15. 執筆・講演等のご案内

自動車保険の苦戦

今週のInswatch Vol.1168(2023.1.16)に寄稿した拙文をこちらでもご紹介します。同じ号で牧野司さんが最近話題のChatGPTを取り上げていますね。
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営業成績速報より

大手損害保険会社は投資家・アナリスト向けに月次の営業成績速報を公表しています。昨年12月までの累計(前年比)はご覧のとおりでした。

 東京海上日動  一般計:103.4%  自動車: 99.4%
 三井住友海上  一般計:103.1%  自動車: 99.0%
 あいおいND  一般計:103.5%  自動車:100.2%
 損保ジャパン  一般計:103.8%  自動車: 99.6%

各社とも一般計では3%程度の増収で、主に火災保険と海上保険がけん引役となっています。このうち火災保険に関しては、長期契約が昨年10月から5年に短縮となり、いわゆる駆け込み需要が営業成績を押し上げた効果もあったとみられます。加えて、料率引き上げによる影響もありそうです。
なお、12月の東京都区部の消費者物価指数が40年ぶりに4%台に達したことが話題になりましたが、上昇に寄与した主な内訳のなかに「火災・地震保険料(前年同月比6.2%)」という品目もありました。

他方で最大種目の自動車保険では、各社とも苦戦していることがうかがえます。12月単月で見ると、各社とも小幅ながら増収となっているものの、上半期の減収を挽回するほどの勢いはありません。料率引き下げが一段落しつつあるとはいえ、肝心の台数が伸びていないとみられ、コロナ禍の3年で最も厳しい営業成績となる可能性が高まっています。

自動車保険の収支も悪化

トップラインばかりでなく、自動車保険は収支も急速に悪化しているおそれがあります。昨年度決算では損害率が予想に反してコロナ前の水準まで戻らず、各社とも良好な収支を確保しました。ところが、4-9月期決算では一転して損害率が上昇に転じ、MS&AD傘下2社の損害率はコロナ前の水準を上回りました。自然災害による影響(上半期はひょう災があった)を除いたEI損害率です。
分母の収入保険料の伸びに期待ができないなかで、懸念されるのは物価上昇による影響です。申し上げるまでもなく、自動車保険の保険金は定額給付ではなく実損てん補なので、原材料費や人件費の上昇によって修理費が膨らむと、保険会社が支払う保険金も増加します。11月の決算発表時点では、各社とも「インフレの影響はまだ出ていない」とコメントしていましたが、さすがに足元では影響が出ているのではないでしょうか。今後の決算発表などに注目したいと思います。
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※写真は東京・湯島天神と不忍池です。

 

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地震保険の加入状況

今週のInswatch Vol.1164(2022.12.12)に寄稿した拙文をこちらでもご紹介します。ご協力いただきました皆さま、ありがとうございました。
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地震保険の付帯率

福岡大学・植村ゼミでは全国学生保険学ゼミナール(RIS)という、リスクと保険を学ぶ大学ゼミの交流組織に参加し、全国大会での発表を3年生の活動の柱としています。今年のRIS全国大会(12月3日~4日、慶應義塾大学)では13大学16ゼミが研究成果を発表し、大学を超えた学生間の交流も見られました。
たまたま植村ゼミの1つのチームが「地震保険の付帯率(住宅物件の火災保険に地震保険が付帯されている割合)」をテーマに据えて、「付帯率が上がれば、35%程度にとどまっている世帯加入率も高まるはず」と考え、研究を行いました。私としても改めて地震保険の普及の難しさを知るいい機会となりました。

都道府県別に特徴がある

全国レベルで見ると、地震保険の付帯率は概ね直線的に高まっています。しかし、都道府県別の推移を追うと、付帯率の水準がバラついているだけでなく、過去の推移にも都道府県ごとの特徴があるとわかりました。
例えば、2016年の熊本地震で甚大な被害を受けた熊本県の付帯率は、震災後に急上昇して、その後も上がり続けています。これに対し、南海トラフ巨大地震の発生で大きな被害が想定されている静岡県では、保険料率の上昇が続いたこの5年間は付帯率があまり高まらず、ついには全国平均を下回ってしまいました。他方で高知県のように、保険料率の上昇が続いても高水準の付帯率を維持している県もあります。
地震保険の普及を進めるには、リスク認知の状況をはじめ、地域の実情に合った取り組みが必要ということを改めて確認できました。

販売の担い手は誰か

ゼミの研究では地域の実情を少しでも探るため、ある静岡県の保険代理店(プロ代理店)にインタビューを行わせていただきました。そこで出てきたのが「来る来る詐欺(=子どものころから大地震が来ると脅されてきたけど一向に来ない)」「金融機関が地震保険を積極的に勧めない」という話です。うちの学生は「来る来る詐欺」のほうに強い関心を持ったようですが、オブザーブ参加していた私には後者が引っかかりました。住宅向けの火災保険を販売しているのは誰なのか。恥ずかしながらこれまであまり意識したことがなかったからです。

残念ながら、保険種目別にチャネル別の業績を公表している会社はなく、業界団体の統計も見当たりません。SOMPOホールディングスが2017年度末までチャネル別営業成績を種目別に公表していたので、そのデータを確認したところ、金融機関の販売シェアは全種目合計では7%、火災保険では18%となっていました。この「火災保険」には企業物件や工場物件なども含まれるので、住宅物件に限れば金融機関の販売シェアはさらに高い可能性があります(データをご存じのかたはぜひご教示ください)。
現場の声とはいえ、1つの代理店の見解だけで決めつけることはできません。しかし、金融機関やハウスメーカーといった兼業代理店が地震保険をどの程度重視しているかというのは、注目に値するポイントだと思います。
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※京都で「朝のおつとめ」に参加しました。浄教寺にて。

 

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金利が上がったから金利リスクを削減?

インシュアランス生保版(2022年12月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナルです)。その後、経営方針の説明はありましたでしょうか?
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生保の資産運用計画

10月下旬に大手生命保険会社の資産運用計画(下半期)に関する報道があった。各社は半年ごとにマスメディア向けの運用方針説明会を行っていて、報道はこれを受けたものである。
このうち、説明会の内容(なぜか一般には情報公開されていない)を比較的そのまま報じていると思われるロイターとブルームバーグの記事をみると、大手生保はいずれも国内債券への投資を増やす計画となっていた。ここで言う国内債券は主として超長期債であり、多くの生保にとって超長期債の購入は安全資産への逃避ではなく、超長期の保険を提供してきたことに伴って抱えている金利リスクを減らす取り組みを意味している。

金利上昇は経営にポジティブなはずだが

記事に載った各社のコメントをそのまま紹介しよう。
「30年が1.5%程度に来ており過去数年と比べるとかなり投資しやすい環境(日本生命・10月24日のブルームバーグ)」「1%台後半であれば追加的な投入も検討できる」(住友生命・10月25日のロイター)」「今の時点ではそれなりに投資妙味がある、買って良い水準だと認識している(明治安田生命・10月25日のロイター)」。いずれも金利が上がったので超長期債への投資を増やすという内容だった。

各社が抱えている金利リスクとは、金利水準が下がると損失を被る(会社の価値が減ってしまう)リスクである。ということは、上半期の金利上昇により、大手生保の会社価値はむしろ高まっているはずだ。それにもかかわらず、各社は金利リスクの削減を加速すると言い、健全性のさらなる改善に舵を切ろうとしていることになる。

経営方針の説明が必要

第一生命のように経営として中長期的なリスク構成の見直しを打ち出し、金融関連のリスク削減を進めているのであれば、そのなかでのペースメイキングであると理解できる。しかし、そのような説明もなく「金利が上がったからリスク削減を進める」と言われても、何をしたいのか外部観察者からは全くわからない。
健全性が回復した現時点でもリスク削減が必要だというのであれば、そもそも回復する前にリスク削減を加速しなかった理由を説明してほしい(結果オーライということか?)。あるいは、もともと健全性に不安はなかったが、ここからリスク削減を加速することで、余剰となった資本を保険契約者等に還元する方針に転換したということか。余剰資本を海外M&Aなど新たな戦略的投資に回すという選択肢もありうるとはいえ、特に相互会社の場合、社員(契約者)がそうした経営方針を望んでいるとは考えにくい。

大手生保はガバナンス改革を進めているのであれば、形を整えるよりも、こうした局面で重要な経営方針を会社の内外にきちんと説明できることのほうが重要ではないだろうか。
このコラムは上半期決算の発表前に書いているので、掲載時には各社がすでに経営方針をきちんと説明していると期待したい。
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※トロッコ列車に乗りました。

 

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保険専門団体の年次大会

今週のInswatch Vol.1160(2022.11.14)に寄稿した拙文をブログでもご紹介します。
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保険産業に深い関わりのある専門団体として、「日本アクチュアリー会」「日本保険学会」があります。先週の飛び石連休に両団体の年次大会がそれぞれ開催され、私も参加してきました。

アクチュアリーとは

皆さんは「アクチュアリー」をご存じでしょうか。
保険販売の現場や損害査定の場面など、保険産業は総じて人と人との生々しいやり取りに満ちあふれています。でも、皆さんが提供している保険のしくみそのものは、確率・統計の技術を駆使して成り立っています。将来の保険金支払いを確実なものとするため、日々活躍しているのがアクチュアリーです。
一般的には、難関と言われる資格試験に合格し、日本アクチュアリー会の正会員・準会員となった人のことをアクチュアリーと呼びます。

例えば、保険会社の取締役会は、「責任準備金が適切に積み立てられているか」「保険事業の継続性に問題はないか」などを確認するため、アクチュアリー(正確には日本アクチュアリー会の正会員で、一定の業務経験があるアクチュアリー)を「保険計理人」として選任しなければなりません。
また、生命保険会社は法令により、政府が定めた標準死亡率をもとに責任準備金を積み立てる義務がありますが(標準責任準備金制度です)、この死亡率を作成しているのは日本アクチュアリー会です。

なお、アクチュアリーが活躍するフィールドは保険会社(商品開発や責任準備金の計算など)だけではありません。将来の不確実な事象を評価するのが専門なので、企業年金やリスクマネジメント、最近ではデータサイエンスの分野など、活躍の場面が広がっています。

日本保険学会とは

他方、日本保険学会は社会科学系では最も古い歴史と伝統のある学術団体の1つです。「保険に関する研究と保険研究者相互の協力を促進し、かつ、国内外の関係学会、関係団体との連絡および交流を図ること」を目的としています。

学会員には法律系の研究者と、経済・商学系の研究者の両方がいます。例えば、同じ「自動運転車の普及」をテーマに取り上げても、法律系の研究者であれば、「事故発生時の責任関係はどうなるのか」「被害者はどう救済されるのか」などに関心を持つでしょうし、経済・商学系の研究者は、「保険産業にどのような影響を与えるのか」「保険の役割はどうなるのか」などを研究します(あくまでイメージです)。

こう書くと、なんだか敷居が高そうに見えてしまいますね。実は学会員の7割近くが保険産業に関わる実務家でして、学会では大学研究者と保険実務家が広く交流し、活発な意見交換を行っています。
私自身も、2020年からは大学研究者に該当しますが、それ以前から保険実務家として年次大会のパネルディスカッションに登壇したり、機関誌『保険学雑誌』に寄稿したりしてきました。

気候変動リスクへの対応

先週開催された両団体の年次大会では、いずれも多くの興味深い報告・パネルディスカッションが行われました。そのなかで、比較的近いテーマもあり、私はその両方に参加してみました。
日本アクチュアリー会の「あしたのために、その一:気候変動リスクマネジメント アクチュアリーもやもや解消レシピ」という、ちょっと変わったタイトルのパネルディスカッションは、気候変動リスクに対応する際の「もやもや感」を解消しようというものでした。リスク評価の専門家でも、最近の気候変動リスクをめぐる世界的な動きについては、どこか釈然としないものを抱えているのですね。

他方で、日本保険学会のシンポジウム「社会課題の解決に向けた保険の意義と課題」では、実務家から気候変動リスク対応などに関する国際的な議論の説明と、保険会社・共済団体によるSDGsへの取り組み状況の紹介がありました。
話を聞いていて、「経営としてSDGsへの取り組みをどう位置付けているのか」「契約者や株主はこのような取り組みをどう評価しているのか」など、いろいろ考えることができたのは大きな収穫だったと思います
(「もやもや感」は残りますが・・・)。
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※写真は京都・真如堂です。

 

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「フクダイズム」に登場しました

なんと大学から取材を受け、FUKUDAism(フクダイズム)というサイトに登場してしまいました。
このところコロナの保険に関する取材が続き、大学の広報部門ともつながりができたので、その流れでこちらに登場することになったのではないかと思います。よろしければご笑覧ください。
サイトはこちらです。

取材を受けることになり、サイト内を眺めていたら、卒業生にNHKニュース「おはよう日本」でおなじみの気象予報士・近藤奈央さんが福大OGであると知りました(こちらです)。彼女は卒業してから気象予報士を目指し、見事合格。毎朝楽しく観ているので、卒業生だとわかってうれしかったです。

※写真は京都の南禅寺と永観堂です。
 紅葉がきれいでした。

 

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金融庁の「保険モニタリングレポート」

今週のInswatch Vol.1156(2022.10.17)への寄稿は先月に続いて金融庁ネタでした。ブログでもご紹介いたします。元の資料はこちらになります。
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保険行政に特化したレポート

先月の寄稿では2022事務年度の金融行政方針を取り上げ、保険に関する記述が少ないと悪態をついてしまいました。これに対し、9月30日に金融庁が公表した本レポートは、以下の目的を達成するために策定・公表したもので、全64ページすべてが保険に特化したレポートです。

・保険行政の透明性を高める
・保険会社との対話・モニタリングにより保険行政の高度化を図る
・保険業界が将来にわたり社会的役割を果たすための取り組みを促す

金融庁が考える保険会社の諸課題

レポートで金融庁は、保険会社にとって重要と考えられる課題について、昨年度(事務年度。以下同じ)に行政として何を行い、今年度はどのような方針で取り組むかを示しています。今回のレポートで挙がっている課題は以下の通りです。

【持続可能なビジネスモデル】
・ビジネスモデル対話
 ※中長期的な視点に立ったビジネスモデルの構築:植村注
・デジタル化へ向けた取り組み

【財務・リスク管理】
・グループガバナンスの高度化
・自然災害の多発・激甚化への対応
・財務の健全性の確保
 ※財務上の実態把握と対話、財務上の指標や規制のあり方の見直し
・マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策

【顧客本位の業務運営】
・営業職員管理態勢の高度化
・公的保険を踏まえた保険募集
・節税保険への対応
・外貨建保険の募集管理等の高度化
・保障内容の見直しに関する顧客視点に立った商品設計
・保険代理店管理態勢の高度化

【少額短期保険業者】
・財務の健全性及び業務の適切性の確保
・経過措置適用業者への対応

業界関係者には必読のレポート

金融行政方針の「実績と作業計画」に比べると、課題として挙がっているテーマ数はかなり多くなっていますし、昨年度に金融庁が何を行ったのかをより詳細に知ることができます。保険代理店に関する記述も多いので、関係のありそうなところだけでもご覧いただくことをおすすめします。

もっとも、昨年度版でも感じたことですが、本レポートは基本的には金融庁の活動報告であって、保険会社や保険代理店との対話やモニタリングを通じ、保険行政として現状をどう評価し、今後どうしていきたいのかという記述は控えめです。
例えばレポートによると、金融庁は自然災害リスク管理に関するモニタリングを一昨年度、昨年度と続けて実施していることがわかります。ところが今年度の方針でも「今後の大規模自然災害発生に備え、損害保険会社において、経営レベルでの論議も含め、自然災害リスク管理をどのように行っているか、引き続きモニタリングしていく」とあり、なぜ引き続きモニタリングしていく必要があるのか、これだけでは金融庁の意図がよくわかりません。保険会社には自然災害リスク管理を継続してモニタリングする理由を十分伝えているのかもしれませんが、行政の透明性という目的を踏まえると、今後はもう少し踏み込んだ記述を期待したいです。

なお、巻末のコラムでは「遺伝情報の取扱いについて」「新型コロナウイルス感染症による『みなし入院』に係る入院給付金等について」など、トピック的な行政対応が載っています。ただし、「生命保険会社の健全性と契約者配当について」だけは他のコラムと違い、金融庁が何かを実施したという記述がない「謎コラム」となっていて、秘かに注目しているところです。
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※キャンパスには秋のバラが咲いています。

 

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金融庁の金融行政方針

今週のInswatch Vol.1152(2022.9.12)では金融庁の行政方針を取り上げましたので、ブログでもご紹介いたします。元の資料はこちらになります。
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金融行政の重点課題と取組方針を公表

金融庁は8月31日に2022事務年度の金融行政方針を公表しました(金融庁の事務年度は7月から翌年6月です)。「直面する課題を克服し、持続的な成長を支える金融システムの構築へ」という副題が付き、「概要」「本文」「コラム」「実績と作業計画」を合わせると190ページにもなる大作です。
そのなかで保険に関する記述が少なく、かつ、モニタリング方針に挙がっている項目に前年度から変化がなかったのは、保険会社や代理店に問題がないというのではなく、金融庁の問題意識が今のところ必ずしも高くないというだけだと私は考えています。

以下では「実績と作業計画」に掲載された業種別モニタリング方針から、保険会社に関する作業計画をご紹介します。

保険業界における顧客本位の業務運営

節税(租税回避)手法を活用した保険募集の問題や営業職員による不適切事案の発覚などを受けて、前年度の作業計画に比べると記述がかなり増えました。とりわけ、「財務局との連携を一層強化しつつ、保険代理店の監督を行っていく」「(乗合)代理店の業務品質評価に係る取組みが各生命保険会社に広がるよう促していく」と、保険代理店に関する内容が増えたという印象です(営業職員管理のモニタリングに関する記述もあります)。

なお、外貨建保険の販売に関するフォローアップや、障がい者等への対応については、業態横断的なモニタリング方針のなかで触れています。

ビジネスモデル

引き続き保険会社とのビジネスモデル対話を行うというなかで、「トップラインだけでなくボトムライン(火災保険の収益改善等)の適正化に向けた取組み等をテーマとした対話を検討する」とあり、後述する「自然災害」と合わせ、金融庁が火災保険の収支動向に強い関心を持っていることがうかがえます。

グループガバナンス

大手保険グループの経営管理(海外事業を含む)に関するもので、前年度のフォローアップとみられます。

自然災害

大規模な自然災害に関する保険会社のリスク管理態勢を引き続きモニタリングするというものですが、「災害に便乗した悪質商法等の排除」「水災リスクに応じた火災保険料率の細分化」に関する記述もあります。

経済価値ベースのソルベンシー規制等

金融庁はこの6月に主要論点の暫定決定内容を公表しているので、これに基づいて準備を進めていくとのことです。
個人的には「監督会計のあり方について検討を行う」「IFRS任意適用に関する必要な法令の整備」にも注目しています。

金融行政方針は単に金融庁が作業計画を世に示したというだけではなく、行政として自らを律することになる重要なものです。読者の皆さんもこの機会に金融庁のサイトを確認してみてはいかがでしょうか。
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※鉄道150周年を迎える横浜・桜木町駅です。

 

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入院給付金の見直し

前々回のブログでご紹介した8月20日前後のメディア対応に続き、9月1日から4日にかけて、NHK(夜9時のニュースなど)をはじめ、掲題のテーマでいくつかのメディアに登場しました。共同通信の取材にも応じたので、静岡新聞などいくつかの地方紙にコメントが出たそうです(知人に教えてもらいました)。

その共同発のコメントですが、前半部分に訂正があります(申しわけありません)。

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関の逼迫(ひっぱく)を回避するために保険業界が社会貢献のような形で導入した」

ではなく、

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関が逼迫(ひっぱく)して自宅療養者が出るなかで、保険業界が社会貢献のような形で導入した」

というコメントをしたつもりでした。これは記者さんのせいではなく、私の確認ミスです。

ちなみに後半部分はこうなっています。

「最近は軽症や無症状の感染者も多く、本来は給付金を受け取る対象か疑わしい人も受け取っていることが問題になっている。保険は加入者がお金を出し合って、いざという事態に備える仕組みだ。みなし入院の感染者全てに支払いを続けると、新規で医療保険に加入する人の保険料が値上がりしたり、販売停止につながったりして、加入者が不利益を被る恐れがある」

NHKのコメントは動画のほか、こちらで確認できます。

NEWS WEB「コロナ自宅療養で“入院保険”これからどうなる?」(9月1日更新)
サクサク経済Q&A「【詳しく】新型コロナ 入院給付金見直しって?」(9月1日公表)

コメントの中核部分はこちらになります。

「保険会社が『みなし入院』でも給付金を払うと決めたときはまだ、コロナがどんな病気で、どれくらい深刻なのかが分からなかったため、こうした対応が社会にとって役立つと考えていたのだと思う。しかし、今は症状が重くなくても、陽性と判定されればそれだけで給付金がもらえてしまう状況で、給付金をもらうためにあえて保険に加入する人も出てきている。入院給付金の原資は契約者が払う保険料で、保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平な状況になっており、正常な状態に戻すという話だと捉えるべきだ」

後段の「保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平」というのはちょっと変ですが、「保険料と給付金のバランスが崩れているうえ、保険料を負担している人たちのなかで不公平が生じている」と捉えていただければ幸いです。

ちなみに同じNHKでもNEWS WEBとサクサク経済Q&Aは別の取材でして、これは本人でないとわからないかもしれません。

念のため、今回の見直しに関する資料を挙げておきましょう。

1.金融庁「入院給付金の取扱い等に係る要請」(9月2日公表)

生命保険協会、日本損害保険協会、外国損害保険協会、日本少額短期保険協会にあてたもので、「貴協会におかれては、会員各社において、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、政府による検討の方向性を踏まえた上で、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の取扱い等について、支払対象も含め、可及的速やかに検討が行われるよう周知していただきたい」とあります。

2.生命保険協会「新型コロナウイルス感染症による宿泊施設・自宅等療養者に係る療養証明書の取扱い等について

上記の金融庁要請を受けて、「生命保険各社においては、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の支払対象も含めた取扱い等について、 検討が行われるよう周知しています」とあります。日本損害保険協会のリリース文も、この部分に関してはほぼ同じです(「周知」ではなく「依頼」となっていますが)。

各社の対応はおそらく検討中で、まだサイトでは確認できませんでした(5日現在)。

※熊本城の修復もだいぶ進みましたね。

 

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メディアに登場

ここ数日メディアに登場する機会がいくつかあったので、備忘録を兼ねてご紹介します。

日経Beyond Health
19日(金)に「どうなる? 日本の生保ビジネス」という少し長めのインタビュー記事がアップされました。比較的長いスパンで大手生保の経営を考えるというもので、記事のなかでは課題として以下の3つを挙げました。

1.現在の経営スタイルに関する説明
2.ビジネスモデルの再構築
3.技術革新をどう取り入れていくのか

無料で公開されているようですので、詳細はサイトをご覧ください。

羽鳥慎一モーニングショー
18日(木)に、テレビ朝日の朝の情報番組にリモート出演しました。「保険 入院給付金支払い急増…新規販売見直しも」というコーナーでしたが、時間が押してしまったので、私のコメントはちょっとだけです。
画面では「『将来の不安に備えて加入する』という保険本来の形が成り立たなくなってきているのが、今、起きていること。保険業界として、コロナをめぐる保険の見直しが必要な時期に来ている」などいくつかのコメントが出ていたと思います。

最後にレギュラーコメンテイターのかたが、「保険会社には同情しない」「儲けようと思ってコロナの保険を売ったのだから、自業自得」という趣旨のコメントをしていましたね。いま起きている入院給付金の支払い増加はコロナに特化した保険の話ではないし、入院給付金の原資は加入者の支払った保険料なので、不正まがいの加入者が増えるのは問題なのですが…スタジオにいたら放送事故になっていたかもしれません(笑)

同じ18日にはNHKの朝のニュースでも、7月26日にアップされたwebニュース記事「コロナ自宅療養で “入院保険” 手続きはどうするの?」が何回か紹介され、SNSなどで「観たよ」というコメントを複数いただきました。医療保険の加入者に請求を促すような内容となっていますが、皆さんぜひ「My HERーSYS」を利用していただき、多忙な保健所の手を煩わせないようにしていただきたいですね。

コロナと民間医療保険に関しては、地元テレビ局のRKB毎日放送からも取材を受け、23日(火)の夕方18:15からのどこかでコメントが使われるかもしれません。
⇒ こちらから観られそうです。

以上です。

<8/22追記>
テレビ朝日の報道番組「グッドモーニング」にも取材協力しました。
こちらになります。

※写真は臼杵(大分県)の城下町です。

 

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民間医療保険の存在意義は何か

インシュアランス生保版(2022年8月号第3集)に寄稿したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナル)。
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医療保険の支払いが急増

保険を学ぶ大学生に対し、「民間の医療保険は医療費を保障するものではないんだよ」という話をすると、怪訝な顔をされることが多い。
読者の皆さんには釈迦に説法だと思うが、医療費を保障するのは公的医療保険であって、保険会社が提供する医療保険は、病気の際の支出全般を保障(補償)する保険である。支払事由は被保険者の入院や手術などとなってはいるものの、給付金の使い道は自由なので、医療費の自己負担分に充ててもいいし、療養中に減ったパート代の補填にもなれば、体力回復のために美味しい食事をとるのにだって使える。裏を返せば、死亡保険や火災保険、自動車保険に比べると、加入者は民間医療保険で自らのどのようなリスクを保障(補償)してもらいたいのか、必ずしも明確ではないように思う。

こんなことを書いたのは、新型コロナウイルス感染症の流行第6波以降、保険会社による入院給付金の支払いが急速に増えていることがある。報道によると、生命保険協会加盟会社の入院給付金(コロナ関連)はこの4、5月だけで昨年度の水準に達した。全体で見ても、この2カ月間に支払った給付金は前年同期に比べて22%も多い。とはいえ、この給付金が基本的に医療費に充てられることはない。なぜなら、新型コロナは国の指定感染症であり、治療に係る医療費は公費負担となっているからである。

何を補償しているのか

コロナ感染に伴う民間医療保険の入院給付金支払いでは、感染者数の急増のほか、保険会社にとって2つの想定外の事態が生じている。1つは、支払った入院給付金の9割超が自宅療養などの「みなし入院」患者向けとなっていること。もう1つは、濃厚接触者など感染リスクの高い人が率先して保険に加入するといった、大規模な逆選択やモラルリスクが生じた可能性である。
コロナ感染者の治療費に自己負担はなく、感染者の多くが軽症であることを踏まえると、なかには「保険に入っていたおかげで生活が助かった」という人もいるだろうが、給付金を受け取った人の大半は「お金を受け取れてラッキー」という感覚ではなかろうか。

コロナ感染という「苦痛」に対する補償に対し、目くじらを立てるのはおかしいという意見もあるだろう。ただ、保険本来の機能はリスクの移転であり、人々は保険を利用すれば、安心して社会活動を営むことができるというもの。現在の民間医療保険によるコロナ感染者への給付金支払いは、こうした保険本来の機能から外れてしまっているように見える。
想定を超えた支払いは、保険会社の保険引受リスク管理の甘さから生じたと言ってしまえばそれまでである。だが、そもそもの問題は、民間医療保険のカバーするリスクがあいまいなまま、保険業界にとって高収益の見込める主力商品として、競って販売してしまったことにあるのではないか。
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※写真は中津城(大分県)です。

 

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