15. 執筆・講演等のご案内

SMRからESRへ

6月末に金融庁が新たな健全性政策の暫定決定を公表していますので、今週のInswatch Vol.1148(2022.8.8)ではこちらを取り上げました。ブログでもご紹介いたします。
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SMRの機能不全

保険業界のかたであれば、ソルベンシー・マージン比率(SMR)という保険会社の健全性を示す指標をご存じだと思います。保険業法は保険会社に対し、通常の予測を超えるリスクに応じた支払余力(ソルベンシー・マージン)の確保を求めていて、比率が一定水準を下回ると監督当局が行政命令を出し、保険会社の健全性確保を図るというものです。
しかし、当局の介入基準である200%を直近時点まで上回っていた保険会社が相次いで経営破綻する事態となったことのほか、現行会計では責任準備金を取得原価で評価しており、結果としてSMRが金利水準の変動をうまく反映できていないことなどから、SMRの信頼性は必ずしも高いとは言えない状況です。おそらく皆さんも、1000%前後の数字がずらっと並ぶ各社のSMRをほとんど気にしていないのではないでしょうか。

SMRからESRへ

金融庁はこれまで何も手を打ってこなかったわけではありません。例えば2011年には、あくまで現行の枠組みのなかではありますが、SMRの厳格化を行っています。さらに、金利水準の変動をはじめ、保険会社の財務状況を的確に把握できるよう、金融庁は健全性指標を抜本的に見直す検討を続けてきました。検討に時間がかかったとはいえ、先月(6月)ついに新たな健全性指標の暫定基準を公表するに至りました。
新たな指標は「経済価値ベースのソルベンシー比率(ESR)」と言います。現行会計では負債の大半を占める責任準備金を取得原価で評価しているので、いったん獲得した責任準備金の評価は原則として動きません。これ対し、ESRでは資産も負債も経済価値ベース、簡単に言えば時価ベースで評価するというものなので、金融市場や発生率等の変動による影響をただちに反映することから、当局は健全性の低下した保険会社を早い段階で発見することができます。
特に、長期の負債を抱える生命保険会社にとって、ESRは現行のSMRとはかなり異なる健全性指標となります。損害保険会社もリスク計測の厳格化による影響を受けますので、暫定基準の公表には強い関心を持っているはずです。

すでに公表している会社も多い

もっとも、多くの大手保険会社は金融庁の動向をにらみつつ、すでに独自の基準でESRを計算し、自らのリスク管理に活用しているという実態があります(規制上のESRと区別するため、以下では「個社ESR」と記します)。個社ESRを外部に公表する会社も年々増えており、その動きは上場会社だけではなく、相互会社など非上場会社にも広がってきました。現在では、いわゆる協会長輪番会社が所属する7グループのうち、日本生命を除く6グループが個社ESRを公表しています。

公表されている個社ESRは規制上のESRではないので、各社がそれぞれ独自の基準で計算したものであり、単純に横比較することはできません。ただし、個社を見るにあたっては、参考になるところが多い指標です。
多くの場合、保険会社は個社ESRを基準の1つにしてリスクテイクや資本増強の判断をしています(個社ESRのターゲットレンジを示している会社もあります)。そのため、もし金融市場の変化によって個社ESRが下振れしたら、リスクテイクを抑える、資本増強を行うといったアクションが取られる可能性が高まるでしょう。また、ESRの分子である経済価値ベースの純資産は、現行会計上の純資産に比べると企業価値の評価に近いので、分子が着実に増えているかどうかにも注目です。
メディアの決算報道には取り上げられない個社ESRですが、保険業界人にとって必見の指標だと私は考えています。
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※オープンキャンパスが終わり、大学は夏休みモードです。

 

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最近のアウトプット

備忘録を兼ねて、最近のアウトプットをいくつかご紹介します。

1.「大手損保グループの2022年3月期決算分析」

昨年に続き『週刊金融財政事情』に損保グループの決算分析を寄稿しました。直近の号(2022年8月2日号)に掲載されています。「業績は総じて良好も、国内事業の立て直しは道半ば」という副題が付いています。
きんざいOnline(有料)

2.「保険会社の2021年度決算から」

こちらも決算分析で、7月29日の『Inswatch professional Report』に寄稿したものです。大手損保グループだけではなく、主要生命保険会社の決算概要にも触れています。
生保の図表のなかでESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)を載せているのですが、住友生命が公表しているのを最近まで知らなかったので、掲載がありません(IR資料に載っていました)。いまや主要生保9社のうち、ESRを公表していないのは日本生命と大樹生命、朝日生命の3社だけなのですね。
Inswatchの購読はこちらへどうぞ。

3.「コロナ自宅療養で“入院保険” 手続きはどうするの?

こちらは執筆ではなく、NHKオンラインの取材に応じたものです。コロナに感染したら、医療保険に加入しているかたはしっかり請求したほうがいいと思いますが、他方で民間医療保険の存在意義が問われているように思えてなりません。

4.「保険会社の情報開示とメディアの役割」

『保険学雑誌』の最新号(第657号、2022年6月)に論文が掲載されました。学会報告や関連記事の寄稿があったとはいえ、1年がかりでようやく論文を出すことができました。半年くらいたつと日本保険学会のサイトで閲覧できると思います。

以上です。

※写真は三池港(大牟田)です。

 

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自然災害と損保経営

今週のInswatch Vol.1144(2022.7.11)に記事を寄稿しました。こちらでもご紹介いたします。
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今年も台風の季節になりました。2018年度や19年度のような大規模な自然災害が発生しないことを願っています。

火災保険は赤字基調が続く

昨年度(21年度)の大手損害保険グループの決算は、自然災害関連の正味支払額が過去10年間で最も少ない水準だったこともあり、国内損保事業の修正利益(異常危険準備金の繰入・戻入などを調整した利益)はいずれも増益となりました。
もっとも、自然災害による支払いが少なかったにもかかわらず、火災保険のコンバインドレシオが100%を下回ったのは東京海上日動だけで、他の3社は引き続き100%を上回る水準でした。大手損害保険会社はこれまで少なくとも2回にわたり個人向け火災保険の料率引き上げを行いましたが、大規模な自然災害がなくても火災保険の収支はなお赤字基調ということで、さらなる対応が必要な状況です。
21年度の保険会社の決算分析については、今月末のプロフェッショナルレポートでもお伝えする予定です。

損保ビジネスは不安定なのか

ところで損害保険ビジネスは、自然災害に左右される不安定なものと思われがちです。過去の決算報道を見ても、大規模な自然災害が発生しなければ「好決算」、発生したら「厳しい決算」という扱いです。しかし、本当にそう考えるべきなのでしょうか。
保険会社は自然災害リスクを勘と度胸で引き受けているのではありません。工学的な知見に基づき、外部ベンダーまたは自社が開発したモデルを使った定量的なリスク評価を行い、再保険戦略を含めた引受方針を定めたうえで、自然災害リスクを引き受けています。気候変動の影響が懸念されるとはいえ、やみくもにリスクを引き受けているわけではありません。
ですから、自ら決めたリスクの引受方針次第で、同じ自然災害が発生しても正味支払額は違ってきます。例えば、過去最高の支払額となった18年度決算において、損保ジャパンでは自然災害に伴う元受保険金の約7割を再保険で回収したのに対し、東京海上日動では約3割の回収だったため、両社の支払額が元受ベースと正味ベースで逆転していました(東京海上の正味支払額が大きかった)。だからといって、東京海上日動がリスク管理に失敗したとは言えません。ここからわかるのは両社の保有・出再戦略が異なっていたというだけで、中長期的に見て、各社がリスクに応じた保険料(出再コストを含む)を獲得できているかを把握しなければ、各社のパフォーマンスを評価できません。

リスク情報の開示を

ただし、再保険に関して言えば、両社の保有・出再戦略にここまで違いがあるとわかったのは、たまたま18年度と19年度に大規模な自然災害が発生したからであって、それ以前の開示情報だけでは外部からはわかりませんでした。再保険に限らず、外部ステークホルダーにとって、リスク引受方針をはじめ、リスクに応じた保険料を獲得できているかをつかむための手掛かりは、まだまだ少ないのが現状です。
もし損害保険会社の経営陣が外部から正当に評価されたいと考えているのであれば、より踏み込んだリスク関連情報の開示が必要だと思います。
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※写真は三角西港です。明治時代の港がそのまま残っています。

 

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地下鉄サリン事件とリスクマネジメント

RINGの会オープンセミナーはいよいよ今週末です。withコロナにも慣れ、何となく業務は回っているものの、インプット不足に陥ってはいませんか、保険会社の皆さん。
アンケートによると、保険会社(営業担当社員)と代理店の意識ギャップがはっきり表れていますよ。

さて、今週のInswatch Vol.1140(2022.6.13)に寄稿した記事をこちらでもご紹介します。
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聖路加国際病院の奮闘

大学の授業(ゼミ)で、地下鉄サリン事件で多くの命を救った聖路加国際病院のドキュメンタリー番組を観ました(NHKのプロジェクトXです)。
あれからもう27年にもなります。当然ながら学生たちが生まれる前の出来事ですし、もしかしたら本誌の読者にも事件をご存じないかたがいるかもしれませんね。

1995年3月20日、朝の通勤ラッシュで混み合う東京の地下鉄車内に猛毒の化学兵器・サリンが撒かれ、乗客・地下鉄職員13人がサリン中毒で亡くなるという前代未聞のテロ事件が発生しました。私も危うく巻き込まれそうになりました。
事件発生後、聖路加国際病院の救急センターには600人以上が来院し、心肺停止の患者も次々に運ばれてきました。地域の拠点病院であっても、一度に600人以上もの患者が押し寄せることはありません。しかし、日野原院長(当時)は患者を全員受け入れるとスタッフに伝え、スタッフはトリアージで患者を症状ごとに分け、場所を確保するため、病院の礼拝堂も病室に転用しました。

他方、原因が特定できないなかで、重症患者の容体は悪化していきます。副作用のある解毒剤「PAM」を使うべきかどうかを悩む現場のリーダー。そこに、前年に松本市で起きたサリン事件で治療を行った医師からの情報が入り、解毒剤の投与を決断。結果的に多くの患者の命が助かりました。

リスクマネジメントが機能するには

番組を観た後、学生たちに「なぜ聖路加国際病院では多くの患者を受け入れることができて、犠牲者を最小限に抑えることができたのか」を挙げてもらいました。

<学生からの回答例>
・院長が災害時に役に立つような病院を建てていた
・礼拝堂を病室として使えるように設計していた
・院長がいち早く「患者を全員受け入れる」「外来は休む」と決断した
・医師たちが他の病院で起きた経験を研究していた
・他の病院との情報ネットワークがあった
・救急センター以外のスタッフも救命治療を学ぶなど緊急体制があった
・スタッフ一人一人が自ら率先して行動した
・スタッフどうしが助け合う雰囲気があった

これらを見ると、リスクマネジメント(あるいは危機管理)がうまく機能するのに不可欠な3つのことが浮かび上がってきます。「リーダーの決断」「事前の体制整備(ハード&ソフト)」「リスクカルチャー」です。
リーダーに決断力があり、スタッフの意識が高くても、事前の体制整備がなければスタッフができることは限られます。あるいは、組織にリスクカルチャーが根付いていなければ、リーダーが決断し、ハード面が整っていても、対応はうまくいかないでしょう。

このような話をしたのですが、果たして学生たちに響いたでしょうか。
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※宮崎産マンゴー(小さいもの)がなんと198円でした。

 

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生保の規制対応が一巡

最初にセミナーのご案内です。
今年も損保総研の特別講座で講師を務めることになりました。
保険会社経営の今後を探る ~最近の環境変化を踏まえて~」という演題で、6月28日(火)の18:00開催となっています(申込締切は21日)。zoomによるライブ配信なので、お茶の水の損保総研に行かなくても参加可能です。ご関心のあるかたはぜひご参加ください。

さて、主要生保の2021年度決算が出そろい、5月27日の日経には決算のまとめ記事のほか、「超長期債 買い手消える日(有料会員限定)」という記事が出ていました(ポジションというコラムです)。

「資本規制への対応で買ってきた生命保険会社の対応が一巡した(後略)」

「(市場参加者のコメント)『買い増しは昨年度までに一巡した。需給面で生保の超長期債への買い圧力は今後弱まる』と話す」

このようなことが書いてあったので、文字通りポジショントークとは思いつつ、まずは「一巡した」と言えるほど買い増しが進んだのか、決算発表で残存期間別の公社債残高を公表している主要生保10社の数字を確認してみました。
この1年間で10年超の公社債を増やした会社は7社ありましたが、前年度よりも増加が目立ったのは第一と大同くらいでした。住友や朝日のように、10年超の公社債を数期連続して減らしている会社もありました。

次に、規制対応が必要なのかどうかです。
各社が任意で公表しているESR(第一、明治安田、T&D、富国、ソニー)や金融庁フィールドテストなどから判断すると、そもそも新規制になると資本不足状態という主要生保はおそらくなさそうです。ただ、金利リスクの占める割合が大きく、金利変動によりESRが大きく動いてしまうので、金利リスクを減らしたいと考えている会社が超長期債の購入などを行っています(金利が下がると分子の資本が減るうえ、分母のリスク量も増えてしまう会社が一般的なようです)。

このあたりの判断は会社によって異なっていますし、2016年のマイナス金利政策の導入以降、生保業界の超長期債購入ペースは明らかに鈍化しました(金利リスクを減らしたいと考えていても、超長期金利があまりに低い水準になって実行を躊躇した)。これが全体として買い増しに転じたのは2020年度からなので、わずか2年間で金利リスクを減らしたいと考えている会社が目標を達成したとは考えにくいです。

なお、金利リスクの手掛かりとなるEVの金利感応度は、円金利だけではなく海外金利も同時に変動するので、要注意です。円金利の上昇はEVにプラス(超長期の負債を抱えているため)、海外金利の上昇はマイナス(保有資産の価格が下がるため)なので、これだけ外国公社債の残高が増えると相殺される度合いが大きくなり、感応度分析の役割を果たさなくなりつつあります。
実際、2021年度決算では海外金利の上昇によって外国公社債の価格が下がり、円金利の上昇によるプラス効果を打ち消すという事態が生じました。
会社の経営状況を外部ステークホルダーに伝えるには、いくつかの会社が今回の決算発表で行ったように、円金利と海外金利に分けた感応度を開示すべきだと思います。

※写真はドーム球場近くのビーチです。

 

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日本企業のリスクマネジメント意識が変わる?

今週のInswatch Vol.1136(2022.5.16)に寄稿した記事をご紹介します。
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企業のリスク意識の低さ

以前(2020年6月)のプロフェッショナルレポートで、「(変化の兆しが見られるとはいえ)日本企業のリスクマネジメントに対する意識が総じて低く、最低限の保険にしか加入していない」と書きました。
例えば、2011年の東日本大震災による経済損失が20兆円規模だったのに対し、支払われた保険金額は1兆円をはるかに下回るものでした(家計向けの地震保険を除く)。また、3メガ損保グループによるコロナ関連の保険金支払いはそれぞれ数百億円に達したものの、そのほとんどは海外事業によるものでした。
日本企業が最低限の保険にしか加入していなくても、経営者が直接コントロールできない外部環境の急激な変化による損失発生は「仕方がないもの」として許される雰囲気があったのかもしれません。あるいは、企業向け保険の主要チャネルが企業代理店となっていて、企業のリスクマネジメント部門との十分な連携がないままに保険を手配してきたのかもしれません。

ガバナンス改革の進展

しかし、ここにきて、日本企業のリスクマネジメント意識を高めるような風(保険ビジネスにとっては追い風)が強まっているのを皆さんはご存じでしょうか。
1つはコーポレートガバナンス改革の進展です。松田千恵子先生の著書 『コーポレートガバナンスの進化』(2021年、日経BP)から引用すると、「戦後以来強固であったメインバンクガバナンスの枠組みも、90年代後半には揺らぎをみせます。それまでのメインバンクガバナンス(主要取引銀行によるガバナンス)から、エクイティガバナンス(株主によるガバナンス)へ、世の中は移り行くことになったのでした。コーポレートガバナンス・コードはこうした流れを決定的にしました(44ページ)」ということで、日本企業の経営者は債権者思考から株主思考への対応を迫られています。

利息収入が得られる債権者とは違い、株主は出資した企業の価値が高まらなければ、リターンを得られません。ですから、株主は経営者に対し、出資先のリスクに応じたリターンを求めます。
問題は企業がどのようなリスクを抱えているかです。コーポレートガバナンス・コードは、適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを上場会社の取締役会に求めています。外部環境の変化を自らのリスクとして捉えず、経営努力の範囲外なので「仕方がない」とする経営姿勢を、これまで債権者は許してきたとしても、株主は許しません。メインバンクガバナンスが過去のものとなった現在において、経営者はリスクマネジメント体制を構築し、取るべきリスクや避けるべきリスクを明確にしたうえで、事業を遂行する必要があるのです。リスクのプロである保険業界の出番が増えそうですね。

気候変動リスクへの対応

もう1つは近年、企業が気候変動リスクへの対応を強く求められるようになったことが挙げられます。保険会社も事業を通じ、顧客企業の気候変動対応の支援を求められています(金融庁「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方(案)」を参照)。
気候変動リスクへの対応がなぜ「追い風」なのか。顧客が気候変動に備えて保険に加入するようになるからでしょうか。いえいえ、この話はそのような表面的なものではありません。
考えてみましょう。顧客企業は気候変動の影響を把握するだけでいいのでしょうか。そうではありません。経営者に求められているのは、気候変動を含めた全社的な機会とリスクを把握することです。気候変動リスクだけを把握しても、そもそも全社的なリスクマネジメントができていなければ、当然ながら持続可能な経営とはなりません。

保険業界はコーポレートガバナンス改革の進展と気候変動対応という2つの追い風を生かし、日本企業のリスクマネジメント意識改革に大いに貢献していただきたいと思います。
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※写真は舞鶴公園のシャクナゲです。

 

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3年ぶりのリアル開催

23回目となるRINGの会オープンセミナーは6月18日(土)、3年ぶりのリアル開催です。場所はいつものパシフィコ横浜となります(ライブ配信も行います)。
お申し込みはこちらからどうぞ。

今回のプログラムはこちらです。「NEXT MOVE」をテーマにした3部構成となります。
第1部は感染症の専門家として知られる松本哲哉先生による基調講演と対談です。私は対談相手として登壇することになっています。
続く第2部は保険業界の働き方改革を探るというもので、組織変革の専門家として注目されている沢渡あまねさんが、旧態然とした保険業界に物申す企画(と私は勝手に解釈しています)です。第三者に言われないとわからないことは多いので、個人的には最も注目しています。
最後の第3部は、第1部と第2部を踏まえ、RINGの会のメンバーである保険代理店の経営者がディスカッションを行うというものです。今年のセミナーの裏テーマ(?)は「保険会社と共に考える」とのことですが、代理店評価制度にも切り込むとのことで、どこまで踏み込んだ話ができるか期待しましょう。

毎年1000名を超える規模で開催してきたオープンセミナー。コロナ禍の直撃を受けて2020年は中止となり、昨年はライブ配信を行いました。今回はいよいよ観客を迎えての開催となります。

オンライン配信には、全国どこにいても視聴できるというメリットがあります。昨年のクオリティを考えると、プログラムから学ぶだけであれば、オンライン参加でも十分かもしれません。
しかし、この2年間、数多くのオンライン会議やセミナーに参加し、オンラインでの講演や授業を行ってきた経験からすると、わざわざ週末の横浜まで出向くだけの価値はあると思います。
とりわけ登壇者からすると、こちらから一方的に話をする状況であっても、出席者の反応がわかるかどうかは大きいのですね。もちろん、オンライン配信や録画であっても最大限の努力をするのですが、オンライン配信を経験したおかげで、対面の場合には無意識のうちに参加者の反応に合わせて話し方を変えたり、内容を調整したりしているとわかりました。

ということで、貴重なリアル開催のイベントですし、久しぶりに仲間と会える機会になるかもしれません(ただし、懇親会はありません)。横浜で多くの方にお会いできることを楽しみにしています。

 

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生保の情報開示充実は喫緊の課題

インシュアランス生保版(2022年4月号第4集)に執筆したコラムです(見出しはブログのオリジナル)。このブログの読者には目新しい内容ではありませんが、経営情報の利用者として繰り返し声をあげていきます。
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最近、生命保険会社のディスクロージャーの現状について改めて確認する機会があった。経済価値ベースのソルベンシー規制(新たな情報開示を含む)の導入まで、まだ数年を要することを踏まえると、契約者保護の観点から緊急性の高い最低限の情報として次の3点の早期開示を強く求めたい。

資産内容の開示不足

まず、資産内容の開示として、「10年超の公社債の内訳」「信用格付別の資産」「外国証券・その他の証券の内訳」を示す必要がある。
生保にとって金利リスクの管理は極めて重要だが、「有価証券残存期間別残高」の開示が「10年超」でひとくくりとなっていて、外部からは管理状況がほとんどわからない。
また、昨年11月の本欄で「生保の資産運用方針」を取り上げた際にも多少触れたが、生保がメディア向けに資産運用方針を説明し、「海外クレジット投資に注力」「オルタナティブ投資を強化」などと報じられても、開示情報が乏しく、実際の行動がどうだったのかを確認できない事態が続いている。

外貨建負債の情報がない

2つめは、外貨建負債の残高開示である。外貨建ての保険の販売状況も開示情報からはよくわからないのだが、円建てよりも予定利率が高い外貨建保険を提供している会社は少なくないとみられる。ところが、各社のバランスシートに保険負債としてどの程度外貨建ての負債が積み上がっているかを示す情報はほとんどないに等しい。
おそらく外貨建負債の為替リスクは外貨建資産を持つことでヘッジしているはずなので、現在入手できる情報だけでは、外貨建資産が増えたからといっても、それが資産運用戦略の一環なのか、あるいは外貨建負債が増えたからなのかを判断できない。
漢字生保の場合、外貨建資産は一般勘定資産の3割程度を占め、重箱の隅をつつくような話ではない。

個人向け配当のタイムリーな開示を

3つめは、個人向け有配当商品の契約者配当総額である。各社は決算発表時に「配当準備金繰入額」を示しているものの、このなかには団体保険や団体年金保険の配当原資も含まれている。
団体保険は基本的に1年間の保障を提供するもので、その配当は保険料の事後精算という性格が強い。団体年金保険は運用商品であり、その配当は保証利率を上回る運用成果を還元するものである。いずれも個人向け保険の配当とは性格が異なるため、これらを合わせて「配当性向」「配当還元割合」などとして示しても、個人保険や個人年金保険の契約者にとって有益な情報ではない。
多くの会社が年度決算の結果、個人向け保険としてどの程度の配当を実施したのかを知る手掛かりを出していないのは異常である。

以上の3点は最近浮上した課題ではなく、筆者は何年も前から開示を求めてきたものである(上場会社はいずれも自発的に情報を開示するようになった)。非上場会社には自発的な開示を期待できないというのであれば、あとは制度開示に期待するしかなさそうだ。
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※キャンパスの緑が濃くなりました。ツツジもきれいです。

 

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保険料率の納得感

今週のInswatch Vol.1132(2022.4.11)に寄稿した記事をご紹介します。
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水災料率の細分化

これまで全国一律だった火災保険の水災料率が、リスクに応じた料率に細分化される見込みです(2024年度から導入と報道されています)。水災リスクが低いにもかかわらず、高リスク契約者と同じ保険料率を負担するのは確かに納得感がなく、結果として低リスク層の水災補償離れが進み、付帯率は年々下がっています。
リスクに応じた料率を導入しても、そもそも火災保険は強制加入の保険ではなく、低リスク層の水災補償離れに歯止めをかけるのは簡単ではないかもしれません。家森信善教授が実施した意識調査によると、住宅購入前にハザードマップ等で自然災害のリスクを確認したという回答が全体の8割に達しており、水災リスクを確認したうえで住宅を購入するという行動はかなり定着している模様です。付帯率を下げ止まらせるには、料率をハザードマップ等とリンクさせることに加え、低リスクであっても無リスクではないことを住宅保有者に理解してもらい、加入を促す取り組みが求められます。

「一律掛金・一律保障」共済の場合

リスクの異なる加入者が同じ料率というのは、低リスク加入者が高リスク加入者を支えているということなので、強制加入でもないかぎり、このような仕組みは長続きしないはずです。
ところが探してみると、死亡率や入院発生率の異なる加入者が同一の掛金で同一の保障を得られる仕組みがあります。それは生協共済の「一律掛金・一律保障」タイプの商品です。
例えば、福岡県民共済の総合保障2型の場合、死亡保障や入院保障などのパッケージの月掛金は、18歳から60歳まで一律2000円となっています。18歳から60歳までの死亡リスクや入院リスクが同じはずはなく、若い加入者がシニア加入者を支えていることになります。それでは、加入者の多くがシニア層かといえば、少なくとも数年前に全国生協連を取材した時点では、そのようなことはありませんでした。
比較的若く、低リスクであるにもかかわらず、多くの人が自発的にこの共済に加入する理由はよくわかっていません。共済を提供する協同組織は相互扶助を理念としていますが、その理念に共感した加入者が多いとも考えにくく、つまるところ、月々2000円という掛金の絶対水準の魅力が大きいのではないでしょうか(他にも「割戻金が期待できるから」「長く続ければ自分が支えられる側に回るから」「保険会社は利益優先だと思うから」といった理由も考えられます)。この金額であれば、厳密に考えると不利だとわかっても、納得感があるということではないかと思います。

自動車保険の等級制度の場合

他方、個人向け自動車保険はご承知の通り、「ノンフリート等級制度」や「型式別料率クラス」などにより、リスクに応じた保険料率に近づける仕組みとなっています。
とはいえ、等級制度が本当にリスクに応じた料率を実現しているかといえば、少し考えればそうではないとわかります。運転者のリスクが毎年変わるということはなく、ただ、保険会社には運転者のリスクがよくわからないので、実際にリスクが顕在化した(=保険金を請求した)かどうかに基づいて料率を動かす仕組みとしています。ですから、事故を起こしやすい高リスク運転者によるものであっても、慎重なドライバーがたまたま巻き込まれてしまったものであっても、事故が発生し、保険金を請求すれば等級は同じように下がります。それでも等級制度が長年続いているのは、この仕組みが社会から相応の納得感を得られているためではないでしょうか。

納得感のある料率を実現できるか

以上のように、「一律掛金・一律保障」共済やノンフリート等級制度のように、保険の原理としてはリスクに応じた料率が望ましいとしても、納得感があると考えられているのであれば、必ずしもそうではない料率の仕組みであっても長続きしている事例があるとわかりました。
低リスク層の水災補償離れに歯止めがかかるかどうかは、低リスク層にとって納得感のある料率(あるいは仕組み)となるかどうかにかかっていると言えそうです。
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※写真は長府の功山寺。高杉晋作が挙兵したところだそうです。

 

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金融市場の動揺

このブログのインフラ面を支えていただいているウィズハートの木代さんが、保険代理店業務のほうで「ウクライナ支援付き保険」の販売を始めました。まずは妊婦さん向け医療保険(アイアル少短、エクセルエイド少短)の代理店手数料の50%をウクライナに寄付するというもので、今後さらに他の保険にも広げていくのだそうです。こうした取り組みもあるのですね。

さて、今週のInswatch Vol.1128(2022.3.14)に寄稿した記事をご紹介します。
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期末の市場価格が決算を左右

ウクライナ危機で金融市場が動揺しています。株式リスクや信用リスクの大きい保険会社、あるいは金融市場に連動する保険契約を多く抱える保険会社では、3月末の市場価格によって2022年3月期決算の内容が大きく変わってきます。
ちなみに株式保有と決算の関係ですが、2019年7月に公表された会計基準では、それまであった「期末の貸借対照表価額に期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる」という規定がなくなりました。基準を適用した会社では、3月末の株価が会計上の純資産やソルベンシー・マージン比率に直接反映されます(減損の判断基準としては引き続き平均価額を使えるようです)。

どの程度の影響なのか

昨年6月に金融庁が公表した「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する検討状況について」には、新規制導入のためのフィールドテストの結果として、2020年3月末時点における生命保険会社および損害保険会社のESR(経済価値ベースのソルベンシー比率、単体ベースの全社単純合算)とともに、所要資本(リスク量)の構成比が掲載されていました。
所要資本に占める市場リスクと信用リスクの割合は次の通りです。市場リスクによる影響、すなわち、市場価格の変動が保険会社の経営に与える影響は非常に大きいことが改めて確認できます。

 市場リスク  生保:52% 損保:59%
  うち株式  生保:28% 損保:58%
  うち金利  生保:31% 損保: 3%
  うち為替  生保:25% 損保:21%
 信用リスク  生保: 9% 損保: 4%

約2年前の数値ではありますが、その後の資産構成の変化などを踏まえても、傾向として大きく変わっていないと考えられます。ただし、ここでの株式リスクには子会社・関連会社株も含まれているので、特に損保では過大評価となっている可能性がある点にご留意下さい。

上場会社と非上場会社の情報格差は大きい

保険会社のステークホルダーが知りたいのは全社の合算値ではなく、個々の会社の経営リスクでしょう。市場リスクのうち株式リスクであれば、昨年12月末時点の株式保有残高はわかるので、株価下落の影響をある程度つかむことができます。ところが、株式以外の市場リスクや信用リスクに関する情報は非常に少ないのです。金利も為替もクレジット投資も外部からわかることは限られています。
その点、上場会社(持株会社グループなど)は投資家・アナリスト向けに任意の情報開示を行っていて、誰でも各社のサイトからアクセス可能です。例えば第一生命の場合、昨年12月末時点におけるオープン外債(為替リスクのある外債)は一般勘定資産の4.4%を占め、保有する外債の約8割がヘッジ付きであり、外債のうちBBB格のものは外債全体の約10%、といった情報を得ることができます。

各社の経営姿勢が問われる

保険業界には「上場会社はディスクロージャーが進んでいて当然」という感覚があるかもしれません。しかし、保険会社が提供する商品・サービスは自らの経営内容が直接的に影響するという点を忘れてはなりません。もし保険会社の経営が傾けば、将来の 保障(補償)が危うくなりますし、有配当契約の場合には、業績が順調であれば契約者は配当還元を期待できます。1年契約が主流の損害保険であっても、経営内容は引受方針や契約更改時の保険料率に影響を与えます。
ですから、保険会社は法令や業界基準として決められた項目を淡々と開示すればいいのではなく、契約者に有益と考えられる情報を積極的に出していく経営姿勢が求められています。いくらディスクロージャー誌のページ数が多くても、肝心のときに知りたい情報を得られないのであれば、保険業界は情報開示に後ろ向きと言われても仕方がありません。
顧客本位の経営とは保険販売や保険金・給付金の支払いに関することだけではないと思うのですが、いかがでしょうか。
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※写真は特急ゆふいんの森。念願の展望車です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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