15. 執筆・講演等のご案内

ディーラー代理店の是非

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1248(2024.9.9)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。まずは保険業界や自動車業界の都合に縛られずに考えたうえで、実現可能な方向に近づけていくというアプローチが望ましいのではないでしょうか。
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250万件の情報漏えい

保険金不正請求事件に続き、大型の兼業乗合代理店に関連した大規模な顧客情報漏えいが発覚しました。4社の発表によると、情報漏えい250万件のうち226万件は、自動車ディーラー代理店等が契約者情報を保険会社4社と「共有」していたというものです。

こうなってくると、次に何が出てくるかと待ち構えてしまいますが、一連の損保問題であきらかになった「いびつな取引慣行」「トップラインやシェアの確保を最優先する企業文化」を変えるには、まずはこの機会に過去の膿を出し切るべきでしょう。例えば、代理店への「過度な便宜供与」の実態を公にしたらいかがでしょうか。

兼業乗合代理店の構造的な弱さ

もちろん、専属や専業の代理店に問題がないとは言えません。しかし、代理店の「乗合」「兼業」が、それぞれ契約者保護のうえで構造的な弱さを抱えているのは確かでしょう。

乗合代理店は複数の保険会社と代理店委託契約を結んでいるがゆえに、個々の保険会社が代理店をコントロールできない状況になりやすいという構造にあります。突き詰めると、顧客の代理ではなく、あくまで保険会社の代理である代理店が、果たして複数の保険会社の代理をしてもいいのかという話です。
他方で、兼業代理店は自動車販売などの本業がほかにあり、代理店としての役割がおろそかになりやすいという構造にあります。実態を踏まえると、リスクや保険の専門性がない組織が代理店を営んでもいいのかという話です。
ディーラー代理店は「乗合」「兼業」なので、両者の弱さをあわせ持っています。

現在の代理店に「乗合」「兼業」が認められているのは過去からの経緯が大きいと理解していますが、こうした構造的な弱さを上回る顧客メリットがあると考えられてきたからでもあるのでしょう。

顧客メリットはあるのか

顧客にとっての乗合代理店のメリットは、複数の保険会社の商品を比較検討できることや、専属代理店よりも多様な商品ラインナップを享受できることです。また、兼業代理店のメリットは、自動車購入など本業利用のついで
に保険に加入できる利便性にあります。
しかし、旧ビックモーターのテリトリー制に象徴されるように、ディーラー代理店は顧客メリットよりも自社または保険会社の都合を優先する場合も多いことが明らかになりましたし、「ついで加入」は確かに便利かもしれませんが、ディーラー代理店、顧客の双方に関心があるのは自動車のことなので、保険は「とりあえず何か入っていればいい」となりがちですし、ネット普及に伴い、ディーラー以外での保険加入のハードルも下がっています。

そう考えると、「乗合」「兼業」には、構造的な弱さを上回る顧客メリットがあるというのも怪しくなってきます。保険会社との利益相反を招きやすい点を含め、もはやディーラーが代理店であり続けることの是非が問われているのではないでしょうか。
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※写真はドイツのバッハラハというライン川沿いの小さな町です。

 

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金融庁のリソース拡充を

猛暑が続くなか、ようやく季節行事(定期試験&採点やオープンキャンパス)が終わり、キャンパスが静かになりました。
さて、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1244(2024.8.5)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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有識者会議の指摘

金融庁が6月に公表した「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書は、いわゆる「損保問題」を受けた今後の保険業界の動向を知るうえで重要な手掛かりです。
ところで、この報告書の6ページに、次の2つの注記が付いているのをご存じでしょうか。「(大規模代理店に対して)金融庁及び財務局によるモニタリングを強化すべきである」のところです。

「IMFによる日本に対する金融セクター評価プログラムにおいては、金融庁に対し、保険監督に適切な人的リソースを配置し、立入検査を通常の監督プロセスの一部として実施すべきであること、及び大規模代理店等に対しては直接的な監督を行うなど、保険代理店等に対するリスクベースの監督業務のプロセスを開発すべきであること、との指摘もある」

「金融庁及び財務局において、保険会社及び代理店へのモニタリング強化のために必要な人員増強を行うべきである、との指摘もある」

2つめのほうは、会議のなかで(特に第4回)、金融庁の人員強化を図るべきだという意見が複数のメンバーから出たためだと思いますが、1つめのほうは多少解説が必要かもしれません。

IMFの指摘とは

IMF(国際通貨基金)の金融セクター評価プログラム(FSAP)とは、IMFが加盟国の金融部門の安定性を評価するプログラムで、日本を含む主要国は5年に一度審査を受けています。いわば金融庁が外部から検査を受けるという枠組みです。FSAPの指摘を金融庁は重く受け止めます。
2023年から24年にかけてのFSAPでは、IMFは日本の保険監督について、全体的には良好な水準としたうえで、かなり本質的な指摘をしています。例えば次のような指摘です。

・金融庁の保険監督アプローチはリソースの制約のため事後対応となっていることが多い。

・監督のほとんどは業界全体としてテーマになっていることについて実施され、個々の保険会社の定期的な監督サイクルの一環として行われていない。

・集中的な監督は主に問題が特定されてから開始され、多くはリスクが顕在化してから行われる。

「リスクの芽を摘むこと」ができるのか

筆者が任期付職員として保険行政に携わっていた約10年前の金融庁では、通常のモニタリングのほか、主要会社には概ね一定の周期ごとに立ち入り検査を行っていました。問題がある会社だから立ち入り検査を行うというのではなく、検査対象の保険会社の事業特性やリスク特性に基づき、当時の保険検査マニュアルから数項目を対象にして検査を実施していました。そして、当時もリソース不足は深刻でした。
その後金融庁の検査・監督方針が変わり、「従来の検査・監督のやり方のままでは、重箱の隅をつつきがちで、重点課題に注力できないのではないか」「バブルの後始末はできたが、新しい課題に予め対処できないのではないか」「金融機関による多様で主体的な創意工夫を妨げてきたのではないか」といった、主に銀行検査に関する問題意識のもとで、検査・監督一体の継続的なモニタリングへ移行し、2018年には検査局が廃止されました。

保険分野は大きな販売部隊(代理店を含む)を抱えているうえ、銀行に比べると、保険会社の経営内容は総じてわかりにくいとされているにもかかわらず、周期的な立ち入り検査をなくしてしまったことで、問題の早期把握が難しくなった点は否めません。
かつての検査が「重箱の隅をつつきがち」だった面はあるにせよ、頻繁な異動等により保険分野の知識が必ずしも十分ではない検査官でも、保険分野に明るいベテラン職員の支援を受けながら、ある程度時間をかければ問題を発見することができました。ところが、現在の「継続的なモニタリング」では、保険分野の知識がないと、表面的になぞっただけで終わってしまいます(保険会社は自らに都合の悪いことを当局に進んで示すでしょうか?)。結果として、近年は問題が発覚してから立ち入り検査を行うというスタイルになってしまったようです。
朝日新聞の柴田秀並記者は近著『損保の闇 生保の裏』のなかで、「金融庁による金融機関へのモニタリングの意義は『リスクの芽を摘むこと』にある。大炎上してから動くのは『敗戦処理』にすぎない」と述べていますが、まさに同感です。

有識者会議メンバーやIMFが指摘するように、金融庁は保険監督に適切な人的リソースを配置して、保険分野の抱えているリスクや顕在化した問題に対処する必要があるでしょう。少なくとも、たまたま現場に配属された担当者の頑張りだけでは無理があると思います。
あるいはIMFが以前から提案するように、健全な保険市場を育てるためには、政府予算の制約を受けにくい「保険サービス監督機構」のような組織の実現を目指すべきなのかもしれません。
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※週末はオープンキャンパスでした。

 

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最近の執筆と講演

備忘録を兼ねて、最近の執筆・講演についてご紹介します。

週刊金融財政事情

2024年7月23日号に「大手損保グループの2024年3月期決算分析(会員限定)」を寄稿しました。
タイトルのとおり決算分析が中心ですが、「国内事業の改革を促す経済価値ベースの新規制」という項目を設け、経済価値ベースのソルベンシー規制の本質を踏まえると、3大損保グループの経営にとっても影響は決して小さくないという話をしています。

インスウオッチ(inswatch)

いつものWeekly版とは別に、7月26日のInswatch professional Reportに「『損保問題』を踏まえた今後の保険業界の方向性を探る」を寄稿しました。
大手損保グループの決算について触れた後、「損保問題」はプロ代理店にとっても影響は大きいと考えるべきと述べています。

「保険会社が何十年も変えられなかったコンダクト(企業行動)をそう簡単に変えられるとは思いませんが、外部環境はそれを許しません。しかも、自ら経営のグローバル化を進めた保険会社において、国内事業だけが過去のままということはありえません。各社の中期経営計画などを見ても、保険会社は過去からの取引慣行を断ち切ろうとしています。『顧客は代理店ではなく契約者』を徹底するでしょうし、トップラインよりも、リスクに応じた引き受けを重視する方向に向かうはずです」(レポートより引用)

日本共済協会

7月19日の「業務研究会」でオンライン講演を行いました。演題は「2023年度決算にみる生損保経営の現状と課題」です。
当日のオンデマンド動画は会員限定ですが、昨年12月8日に「共済理論研究会」で行った講演「保険会社は新型コロナ感染症リスクにどう対応したか--台湾と日本の事例から」はこちらからご覧いただくことができます。

貿易保険の懇談会

4月から6月にかけて経済産業省「貿易保険の在り方に関する懇談会」メンバーとして貿易保険のリスク管理や財務基盤強化の議論を行い、先日その報告書が公表されました。
貿易保険は日本の企業が行う海外取引(輸出・投資・融資)の輸出不能や代金回収不能をカバーする保険で、政府が100%出資する株式会社日本貿易保険(NEXI)が担っています。

他にも「損保総研の損害保険特別講座(7月10日)」「日本代協・近畿阪神ブロック協議会(7月23日)」「投資家向けセミナー」で講師を務め、今週末(8月3日)には福岡大学のオープンキャンパスで「リスクとどう向き合うか」という話をする予定です。

※梅田といえばこれですね!

 

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売買上手のJリーグに

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1240(2024.7.8)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。今回取り上げたのは「カズ」の人気コラムです。
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カズの新たな挑戦

サッカー元日本代表のカズこと三浦知良選手は、私と誕生日が3日違いの同い年で、勝手に親近感を抱いています。先日ポルトガルから帰国し、今月からJFL(公式サイトによると、企業チーム、Jリーグ入会を目指すクラブ、地域のアマチュアクラブなどが参加するリーグ)のアトレチコ鈴鹿クラブに期限付きで移籍加入し、現役選手としてプレーすることになりました。14日から自身の持つJFL最年長ゴール記録の更新を狙い、ゴールと勝利を目指します。
さすがに近年は出場機会が減っているようですが、57歳になってもプロスポーツの世界で挑戦し続ける姿には圧倒されます。

コラム『サッカー人として』

日本経済新聞を読んでいるかたであれば、三浦選手の連載コラム『サッカー人として』をご存じだと思います。私はこのコラムの愛読者でして、時々「本当に本人が書いているんだろうか?」と思うような鋭い内容もあって、おすすめのコラムです。

6月7日掲載の「売買上手のJリーグに」もそうでした。欧州と日本のサッカー市場を比べた内容で、日本のスポーツ界はせいぜい「出したお金の元がとれるかどうか」という発想なのに対し、欧州は投資した資産の価値を高め、ベストの売り時を逃さないという意識でビジネスをやっていて、選手も条件次第で出ていくことにためらいはない。同じサッカーでも全く違う世界だというのですね。
その結果、欧州ではJリーグに所属する選手の商品価値はないに等しく、Jリーグは日本選手をタダ同然で欧州に譲り、そこで活躍して市場価値が跳ね上がるという構図だとか。コラムではわかりやすく極端に述べている面はあるにせよ、これは日本選手の実力の問題ではなく、日本のスポーツビジネスが世界標準ではない、あるいは世界と同じ土俵ではないということなのでしょう。これは強烈な指摘です。

グローバル保険グループを目指している大手保険グループの国内事業が、30年前と変わらないトップライン重視、シェア重視だったり、あるいは、いまだにリスクマネジメントの専任担当者を置かず、保険購買を人事・総務部門や企業内代理店に委ねている大企業が決して少なくなかったりするのを見ると、日本企業がグローバルな資本市場から高く評価されないのは当然かもしれません。カズの指摘と同じなのですから。
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※福岡に来た息子からプレゼント!

 

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オープンセミナーで登壇

6月22日(土)に横浜でRINGの会オープンセミナーが開催され、1000人を超える参加者の前で、無事(?)MC兼コメンテイターを務めました。
今回は週刊ダイヤモンドの藤田章夫記者、週刊東洋経済の中村正毅記者という、一連の損保問題について地道に報道してきたお二人に登壇していただけることになった時点で、私の仕事の半分以上は終わっていたのかもしれません。とはいえ、せっかくお招きしたゲストから貴重なコメントを引き出そうと、私なりに取り組んだつもりですが、いかがでしたでしょうか。

今回の問題発覚をきっかけに損害保険会社は本当に変わるのか。ここに至ってもなお、保険会社が旧来の取引慣行や企業文化を引きずっている事例を報じているお二人からは、悲観的なコメントが相次ぎました。
これに対し、楽観的と言うべきかどうかは微妙ですが、私は昨今のガバナンス改革の流れからしても、このままでいられるはずがないと考えていまして、お二人とは異なるコメントになりました。

セミナーを主催するRINGの会のメンバー(正会員)は、総じて情報感度も経営意識も高い損保プロ代理店です。そこでセミナー前に、今回の一連の問題による代理店経営への影響としてどのようなことを心配しているかをたずねてみたところ、「プロ代理店には影響がない」「むしろ追い風」という見解が多くみられました。
保険会社がほとんど変わらないという前提であれば、その通りかもしれませんし、「追い風」論も間違いではないと思います。しかし、保険会社が求められているのは「有力代理店ではなく顧客を向いた経営への転換」だけではなく、「経済合理性に基づいた企業価値向上を目指した経営への転換」です。
前者だけであれば、RINGメンバーのような顧客と真摯に向き合ってきた代理店には追い風と言えるでしょう。しかし、後者はどうでしょうか。例えば、これまでよりも引受規律を重視するようになった保険会社と代理店はどう付き合っていくのか。あるいは、保険会社が長年の懸案だった「二重構造」を一掃するため、代理店の選別を一段と進めるかもしれません。
そこで、セミナーの後半に、あえて強い口調で「大間違い」というコメントをしました。参加した皆さんにうまく伝わっていればいいのですが…

 

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政策保有株式の売却

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1236(2024.6.10)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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残高ゼロを目指す

保険料調整問題で金融庁から行政処分を受けた大手損害保険グループは、企業保険における歪(いびつ)な取引慣行の一因となっている政策保有株式をなくすと発表し、その決定を株式市場が好感しているようです。
確認のため、3グループの方針を示しておきましょう。

【東京海上】
・政策保有株式を今後3年間で半減させ、2029年度末にゼロにする。
・純投資への単なるラベル替えは行わない。

【MS&AD】
・2029年度末残高ゼロに向け、可能なかぎり前倒しで削減していく。
・資産運用ポートフォリオ最適化の観点から、政策株式の一部を事業投資や純投資へ振替することを検討。

【SOMPO】
・2030年度までに政策株式の保有ゼロを目指し、売却を加速。
・発行体との対話を強化。
・純投資への振替の有無については不明。

売却益は会社価値を高めない

3グループが保有する政策保有株式の時価は、2024年3月末時点で合計9兆円弱、簿価は約1.5兆円なので、売却すると多額の売却益が実現します。つまり、今後数年間は株式売却益によって各社の期間損益がかさ上げされるのはほぼ確実です。売却益を使って株主還元を増やすことができますし、実際、MS&ADとSOMPOは売却益の50%を株主還元すると公表しています。
株式市場がこうした還元強化を好感しているのかどうかはわかりません。とはいえ、理屈からすると、売却益による株主還元が会社価値を高めることはなく、もともと株主資本(純資産)として持っていたものを、税引後で株主に還元していくだけの話です。
いくら会計上の利益が出るからといっても、それで会社価値が高まるというものではありません。

資本効率の向上

それでは政策保有株式の売却は会社価値にどう影響するのでしょうか。
どの事業であっても、会社を経営するには「リスク」「リターン」「資本」の3つをうまくコントロールしなければなりません。資本の出し手は経営者にリターンを求めます。リスクをとらなければリターンは得られません。しかし、リスクをとりすぎた状態で多額の損失が生じると、資本が不足してしまい、事業を続けられなくなるかもしれません。

純投資でも政策保有でも株式を保有すればリスクを抱えることになり、その備えとして資本を持っておかなければなりません。とりわけ政策保有株式の場合、同じだけ資本を使っても株式のリターンを期待しない投資であり、資本効率の低下を招きます。加えて保険会社の場合、2025年度からの新たなソルベンシー規制では、株式保有のリスクに対し、時価の35%の資本(支払余力)の確保を求められます。
株式を売却すれば、リスクに備えて確保していた資本が不要になります。高いリターンが期待できて、かつ、経営者が得意とする分野に新たな投資を行うことが可能です。株式保有リスクが減り、しかも将来の期待リターンが高まるので、会社価値が向上するというストーリーです。
もし、新たな投資を行う分野が見つからないのであれば、不要になった資本を株主に返すのが本筋です。資本はタダで得られているのではないので、現預金などリターンを生まない資産として寝かせておくのは、会社価値を毀損する行為となります。

株主をはじめ、お金を出してくれている外部ステークホルダー(利害関係者)の目線で会社経営を考えるにあたり、今回の「政策保有株式の削減」は優れた教材と言えるでしょう。
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※紫陽花の季節ですね。

 

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日本の保険会社による海外M&A

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1232(2024.5.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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韓国保険学会が創立60周年を迎え、日本保険学会を代表するかたちで記念大会に参加し、スピーチをしてきました(5月10日)。日本保険学会と韓国保険学会の関係も50年前から続いているそうで、改めて日韓の近さを感じました。

保険会社のM&Aについて講演

私の講演テーマは「日本の保険会社のM&Aについて」。これは韓国保険学会からのリクエストに応えたものです。
韓国でも少子高齢化が進み、国内市場の将来的な縮小が見込まれるなかで、近年の日本の保険グループによるM&Aを通じた積極的な事業ポートフォリオ見直しに非常に関心があるとのことでした。そこで、日本の保険会社による主な海外M&Aを紹介したうえで、大手損害保険グループのM&Aを通じた海外保険事業(特に先進国市場)の拡大について、次の4つの背景が考えられるという話をしました。

・将来的に国内市場の縮小が見込まれる
・海外再保険会社に頼らずに保険引受リスクの分散ができる
・高い信用力を活用できる
・株主からの資本有効活用への強い期待に応える

海外M&Aのほか、近年では介護事業など、M&Aによる異業種への進出も目立つという話も紹介しました。

なぜM&Aなのか

うれしいことに、講演後には多くの質疑応答がありました。そのなかで特に印象に残った質問は次の2つです。
1つは、「海外に子会社を設けるのではなく、なぜ買収による事業拡大なのか?」という質問です。あくまで私の考えではありますが、簡潔に言えば「時間をお金で買った」という趣旨の説明をしました。
過去の成功事例として、損害保険会社による子会社方式での生命保険事業進出を振り返ってみても、損保の顧客基盤や販売網などを活用できたにもかかわらず、一定規模となるにはかなりの時間を要しています。他方で韓国の大手保険会社による海外M&Aは新興国が中心なので、グループへの利益貢献が非常に小さいとのことでした。
ちなみに、講演のなかではM&Aの失敗事例の話もしています。

純投資なのか事業投資なのか

もう1つは、「海外M&Aの目的は純投資なのか、それとも事業による利益獲得をねらったものか」という質問です。
私の考えでは後者、つまり、事業による利益獲得をねらったものという回答になります。純投資であれば、ある保険会社1社に多額の資金を投じるよりも、同じ金額を使って多数の保険会社に投資したほうが、同じ期待リターンでもリスクは小さくなります(ポートフォリオ理論ですね)。
それでも特定の会社に投資をするというのは、国内中心の事業展開から脱却したほうが将来的にグループ全体としての価値を高めることができるという経営判断が、どこかの時点であったはずです。さらに、自らが大株主となることで、買収先の価値をこれまで以上に高めることができるという期待もあるのでしょう(プレミアムを支払ってまで買収しているので)。

ただし、ここで問題になるのが相互会社の場合です。純投資であればまだ理解できるとしても、成長が期待できるからといって海外の保険会社を買収し、グループとして非社員契約を増やしてしまうのは、契約者が会社の構成員(社員)となっている相互会社のあり方として適切なのかという疑問が生じます。また、株主と相互会社の社員では、経営陣への期待(リスクのとり方など)も異なると考えるのが妥当です。
おそらく質問者にそこまでの意図はなかったでしょうが、これはいい質問だと思いました。
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※韓国の鉄道博物館に行きました。

 

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夢の共演!?

6月22日開催の「RINGの会オープンセミナー」に登壇するという話を4月21日のブログでご案内しましたが、週刊東洋経済の中村正毅記者に加え、週刊ダイヤモンドの藤田章夫記者もお迎えして、3人で損保問題について鼎談することになりました。

東洋経済の中村記者は早くからビッグモーター問題やカルテル問題に注目し、SOMPOホールディングスの調査報告書にもX社として掲載されたほか、最近も損保業界の取引慣行に関する記事を発表しています。
ダイヤモンドの藤田記者は保険業界に長くかかわり、毎年の保険特集を楽しみにしている業界人も多いと思います。今年の特集は「保険 vs 新NISA」という意表を突いたものでしたが、読むと納得の企画でした。

オープンセミナーの参加者は主に保険代理店と保険会社の役職員なので、お二人とも、もしかしたら敵地に乗り込むような気持ちかもしれません。
とはいえ、損保問題について客観的な立場から話ができる貴重な方々ですし、長く保険業界をウォッチしているだけあって、単なる批判では終わらない深みがあります。
当日は3人で大いに語りたいと思いますので、ぜひ横浜のセミナー会場でお会いしましょう。私も今から楽しみです。

※ソウルで鰻を食べました!

 

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ESR規制と生保の資産運用

簡易保険加入者協会の委託研究として2022年度から関わってきた「ESR規制と生命保険会社の運用に関する研究会」の報告書が同協会サイトで公表されました。
この研究会は経済価値ベースのソルベンシー規制と生命保険会社の資産運用について、若手を含めた研究者で議論を行うというもので、私が座長を務めました。報告書は前半(第1部)が議論の主な内容、後半(第2部)は議論を踏まえた若手研究者の報告要旨となっています。

座長としてこだわったのは、規制以前の話として、そもそも生命保険会社は顧客に何を提供していて、それにはどのような資産運用が必要となるのかをメンバーで確認することでした。「そこから話をするのか!」と心配する向きもあったそうですが、実際の保険会社の姿を議論の出発点にしてしまうと、どうしてもバイアスがかかると考えたためです。

毎回メンバーどうしの議論が活発に行われ、議論の主な内容は「第6章:本研究会での主な議論・論点」としてまとめていますので、ご覧いただければと思います。
保険会計に関しては、もっと時間があれば「業績とは何か」「会計情報で誰が何を見たいのか」という議論をしたいところでしたが、時間切れで両論併記のようになっています。
他方でメンバーの意見が一致したのが、研究者から見ても「現状の情報開示は不十分」という話で、第5章の最後に以下のコメントを示しています。

・この研究会でわかったのは、データがあまりにも出てきていないということ。開示の底上げが必要で、特定の一部の会社のみが開示しているという状態では研究を進めようがない。

・新たな規制の第3の柱については外部関係者が声をあげないと、どうしても金融庁と業界の検討が中心になってしまい、業界からは積極的に開示したいという声は出にくいので、結果として妥協案的なものにまとまってしまう可能性がある。

・なぜ開示が重要かということを訴えていかなければならない(エージェンシー理論)。単に我々が知りたいというだけではなく、生命保険会社というインフラを機能させるためには開示がないといけない。

・「これだけリターンがありました、でも、これを作り出すためにこれだけのリスクがありました」というように、リスクとリターンを両方開示するといい。

・金融庁の報告書に掲載されている、「各リスクにおける更なる内訳の開示について、会社の戦略的ポジションが明らかとなる情報が含まれる場合、競争上の不都合が生じるおそれがある」という保険会社からの意見について、「競争上の不都合」とは何に対して言っているのか理解できない。

このような厳しい声が研究者からあがっていることを、生命保険業界や金融庁はわかってほしいです。

※キャンパスにいろいろなキッチンカーが出店しています。

 

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金融庁が有識者会議を設置

損保問題の有識者会議に関して、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1228(2024.4.8)に論考を寄稿しました。当ブログでもご紹介いたします。
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昨今の保険金不正請求問題(いわゆるビッグモーター問題)および保険料調整行為問題(同カルテル問題)を受けて、金融庁が「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」を立ち上げ、3月26日に第1回の会合がありました。
金融庁はYouTubeでの動画配信(アーカイブなし)のほか、当日の資料を公表しています。
そこで「事務局(=金融庁)説明資料」と「日本損害保険協会説明資料」を比べてみました。

そこから見えたのは、金融庁による厳しい見解です。2つの問題の背景には構造的なものがあるため、金融庁は個社や業界の自主的な取り組みだけでは是正が難しいと認識しています。
着地点はまだ見えませんが、是正に向けた何らかの制度改正が行われ、保険流通に関わる皆さんの業務に影響が及ぶと考えておくべきかと思います。

保険金不正請求問題

損保協会の説明資料では、主な要因として「保険金支払管理態勢が不十分」「効率的な損害調査の実施の弊害」「修理工場による不適切な保険金請求」「一部代理店によるコンプライアンス意識の不足」を挙げ、それぞれについての対応状況を説明しています。さすがに損保協会としても単なる個社問題とはとらえていないことがうかがえます。

これに対し、金融庁の説明資料では真因分析として、行政処分の対象である損保ジャパンおよびSOMPOホールディングスの「営業優先・上意下達の企業文化」「内部統制機能の欠陥」「リスク認識の甘さ」を挙げています。行政処分の対象はあくまで個々の会社なので、そのような書きぶりになっています。
ただし、「(有識者会議で)ご議論いただきたい事項」には、次のような記述があります。

・大規模乗合代理店への実効的な指導・監督の確保
・大規模乗合代理店との関係に左右されない支払管理態勢
・大規模乗合代理店などの適切な評価
・(兼業の)乗合代理店による比較推奨の適切な実施
・損害保険代理店による利益相反が生じる業務禁止または防止措置の実施
・(保険料調整行為問題との共通論点として)代理店への本業支援のあり方
・(同)保険会社および代理店への実効的な監督・検査

裏を返せばこれらは構造的な課題であって、個社または業界の取り組みだけでは解決が難しいとする金融庁の見解がよくわかります
(最後の「実効的な監督・検査」は庁内の保険行政への理解・認識不足とそれに伴うリソース不足を有識者に指摘してほしいのかもしれません)。

保険料調整行為問題

損保協会の説明資料では、主な要因を「他社との接触機会が増加」「保険契約引受時に行ってはいけない行為が曖昧」「独禁法に関する啓発取組みの不足」「代理店を含むコンプライアンスリスク管理体制が不十分」としているので、対応策は考え方・留意点の提示や教育の徹底などが中心です。

これに対し、金融庁の説明資料では、行政処分に至った問題点として「企業保険分野における環境要因」「営業担当者への強いプレッシャー」「独禁法等に関する不十分な教育・監督」「コンプライアンス・顧客本位の意識の欠如」を挙げています。
さらに「(有識者会議で)ご議論いただきたい事項」は次の通りです。

・共同保険における適正な競合環境の整備
・保険契約以外の要素を反映した取引慣行の是正
・リスクに応じた適正な保険料を提示できる保険引受管理態勢の確立
・企業内代理店のあるべき姿
・独禁法等の遵守に向けた法令等遵守態勢の確立

こちらは業界と金融庁の見解の違いがより鮮明です。起きたことは独禁法違反などですが、金融庁は法令等の遵守にとどまらず、企業向け保険の取引慣行や企業内代理店にもメスを入れようとしています。
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※福岡城址(舞鶴公園)の桜です。何とか間に合いました。

 

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