15. 執筆・講演等のご案内

「フクダイズム」に登場しました

なんと大学から取材を受け、FUKUDAism(フクダイズム)というサイトに登場してしまいました。
このところコロナの保険に関する取材が続き、大学の広報部門ともつながりができたので、その流れでこちらに登場することになったのではないかと思います。よろしければご笑覧ください。
サイトはこちらです。

取材を受けることになり、サイト内を眺めていたら、卒業生にNHKニュース「おはよう日本」でおなじみの気象予報士・近藤奈央さんが福大OGであると知りました(こちらです)。彼女は卒業してから気象予報士を目指し、見事合格。毎朝楽しく観ているので、卒業生だとわかってうれしかったです。

※写真は京都の南禅寺と永観堂です。
 紅葉がきれいでした。

 

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金融庁の「保険モニタリングレポート」

今週のInswatch Vol.1156(2022.10.17)への寄稿は先月に続いて金融庁ネタでした。ブログでもご紹介いたします。元の資料はこちらになります。
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保険行政に特化したレポート

先月の寄稿では2022事務年度の金融行政方針を取り上げ、保険に関する記述が少ないと悪態をついてしまいました。これに対し、9月30日に金融庁が公表した本レポートは、以下の目的を達成するために策定・公表したもので、全64ページすべてが保険に特化したレポートです。

・保険行政の透明性を高める
・保険会社との対話・モニタリングにより保険行政の高度化を図る
・保険業界が将来にわたり社会的役割を果たすための取り組みを促す

金融庁が考える保険会社の諸課題

レポートで金融庁は、保険会社にとって重要と考えられる課題について、昨年度(事務年度。以下同じ)に行政として何を行い、今年度はどのような方針で取り組むかを示しています。今回のレポートで挙がっている課題は以下の通りです。

【持続可能なビジネスモデル】
・ビジネスモデル対話
 ※中長期的な視点に立ったビジネスモデルの構築:植村注
・デジタル化へ向けた取り組み

【財務・リスク管理】
・グループガバナンスの高度化
・自然災害の多発・激甚化への対応
・財務の健全性の確保
 ※財務上の実態把握と対話、財務上の指標や規制のあり方の見直し
・マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策

【顧客本位の業務運営】
・営業職員管理態勢の高度化
・公的保険を踏まえた保険募集
・節税保険への対応
・外貨建保険の募集管理等の高度化
・保障内容の見直しに関する顧客視点に立った商品設計
・保険代理店管理態勢の高度化

【少額短期保険業者】
・財務の健全性及び業務の適切性の確保
・経過措置適用業者への対応

業界関係者には必読のレポート

金融行政方針の「実績と作業計画」に比べると、課題として挙がっているテーマ数はかなり多くなっていますし、昨年度に金融庁が何を行ったのかをより詳細に知ることができます。保険代理店に関する記述も多いので、関係のありそうなところだけでもご覧いただくことをおすすめします。

もっとも、昨年度版でも感じたことですが、本レポートは基本的には金融庁の活動報告であって、保険会社や保険代理店との対話やモニタリングを通じ、保険行政として現状をどう評価し、今後どうしていきたいのかという記述は控えめです。
例えばレポートによると、金融庁は自然災害リスク管理に関するモニタリングを一昨年度、昨年度と続けて実施していることがわかります。ところが今年度の方針でも「今後の大規模自然災害発生に備え、損害保険会社において、経営レベルでの論議も含め、自然災害リスク管理をどのように行っているか、引き続きモニタリングしていく」とあり、なぜ引き続きモニタリングしていく必要があるのか、これだけでは金融庁の意図がよくわかりません。保険会社には自然災害リスク管理を継続してモニタリングする理由を十分伝えているのかもしれませんが、行政の透明性という目的を踏まえると、今後はもう少し踏み込んだ記述を期待したいです。

なお、巻末のコラムでは「遺伝情報の取扱いについて」「新型コロナウイルス感染症による『みなし入院』に係る入院給付金等について」など、トピック的な行政対応が載っています。ただし、「生命保険会社の健全性と契約者配当について」だけは他のコラムと違い、金融庁が何かを実施したという記述がない「謎コラム」となっていて、秘かに注目しているところです。
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※キャンパスには秋のバラが咲いています。

 

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金融庁の金融行政方針

今週のInswatch Vol.1152(2022.9.12)では金融庁の行政方針を取り上げましたので、ブログでもご紹介いたします。元の資料はこちらになります。
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金融行政の重点課題と取組方針を公表

金融庁は8月31日に2022事務年度の金融行政方針を公表しました(金融庁の事務年度は7月から翌年6月です)。「直面する課題を克服し、持続的な成長を支える金融システムの構築へ」という副題が付き、「概要」「本文」「コラム」「実績と作業計画」を合わせると190ページにもなる大作です。
そのなかで保険に関する記述が少なく、かつ、モニタリング方針に挙がっている項目に前年度から変化がなかったのは、保険会社や代理店に問題がないというのではなく、金融庁の問題意識が今のところ必ずしも高くないというだけだと私は考えています。

以下では「実績と作業計画」に掲載された業種別モニタリング方針から、保険会社に関する作業計画をご紹介します。

保険業界における顧客本位の業務運営

節税(租税回避)手法を活用した保険募集の問題や営業職員による不適切事案の発覚などを受けて、前年度の作業計画に比べると記述がかなり増えました。とりわけ、「財務局との連携を一層強化しつつ、保険代理店の監督を行っていく」「(乗合)代理店の業務品質評価に係る取組みが各生命保険会社に広がるよう促していく」と、保険代理店に関する内容が増えたという印象です(営業職員管理のモニタリングに関する記述もあります)。

なお、外貨建保険の販売に関するフォローアップや、障がい者等への対応については、業態横断的なモニタリング方針のなかで触れています。

ビジネスモデル

引き続き保険会社とのビジネスモデル対話を行うというなかで、「トップラインだけでなくボトムライン(火災保険の収益改善等)の適正化に向けた取組み等をテーマとした対話を検討する」とあり、後述する「自然災害」と合わせ、金融庁が火災保険の収支動向に強い関心を持っていることがうかがえます。

グループガバナンス

大手保険グループの経営管理(海外事業を含む)に関するもので、前年度のフォローアップとみられます。

自然災害

大規模な自然災害に関する保険会社のリスク管理態勢を引き続きモニタリングするというものですが、「災害に便乗した悪質商法等の排除」「水災リスクに応じた火災保険料率の細分化」に関する記述もあります。

経済価値ベースのソルベンシー規制等

金融庁はこの6月に主要論点の暫定決定内容を公表しているので、これに基づいて準備を進めていくとのことです。
個人的には「監督会計のあり方について検討を行う」「IFRS任意適用に関する必要な法令の整備」にも注目しています。

金融行政方針は単に金融庁が作業計画を世に示したというだけではなく、行政として自らを律することになる重要なものです。読者の皆さんもこの機会に金融庁のサイトを確認してみてはいかがでしょうか。
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※鉄道150周年を迎える横浜・桜木町駅です。

 

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入院給付金の見直し

前々回のブログでご紹介した8月20日前後のメディア対応に続き、9月1日から4日にかけて、NHK(夜9時のニュースなど)をはじめ、掲題のテーマでいくつかのメディアに登場しました。共同通信の取材にも応じたので、静岡新聞などいくつかの地方紙にコメントが出たそうです(知人に教えてもらいました)。

その共同発のコメントですが、前半部分に訂正があります(申しわけありません)。

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関の逼迫(ひっぱく)を回避するために保険業界が社会貢献のような形で導入した」

ではなく、

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関が逼迫(ひっぱく)して自宅療養者が出るなかで、保険業界が社会貢献のような形で導入した」

というコメントをしたつもりでした。これは記者さんのせいではなく、私の確認ミスです。

ちなみに後半部分はこうなっています。

「最近は軽症や無症状の感染者も多く、本来は給付金を受け取る対象か疑わしい人も受け取っていることが問題になっている。保険は加入者がお金を出し合って、いざという事態に備える仕組みだ。みなし入院の感染者全てに支払いを続けると、新規で医療保険に加入する人の保険料が値上がりしたり、販売停止につながったりして、加入者が不利益を被る恐れがある」

NHKのコメントは動画のほか、こちらで確認できます。

NEWS WEB「コロナ自宅療養で“入院保険”これからどうなる?」(9月1日更新)
サクサク経済Q&A「【詳しく】新型コロナ 入院給付金見直しって?」(9月1日公表)

コメントの中核部分はこちらになります。

「保険会社が『みなし入院』でも給付金を払うと決めたときはまだ、コロナがどんな病気で、どれくらい深刻なのかが分からなかったため、こうした対応が社会にとって役立つと考えていたのだと思う。しかし、今は症状が重くなくても、陽性と判定されればそれだけで給付金がもらえてしまう状況で、給付金をもらうためにあえて保険に加入する人も出てきている。入院給付金の原資は契約者が払う保険料で、保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平な状況になっており、正常な状態に戻すという話だと捉えるべきだ」

後段の「保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平」というのはちょっと変ですが、「保険料と給付金のバランスが崩れているうえ、保険料を負担している人たちのなかで不公平が生じている」と捉えていただければ幸いです。

ちなみに同じNHKでもNEWS WEBとサクサク経済Q&Aは別の取材でして、これは本人でないとわからないかもしれません。

念のため、今回の見直しに関する資料を挙げておきましょう。

1.金融庁「入院給付金の取扱い等に係る要請」(9月2日公表)

生命保険協会、日本損害保険協会、外国損害保険協会、日本少額短期保険協会にあてたもので、「貴協会におかれては、会員各社において、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、政府による検討の方向性を踏まえた上で、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の取扱い等について、支払対象も含め、可及的速やかに検討が行われるよう周知していただきたい」とあります。

2.生命保険協会「新型コロナウイルス感染症による宿泊施設・自宅等療養者に係る療養証明書の取扱い等について

上記の金融庁要請を受けて、「生命保険各社においては、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の支払対象も含めた取扱い等について、 検討が行われるよう周知しています」とあります。日本損害保険協会のリリース文も、この部分に関してはほぼ同じです(「周知」ではなく「依頼」となっていますが)。

各社の対応はおそらく検討中で、まだサイトでは確認できませんでした(5日現在)。

※熊本城の修復もだいぶ進みましたね。

 

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メディアに登場

ここ数日メディアに登場する機会がいくつかあったので、備忘録を兼ねてご紹介します。

日経Beyond Health
19日(金)に「どうなる? 日本の生保ビジネス」という少し長めのインタビュー記事がアップされました。比較的長いスパンで大手生保の経営を考えるというもので、記事のなかでは課題として以下の3つを挙げました。

1.現在の経営スタイルに関する説明
2.ビジネスモデルの再構築
3.技術革新をどう取り入れていくのか

無料で公開されているようですので、詳細はサイトをご覧ください。

羽鳥慎一モーニングショー
18日(木)に、テレビ朝日の朝の情報番組にリモート出演しました。「保険 入院給付金支払い急増…新規販売見直しも」というコーナーでしたが、時間が押してしまったので、私のコメントはちょっとだけです。
画面では「『将来の不安に備えて加入する』という保険本来の形が成り立たなくなってきているのが、今、起きていること。保険業界として、コロナをめぐる保険の見直しが必要な時期に来ている」などいくつかのコメントが出ていたと思います。

最後にレギュラーコメンテイターのかたが、「保険会社には同情しない」「儲けようと思ってコロナの保険を売ったのだから、自業自得」という趣旨のコメントをしていましたね。いま起きている入院給付金の支払い増加はコロナに特化した保険の話ではないし、入院給付金の原資は加入者の支払った保険料なので、不正まがいの加入者が増えるのは問題なのですが…スタジオにいたら放送事故になっていたかもしれません(笑)

同じ18日にはNHKの朝のニュースでも、7月26日にアップされたwebニュース記事「コロナ自宅療養で “入院保険” 手続きはどうするの?」が何回か紹介され、SNSなどで「観たよ」というコメントを複数いただきました。医療保険の加入者に請求を促すような内容となっていますが、皆さんぜひ「My HERーSYS」を利用していただき、多忙な保健所の手を煩わせないようにしていただきたいですね。

コロナと民間医療保険に関しては、地元テレビ局のRKB毎日放送からも取材を受け、23日(火)の夕方18:15からのどこかでコメントが使われるかもしれません。
⇒ こちらから観られそうです。

以上です。

<8/22追記>
テレビ朝日の報道番組「グッドモーニング」にも取材協力しました。
こちらになります。

※写真は臼杵(大分県)の城下町です。

 

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民間医療保険の存在意義は何か

インシュアランス生保版(2022年8月号第3集)に寄稿したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナル)。
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医療保険の支払いが急増

保険を学ぶ大学生に対し、「民間の医療保険は医療費を保障するものではないんだよ」という話をすると、怪訝な顔をされることが多い。
読者の皆さんには釈迦に説法だと思うが、医療費を保障するのは公的医療保険であって、保険会社が提供する医療保険は、病気の際の支出全般を保障(補償)する保険である。支払事由は被保険者の入院や手術などとなってはいるものの、給付金の使い道は自由なので、医療費の自己負担分に充ててもいいし、療養中に減ったパート代の補填にもなれば、体力回復のために美味しい食事をとるのにだって使える。裏を返せば、死亡保険や火災保険、自動車保険に比べると、加入者は民間医療保険で自らのどのようなリスクを保障(補償)してもらいたいのか、必ずしも明確ではないように思う。

こんなことを書いたのは、新型コロナウイルス感染症の流行第6波以降、保険会社による入院給付金の支払いが急速に増えていることがある。報道によると、生命保険協会加盟会社の入院給付金(コロナ関連)はこの4、5月だけで昨年度の水準に達した。全体で見ても、この2カ月間に支払った給付金は前年同期に比べて22%も多い。とはいえ、この給付金が基本的に医療費に充てられることはない。なぜなら、新型コロナは国の指定感染症であり、治療に係る医療費は公費負担となっているからである。

何を補償しているのか

コロナ感染に伴う民間医療保険の入院給付金支払いでは、感染者数の急増のほか、保険会社にとって2つの想定外の事態が生じている。1つは、支払った入院給付金の9割超が自宅療養などの「みなし入院」患者向けとなっていること。もう1つは、濃厚接触者など感染リスクの高い人が率先して保険に加入するといった、大規模な逆選択やモラルリスクが生じた可能性である。
コロナ感染者の治療費に自己負担はなく、感染者の多くが軽症であることを踏まえると、なかには「保険に入っていたおかげで生活が助かった」という人もいるだろうが、給付金を受け取った人の大半は「お金を受け取れてラッキー」という感覚ではなかろうか。

コロナ感染という「苦痛」に対する補償に対し、目くじらを立てるのはおかしいという意見もあるだろう。ただ、保険本来の機能はリスクの移転であり、人々は保険を利用すれば、安心して社会活動を営むことができるというもの。現在の民間医療保険によるコロナ感染者への給付金支払いは、こうした保険本来の機能から外れてしまっているように見える。
想定を超えた支払いは、保険会社の保険引受リスク管理の甘さから生じたと言ってしまえばそれまでである。だが、そもそもの問題は、民間医療保険のカバーするリスクがあいまいなまま、保険業界にとって高収益の見込める主力商品として、競って販売してしまったことにあるのではないか。
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※写真は中津城(大分県)です。

 

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SMRからESRへ

6月末に金融庁が新たな健全性政策の暫定決定を公表していますので、今週のInswatch Vol.1148(2022.8.8)ではこちらを取り上げました。ブログでもご紹介いたします。
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SMRの機能不全

保険業界のかたであれば、ソルベンシー・マージン比率(SMR)という保険会社の健全性を示す指標をご存じだと思います。保険業法は保険会社に対し、通常の予測を超えるリスクに応じた支払余力(ソルベンシー・マージン)の確保を求めていて、比率が一定水準を下回ると監督当局が行政命令を出し、保険会社の健全性確保を図るというものです。
しかし、当局の介入基準である200%を直近時点まで上回っていた保険会社が相次いで経営破綻する事態となったことのほか、現行会計では責任準備金を取得原価で評価しており、結果としてSMRが金利水準の変動をうまく反映できていないことなどから、SMRの信頼性は必ずしも高いとは言えない状況です。おそらく皆さんも、1000%前後の数字がずらっと並ぶ各社のSMRをほとんど気にしていないのではないでしょうか。

SMRからESRへ

金融庁はこれまで何も手を打ってこなかったわけではありません。例えば2011年には、あくまで現行の枠組みのなかではありますが、SMRの厳格化を行っています。さらに、金利水準の変動をはじめ、保険会社の財務状況を的確に把握できるよう、金融庁は健全性指標を抜本的に見直す検討を続けてきました。検討に時間がかかったとはいえ、先月(6月)ついに新たな健全性指標の暫定基準を公表するに至りました。
新たな指標は「経済価値ベースのソルベンシー比率(ESR)」と言います。現行会計では負債の大半を占める責任準備金を取得原価で評価しているので、いったん獲得した責任準備金の評価は原則として動きません。これ対し、ESRでは資産も負債も経済価値ベース、簡単に言えば時価ベースで評価するというものなので、金融市場や発生率等の変動による影響をただちに反映することから、当局は健全性の低下した保険会社を早い段階で発見することができます。
特に、長期の負債を抱える生命保険会社にとって、ESRは現行のSMRとはかなり異なる健全性指標となります。損害保険会社もリスク計測の厳格化による影響を受けますので、暫定基準の公表には強い関心を持っているはずです。

すでに公表している会社も多い

もっとも、多くの大手保険会社は金融庁の動向をにらみつつ、すでに独自の基準でESRを計算し、自らのリスク管理に活用しているという実態があります(規制上のESRと区別するため、以下では「個社ESR」と記します)。個社ESRを外部に公表する会社も年々増えており、その動きは上場会社だけではなく、相互会社など非上場会社にも広がってきました。現在では、いわゆる協会長輪番会社が所属する7グループのうち、日本生命を除く6グループが個社ESRを公表しています。

公表されている個社ESRは規制上のESRではないので、各社がそれぞれ独自の基準で計算したものであり、単純に横比較することはできません。ただし、個社を見るにあたっては、参考になるところが多い指標です。
多くの場合、保険会社は個社ESRを基準の1つにしてリスクテイクや資本増強の判断をしています(個社ESRのターゲットレンジを示している会社もあります)。そのため、もし金融市場の変化によって個社ESRが下振れしたら、リスクテイクを抑える、資本増強を行うといったアクションが取られる可能性が高まるでしょう。また、ESRの分子である経済価値ベースの純資産は、現行会計上の純資産に比べると企業価値の評価に近いので、分子が着実に増えているかどうかにも注目です。
メディアの決算報道には取り上げられない個社ESRですが、保険業界人にとって必見の指標だと私は考えています。
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※オープンキャンパスが終わり、大学は夏休みモードです。

 

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最近のアウトプット

備忘録を兼ねて、最近のアウトプットをいくつかご紹介します。

1.「大手損保グループの2022年3月期決算分析」

昨年に続き『週刊金融財政事情』に損保グループの決算分析を寄稿しました。直近の号(2022年8月2日号)に掲載されています。「業績は総じて良好も、国内事業の立て直しは道半ば」という副題が付いています。
きんざいOnline(有料)

2.「保険会社の2021年度決算から」

こちらも決算分析で、7月29日の『Inswatch professional Report』に寄稿したものです。大手損保グループだけではなく、主要生命保険会社の決算概要にも触れています。
生保の図表のなかでESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)を載せているのですが、住友生命が公表しているのを最近まで知らなかったので、掲載がありません(IR資料に載っていました)。いまや主要生保9社のうち、ESRを公表していないのは日本生命と大樹生命、朝日生命の3社だけなのですね。
Inswatchの購読はこちらへどうぞ。

3.「コロナ自宅療養で“入院保険” 手続きはどうするの?

こちらは執筆ではなく、NHKオンラインの取材に応じたものです。コロナに感染したら、医療保険に加入しているかたはしっかり請求したほうがいいと思いますが、他方で民間医療保険の存在意義が問われているように思えてなりません。

4.「保険会社の情報開示とメディアの役割」

『保険学雑誌』の最新号(第657号、2022年6月)に論文が掲載されました。学会報告や関連記事の寄稿があったとはいえ、1年がかりでようやく論文を出すことができました。半年くらいたつと日本保険学会のサイトで閲覧できると思います。

以上です。

※写真は三池港(大牟田)です。

 

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自然災害と損保経営

今週のInswatch Vol.1144(2022.7.11)に記事を寄稿しました。こちらでもご紹介いたします。
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今年も台風の季節になりました。2018年度や19年度のような大規模な自然災害が発生しないことを願っています。

火災保険は赤字基調が続く

昨年度(21年度)の大手損害保険グループの決算は、自然災害関連の正味支払額が過去10年間で最も少ない水準だったこともあり、国内損保事業の修正利益(異常危険準備金の繰入・戻入などを調整した利益)はいずれも増益となりました。
もっとも、自然災害による支払いが少なかったにもかかわらず、火災保険のコンバインドレシオが100%を下回ったのは東京海上日動だけで、他の3社は引き続き100%を上回る水準でした。大手損害保険会社はこれまで少なくとも2回にわたり個人向け火災保険の料率引き上げを行いましたが、大規模な自然災害がなくても火災保険の収支はなお赤字基調ということで、さらなる対応が必要な状況です。
21年度の保険会社の決算分析については、今月末のプロフェッショナルレポートでもお伝えする予定です。

損保ビジネスは不安定なのか

ところで損害保険ビジネスは、自然災害に左右される不安定なものと思われがちです。過去の決算報道を見ても、大規模な自然災害が発生しなければ「好決算」、発生したら「厳しい決算」という扱いです。しかし、本当にそう考えるべきなのでしょうか。
保険会社は自然災害リスクを勘と度胸で引き受けているのではありません。工学的な知見に基づき、外部ベンダーまたは自社が開発したモデルを使った定量的なリスク評価を行い、再保険戦略を含めた引受方針を定めたうえで、自然災害リスクを引き受けています。気候変動の影響が懸念されるとはいえ、やみくもにリスクを引き受けているわけではありません。
ですから、自ら決めたリスクの引受方針次第で、同じ自然災害が発生しても正味支払額は違ってきます。例えば、過去最高の支払額となった18年度決算において、損保ジャパンでは自然災害に伴う元受保険金の約7割を再保険で回収したのに対し、東京海上日動では約3割の回収だったため、両社の支払額が元受ベースと正味ベースで逆転していました(東京海上の正味支払額が大きかった)。だからといって、東京海上日動がリスク管理に失敗したとは言えません。ここからわかるのは両社の保有・出再戦略が異なっていたというだけで、中長期的に見て、各社がリスクに応じた保険料(出再コストを含む)を獲得できているかを把握しなければ、各社のパフォーマンスを評価できません。

リスク情報の開示を

ただし、再保険に関して言えば、両社の保有・出再戦略にここまで違いがあるとわかったのは、たまたま18年度と19年度に大規模な自然災害が発生したからであって、それ以前の開示情報だけでは外部からはわかりませんでした。再保険に限らず、外部ステークホルダーにとって、リスク引受方針をはじめ、リスクに応じた保険料を獲得できているかをつかむための手掛かりは、まだまだ少ないのが現状です。
もし損害保険会社の経営陣が外部から正当に評価されたいと考えているのであれば、より踏み込んだリスク関連情報の開示が必要だと思います。
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※写真は三角西港です。明治時代の港がそのまま残っています。

 

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地下鉄サリン事件とリスクマネジメント

RINGの会オープンセミナーはいよいよ今週末です。withコロナにも慣れ、何となく業務は回っているものの、インプット不足に陥ってはいませんか、保険会社の皆さん。
アンケートによると、保険会社(営業担当社員)と代理店の意識ギャップがはっきり表れていますよ。

さて、今週のInswatch Vol.1140(2022.6.13)に寄稿した記事をこちらでもご紹介します。
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聖路加国際病院の奮闘

大学の授業(ゼミ)で、地下鉄サリン事件で多くの命を救った聖路加国際病院のドキュメンタリー番組を観ました(NHKのプロジェクトXです)。
あれからもう27年にもなります。当然ながら学生たちが生まれる前の出来事ですし、もしかしたら本誌の読者にも事件をご存じないかたがいるかもしれませんね。

1995年3月20日、朝の通勤ラッシュで混み合う東京の地下鉄車内に猛毒の化学兵器・サリンが撒かれ、乗客・地下鉄職員13人がサリン中毒で亡くなるという前代未聞のテロ事件が発生しました。私も危うく巻き込まれそうになりました。
事件発生後、聖路加国際病院の救急センターには600人以上が来院し、心肺停止の患者も次々に運ばれてきました。地域の拠点病院であっても、一度に600人以上もの患者が押し寄せることはありません。しかし、日野原院長(当時)は患者を全員受け入れるとスタッフに伝え、スタッフはトリアージで患者を症状ごとに分け、場所を確保するため、病院の礼拝堂も病室に転用しました。

他方、原因が特定できないなかで、重症患者の容体は悪化していきます。副作用のある解毒剤「PAM」を使うべきかどうかを悩む現場のリーダー。そこに、前年に松本市で起きたサリン事件で治療を行った医師からの情報が入り、解毒剤の投与を決断。結果的に多くの患者の命が助かりました。

リスクマネジメントが機能するには

番組を観た後、学生たちに「なぜ聖路加国際病院では多くの患者を受け入れることができて、犠牲者を最小限に抑えることができたのか」を挙げてもらいました。

<学生からの回答例>
・院長が災害時に役に立つような病院を建てていた
・礼拝堂を病室として使えるように設計していた
・院長がいち早く「患者を全員受け入れる」「外来は休む」と決断した
・医師たちが他の病院で起きた経験を研究していた
・他の病院との情報ネットワークがあった
・救急センター以外のスタッフも救命治療を学ぶなど緊急体制があった
・スタッフ一人一人が自ら率先して行動した
・スタッフどうしが助け合う雰囲気があった

これらを見ると、リスクマネジメント(あるいは危機管理)がうまく機能するのに不可欠な3つのことが浮かび上がってきます。「リーダーの決断」「事前の体制整備(ハード&ソフト)」「リスクカルチャー」です。
リーダーに決断力があり、スタッフの意識が高くても、事前の体制整備がなければスタッフができることは限られます。あるいは、組織にリスクカルチャーが根付いていなければ、リーダーが決断し、ハード面が整っていても、対応はうまくいかないでしょう。

このような話をしたのですが、果たして学生たちに響いたでしょうか。
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※宮崎産マンゴー(小さいもの)がなんと198円でした。

 

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