15. 執筆・講演等のご案内

保険法のシンポジウム

インシュアランス生保版(2019年9月号第4集)にコラムを執筆しましたので、ご紹介します。
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保険学会で登壇

10月26、27日に関西大学で開催される日本保険学会の全国大会で、シンポジウム「保険法10年の経験と今後の課題」に登壇することになった。

おそらく読者の皆さんがコンプライアンス等で意識する法律としてまず頭に浮かぶのは保険業法であろう。保険業法は保険会社に対する監督について定めたものであり、保険契約者等の保護を目的としているが、契約当事者間のルールについて定めたものではない。これに対し、08年に制定された保険法は保険契約に関する一般的なルールを定めたもので、「保険契約の締結から終了までの間における、保険契約における関係者の権利義務等が定められている」(生命保険文化センターHPより引用)。
もっとも、保険法にも保険契約者等の保護が規定され、これらは片面的強行規定(法律の規定よりも保険契約者等に不利な内容の約款の定めを無効とする規定)とされているので、契約者保護という点で両者は共通したところがある。

保険市場の変化

保険契約の締結という観点から過去10年間の保険市場を振り返ると、銀行や保険ショップといった、保険会社から実質的に独立した販売チャネルの台頭と、16年の改正保険業法の施行により、保険会社に加えて保険募集人も対象にした新たな保険募集の基本的ルールが創設されたことが挙げられよう。

例えば、生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」によると、直近加入契約の加入チャネルが大きく変化したことが示されている。営業職員チャネルが最大シェアであることに変わりはないが、平成21年調査の68%から平成30年調査では54%に低下した。その一方で、銀行・証券会社・保険代理店を合計すると、9%だったものが23%まで拡大した(いずれもかんぽ生命を除く)。
1社専属で保険専業の営業職員と、他の金融商品とともに保険も提供する銀行、あるいは消費者の比較ニーズに応える形で品ぞろえを誇る保険ショップでは、同じ保険者(保険会社)と保険契約者の契約であっても、その距離感は異なるだろう。10年前に制定された保険法はこうした市場の変化に対応したものとなっているだろうか。

次の10年

さらに、次の10年間を踏まえると、技術革新の進展による影響を無視できない。もしビックデータ等の活用により、情報の非対称性(保険会社は加入者の情報を知らない)が限りなく解消するとしたら、告知の有無を問う必要がなくなるかもしれないし、むしろ保険会社がリスクを保険料率にきちんと反映しているかどうか(不当に高い保険料となっていないか)が問われるのかもしれない。
契約者同士でグループを作り、リスクをシェアするP2P保険のように、これまでの保険契約法では想定していないようなサービスも登場しつつある。

シンポジウムではこうした過去および将来の保険市場の変化について、実務家として議論のたたき台を示せればと考えている。
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保険会社の健全性政策の見直し

inswatch Vol.999(2019.9.23)に寄稿した記事をご紹介します。
今回は健全性規制見直しの話を寄稿しました。
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有識者会議が始まる

ソルベンシー・マージン比率規制に代表される保険会社の健全性政策を全面的に見直そうという動きがあります。
現行のソルベンシー・マージン比率の導入は1996年でした(比率に基づく早期是正措置の導入は1999年)。しかし、その後相次いだ生損保の経営破綻を防ぐことはできず、破綻会社の契約者は何らかの不利益を被ることになりました。金融庁は2010年にリスク計測やマージン算入の厳格化を行いましたが、これは段階的見直しの第1弾と位置付けられており、本格的な見直しはまだ実現していません。
こうしたなかで、金融庁は5月末に「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」を設置し、6月以降、国際的な議論も踏まえた国内規制の方向性について検討を進めています。

「意図せざる影響」への懸念

第一回事務局説明資料「4.主要な論点」には、新たな規制の導入が関係者にどのような便益をもたらすかといった点に加え、規制導入による「意図せざる影響」を考慮すべきという姿勢がうかがえます。
同じ資料の「3.保険会社の現状」に、「資本市場における保険会社の位置づけ」「保険会社の資産運用の状況」「保険商品の変遷」が示されているのを見ても、新たな規制導入によって保険会社の資産運用や商品戦略が変わりうることを意識しているのでしょう。

検討されている「経済価値ベースのソルベンシー規制」では、資産・負債を時価評価することで、現行規制よりも保険会社(特に生命保険会社)の経営実態やリスク特性をとらえたものとなる見込みです。
実のところ自己規律がしっかりしていれば、新たな規制が入ったとしても基本的には経営戦略を大きく変える必要はないと考えられます。ただし、仮に緩い内部管理に基づいて資産運用や商品開発を行っている会社があれば、新たな規制の導入は経営戦略の見直しを迫ることになるのでしょう。

社会的な役割よりも優先すべきもの

懸念されている「意図せざる影響」のなかには、長期投資家としての機能など、生命保険会社が果たしてきた社会的な役割が果たせなくなるというものがあります。
しかし、そもそもの当局の「意図」として、現行規制を見直すことで、保険会社の健全性を確保したいということはあるはずです(それ以上の意図はわかりませんが)。社会的役割が果たせなくなるからといって、不十分な規制となってしまったら、それこそ本末転倒です。

今後の有識者会議でどのような方向性が示されるのか、今後の議論に注目したいと思います。
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※写真はタイのメークローン市場です。

 

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減収は増益要因

inswatch Vol.993(2019.8.12)に寄稿した記事の紹介です。
メディアが生保会計を理解したうえで報じてくれるといいのですが、そうでないと不信感をあおることになってしまいそうです。

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日本郵政グループの不適切な保険販売は、商品供給を担うかんぽ生命や日本郵便の上層部と、現場で販売を担っている郵便局の距離の遠さをはじめ、グループ固有の要因が大きいのかもしれません。
それでも、他の保険関係者にとって対岸の火事と言い切れるでしょうか。「こんなことありえない」と切り捨てるのではなく、自らに置き換えて考えてみることが代理店経営を強くするのではないかと思います。

業績予想は「修正なし」

ところで、かんぽ生命の植平社長は7月の会見で、2020年3月期の業績予想は今のところ「修正なし」とコメントしています。
かんぽ生命は上場会社なので、当期純利益などの大幅な増減が見込まれるようであれば、適時開示制度に基づいて速やかに公表しなければなりません。当面は積極的な営業活動を行わない方針を打ち出したこともあり、今期の新契約が大きく落ち込むのは避けられないでしょう。それにもかかわらず「修正なし」というのは、影響の大きさが現時点ではよくわからないというだけではなく、保険会計の特殊性が関係していると考えられます。

新契約の減少は増益要因

生命保険会社が新契約を獲得すると、その年度に入ってくる保険料を「保険料収入」として計上します。平準払(回払)であれば、契約者は何年もかけて保険料を支払うので、当期の決算に計上されるのは実際に払い込まれた数回分の保険料だけです。
他方で、保険会社が事業を遂行するための経費は、発生した時点で「事業費」として計上します。新契約を獲得するには代理店手数料や広告宣伝費をはじめ、多額のコストがかかります。大手生保(かんぽ生命を含む)の場合、事業費総額の3、4割が営業活動費です。
保険料収入として計上するのは実際に払い込まれた数回分にもかかわらず、新契約獲得のためにかかった費用はその時点で計上しなければならないため、新契約を獲得すればするほど減益となり、反対に、前年度よりも新契約が減れば増益要因となる、というのが現行の保険会計です。

新契約価値は減少へ

もちろん、新契約が落ち込んだにもかかわらず増益になったとしても、保険会社の経営にとって喜ばしい話ではありません。エンベディッド・バリュー(EV)を公表している会社であれば、新契約価値の減少がEV成長の足かせとなっていることが公表資料からわかるはずです。
さらにいえば、保険会社の会社価値には、将来にわたり新契約を獲得する能力も含まれています。営業基盤の悪化はただちに会計損益に表れるものではありませんが、会社価値には深刻な影響を及ぼします。
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※写真は伊東温泉です(8/3撮影)。

 

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終身保障の現状

inswatch Vol.989(2019.7.15)に寄稿したものです。
7月7日のブログの続きと言えるかもしれません。
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新たな健全性規制を懸念する声

金融庁が検討している新たな健全性規制について生保業界から、「規制の数値目標の達成を目指す行動が、顧客の期待に反するものになりかねない」「契約期間の長い終身保険などは販売の見直しにつながる可能性がある」など、新たな健全性規制の導入によって長期の保障が提供できなくなるという声が出ているようです(7月5日の日経新聞から引用)。
新規制が長期の生保商品に与える影響に関するコメントは私のブログをご覧いただくとして、規制導入への懸念を表明するほど保険会社は長期の保障を提供しているのでしょうか。

終身保険は主力商品と言えるか

長期保障の典型は終身保険です。過去10年間の個人保険の種類別新契約件数の推移を確認すると、終身保険は常に全体の2割前後を占め、医療保険とともに生保商品の主力であるように見えます。
2018年度の終身保険シェアは18%と、前年度から2ポイント下がりましたが、これは定期保険の販売が好調だったため(経営者向け保険でしょうか?)で、終身保険の新契約件数はほぼ横ばいでした。

しかし、このなかには主に銀行などで提供されている一時払いの終身保険が含まれています。各社の資料等からざくっと推測すると、全体の1/3~半分近くを占めると思われます。これらは終身保障ニーズへの対応というよりは、預金代替の貯蓄性商品として販売されていて、顧客はシニア層が多いとみられます。しかも、円金利の低下を受けて、一時払い終身保険の大半は外貨建てです。
残る終身保険についても、国内系生保の場合、主力商品の定期化(10年更新など)が一段と進んでいて、顧客に提供する保障パッケージのなかに、終身保険部分の保険金額は数十万円のみというケースも珍しくありません。例えば、ある大手生保の平均保険金額は51万円でした(2017年度の終身保険)。

個人年金保険も長期の保険ですが、終身の個人年金保険はあまり売れていないようです。
個人年金全体の新契約件数も縮小気味で、2018年度の個人年金保険の新契約100万件(外貨建てや変額年金を含む)は10年前の2/3、ピーク時の1/3です。

以上を踏まえると、外部環境(特に超低金利)の制約から、多くの会社はすでに長期の保障ニーズを満たすような生命保険・個人年金保険をあまり提供していない(特に円建てでは)というのが実態のようです。

終身医療保険への疑問

医療保険にも終身タイプが多いと考えられます。定期タイプを更新していくのと比べると、終身タイプは保険料が上がらないのがメリットと受け止められているようです。
こちらも終身保障ということで、金利低下の影響を受けるのは確かです。しかし、終身保険とはちがい、多くの会社が終身医療保険を提供し続けているのは、発生率の変動に備えた保守的な料率となっていることや、「解約返戻金がない」「保険料が終身払い」といったことなどが関係しています。

ただ、顧客本位に考えた場合、終身医療保険は本当にニーズにかなったものなのでしょうか。
死亡保険や個人年金とは違い、医療保険は時間がたつと技術革新などにより保障内容が陳腐化してしまいます(毎年新たな医療保険が次々に登場していますよね)。かつては主流だった入院時の保障を主眼とした終身医療保険に加入した人は、その後の変化(例えば入院日数の短期化など)に直面しても、変化によるメリットを享受するには、基本的に今の保険を解約して新たな医療保険に入り直すしかありません。
しかも、単品商品の大半が無配当なので、保守的な料率を設定した結果、発生した危険差益の還元を受けることもできません。

だいぶ前に疑問を呈したことがあるのですが、医療保険といえば終身医療保険というのは一見顧客ニーズを反映しているようで、実は会社にとって都合がいいものとなっているのではと考えてしまいます。
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※今年も慶大で講師を務めました。

 

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業界紙のインタビュー記事

7月9日と10日の保険毎日新聞に私のインタビュー記事が載りました。
いずれも2018年度決算の総括と19年度の展望ということで、9日が生保、10日が損保でした。
これまでブログで紹介した決算関連のコメントと基本的には同じ内容ですが、以下のような話もしています。

基礎利益について(9日)

「もともと基礎利益という指標は、生保業界で破綻した会社が出たり、毎年多額の逆ざやが計上されていたりした時代に、『生保会社は、逆ざやが危険差益や費差益で埋めきれないで、支払余力を取り崩して身を削っているので、何年間かたつと支払余力がなくなってしまうのではないか』という外部からの誤った見方に対する反論として、三利源損益を見せる代わりに、それらの合算に近い基礎利益という指標を開発し、公表したという経緯がある。(中略)当時は意味があったのかもしれないが、今の状況では基礎利益に意味を見いだすのは難しい。メディアで取り上げるから経営が重視せざるを得ないというおかしなことになっている」

損保の事業費構造(10日)

「各社の事業費率の構造のうち、諸手数料および集金費、つまり、代理店手数料まわりの部分は高止まりしており、場合によっては正味収入保険料に対して上昇している。(中略)代理店の大型化に伴い、代理店手数料テーブル(水準)が高い代理店の募集人が増えた結果だとは思うが、この状況を保険会社としていつまで許容できるのか。今後の動向に注目していきたい」

海外展開の影響(10日)

「今後、海外事業における収益の貢献が一定程度を占める保険グループでは、かつてのように国内中心の事業運営で、国内の経営陣だけが経営を担っていくことは難しくなってくるだろう。仮に海外で買収した企業には高い規律を求め、リスクに対する高いリターンを要求する一方で、国内では従来通りの『シェア重視』『利益よりはトップラインを重視』といったダブルスタンダードになっている保険グループがあるならば、今後はそうしたグループ運営はできなくなっていくだろう。(中略)保険グループが海外事業に注力すればするだけ、より経営の変革を迫られることになるだろうし、また、そうあるべきだと思っている」

※歩くのが不自由になって、エレベーターやエスカレーターのありがたさを実感しています。

 

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業界専門紙の役割とは

インシュアランス生保版(2019年7月号第1集)にコラムを執筆しました。
改めて石井さんのご冥福をお祈りいたします。

<以下、掲載されたコラムです>
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4月末に急逝した保険ジャーナリスト石井秀樹さんのお別れの会に参加した。石井さんのご冥福をお祈りするとともに、氏が長く保険毎日新聞の記者を務め、独立後もインスウォッチをはじめ、保険業界人が目にする媒体で健筆をふるっていたことから、業界専門紙誌や業界専門ジャーナリストの役割について改めて思いを馳せてみた。

業界専門紙の存在意義は何か

保険業界には本紙「インシュアランス(週刊)」のほか、「保険毎日新聞(日刊)」「新日本保険新聞(週刊)」「保険情報(週刊)」「インスウォッチ(週刊)」といった数々の業界専門紙がある。かつてに比べれば少なくなったとはいえ、1つの産業に複数の業界紙が存在するのは、それだけ保険業界の関係者が多く、かつ、業界に関する情報が必要とされてきたことの表れであろう。

業界専門紙を文字通り「業界人のための専門情報を提供する新聞」と定義すると、業界紙の役割は、一般の新聞や経済誌には載らないような詳細で正確な業界情報を提供したり、同じ情報でも一般紙誌とは違い、業界関係者向けの目線で伝えたりすることである。業界関係者を主な読者層としているのだから、一般紙と同じ目線でニュースを伝えていたのでは存在意義は乏しい。

ネット時代が到来する前は、保険会社のニュースリリースや監督官庁の公表する資料をそのまま掲載するだけでも価値があっただろう。だが、環境は劇的に変わっている。各社の発表をそのまま記事にしたようなものに大きな紙面を割く意義を見出すのは難しい。
亡くなった石井さんは、例えば保険ショップの全体像を取材の積み重ねにより報じていたが、業界紙にはこうした付加価値のある情報提供がますます求められている。

ファクトに基づく継続的な発信を

特に求められるのは、ファクトに基づいた継続的な情報発信であろう。
以前、保険毎日新聞が会社別の変額個人年金保険の販売状況を一覧表にして、それを定期的に掲載していた時期があった。各社の公表資料には保有契約と資産残高くらいしか情報がないなかで、銀行窓販の現状を知る貴重な情報だった。

こうしたニーズは今でもある。例えば各社が公表する「契約高・件数」「年換算保険料」などを見ても、業績動向をつかむのは難しい。年換算保険料が増えていても、貯蓄性の強い外貨建て保険の販売が前年度よりも多かっただけかもしれない。ブームとなっていた経営者向け保険が各社の業績にどの程度反映されているのかも全くわからない。
保険業界の健全な発展のためには米国AMベスト社のような存在が日本にも必要ではないだろうか。

さらに言えば、業界専門紙に期待される役割は関係者向けの情報提供にとどまらない。
サポーターと言うとやや誤解を招きそうだが、業界べったりの代弁者ではなく、業界の内外をつなぐ存在であったり、辛口のご意見番だったりと、関係者に対して「ムラの外ではこう見ている」という、いわば風を吹き込むような役割もあると思う。
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※写真(上)は昨年3月末の椿山荘、
 下はお別れの会のスナップです。

 

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コメント掲載など

最近のメディア対応から3点ほどご紹介します。

日経のコメント

6月29日の日経マーケット総合面「社債、金融規制が追い風」の取材を受け、私のコメントも載りました。
国内社債市場で空前の好需給が続いている背景に銀行や保険会社の規制対応があるという記事で、採用されたコメントは(超低金利下での積み増しに慎重な生保は多いものの)「超長期債への潜在的なニーズは根強い」というものです。

見出しの「生保健全性に新指標 超長期債に需要」からすると、突然降ってわいたような話のように見えてしまいます。でも、保険業界の皆さんにはご承知のとおり、この件は何年も検討が続いていることであり、かつ、すでに多くの会社で経済価値ベースの経営管理が採用されているという状況です
(活用の程度はともかくとして)。

それにこの規制は、今まで認められていたものが禁止されるというのではなく、今までの規制ではうまく反映されていなかったものが反映されるようになるという話です。ですから、規制導入後にリスクを抱えすぎていることが見えてしまうのであれば、今でもリスクを抱えすぎているということになります。

inswatchのレポート

6月28日のプロフェッショナル・レポートに「3メガ損保グループ決算にみる意外なリスクテイクの現状」を寄稿しました。

・メディアの増益報道はミスリード
・自然災害が各社の財務健全性に与えた影響は軽微
・経営に最も影響を与えたのは生保事業だった

このような内容でして、下記の図表などを使い、グループにおける生保事業の影響力が高まっていることを説明しました
(図表から、国内生保事業の経営リスクが無視できない割合となっていることがわかります)。

損保グループの生保事業に関しては、金利リスクをどうコントロールしていくかという課題のほかに、経営者向け保険のブームが終焉した影響も無視できないのではないかと考えていまして、ひそかに(?)注目しているところです。

書評「本当にそうなのか?」

週刊金融財政事情(2019.7.1)の書評「一人一冊」に寄稿しました。
今回取り上げたのは一橋大学の円谷昭一先生による「コーポレート・ガバナンス『本当にそうなのか?』-大量データからみる真実-」です。

本書では開示されている大量のデータを使い、コーポレート・ガバナンスに関する議論のなかで通説とされていることが本当にそうなのかをあぶりだそうとしています。
ガバナンスをめぐる議論において、「ごくごく一部の事例や個々人の経験や思い込みをもって議論がなされ、その結果として何らかの社会的制度が新設・改訂されたとしても、影響は全員(全上場会社)が受ける」という問題意識が円谷先生を動かしているとのことで、好感を持ちました。

※明大中野キャンパスで楠岡成雄先生の記念講演がありました。

 

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生命保険論集に論文が載りました

生命保険文化センターの論文集「生命保険論集」の第207号(6月20日発行)に論文が載りました。
タイトルは「生命保険業界における経済価値ベース評価の活用状況に関する考察」です。
1年くらいたつと文化センターのサイトから論文を読めるようになるのですが、ざっと中身をご紹介しましょう。

総資産5兆円超では全社が活用

いよいよ経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に向けた検討が進みつつある(例えば有識者会議の設置フィールドテストの毎年実施など)とはいえ、まだ導入時期が固まっていない状況下において、経済価値ベースの評価に基づく経営管理が生保業界にどの程度浸透したと言えるのか。本稿はこれを公表資料から探ったものです。

経営管理という、外部からは把握が難しいテーマではあるのですが、本稿ではまず、公表資料における経済価値ベースの経営管理に関する記述を調査してみました。
具体的には、生保41社が2018年に公表したディスクロージャー誌に経済価値ベースの経営管理に関する記述があるかどうかを確認しました。記述の有無を判断する際、「経済価値」という記述のほか、「市場整合的な手法」「資産と負債を時価評価」「新契約価値で評価」などの記述も含めています。

もちろん、2018年のディスクロ誌に経済価値に関する記述がなかったからといって、その会社が経済価値ベースの評価を経営管理に取り入れていないと判断するのは無理があります。ただ、記述がある会社に関しては、少なくとも何らかの形で経済価値ベース評価を活用していると判断できます。
調査の結果、41社のうち23社で何らかの記述があり、さらに、総資産が5兆円を超える18社については全社で記述がありました。

活用は道半ばと総括

次に、経済価値ベースの評価が実際の経営管理に活用されている可能性、あるいは活用されているとは考えにくい状況証拠をいくつか挙げてみました。

活用されている可能性を示唆する状況証拠としては、近年の大手・中堅各社における資本調達(主に劣後債務の調達)ラッシュがあります。ソルベンシーマージン比率は高水準で推移し、基礎利益や当期純利益は微増傾向にもかかわらず調達ラッシュが起きているのは、長期金利の水準が下がり、経済価値ベースでみた健全性が悪化したためと考えるのが自然です。

その一方で、金利が下がり、経済価値ベースでみた健全性が悪化した状況下における対応として、それまでのリスク抑制姿勢(特に金利リスク)を改め、金利リスクの更なる抑制をやめ、さらに新たな資産運用リスクをとるという行動をどう理解したらいいのでしょうか。
同じモノサシを使った行動とはとても考えにくく、経済価値ベース評価が示す経営内容への対応よりも、経営として優先すべき何かがあると理解するほかありません。

こうした趣旨の論文ですので、機会がありましたら、ぜひご覧いただければと思います。

※築地市場の解体がだいぶ進みました。
 下の写真は正門跡です。

 

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週刊ダイヤモンドの保険特集

ランキング以外も充実

今年の保険特集は例年よりもやや遅いタイミングでの刊行でしたが、例年にも増して力作だったという印象です。
プロローグの節税保険では、短期払いスキームというタイムリーな話題のほか、過去の経緯も紹介しています。外貨建て保険の記事にも「保険会社シェア」「銀行が受け取る商品カテゴリー別手数料額」があり、代理店の記事には損保代理店の図解や新手数料体系の分析があるといった、ファクトに基づいた情報を提供しようという姿勢に好感を持ちました
(もちろんデータが正しいという前提で)。

それにしても、これだけの特集なのにスタッフの名前がわずか2人しか出ていないというのも驚きでした。怪奇現象が起きるのもわかります(編集後記を参照)。

緩和型コラムも健在

実のところ個人的に保険特集で最も楽しみにしている記事は、「掲載基準緩和型コラム」という小ネタだったりします
(すみません、本文も読んでいますよ^^)。

今回は畑中元金融庁長官の話とか、地面師グループに元セールスレディ、ADIとトヨタの関係といった、「だからどうなの」という話ではあるのですが、楽しく拝読しました。おそらく骨太の本文があるからこそ、こうした小ネタが生きるのでしょう。
拡大版のコラム「代理店周辺のうわさ話」も関係者にはウケたのではないでしょうか。こうしたメーカー(保険会社)と乗合代理店の関係は将来的にどうなっていくのでしょうね。

見かけと実態のギャップ

自分の原稿についても多少触れておきましょう。
「最高益は見せ掛けにすぎない 生保経営の真実に迫る」というもので、以前のブログでご紹介したように、決算発表報道で示される「保険料等収入」と「基礎利益」では、マイナス金利政策の副作用に苦悩する生保経営の本当の姿は見えてこないという内容です。

少しだけ裏話をしますと、元の原稿のタイトル案は「最高益は見かけにすぎない」だったものが、編集の過程で「最高益は見せ掛けにすぎない」となっていたのに、ボーっとしていてそのまま返してしまい、今になって多少反省しています。「見かけ」と「見せ掛け」ではニュアンスが違いますよね。
本文を読めばわかりますが、保険会社が決算をお化粧しているという趣旨ではありません。

経営者は表面的な会計数値を重視するのでしょうか。
例えば、5月24日に開かれたMS&ADのIR説明会の質疑応答要旨に次のコメントが出ています。

「株主の皆さまへの還元の原資がグループ修正利益であり、基本的に重視する指標は、グループ修正利益です。一方で、マスメディアでの報道等でとりあげられるのは財務会計利益であることもあり、また、財務会計上の利益を重視する投資家もおられることから、マネジメントとしては財務会計利益も重視しています」

異常危険準備金の取り崩しによって高水準となった会計利益が経営実態の手掛かりになるとは考えにくいのですが、「マスメディアに取り上げられるから」という(おそらく)経営トップのコメントをどう受け止めたらいいのでしょうか。
これはメディアに変わってもらうしかないのかもしれません。

※2月の金沢駅の写真もアップ。

 

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「生保決算を読む」

直近のinswatch Vol.984(2019.6.10)に執筆した記事のご紹介です。
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2018年度の国内系生保11社の決算データを見ると、「増収」「増益」といった見かけの好調さと実態の厳しさのギャップが非常に大きいことがうかがえます。

「増収」は外貨建て保険の販売増

個人分野の保険料等収入は11社合計で前期比6200億円の増収でした(第一フロンティア生命、フコクしんらい生命を含む)。このうち銀行窓販による保険料収入の増収が6700億円程度(大樹生命を除く)とのことなので、銀行窓販による保険料収入の多くが一時払いの外貨建て貯蓄性保険であることを踏まえると、増収は外貨建て保険の販売増によるものと説明できてしまいます。
裏を返せば、経営者保険の販売が絶好調だったにもかかわらず、外貨建て保険の増収がなければ保険料等収入はマイナスだったわけです。要は貯蓄性商品の販売が多ければ増収、少なければ減収となるのが保険料等収入なので、この指標は生保ビジネスの一部分だけを示しているにすぎません。

では、銀行窓販以外の生保ビジネスはどうだったのかといえば、第三分野で増収を果たした会社もあれば、新契約件数が今ひとつ伸び悩んだ会社もあり、統一感はありません。ただし、昨年度は経営者向け保険が好調だったことを考慮すると、今年度の業績がかなり下振れする会社も出てくるのではないかと思います。

「増益」は外貨建て資産の利息収入が貢献

次は「増益」についてです。昨年度は大手を中心に、基礎利益が増益となる会社が目立ちました。
基礎利益(最低保証リスク対応の影響を除く)は11社合計で1300億円の増収でした。このうち逆ざや(順ざや)額の改善効果が1000億円、それ以外が300億円でした。それ以外がプラスになったのは3社だけで、何か特殊要因がありそうですが、いずれにしても、基礎利益の増益には逆ざや(順ざや)額の改善が大きかったことがわかります。11社合計で見ると、平均予定利率の低下による効果が大きく、さらに、会社によっては利息配当金等収入の増加も貢献しています。
利息配当金等収入の内訳は現時点では公表されていません。前々年度データによると、外債投資の増加とともに外国証券利息・配当金収入の割合が概ね3、4割まで高まっていることが確認できます(ソニー生命、かんぽ生命を除く)。外債投資の残高は年々増えているので、昨年度はさらに高まったかもしれません。
基礎利益には安定的に貢献しても、外債投資ですから、為替リスクや海外金利の変動リスク、外国債の信用リスクなど、運用リスクを伴う投資を増やした結果の、これまた一部分だけを見ているにすぎません。

実態はどうだったのか

では、全体として生保の損益はどうだったのかといえば、30年国債利回りが0.5%まで下がってしまった影響は大きく、各社が公表するEV(エンベディッド・バリュー)をご覧いただければ、厳しさの一端をうかがうことができます。
昨年度も生保各社は、健全性指標を下支えするべく劣後債務の調達を相次いで行いました(日本生命、第一生命、明治安田生命、かんぽ生命など)。このことだけを見ても、国内系生保が少なくとも好決算で浮かれた状況にはないことがわかります。

実のところ、2月に行われた「生命保険協会との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」には、「今後クレジット市場全般において、リスクが顕在化した際には、保険会社の財務にも、相応の影響を与えるのではないかと考えている」「最近のドル円の為替ヘッジコストの上昇は、外国証券による運用成果にも大きな影響があるものと考えている」という辛口の記述がありました。
浮かれているのはメディアと保険販売の現場だけとならないよう、生保経営の実態をしっかり確認していく必要がありそうです。
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なお、今週の週刊ダイヤモンドの保険特集でも、同じく生保の経営内容に関する分析記事を執筆していますので、機会がありましたらこちらもご覧いただければ幸いです。

※写真は横浜・みなとみらいです。

 

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