15. 執筆・講演等のご案内

外資系生保のガバナンス

インシュアランス生保版(2023年3月号第4集)に寄稿したコラムをご紹介します。3月13日にInswatchに寄稿したコラムと同じく、外資系生保のガバナンスについて書きました。
他の視点として、グループの採用する統治スタイル(中央集権型/分権型)も関係してくると思います。
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2013年以降、政府が成長戦略の一環として進めてきた日本のコーポレートガバナンス改革は、主として上場会社を対象にしている。
日本では支配株主を有する上場会社も少なくないとはいえ、総じて言えば、上場会社では所有(株主)と経営が分かれており、経営が株主の期待どおりに行動しないという問題(狭い意味でのエージェンシー問題)を解消するため、社外取締役の活用や指名委員会等の設置など、ガバナンスを強める取り組みを行ってきた。上場会社が取り組むべき行動原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」では、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出には従業員や顧客、取引先、債権者、地域社会といった様々なステークホルダーとの適切な協働が不可欠としているものの、基本的には株主からの経営への規律付けを念頭に置いている。

ところで生命保険業界に目を転じると、株主のいない相互会社は5社に限られる一方、全28社・グループのうち、実に20社・グループが特定の親会社・グループの傘下にあり、支配株主を持たない保険会社の数は少ない。親会社の傘下にある保険会社では、経営は親会社の選んだ経営者が担うので、所有と経営が実質的に分かれておらず、前述のような狭義のエージェンシー問題は生じにくい。
事業会社に比べると、保険会社など金融機関のガバナンスには大きな特徴がある。それは、株主以外からの経営規律が働きにくいことである(規制当局を除く)。事業会社の債権者といえば銀行や社債の投資家だが、保険会社の債権者の多くは契約者であり、単なる顧客ではない。だからこそ、保険会社の経営が破綻してしまうと、契約者が損失を被ることになるのだが、経営危機時を除き、契約者は通常、加入している保険会社経営への関心は低く、情報も劣位にある。

こうした特徴は支配株主の有無とは関係がない。ただし、親会社を持つ保険会社では、親会社である株主からの規律が働きやすいがゆえに、かえって契約者の利益が守られにくい面もあるのではないか。
グループにおける当該事業の重要性によって、子会社の経営に求める管理水準には違いが見られる。例えば、日本の事業がグループの中核を占めるほど重要であれば、子会社の持続的な成長には契約者をないがしろにするような経営は本来ありえないはず。しかし、それほどの重要性がなく、関心も低ければ、グループとしては一定の数字さえ出してくれれば十分であり、そうなると子会社の経営者は求められた数字を出すことに集中する。最近、外資系生保が相次いで行政処分を受けたのは、背景にこのような構図がある。

上場会社や相互会社のガバナンスだけではなく、親会社を持つ保険会社のガバナンスを強めるにはどうしたらいいかも真剣に考える必要がありそうだ。
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※東京の桜もきれいでした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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ガバナンスの死角

今週のInswatch Vol.1176(2023.3.13)に寄稿した記事をご紹介します。保険会社のコーポレートガバナンスに関するものです。
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外資系生保への行政処分

昨年7月のマニュライフ生命保険に続き、金融庁は2月17日にエヌエヌ生命保険に対する行政処分(業務改善命令)を出しました。
本誌2月20日号が報じたとおり、両社への業務改善命令は「節税保険」に関するものです。ただし、金融庁は両社において、保険本来の趣旨を逸脱した商品開発や募集活動そのものだけではなく、これらが経営陣の関与(または黙認・看過)のもとで行われてきたことを問題視しています。背景には営業を優先し、コンプライアンスやリスク管理、内部監査等を軽視する企業文化を醸成してしまったことがあるとも指摘しています。
つまり、不適切な商品開発や保険募集の推進はあくまでも結果であって、根本的な問題は経営管理(ガバナンス)にあるという判断です。

ガバナンス強化に努めていたはずだが

両社の組織形態を確認すると、マニュライフ生命は指名委員会等設置会社、エヌエヌ生命は監査等委員会設置会社でした。
マニュライフ生命は国内の生命保険会社として初めて、2003年7月に委員会等設置会社に移行しました(現在の指名委員会等設置会社)。経営の執行と監督が明確に分離された形態で、従来の監査役会設置会社に比べるとガバナンス強化に有効とされています。しかし、金融庁は「取締役会傘下の監査委員会は基本的な役割および責任を十分果たしていない」などと厳しく評価しました。
エヌエヌ生命も監査・監督機能およびガバナンス強化のため、2016年6月に監査等委員会設置会社に移行しましたが、金融庁から今回、「経営体制の見直しを含む経営管理(ガバナンス)態勢の抜本的な強化」を求められています。
2015年に発覚した東芝の不祥事と同じく(東芝は委員会等設置会社でした)、いくら形式面を整えても、ガバナンス強化につながるとは限らないという事例になってしまいました。

ガバナンスの死角

ガバナンスがうまく機能しなかったのは、外資系の金融機関に固有の統治構造があるのかもしれません。
外資系のように支配株主が存在している会社では、教科書的に言えば、所有(株主)と経営が分かれていないので、経営が株主の期待どおりに行動しないという問題は本来生じにくいはずです。ところが、その事業が現在または将来のグループ利益成長に不可欠というほどの存在ではない場合、グループ本社(または地域統括会社)としては、とりあえず一定の数字(≒利益)さえ出してくれれば十分であり、日本のビジネスモデルがどうなっているか、どうやって業績をあげたか、といったところまでは関心を持たないことも十分ありえます。そうなると経営は株主から評価されるために、株主が求める目先の数字をあげることに集中しがちです。
日本の保険会社でも、例えば、数千億円かけて買収した米国の子会社と、規模が小さく成長性もあまり見込めない海外子会社を、おそらく同レベルの経営資源を使って管理しようとはしないでしょう。

このような構図は保険会社に特有のことではありません。とはいえ、事業会社とはちがい、金融機関の顧客(保険契約者や銀行預金者)は単なる顧客ではなく、金融機関の債権者なので、経営危機の影響を直接受けてしまいます。それにもかかわらず、顧客には通常、自らが保険会社や銀行の債権者であるという自覚はないので、経営への規律付けに多くを期待できません(事業会社の代表的な債権者は銀行であり、規律が働きやすい)。いわば「ガバナンスの死角」というべき状況が生じやすいと考えられます。今回の行政処分のように、監督当局による経営への規律付けが最後の砦となるのかもしれません。
もっとも、金融庁が監督権限を持っているのは日本の保険会社に対してなので、所属するグループの本社や地域統括会社に有効な対応を求めることが実質的にできるのかといった、なかなか悩ましい問題もありそうです。
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※写真は京都のシェアショップ(昼はカフェ、夜はレストラン)です。

 

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少額短期保険業者への監督強化

2月1日のブログに続き、今週のInswatch Vol.1172(2023.2.13)でも少額短期保険業者向けの監督指針改正案を取り上げました。そもそも、厳しい経営状況にあるとみられる少短業者が目立つのは、事業基盤や経営管理能力の有無もさることながら、保険金額や保険期間などの制約が厳しく、事業を成り立たせるのが難しい制度となっていることも大きいと思います。
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資金繰りの状況を注視

金融庁は1月末に少額短期保険業者向けの監督指針の改正案を公表しました。昨年、ペッツベスト少額短期保険とユアサイド少額短期保険の経営が破綻し、ジャストインケースがコロナ保険金の減額払いに追い込まれたことなどを受けたもので、「2022年 保険モニタリングレポート」でも、「財務の健全性及び業務の適切性の確保に懸念のある少短業者を早期に把握し適切な対応を促すために、財務局と連携してモニタリング手法の見直しを進める」と表明していました(58ページ)。
改正案をみると、資金繰りに懸念がある少短業者などを対象に早期警戒制度を新設したり、流動性リスク管理態勢の着眼点に資金繰り管理を加えたりしていることから、事前にお金(保険料)を受け取る事業とはいえ、確固とした事業基盤を持たずに新規参入した少短業者の場合には、資金繰りの状況に注意を要すると認識したのでしょう。

参入規制の強化

改正案には新規参入のハードルを高める措置も盛り込まれています。少短業者として登録する際の審査にあたり、本部機能に「企業の経営管理業務に3年以上携わった経験を有する者」の配置を求め(現在は「保険業務を3年以上経験した者」を求めている)、事業計画書では「業務継続のための資金を確保するため、必要な時に親会社や個人オーナーなどの少額短期保険主要株主等から概ね6ヵ月間の事業費相当額程度の確実な資金調達が見込めるか」を確認するとのことです。
保険業務の経験があっても保険会社の経営管理ができるとは限らないことがわかったので、代わりに「企業の経営管理業務の経験」を求めるというのでしょう。ただし、具体的にどのような業務経験があれば規制当局の基準を満たすのか、これだけでは判断しようがありません。

参入規制の強化

さらに厳しいのは後者です。これまでは最低資本金1000万円を求められるだけだった(実際に事業を行うには億円単位の資金が必要でしょう)のに、今後は資本金に加え、主要株主等から事業費半年分の資金提供の確約を得られなければ、新規の参入ができなくなります。規制する立場からすれば(しかも金融庁ではなく、各地の財務局等が担当することを踏まえると)、このような措置を設けようとする動機はわかります。しかし、事後の監督が難しいから事前規制を強めるように見えるこの措置は、果たして消費者にとって望ましいことなのでしょうか。

もともと少額短期保険は、かつて急増した「根拠法のない共済」の受け皿として2005年に創設された制度です。保険金額や保険期間に制約があるにもかかわらず市場が拡大してきたのは、多彩な顔ぶれによる新規参入が続いてきたことが大きいと考えています。
当局の役割は市場の自由度を維持しつつ、適切なアンダーライティングや収益管理を行っているかどうかモニタリングを行い、必要に応じて是正や退出を求めることであって、入口の時点でお金を用意できない参入希望者を排除することではないと思うのですが、いかがでしょうか。
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※創建1300年とはすごいですね。

 

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自動車保険の苦戦

今週のInswatch Vol.1168(2023.1.16)に寄稿した拙文をこちらでもご紹介します。同じ号で牧野司さんが最近話題のChatGPTを取り上げていますね。
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営業成績速報より

大手損害保険会社は投資家・アナリスト向けに月次の営業成績速報を公表しています。昨年12月までの累計(前年比)はご覧のとおりでした。

 東京海上日動  一般計:103.4%  自動車: 99.4%
 三井住友海上  一般計:103.1%  自動車: 99.0%
 あいおいND  一般計:103.5%  自動車:100.2%
 損保ジャパン  一般計:103.8%  自動車: 99.6%

各社とも一般計では3%程度の増収で、主に火災保険と海上保険がけん引役となっています。このうち火災保険に関しては、長期契約が昨年10月から5年に短縮となり、いわゆる駆け込み需要が営業成績を押し上げた効果もあったとみられます。加えて、料率引き上げによる影響もありそうです。
なお、12月の東京都区部の消費者物価指数が40年ぶりに4%台に達したことが話題になりましたが、上昇に寄与した主な内訳のなかに「火災・地震保険料(前年同月比6.2%)」という品目もありました。

他方で最大種目の自動車保険では、各社とも苦戦していることがうかがえます。12月単月で見ると、各社とも小幅ながら増収となっているものの、上半期の減収を挽回するほどの勢いはありません。料率引き下げが一段落しつつあるとはいえ、肝心の台数が伸びていないとみられ、コロナ禍の3年で最も厳しい営業成績となる可能性が高まっています。

自動車保険の収支も悪化

トップラインばかりでなく、自動車保険は収支も急速に悪化しているおそれがあります。昨年度決算では損害率が予想に反してコロナ前の水準まで戻らず、各社とも良好な収支を確保しました。ところが、4-9月期決算では一転して損害率が上昇に転じ、MS&AD傘下2社の損害率はコロナ前の水準を上回りました。自然災害による影響(上半期はひょう災があった)を除いたEI損害率です。
分母の収入保険料の伸びに期待ができないなかで、懸念されるのは物価上昇による影響です。申し上げるまでもなく、自動車保険の保険金は定額給付ではなく実損てん補なので、原材料費や人件費の上昇によって修理費が膨らむと、保険会社が支払う保険金も増加します。11月の決算発表時点では、各社とも「インフレの影響はまだ出ていない」とコメントしていましたが、さすがに足元では影響が出ているのではないでしょうか。今後の決算発表などに注目したいと思います。
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※写真は東京・湯島天神と不忍池です。

 

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地震保険の加入状況

今週のInswatch Vol.1164(2022.12.12)に寄稿した拙文をこちらでもご紹介します。ご協力いただきました皆さま、ありがとうございました。
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地震保険の付帯率

福岡大学・植村ゼミでは全国学生保険学ゼミナール(RIS)という、リスクと保険を学ぶ大学ゼミの交流組織に参加し、全国大会での発表を3年生の活動の柱としています。今年のRIS全国大会(12月3日~4日、慶應義塾大学)では13大学16ゼミが研究成果を発表し、大学を超えた学生間の交流も見られました。
たまたま植村ゼミの1つのチームが「地震保険の付帯率(住宅物件の火災保険に地震保険が付帯されている割合)」をテーマに据えて、「付帯率が上がれば、35%程度にとどまっている世帯加入率も高まるはず」と考え、研究を行いました。私としても改めて地震保険の普及の難しさを知るいい機会となりました。

都道府県別に特徴がある

全国レベルで見ると、地震保険の付帯率は概ね直線的に高まっています。しかし、都道府県別の推移を追うと、付帯率の水準がバラついているだけでなく、過去の推移にも都道府県ごとの特徴があるとわかりました。
例えば、2016年の熊本地震で甚大な被害を受けた熊本県の付帯率は、震災後に急上昇して、その後も上がり続けています。これに対し、南海トラフ巨大地震の発生で大きな被害が想定されている静岡県では、保険料率の上昇が続いたこの5年間は付帯率があまり高まらず、ついには全国平均を下回ってしまいました。他方で高知県のように、保険料率の上昇が続いても高水準の付帯率を維持している県もあります。
地震保険の普及を進めるには、リスク認知の状況をはじめ、地域の実情に合った取り組みが必要ということを改めて確認できました。

販売の担い手は誰か

ゼミの研究では地域の実情を少しでも探るため、ある静岡県の保険代理店(プロ代理店)にインタビューを行わせていただきました。そこで出てきたのが「来る来る詐欺(=子どものころから大地震が来ると脅されてきたけど一向に来ない)」「金融機関が地震保険を積極的に勧めない」という話です。うちの学生は「来る来る詐欺」のほうに強い関心を持ったようですが、オブザーブ参加していた私には後者が引っかかりました。住宅向けの火災保険を販売しているのは誰なのか。恥ずかしながらこれまであまり意識したことがなかったからです。

残念ながら、保険種目別にチャネル別の業績を公表している会社はなく、業界団体の統計も見当たりません。SOMPOホールディングスが2017年度末までチャネル別営業成績を種目別に公表していたので、そのデータを確認したところ、金融機関の販売シェアは全種目合計では7%、火災保険では18%となっていました。この「火災保険」には企業物件や工場物件なども含まれるので、住宅物件に限れば金融機関の販売シェアはさらに高い可能性があります(データをご存じのかたはぜひご教示ください)。
現場の声とはいえ、1つの代理店の見解だけで決めつけることはできません。しかし、金融機関やハウスメーカーといった兼業代理店が地震保険をどの程度重視しているかというのは、注目に値するポイントだと思います。
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※京都で「朝のおつとめ」に参加しました。浄教寺にて。

 

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金利が上がったから金利リスクを削減?

インシュアランス生保版(2022年12月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナルです)。その後、経営方針の説明はありましたでしょうか?
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生保の資産運用計画

10月下旬に大手生命保険会社の資産運用計画(下半期)に関する報道があった。各社は半年ごとにマスメディア向けの運用方針説明会を行っていて、報道はこれを受けたものである。
このうち、説明会の内容(なぜか一般には情報公開されていない)を比較的そのまま報じていると思われるロイターとブルームバーグの記事をみると、大手生保はいずれも国内債券への投資を増やす計画となっていた。ここで言う国内債券は主として超長期債であり、多くの生保にとって超長期債の購入は安全資産への逃避ではなく、超長期の保険を提供してきたことに伴って抱えている金利リスクを減らす取り組みを意味している。

金利上昇は経営にポジティブなはずだが

記事に載った各社のコメントをそのまま紹介しよう。
「30年が1.5%程度に来ており過去数年と比べるとかなり投資しやすい環境(日本生命・10月24日のブルームバーグ)」「1%台後半であれば追加的な投入も検討できる」(住友生命・10月25日のロイター)」「今の時点ではそれなりに投資妙味がある、買って良い水準だと認識している(明治安田生命・10月25日のロイター)」。いずれも金利が上がったので超長期債への投資を増やすという内容だった。

各社が抱えている金利リスクとは、金利水準が下がると損失を被る(会社の価値が減ってしまう)リスクである。ということは、上半期の金利上昇により、大手生保の会社価値はむしろ高まっているはずだ。それにもかかわらず、各社は金利リスクの削減を加速すると言い、健全性のさらなる改善に舵を切ろうとしていることになる。

経営方針の説明が必要

第一生命のように経営として中長期的なリスク構成の見直しを打ち出し、金融関連のリスク削減を進めているのであれば、そのなかでのペースメイキングであると理解できる。しかし、そのような説明もなく「金利が上がったからリスク削減を進める」と言われても、何をしたいのか外部観察者からは全くわからない。
健全性が回復した現時点でもリスク削減が必要だというのであれば、そもそも回復する前にリスク削減を加速しなかった理由を説明してほしい(結果オーライということか?)。あるいは、もともと健全性に不安はなかったが、ここからリスク削減を加速することで、余剰となった資本を保険契約者等に還元する方針に転換したということか。余剰資本を海外M&Aなど新たな戦略的投資に回すという選択肢もありうるとはいえ、特に相互会社の場合、社員(契約者)がそうした経営方針を望んでいるとは考えにくい。

大手生保はガバナンス改革を進めているのであれば、形を整えるよりも、こうした局面で重要な経営方針を会社の内外にきちんと説明できることのほうが重要ではないだろうか。
このコラムは上半期決算の発表前に書いているので、掲載時には各社がすでに経営方針をきちんと説明していると期待したい。
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※トロッコ列車に乗りました。

 

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保険専門団体の年次大会

今週のInswatch Vol.1160(2022.11.14)に寄稿した拙文をブログでもご紹介します。
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保険産業に深い関わりのある専門団体として、「日本アクチュアリー会」「日本保険学会」があります。先週の飛び石連休に両団体の年次大会がそれぞれ開催され、私も参加してきました。

アクチュアリーとは

皆さんは「アクチュアリー」をご存じでしょうか。
保険販売の現場や損害査定の場面など、保険産業は総じて人と人との生々しいやり取りに満ちあふれています。でも、皆さんが提供している保険のしくみそのものは、確率・統計の技術を駆使して成り立っています。将来の保険金支払いを確実なものとするため、日々活躍しているのがアクチュアリーです。
一般的には、難関と言われる資格試験に合格し、日本アクチュアリー会の正会員・準会員となった人のことをアクチュアリーと呼びます。

例えば、保険会社の取締役会は、「責任準備金が適切に積み立てられているか」「保険事業の継続性に問題はないか」などを確認するため、アクチュアリー(正確には日本アクチュアリー会の正会員で、一定の業務経験があるアクチュアリー)を「保険計理人」として選任しなければなりません。
また、生命保険会社は法令により、政府が定めた標準死亡率をもとに責任準備金を積み立てる義務がありますが(標準責任準備金制度です)、この死亡率を作成しているのは日本アクチュアリー会です。

なお、アクチュアリーが活躍するフィールドは保険会社(商品開発や責任準備金の計算など)だけではありません。将来の不確実な事象を評価するのが専門なので、企業年金やリスクマネジメント、最近ではデータサイエンスの分野など、活躍の場面が広がっています。

日本保険学会とは

他方、日本保険学会は社会科学系では最も古い歴史と伝統のある学術団体の1つです。「保険に関する研究と保険研究者相互の協力を促進し、かつ、国内外の関係学会、関係団体との連絡および交流を図ること」を目的としています。

学会員には法律系の研究者と、経済・商学系の研究者の両方がいます。例えば、同じ「自動運転車の普及」をテーマに取り上げても、法律系の研究者であれば、「事故発生時の責任関係はどうなるのか」「被害者はどう救済されるのか」などに関心を持つでしょうし、経済・商学系の研究者は、「保険産業にどのような影響を与えるのか」「保険の役割はどうなるのか」などを研究します(あくまでイメージです)。

こう書くと、なんだか敷居が高そうに見えてしまいますね。実は学会員の7割近くが保険産業に関わる実務家でして、学会では大学研究者と保険実務家が広く交流し、活発な意見交換を行っています。
私自身も、2020年からは大学研究者に該当しますが、それ以前から保険実務家として年次大会のパネルディスカッションに登壇したり、機関誌『保険学雑誌』に寄稿したりしてきました。

気候変動リスクへの対応

先週開催された両団体の年次大会では、いずれも多くの興味深い報告・パネルディスカッションが行われました。そのなかで、比較的近いテーマもあり、私はその両方に参加してみました。
日本アクチュアリー会の「あしたのために、その一:気候変動リスクマネジメント アクチュアリーもやもや解消レシピ」という、ちょっと変わったタイトルのパネルディスカッションは、気候変動リスクに対応する際の「もやもや感」を解消しようというものでした。リスク評価の専門家でも、最近の気候変動リスクをめぐる世界的な動きについては、どこか釈然としないものを抱えているのですね。

他方で、日本保険学会のシンポジウム「社会課題の解決に向けた保険の意義と課題」では、実務家から気候変動リスク対応などに関する国際的な議論の説明と、保険会社・共済団体によるSDGsへの取り組み状況の紹介がありました。
話を聞いていて、「経営としてSDGsへの取り組みをどう位置付けているのか」「契約者や株主はこのような取り組みをどう評価しているのか」など、いろいろ考えることができたのは大きな収穫だったと思います
(「もやもや感」は残りますが・・・)。
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※写真は京都・真如堂です。

 

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「フクダイズム」に登場しました

なんと大学から取材を受け、FUKUDAism(フクダイズム)というサイトに登場してしまいました。
このところコロナの保険に関する取材が続き、大学の広報部門ともつながりができたので、その流れでこちらに登場することになったのではないかと思います。よろしければご笑覧ください。
サイトはこちらです。

取材を受けることになり、サイト内を眺めていたら、卒業生にNHKニュース「おはよう日本」でおなじみの気象予報士・近藤奈央さんが福大OGであると知りました(こちらです)。彼女は卒業してから気象予報士を目指し、見事合格。毎朝楽しく観ているので、卒業生だとわかってうれしかったです。

※写真は京都の南禅寺と永観堂です。
 紅葉がきれいでした。

 

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金融庁の「保険モニタリングレポート」

今週のInswatch Vol.1156(2022.10.17)への寄稿は先月に続いて金融庁ネタでした。ブログでもご紹介いたします。元の資料はこちらになります。
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保険行政に特化したレポート

先月の寄稿では2022事務年度の金融行政方針を取り上げ、保険に関する記述が少ないと悪態をついてしまいました。これに対し、9月30日に金融庁が公表した本レポートは、以下の目的を達成するために策定・公表したもので、全64ページすべてが保険に特化したレポートです。

・保険行政の透明性を高める
・保険会社との対話・モニタリングにより保険行政の高度化を図る
・保険業界が将来にわたり社会的役割を果たすための取り組みを促す

金融庁が考える保険会社の諸課題

レポートで金融庁は、保険会社にとって重要と考えられる課題について、昨年度(事務年度。以下同じ)に行政として何を行い、今年度はどのような方針で取り組むかを示しています。今回のレポートで挙がっている課題は以下の通りです。

【持続可能なビジネスモデル】
・ビジネスモデル対話
 ※中長期的な視点に立ったビジネスモデルの構築:植村注
・デジタル化へ向けた取り組み

【財務・リスク管理】
・グループガバナンスの高度化
・自然災害の多発・激甚化への対応
・財務の健全性の確保
 ※財務上の実態把握と対話、財務上の指標や規制のあり方の見直し
・マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策

【顧客本位の業務運営】
・営業職員管理態勢の高度化
・公的保険を踏まえた保険募集
・節税保険への対応
・外貨建保険の募集管理等の高度化
・保障内容の見直しに関する顧客視点に立った商品設計
・保険代理店管理態勢の高度化

【少額短期保険業者】
・財務の健全性及び業務の適切性の確保
・経過措置適用業者への対応

業界関係者には必読のレポート

金融行政方針の「実績と作業計画」に比べると、課題として挙がっているテーマ数はかなり多くなっていますし、昨年度に金融庁が何を行ったのかをより詳細に知ることができます。保険代理店に関する記述も多いので、関係のありそうなところだけでもご覧いただくことをおすすめします。

もっとも、昨年度版でも感じたことですが、本レポートは基本的には金融庁の活動報告であって、保険会社や保険代理店との対話やモニタリングを通じ、保険行政として現状をどう評価し、今後どうしていきたいのかという記述は控えめです。
例えばレポートによると、金融庁は自然災害リスク管理に関するモニタリングを一昨年度、昨年度と続けて実施していることがわかります。ところが今年度の方針でも「今後の大規模自然災害発生に備え、損害保険会社において、経営レベルでの論議も含め、自然災害リスク管理をどのように行っているか、引き続きモニタリングしていく」とあり、なぜ引き続きモニタリングしていく必要があるのか、これだけでは金融庁の意図がよくわかりません。保険会社には自然災害リスク管理を継続してモニタリングする理由を十分伝えているのかもしれませんが、行政の透明性という目的を踏まえると、今後はもう少し踏み込んだ記述を期待したいです。

なお、巻末のコラムでは「遺伝情報の取扱いについて」「新型コロナウイルス感染症による『みなし入院』に係る入院給付金等について」など、トピック的な行政対応が載っています。ただし、「生命保険会社の健全性と契約者配当について」だけは他のコラムと違い、金融庁が何かを実施したという記述がない「謎コラム」となっていて、秘かに注目しているところです。
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※キャンパスには秋のバラが咲いています。

 

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金融庁の金融行政方針

今週のInswatch Vol.1152(2022.9.12)では金融庁の行政方針を取り上げましたので、ブログでもご紹介いたします。元の資料はこちらになります。
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金融行政の重点課題と取組方針を公表

金融庁は8月31日に2022事務年度の金融行政方針を公表しました(金融庁の事務年度は7月から翌年6月です)。「直面する課題を克服し、持続的な成長を支える金融システムの構築へ」という副題が付き、「概要」「本文」「コラム」「実績と作業計画」を合わせると190ページにもなる大作です。
そのなかで保険に関する記述が少なく、かつ、モニタリング方針に挙がっている項目に前年度から変化がなかったのは、保険会社や代理店に問題がないというのではなく、金融庁の問題意識が今のところ必ずしも高くないというだけだと私は考えています。

以下では「実績と作業計画」に掲載された業種別モニタリング方針から、保険会社に関する作業計画をご紹介します。

保険業界における顧客本位の業務運営

節税(租税回避)手法を活用した保険募集の問題や営業職員による不適切事案の発覚などを受けて、前年度の作業計画に比べると記述がかなり増えました。とりわけ、「財務局との連携を一層強化しつつ、保険代理店の監督を行っていく」「(乗合)代理店の業務品質評価に係る取組みが各生命保険会社に広がるよう促していく」と、保険代理店に関する内容が増えたという印象です(営業職員管理のモニタリングに関する記述もあります)。

なお、外貨建保険の販売に関するフォローアップや、障がい者等への対応については、業態横断的なモニタリング方針のなかで触れています。

ビジネスモデル

引き続き保険会社とのビジネスモデル対話を行うというなかで、「トップラインだけでなくボトムライン(火災保険の収益改善等)の適正化に向けた取組み等をテーマとした対話を検討する」とあり、後述する「自然災害」と合わせ、金融庁が火災保険の収支動向に強い関心を持っていることがうかがえます。

グループガバナンス

大手保険グループの経営管理(海外事業を含む)に関するもので、前年度のフォローアップとみられます。

自然災害

大規模な自然災害に関する保険会社のリスク管理態勢を引き続きモニタリングするというものですが、「災害に便乗した悪質商法等の排除」「水災リスクに応じた火災保険料率の細分化」に関する記述もあります。

経済価値ベースのソルベンシー規制等

金融庁はこの6月に主要論点の暫定決定内容を公表しているので、これに基づいて準備を進めていくとのことです。
個人的には「監督会計のあり方について検討を行う」「IFRS任意適用に関する必要な法令の整備」にも注目しています。

金融行政方針は単に金融庁が作業計画を世に示したというだけではなく、行政として自らを律することになる重要なものです。読者の皆さんもこの機会に金融庁のサイトを確認してみてはいかがでしょうか。
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※鉄道150周年を迎える横浜・桜木町駅です。

 

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