15. 執筆・講演等のご案内

「挑む相互会社の壁」

4月18日にアップされたNIKKEI Financial「ホケンの変革 日本生命保険 挑む相互会社の壁(上)/相互会社で進める大型買収、企業統治改革は道半ば」にコメントが載りました。
有料媒体なので私に関する部分だけ引用します。詳しくはNIKKEI Financialをご覧ください。
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24年5月、韓国で開いた韓国保険学会。元著名保険アナリストで現在は福岡大学で教鞭(きょうべん)をとる植村信保教授は日本の保険会社のM&Aについて出席者から問われると「相互会社が海外の保険会社を買収し、グループとして非社員契約を増やすのは、契約者が会社の構成員(社員)となっている相互会社のあり方として適切なのかという疑問が生じる」と指摘した。
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「元著名保険アナリスト」というのは「元R&Iの格付アナリスト」の誤りではないかと思いますが(笑)、こちらのブログ(日本の保険会社による海外M&A)で書いた内容を参考にしていただいたものです(取材も受けました)。

そもそもは「(日本の保険会社による)海外M&Aの目的は純投資なのか、それとも事業による利益獲得をねらったものか」という質問に対し、純投資ではなく、事業による利益獲得をねらったものと答えたうえで、相互会社についても触れました。引用していただいた内容に続き、「株主と相互会社の社員では、経営陣への期待(リスクのとり方など)も異なると考えるのが妥当」とも述べています。

なお、ブログでは相互会社のガバナンスに関する記事を何度か書いていますので、ご参考まで。

相互会社の保険会社買収(2015.9.13)
週刊ダイヤモンドの保険特集(2018.4.28)
2020年の生保総代会(2020.7.26)
「質疑ゼロの生保総代会」(2023.7.17)

※キャンパスに学生が戻ってきました。

 

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ESR規制の原点に立ち返る

2024年11月に開催された日本アクチュアリー会・年次大会の資料が一部公表となり、以前こちらのブログで紹介した、ERM委員会のパネルディスカッション「経済価値ベースのソルベンシー規制の原点に立ち返る―新規制を有意義なものにするために―(PDF)」の様子をご覧いただけるようになりました。

*念のためこちら(アクチュアリー会サイト)も貼っておきます。

このセッションは、前半がパネリストによる報告(資料あり)、後半がディスカッションという構成でした。
当日を思い出してみると、質問をオンラインで受け付けることになっていて、手元のタブレットに質問がどんどん上がってくるのが進行役(私)にとってプレッシャーでした。後半のディスカッションのなかで多少は取り入れたのですが、想定外の質問が多くなるとパネリストの皆さんに負担をかけてしまう(そうでなくても私からの無茶振りがありましたので…)だけでなく、私たちとして伝えたかったメッセージがうまく届かなくなってしまうかもしれないので、そのバランスに苦心しました。
それでもパネリストの皆さんのおかげで、エッジの効いたセッションになったのではないかと思います。

会員向けのパネルディスカッションなので、多少わかりにくいところがあるかもしれません。ただ、すでに2025年度に入り、新たなソルベンシー規制が導入されつつあるという状況ですので、特に保険業界の皆さんにはぜひご一読をおすすめします。

※西鉄のレストランカーです。

 

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MSIとADIの合併

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1276(2025.4.7)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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合併による経営効率改善へ

MS&ADグループの中核会社である三井住友海上火災保険(MSI)とあいおいニッセイ同和損害保険(ADI)が2027年4月をめどに合併する準備に入りました。
読者の皆さんには釈迦に説法かもしれませんが、MSIは旧財閥系の大手損保どうしが対等に近い形で合併した会社である一方、ADIはパーソナル分野に強い大東京火災がトヨタと親密な千代田火災、日本生命グループとなっていたニッセイ同和損保と一緒になった会社です。同じグループとなって久しいものの、この15年間に両社の融合が進んだようには見えません。国内損保事業の構造的な問題が明らかになるなかで、両社を併存させるメリット(MS&ADの船曳真一郎社長は昨年9月のIR説明会で「代理店シェア最大化のため」と説明)よりも、合併で1つにしたほうがよりメリットが大きいという判断をしたのでしょう。
そう考えると、「それぞれの強みを維持・結集し、さらに拡大するために強力に取組みを進める」(ニュースリリースより引用)というのは、合併によるマイナス効果を何とか最小限にとどめたいという意味であり、1プラットフォーム戦略など、これまで進めてきた一体運営ではさらなる効率化には限界があるので、合併で経営効率の改善を一気に図り、「経営資源の全体最適を実現」(同)させるということだと理解できます。

持株会社によるガバナンス強化

筆者は、国内損保事業の効率改善以上に重要なのは、持株会社によるガバナンス発揮ではないかと考えています。
これまで様々なメディアで、企業向け保険料の事前調整問題と、旧ビックモーターによる保険金の不正請求事件は、損保業界が護送船団行政の時代に形成したコンダクト(企業行動)を、自由化後も温存してきたことが問題の本質であると指摘してきました。情報漏えい問題も同じです。不適切なコンダクトを温存できた要因は、各社がビジネスモデルの見直しではなく、業界再編によって競争相手を減らす戦略を選んだことが大きいと見ていますが、再編で設立された持株会社のガバナンス機能が弱く、グループ管理のダブルスタンダードがまかり通ってきたことも挙げられます。
持株会社は、新たに買収した海外事業の経営者には、当然ながら投資(すなわちリスクテイク)に見合ったリターンを求めるのに対し、国内自然災害と政策保有株式という2大リスクを抱えているにもかかわらず、こうしたリスクベース経営ではなく、規模やシェアを追求する国内損保事業をなかなか変えようとはしませんでした。会社価値の拡大を求める株主からすると、持株会社がむしろ盾(たて)の役割を果たしてきたことになります。

お気付きの通り、これはMS&ADグループだけではなく、同じく中核損保で問題が発覚した他の大手2グループにも共通した課題です。とはいえ、MS&ADでは傘下に中核損保が2つあることで、持株会社が監督・指導よりも、調整や対外説明に労力を費やしていた可能性があります。
筆者は、合併で国内トップシェアの損保が誕生すると誇るのではなく、中核損保の合併を契機に、持株会社のガバナンスを十分に発揮できる体制づくりができるかどうかが重要だと考えています。

※今年は天守台から桜を眺めることができました。福岡にて。

 

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保険の面倒くささ

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1272(2025.3.10)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
今週は諸般の事情により京都に滞在しています。北野天満宮の梅がきれいでした。
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ネット保険の普及に時間がかかっている

ネット経由の保険販売は徐々に拡大しているとはいえ、まだ広く普及しているとは言えません。自動車保険ではようやく1割程度のシェアに達したところですし、生命保険・医療保険のネット販売は全体の1割未満です。
加入時にネットで情報を得た人は多いのではないかと思いきや、生命保険文化センターの調査によると、生命保険・医療保険加入時の情報入手先(複数回答可)として「ホームページ」を挙げた人は、たったの6%でした。

自動車保険に関して言えば、「1割程度」というのは収入保険料で比べたものなので、仮にネット経由の単価が代理店経由よりも平均して3割安く、かつ、自動車保険市場の4分の1が企業向けだとすると、実質的にはすでに2割程度のシェアと見ることもできます。情報入手先の「6%」も、保険会社や保険比較のサイトにアクセスしなかっただけで、ネットで保険関連の情報に接した人はもっと多いかもしれません。
とはいえ、前向きに表現したとしても「普及に時間がかかっている」のは確かです。

保険の検討は面倒くさい

あくまで個人的な見解になりますが、価格が明らかに安いにもかかわらず代理店経由からダイレクトへのシフトが徐々にしか進んでいないのは、保険を検討する「面倒くささ」が影響しているのではないかと考えています。
例えば、顧客が最初に自動車保険に加入しようとするのは、自動車を購入するときです。しかし、顧客がディーラーで積極的に検討したいのは自動車そのものであって、自動車保険を詳細に検討したいという人は少ないでしょう。そこで多くの人はディーラーに勧められるまま保険に加入するのが一般的でした(今後はどうなるでしょうか?)。
1年後の満期更改は顧客にとって自動車保険を見直すチャンスです。ところが保険は投資商品などとはちがい、ニーズがネガティブなので、どうしても検討するのが面倒くさいと感じてしまいがちです。
さらに生命保険や医療保険では、加入の必要性を頭のどこかで認識していても、それを行動に移すのは面倒くさいことだと思います。

「面倒くささ」をどう克服するか

早稲田大学の星野明雄先生は著書『保険商品開発の理論』のなかで、保険の面倒くささには、「必要だと感じていても、今はやりたくない」という心理的なわずらわしさと、「契約に必要な情報が多く、内容や手続きが煩雑」という内容面のわずらわしさの2つが強く存在すると述べています(星野先生は前者を「保険の重荷感」とも表現しています)。
そして、顧客が面倒くささを乗り越えるには、プッシュ型の勧誘が有効という見方ができるかもしれないとしたうえで、他方で消費者ニーズにそぐわない勧誘販売を正当化してしまうおそれがあると述べています。

もっとも、今は「面倒くさいから販売員の言うなりに保険加入する」という人が多いとしても、もし、「販売員よりもネットのほうが信頼できる」「プッシュ型は顧客本位ではない」が社会的なコンセンサスになれば、どうなるでしょうか。しかも、内容面のわずらわしさに関しては、技術の進展がネット保険のほうにより追い風となるでしょう。リテラシーのちがいによって、「面倒くさいからネットが示した最低限の保険に加入する」という人と、「面倒くさいから保険に入らない」という人に2極化するかもしれません。
いずれにしても、保険は今後も対面販売が中心と、現在の延長線上で判断するのは早計ではないかと思います。
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火災保険の誕生

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1268(2025.2.10)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
福岡でも積雪を覚悟していたのですが、市内ではほとんど積もることはなく、拍子抜けでした。北九州や佐賀ではだいぶ積もったようなので、不思議なものです。
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雪害の補償

この冬1番の強い寒波の影響で、福岡市の最低気温は氷点下まで下がりました。雪害を被った全国の皆さまにお見舞い申し上げます。
火災保険が実質的に「自然災害保険」になって久しいとはいえ、風水災害だけではなく、雪による災害も火災保険の補償対象となっていることを知らない契約者は意外に多いのではないでしょうか。特に、普段はあまり積雪のない地域では、雪害補償を知らせるいい機会かもしれません。

火災保険のルーツ

もともと火災保険は、文字どおり火災による損害を補償するための保険として登場しました。
イギリスで火災保険が生まれたきっかけは、1666年に発生したロンドン大火と言われています。当時のロンドンではほとんどの家屋が木造で、道路も狭く、この大火によって市街の約8割が燃えてしまいました。
そこで大火後のロンドンでは、非木造の耐火建築が推奨されるとともに、すでに存在していた海上保険をヒントに、火災保険を提供する会社が相次いで設立されました。これが世界の火災保険のルーツの1つとされています。初期の保険会社であっても、火災の発生率や建物の数から保険料を算出していたそうです。

日本での対応

ところで、日本でもロンドン大火と同じころ(1657年)、江戸で明暦(めいれき)の大火が発生し、やはり市街地の大半が焼けてしまいました。その後、道幅を広げるなどの防火対策は取られたものの、大火後の復興期に火災保険のような補償制度が誕生したという記録はなさそうです。
その一方で、江戸幕府は消防制度を充実させていきます。もともとあった大名火消(だいみょうびけし)に加え、大火の翌年には幕府直轄の「定火消(じょうびけし)」を組織しました。さらに18世紀には、町人のための消防組織である町火消(まちびけし)を制度化しています。

ロンドンの消火活動は保険会社が担う

火災保険が生まれた当時のロンドンには、組織的な消防隊がありませんでした。そこで、保険会社は補償を提供するだけではなく、自前の消防隊を持ち、消火活動を行いました。自ら消火活動を行うことで、保険金の支払いを減らそうとしたのですね。火災保険の加入者の家には保険会社の「ファイアマーク」が掲げられ、消火活動の目印となっていました。
ロンドンの消防組織が公営となるのは19世紀になってからです。

同じ17世紀の大火の後、イギリスでは火災保険が生まれ、日本では公的な消防組織ができたのは、あくまで素人考えですが、当時の社会構造の違いが大きかったように思います。
当時のイギリスはピューリタン革命後の王政復古の時代で、王権が絶対的なものではなく、かつ、海上貿易で覇権争いをしていた時代でした。力をつけた商人たちには、自らの財産を自らで守るニーズがあったはずです。そこで、公的な消防組織が整備される前に、民間で消火活動を行う火災保険会社が誕生したのではないでしょうか。
他方、当時の日本は江戸幕府による統治が安定期を迎える一方、貨幣経済の発達はこれからという時代でしたので、イギリスのような民間による民間のためのしくみが登場する素地はなかったと考えられます。

なお、火災保険には他にも源流があります。民間が主体のイギリスとは違い、17世紀のドイツ(ハンブルク)では、規模の小さい複数の相互扶助組織を一本化して、公営の火災保険組織が誕生しました。
明治時代の日本では、当初このドイツの公営火災保険制度の導入を検討したそうです。しかし、政府は最終的には民営を採用し、1888年に日本初の火災保険会社として東京火災保険会社(現在の損害保険ジャパン)が業務を始めました。
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書評『日本の歴史的建造物』

1月31日(金)の夜、NHK大阪「かんさい熱視線」という報道番組に、ファイナンシャルプランナーの清水香さんとともに生出演してきました。関西地区限定の放送ですが、NHKプラスであれば2月7日まで視聴可能です。
テーマは「火災保険の値上げへの対応」で、私は保険会社経営の視点からコメントしました。ご覧になったかたのなかには、「いやいや、火災保険は赤字が続いているかもしれないけれど、大手損保は過去最高益を更新しているのだから、保険会社寄りのコメントをしやがって」と思ったかもしれません。
しかし、火災保険の赤字を生保や海外など他の事業(資産運用収益を含む)で補うという収支構造は、保険会社として健全ではありません。リスクに応じた保険料を集めるのが保険が成り立つ大前提です。それに、もし皆さんが加入している生命保険が大幅な黒字で、保険会社から「これで火災保険の穴埋めをさせてもらいます」と言われたら、納得できるでしょうか。

さて、週刊金融財政事情(2025年1月21日号)に載った書評「一人一冊」をこちらでもご紹介します。今回は光井渉さんによる『日本の歴史的建造物 社寺・城郭・近代建築の保存と活用』を取り上げました。以下、引用となります。

歴史的建造物の「正しい」在り方とは

一昨年の夏、長崎を訪れた際に出島に立ち寄った。説明するまでもなく、出島は鎖国下の江戸時代に、西洋と直接交易を行っていた唯一の場所である。明治になって役目を終えた出島は、周囲の埋め立てで姿を消した。しかし、1950年代から長崎市による復元事業が始まり、今ではオランダ商館長の事務所・住居をはじめ、鎖国期の建物がいくつも復元され、長崎らしい人気の観光スポットとなっている。
見学を終えて、歩き疲れた私は出島内にあるクラシックな洋館(長崎内外倶楽部)のレストランに入り、長崎名物ミルクセーキを味わったのだが、そこでふと気が付いた。この洋館が建てられたのは明治36年とのことなので、当然ながら鎖国時代の出島には存在しなかった建造物である。それなのに、どうして復元した出島に存在しているのだろうか。

本書の第四章によると、当初の整備構想では、史跡的な価値を重視して出島内の洋館群を取り壊し、江戸時代のオランダ商館
を再現することが検討された。だが、他方で長崎市は山手地区などに残る洋館群を町並みとして保存する施策を進めており、洋館の取り壊しはその方針に反する。そこで、出島の範囲を三つに分け、それぞれ異なる時代設定で保存ないしは再現することにした。
商館の再現に当たっては歴史に対する最大限の配慮がされたとはいえ、結果として、かつて一度も存在しなかった景観が出現してしまったのである。

ここまで分かりやすい事例は少ないかもしれないが、歴史的建造物の再現とは、再現時において意識的に選び出した、いわば「理想としての過去」だと気付かされた。
社寺や城郭、あるいは出島のような史跡ではなく、文化的な価値が認められる民家や近代建築(特に都市部)の保存となると、さらなる壁があるという。現代的な活用が提案できないと保存が実現しない一方で、現代的な活用には「リノベーション」が必要で、それによって何らかの文化的な価値を失うことが避けられない。
日本建築史を専門にする著者は、これに対する確たる回答は見出されていないとした上で、部分的な変更や更新を許容しつつ全体としての特質や価値を保持しようとする「インテグリティ」という概念が重視されるようになっていると指摘する。

観光で社寺や城郭を訪れたり、重要伝統的建造物保存地区に選ばれた町並みを散策したりした際には、これらの文化的な価値だけではなく、保存の在り方についても考えてみてはいかがだろうか。

 

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ガバナンス改革とメディア

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1264(2025.1.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。前回のブログ記事(次期社長の選任)がやや舌足らずだったので、同じテーマを取り上げました。
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次期社長の選任

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
さて、新年最初の個人ブログ(保険アナリスト植村信保のブログ)では、気になるニュースとして日本生命保険の社長人事報道を取り上げました。
日本生命は2022年にコーポレートガバナンス体制を刷新し、監査等委員会設置会社に移行するとともに、社外取締役が過半数を占める「指名・報酬諮問委員会」を設置しました。つまり、社長選任のプロセスが従来とは大きく変わったはずなのですが、残念ながら今回の社長人事でも、「現社長から『次を頼む』と告げられ、即断した」という記事はあっても、新たな選任プロセスを踏まえた報道は見当たりませんでした。

「社長が社長を選ぶ」でいいのか

読者の皆さんのなかには、今の社長が次の社長を選ぶのは当然と考えているかたが多いかもしれません。しかし、コーポレートガバナンスの観点、すなわち経営者への規律付けという観点からすると、現社長が次期社長を選ぶのは好ましくありません。現社長が有能な後継者を選ぶとは限りませんし、社長OBがいつまでも社内で力を持ち続けることになりかねません。
社長やCEO(最高経営責任者)の選解任は取締役会の仕事であり、持続的な成長のためには無能な経営者を選ばないように、客観性・透明性の高い手続きが求められています。

上場企業の行動原則を定めた「コーポレートガバナンス・コード」には、「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである」(補充原則4-3(2))とあります。

ガバナンス改革とメディアの役割

日本生命は上場企業ではなく、コーポレートガバナンス・コードの適用対象ではありませんが、相互会社に該当しないと考えられるものを除き、ガバナンス・コードの各原則のすべてを実施しているとのことです。日本生命が任意に設置した指名・報酬諮問委員会は、社長の選解任を支援する機関であり、ガバナンス・コードに沿った取り組みでもあります。
しかも、日本生命の社外取締役で、指名・報酬諮問委員会の委員長を務めている牛島信弁護士のインタビュー記事によると、前回の社長選任でも社外取締役との打ち合わせが何度も行われたそうなので、今回もガバナンス上、きちんとしたプロセスを踏んで社長を選任したのではないかと思います。

問題はこうした選任プロセスを報じないメディアの姿勢です。もちろん、詳細な説明をしない会社にも問題はありますが、メディアは記者会見などでもっとガバナンスに関する説明を求めるべきです。
ガバナンス改革が進み、形式面だけではなく実体を伴っているかが問われているなかで、メディアはいつになったら「社長が社長を選ぶのを当然視したかのような報道はおかしい」と気づくのでしょうか。
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※今年最初の海外旅行はソウルでの学会発表でした。

 

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関東部会で報告しました

13日(金)に開催された日本保険学会・関東部会で「ソルベンシー規制『第2の柱』の実効性に関する考察」を報告しました。
当面の間、学会サイトで報告レジュメをご覧いただけます。

今回の報告は、IMFが概ね5年に1回行っている金融セクター評価プログラム(FSAP)の保険行政に関する報告書から、日本の保険行政(特に健全性政策)の現状をつかもうというものです。
2024年のFSAP報告書は日本の保険行政についてかなり辛口な評価となっているのですが、報告書の記載をそのまま鵜吞みにするのではなく、すでに2011年に経済価値ベースのソルベンシー規制を採用し、進んだ保険行政とされるスイスと、日本のように長期固定利率商品が多いドイツのFSAP報告書と比べたり、日本の保険会社(大手・中堅7社)へのヒアリングを実施し、FSAP報告書の記載を確認したりしました。
ただし、報告まで時間がなかったため恥ずかしながら未完成のところもあり、論文として出すまでには完成度を高めるつもりです。

金融庁の保険行政を批判するのが本研究の目的ではなく(現場の皆さんは多くの制約のなかで職務に尽力されています)、新たな健全性規制の導入を契機として、少しでも「あるべき方向」に向かうにはどうしたらいいかを考える材料を提供できればと考えています。

※今年の秋は短かったですね。

 

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損保WG報告書案が判明

少し遅くなりましたが、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1260(2024.12.09)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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日経新聞にコメント掲載

報告書案の概要は金融庁のサイト、あるいは本誌をはじめ報道等でご覧いただくとして、ここでは6日付の日本経済新聞に載った自分のコメントについて解説したいと思います。
紙の新聞に載ったコメントは次のとおりです。

(企業向け保険の問題について)福岡大学の植村信保教授は「企業の意識が変わらなければ取引慣行も変わらない」と指摘する。

電子版のほう(会員限定)にはもう1つコメントが載っています。

(損保会社に加え、大規模代理店への監督を強める方針について)植村氏は「金融当局のリソース不足も大きな壁になっている」と話す。

取引慣行を変えるチャンス

ご想像のとおり、取材の際にこの2つしか話さなかったということではありません。紙面の制約もありますし、むしろボツにならなくてよかったと前向きにとらえています。大学の宣伝になるかもしれませんので(笑)
そのうえで、記者さんにお伝えした内容を簡単にご紹介します。

そもそものご質問は、当然ながら「今回の制度改革が損害保険市場や業界を変えることにつながるか」でした。そこで、全体としては前向きにとらえていることを伝えました。保険金不正請求事案にしても保険料調整行為事案にしても、もちろん起きてはならないことです。ただ、両事案が明らかになったことで、かつての規制時代に形成され、その後も温存してきてしまった「いびつな取引慣行」から損保業界が脱却する絶好のチャンスとなっていることは間違いありません。
それぞれの施策がどの程度の実効性を持つかどうかは今後の制度設計によるところが大きいので、あまりコメントしませんでしたが、大規模乗合代理店への規制・監督の強化や保険契約者等への過度な便宜供与の禁止など、改革の方向性は理解できるところです。

改革案に盛り込まれていないこと

そのうえで、今回の制度改革案には必ずしも盛り込まれていないように見える3つの点をお話ししました。
1つめは、企業のリスクマネジメント意識を変えることにつながるような対策がほしいという点です。リスクマネジメントの一環として保険購入があるという当たり前のことを企業経営に理解してもらうには、どうしたらいいのでしょうか。
2つめは、「金融当局のリソース不足も大きな壁になっている」というコメントのとおりです。
3つめは、火災保険の赤字構造の改善について、もう少し踏み込んだ議論をしてほしかったという点です。グループとして、リスク管理の進化形と言われるERM経営を標榜していた損保会社が、現実にはリスクに応じた適切な保険料を顧客に提示できなかったのはどうしてなのでしょうか。これに対し、金融庁による「態勢整備状況のモニタリングを高度化していく必要がある」とありますが、これまでのモニタリングをどう変えていくのか、外部からは全くわかりません。
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※今年のRIS2024も大盛況でした。

 

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RIS2024全国大会

早いもので今年もRIS(全国学生保険学ゼミナール)の全国大会が近づいてきました。
今年のRIS2024の会場は日本大学商学部のある東京・世田谷区の砧キャンパスです。昨年は福岡大学での開催だったので、皆さんをお迎えする準備だけすればよかったのですが、今年は自分の学生を引率しなければなりません(といっても現地集合ですが)。
おそらく新宿で小田急線に乗り換える学生が多いはずなので、念のため下見に行ったところ、写真のとおり大工事をしていて、私も迷ってしまいました。
まあ、そうは言ってもスマホがあれば、何とかたどり着けるでしょう。

大会要綱によると、今年のRIS2024には13大学15ゼミが参加し、12月7日(土)午後から8日(日)にかけて、2日間にわたり報告を行う予定です。
昨年もお伝えしたとおり、RISの大会は大学生と教員だけで閉じられたものではありません。毎年多くの実務家にご参加いただき、報告への質問・コメントをいただいています。土曜日の夕方には懇親会もありますので、リスクと保険を学ぶいまの大学生に触れる貴重な機会となるかもしれません。
現在、大会参加の申し込みを受け付けていますので、ご興味のあるかたはぜひご参加いただければ幸いです。詳しくは大会要綱の7ページをご覧ください。

肝心の報告内容ですが、植村ゼミは3班とも本番直前の今になっても、データ収集や分析、考察に取り組んでいるという状況でして、時間との戦いとなっています(討論ゼミの皆さまにはご迷惑をおかけしてすみません)。

自分の指導力のなさを棚に上げたうえで、今年に限らず、そもそも課題を見つけるのが苦手な学生が多いように思います。さすがに大学生なので「少子高齢化」「AI」「SDGs」「地域活性化」といった今どき?の知識はあるものの、あくまでも学校などで学んだ知識(というか用語)であって、知識が体系的に身についていないというか、頭の中でうまく整理されていないのですね。だから、いろいろとヒントを出しても引き出しから何も出てきません。
これは推薦入試の面接試験でも感じることでして、今の高校では「総合的な探求の時間」など社会課題を見つけ、解決策を探るといったこともやっていて、自分たちが何をしたかを説明することはできます。しかし、その説明に関して何か質問すると、途端に回答に詰まってしまう生徒が目立ちます。知識量の問題ではなく、それぞれの知識がつながっていない、あるいはつなげて考える習慣がないということなのでしょうか。

大学の教員ができることは限られているとはいえ、RISの活動を通じて少しでも彼らが成長してくれればいいですね。

※新宿西口です!

 

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