日本アクチュアリー会の年次大会

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1304(2025.11.10)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
2週間ほどのツアーを経て、ようやく福岡に戻ってきました。福岡も朝晩はかなり寒くなりました。
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アクチュアリーとは

1年前にもご紹介しましたが、アクチュアリーは数理業務の専門家で、保険会社経営には欠かせない存在です。拙著『保険ビジネス』の第7章では、「生命保険を提供するには超長期にわたるリスクを適正に評価するアクチュアリーが不可欠ですし、損害保険会社が引き受けるリスクは多様化・複雑化しており、やはりアクチュアリーの役割は大きいと言えます。保険会社では商品開発部門や主計部門(経理部門)、年金部門、リスク管理部門などに所属しているアクチュアリーが多いようです」と述べています。
日本でアクチュアリーと名乗るには、日本アクチュアリー会の資格試験に合格し、正会員として認定される必要があります。第1次試験5科目、第2次試験2科目の計7科目に合格しなければならず、全科目合格までには最低でも2年、平均的には約8年かかる難関資格です。

資産集約型再保険

先週11月6日から7日にかけて、アクチュアリーが日ごろの研究成果を発表する年次大会が東京で開催されました。参考までに、このうち私がアドバイザーとして関与しているERM委員会による2つのセッションについてごく簡単にご紹介しましょう。

1つは「資産集約型再保険」に関するセッションでした。
損害保険会社が引き受けたリスクの一部を他の保険会社に出再(しゅっさい)しているのはよくご存じかと思います。例えば、2018年度には大規模な自然災害が相次ぎ、保険金支払額が損保業界全体で1.5兆円を超えました。しかし、再保険を活用していたため、元受会社の実質的な支払負担は半分程度におさまりました。
生命保険の分野でも再保険は活用されていますが、ここ数年で急速に増えているのが、この資産集約型再保険という取引です。
金融庁「2025年 保険モニタリングレポート」によると、グループ外への出再の目的として、財務戦略の高度化や資産運用リスクの移転のほか、「再保険会社の運用力の活用」が挙がっていました。レポートには、海外の資産運用会社が設立した再保険会社がこの取引に積極的に参画していることや、特定の法域(バミューダ)に所在する再保険会社との取引が顕著であるといった指摘もありました。

年次大会のセッションでは、市場の現状とリスクについて詳細な報告がありました。あくまで個人的な見解ですが、この取引の本質は、規制が求めるソルベンシー比率の改善という「おまけ」のついたファンド投資であって、投資先の不透明さや流動性の低さ、リスク対応の難しさなど、かつてのサブプライム問題を彷彿させるものがあります。

エマージングリスク管理

日本語では「新興リスク」とでも呼ぶのでしょうか。拙著『利用者と提供者の視点で学ぶ保険の教科書』では、「現在は存在していない、もしくは個人や組織として認識していないが、環境変化などにより認識が必要となるリスク」として紹介しました。
例えば「サイバーリスク」は、多くの人がインターネットを使うようになってから新たに登場したリスクです。こうしたリスクは環境変化や技術革新などによって、今後も現れることでしょう。皆さんが顧客企業のリスク診断を行う際にも、すでに見えているリスクだけではなく、こうした新たに重要となりうるリスクにも目配りする必要があるのですが、保険会社といえどもそう簡単なことではありません。

セッションでは、新型コロナ禍やトランプ関税、インフレといった近年浮上した重要なリスクについて、十分な管理ができていたのか、その経験から何を学べるのかといった、興味深いディスカッションが行われました。
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※横浜・大倉山のカフェからの景色です。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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