15. 執筆・講演等のご案内

損保総研で講師を務めます

セミナーのご案内です。
12月17日(火)に損保総研の特別講座で講師を務めます。
演題は「内外ソルベンシー規制の動向と経済価値ベースの保険ERM再考」です。

損保総研では2000年以降、ほぼ毎年講師を務めていまして、保険会社の経営内容や健全性規制などの「定点観測」をお伝えする機会となっています。
例えば10年前の2009年12月には「金融危機と保険会社経営」という演題で、保険会社の経営分析やリスク管理の現状などをお話ししました。
一昨年の演題は「今だからこそ問われる保険会社のERM」、昨年は「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」でした。

今回は、内外ソルベンシー規制にいろいろと動きがありましたので、まずはその話をしたうえで、後半は規制以外の話をしようと考えています。
師走のご多忙な時期だとは思いますが、機会がありましたらぜひご参加ください。

※ユーザー数が11億とは驚きです

 

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貯蓄と保険のちがい

inswatch Vol.1006(2019.11.11)に寄稿した記事をご紹介します。
本文中にある「終身年金パズル」とは、長生きリスクには貯蓄よりも終身年金のほうが有利にもかかわらず、民間が提供する終身年金があまり普及しないという現象のことです。
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長生きリスクへの備え

例えば90歳を超えて長生きした際の経済的な負担に対しては、貯蓄(資産形成)と終身年金(社会保険を含む)が代表的な手段となっています。
貯蓄の場合、自分が何歳まで生きるかわからないので、多め多めにお金を用意しておく必要があり、結果として多額の貯金を残して亡くなることになりがちです。
これに対し、保険の仕組みを使えば、長生きリスクに対して合理的に備えることができます。もちろん、平均寿命が将来的にどうなるかはわかりませんが、個々人ではなく集団として備えるので、これまで培ってきた保険の技術で対応することが可能です。

貯蓄ではなく保険

しかし、終身年金やトンチン年金など、長生きリスクに備えた保険を貯蓄としてとらえる発想が根強いようです。これだと、支払う保険料と受け取る給付の金額を比べ、損だ得だという話になってしまいます。
日本生命が2016年に「ニッセイ長寿生存保険」を発売した際も、「平均寿命まで生きた場合でも、年金の受取総額は保険料の支払い総額よりも少なく、損失が出る」という批判がありました。
こちらもご参照(過去のブログです)

長生きリスクに保険で備えようという発想であれば、このような考え方は誤りです。保険ですから、例えば90歳以降の保障を受け取るために、いわば掛け捨ての保険料を支払うというように考えるべきです。
一般的な生命保険(死亡保障)のことを考えていただければ、よりわかりやすいかもしれません。例えば40歳で20年間の定期保険に入った場合、60歳までの間に加入者が死亡したら、遺族に保険金が支払われます。加入者は60歳までの20年間の死亡リスクに対する備えとして保険に入ったのであって、60歳になって「これまで保険料を支払ってきたのに何も受け取れなかった」と保険会社に文句をいうのは筋違いだとわかります。
長生きリスクに保険で備えようとした場合もこれと同じことです。貯蓄として保険商品を提供するのであればともかく、保障を提供するのであれば、「返戻率が高い」といった話法からは卒業したほうがいいと思います。

民間保険会社の役割に期待

先ほど「長生きリスクへの備えとしては、貯蓄と終身年金が代表的な手段」と書きましたが、実のところ、民間の保険会社はこの分野で必ずしも大きな役割を発揮していないように見えます。というのも、終身年金の主な担い手は社会保険(国民年金、厚生年金など)であって、保険会社が提供する終身年金は主力商品とはなっていないためです。

平均寿命が延びるなかで、民間として長生きリスクを引き受けるのが難しいのは確かですが、他方で終身保険を提供しているので、両者でセルフヘッジ(終身の長生きリスクと死亡リスクが打ち消し合う)効果がえられるはずです。今の金利水準では魅力ある商品の提供が難しいということもあるとは思いますが、主力商品となっていないのは、保険会社のリスク管理上の制約というよりは、むしろ終身年金が顧客にあまり選ばれてこなかったというべきでしょうか
(「終身年金パズル」と言われています)。

しかし、貯蓄と社会保険だけでは老後を豊かに過ごせるかどうか不安が高まっているなかで、より長生きのリスクだけに焦点を絞った商品を民間の保険会社が積極的に提供していくべきではないでしょうか。
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※写真は慶大矢上キャンパスです。9日にJARIPの年次大会がありました。

 

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「生活協同組合研究」に寄稿

生協のシンクタンク(生協総合研究所)が毎月発行している「生活協同組合研究」2019.11に寄稿しました。

本号の特集「生協の共済を取り巻く事業環境」のなかで、私が書いたのは「生命保険における健全性規制の動向と保険会社の対応状況」というもの。
リクエストが保険会社の健全性規制でしたので、共済についてはほとんど触れていません。1か所だけ生命保険の責任準備金を説明した際、比較のために「一律保障・一律掛金」タイプの共済商品は「加入者の高齢化が進み、平均年齢が想定よりも高まると運営が難しくなる」という特徴を述べています。

他にも、著名FPである藤川太さんの「人生100年時代のライフプランと共済」や、保険のなかでも新たな業態である少額短期保険による商品開発の動向、ニッセイ基礎研究所の松岡博司さんによる「米国生保市場の動向」など、いずれも直接的に共済について述べたものではありませんが、興味深い論稿が載っていました。

機会がありましたらご覧ください。

※写真はワルシャワのトラムです。

 

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予定利率ゼロの時代

inswatch Vol.1002(2019.10.14)に寄稿した記事をご紹介します。
月次寄稿となってから生保関係の話を書いていて、今回は標準責任準備金を取り上げています。

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生命保険は加入してからの契約期間が長いため、将来の保険金や給付金の支払いに備えた「責任準備金」の確保が保険会社経営のキモとなります。そこで今回は「標準責任準備金」という規制について取り上げてみましょう。

標準責任準備金制度

生保には損保の参考純率のようなものはなく、会社が保険料率を自由に決めることができます(商品認可は必要です)。とはいえ、まったく縛りがないのかと言うとそうではなく、政府は生保の責任準備金を規制することで、保険会社の健全性を確保しようとしています。
定期保険や終身保険、養老保険などの、いわゆる生命保険は「標準責任準備金」規制の対象で、行政当局が定めた「標準生命表」「標準利率」に基づいた責任準備金を積み立てなければなりません(付加保険料や第三分野の入院・手術等の発生率は規制の対象外です)。

例えば、通常の生命保険(平準払い)の標準利率は現在0.25%です。保険会社はそれよりも高い予定利率を使い、保険料を低く設定することは可能ですが、責任準備金は標準利率で計算したものを積む必要があります。
つまり、予定利率を標準利率よりも高く設定してしまうと、顧客から受け取った保険料だけでは責任準備金を積むことができず、不足分を会社が補わなければなりません。それでは経営が持たないということで、標準責任準備金が生保の価格競争の歯止めとなっています。

一時払い終身の標準利率は0%に

標準生命表のほうは、2018年4月の改定に合わせ、多くの保険会社が保険料を変えたり、商品そのものを見直したりしたので、記憶に新しいかもしれません。トレンドとしては長寿化が続いているため、生命表の改定があると、定期保険のような死亡保障の保険料は下がり、個人年金のような生存保障の保険料は上がります。
これに対し、標準利率は一貫して引き下げが続いてきました。標準利率は責任準備金を計算するうえでの割引率なので、利率が下がると、より多くの責任準備金を積まなければならず、保険料は上がります。

標準利率は長期国債の利回りをベースに決めています。ただし、通常の平準払いの生命保険と一時払いの貯蓄性商品では設定方法が異なります。
通常の生命保険では、10年国債利回りの3年平均と10年平均の低いほうをもとに利率を設定するのに対し、一時払いの貯蓄性商品では、利回りの3か月平均と1年平均の低いほうをもとに設定します(一時払い終身保険では10年国債利回りのほか、20年国債利回りも活用)。

すなわち、一時払いの貯蓄性商品は標準利率が金利変動に連動しやすい仕組みとなっているのですが、一部で報道されているように、最近の低金利を受けて、来年1月から一時払い終身保険の標準利率がついに0%に下がることになりました。生保にとって厳しい経営環境が続きます。
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※写真はポーランドの古都クラクフです。旧市街全体が世界遺産とのこと。

 

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保険法のシンポジウム

インシュアランス生保版(2019年9月号第4集)にコラムを執筆しましたので、ご紹介します。
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保険学会で登壇

10月26、27日に関西大学で開催される日本保険学会の全国大会で、シンポジウム「保険法10年の経験と今後の課題」に登壇することになった。

おそらく読者の皆さんがコンプライアンス等で意識する法律としてまず頭に浮かぶのは保険業法であろう。保険業法は保険会社に対する監督について定めたものであり、保険契約者等の保護を目的としているが、契約当事者間のルールについて定めたものではない。これに対し、08年に制定された保険法は保険契約に関する一般的なルールを定めたもので、「保険契約の締結から終了までの間における、保険契約における関係者の権利義務等が定められている」(生命保険文化センターHPより引用)。
もっとも、保険法にも保険契約者等の保護が規定され、これらは片面的強行規定(法律の規定よりも保険契約者等に不利な内容の約款の定めを無効とする規定)とされているので、契約者保護という点で両者は共通したところがある。

保険市場の変化

保険契約の締結という観点から過去10年間の保険市場を振り返ると、銀行や保険ショップといった、保険会社から実質的に独立した販売チャネルの台頭と、16年の改正保険業法の施行により、保険会社に加えて保険募集人も対象にした新たな保険募集の基本的ルールが創設されたことが挙げられよう。

例えば、生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」によると、直近加入契約の加入チャネルが大きく変化したことが示されている。営業職員チャネルが最大シェアであることに変わりはないが、平成21年調査の68%から平成30年調査では54%に低下した。その一方で、銀行・証券会社・保険代理店を合計すると、9%だったものが23%まで拡大した(いずれもかんぽ生命を除く)。
1社専属で保険専業の営業職員と、他の金融商品とともに保険も提供する銀行、あるいは消費者の比較ニーズに応える形で品ぞろえを誇る保険ショップでは、同じ保険者(保険会社)と保険契約者の契約であっても、その距離感は異なるだろう。10年前に制定された保険法はこうした市場の変化に対応したものとなっているだろうか。

次の10年

さらに、次の10年間を踏まえると、技術革新の進展による影響を無視できない。もしビックデータ等の活用により、情報の非対称性(保険会社は加入者の情報を知らない)が限りなく解消するとしたら、告知の有無を問う必要がなくなるかもしれないし、むしろ保険会社がリスクを保険料率にきちんと反映しているかどうか(不当に高い保険料となっていないか)が問われるのかもしれない。
契約者同士でグループを作り、リスクをシェアするP2P保険のように、これまでの保険契約法では想定していないようなサービスも登場しつつある。

シンポジウムではこうした過去および将来の保険市場の変化について、実務家として議論のたたき台を示せればと考えている。
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保険会社の健全性政策の見直し

inswatch Vol.999(2019.9.23)に寄稿した記事をご紹介します。
今回は健全性規制見直しの話を寄稿しました。
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有識者会議が始まる

ソルベンシー・マージン比率規制に代表される保険会社の健全性政策を全面的に見直そうという動きがあります。
現行のソルベンシー・マージン比率の導入は1996年でした(比率に基づく早期是正措置の導入は1999年)。しかし、その後相次いだ生損保の経営破綻を防ぐことはできず、破綻会社の契約者は何らかの不利益を被ることになりました。金融庁は2010年にリスク計測やマージン算入の厳格化を行いましたが、これは段階的見直しの第1弾と位置付けられており、本格的な見直しはまだ実現していません。
こうしたなかで、金融庁は5月末に「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」を設置し、6月以降、国際的な議論も踏まえた国内規制の方向性について検討を進めています。

「意図せざる影響」への懸念

第一回事務局説明資料「4.主要な論点」には、新たな規制の導入が関係者にどのような便益をもたらすかといった点に加え、規制導入による「意図せざる影響」を考慮すべきという姿勢がうかがえます。
同じ資料の「3.保険会社の現状」に、「資本市場における保険会社の位置づけ」「保険会社の資産運用の状況」「保険商品の変遷」が示されているのを見ても、新たな規制導入によって保険会社の資産運用や商品戦略が変わりうることを意識しているのでしょう。

検討されている「経済価値ベースのソルベンシー規制」では、資産・負債を時価評価することで、現行規制よりも保険会社(特に生命保険会社)の経営実態やリスク特性をとらえたものとなる見込みです。
実のところ自己規律がしっかりしていれば、新たな規制が入ったとしても基本的には経営戦略を大きく変える必要はないと考えられます。ただし、仮に緩い内部管理に基づいて資産運用や商品開発を行っている会社があれば、新たな規制の導入は経営戦略の見直しを迫ることになるのでしょう。

社会的な役割よりも優先すべきもの

懸念されている「意図せざる影響」のなかには、長期投資家としての機能など、生命保険会社が果たしてきた社会的な役割が果たせなくなるというものがあります。
しかし、そもそもの当局の「意図」として、現行規制を見直すことで、保険会社の健全性を確保したいということはあるはずです(それ以上の意図はわかりませんが)。社会的役割が果たせなくなるからといって、不十分な規制となってしまったら、それこそ本末転倒です。

今後の有識者会議でどのような方向性が示されるのか、今後の議論に注目したいと思います。
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※写真はタイのメークローン市場です。

 

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減収は増益要因

inswatch Vol.993(2019.8.12)に寄稿した記事の紹介です。
メディアが生保会計を理解したうえで報じてくれるといいのですが、そうでないと不信感をあおることになってしまいそうです。

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日本郵政グループの不適切な保険販売は、商品供給を担うかんぽ生命や日本郵便の上層部と、現場で販売を担っている郵便局の距離の遠さをはじめ、グループ固有の要因が大きいのかもしれません。
それでも、他の保険関係者にとって対岸の火事と言い切れるでしょうか。「こんなことありえない」と切り捨てるのではなく、自らに置き換えて考えてみることが代理店経営を強くするのではないかと思います。

業績予想は「修正なし」

ところで、かんぽ生命の植平社長は7月の会見で、2020年3月期の業績予想は今のところ「修正なし」とコメントしています。
かんぽ生命は上場会社なので、当期純利益などの大幅な増減が見込まれるようであれば、適時開示制度に基づいて速やかに公表しなければなりません。当面は積極的な営業活動を行わない方針を打ち出したこともあり、今期の新契約が大きく落ち込むのは避けられないでしょう。それにもかかわらず「修正なし」というのは、影響の大きさが現時点ではよくわからないというだけではなく、保険会計の特殊性が関係していると考えられます。

新契約の減少は増益要因

生命保険会社が新契約を獲得すると、その年度に入ってくる保険料を「保険料収入」として計上します。平準払(回払)であれば、契約者は何年もかけて保険料を支払うので、当期の決算に計上されるのは実際に払い込まれた数回分の保険料だけです。
他方で、保険会社が事業を遂行するための経費は、発生した時点で「事業費」として計上します。新契約を獲得するには代理店手数料や広告宣伝費をはじめ、多額のコストがかかります。大手生保(かんぽ生命を含む)の場合、事業費総額の3、4割が営業活動費です。
保険料収入として計上するのは実際に払い込まれた数回分にもかかわらず、新契約獲得のためにかかった費用はその時点で計上しなければならないため、新契約を獲得すればするほど減益となり、反対に、前年度よりも新契約が減れば増益要因となる、というのが現行の保険会計です。

新契約価値は減少へ

もちろん、新契約が落ち込んだにもかかわらず増益になったとしても、保険会社の経営にとって喜ばしい話ではありません。エンベディッド・バリュー(EV)を公表している会社であれば、新契約価値の減少がEV成長の足かせとなっていることが公表資料からわかるはずです。
さらにいえば、保険会社の会社価値には、将来にわたり新契約を獲得する能力も含まれています。営業基盤の悪化はただちに会計損益に表れるものではありませんが、会社価値には深刻な影響を及ぼします。
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※写真は伊東温泉です(8/3撮影)。

 

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終身保障の現状

inswatch Vol.989(2019.7.15)に寄稿したものです。
7月7日のブログの続きと言えるかもしれません。
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新たな健全性規制を懸念する声

金融庁が検討している新たな健全性規制について生保業界から、「規制の数値目標の達成を目指す行動が、顧客の期待に反するものになりかねない」「契約期間の長い終身保険などは販売の見直しにつながる可能性がある」など、新たな健全性規制の導入によって長期の保障が提供できなくなるという声が出ているようです(7月5日の日経新聞から引用)。
新規制が長期の生保商品に与える影響に関するコメントは私のブログをご覧いただくとして、規制導入への懸念を表明するほど保険会社は長期の保障を提供しているのでしょうか。

終身保険は主力商品と言えるか

長期保障の典型は終身保険です。過去10年間の個人保険の種類別新契約件数の推移を確認すると、終身保険は常に全体の2割前後を占め、医療保険とともに生保商品の主力であるように見えます。
2018年度の終身保険シェアは18%と、前年度から2ポイント下がりましたが、これは定期保険の販売が好調だったため(経営者向け保険でしょうか?)で、終身保険の新契約件数はほぼ横ばいでした。

しかし、このなかには主に銀行などで提供されている一時払いの終身保険が含まれています。各社の資料等からざくっと推測すると、全体の1/3~半分近くを占めると思われます。これらは終身保障ニーズへの対応というよりは、預金代替の貯蓄性商品として販売されていて、顧客はシニア層が多いとみられます。しかも、円金利の低下を受けて、一時払い終身保険の大半は外貨建てです。
残る終身保険についても、国内系生保の場合、主力商品の定期化(10年更新など)が一段と進んでいて、顧客に提供する保障パッケージのなかに、終身保険部分の保険金額は数十万円のみというケースも珍しくありません。例えば、ある大手生保の平均保険金額は51万円でした(2017年度の終身保険)。

個人年金保険も長期の保険ですが、終身の個人年金保険はあまり売れていないようです。
個人年金全体の新契約件数も縮小気味で、2018年度の個人年金保険の新契約100万件(外貨建てや変額年金を含む)は10年前の2/3、ピーク時の1/3です。

以上を踏まえると、外部環境(特に超低金利)の制約から、多くの会社はすでに長期の保障ニーズを満たすような生命保険・個人年金保険をあまり提供していない(特に円建てでは)というのが実態のようです。

終身医療保険への疑問

医療保険にも終身タイプが多いと考えられます。定期タイプを更新していくのと比べると、終身タイプは保険料が上がらないのがメリットと受け止められているようです。
こちらも終身保障ということで、金利低下の影響を受けるのは確かです。しかし、終身保険とはちがい、多くの会社が終身医療保険を提供し続けているのは、発生率の変動に備えた保守的な料率となっていることや、「解約返戻金がない」「保険料が終身払い」といったことなどが関係しています。

ただ、顧客本位に考えた場合、終身医療保険は本当にニーズにかなったものなのでしょうか。
死亡保険や個人年金とは違い、医療保険は時間がたつと技術革新などにより保障内容が陳腐化してしまいます(毎年新たな医療保険が次々に登場していますよね)。かつては主流だった入院時の保障を主眼とした終身医療保険に加入した人は、その後の変化(例えば入院日数の短期化など)に直面しても、変化によるメリットを享受するには、基本的に今の保険を解約して新たな医療保険に入り直すしかありません。
しかも、単品商品の大半が無配当なので、保守的な料率を設定した結果、発生した危険差益の還元を受けることもできません。

だいぶ前に疑問を呈したことがあるのですが、医療保険といえば終身医療保険というのは一見顧客ニーズを反映しているようで、実は会社にとって都合がいいものとなっているのではと考えてしまいます。
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※今年も慶大で講師を務めました。

 

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業界紙のインタビュー記事

7月9日と10日の保険毎日新聞に私のインタビュー記事が載りました。
いずれも2018年度決算の総括と19年度の展望ということで、9日が生保、10日が損保でした。
これまでブログで紹介した決算関連のコメントと基本的には同じ内容ですが、以下のような話もしています。

基礎利益について(9日)

「もともと基礎利益という指標は、生保業界で破綻した会社が出たり、毎年多額の逆ざやが計上されていたりした時代に、『生保会社は、逆ざやが危険差益や費差益で埋めきれないで、支払余力を取り崩して身を削っているので、何年間かたつと支払余力がなくなってしまうのではないか』という外部からの誤った見方に対する反論として、三利源損益を見せる代わりに、それらの合算に近い基礎利益という指標を開発し、公表したという経緯がある。(中略)当時は意味があったのかもしれないが、今の状況では基礎利益に意味を見いだすのは難しい。メディアで取り上げるから経営が重視せざるを得ないというおかしなことになっている」

損保の事業費構造(10日)

「各社の事業費率の構造のうち、諸手数料および集金費、つまり、代理店手数料まわりの部分は高止まりしており、場合によっては正味収入保険料に対して上昇している。(中略)代理店の大型化に伴い、代理店手数料テーブル(水準)が高い代理店の募集人が増えた結果だとは思うが、この状況を保険会社としていつまで許容できるのか。今後の動向に注目していきたい」

海外展開の影響(10日)

「今後、海外事業における収益の貢献が一定程度を占める保険グループでは、かつてのように国内中心の事業運営で、国内の経営陣だけが経営を担っていくことは難しくなってくるだろう。仮に海外で買収した企業には高い規律を求め、リスクに対する高いリターンを要求する一方で、国内では従来通りの『シェア重視』『利益よりはトップラインを重視』といったダブルスタンダードになっている保険グループがあるならば、今後はそうしたグループ運営はできなくなっていくだろう。(中略)保険グループが海外事業に注力すればするだけ、より経営の変革を迫られることになるだろうし、また、そうあるべきだと思っている」

※歩くのが不自由になって、エレベーターやエスカレーターのありがたさを実感しています。

 

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業界専門紙の役割とは

インシュアランス生保版(2019年7月号第1集)にコラムを執筆しました。
改めて石井さんのご冥福をお祈りいたします。

<以下、掲載されたコラムです>
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4月末に急逝した保険ジャーナリスト石井秀樹さんのお別れの会に参加した。石井さんのご冥福をお祈りするとともに、氏が長く保険毎日新聞の記者を務め、独立後もインスウォッチをはじめ、保険業界人が目にする媒体で健筆をふるっていたことから、業界専門紙誌や業界専門ジャーナリストの役割について改めて思いを馳せてみた。

業界専門紙の存在意義は何か

保険業界には本紙「インシュアランス(週刊)」のほか、「保険毎日新聞(日刊)」「新日本保険新聞(週刊)」「保険情報(週刊)」「インスウォッチ(週刊)」といった数々の業界専門紙がある。かつてに比べれば少なくなったとはいえ、1つの産業に複数の業界紙が存在するのは、それだけ保険業界の関係者が多く、かつ、業界に関する情報が必要とされてきたことの表れであろう。

業界専門紙を文字通り「業界人のための専門情報を提供する新聞」と定義すると、業界紙の役割は、一般の新聞や経済誌には載らないような詳細で正確な業界情報を提供したり、同じ情報でも一般紙誌とは違い、業界関係者向けの目線で伝えたりすることである。業界関係者を主な読者層としているのだから、一般紙と同じ目線でニュースを伝えていたのでは存在意義は乏しい。

ネット時代が到来する前は、保険会社のニュースリリースや監督官庁の公表する資料をそのまま掲載するだけでも価値があっただろう。だが、環境は劇的に変わっている。各社の発表をそのまま記事にしたようなものに大きな紙面を割く意義を見出すのは難しい。
亡くなった石井さんは、例えば保険ショップの全体像を取材の積み重ねにより報じていたが、業界紙にはこうした付加価値のある情報提供がますます求められている。

ファクトに基づく継続的な発信を

特に求められるのは、ファクトに基づいた継続的な情報発信であろう。
以前、保険毎日新聞が会社別の変額個人年金保険の販売状況を一覧表にして、それを定期的に掲載していた時期があった。各社の公表資料には保有契約と資産残高くらいしか情報がないなかで、銀行窓販の現状を知る貴重な情報だった。

こうしたニーズは今でもある。例えば各社が公表する「契約高・件数」「年換算保険料」などを見ても、業績動向をつかむのは難しい。年換算保険料が増えていても、貯蓄性の強い外貨建て保険の販売が前年度よりも多かっただけかもしれない。ブームとなっていた経営者向け保険が各社の業績にどの程度反映されているのかも全くわからない。
保険業界の健全な発展のためには米国AMベスト社のような存在が日本にも必要ではないだろうか。

さらに言えば、業界専門紙に期待される役割は関係者向けの情報提供にとどまらない。
サポーターと言うとやや誤解を招きそうだが、業界べったりの代弁者ではなく、業界の内外をつなぐ存在であったり、辛口のご意見番だったりと、関係者に対して「ムラの外ではこう見ている」という、いわば風を吹き込むような役割もあると思う。
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※写真(上)は昨年3月末の椿山荘、
 下はお別れの会のスナップです。

 

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