生保の営業職員チャネル

1週間ほど前の日経新聞に「生保が営業職の定着策(会員限定)」という記事が出ていました。生保各社が営業職(営業職員のことでしょうか?)の退職を減らす取り組みに力を入れているというもので、主要8社の在籍率の推移を調査したそうです。

まず、8社の調査をしたのであれば、8社のデータ(1年後から5年後まで)を記事中で使うだけではなく、そのまま出してほしかったです。紙の新聞はスペースの制約があるものの、電子版にはありません。メディアはファクトを出すのが重要な役割ではないでしょうか。

そのうえで、入社5年後の在籍率25%というのをどう考えるかです。
拙著『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』の150ページには、次のような記述があります。

「2005年に発覚した保険金不払い問題を経て、各社は新契約に過度に偏重した営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業活動に舵を切りました」

「採用後の教育を重視し、固定給を増やすなど、早期退職を減らす取り組みもターンオーバー(大量採用・大量脱落)の改善に効果を上げたと考えられます」

確かに採用後1年程度で辞めてしまう営業職員はかなり減りました(記事には入社1年後の在籍率が平均71%とありました)。
在籍する営業職員の協力によって採用となった新人職員が、地縁・血縁に頼った販売が一巡すると営業活動が滞ってしまい、早々に退職に追い込まれるとともに、その職員が獲得した保険も短期で解約となるというパターンは、かつてに比べれば減っているのかもしれません。
もっとも、5年後の在籍率が25%まで下がってしまうということは、採用後の教育を重視し、育成期間の固定給を増やし、既契約重視の営業活動に舵を切っても、「採用⇒縁故販売⇒退職⇒解約」というパターンは変わっておらず、サイクルが長くなっただけという可能性もあります。

早期退職は減っていても、大手各社の公表データをつなぎ合わせると、営業職員による保障性商品の販売は総じて低調です。教育制度の拡充や給与体系の改善で在籍率が多少改善したとしても、このビジネスモデルが今後も持続可能なのかという疑問は残ります。

生命保険は本来、主に個人の生死にかかわるリスクマネジメントの手段の1つです。もちろん、ネットが普及した世界でも、「信用できる相手から話を聞いて買いたい」というニーズはあるでしょう。
しかし、いくら「生命保険(保障性商品)はニーズがネガティブなのでプッシュが必要」とか、「○○さんが勧めるのだから大丈夫」ということはあるにしても、そもそも大手4社合計で毎年2万人も採用し、資格取得によるふるい落としもほとんどない職員が、リスクへの備えを相談する相手となりうるのでしょうか。そこに根本的な疑問があるのですね。貯蓄性の強い商品であれば、なおさらです。

個人差がかなり大きいのは承知のうえで、問題の本質は営業職員の退職ではなく、今の採用数や採用方針を続けるのかどうかではないかと思います。

※秋の深まりを感じます。福岡大学にて。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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