15. 執筆・講演等のご案内

日本の保険会社はどこで資本を使っているか

inswatch Vol.1023(2020.3.9)に寄稿した記事をご紹介します。
金融市場の混乱で株安、円高、金利低下となっているので、まさにリスクテイクが裏目に出ている状況で決算期末を迎えそうです。
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経営リスクの数値化

保険会社のリスクマネジメント手法の1つに、経営リスクを数値で示し、自己資本等と対比するというものがあります。
保険会社の抱える経営リスクのすべてを数値化することはできないにしても、保険引受に伴うリスクや株価下落に伴うリスクなど、主要なリスクカテゴリーに関しては、リスクを1年間に一定の確率で発生しうる損失額として数値(金額)で示す実務が普及しています。
これらを自己資本等と対比することで、経営として抱えているリスクが経営体力の範囲内に収まっているかどうかを確認できます。

資本の活用

同じ話を資本の出し手(株式会社の株主や相互会社の社員)から見るとどうなるでしょうか。
資本の出し手が保険会社に出資しているのは、保険会社の経営者がリスクを引き受けることでリターンを上げ、そこからの還元を受けるためです。リスクを引き受けるとは、すなわち資本を使うということ。だからこそ、リスクのことを「所要資本」とも言います。資本の出し手としては、出資した資本を有効に使ってもらいたいので、保険会社が実際にどこでどれだけ資本を使っているかは重要な情報です。
多くの上場保険グループが内部管理として計測したリスクと自己資本等を公表しているのは、このような背景があります。

どこで資本を使っているか

昨年12月に金融庁が公表した資料「2019年フィールドテストの結果概要」の7、8ページに、金融庁が指定した手法により計測した保険会社の経営リスク(所要資本)の内訳が載っています。
有識者会議の資料(PDF)

<生命保険会社(単体ベース:41社計)>
・保険リスク 34%(解約・失効リスクが最も大きい)
・市場リスク 54%(株式、金利、為替のリスクが大きい)

<損害保険会社(単体ベース:51社計)>
・保険リスク 36%(巨大災害リスクが最も大きい)
・市場リスク 58%(株式リスクが大きい)

いかがでしょうか。PDFファイルで元の図表をご覧いただいたほうが、より明らかなのですが、日本の保険会社は保険引受に伴うリスクよりも、市場リスク、つまり金融市場の変動に伴うリスクのほうがずっと大きいことがわかります。保険会社なのに不思議に思えますよね。

資本の使い方は適切なのか

資金の出し手からすると、保険会社の経営者は資本をいわば「本業」である保険引き受けではなく、主に資産運用でリターンを上げるために使っているという現状をどう考えるかということになります。
もし、日本の保険会社が資産運用に強みを持ち、中長期的に高いリターンを上げることが期待できるというのであれば、適切な資本の使い方をしていると言えるでしょう。ただ、過去のトラックレコードからすると、必ずしも結果が出ていないようにも見えます。
保険会社の経営者は今の資本の使い方について、資本の出し手が納得できるような説明をする必要があります。相互会社であれば、説明の相手は契約者です。
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※写真は早稲田大学です。授業開始は4月20日以降だそうです。

 

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国がちがえば主力商品もちがう

inswatch Vol.1019(2020.2.10)に寄稿した記事をご紹介します。
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ドイツ生保市場の変化

保険の国際的な規制を決めるIAIS(保険監督者国際機構)で2017年まで事務局長を務めた河合美宏さんが最近、日本経済新聞(電子版)へ寄稿した文章のなかで、ドイツでは低金利と新たな健全性規制への対応として、生保業界の主力商品が変化したという紹介がありました。
伝統的な利率保証のある長期の貯蓄性商品(養老保険や個人年金保険)から、利率保証が限定(既払い保険料のみ保証)される一方で、伝統的な商品よりも高いリターンが期待できる「ハイブリッド年金保険」という投資性商品にシフトしたというのですね。

主力は個人年金

ドイツ生保の商品構成については、金融庁の「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」第3回の資料に掲載されています。
資料によると、ドイツ生保は定期保険や就業不能保険などの保障性商品も取り扱っているものの、個人年金のように老後に備えた貯蓄性商品を中心に提供していることがわかります。ユニットリンク型(変額型)は意外に普及しておらず、その点は日本と共通しているようです。

これに対し、日本で個人年金保険は生保の主力と言えるほど提供されていません。例えば、2018年度の個人分野の新契約年換算保険料(約3兆円)のうち、個人年金保険は17%(0.5兆円)を占めるにすぎません。新契約件数では、個人分野に占める割合は6%まで下がります。
保険料収入や新契約件数などを総合的にみて、日本の生保市場は死亡保障や生前給付保障、医療保障といった保障性商品が中心と言えるでしょう。

生保市場は地域性が強い

ドイツ以外の国でも、生保といえば貯蓄性商品(または投資性商品)というところは多いようです。
例えば、イギリスで生命保険といえば一時払いの個人年金保険ですし、最低保証のない変額タイプの商品や実績配当型の商品が多くなっています。年金開始前(ペンション)と開始後(アニュイティ)で商品が分かれているのも特徴です。米国も保険料収入で見れば個人年金保険の割合が大きく、大手生保グループの多くは自らを金融サービス事業者と規定しています(他方で米国では健康保険を民間保険会社が提供)。

生保市場は地域性が強く、国や地域によって特性がかなり異なっています(これは販売チャネルについても言えることです)。主力商品をちょっと比べただけでも、同じ「生命保険」「生命保険会社」とはいえ、日本の常識が世界でも同じとは限らないことがよくわかります。
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※大人の修学旅行 in 歌舞伎町。
 由緒あるバーにおじゃましました。

 

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井の中の蛙にならないために

インシュアランス生保版(2020年1月号第2集)にコラムを執筆しました。
なぜ私が旅に出るのかを説明しているようにも読めますね。
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給与水準は東京を上回る

12月中旬の日経新聞の特集記事『安いニッポン』のなかで、データサイエンティストやサイバーセキュリティー・コンサルタントといった専門職の最高給与額を比べた図表があり、いずれも中国が日本を上回っていた。
同じような話を11月に訪れた中国・深圳(しんせん)でも聞いた。すでに中国ではエンジニアの給与が東京と同じ水準であり、BATと呼ばれる中国3大ネット企業(バイドゥ、アリババ、テンセント)ともなると、東京を上回る給与水準とのことだった。

チャイニーズドリームを目指す

実際に深圳の町をまわると、ひと昔前(といっても5年程度だが)の中国のイメージはどこかに吹き飛んでしまう。世界の工場、すなわち、政府が大企業を誘致し、安い賃金を武器に製造業の拠点となっていた時代はとうに終わり、今の深圳は「世界のイノベーションの拠点」である。政府や大手IT企業が起業家向けに大規模なインキュベーション施設(低賃料のスペースやマーケティング支援などを提供するところ)を用意し、中国全土からチャイニーズドリームを目指す若い人材が次々に集まってくる。人口は約1300万人と、隣接する香港(約750万人)をはるかに上回る。ちなみに住民のほとんどが町の外から来た人たちなので、この地域の言語である広東語よりも普通語(標準語)が幅を利かしており、料理についても「深圳料理」というものは存在しないそうだ。

中国では、政府が経済を強力に引っ張る姿を想像しがちだが、今の深圳の発展は、中国情報の提供を専門とするhoppin滝沢氏いわく、「ボトムアップのイノベーション」によるものだ。共産党との関係など中国ならではの事情も見え隠れするとはいえ、起業家を動かしているのは「ビジネスで世の中をよくしたい」、あるいは「成功したい」という、資本主義のマインドそのものである。

模倣からオリジナルへ

また、中国というと、「ニセモノ」「パクリ」というイメージを持つ人も多いだろう。しかし、このイメージも過去のものとなりつつある。深圳には今でも偽ブランド品を大々的に提供するショッピングビルがあるが、全体としてはすでにオリジナルで勝負する段階に入っている。
例えば、最近日本市場に参入した小米(シャオミ)は出荷台数で世界第4位のスマホメーカーだが、深圳のショップ「小米之家」にはスマホに加え、スタイリッシュなデザインのハイテク家電や生活雑貨が並び、しかも安い。テンセントが展開するオン・オフ融合のスーパー「超級物種」ではレジで並ぶ必要がなく、スマホでその場で決済できるうえ、品揃えは日本の成城石井のような高級感を醸し出していた(この分野ではアリババが先行)。
いずれにしても、ハイテクで便利というだけでなく、オシャレなのだ。

私たちはどこかで「日本が世界で1番」と考えているところがあり、確かに水準の高さは否定しない。ただ、それが本当なのか、自分の眼で確かめることをおすすめしたい。
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保険会社は契約者に何を提供しているのか

inswatch Vol.1014(2020.1.6)に寄稿した記事をご紹介します。
現場のかたを念頭に、保険会社が経済的にみて何を提供しているのかという話を書いたのですが、ご理解いただけたでしょうか?
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将来のキャッシュフローを提供

新年ということもあり、今回はそもそも保険とは何かについて、改めて考えてみたいと思います。

読者の皆さんは保険流通に関わっているかたが多いでしょうから、保険会社が契約者に何を提供しているのかと聞かれると、「安心」「万一への備え」あるいは「愛情」といった答えが返ってきそうです。それはその通りなのですが、もう少し本質的に考えてみると、「キャッシュフロー」という言葉が浮上します。
保険会社は契約者から保険料を受け取り、将来、死亡や事故などのイベントが発生したら、契約者との間で予め決めておいた保険金額(査定による決定額を含む)を支払います。つまり、保険会社は契約者から取得したキャッシュフローをもとに、将来のキャッシュフローを提供しているのです。これは生保でも損保でも同じです。

生保と損保の経営リスクの違い

ただし、生保と損保では一般に契約期間が異なります。生保の契約期間は非常に長く、キャッシュフローの提供がかなり先になることが多いので、保険会社の経営リスクとして最も重要なのは、この間に経済環境や金融市場が大きく変動することです。死亡率や疾病の発生率もそれなりに変化するとはいえ、損保に比べれば限られています。
他方で、損保の契約期間は1年であることが多く、キャッシュフローを提供するまでの期間は短いのですが、事故の内容によって保険金の支払額が大きく変動するため、保険引受リスクの管理が重要となります。

原材料を仕入れる前に価格が上昇

保険が通常の商品と違うのは、原材料を仕入れなくても商品を提供できてしまうところです。
それでも損保の場合には、前述のように保険引受リスクの管理が重要なので、企業物件を中心に、保険会社が引き受け可能と判断した範囲内で保険を提供するのが以前から一般的な実務となってきました。

ところが生保の場合には、原材料を仕入れずに商品を大量に提供してしまったため、後になって困るということが起きています。

保険会社が将来のキャッシュフローを提供するためには、原材料として金融市場からキャッシュフローを仕入れてこなければなりません。原材料の価格は金利水準によって変わり、金利が上がると原材料が安くなり、金利が下がると原材料の価格が上がります(公社債の価格をイメージしていただければいいと思います)。
それを、「今は原材料価格が高いから、後で調達しよう」「そもそも日本では原材料を仕入れるのが難しい」などと後回しにしていたら、金利水準が一段と下がってしまい、仕入れる前に原材料の価格が上がってしまいました。これが今の生保が直面している現状です。

こうした現状は、現在公表されている基礎利益やソルベンシーマージン比率を見てもわかりません。
金融庁が経済価値ベースのソルベンシー規制を導入しようというのは、今の規制や会計の枠組みでは把握できない、保険会社が直面している現状を把握しようという取り組みなのです。
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※私の母が孫娘の着付けをしました。

 

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生損保決算のインタビュー

保険毎日新聞にインタビュー記事が載りました。1月8日が生保、9日が損保です。
半年前と同じく、単に決算データの解説をするのではなく、決算数値をもとに保険会社の経営内容についてコメントするというもので、恥ずかしながら写真付きです
(8日と9日で写真が微妙に違うようです)

【生保】大きなイベントの影響、色濃く反映

生保では、現時点では各社が掲げる「保障性商品への回帰」が順調かどうか、決算データからではまだわからないというコメントをしました。

ただ、「これまで経営者向け保険に注力していた保険会社や販売チャネルが一般の個人向け保障性商品の販売に戻れるのかというと、結構難しいと思う」
「経営者向け保険は、節税という明確で顕在化しているニーズがあり、かつ、単価が非常に高い。それに比べて保障性商品は、第三分野であればある程度ニーズは顕在化しているかもしれないが、単価は低く、第一分野の商品であれば、個人にしっかりコンサルティングを行い、ニーズを掘り起こさないと売れない。両者はかなり違う世界だと考えている」とも話しています。

外貨建て保険を中心とした国内系生保のリスクテイクについても、やや踏み込んだ話をしています(といっても、いつもここで書いているような内容です)。

【損保】垣間見えたグループ経営のリスク

損保では、自然災害の影響を受けた国内損保事業ではなく、国内生保事業や海外事業に着目したコメントをしました。
国内生保事業については、クロスセルを行う損保系代理店、経営者向け保険に強みを持っていた生保プロ、保険ショップに代表される乗合代理店といったそれぞれのチャネルが経営リスクを抱えており、今回の決算でマネジメントの難しさが垣間見えたという内容です。
海外事業については、MS&ADグループの「のれんの減損」に着目したコメントをしています。

ということで、機会がありましたらご覧ください。

※写真は韓国・釜山の魚市場です。

 

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外貨建資産の増加

inswatch Vol.1010(2019.12.9)に寄稿した記事をご紹介します。
今回は生保の資産運用について取り上げています。
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一般勘定資産の3割を占める

生保の4-9月期決算の発表があり、各社の9月末の資産構成も公表されました。
過去10年間の国内系生保の資産構成(一般勘定)推移を見ると、外貨建資産の割合が一貫して高まっていったことがわかります。9社合計ベースでは、2009年度末には13%だったものが、この9月末には29%となりました。参考までに、国内株式の割合は約10%でほぼ横ばいです。
外貨建資産には外国株式や海外インフラファンドなども含まれますが、その8割以上は外国公社債です。各社が公表するデリバティブ取引の状況から推測すると、外貨建資産の6割強は為替リスクをヘッジした公社債(いわゆるヘッジ付き外債)が占めているようです。

外債投資の狙い

日本の生保が長期資金の担い手としての社会的な役割を果たしてきたのは事実です。ただし、それはあくまで結果であって、生保はそのために保険料を集めているのではありません。
生保の資産運用に求められる役割は次の2つです。1つは長期にわたる保険契約を全うするため、保険商品に内在する金利リスクをヘッジすること。もう1つは追加的なリスクテイクによりリターンを追求することです。優先順位が高いのは当然ながら前者で、金利変動の影響とどう向き合うかが生保資産運用の最大課題となっています。

外債投資の位置づけは、後者の「追加的なリスクテイクによるリターン追求」です。為替リスクのあるオープン外債ではなく、為替リスクを外したヘッジ付き外債であっても、超長期にわたる保険負債の金利リスクをヘッジしようとする投資行動ではなく、前者の役割ではありません。
ヘッジ付き外債は通常、中長期の外債を購入し、短期間の為替ヘッジを継続して行うというものです。現物とヘッジの期間をずらすことで、生保は円建ての公社債よりも高いリターンをねらうことができます。「円金利があまりに低いので、運用利回りを少しでも高めたい。でも、為替リスクは抱えたくない」ということで、今では生保の主力資産となっています。

「基礎利益」が誤ったインセンティブに

外債投資がここまで増えた理由の1つとして、私は「基礎利益」の存在も大きいとみています。
基礎利益はもともと、「生保は毎期の逆ざやを期間損益では吸収できず、体力をすり減らしているのではないか」という外部からの疑問に答える形で公表された指標です。確かに当時(2000年前後)はメディアや保険評論家による誤った情報も多く、公表には一定の効果があったと思います。
しかし、近年の動きを見ると、外債投資に伴う利息収入の増加が基礎利益を支えていて、生保の基礎的な収益力を示す指標とは言いがたい状況となっています。しかも、外債投資に伴う為替リスクやヘッジコスト、あるいは海外金利リスクは基礎利益に反映されません。「メディアに取り上げられるから」「風評リスクが心配」といった目先の理由で基礎利益の拡大を図るのは、長期にわたる保険契約の全うをむしろ難しくしているように思います。

なお、生保が外貨建て保険の販売を増やしていることも、外貨建資産が増える一因となっています。おそらく国内系9社ベースであれば、外貨建ての保険負債の割合は全体の数%だと思いますが、会社によっては外貨建て保険に注力し、かなりの規模となっているところもあるようです。
ところが、生保業界は外貨建て保険負債の規模を公表していません。外貨建て保険の見合いとしてオープン外債を保有するのと、円建て保険で追加的なリターン確保のためにオープン外債を持つのとでは、やっていることの意味がまるで違います。生保の経営リスクを外部に理解してもらい、それこそ余計な風評を発生させないために、速やかな情報開示を求めます。
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※香港の動きも気になります。

 

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損保総研で講師を務めます

セミナーのご案内です。
12月17日(火)に損保総研の特別講座で講師を務めます。
演題は「内外ソルベンシー規制の動向と経済価値ベースの保険ERM再考」です。

損保総研では2000年以降、ほぼ毎年講師を務めていまして、保険会社の経営内容や健全性規制などの「定点観測」をお伝えする機会となっています。
例えば10年前の2009年12月には「金融危機と保険会社経営」という演題で、保険会社の経営分析やリスク管理の現状などをお話ししました。
一昨年の演題は「今だからこそ問われる保険会社のERM」、昨年は「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」でした。

今回は、内外ソルベンシー規制にいろいろと動きがありましたので、まずはその話をしたうえで、後半は規制以外の話をしようと考えています。
師走のご多忙な時期だとは思いますが、機会がありましたらぜひご参加ください。

※ユーザー数が11億とは驚きです

 

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貯蓄と保険のちがい

inswatch Vol.1006(2019.11.11)に寄稿した記事をご紹介します。
本文中にある「終身年金パズル」とは、長生きリスクには貯蓄よりも終身年金のほうが有利にもかかわらず、民間が提供する終身年金があまり普及しないという現象のことです。
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長生きリスクへの備え

例えば90歳を超えて長生きした際の経済的な負担に対しては、貯蓄(資産形成)と終身年金(社会保険を含む)が代表的な手段となっています。
貯蓄の場合、自分が何歳まで生きるかわからないので、多め多めにお金を用意しておく必要があり、結果として多額の貯金を残して亡くなることになりがちです。
これに対し、保険の仕組みを使えば、長生きリスクに対して合理的に備えることができます。もちろん、平均寿命が将来的にどうなるかはわかりませんが、個々人ではなく集団として備えるので、これまで培ってきた保険の技術で対応することが可能です。

貯蓄ではなく保険

しかし、終身年金やトンチン年金など、長生きリスクに備えた保険を貯蓄としてとらえる発想が根強いようです。これだと、支払う保険料と受け取る給付の金額を比べ、損だ得だという話になってしまいます。
日本生命が2016年に「ニッセイ長寿生存保険」を発売した際も、「平均寿命まで生きた場合でも、年金の受取総額は保険料の支払い総額よりも少なく、損失が出る」という批判がありました。
こちらもご参照(過去のブログです)

長生きリスクに保険で備えようという発想であれば、このような考え方は誤りです。保険ですから、例えば90歳以降の保障を受け取るために、いわば掛け捨ての保険料を支払うというように考えるべきです。
一般的な生命保険(死亡保障)のことを考えていただければ、よりわかりやすいかもしれません。例えば40歳で20年間の定期保険に入った場合、60歳までの間に加入者が死亡したら、遺族に保険金が支払われます。加入者は60歳までの20年間の死亡リスクに対する備えとして保険に入ったのであって、60歳になって「これまで保険料を支払ってきたのに何も受け取れなかった」と保険会社に文句をいうのは筋違いだとわかります。
長生きリスクに保険で備えようとした場合もこれと同じことです。貯蓄として保険商品を提供するのであればともかく、保障を提供するのであれば、「返戻率が高い」といった話法からは卒業したほうがいいと思います。

民間保険会社の役割に期待

先ほど「長生きリスクへの備えとしては、貯蓄と終身年金が代表的な手段」と書きましたが、実のところ、民間の保険会社はこの分野で必ずしも大きな役割を発揮していないように見えます。というのも、終身年金の主な担い手は社会保険(国民年金、厚生年金など)であって、保険会社が提供する終身年金は主力商品とはなっていないためです。

平均寿命が延びるなかで、民間として長生きリスクを引き受けるのが難しいのは確かですが、他方で終身保険を提供しているので、両者でセルフヘッジ(終身の長生きリスクと死亡リスクが打ち消し合う)効果がえられるはずです。今の金利水準では魅力ある商品の提供が難しいということもあるとは思いますが、主力商品となっていないのは、保険会社のリスク管理上の制約というよりは、むしろ終身年金が顧客にあまり選ばれてこなかったというべきでしょうか
(「終身年金パズル」と言われています)。

しかし、貯蓄と社会保険だけでは老後を豊かに過ごせるかどうか不安が高まっているなかで、より長生きのリスクだけに焦点を絞った商品を民間の保険会社が積極的に提供していくべきではないでしょうか。
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※写真は慶大矢上キャンパスです。9日にJARIPの年次大会がありました。

 

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「生活協同組合研究」に寄稿

生協のシンクタンク(生協総合研究所)が毎月発行している「生活協同組合研究」2019.11に寄稿しました。

本号の特集「生協の共済を取り巻く事業環境」のなかで、私が書いたのは「生命保険における健全性規制の動向と保険会社の対応状況」というもの。
リクエストが保険会社の健全性規制でしたので、共済についてはほとんど触れていません。1か所だけ生命保険の責任準備金を説明した際、比較のために「一律保障・一律掛金」タイプの共済商品は「加入者の高齢化が進み、平均年齢が想定よりも高まると運営が難しくなる」という特徴を述べています。

他にも、著名FPである藤川太さんの「人生100年時代のライフプランと共済」や、保険のなかでも新たな業態である少額短期保険による商品開発の動向、ニッセイ基礎研究所の松岡博司さんによる「米国生保市場の動向」など、いずれも直接的に共済について述べたものではありませんが、興味深い論稿が載っていました。

機会がありましたらご覧ください。

※写真はワルシャワのトラムです。

 

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予定利率ゼロの時代

inswatch Vol.1002(2019.10.14)に寄稿した記事をご紹介します。
月次寄稿となってから生保関係の話を書いていて、今回は標準責任準備金を取り上げています。

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生命保険は加入してからの契約期間が長いため、将来の保険金や給付金の支払いに備えた「責任準備金」の確保が保険会社経営のキモとなります。そこで今回は「標準責任準備金」という規制について取り上げてみましょう。

標準責任準備金制度

生保には損保の参考純率のようなものはなく、会社が保険料率を自由に決めることができます(商品認可は必要です)。とはいえ、まったく縛りがないのかと言うとそうではなく、政府は生保の責任準備金を規制することで、保険会社の健全性を確保しようとしています。
定期保険や終身保険、養老保険などの、いわゆる生命保険は「標準責任準備金」規制の対象で、行政当局が定めた「標準生命表」「標準利率」に基づいた責任準備金を積み立てなければなりません(付加保険料や第三分野の入院・手術等の発生率は規制の対象外です)。

例えば、通常の生命保険(平準払い)の標準利率は現在0.25%です。保険会社はそれよりも高い予定利率を使い、保険料を低く設定することは可能ですが、責任準備金は標準利率で計算したものを積む必要があります。
つまり、予定利率を標準利率よりも高く設定してしまうと、顧客から受け取った保険料だけでは責任準備金を積むことができず、不足分を会社が補わなければなりません。それでは経営が持たないということで、標準責任準備金が生保の価格競争の歯止めとなっています。

一時払い終身の標準利率は0%に

標準生命表のほうは、2018年4月の改定に合わせ、多くの保険会社が保険料を変えたり、商品そのものを見直したりしたので、記憶に新しいかもしれません。トレンドとしては長寿化が続いているため、生命表の改定があると、定期保険のような死亡保障の保険料は下がり、個人年金のような生存保障の保険料は上がります。
これに対し、標準利率は一貫して引き下げが続いてきました。標準利率は責任準備金を計算するうえでの割引率なので、利率が下がると、より多くの責任準備金を積まなければならず、保険料は上がります。

標準利率は長期国債の利回りをベースに決めています。ただし、通常の平準払いの生命保険と一時払いの貯蓄性商品では設定方法が異なります。
通常の生命保険では、10年国債利回りの3年平均と10年平均の低いほうをもとに利率を設定するのに対し、一時払いの貯蓄性商品では、利回りの3か月平均と1年平均の低いほうをもとに設定します(一時払い終身保険では10年国債利回りのほか、20年国債利回りも活用)。

すなわち、一時払いの貯蓄性商品は標準利率が金利変動に連動しやすい仕組みとなっているのですが、一部で報道されているように、最近の低金利を受けて、来年1月から一時払い終身保険の標準利率がついに0%に下がることになりました。生保にとって厳しい経営環境が続きます。
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※写真はポーランドの古都クラクフです。旧市街全体が世界遺産とのこと。

 

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