15. 執筆・講演等のご案内

ベテラン営業職員の不祥事

今週のInswatch Vol.1067(2021.1.11)に寄稿したものです。
今後の展開を注視したいと思います。
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第一生命が報告書を公表

昨年12月22日に第一生命保険が「元社員(特別調査役)による金銭の不正取得」に関する調査報告書(PDF)を公表し、同じ日に稲垣社長が記者会見を行いました。報告書は同社サイトにアップされています。
元社員が、複数の顧客に対して架空の金融取引を持ち掛け、金銭を不正に取得していたというこの事件、会社自らによる調査に加え、「第三者の立場からの客観的な評価を受けることよって、より実効的な検討・対応を進める必要がある」との認識から、社外(法律事務所)にも分析・調査を依頼し、発生原因を探りました。

企業風土・体質にも言及

報告書では、単に元社員に問題があり、かつ、組織として監督が十分に行き届かなかったというだけではなく、企業風土・体質にも言及しています。例えば、

「西日本マーケット統括部においては、元社員に関する事項について、穏便に収めたい、余り関わりたくない等の意識がありました。そのような意識が生じた背景には、元社員が『特別調査役』として特別な地位にあり、しばしば当社の役員等との親密さを吹聴していた元社員への遠慮が存在していたと考えております」

「(お客さまを第一に考える思考が不十分であった)背景には、お客さまの信頼がなければ多くのお客さまから新契約をお預かりすることができないとの思考に重点を置き、新契約実績には表れないお客さまを第一に考える行動に対する評価が不十分であったと考えております」

などです。新たに発覚した和歌山県、福岡県、神奈川県の事案についても、「お客さまを第一に考える思考が不十分であったことに起因している」と分析しています。

「お客さま第一」で解決するか

2005年の保険金不払い問題以降、営業職員チャネルを主力とする生命保険会社では、新契約に過度に偏重した営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業活動に舵を切ったはずでした。その結果、営業職員の大量採用、大量脱落構造はかなり緩和し、15年前には4割前後だった在籍数に占める年間退職者の割合は、足元で2割を下回っています。
他方で現場には営業目標があり、営業拠点の運営はベテラン営業職員による契約獲得に依存し、ベテランの報酬が結果として歩合給中心という基本的な構造は変わっていません。厚生労働省の令和元年賃金構造基本統計調査によると、経験年数15年以上の保険外交員(女性)の「年間賞与その他特別給与額(≒歩合給)」は「所定内給与額(≒固定給)」の2.5倍で、全体(1.8倍)を大きく上回っています。

販売勧誘ルールの見直しで保険募集人に新たな規制が導入されたとはいえ、一社専属の営業職員チャネルの業務は乗合代理店に比べれば大きな変化はありませんでした。しかも、金融庁はかつてのような3、4年ごとの立入検査を実施しなくなり、ヒアリング主体の水平的レビューとなっています。
こうしたなかで発覚したベテラン職員による不祥事です。個社に特有の問題とは考えにくく、営業職員チャネルを主力とする会社は実態調査を行うだけではなく、報酬体系を含めたチャネルのあり方を真剣に検討する時期に来ているのではないでしょうか。
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※3連休の外出は初詣だけにしました。十日恵比須神社です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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3メガ損保グループのIR説明会から

今週のInswatch Vol.1063(2020.12.14)に寄稿したものです。
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今回は生命保険会社ではなく、3メガ損保グループが先月下旬に開催した投資家・アナリスト向け説明会を取り上げます。
各社とも5月と11月の決算発表後にIR説明会を行っています。以下ではそのごく一部を紹介しますが、投資家やアナリストではなくても、各社のサイトに行けば、説明会の様子を動画で観たり、説明資料や質疑応答を確認したりできます。

時間をかけて各業務を説明:東京海上

東京海上グループはいつもと違い、3時間半におよぶミーティングを実施しました。最初にグループ戦略の全体像をホールディングスの小宮社長が説明し、続いて国内事業戦略、海外事業戦略、資産運用戦略について、それぞれの責任者が説明するというものでした。
国内事業戦略では、東京海上日動の広瀬社長、あんしん生命の中里社長ともに強調していたのが、デジタルを高度に活用し、ビジネスモデルを進化(深化)させるというもの。生保ではデジタル募集の取り組みを加速し、損保ではさらなる事業効率の向上を図るとしています。

CSV×DXで成長を:MS&AD

MS&ADグループの説明会ではホールディングスの原社長が、同社が中期経営計画で掲げている、CSC(Creating Shared Value、社会との共通価値の創造)をデジタル・トランスフォーメーション(DX)による既存ビジネスの変革で進めていくことを改めて強調していました。とりわけ商品・サービス面では、請求を受けて支払うだけの保険から、DX等により事故の発生を未然に防ぎ、発生してしまった場合の影響も小さくする保険へと、保険の役割を変えるという説明がありました。
国内損害保険事業では、これまで進めてきたビジネススタイル改革による事業費削減を、オンラインシステムの刷新やリモートワークによって確実なものにするとのことでした。

リアルデータの活用:SOMPO

SOMPOホールディングスの櫻田社長からは、安心・安全・健康のテーマパークの構築は不変としたうえで、基本3戦略の1つに「新たな顧客価値の創造~テーマパークの具現化~」を掲げ、リアルデータの獲得とデータ解析により新たなソリューションを生み出す「リアルデータプラットフォーム構想」に取り組むという話がありました。その具体例として、グループの介護事業が持つリアルデータを組み合わせ、解析することで、新たな介護ビジネスモデルの実現を目指しているそうです。
国内損保事業に関しては、次期中期経営計画でも料率適正化と事業費削減を柱とする収益構造改革を一段と進めます。

問われる営業支援体制

新型コロナ禍が日本企業のデジタル化を加速させるというのは、3メガ損保グループにも当てはまるようですが、気になったのは、国内事業でデジタル化が進んだ結果、販売チャネルはどうなるのかという点です。
保険会社は新しい技術を駆使した営業支援をどんどん開発していくので、デジタル社会に適用しようと考えている代理店にはいい時代になりそうです。他方で、これまで代理店の営業支援を行っていた保険会社の社員はどうなっていくのでしょうか。
今回のパンデミックによって、顧客との接点を何らかのかたちで確保できるのであれば、保険会社による接触型営業支援がなくても現場には大きな問題がないことが明らかになりました。二重構造問題は長年の課題であり、保険会社が語る「付加価値の高い業務への挑戦」「デジタル人財の育成」がそう簡単に成果をあげられるとは考えられません。浮いた人材をどうするかは保険会社にとって大きな課題となっています。
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※写真は晴れていますが、福岡でも雪が舞いました。

 

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「国際的に活動する保険グループ」の指定

今週のInswatch Vol.1058(2020.11.09)に寄稿しました。
このような話も進んでいるという情報提供です。
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保険数理の専門家が集まる日本アクチュアリー会の年次大会がありました(6日)。例年であれば東京駅周辺の会場で行うのですが、今年はライブ配信を中心としたオンラインでの開催となり、ありがたいことに福岡から参加できました。

保険の国際規制

さて、今回は国際的な規制の話です。
3メガ損保グループをはじめ、大手保険グループは近年、海外での保険事業を拡大してきました。保険会社がグローバル化する一方、各国の規制当局は法域を超えた監督・規制を行うことが実質的にできませんので、国際的な連携が不可欠となります。
そこで、日本の金融庁もメンバーとなっている保険監督者国際機構では、資本規制を含む新たな監督・規制の枠組みを整備してきました。具体的には、各国の規制当局がその国に本拠を置く保険グループのうち、国際的に活動するグループ(IAIG)を指定し、IAIGを中心に追加的な対応を行うというもので、先月末に金融庁が日本のIAIGを初めて公表しました。

日本のIAIGは4グループ

金融庁が指定したIAIGは次の4グループです。

・第一生命ホールディングス株式会社
・東京海上ホールディングス株式会社
・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社
・SOMPOホールディングス株式会社

IAIGに指定する定量基準は、「3以上の法域で保険料を計上」かつ「本拠法域外のグロス計上保険料が、グループ合計のグロス計上保険料の10%以上」という国際的な活動状況と、「総資産が500億米ドル以上」または「総グロス計上保険料が100億米ドル以上」(いずれも3年移動平均)というものです。加えて、各国の当局が必要と判断すれば、これらの基準に合わないグループもIAIGに指定できます。

3メガ損保グループのIAIG指定は定量基準から順当です。
他方で大手生保5社のうち、今回指定されたのは第一生命グループだけでした。金融庁は定量基準に合ったグループのみを指定し、規模の大きい日本生命や住友生命、明治安田生命、かんぽ生命は指定外としました。

指定による制約は限定的か

IAIGに指定された保険グループは、ストレス発現時の再建計画の策定や国際資本基準(ICS)の遵守が求められ、海外当局と連携した「監督カレッジ」によるモニタリングを受けます。
もっとも、監督指針の改正案(10月末公表)によると、金融庁はIAIG以外にも必要に応じて再建計画の策定を求めるようなので、IAIGに指定されなかったとしても、おそらく大規模で複雑な業務を行う保険グループはIAIGと同じ対応が求められます。
また、2025年の導入が見込まれている新たなソルベンシー規制はICSをベースとしたものとなる見込みなので、IAIG指定で競争上不利になることはなさそうです。

なお、一部は非公表ですが、アクサや米プルデンシャルといった日本で活動する外資系保険グループの多くもIAIGに指定されているとみられますので、国内勢だけが新たな規制を受けるのではありません。
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※カナダとUSAに行ってきました^^v

 

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新型コロナ禍は次のステージへ

今週のInswatch Vol.1054(2020.10.12)に寄稿したものです。
7-9月期の対面販売の数字はまずまずだったようですが、楽観視できないかもしれません。
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4-6月期の結果は異常値だが...

先月のInswatchでお伝えしたように、対面販売を主体とする生命保険会社では4-6月期に新規契約の獲得が極端に落ち込みました。7月の新規契約件数も前年同期に比べて45%の減少となりました(個人保険、生保42社合計)。
もっとも、4-6月期は緊急事態宣言が出され、営業活動を自粛していた期間だったため、落ち込みは当然の結果と受け止めることもできます。自動車保険の損害率が極端に改善したのも、経済・社会活動の自粛が強く影響していますので、これらは「異常値」と言えそうです。
社会から保険需要が消えてしまったわけではなく、むしろ不安心理の高まりが保険需要を掘り起こしている面もあるので、以前と同じような営業活動さえ再開できれば、業績は自ずと回復するはず。一時的ショックであれば、このように考えるのが自然です。

一時的ショックにとどまらない兆しも

期待に水を差すようで申しわけありませんが、新型コロナウイルスの感染拡大から半年ちょっと経ち、残念ながら一時的なショックでは済まない兆しが少しずつ見えてきました。
夏ごろまでは、活動自粛の直撃を受けた飲食業や旅行業など一部の業種を除き、新型コロナ禍でビジネスが蒸発するという状況ではなかったように思います。ところが、経済・社会活動の制限が一時的なものではなく、コロナ前の状態には当面戻れそうにないことがわかってきました。いったん感染が収まっても、しばらくすると再び感染が増え、活動を抑えざるをえなくなります。有効なワクチンが広く普及するまではその繰り返しです。
このため、影響は一部の業種だけではなく、全般的な個人所得の低迷や設備投資の減退などにつながる可能性が高まっています。そうなると、当然ながら保険需要も影響を受けるでしょう。

1日に発表された9月の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)では、最も注目される「業況判断」が改善したため、景況感の悪化に歯止めがかかったという見方も出ているようです。しかし、同じ短観の「設備投資額(2020年度)」を見ると、製造業、非製造業ともに計画が下方修正され、全規模・全産業ではマイナスとなりました。設備投資の落ち込みは経済全体に波及しますので、要注意です。

金融市場の動向も安心できない

多くの生命保険会社は保険引受リスクよりも、金融市場の変動が経営に最も影響を与えるリスク要因となっています。
3月に新型コロナの感染拡大で金融市場が動揺したものの、その後は比較的安定しています(ただし、金利水準は世界的に極めて低い水準のままで、回復していません)。しかし、新型コロナ禍の影響が実体経済にどのような形で波及するかは不透明であり、金融市場が再び大きく動くこともありえます。保険会社はあらためて自社のリスクの取りかたを考え、必要な見直しを行う局面だと思います。

※出張で京都に来ています。

 

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「基礎から理解するERM」

今回は新刊のご案内です。中央経済社から「基礎から理解するERM」という書籍が発行されました。編著者の武蔵大学の茶野努先生、一橋大学の安田行宏先生をはじめ、私を含む10人の執筆者によるものです。

本書は2015年に発行された「経済価値ベースのERM」を大幅に改訂し、かつタイトルも改めたものです。「経済価値ベースのERM」では主に保険業を中心に扱っていましたが、今回の「基礎から理解するERM」は銀行業に精通する執筆陣が新たに加わり、以下の構成となりました。

第1章 ERMとは何か、どこへ進むのか?
第2章 リーマンショックの背景とバーゼル規制強化
第3章 保険ソルベンシー規制の国際動向と生保経営への影響
第4章 リスク計測・管理手法の変遷と課題
第5章 銀行の流動性創出機能について-流動性リスクとリスク管理の観点から-
第6章 地方銀行におけるリスク管理への取り組み
第7章 生命保険会社のERM-銀行との比較を通じて-
第8章 損害保険会社のERM-自然災害リスク管理を中心に-
第9章 保険会社によるERM関連情報の開示
第10章 CROによるERM論

第10章の「CRO」はSOMPOホールディングスの伊豆原さんです。SOMPOホールディングスはIR資料や有価証券報告書でERM関連情報を積極的に開示している会社ですが、本章は同社のERMについての考え方がよく理解できる内容となっていて、興味深く拝見しました。

私が担当したのは第9章で、5年前に執筆したものを多少改訂したものです。多少の改訂ですんでしまったのは、この間、日本では上場保険グループによる投資家向けの任意開示を除き、ERM関連情報の開示にほとんど進展がなかったことを意味しています。経済価値ベースのソルベンシー規制の方向性が示されたことですし、数年後には進展がみられることを期待しています。

※秋ですね。

 

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生保の第1四半期報告より

今週のInswatch Vol.1050(2020.09.14)に寄稿したものです。
一時的な緊急事態から新たな生活様式にシフトするなかで、各社の新契約獲得力はどうなっていくのでしょうか。
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対面チャネルは総じて厳しい結果に

既報のとおり、新型コロナ感染症による営業自粛で、第一四半期(4-6月期)の生保各社の業績は著しく落ち込みました。

営業職員を主力チャネルとする大手生保では、個人保険の新契約件数、新契約年換算保険料ともに前年同期に比べて5~7割減少しています(明治安田生命は約4割減)。
代理店による生損保クロスセルを主力とする損保系生保では、新契約が前年同期に比べて2、3割の減少にとどまっています。ただし、これは損保代理店がコロナ禍のなかで生保営業に邁進したというのではなく、経営者保険の税制見直しにより前年同期の数字が落ち込んでいたためとみられます。中小企業を顧客基盤とする大同生命の新契約年換算保険料が前年よりプラスとなったのも、おそらく同じ理由です。こうした特殊要因のない2018年と比べると、いずれの会社も落ち込みが大きくなっています。
銀行窓販が主体の会社(第一フロンティア生命、三井住友海上プライマリー生命)でも新契約は大きく落ち込みました、こうしてみると、4-6月期は営業職員、代理店、銀行と、どのチャネルでも対面販売はコロナ禍の影響を強く受けたことが確認できました。

他方で、ダイレクトチャネルを主力とする会社は新契約を伸ばしました。ライフネット生命、アクサダイレクト生命、SBI生命などで、「ステイホーム」が追い風となりました。
オリックス生命、はなさく生命、メディケア生命なども健闘しています。オリックス生命は新契約件数も新契約年換算保険料も前年同期比1、2割しか減っていませんし、経営者保険による影響もほとんどありません(ダイレクトチャネルが貢献した可能性はあります)。ちなみに、はなさく生命は日本生命グループ、メディケア生命は住友生命グループの会社です。

個人は解約に動かず

解約が増えているという報道もありましたが、4-6月期の数字を見るかぎり、全体としては、解約はむしろ落ち着いていました。銀行窓販が主体の2社では1-3月期に続き、解約返戻金が高水準となりましたが、あとはエヌエヌ生命とマニュライフ生命の解約がやや目立つ程度です。
銀行窓販で解約が多いのはやや気になります。すでに解約控除期間が終わっている契約であればいいのですが、銀行の勧めにしたがい預金から貯蓄性保険にしてしまい、いざ手元に資金が必要となってはじめて顧客が解約控除の存在を知った、などということはなかったでしょうか。

手元資金に関連して、各社の契約者貸付の残高も調べてみました。6月末の残高が3月末に比べて100憶円単位で増えたのは、日本生命、かんぽ生命、大同生命、ソニー生命、プルデンシャル生命、エヌエヌ生命、あんしん生命でした。経営者保険に注力してきた会社で増加が目立ちますが、契約者貸付に対する取り組み方針による違いもありそうです。

4-6月期は緊急事態宣言が出されるなかでの営業活動でしたが、新たな生活様式が定着してきた7-9月期(とはいえ第2波の影響もありそうですが)の契約動向に注目したいと思います。
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※福岡大学では後期の授業が始まり、着任して初めて対面授業を行いました。

 

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保険会社にとっての「重要なリスク」とは

インシュアランス生保版(2020年8月号第2集)に執筆したコラムです。
有価証券報告書で思い出しましたが、今年はまだ保険会社のディスクロージャー誌が出揃っていませんね(8月26日現在)。

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大手保険会社では、保有するリスクを各社の内部モデルを使って可能なかぎり定量的に把握し、経営体力としての自己資本(時価ベース)と対比したうえで、リスクの取り方をコントロールする実務が定着している。このうち3メガ損保グループでは、数年前からリスク量と資本のバランスとともに、リスク量の内訳を公表している。これを見ると、自然災害に伴う多額の保険金支払いなど、一見大きそうに見える損害保険(保険引受)のリスクよりも、多額の政策保有株式に代表される資産運用関連リスクや生命保険事業の金利変動リスクが大きいという実態がわかる。

他方、昨今のコーポレート・ガバナンス改革の一環として記述情報(非財務情報)の開示の充実が求められるようになり、有価証券報告書のリスク情報の記載に変化が見られるようになった。3メガ損保グループの有価証券報告書には、いずれもグループ経営に重大な影響を及ぼすとして特定したリスクが載るようになり、従来のいわば「考えられるリスクの羅列」から一変した。

特に高く評価したいのはSOMPOホールディングスの開示である。同社は特定した27の重大リスクを公表するだけではなく、それぞれのリスクを発生可能性と影響度を評価した「ヒートマップ」として図示し、さらにリスクへの対応状況を説明している。
ヒートマップを見ると、発生可能性は中程度(100年に1回以上)だが、発生した際の影響が極めて大きい(経済的損失で言えば5千億円以上)リスクとして、「経済環境の悪化」「パンデミック」を挙げている。後者の「パンデミック」には、もちろん新型コロナウイルス感染症が及ぼす影響が含まれている。注意したいのは、ここで示されているのは新型コロナ禍としてすでに実現している損失ではなく、これから起こりうる影響であるということだ。同社では「リーマンショック級の市場変動」「企業倒産の増加等の環境変化による支払い拡大」「経済停滞に伴う保険需要の減少や損害率の変化等」「各事業の継続に不可欠な業務の中断」といった多方面かつ長期にわたる影響を想定し、対応を進めていることがわかる。

この2つに比べれば影響度はそこまで大きくはない(経済的損失で言えば500憶円以上)10のリスクのうち、発生可能性が比較的大きい(10年に1回またはそれ以上)ものとして「大型システム開発プロジェクトの遅延等」を挙げ、発生可能性の評価不能なリスクとして「顧客情報漏えい」「サイバー集積リスク」を挙げている。大型システム開発の影響がここまで大きいとは意外に感じるかもしれないが、まさに経営を左右する投資ということになる。

こうしたリスクプロファイルの把握が経営にどう生かされるのか、私たちは対話を通じて確認していく必要があるだろう。
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※この夏もフルーツかき氷を味わうことができました♪

 

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保険市場のダイナミズムはどこへ

今週のInswatch Vol.1045(2020.08.10)に寄稿したものです。
再編が進み、過去の話はどこまで語り継がれているのでしょうか。
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自動車保険の取り組み姿勢の違い

九條守氏の著書『保険業界戦後70年史』に、1970年代の話として、自動車保険の販売戦略の違いによって(収入保険料で見た)業界順位が大きく変わったという記述がありました。
本書によると、「整備工場とタイアップしたり、西日本での販売を控えたりする等、事故率を抑える工夫を凝らしてメリハリを利かせて積極的な募集を展開した」会社が順位を上げ、「自動車保険は損害率が高く収益性が悪いという懸念から、経営を危うくしかねないとの判断で、自動車保険の販売に慎重な姿勢を示す会社」が順位を下げたとのことです。
自動車保険だけを見れば収益性が悪くても、多種目販売を積極的に展開すれば、経営を危うくすることにはならず、増収による規模拡大がはかれるという戦略があったと本書は述べています(その戦略が適切かどうかはとりあえず脇に置いておきます)。

ちなみに、私がかつて所属していた会社も、当時、大手のなかで自動車保険に最も積極的に取り組んだ会社であり、積極経営によって業界地位が高まったという話を何度も耳にしました。業界地位とは市場シェアだけでなく、業界での発言力、影響力なども含まれていたようです。
積極経営はその後の積立保険の販売でも見られ、こんどは大手他社も同じように積極的に「年金払積立傷害保険」などを高い予定利率で提供しました。1990年前後のことです。残念ながら当時の保険負債は、その後の低金利でいまだに経営の重荷として残っています。

現在はどうか

当時の損害保険会社の経営環境は現在とは全く違います。カルテル保険料率だったので料率競争はありませんし、護送船団行政ですから、いわば監督官庁が経営リスクを引き受けていました。経営指標として重視されていたのは収入保険料と市場シェア、それと他社比〇〇という数字で、損益は二の次という雰囲気でしたが、それでも自動車保険という成長分野に対する取り組み姿勢には会社により大きな違いがあったということです。

今はどうでしょうか。3メガ損保グループが国内損害保険市場の大半を分け合うようになって久しく、少なくとも国内事業においては、どの会社の経営戦略も大きな違いがないように見えます。
さすがに市場シェア10%を超える会社では、公共的使命という観点から、かつての某社のように(損害率の高い)西日本での販売を控えるといった戦略を打ち出すのは現実的ではないと思います。ただ、もしかしたら成長分野かもしれないサイバーリスクに注力している会社があるとも聞きませんし、コロナ禍での現場対応も似たり寄ったりに見えます。メリハリというよりは総花的と言えるでしょうか。

規制が厳しかった時代に比べ、規制緩和が進んだ(ただし、寡占化も進んだ)現在のほうが市場のダイナミズムが見られると言えないところが、経済政策の難しさを感じます。
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写真(上)の斤券(きんけん)は炭鉱札の一種で、説明によると、「毎日の賃金支払いに通貨(現金)の代わりに支払われた」「実際にはなかなか(通貨に)交換してもらえず、炭鉱内の売勘場(売店)や炭鉱指定店の中だけで通用していた」「急に現金を必要とする場合は納屋頭や炭鉱指定店、高利貸から両替してもらったが、2割から5割の高い割引料をとられることもあった」とのこと。炭鉱労働の厳しさは事故の危険だけでなく、こんなところにもあったのですね。明治から大正にかけてのことです。

 

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過去20年の寄稿から見えるもの

保険ジャーナリスト森田直子さんが直近のinswatch Professional Reportのなかで、この20年間の原稿執筆依頼の変化から保険の販売チャネルの動向が見えるという興味深い記事を書いていました。なるほどと思い、自分の場合はどうだろうと、さっそく過去に新聞や経済誌に寄稿した文章をリストアップして、タイトルを眺めてみました
(ご参考までに最後にリストを載せています…私の備忘録ですね)。

東洋経済の保険特集号に1999年から2017年まで寄稿していた(一時中断あり)こともあり、この20年間、ありがたいことに保険関係の論考をほぼ途切れることなく寄稿してきました。しかし、ここから保険業界の変化が感じとれるかといえば、そうでもなさそうです。

寄稿の特徴としては、

・保険会社の経営分析が多い(「アナリスト」を名乗っているので当然ですね)
・内外の健全性規制の解説も多い
・最も多いのは経営改革を求めるもの

の3点でしょうか。私の求められる役割がこの3点だと言えばそれまでですが、変化というよりは、むしろ一貫して「保険会社の経営改革」を訴え続けてきたということになりそうです。
逆に言えば、20年前も今も「ガバナンス」「リスクマネジメント」「販売至上主義からの脱却」が保険会社の課題であり続けている(少なくとも私にはそう見える)ということですね。

もちろん、保険会社の経営が20年前から全く変わっていないというのではなく、変化はしているのだけど、求められる水準が上がっている、あるいは、事業の多角化などにより、求められる内容も変わってきているのだと思います。

【新聞・経済誌への主な寄稿】
 <格付アナリスト(R&I)>
「生保の予定利率引き下げ」2001.8.20 読売新聞『けいざい講座』
「生保契約者の保護充実を」2001.11.20 日本経済新聞『経済教室』
「経営戦略の『リセット』へ 株式会社化のお勧め」2003.8 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「国内生保の経営改革始まる」2004.7 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「生保危機は去ったのか?求められる社会保障の補完的役割」2005.9 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「顧客に合わせた経営スタイルを構築せよ」2006.8 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「保険不払い、どう考える」2007.5.6 朝日新聞『耕論』
「金融庁が求める基準見直しの狙い」2007.6.26 週刊エコノミスト
「今度こそ『販売至上主義』から『顧客重視』経営への転換を」2007.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「生保経営統治向上急げ」2008.8.22 日本経済新聞『経済教室』
「破綻危機は去ったのか? なお潜伏する経営リスク」2008.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「特集 共済vs.生保-【4 共済の実態】格付けアナリストが深層に迫る-大手共済徹底分析」2008.11.29 週刊東洋経済
「AIGショックに揺れる米国生保 不安視される日本の生保事業の行方」2009.1.31 週刊ダイヤモンド
「保険危機再来に問う『ガバナンスは万全か』」2009.4.18 週刊東洋経済
「2008年度の生保決算分析」2009.8.17 週刊金融財政事情
「ポスト金融危機の保険経営」2009.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「金融危機と保険会社のリスク管理態勢」2009.12.21 週刊金融財政事情

 <金融庁>
「保険会社に対する健全性規制の最近の動向」2011.4.18 週刊金融財政事情

 <キャピタス>
「注目が集まるERM経営」2013.3.9 週刊ダイヤモンド
「異次元緩和下における生保のリスクマネジメント」2013.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「4大共済の実力分析」2013.8.24 週刊東洋経済
「主要生損保のリスク戦略」2014.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「進む保険の国際規制改革」2015.1.17 週刊ダイヤモンド
「大型M&Aがゴールではない 海外展開で問われるERM経営」2015.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「高騰する地震保険料 広がる都道府県の格差」2016.1.16 週刊東洋経済
「マイナス金利政策の導入で問われる生保経営の成熟度」2016.4.23 週刊ダイヤモンド
「未曽有の利回り曲線平坦化に生保経営はどう対応するのか」2016.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「保険会社による適切なリスクテイクとは」2017.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「超低金利と技術革新が迫るチャネル戦略の再構築」2018.6.18 週刊金融財政事情
「主要生保経営の現状と課題を探る」2019.2.4 週刊金融財政事情
「最高益は見せ掛けにすぎない 生保経営の真実に迫る」2019.6.15 週刊ダイヤモンド

 <福岡大学>
「大手損保グループの2020年3月期決算分析」2020.7.6 週刊金融財政事情

※写真は筑豊電鉄です。
 終点・直方のアーケード街は閑散としていました。

 

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有価証券報告書の新たな開示

inswatch Vol.1041(2020.7.13)に寄稿した記事のご紹介です。
定性的な開示は定量的な開示と合わせて見ることで理解が深まりますね。

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上場会社の有価証券報告書に「事業等のリスク」という項目があります。従来の記載は、いわば「考えられるリスクの羅列」となっていて、あまり参考にならなかったのですが、昨今のコーポレート・ガバナンス改革の一環として次年度から開示の充実が求められるようになり、前倒しで記載内容を見直す動きがあります。
主な上場保険グループの「事業等のリスク」を確認してみましょう。

東京海上ホールディングス

従来とは異なり、最初にグループ経営におけるリスク管理の考え方(リスクベース経営)を説明したうえで、定性的リスク管理と定量的リスク管理に分け、それぞれ図表を使って具体的な取り組みを紹介しています。
なかでも定性的リスク管理では、これまでのリスクの羅列ではなく、経営レベルで論議し、特定した11の「重要なリスク」と、それぞれにおける主な想定シナリオを示しています。

MS&ADインシュアランスグループホールディングス

前半でリスク管理方針とその体制、ERMをベースにしたグループ経営について説明し、後半でグループの主要なリスクを紹介しています。
定量的な記載が少ないという感もありますが、後半の主要なリスクでは、経営が管理すべきリスクとしてとらえている「グループ重要リスク」に加え、経営が認識すべき「グループエマージングリスク」についての言及もありました。

SOMPOホールディングス

従来のリスクの羅列から記載内容が一変しました。最初にリスク管理の全体像(戦略的リスク経営)を示し、次に、具体的にどのようなリスクコントロールを行っているかを説明しています。自己資本管理についてはコントロール手法だけでなく、実際の管理状況も数値で示しています(決算説明資料でも開示)。
主要なリスクの記載も充実しました。「重大リスク」を示すだけでなく、ヒートマップ(発生可能性・影響度)を使ったリスクの評価を行ったうえで、対応状況の説明があり、さらに新型コロナ関連の記載も別途見られます。

第一生命ホールディングス

経営に重要な影響を及ぼす可能性のある予見可能なリスクとして選定した「重要なリスク」とその選定プロセスの説明が加わりましたが、従来の記載内容と大きく変わってはいません。
他方で第一生命ホールディングスは、決算説明会で定量的なリスクプロファイルや今後のリスクテイク方針の詳細な説明を行っており(説明資料は同社サイトで公表)、次年度は有価証券報告書の記載内容もさらに充実するのではないでしょうか。

T&Dホールディングス

もともと他社よりも記載内容が充実しており、中核生保子会社の事業基盤や収支構造、規制内容に関する具体的な説明までありました。
今回はリスク管理体制に関する説明を加え、あとは従来のものをやや簡素化したという内容です。おそらく次年度にはより充実した記載内容となることが期待されます。

ソニーフィナンシャルホールディングス

記載の形式は従来どおり、リスクを羅列していくものでした。ただし、新型コロナ関連に加え、ソニーによる完全子会社化が計画されているため、記載内容にはかなりの変化が見られました。

かんぽ生命保険

今回から主なリスクを「最も重要なリスク」「重要なリスク」「上記以外のリスク」に分けて開示するようになりました。
記載内容には一定の役職以上の執行役に対するアンケート結果や、リスク管理委員会・経営会議での協議結果などが反映されているとのことで、全部で21ページにも及びます。

いかがでしたでしょうか。せっかく上場会社がコストをかけて開示を充実しても、利用されなければ意味がありません。保険会社のステークホルダーは投資家だけでなく、保険販売にかかわる皆さんも、保険会社の従業員も含まれますので、これらの情報を保険会社(特に経営者)との対話に使ってみてはいかがでしょうか。
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※大学の周辺には池がいくつもあります。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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