inswatch Vol.989(2019.7.15)に寄稿したものです。
7月7日のブログの続きと言えるかもしれません。
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新たな健全性規制を懸念する声
金融庁が検討している新たな健全性規制について生保業界から、「規制の数値目標の達成を目指す行動が、顧客の期待に反するものになりかねない」「契約期間の長い終身保険などは販売の見直しにつながる可能性がある」など、新たな健全性規制の導入によって長期の保障が提供できなくなるという声が出ているようです(7月5日の日経新聞から引用)。
新規制が長期の生保商品に与える影響に関するコメントは私のブログをご覧いただくとして、規制導入への懸念を表明するほど保険会社は長期の保障を提供しているのでしょうか。
終身保険は主力商品と言えるか
長期保障の典型は終身保険です。過去10年間の個人保険の種類別新契約件数の推移を確認すると、終身保険は常に全体の2割前後を占め、医療保険とともに生保商品の主力であるように見えます。
2018年度の終身保険シェアは18%と、前年度から2ポイント下がりましたが、これは定期保険の販売が好調だったため(経営者向け保険でしょうか?)で、終身保険の新契約件数はほぼ横ばいでした。
しかし、このなかには主に銀行などで提供されている一時払いの終身保険が含まれています。各社の資料等からざくっと推測すると、全体の1/3~半分近くを占めると思われます。これらは終身保障ニーズへの対応というよりは、預金代替の貯蓄性商品として販売されていて、顧客はシニア層が多いとみられます。しかも、円金利の低下を受けて、一時払い終身保険の大半は外貨建てです。
残る終身保険についても、国内系生保の場合、主力商品の定期化(10年更新など)が一段と進んでいて、顧客に提供する保障パッケージのなかに、終身保険部分の保険金額は数十万円のみというケースも珍しくありません。例えば、ある大手生保の平均保険金額は51万円でした(2017年度の終身保険)。
個人年金保険も長期の保険ですが、終身の個人年金保険はあまり売れていないようです。
個人年金全体の新契約件数も縮小気味で、2018年度の個人年金保険の新契約100万件(外貨建てや変額年金を含む)は10年前の2/3、ピーク時の1/3です。
以上を踏まえると、外部環境(特に超低金利)の制約から、多くの会社はすでに長期の保障ニーズを満たすような生命保険・個人年金保険をあまり提供していない(特に円建てでは)というのが実態のようです。
終身医療保険への疑問
医療保険にも終身タイプが多いと考えられます。定期タイプを更新していくのと比べると、終身タイプは保険料が上がらないのがメリットと受け止められているようです。
こちらも終身保障ということで、金利低下の影響を受けるのは確かです。しかし、終身保険とはちがい、多くの会社が終身医療保険を提供し続けているのは、発生率の変動に備えた保守的な料率となっていることや、「解約返戻金がない」「保険料が終身払い」といったことなどが関係しています。
ただ、顧客本位に考えた場合、終身医療保険は本当にニーズにかなったものなのでしょうか。
死亡保険や個人年金とは違い、医療保険は時間がたつと技術革新などにより保障内容が陳腐化してしまいます(毎年新たな医療保険が次々に登場していますよね)。かつては主流だった入院時の保障を主眼とした終身医療保険に加入した人は、その後の変化(例えば入院日数の短期化など)に直面しても、変化によるメリットを享受するには、基本的に今の保険を解約して新たな医療保険に入り直すしかありません。
しかも、単品商品の大半が無配当なので、保守的な料率を設定した結果、発生した危険差益の還元を受けることもできません。
だいぶ前に疑問を呈したことがあるのですが、医療保険といえば終身医療保険というのは一見顧客ニーズを反映しているようで、実は会社にとって都合がいいものとなっているのではと考えてしまいます。
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※今年も慶大で講師を務めました。
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