15. 執筆・講演等のご案内

売買上手のJリーグに

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1240(2024.7.8)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。今回取り上げたのは「カズ」の人気コラムです。
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カズの新たな挑戦

サッカー元日本代表のカズこと三浦知良選手は、私と誕生日が3日違いの同い年で、勝手に親近感を抱いています。先日ポルトガルから帰国し、今月からJFL(公式サイトによると、企業チーム、Jリーグ入会を目指すクラブ、地域のアマチュアクラブなどが参加するリーグ)のアトレチコ鈴鹿クラブに期限付きで移籍加入し、現役選手としてプレーすることになりました。14日から自身の持つJFL最年長ゴール記録の更新を狙い、ゴールと勝利を目指します。
さすがに近年は出場機会が減っているようですが、57歳になってもプロスポーツの世界で挑戦し続ける姿には圧倒されます。

コラム『サッカー人として』

日本経済新聞を読んでいるかたであれば、三浦選手の連載コラム『サッカー人として』をご存じだと思います。私はこのコラムの愛読者でして、時々「本当に本人が書いているんだろうか?」と思うような鋭い内容もあって、おすすめのコラムです。

6月7日掲載の「売買上手のJリーグに」もそうでした。欧州と日本のサッカー市場を比べた内容で、日本のスポーツ界はせいぜい「出したお金の元がとれるかどうか」という発想なのに対し、欧州は投資した資産の価値を高め、ベストの売り時を逃さないという意識でビジネスをやっていて、選手も条件次第で出ていくことにためらいはない。同じサッカーでも全く違う世界だというのですね。
その結果、欧州ではJリーグに所属する選手の商品価値はないに等しく、Jリーグは日本選手をタダ同然で欧州に譲り、そこで活躍して市場価値が跳ね上がるという構図だとか。コラムではわかりやすく極端に述べている面はあるにせよ、これは日本選手の実力の問題ではなく、日本のスポーツビジネスが世界標準ではない、あるいは世界と同じ土俵ではないということなのでしょう。これは強烈な指摘です。

グローバル保険グループを目指している大手保険グループの国内事業が、30年前と変わらないトップライン重視、シェア重視だったり、あるいは、いまだにリスクマネジメントの専任担当者を置かず、保険購買を人事・総務部門や企業内代理店に委ねている大企業が決して少なくなかったりするのを見ると、日本企業がグローバルな資本市場から高く評価されないのは当然かもしれません。カズの指摘と同じなのですから。
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※福岡に来た息子からプレゼント!

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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オープンセミナーで登壇

6月22日(土)に横浜でRINGの会オープンセミナーが開催され、1000人を超える参加者の前で、無事(?)MC兼コメンテイターを務めました。
今回は週刊ダイヤモンドの藤田章夫記者、週刊東洋経済の中村正毅記者という、一連の損保問題について地道に報道してきたお二人に登壇していただけることになった時点で、私の仕事の半分以上は終わっていたのかもしれません。とはいえ、せっかくお招きしたゲストから貴重なコメントを引き出そうと、私なりに取り組んだつもりですが、いかがでしたでしょうか。

今回の問題発覚をきっかけに損害保険会社は本当に変わるのか。ここに至ってもなお、保険会社が旧来の取引慣行や企業文化を引きずっている事例を報じているお二人からは、悲観的なコメントが相次ぎました。
これに対し、楽観的と言うべきかどうかは微妙ですが、私は昨今のガバナンス改革の流れからしても、このままでいられるはずがないと考えていまして、お二人とは異なるコメントになりました。

セミナーを主催するRINGの会のメンバー(正会員)は、総じて情報感度も経営意識も高い損保プロ代理店です。そこでセミナー前に、今回の一連の問題による代理店経営への影響としてどのようなことを心配しているかをたずねてみたところ、「プロ代理店には影響がない」「むしろ追い風」という見解が多くみられました。
保険会社がほとんど変わらないという前提であれば、その通りかもしれませんし、「追い風」論も間違いではないと思います。しかし、保険会社が求められているのは「有力代理店ではなく顧客を向いた経営への転換」だけではなく、「経済合理性に基づいた企業価値向上を目指した経営への転換」です。
前者だけであれば、RINGメンバーのような顧客と真摯に向き合ってきた代理店には追い風と言えるでしょう。しかし、後者はどうでしょうか。例えば、これまでよりも引受規律を重視するようになった保険会社と代理店はどう付き合っていくのか。あるいは、保険会社が長年の懸案だった「二重構造」を一掃するため、代理店の選別を一段と進めるかもしれません。
そこで、セミナーの後半に、あえて強い口調で「大間違い」というコメントをしました。参加した皆さんにうまく伝わっていればいいのですが…

 

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政策保有株式の売却

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1236(2024.6.10)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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残高ゼロを目指す

保険料調整問題で金融庁から行政処分を受けた大手損害保険グループは、企業保険における歪(いびつ)な取引慣行の一因となっている政策保有株式をなくすと発表し、その決定を株式市場が好感しているようです。
確認のため、3グループの方針を示しておきましょう。

【東京海上】
・政策保有株式を今後3年間で半減させ、2029年度末にゼロにする。
・純投資への単なるラベル替えは行わない。

【MS&AD】
・2029年度末残高ゼロに向け、可能なかぎり前倒しで削減していく。
・資産運用ポートフォリオ最適化の観点から、政策株式の一部を事業投資や純投資へ振替することを検討。

【SOMPO】
・2030年度までに政策株式の保有ゼロを目指し、売却を加速。
・発行体との対話を強化。
・純投資への振替の有無については不明。

売却益は会社価値を高めない

3グループが保有する政策保有株式の時価は、2024年3月末時点で合計9兆円弱、簿価は約1.5兆円なので、売却すると多額の売却益が実現します。つまり、今後数年間は株式売却益によって各社の期間損益がかさ上げされるのはほぼ確実です。売却益を使って株主還元を増やすことができますし、実際、MS&ADとSOMPOは売却益の50%を株主還元すると公表しています。
株式市場がこうした還元強化を好感しているのかどうかはわかりません。とはいえ、理屈からすると、売却益による株主還元が会社価値を高めることはなく、もともと株主資本(純資産)として持っていたものを、税引後で株主に還元していくだけの話です。
いくら会計上の利益が出るからといっても、それで会社価値が高まるというものではありません。

資本効率の向上

それでは政策保有株式の売却は会社価値にどう影響するのでしょうか。
どの事業であっても、会社を経営するには「リスク」「リターン」「資本」の3つをうまくコントロールしなければなりません。資本の出し手は経営者にリターンを求めます。リスクをとらなければリターンは得られません。しかし、リスクをとりすぎた状態で多額の損失が生じると、資本が不足してしまい、事業を続けられなくなるかもしれません。

純投資でも政策保有でも株式を保有すればリスクを抱えることになり、その備えとして資本を持っておかなければなりません。とりわけ政策保有株式の場合、同じだけ資本を使っても株式のリターンを期待しない投資であり、資本効率の低下を招きます。加えて保険会社の場合、2025年度からの新たなソルベンシー規制では、株式保有のリスクに対し、時価の35%の資本(支払余力)の確保を求められます。
株式を売却すれば、リスクに備えて確保していた資本が不要になります。高いリターンが期待できて、かつ、経営者が得意とする分野に新たな投資を行うことが可能です。株式保有リスクが減り、しかも将来の期待リターンが高まるので、会社価値が向上するというストーリーです。
もし、新たな投資を行う分野が見つからないのであれば、不要になった資本を株主に返すのが本筋です。資本はタダで得られているのではないので、現預金などリターンを生まない資産として寝かせておくのは、会社価値を毀損する行為となります。

株主をはじめ、お金を出してくれている外部ステークホルダー(利害関係者)の目線で会社経営を考えるにあたり、今回の「政策保有株式の削減」は優れた教材と言えるでしょう。
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※紫陽花の季節ですね。

 

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日本の保険会社による海外M&A

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1232(2024.5.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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韓国保険学会が創立60周年を迎え、日本保険学会を代表するかたちで記念大会に参加し、スピーチをしてきました(5月10日)。日本保険学会と韓国保険学会の関係も50年前から続いているそうで、改めて日韓の近さを感じました。

保険会社のM&Aについて講演

私の講演テーマは「日本の保険会社のM&Aについて」。これは韓国保険学会からのリクエストに応えたものです。
韓国でも少子高齢化が進み、国内市場の将来的な縮小が見込まれるなかで、近年の日本の保険グループによるM&Aを通じた積極的な事業ポートフォリオ見直しに非常に関心があるとのことでした。そこで、日本の保険会社による主な海外M&Aを紹介したうえで、大手損害保険グループのM&Aを通じた海外保険事業(特に先進国市場)の拡大について、次の4つの背景が考えられるという話をしました。

・将来的に国内市場の縮小が見込まれる
・海外再保険会社に頼らずに保険引受リスクの分散ができる
・高い信用力を活用できる
・株主からの資本有効活用への強い期待に応える

海外M&Aのほか、近年では介護事業など、M&Aによる異業種への進出も目立つという話も紹介しました。

なぜM&Aなのか

うれしいことに、講演後には多くの質疑応答がありました。そのなかで特に印象に残った質問は次の2つです。
1つは、「海外に子会社を設けるのではなく、なぜ買収による事業拡大なのか?」という質問です。あくまで私の考えではありますが、簡潔に言えば「時間をお金で買った」という趣旨の説明をしました。
過去の成功事例として、損害保険会社による子会社方式での生命保険事業進出を振り返ってみても、損保の顧客基盤や販売網などを活用できたにもかかわらず、一定規模となるにはかなりの時間を要しています。他方で韓国の大手保険会社による海外M&Aは新興国が中心なので、グループへの利益貢献が非常に小さいとのことでした。
ちなみに、講演のなかではM&Aの失敗事例の話もしています。

純投資なのか事業投資なのか

もう1つは、「海外M&Aの目的は純投資なのか、それとも事業による利益獲得をねらったものか」という質問です。
私の考えでは後者、つまり、事業による利益獲得をねらったものという回答になります。純投資であれば、ある保険会社1社に多額の資金を投じるよりも、同じ金額を使って多数の保険会社に投資したほうが、同じ期待リターンでもリスクは小さくなります(ポートフォリオ理論ですね)。
それでも特定の会社に投資をするというのは、国内中心の事業展開から脱却したほうが将来的にグループ全体としての価値を高めることができるという経営判断が、どこかの時点であったはずです。さらに、自らが大株主となることで、買収先の価値をこれまで以上に高めることができるという期待もあるのでしょう(プレミアムを支払ってまで買収しているので)。

ただし、ここで問題になるのが相互会社の場合です。純投資であればまだ理解できるとしても、成長が期待できるからといって海外の保険会社を買収し、グループとして非社員契約を増やしてしまうのは、契約者が会社の構成員(社員)となっている相互会社のあり方として適切なのかという疑問が生じます。また、株主と相互会社の社員では、経営陣への期待(リスクのとり方など)も異なると考えるのが妥当です。
おそらく質問者にそこまでの意図はなかったでしょうが、これはいい質問だと思いました。
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※韓国の鉄道博物館に行きました。

 

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夢の共演!?

6月22日開催の「RINGの会オープンセミナー」に登壇するという話を4月21日のブログでご案内しましたが、週刊東洋経済の中村正毅記者に加え、週刊ダイヤモンドの藤田章夫記者もお迎えして、3人で損保問題について鼎談することになりました。

東洋経済の中村記者は早くからビッグモーター問題やカルテル問題に注目し、SOMPOホールディングスの調査報告書にもX社として掲載されたほか、最近も損保業界の取引慣行に関する記事を発表しています。
ダイヤモンドの藤田記者は保険業界に長くかかわり、毎年の保険特集を楽しみにしている業界人も多いと思います。今年の特集は「保険 vs 新NISA」という意表を突いたものでしたが、読むと納得の企画でした。

オープンセミナーの参加者は主に保険代理店と保険会社の役職員なので、お二人とも、もしかしたら敵地に乗り込むような気持ちかもしれません。
とはいえ、損保問題について客観的な立場から話ができる貴重な方々ですし、長く保険業界をウォッチしているだけあって、単なる批判では終わらない深みがあります。
当日は3人で大いに語りたいと思いますので、ぜひ横浜のセミナー会場でお会いしましょう。私も今から楽しみです。

※ソウルで鰻を食べました!

 

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ESR規制と生保の資産運用

簡易保険加入者協会の委託研究として2022年度から関わってきた「ESR規制と生命保険会社の運用に関する研究会」の報告書が同協会サイトで公表されました。
この研究会は経済価値ベースのソルベンシー規制と生命保険会社の資産運用について、若手を含めた研究者で議論を行うというもので、私が座長を務めました。報告書は前半(第1部)が議論の主な内容、後半(第2部)は議論を踏まえた若手研究者の報告要旨となっています。

座長としてこだわったのは、規制以前の話として、そもそも生命保険会社は顧客に何を提供していて、それにはどのような資産運用が必要となるのかをメンバーで確認することでした。「そこから話をするのか!」と心配する向きもあったそうですが、実際の保険会社の姿を議論の出発点にしてしまうと、どうしてもバイアスがかかると考えたためです。

毎回メンバーどうしの議論が活発に行われ、議論の主な内容は「第6章:本研究会での主な議論・論点」としてまとめていますので、ご覧いただければと思います。
保険会計に関しては、もっと時間があれば「業績とは何か」「会計情報で誰が何を見たいのか」という議論をしたいところでしたが、時間切れで両論併記のようになっています。
他方でメンバーの意見が一致したのが、研究者から見ても「現状の情報開示は不十分」という話で、第5章の最後に以下のコメントを示しています。

・この研究会でわかったのは、データがあまりにも出てきていないということ。開示の底上げが必要で、特定の一部の会社のみが開示しているという状態では研究を進めようがない。

・新たな規制の第3の柱については外部関係者が声をあげないと、どうしても金融庁と業界の検討が中心になってしまい、業界からは積極的に開示したいという声は出にくいので、結果として妥協案的なものにまとまってしまう可能性がある。

・なぜ開示が重要かということを訴えていかなければならない(エージェンシー理論)。単に我々が知りたいというだけではなく、生命保険会社というインフラを機能させるためには開示がないといけない。

・「これだけリターンがありました、でも、これを作り出すためにこれだけのリスクがありました」というように、リスクとリターンを両方開示するといい。

・金融庁の報告書に掲載されている、「各リスクにおける更なる内訳の開示について、会社の戦略的ポジションが明らかとなる情報が含まれる場合、競争上の不都合が生じるおそれがある」という保険会社からの意見について、「競争上の不都合」とは何に対して言っているのか理解できない。

このような厳しい声が研究者からあがっていることを、生命保険業界や金融庁はわかってほしいです。

※キャンパスにいろいろなキッチンカーが出店しています。

 

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金融庁が有識者会議を設置

損保問題の有識者会議に関して、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1228(2024.4.8)に論考を寄稿しました。当ブログでもご紹介いたします。
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昨今の保険金不正請求問題(いわゆるビッグモーター問題)および保険料調整行為問題(同カルテル問題)を受けて、金融庁が「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」を立ち上げ、3月26日に第1回の会合がありました。
金融庁はYouTubeでの動画配信(アーカイブなし)のほか、当日の資料を公表しています。
そこで「事務局(=金融庁)説明資料」と「日本損害保険協会説明資料」を比べてみました。

そこから見えたのは、金融庁による厳しい見解です。2つの問題の背景には構造的なものがあるため、金融庁は個社や業界の自主的な取り組みだけでは是正が難しいと認識しています。
着地点はまだ見えませんが、是正に向けた何らかの制度改正が行われ、保険流通に関わる皆さんの業務に影響が及ぶと考えておくべきかと思います。

保険金不正請求問題

損保協会の説明資料では、主な要因として「保険金支払管理態勢が不十分」「効率的な損害調査の実施の弊害」「修理工場による不適切な保険金請求」「一部代理店によるコンプライアンス意識の不足」を挙げ、それぞれについての対応状況を説明しています。さすがに損保協会としても単なる個社問題とはとらえていないことがうかがえます。

これに対し、金融庁の説明資料では真因分析として、行政処分の対象である損保ジャパンおよびSOMPOホールディングスの「営業優先・上意下達の企業文化」「内部統制機能の欠陥」「リスク認識の甘さ」を挙げています。行政処分の対象はあくまで個々の会社なので、そのような書きぶりになっています。
ただし、「(有識者会議で)ご議論いただきたい事項」には、次のような記述があります。

・大規模乗合代理店への実効的な指導・監督の確保
・大規模乗合代理店との関係に左右されない支払管理態勢
・大規模乗合代理店などの適切な評価
・(兼業の)乗合代理店による比較推奨の適切な実施
・損害保険代理店による利益相反が生じる業務禁止または防止措置の実施
・(保険料調整行為問題との共通論点として)代理店への本業支援のあり方
・(同)保険会社および代理店への実効的な監督・検査

裏を返せばこれらは構造的な課題であって、個社または業界の取り組みだけでは解決が難しいとする金融庁の見解がよくわかります
(最後の「実効的な監督・検査」は庁内の保険行政への理解・認識不足とそれに伴うリソース不足を有識者に指摘してほしいのかもしれません)。

保険料調整行為問題

損保協会の説明資料では、主な要因を「他社との接触機会が増加」「保険契約引受時に行ってはいけない行為が曖昧」「独禁法に関する啓発取組みの不足」「代理店を含むコンプライアンスリスク管理体制が不十分」としているので、対応策は考え方・留意点の提示や教育の徹底などが中心です。

これに対し、金融庁の説明資料では、行政処分に至った問題点として「企業保険分野における環境要因」「営業担当者への強いプレッシャー」「独禁法等に関する不十分な教育・監督」「コンプライアンス・顧客本位の意識の欠如」を挙げています。
さらに「(有識者会議で)ご議論いただきたい事項」は次の通りです。

・共同保険における適正な競合環境の整備
・保険契約以外の要素を反映した取引慣行の是正
・リスクに応じた適正な保険料を提示できる保険引受管理態勢の確立
・企業内代理店のあるべき姿
・独禁法等の遵守に向けた法令等遵守態勢の確立

こちらは業界と金融庁の見解の違いがより鮮明です。起きたことは独禁法違反などですが、金融庁は法令等の遵守にとどまらず、企業向け保険の取引慣行や企業内代理店にもメスを入れようとしています。
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※福岡城址(舞鶴公園)の桜です。何とか間に合いました。

 

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フィリピンの生命保険市場

フィリピンのマニラを訪問し、OLIS(アジア生命保険振興センター)の海外セミナーの講師を務めました。このセミナーはもともと2019年1月に開催される予定だったのですが、マニラ近郊の火山が噴火したため、直前に中止となってしまい、その後コロナ禍を経て、ようやく開催にいたりました。

講演にあたりフィリピンの生命保険市場について多少調べ、さらに現地で監督当局や生命保険協会の話を聞いたところ、「GDP対比での保険料の割合が低い(1%強)」「ユニットリンク型の貯蓄性商品が中心(全体の7割)」「マイクロインシュアランスが普及」「2025年強制採用のIFRSの準備が進んでいない(もともとは2023年だった)」「いくつかの会社では最低維持資本の達成が課題となっている」といった特色があるとわかりました。
フィリピンはASEAN諸国の中で最もコロナ禍の影響が大きく、ロックダウン期間も長かったそうで、保険ビジネスにも大きな影響があったとみられます。本来は2022年までに達成すべき最低維持資本の達成がいまだに課題となっていたり、IFRSの適用を2025年に延期したりというのも、もしかしたらコロナ禍が影響しているのかもしれません。

セミナー会場のマカティ市はマニラ首都圏のなかでも特別なエリアで、金融機関の高層ビルとショッピングモールがたくさんあって、先進国とほとんど変わりません(ただし警備員が多いのと、爆発物チェックが頻繁にありました)。ホテルの部屋から見えた住宅街も高級な感じでした。
しかし、この地区だけが別世界のようで、マカティを離れると新興国らしい光景が広がっていました。生命保険を購入する層が現時点では限られているのも理解できます。

保険の話から外れますが、わずかな滞在でも、マニラ首都圏は交通インフラが極めて貧弱だとわかりました。幹線道路が限られているので、大渋滞が当たり前のようです。高速鉄道は大活躍しているものの、通勤時間にはキャパをはるかに超える乗客であふれかえっていました。マニラに住む私の友人は、渋滞がひどいのでバイク(スクーター)で通勤しているとのことでした。車線があってないような道も多く、常に交通事故の危険と隣り合わせです。
他方で、カトリックの国で信仰心の篤い人が多いとか、米国統治の影響からかファストフードが発達しているとか、休憩のたびに食事をとるとか、興味深い特徴もたくさん見つかりました。

 

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大手生保の資産運用動向

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1224(2024.3.11)に大手生保の資産運用動向についての考察を寄稿しました。当ブログでもご紹介しますね。
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生保資産構成の2つの特徴

四半期開示(6月と12月)は情報が限られるとはいえ、保険契約動向と資産構成の変化をある程度把握することができます。例えば、大手生命保険会社4社(日本、第一、住友、明治安田)の過去5年程度の資産構成の推移を確認すると、2つの傾向が見えてきます。
1つは、責任準備金対応債券区分の国内公社債の残高を増やしてきたことです。この区分は保険会社だけに認められた会計処理の方法で、資産と負債のデュレーション・マッチングの実行を前提に、時価評価しなくてもいい区分となっています。この区分の公社債が増えているということは、生命保険会社が保有する超長期の保険負債の金利リスクをヘッジしようという動きが続いているということになります。
金融庁は2025年度に経済価値ベースのソルベンシー規制を導入する予定です。現行のソルベンシーマージン比率には反映されにくい金利変動の影響が、新たな規制では直接反映されるようになります。一時に比べれば長期金利も多少は上昇しているなかで、各社が超長期債を購入することで金利リスクを抑える取り組みを進めていると見られます。

外国株式等の増加

もう1つは、外国証券のうち「外国株式等」の残高を増やしてきたことです。価格変動の影響を受けない取得価額ベースで見た場合、4社合計の国内株式残高が8兆円程度でほぼ横ばいなのに対し、外国株式等はこの5年間で7兆円近く増え、直近では約12兆円となっています。
ただし、各社が海外の株式投資を加速してきたのかというと、どうもそうではなさそうです。この「外国株式等」には株式のほか、オルタナティブ投資と言われるヘッジファンドやプライベート・エクイティ(PE)、外国籍のファンドなども含まれています。「クレジット・オルタナティブ資産の積み増し(日本生命)」「高い収益率が期待できるインフラエクイティやPEファンド等へ投資(住友生命)」といったIR資料の記述や報道内容から判断すると、外国企業の株式投資よりもオルタナティブ投資を拡大してきたのではないかとうかがえます。
一般にオルタナティブ投資は株式などの伝統的な資産との相関が低く、保有資産全体のリスク分散に有効とされています。他方で流動性が低く、現金化しにくいという特徴もあります。

オルタナ投資の現状は不透明

問題はこうしたオルタナティブ投資を(おそらく)大きく増やしてきたにもかかわらず、ごく一部を除き、全く開示されていないことです。
T&Dホールディングスは傘下の大同生命と太陽生命の保有する「外国株式等」の内訳を公表しています。これを見ると、両社ともヘッジファンドとPEが外国株式等の3割程度を占め、外国社債投信も一定規模を占めているとわかります。しかし、T&Dのように外国株式等の内訳を示している会社は数社しかありません。
リスク分散の観点などからオルタナティブ投資を増やしてきたのは理解できるとしても、その現状を外部に示さない経営姿勢は理解できません。そもそも方針や計画を自ら示しているのですから、現状を開示しても「競争上の不都合が生じるおそれ」などないはずです。
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※シエナまで足をのばしました。

 

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保障性商品の販売不振

このところ気になっている生保営業職員チャネルの保障性商品の販売低調について、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1220(2024.2.12)に寄稿しました。当ブログでもご紹介します。
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決算発表の注目点

今週は主な保険会社の決算発表(2023年度第3四半期)が予定されています。損害保険会社では特に、国内の自動車保険、火災保険の収支動向に注目したいと思います。
他方、生命保険会社で気になるのは、営業職員チャネルによる保障性商品の新契約動向です。例えば日本生命グループでは、23年度上半期に営業職員チャネルの新契約年換算保険料(個人保険・個人年金)が増加したものの、IR資料によると、日本生命単体の個人向け保障性商品の販売は大幅に減った模様です。第一生命グループでも、営業職員チャネルによる新契約年換算保険料(同)は大きく伸びている一方、第一生命の商品に限れば前年同期比でマイナスが続いています。

死亡保障の販売は難しい

日本生命の営業職員チャネルの増収は、昨年1月に予定利率を引き上げた一時払い終身保険の販売拡大が大きいとみられます。第一生命では、兄弟会社である第一フロンティア生命の米ドル建て商品などの販売が増収に寄与しました。両社ともに、顧客ニーズの強い貯蓄性商品の販売にチャネルがやや傾斜してしまい、死亡保障などの保障性商品の提供が不振に陥っている構図が見てとれます。
生命保険の販売に携わっている皆さんにとって、「生命保険(個人向けの死亡保障)」「医療保険」「貯蓄性商品」のうち、最も売るのが難しいのはどれでしょうか。顧客基盤によって異なる答えとなることもありえますが、一般的には生命保険の提供が最も難しいと思います。生命保険の本来のニーズは遺族保障であり、保険金を受け取るのは加入者自身ではありません(医療保険や貯蓄性商品は自分が受け取れます)。貯蓄性商品には「お金が増える」といった楽しみもありますが、生命保険が役に立つ場面を想像するのは楽しいことではありません。だからこそ、営業職員をはじめ、対面チャネルによってニーズを掘り起こし、加入の決断を促すという販売手法がとられ、保障性商品の普及が進みました。

過去の事例

一時払いの貯蓄性商品への傾斜に伴い、保障性商品の販売力が弱まった例として、2000年に経営破綻した協栄生命のケースをご紹介しましょう。
協栄生命は特定の企業グループに属していなかったこともあり、教職員団体や各種の同業組合などと提携し、その団体の共済制度として主に保障性商品を提供していました。ところが、他社を後追いする形で1987年から一時払い養老保険の販売に踏み切り、しかも、他社が販売を抑えるようになってからもしばらく売り続けました。これには顧客基盤である提携団体からの強い販売要請に加え、「営業職員が保障性商品を売る力が落ちており、1万人体制を達成するために一時払い養老保険に走った」(当時の本社スタッフの証言)など、貯蓄性商品に傾斜した影響で営業現場の販売力が衰退していたという事情もあったそうです。
チャネルのあり方として、顧客ニーズの強いものを提供すべきというのが正論かもしれません。ただし、ドアノックツールとしての貯蓄性商品の販売にとどまらず、主力商品として新人層からベテラン層までが、比較的売りやすい貯蓄性商品に走り、保障性商品の販売力が落ちてしまうと、時間がたつほど復活が難しくなるということをこの事例は示しています。

*参考文献:植村信保『経営なき破綻 平成生保危機の真実』
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※写真は太宰府天満宮です。

 

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