15. 執筆・講演等のご案内

なぜ海外から観光客が殺到していたのか

最初にお知らせです。保険代理店の情報交流組織であるRINGの会(私は会のアドバイザーを務めています)が、2年ぶりにオープンセミナーを開催します。
7月3日(土)午後のライブ配信方式で、メインテーマは「実践DX」。デジタル化を実践する保険代理店が登場します。参加費は3,830円です。
保険流通の最新動向に触れたいかたは、ぜひお見逃しなく。申し込みはこちらです。

さて、今回はインシュアランス生保版(2021年5月号第2集)に執筆したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナルです)。
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世界が「安いニッポン」を発見

新型コロナ感染症で厳しい入国制限が敷かれ、日本を訪れる海外からの観光客が消えた。観光関連業をはじめ、インバウンド需要の恩恵を受けていた業種や地域は、深刻な打撃を受けている。
ここで改めて考えてみたいのは、そもそもなぜ日本を訪れる海外からの観光客が急増していたのかである。ビザの免除・発給要件緩和や海外プロモーションなど、政府による観光立国推進の効果もあったと考えられるが、何より「安いニッポン」が発見され、観光客を引き寄せたことが大きい。日本で生活しているとピンとこないが、欧米ばかりでなく、アジアを含めた海外から見ると、日本の商品・サービスは質の割に安いのである。

100円均一は日本だけ

最近読んだ「安いニッポン『価格』が示す停滞」(2021年3月刊行、日経BP・日本経済新聞出版本部)は、日本経済新聞の連載記事「安いニッポン」をベースに、担当記者の1人だった中藤玲さんが新たな取材を加えて書き下ろしたもの。日本経済の長期停滞を理解するのに格好の書籍である。
失われた20年、いや30年と言われても、(非正規雇用は増えたが)町に失業者があふれていたり、多くの人が極端に貧しくなったりしたわけではなく、読者の皆さんも、厳しいながらも安定した生活を送っているかたが多数ではないだろうか。そのような私たちにとって不都合な真実、すなわち、世界の成長に取り残されてしまった日本の姿を本書は見事に示している。
日本に住む私たちからすると高価なレジャーである東京ディズニーランドは世界で最も安いディズニーランドだというし、ダイソーの商品が100円均一なのも日本だけとのこと(海外はもっと高い)。かつてと違い、このところ海外のどこに行き、何を買っても安いと感じることがなくなっていたが、100円ショップまでもが世界最安値水準とは知らなかった。

安いニッポンは暮らしを豊かにしない

安いニッポンが私たちの暮らしを豊かにしてくれるのであればいい。ところが日本の実質賃金はこの20年間増えていない。賃金が増えないから消費も盛り上がらず、企業は前向きな投資よりもコスト抑制を選び、結果として消費者の低価格志向が続く。この悪循環は日銀の異次元緩和でも変わらず、財政規律の緩みと異常な株式保有構造だけが残った。今後は人手不足を海外から補おうとしても、優秀な人材はだんだん日本の賃金では来てくれなくなるだろう。私たちが強みと考えてきた日本の高品質も、このままでは維持できなくなるかもしれない。
大震災の発生や感染症の拡大、あるいは金融危機のような突発的な事象に対しては、事態の深刻さを共有しやすく、対応方針も定まりやすい。これに対し、真綿で首を絞められるような変化には、そもそも事態を把握するのが難しく、コンセンサスを得にくいが、事態は一段と深刻になっているようだ。
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損保の専業代理店

今週のInswatch Vol.1084(2021.5.10)では損保の専業代理店チャネルについて寄稿しました。ご参考までにこちらでもご紹介します。
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依然として事業規模は小さい

前回、生保の営業職員チャネルを取り上げたのに続き、今回は損保の専業代理店のデータを確認してみましょう。
今から20年前、2001年に発刊した拙著『損保が変わる-問われる信用力』のなかに、「(代理店数全体に占める構成比で)15%の専業代理店が(扱い保険料全体の)34%の保険料を扱う一方、2割弱の特級や上級代理店が8割以上の保険料を稼いでいる」という記述があります。副業代理店にはあまり保険料を稼がない代理店が非常に多い一方で、専業・副業あわせた少数の代理店が大半の保険料を稼いでいて、専業代理店(当時は7万店)の多くは事業規模が極めて小さいことを示しました。

20年後の現在はどうなっているのでしょうか。
日本損害保険協会の統計(2019年度末時点)によると、18%の専業代理店の扱い保険料は全体の約4割で、当時とあまり変わっていません。ただし、統廃合などにより専業代理店の数は約3万店に減り、1店あたり扱い保険料は年間約8千万円と、当時の3、4千万円程度(旧大蔵省の資料から推定)に比べると事業規模はだいぶ大きくなりました。

もっとも、扱い保険料が年間8千万円ということは、仮に代理店手数料を2割とすると、手数料収入は1600万円にすぎず、ここから人件費や物件費が出ていきます。専業代理店の多くは生命保険の販売も行っているので生保の手数料収入もあるでしょう。しかし、他方で保険ショップや直資型をはじめ、少数ながら事業規模の大きい専業代理店も存在します。
2001年に業界共通の代理店制度が廃止となって以降、「特級」「上級」といった代理店の属性を示すデータが公表されなくなったものの、大型化が進んだとはいえ、総じて専業代理店の事業規模は依然として非常に小さいことがうかがえます。

3者間スキームの影響も

ところで、損保協会の統計を時系列で追うと、2014年度末をピークに専業代理店の数が減り、1店あたりの扱い保険料が急速に増えていることがわかります。これは専業代理店の再編が加速しているというのではなく、委託型保険募集人制度の廃止が影響しているとみています。
金融庁が保険会社に対し、委託型募集人の是正を求めたのが2014年です。委託型募集人には委託元の代理店の役員や従業員となる、あるいは、3者間スキームを活用して代理店になるといった選択肢がありましたが、数字を見るかぎり、いったんは代理店に転換した募集人が目立ったようです(専業代理店の募集従事者数はむしろ減っています)。
しかし、その後の推移を見ると、代理店に転換しても長続きはせず、多くは統廃合の道をたどったものと考えられます。

最後にお知らせ

先月末のプロフェッショナルレポートで、拙著『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』の業界人にとっての読みどころをご紹介しました。ところが、連休中にアマゾンや楽天のサイトでの定価購入が難しくなっていて、皆さまにご迷惑をおかけしたようです(数人のかたからご連絡をいただきました)。
有力サイトでの在庫管理はサイト自身に委ねられているとのことなので、今後も在庫切れでご不便をおかけすることがあるかもしれません。版元の中央経済社のサイトでは購入できます(送料が必要です)ので、あわせてご検討いただければ幸いです。
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※写真は大学内の英国庭園です。学生の姿はありません。

 

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日経フィナンシャルに寄稿しました

日本経済新聞社が昨年立ち上げた金融専門デジタルメディア「NIKKEI Financial(日経フィナンシャル)」に生命保険会社の契約者配当について寄稿しました。タイトルは「生保、不透明な配当 企業価値を反映させよ」で、23日にアップされています。
有料媒体なので見出しだけ紹介しますと、「個人向け配当総額、非公表が多い」「利益と配当、連動しているように見えず」「1990年代後半以降、内部留保を充実」となっています。

以下では少しだけ補足を。

まず、第一生命だけが個人向け配当総額を公表していると書きましたが、決算資料のなかに「財務・業績の概況(PDF)」という資料があり、このなかで配当準備金繰入額の内訳を公表しています。
この資料は元々は記者クラブ向けに作られたものだと思いますが、第一生命HDは上場会社なので、同じものを投資家向けにも公表しているのでしょう。

生保のディスクロージャー誌のデータ編には「配当準備金明細表」があり、保険種類別の「配当金支払による減少」が載っています。2期前のデータとはいえ、ここから団体保険と団体年金保険の配当総額をつかむことができます。
このデータは配当に割り当てた額ではなく、あくまでその期に配当金として支払った額です。団体保険と団体年金保険の配当は現金で行われますし、配当金の割り当てと実際の支払いはほぼずれません。しかし、個人向けの場合、配当の割り当てと実際の支払いのずれが場合によっては大きいため、ここに載っている「配当金支払」が必ずしも配当に割り当てた金額とは言えないのです。
ですから、記事のなかでお示しした個人向けの配当総額はディスクロ誌の「配当金支払による減少」をそのまま使ったものではなく、配当準備金繰入額をベースに推計しました(団体保険と団体年金保険の「配当金支払による減少」を控除)。

2021年3月期決算では各社の個人向け配当はどうなるでしょうか。配当原資が三利源または利差ということであれば、利息配当金収入は減っているかもしれませんし、単年度で大きく動くことは考えにくいです。ただ、企業価値ということであれば、株高も超長期金利の上昇も大きくプラスに効いているでしょうし、昨年度は新型コロナ対応の副産物として死亡者数が減り、病院の患者数も減った模様です。
一時的な企業価値の拡大をただちに還元することはできないとしても、生保(とりわけ相互会社)は少なくとも何がどうなれば個人向けの配当総額が決まるのかといった目安を出していく必要があると思います。

執筆のご案内といえば、週刊金融財政事情の2021年4月20日号に書評「一人一冊」が載りました。
今回は戸田山和久先生の「『科学的思考』のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス」を取り上げました。学生向けかもしれませんが、社会人にもおすすめです。

※写真は福岡・能古島の花畑です(パーク内)。息をのむ美しさでした。

 

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営業職員チャネルの改革

今週から拙著「利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書(中央経済社)」が店頭に並び始めたようです。週末に大きな本屋さんに行って確かめてきます^^

※15日現在、アマゾンでは定価で買えないようなので、お求めのかたは中央経済社のサイトなどでお願いします。

福岡大学の授業も今週からスタート。キャンパスが賑やかになりました。ただ、大阪では行政が対面授業の中止を要請するとのことで、福岡もこの後どうなるか、いろいろと心配です。


さて、少し遅くなりましたが、今週のInswatch Vol.1080(2021.4.12)では生保の営業職員チャネルについて寄稿しましたので、ご紹介いたします。
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採用後2年で半数が退職

営業職員チャネルを主力とする大手生命保険会社が、評価制度や採用基準の見直しなどに動いている模様です。コロナ禍で対面チャネルのあり方が問われていることもありますが、大量採用・大量脱落のターンオーバー問題の改善は長年の経営課題となっています。

2005年に発覚した保険金不払い問題を経て、在籍する営業職員の3分の1が毎年入れ替わるといった極端なターンオーバーは過去のものとなっています(現在の退職者数は在籍者数の2割を下回っています)。新契約に過度に偏った営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業に舵を切ったことや、採用後の教育を重視し、早期退職の減少に取り組んだことなどが一定の効果を上げたと考えられます。
3月31日の日本経済新聞に載った大手生保の営業職員の在籍率は2年目(13月目)で7割前後、3年目(25月目)で5割前後でした。20年ほど前の25月目在籍率は2割程度だったので、実はこれでもかなり改善しています。ただ、採用しても2年で半数が退職してしまうようなチャネル運営でいいのかという疑問は残ります。

ターンオーバーの何が問題なのか

厳しい営業職なので、100人採用しても2年後には50人しか残らないのは仕方がないという考え方もあるでしょう。今のビジネスモデルでは、顧客開拓からクロージングまで、基本的に個人のスキルにかかっているからです。
ただし、100人を採用し、営業職員として育てるには、会社として多額のコストがかかっています(例えば近年、保険会社は新人層の固定給を増やしています)。短期間で半数が退職してしまうのは、いわばコストを無駄にかけているようなものです。

問題はそれだけではありません。早期に退職した職員の獲得した契約は、退職後に解約となってしまう傾向があります。優先順位の低い保険にいわば義理・人情で入っていた顧客も不幸ですし、保険会社にとっても解約は企業価値を減らす要因です。
さらに言えば、早期に退職した職員やその顧客が、その保険会社にいい印象を持つとは思えませんので、保険会社は自らブラックなイメージを世間に広めてしまっていることになります。

超厳選採用かマニュアル化か

明治安田生命は営業職員の固定給制度(1年間の活動内容に応じ、翌年の給与を固定給として支払う)の導入など、チャネル改革を進めていく方針を社長インタビューなどで示しています。また、第一生命ホールディングスは先日公表した中期経営計画で、「過去の成功モデルや量的拡大にこだわらず、真にお客さま満足を高めることができる『高能率層』の拡大に重点を置いた運営に大きく舵を切り、従来の大手社のイメージからは一線を画した水準」を目指すとしています。

もっとも、採用した職員の在籍率を一段と高めるには、採用を3割減らすといったレベル感ではなく、応募者100人のうち営業センスのある1、2人しか採用しないくらいの超厳選採用に踏み切る必要があるのかもしれません。あるいは、業務を徹底的にマニュアル化して、誰もが標準活動を行う固定給のチャネルとすることも考えられます。
どちらも同じ業界に成功例がありますし、少なくとも現在の延長線上では「改革」を繰り返すことになってしまいそうです。
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『保険の教科書』刊行のご案内

新刊のご案内です。この4月に中央経済社から書籍「利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書」が出ることになりました(4月9日発売と聞いています)。単著としては実に2008年以来となります。

保険論は歴史のある学問ですので、保険理論に関する書籍は数多くあります。しかし、昨年から大学で本格的に教えるようになって、保険と保険産業の全体像をわかりやすく記述した初学者向けの書籍が意外にも見当たらないことに気づきました(特に保険産業について)。保険を学ぶのであれば、それを提供している保険産業がどうやってリスクを引き受けているのかも知る必要があると思うのですね。
そこで、出版社と相談したうえで、初めて保険を学ぶ学生のほか、保険産業(保険会社、保険代理店など)で働く若手社員をはじめ、保険に関心を持つ皆さんに向けた入門書を思い切って執筆した次第です。報道関係の皆さんにもぜひ手に取ってほしいです。

当初は前期の「保険論」「保険論入門」の講義と並行して執筆を進める計画でした。ところが、実際はオンライン対応などで7月まではとても執筆にあてる時間をとれるような状況ではなく、夏休みを返上して泣く泣く原稿書きに勤しみ、なんとか4月刊行に滑り込むことができました(中央経済社のHさん、ご尽力ありがとうございました)。

保険は身近な存在であるにもかかわらず、わかりにくいとされる商品・サービスの典型です。保険を提供する保険会社の経営内容はさらに理解されていないと感じます。本書が少しでも「利用者」と「提供者」のギャップを埋めるのに役立つことを願っています。

※写真は岡山県の倉敷です。

 

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生保決算報道の分析

13日に福岡大学で開催された日本保険学会・九州部会で、久しぶりにリアルな場での研究報告を行いました
(正確にはリアルとオンラインのハイブリッド開催でした。伊藤先生をはじめ役員の皆さま、お疲れさまでした)。

私の報告は「マスメディア(新聞)は生命保険会社の決算をどう報じてきたか」です。
(レジュメは次の情報がアップされるまでこちらからアクセスできます)。

ソルベンシー規制の第3の柱、すなわち情報開示による市場規律は、主に株主やアナリストなどの市場関係者を念頭に置いたものだと考えられますが、消費者(契約者)も本質的には保険会社の経営情報を必要としており、市場規律の担い手と言えるでしょう。そして、保険会社の経営情報が消費者にどのように伝わるかを考えた際、メディアによる伝達を無視することはできません。

そこで、2001年から2020年の20年間の新聞(日経、朝日、読売)による生保決算報道を調べてみたところ、継続的に報道がなされているとはいえ、メディアにはメディアが考える「ニュースバリュー」があり、それは必ずしも消費者のニーズに合致しているとは限らないことが見えてきました。
特に近年の画一的な報道には、メディア独自のニュースバリューのほか、日本特有の「記者クラブ制度」「(短期間での)ローテーション人事」も報道内容に影響している可能性がありそうだとわかりました。
このまま2025年に経済価値ベースのソルベンシー規制が導入されると、もしかしたらメディアは相変わらず保険料等収入と会計利益を報じるだけで、経営内容を正しく伝えようとはしないおそれもあると、あらためて認識した次第です。

保険会社のディスクロージャーについての研究はいくつか見かけますが、保険会社のディスクロージャーを伝えるメディアについての研究は見当たりませんでしたので、皆さんに興味深くご覧いただけるのではないかと思います。
もっとも、今回の研究報告は途中経過に近いものなので、さらに調査分析を進める予定です。関係者の皆さまには引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします。

※写真は古賀市筵内(むしろうち)地区の菜の花です。

 

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事業会社のリスク情報

今週のInswatch Vol.1075(2021.3.8)に寄稿したものをご紹介いたします。
写真は以前訪れた武雄市図書館です。盛況も納得の楽しい図書館でした。
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リスク情報の開示を充実する動き

昨年7月の本誌では、上場保険グループの「事業等のリスク」を取り上げました。「事業等のリスク」は上場会社が有価証券報告書に記載することになっている項目です。従来はリスクの羅列となっていて、あまり参考にならなかったものが、昨今のコーポレート・ガバナンス改革により内容が充実してきたとお伝えしました。
こうしたリスク情報の開示や内容の充実を求められているのは保険会社だけではなく、すべての上場会社が対象となっています。金融庁は情報開示の充実を促すためにサイトで具体的な事例を公表していて、2月16日に「事業等のリスク」の開示例を追加しました。

リスクの重要度合いを示す

金融庁が2020年度の「事業等のリスク」の好事例として取り上げたのは11社で、東京海上とSOMPOの保険グループ2社のほかは事業会社でした(コニカミノルタ、エヌ・ティ・ティ・データ、J.フロント、LIXIL、ヤマハ、不二製油、味の素、ソニー、三菱商事)。
事業会社における取り組みとして目立つのは、重要と考えるリスクをどう特定し、どのように対応しているかを示したものです。
例えばいくつかの会社では、リスクの重要性を判断するために、縦軸を影響度、横軸を発生可能性としたリスクマップを作成し、活用しているという記載がありました。別の会社では、特定した重要リスクそれぞれについて対応の方向性を示しているほか、そのリスクを誰が管掌しているかという情報も載せ、責任の所在を明らかにしていました。

事業会社のリスク認識が変わる

有価証券報告書のリスク情報は主に投資家やアナリストに向けたものですが、誰でも簡単に入手し、活用することができます(私がアナリストを始めたころは紙ベースのものしかなかったので、今はいい時代になりました)。
上場会社は必ずしも日本を代表する少数の大企業だけではなく、第一部に限っても2194社もあります(2月26日時点)。これらはグループベースですので、実際の会社の数となるとさらに多くなります。
リスク情報の開示は、単なるリスクの羅列であれば担当者の作文でも済んでしまいますが、開示を充実させるとなると、経営者はいよいよリスクと正面から向き合い、リスクマネジメントに真剣に取り組む必要が生じます。企業のリスクマネジメントを支援する保険産業にとっては追い風です。
まともな経営者であれば、リスクマネジメントへの取り組みのなかで、保険の出番も増えるはず。保険の手配は総務部か人事部の仕事という時代がようやく終わるかもしれません(期待を込めて)。
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生命保険会社の決算報道

インシュアランス生保版(2021年2月号第2集)に執筆したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナルです)。
生保各社の4-12月期決算は2月12日に公表されましたが、これを報じた全国紙は日経だけ。その日経も「基礎利益が主要9社のうち6社で減った」という、いわゆるベタ記事でした。

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本稿が掲載されるのはおそらく生命保険会社の4-12月期決算発表の前後であろう。
マスメディアは生保決算をどう報じてきたか。大学のデータベースで確認できた経済紙(日経)および一般紙(朝日、毎日、読売)の決算報道を確認すると、例えば2020年4-9月期には、いずれも主要生保の個人分野の新契約年換算保険料と保険料等収入、基礎利益の動きを伝えていた。

「保険料等収入」「基礎利益」を伝えればいいのか

切り口が横並びなのは、どのメディアも主に記者クラブ主催の会見と報道向け資料をもとに記事を作成しているからであろう。直近で新契約年換算保険料を取り上げているのは、新型コロナウイルスの影響で数値が大きく落ち込むという目立った事象への対応であり、ここ数年は「売上高にあたる保険料等収入」「本業のもうけを示す基礎利益」の2つを伝えることをもって、各紙は生保決算というネタを画一的に「処理」してきた。
日経だけでなく、一般紙も概ね半年ごとに一定の紙面を生保決算報道にあててきたことを踏まえると、読者に保険契約者が多いというだけでなく、少なくとも生命保険という産業が日本の経済・社会において無視はできないレベルの存在感があり、ニュースバリューがあると考えているのだろう。ただ、もしメディアが、生保の決算報道には事業会社と決定的な違いがあることを十分理解しているのであれば、生保の経営内容を示すのに適切とは言えない「保険料等収入」「基礎利益」の動きを伝えておしまいとはならないはずだ。

生命保険は経営内容で価値が左右される商品

事業会社の場合、その会社の商品・サービスの利用者だからといって、その会社の経営内容を知る必要はない(知りたくなることはあるかもしれないが)。ところが保険会社の場合には、会社の経営内容もいわば商品・サービスの一部となっている。会社の経営が傾けば将来の保障が危うくなるし、業績が順調であれば(有配当契約の場合)配当還元を期待できる。つまり、生命保険は保険会社の経営内容によってその価値が左右される商品・サービスなのである。
貯蓄性の強い一時払い商品の販売に左右される保険料等収入や、外国証券等の利息配当金収入や団体保険の死差益で「かさ上げ」される基礎利益を報じるだけでは、メディアは社会から期待されている役割を果たしていないどころか、間違ったメッセージを与えているのだと自覚してほしい。

「増減収」「増減益」報道に惑わされないで

本誌の読者の皆さんにも僭越ながらお願いしたい。「保険料等収入でA生命がB生命を〇年ぶりに抜いた」「4社のうちC生命だけが減益だった」といった報道に接しても、決して惑わされないでほしい。メディアで報道されるからといって、毎期の保険料等収入や基礎利益の拡大を競う経営を行うと、かえって企業価値を損ない、契約者をはじめとしたステークホルダーに迷惑をかけることになりかねないためである。
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※動物園に行ってきました♪

 

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マイナス金利政策の導入から5年

今週のInswatch Vol.1071(2021.2.8)に寄稿したものです。
今週号の松本一成さんの記事を拝読して、「リスク選好」をリスクコントロール対策の1つとして捉える考え方もあるのだと知りました。同じ用語でも私とは別の概念なのかもしれませんが…ご興味のあるかたは本誌をご覧ください。
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学生の成績評価や入学試験の監督など、このところ大学教員ならではの業務に追われています。5年前とは大きな変化です。

歴史的低金利が長期化

早いもので2016年1月のマイナス金利政策導入から5年が経ちました。この政策は同年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に修正され、長期金利の極端な低下には歯止めがかかったものの、短期金利はマイナス、超長期金利は1%を下回る低位で推移し、現在に至っています。
もともと大胆な金融緩和は短期決戦だったはずなのですが、2%の物価安定の目標には一向に到達せず、いつの間にか長期戦となってしまいました。日銀は現在、金融緩和政策の「点検」を行っていて、3月に結果を公表するとみられます。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、足元の物価はむしろ低下傾向にありますので、今の枠組みが大きく変わることはない、というのが専門家の見方のようです。

外貨建資産へのシフトが進む

筆者は2016年当時、東洋経済オンラインに「生保、マイナス金利でリスクテイクが困難に」という記事を執筆し、金利水準の低下が多くの生命保険会社のバランスシートに悪影響を与えることや、日銀が期待する大規模なポートフォリオ・リバランス(国債投資から株式、外貨建て資産への投資にシフト)は実現しないと述べました。
現行のソルベンシー・マージン比率は金利低下の影響を適切に反映しないので、一見すると平穏な5年間だったと思われるかもしれません。しかし、この5年間に国内系生保による資本(劣後債務)調達が相次いだことからしても、マイナス金利政策を受けて圧迫された財務健全性の回復を各社が何とかして図ろうとしてきた姿が見てとれます。
ただし、この5年間に9社のうち5社が10年超の国債の残高を減らしたのは予想外でしたし、外貨建資産への投資も増え続けています。経営体力が圧迫されているなかで、資本調達をしてまで新たなリスクテイクを行うという経営判断を、どう考えたらいいのでしょうか。

「定期化」が進む?

同じ記事のなかで筆者は、国内系生保は銀行窓販を除き、すでに予定利率による影響を受けにくい商品に注力してきたことに触れたうえで、魅力ある貯蓄性商品の提供が一層難しくなっており、新たな長期保障を提供する取り組みが求められていると述べました。
新たな長期保障を提供する取り組みとしては「トンチン年金」が登場しています。とはいえ、顧客の理解を得るのが難しいためか、普及には時間がかかっているようです。その一方で、銀行窓販をはじめ、貯蓄性商品の主力は顧客が為替リスクを負う外貨建てとなりました(終身保険では低解約返戻金型も増えました)。
今の金利水準では利率保証のある長期の円建て貯蓄性商品を提供するのは難しいとみられます。ワクチン普及などにより対面営業の制約が薄れても、価格競争の進展や新たな健全性規制の導入をにらみつつ、全体としては期間限定の保障を提供する「定期化」が進んでいくのではないでしょうか。
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※近所の護国神社です。

 

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ベテラン営業職員の不祥事

今週のInswatch Vol.1067(2021.1.11)に寄稿したものです。
今後の展開を注視したいと思います。
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第一生命が報告書を公表

昨年12月22日に第一生命保険が「元社員(特別調査役)による金銭の不正取得」に関する調査報告書(PDF)を公表し、同じ日に稲垣社長が記者会見を行いました。報告書は同社サイトにアップされています。
元社員が、複数の顧客に対して架空の金融取引を持ち掛け、金銭を不正に取得していたというこの事件、会社自らによる調査に加え、「第三者の立場からの客観的な評価を受けることよって、より実効的な検討・対応を進める必要がある」との認識から、社外(法律事務所)にも分析・調査を依頼し、発生原因を探りました。

企業風土・体質にも言及

報告書では、単に元社員に問題があり、かつ、組織として監督が十分に行き届かなかったというだけではなく、企業風土・体質にも言及しています。例えば、

「西日本マーケット統括部においては、元社員に関する事項について、穏便に収めたい、余り関わりたくない等の意識がありました。そのような意識が生じた背景には、元社員が『特別調査役』として特別な地位にあり、しばしば当社の役員等との親密さを吹聴していた元社員への遠慮が存在していたと考えております」

「(お客さまを第一に考える思考が不十分であった)背景には、お客さまの信頼がなければ多くのお客さまから新契約をお預かりすることができないとの思考に重点を置き、新契約実績には表れないお客さまを第一に考える行動に対する評価が不十分であったと考えております」

などです。新たに発覚した和歌山県、福岡県、神奈川県の事案についても、「お客さまを第一に考える思考が不十分であったことに起因している」と分析しています。

「お客さま第一」で解決するか

2005年の保険金不払い問題以降、営業職員チャネルを主力とする生命保険会社では、新契約に過度に偏重した営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業活動に舵を切ったはずでした。その結果、営業職員の大量採用、大量脱落構造はかなり緩和し、15年前には4割前後だった在籍数に占める年間退職者の割合は、足元で2割を下回っています。
他方で現場には営業目標があり、営業拠点の運営はベテラン営業職員による契約獲得に依存し、ベテランの報酬が結果として歩合給中心という基本的な構造は変わっていません。厚生労働省の令和元年賃金構造基本統計調査によると、経験年数15年以上の保険外交員(女性)の「年間賞与その他特別給与額(≒歩合給)」は「所定内給与額(≒固定給)」の2.5倍で、全体(1.8倍)を大きく上回っています。

販売勧誘ルールの見直しで保険募集人に新たな規制が導入されたとはいえ、一社専属の営業職員チャネルの業務は乗合代理店に比べれば大きな変化はありませんでした。しかも、金融庁はかつてのような3、4年ごとの立入検査を実施しなくなり、ヒアリング主体の水平的レビューとなっています。
こうしたなかで発覚したベテラン職員による不祥事です。個社に特有の問題とは考えにくく、営業職員チャネルを主力とする会社は実態調査を行うだけではなく、報酬体系を含めたチャネルのあり方を真剣に検討する時期に来ているのではないでしょうか。
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※3連休の外出は初詣だけにしました。十日恵比須神社です。

 

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