複数の候補者を選定し、そこから絞り込む」という回答は12%のみ。他方で「特に決まっていない」「わからない」という回答が合わせて43%もあった。また、指名委員会(任意のものを含む)を設置していると回答した会社は36%に達したものの、その委員会で社長・CEOの指名を諮問対象にしていないという回答が3割弱もあった。
形式面だけを整えても意味はないが、最近ガバナンス・コードの改訂案が示され、新たに「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである」(補充原則4-3②)が加わったのも理解できる。

無能な社長を選んでしまえば、持続的な成長や中長期的な企業価値の向上は期待できない。元アナリストのデービッド・アトキンソン氏も近著「新・生産性立国論」のなかで、日本に求められているのは、働き方改革よりも経営者改革だと主張する。マスメディアは旧態然とした報道姿勢から脱却し、これ以上、無能な経営者を喜ばせないでほしい。
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※今年はツツジの花も咲くのが早いですね。オフィスの近所のツツジはもう見ごろが過ぎてしまいました。

 

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inswatchへの寄稿など

いくつかの媒体に執筆した記事が載りましたので、まとめてご紹介しましょう。
まずは直近のinswatch Vol.923(2018.4.9)に執筆した記事をそのまま転載します。

金融庁と業界団体の意見交換会

中央官庁の情報開示姿勢が問題になっていますが、インターネットの普及とともに、かつてに比べれば官庁から公表される情報は格段に増え、かつ、入手しやすくなっているのは確かです。
昨年から公表されるようになった「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」をもとに、保険業界に対する金融庁の問題意識を探ってみましょう。

金融庁と業界団体との意見交換会とは

この意見交換会は金融庁幹部と業界団体(実質的には業界各社のトップ)が直接会って話をするというもので、10年ほど前から行われているようです。
大蔵省不祥事の後、官と民の交流を過度に避けるような風潮が広がってしまった反省から、このような会を開くようになったと理解しています。

論点の公表が始まった昨年1月以降、「生命保険協会」「日本損害保険協会」との意見交換会はそれぞれ6回ありました。ちなみに「主要行」は12回、「全国地方銀行協会(地銀協)」「第二地方銀行協会」はそれぞれ13回だったので、銀行がほぼ毎月開催だったのに対し、保険は2月に1回という頻度でした。
開催頻度と金融庁の問題意識の関係は定かではありませんが、参考までに「日本証券業協会」は9回開かれています。

主な論点

最近公表された2月の意見交換会の主な論点は次のとおりです(保険業界出席分のみ)。

・マネロン等に関するガイドラインの公表 ※銀行業界と共通
・ERMの取組み
・金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習 ※証券業界と共通
・検査・監督の見直し
・スチュワードシップ責任 ※生保のみ
・販売時の分かりやすい情報提供等 ※生保のみ
・「遺伝」情報の取扱い ※生保のみ

このうち「ERM」では、一部の生損保で地政学リスクやパンデミックなど定性的なリスクを網羅的に把握する取り組みが遅れているという指摘がありました。

「販売時の分かりやすい情報提供等」では、生命保険商品は特に複雑で、顧客との情報の非対称性に関する課題が多いという問題意識を示したうえで、

「特に、投信と類似の貯蓄性保険商品については、『運用』という同様の機能を提供する金融商品である以上、各種のリスクや、費用を除いた後の実質的なリターンなどについて、投信と同じレベルの情報提供・説明が求められる」

と、顧客に分かりやすい情報提供の工夫を求めています。
(なお、昨年12月の意見交換会では損保や乗合代理店の話も出ています)

金融庁の改革

「監督・検査の見直し」では、「検査マニュアルに書いてあるルールよりも良いやり方があれば、それを試みやすい環境を作りたい」「社内での議論に際し、一つひとつの問題を経営全体の中で考えやすい環境を作りたい」「金融庁の側においても、金融行政の根本目的に立ち返って考えることができる力をつけるようにしたい」と、新しい時代の金融行政を感じる記述が並んでいました。
もっとも、「金融庁の組織を変えたり、検査マニュアルをなくしたり、といっても、検査官がいなくなるわけでも、検査がなくなるわけでも、監督が甘くなるわけでもない」という記述も見られます。ここ数年、かつてのような立入検査が少ないため、仮に現場の規律が緩んでしまっているとしたら、要注意でしょう。(転載終わり)

次に、先日ご紹介したAERAの記事がサイトで読めるようになったので、こちらも張り付けておきましょう。
台風、豪雨、地震…自然災害「大型化」のいま、損保は破綻しない? 専門家が解説
保険会社、どう選ぶ? 知っておきたい三つの「指標」

もう一つ、先週の週刊金融財政事情(2018.4.9)の書評「一人一冊」で、大門正克さんの「語る歴史、聞く歴史」を取り上げています。岩波新書です。「オーラル・ヒストリーの現場から」という副題がついています(こちらはご紹介のみ)。

※写真はドンラム(DUONG LAM)村というところで、伝統的な農村集落として知られています。ハノイから車で1時間ちょっとです。

 

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AERAに寄稿しました

今週発売のAERA(アエラ)2018.4.9号に、生損保経営の現状と、経営を知る手掛かりとなる指標について書いた記事が掲載されています。タイトルは「気になる海外のリスク」ではありますが、そこだけ取り上げたものではありません。
生保の注目指標として、あえて「基礎利益」はスルーして、エンベディッド・バリューを載せてしまいました^ ^

この号は「保険料『値下げ』の衝撃」という保険特集です。雑誌の保険特集というと、プロがすすめる保険商品ランキングや保険ショップ関連の記事が目立つ印象がありますが、AERAの特集はちょっと毛色が違っていて面白かったです。
例えばこちらとか、こちらには破綻や再編、行政処分の歴史が出ていて、足もとの動きだけでなく、業界動向を過去からの大きな流れで捉えようとしています。

破綻前日に「明日、これが紙くずになると知っているけど、売れないよな」と語った経営幹部が旧T社(もし生保だとしたら非上場の旧K社ですね)に本当にいたのかなあとは思いましたが…

※今年は「花筏(はないかだ)」も楽しめました。先週末の江戸川公園です。

 

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20回目のオープンセミナー

保険代理店の情報交流組織であるRINGの会が主催する「RINGの会オープンセミナー」が今年で20回目を迎えます。
RINGの会 オープンセミナー

第1回のセミナーが開かれたのは1999年10月で、当時日本FP協会理事長だった牧野昇氏の基調講演の後、保険ジャーナリストの中崎章夫さんと石井秀樹さんをパネリストに迎えた「これからの保険業界」、RINGメンバーによるパネルディスカッション「勝ち残る代理店営業戦略は何か?」という構成だったようです。

1999年10月といえば、三井海上と日本火災、興亜火災の3社が将来の事業統合・再編を目指した包括提携を発表し、損保業界再編の口火が切られた時でした。その後、第1次再編、第2次再編を経て、現在のような3メガ損保グループが市場シェアの大半を占める状態となりました。
他方、生保では1999年6月に東邦生命の経営が破綻し、その後も中堅生保の経営破綻が相次ぐとともに、外資系・損保系生保の存在感が高まっていくことになります。

日本最大級の保険流通セミナーに成長

オープンセミナーに話を戻しますと、毎年1回のペースでセミナーが開かれ、近年はパシフィコ横浜の国立大ホールで1000人規模の保険流通関係者が集まる大イベントに成長しました。

私がオープンセミナーに関わるようになったのは2007年の第9回からで、途中からアドバイザーに就任したこともあって、これまでに5回登壇しています。
そして20回目の今回は、午前中のパネルディスカッション「自由化後20年 保険ビジネスはどこに向かうのか」のコーディネーターを務めることになりました。

パネリストは、生損保経営の経験があり、今は日本最大級の来店型代理店トップを務める窪田泰彦さん、長年にわたり外資系保険会社(AIGですね)の経営を担ってきた横山隆美さん、日本損害保険代理業協会の専務理事として10年近く保険代理店に寄り添ってきた野元敏明さんです。
いずれも保険業界を「よく知っている」皆さんですから、コーディネーターとしては、保険流通の現場ではなかなか聞くことのできない話をお届けできるのではないかと、自分でも楽しみにしています。

予定調和ではないプログラム

それはそうと、今回のプログラム全体を見わたすと、会場の多くを占めるであろうプロ代理店の経営者は1人(ソフィアブレインの小坂学さん)しか登壇しません。
第2部は保険会社の未来戦略の本当のところを中崎ジャーナリストが引き出そうという企画ですし、第3部は「真の顧客本位とは何か」について深掘りするものです。

これまでのオープンセミナーでは、第2部または第3部にプロ代理店の経営者がずらっと登壇し、成功事例や工夫している取り組みを語っていただく。それを聴いた会場のプロ代理店の皆さんも話に納得し、安心して帰る、というパターンが多かったように思います(あくまで個人的な見解です)。
しかし、20回目の節目を迎えた今回は、いろいろと検討した結果だとは思いますが、そのような予定調和的な企画ではない、ある意味挑戦的(挑発的?)なプログラムのようです。

「代理店が主役ではないのか?」「上から目線?」そんなお叱りもあるかもしれませんが、保険流通に関わる皆さんは、6月にぜひ横浜にお越しいただき、RINGの会の挑戦を正面から受け止めていただければと思います。

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※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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