「質疑ゼロ」の生保総代会

14日の保険毎日新聞に「生損保決算を読み解く」というインタビュー記事が掲載されました。今回が生命保険会社だったようなので、おそらく明日にでも損害保険会社に関するコメントが出るのではないかと思います。

さて、7日の日経記事「『質疑ゼロ』の生保総代会 配当に透けるガバナンス不全(有料会員限定)」をご覧になったでしょうか。相互会社各社が7月上旬に総代会を開催したタイミングをとらえ、「金融庁が株主のいない相互会社形態をとる生命保険会社のガバナンスに厳しい目を向けている」と報じました。記者さんがんばっていますね。

この記事が引用した契約者配当に関する記述や図表は、金融庁が6月末に公表した「2023年 保険モニタリングレポート」本文の27~29ページのものです。
記事では日本生命や住友生命の総代会で総代から(事前質問はあったものの)当日の質問・意見がなかったことを問題視しているようですが、金融庁はレポートで「総代会等における質疑応答が少ないこと自体が問題ではない」としています。
ただし、次のようにも述べています。

「健全性向上のための経営努力の成果として、相互会社において内部留保が積み上がっていく中で、配当政策に関する分かりやすい丁寧な説明とともに、保険契約者等のステークホルダーとの間で活発な対話が行われることは、相互会社のガバナンス向上の観点からも望ましい」

「相互会社における保険契約者への契約者配当に関する情報提供のあり方や、資本の維持と契約者配当のバランスを取ることを通じたガバナンス向上の重要性について、相互会社と建設的な対話を行っていく」

つまり、相互会社では配当政策について、経営陣が保険契約者等のステークホルダーに対して十分な情報提供を行っておらず、ステークホルダーとの活発な対話も行われていないのは、ガバナンスの面で問題であると指摘しているように読めます。

このところ保険会社のガバナンスに関する研究を進めていることもあって、上場株式会社と相互会社を比べてみたところ、内部留保の増減トレンドは明らかに違っていて、相互会社は総じて右肩上がりです。他方で上場株式会社(第一生命HD、T&D HD)の株主還元(現金配当と自己株式取得)が増加トレンドなのに対し、相互会社による契約者還元は横ばいから微減となっています。
しかも、日経記事や金融庁レポートが掲載した配当準備金繰入額の多くは団体保険と団体年金の配当所要額で、個人向けは全体の1/4程度というイメージで、こちらも増加トレンドではなさそうです。もっとも、総代会の議案書などを探しても、配当割り当て方法の詳細な説明はあっても、個人向けにいくら割り当てるかという配当総額の情報は見当たりません。団体保険・団体年金の配当は実質的に裁量の余地がないので、個人向けでどの程度配当するのかという情報は極めて重要だと思うのですが。

保険会社にとって資本がどれだけ必要なのかという議論は、現在抱えているリスクに対してどの程度まで備えておくか、つまり、どの程度の損失まで見込んでおくかという議論に終始しがちです。しかし本来は、リスクをどこでどの程度とるべきかという議論が先にあって、その次にそのリスクに対してどの程度備えるかという議論があるはずです。

こうした議論がステークホルダーとできているかどうか。金融庁がそこまで指摘しているかどうかはともかく、ガバナンスが効いた状態とは、経営陣が決めたリスクのとり方や内部留保・社外還元のあり方について、透明性と説明責任が果たされている状態だと思います。それにはこれらを議論できるだけの情報が提供され、かつ、議論ができる「監督者」が存在して初めて成り立つのではないでしょうか。
この「監督者」の役割を現在の総代に求めるのはなかなか難しそうですが、少なくとも社外取締役には担っていただきたいものです。あるいは、新たな工夫を考えてもいいのかもしれません。

資本の有効活用は近年、上場株式会社が株主等から強く求められるようになっていることです。相互会社でも同じではないかと思います。

※15日のRINGの会オープンセミナーは大盛況だったようですね。
 RING会員の皆さん、お疲れさまでした。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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