外資系生保のガバナンス

インシュアランス生保版(2023年3月号第4集)に寄稿したコラムをご紹介します。3月13日にInswatchに寄稿したコラムと同じく、外資系生保のガバナンスについて書きました。
他の視点として、グループの採用する統治スタイル(中央集権型/分権型)も関係してくると思います。
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2013年以降、政府が成長戦略の一環として進めてきた日本のコーポレートガバナンス改革は、主として上場会社を対象にしている。
日本では支配株主を有する上場会社も少なくないとはいえ、総じて言えば、上場会社では所有(株主)と経営が分かれており、経営が株主の期待どおりに行動しないという問題(狭い意味でのエージェンシー問題)を解消するため、社外取締役の活用や指名委員会等の設置など、ガバナンスを強める取り組みを行ってきた。上場会社が取り組むべき行動原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」では、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出には従業員や顧客、取引先、債権者、地域社会といった様々なステークホルダーとの適切な協働が不可欠としているものの、基本的には株主からの経営への規律付けを念頭に置いている。

ところで生命保険業界に目を転じると、株主のいない相互会社は5社に限られる一方、全28社・グループのうち、実に20社・グループが特定の親会社・グループの傘下にあり、支配株主を持たない保険会社の数は少ない。親会社の傘下にある保険会社では、経営は親会社の選んだ経営者が担うので、所有と経営が実質的に分かれておらず、前述のような狭義のエージェンシー問題は生じにくい。
事業会社に比べると、保険会社など金融機関のガバナンスには大きな特徴がある。それは、株主以外からの経営規律が働きにくいことである(規制当局を除く)。事業会社の債権者といえば銀行や社債の投資家だが、保険会社の債権者の多くは契約者であり、単なる顧客ではない。だからこそ、保険会社の経営が破綻してしまうと、契約者が損失を被ることになるのだが、経営危機時を除き、契約者は通常、加入している保険会社経営への関心は低く、情報も劣位にある。

こうした特徴は支配株主の有無とは関係がない。ただし、親会社を持つ保険会社では、親会社である株主からの規律が働きやすいがゆえに、かえって契約者の利益が守られにくい面もあるのではないか。
グループにおける当該事業の重要性によって、子会社の経営に求める管理水準には違いが見られる。例えば、日本の事業がグループの中核を占めるほど重要であれば、子会社の持続的な成長には契約者をないがしろにするような経営は本来ありえないはず。しかし、それほどの重要性がなく、関心も低ければ、グループとしては一定の数字さえ出してくれれば十分であり、そうなると子会社の経営者は求められた数字を出すことに集中する。最近、外資系生保が相次いで行政処分を受けたのは、背景にこのような構図がある。

上場会社や相互会社のガバナンスだけではなく、親会社を持つ保険会社のガバナンスを強めるにはどうしたらいいかも真剣に考える必要がありそうだ。
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※東京の桜もきれいでした。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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