13. 保険マスコミ時評

東洋経済「IFRS超入門」

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今週の週刊東洋経済はIFRS(国際会計基準)特集でした。
このところ各誌でIFRS特集をしばしば見かけます。

この「IFRS超入門」の目玉の一つに、
各業態への影響についての記事がありました。
「保険」があったので、さっそく読んでみたところ...

まず、「利益が毎期ごとに大幅にブレる可能性が高い」とあります。
資産と負債のミスマッチが大きい会社であれば、それはそうでしょう。
ただ、その次がいけません。

「責任準備金の全社合計は約184兆円。つまり金利が
 わずか0.1%上昇しただけでも、業界全体で1840億円もの
 負債が減少する計算になる」

責任準備金のデュレーションが1年でなければ、
このような計算にはなりませんよね。
それしか動かなければ、みんな苦労しないですみます。
ちなみに全社合計の純資産は5.5兆円です。

「資産と負債とが十分にデュレーション・マッチングしていれば、
 負債が減少(増加)すれば、資産も減少(増加)する。
 負債が減少すれば、自己資本比率は改善する」

十分にデュレーション・マッチングしていれば、
負債が減ったぶんだけ資産も減るので、自己資本にはニュートラルです。
そのためのマッチングでしょうから。
自己資本比率の分母は、もしかしたら総資産でしょうか?
だとしたら、その比率は何を意味するのでしょうか。

いずれにせよ、「マッチングすれば金利上昇で負債が減り、
健全性が高まる」などという説明はおかしいです。

「毎期金利水準によっては大きく変動する利益と、
 その複雑な計算方法を一般の契約者や株主に
 理解してもらうのは難しい」
「少なくとも、純利益ではなく、包括利益の一部として
 計上することを、生保業界は望んでいるようだ」

これを読むと、今は利益が大きく変動しないようにも思えますが、
負債が金利変動の影響を受けない現行会計でも、
例えば損保(=長期の負債が少ない)の決算をみればわかるとおり、
すでに株価や為替動向次第で利益は大きく動いていますよね。
現行会計でも資産価格の変動により利益は大きく動くのです。

なお、私自身はすでに純利益を重視していません。
例えば減損の有無で利益水準が大きく振れてしまうからです。
クレジットアナリストだからと言われてしまうかもしれませんが...

「金融庁はすでに2009年8月にSMR見直し案を公表し、(中略)
 資産・負債が時価によって算出された資本の状況によって
 経営実態を把握し、早期に改善措置を求めていく行政側の動きと、
 今回のIFRSの動きは、内容的には同じようなもの」

これは完全に誤解ですね。
今回の金融庁の見直しはあくまで現行会計に基づいたもので、
負債は取得原価のままです。

もっと早く経済価値ベースの見直しが進むと思っていたのですが、
もう少し時間がかかりそうです。
おそらくIFRSを足並みをそろえた動きになるのでは。

ということで、突っ込みどころ満載だったのですが
(ライターさん、ごめんなさい)、記事にもあるように、
契約者配当や株主配当については確かに悩ましいところです。
もっとも、すでに株式について同じことが言えるのですが...

※写真は新横浜駅前です。丸い歩道橋ができました。

 

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「生保・損保特集号」(続き)

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毎年秋に出る東洋経済の「生保・損保特集」をみると、
いまの保険市場や業界の動向がざっとわかるので重宝しています。
ようやく入手して、まだざっと目を通しただけですが、感想を少々。

まず、昨年同様、社長のインタビュー記事が非常に目立ちます。
表紙によると、トップ35人が登場しているそうです。
今回は編集長が変わったのですが、この点は昨年と似ています。

メインテーマである販売チャネル改革について、
各社のトップに語ってもらおうというのもわからなくはないですが、
社長が「うまくいってない」なんて言うわけはありませんから、
どうしてもPR色が強くなってしまいます。

読者としては、同じ販売チャネル改革をとりあげるにしても、
経済誌でしか読めないような客観的で批判精神に富んだ記事、
あるいは内幕ものを、もっと読みたいところですね。
次回に期待しましょう。

記事のなかで私が注目したのは、
「『4行4様』の販売体制 顧客基盤拡大へ本腰」
「マルチ販売チャネル構築力が成熟市場での成否を握る」
です。

前者は大手銀行の窓販戦略を比べたもの。
銀行によって保険販売への取り組み姿勢はかなり違うことがわかります。
できればレポートだけではなく評価もほしいところですが、
これはこれで参考になります。

後者はNTTデータ経営研究所の発行したレポートの紹介です。
「成熟市場ではマルチ販売チャネルが世界の保険会社にとって
 主な成功要因である」という調査結果をもとに、
日本の販売チャネル改革に必要となる要素を考察しています。

レポートもHPからダウンロードできるようです↓
「World Insurance Report 2009」

※写真の黄色いハートは、よく見ると丸いヒヨコでできています。
 「ぴよだまり」のぴよです。

 

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アリコの顧客情報流出問題

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昨日(7/27)の記者会見によると、流出件数は最大13万件、
不正利用の照会は現時点で2200件に上ったとのこと。
日本では過去最大規模のカード情報流出だそうです。

それにしても、カードの名義と会員番号、有効期限があれば、
ネットでは他人のお金で簡単に買い物ができてしまうのですね。

ただ、もしカード情報を変える(=カードを再発行する)となると、
今度は手続きにかなりの手間がかかってしまいます。
私も保険料の支払いはカード決済ですし、公共料金もそうです。
もちろん、銀行にも連絡しなければなりません。
気が遠くなりそうです。

「利便性(と貯まるポイント)」を求めた結果、いつのまにか
身動きがとりにくい状態になっているわけですが、
今回のような情報流出は本当に困ります。

話をアリコに戻しましょう。
米国政府の管理下にあるAIGにとって、傘下保険会社の価値低下を
何とかして維持・拡大すべきところ、反対に価値を下げてしまいました。
IPO(または売却)計画に影響が出るかもしれず、これは大きな誤算でしょう。

他方、本日(28日)の日経「直販損保に影」という指摘はどうなのでしょうか。
「何となく保険通販は心配」という消費者は増えるかもしれませんが、
今回の件は通販の問題というよりは、カード決済とその情報管理の問題なので、
通販損保だけではなく、カード決済を導入している保険業界全般
(=つまり大半の会社)が該当します。
各社は情報管理態勢を速やかに再確認し、業界全体の信頼低下を
何とかして食い止めなければなりません。

それとも、通販損保はセキュリティー面で弱点がある、という根拠が
あるのでしょうか。

 

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「保険金支払いの先送り」の記事

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17日の日経と朝日に掲載された日本興亜損保に関する記事です。

「保険金部門の担当役員が2月の会議で、保険金の支払い先送りを
 示唆するとも受け止められる発言をしていたことがわかった」(日経)
「役員が09年3月期決算で収益をかさ上げするため、社内会議で
 保険金支払いの決算への計上を遅らせるよう指示した疑い」(朝日)

これに対し、兵頭誠社長は18日の会見で(第三者委員会の調査を踏まえ)
「経営が関与した事実はない」と否定しています。

保険金支払いを意図的に遅らせるのは違法行為でしょう。
でも、年度内に発生した事故の支払いが翌年度にずれ込むことは
多々あります。その場合には支払備金を計上するので、
損益への影響はニュートラルです。

つまり、保険金の支払いが遅れても、損益に影響はありません。
損害率や収支残には影響しますが、「利益をかさ上げして配当し、
会社に損害を与えた」という悪質な話にはなりえません。

しかも、記事には指示が実行されたとは書いてありません。日経記事は、
「示唆するとも受け止められる発言をしていたことがわかった」です。

両紙はなぜ、このニュースをこの内容で掲載したのでしょうか?

※写真は横浜線の鴨居駅。ららぽーと横浜の最寄り駅です。

 

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日経ビジネスの損保特集

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6月15日号の日経ビジネスに損保業界のレポートが掲載されました。
「瀬戸際損保、生き残りの戦い」というタイトル。
「再編だけではまだ危ない」という副題が付いています。

ビジネス誌にありがちな再編の内幕ものではなく、
東京海上の有力代理店14社による代理店政策への不信や不満、
あるいは、損保主導ではない、代理店自身による再編の動きなど、
保険会社と代理店の関係にかなりの誌面を割いています。

記事には「事業費率を抑えるため、代理店数を半減」とありますが、
減少した代理店の大半は小規模なところなので、
半減しても事業費削減効果は限られています。
事業費率の低下は合併等に伴う人件費、物件費の引き下げ効果
(生保子会社への人員シフトもあり)が中心だと思います。

例によって、最後のほうに私のコメントも載っているので、ご紹介します。

「(政策保有株式について)本当に利益を生むのかという細かい分析は
 なかったのでは。株価が大きく下がるたびに巨額の損失を負ったが、
 それでも保有し続けてきた」

というものです。
記事によると、日本興亜では経済的付加価値分析(=EVAでしょうか?)
をユニットごとに行うそうなので、大いに期待したいです。

※写真は横浜線の小机駅。日産スタジアムの最寄り駅です。

 

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大手生保の課税所得が赤字に

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5/27、28の各紙(日経、朝日、中日、フジサンケイBなど)に、
大手生保4社の課税所得が赤字になるという記事が載りました。
ただ、各紙が何を伝えようとしたのか、今一つわかりにくかったという印象です。

ある新聞は「黒字なのに法人税がゼロになるのは異例」というものでした
(→けしからんということでしょうか?)。
また、別の新聞は「実質赤字なのに黒字化して契約者に配当するのは
健全性の面でいかがなものか」という趣旨に読めました。

今回のケースは有税で積み立てていた各種準備金を取り崩した結果、
会計上は黒字でも課税所得は赤字となるわけで、
「黒字なのに税金を払わずにけしからん」という話ではありません。

他方、「契約者への配当を減らせば、その分、財務上の余力を
確保できる」というのは確かにその通りです。
黒字とはいえ、あれだけ有価証券関連の損失が出れば、
課税所得を持ち出すまでもなく、「実質赤字」に違和感はありません
(「キャピタル損益を含む基礎利益は軒並み赤字のはずです」)。

ただ、報道によると、第一生命の減配額は40億円です(個人向け)。
内部留保の取り崩し額や含み損益の減少額などと比べると、
ほとんど象徴的な意味しかありません。

仮に、朝日生命のように個人向けの配当をやめたとしても、
過去のディスクロ誌などから推測すると、大きく見積もっても
せいぜい300~400億円しか浮かないとみられ、
ソルベンシー・マージン比率を高める効果はほとんどありません。

課税所得に着目するのであれば、繰延税金資産の妥当性について
突っ込んだ取材をしていただきたいです。
ご参考までに、医療保険が好調なオリックス生命は
2008年度決算で繰延税金資産を全額取り崩したようです。

※写真は飯山城址から見た千曲川です

 

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「ビッグスリー凋落の理由」

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米ビッグスリーの一角を占めるクライスラーが、ついに法的破綻です。
GMはどうなるのでしょうか。

ところで、4/29(水)の日経マーケット面のコラム・大機小機
「ビッグスリー凋落の理由」を読んで、ちょっと違和感を覚えました。

記事の内容は、次のようなものです。
・米企業の経営者には、車を「どれくらい売るか」ほどの執念を
 「どうつくるか」には感じられなかった。
・ビッグスリーが日独の有力メーカーに後れを取ったのは
 経営者が現場を見ずに利を追った側面が大きい。
・GMのトップは4人中3人が財務部門の出身。
 ホンダは歴代社長全員が技術研究所のトップ経験者だ。
・GMとクライスラーの再生には現場に精通したトップの起用が不可欠だ。

このような論調は日本人(特に財界)にとって耳触りがいいようです。
それではなぜ「技術の日産」は10年前に経営危機に陥り、
「世界のトヨタ」は足元で大赤字になり、「大政奉還」に追い込まれたのでしょうか。

保険会社にも、「現場(=営業)を知らないと出世できない」
という文化が非常に色濃く残っています。
でも、営業出身でなければ経営ができないなんてことはあるのでしょうか。
営業出身の社長が専門家を排除した結果、会社が傾いたというケースも
結構あります(→拙著「経営なき破綻」をご参照下さい)。

米ビッグスリーの経営が傾いたのは、財務部門出身のトップが続いたから、
あるいは、研究開発部門や生産現場の経験のないトップが続いたから、
と言い切るのは、あまり論理的・科学的ではないですよね。

※写真は三ツ沢陸上競技場です。部活の応援に行きました。

 

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週刊東洋経済の保険特集

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今週の週刊東洋経済は保険特集です(4/18号)

このなかで私も寄稿しています。
「『平成生保危機』の教訓は経営に生かされているのか」
という題名で、例の破綻生保研究の成果に加え、
今回の金融危機を踏まえた話も書いています。

全体では何と70ページ弱もある大特集です。
ページ数の多くを割いた記事は、商品種目別の解説と
FPによる「ケース別保険見直し術」でした。

前者は保険商品の仕組みの解説です。勉強になります。
商品種目ごとのメリット、デメリット分析はちょっと苦しい感じですね。

後者の「見直し術」はケーススタディです。
「40歳男性、専業主婦の妻と子供2人、住宅ローンあり」が
私に最も近いもの(というか、ほとんどその通り)を見てみると、
共済をベースにしたプランが示されています。

ただ、これはあくまで一例であって、他にもプランがあるように
思えてしまいます。アドバイスする人を複数にすれば
もっと面白かったのではないでしょうか。

このほか一読者としては、FPの内藤眞弓さんによる
「あなたの保険の加入額はいまの時点でも正しい?」、
大手生保のパッケージ型商品の「徹底解剖」、
住友生命、ライフネット生命、埼玉県民共済の「トップ大激論」
(対談ではありませんが、組み合わせが新鮮です)が
興味深かったです。

 

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明治安田生命の営業改革

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本日(4/8)の日経流通新聞に、明治安田生命の営業改革が
取り上げられていました。
日経流通新聞に保険会社の記事が載るのは珍しいことです。

主な内容は次のようなものでした。
・2008年度の新契約年換算保険料は二年ぶりに前年度を上回ったもよう。
・新規契約の獲得より、既存顧客のアフターフォローを重視したことが
 結果的に契約者増につながった。
・業界の常識を覆す営業改革は消費関連メーカーや小売業にも
 参考になりそうだ。

改革が始まってまだ日も浅いですし、そこまでほめるのもどうかと思うのですが、
私も明治安田生命の営業改革には注目しています。
営業職員の均質化や組織的なバックアップなどです。

既契約の訪問活動強化、アフターフォロー重視は
このところ大手生保はどこでも力を入れている点です。
ただ、これで落ち込んだ新契約獲得能力を回復できるのかどうか。
私だったら用もないのに来られても迷惑なだけです。

それだったら用のありそうな人を集める仕組みを考えるとか、
膨大な保有契約という顧客基盤を活用するにしても、
マーケティング手法はいろいろあるように思うのですが。

今の各社の改革は、何となく現状の営業職員チャネルを
前提にしすぎているように思えてなりません。

ということで、私はもう少し時間をかけて評価したいと思います。

※写真は京都・哲学の道です

 

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喜ぶべきなのでしょうが…

週末(4/5)の日経ヴェリタスの「BOOK」欄に
拙著「経営なき破綻」が取り上げられました。

「金融機関の格付けに携わる著者が、財務分析と社員への
 聞き取り調査を通じ、金融のなぞ解きに挑んだ」
「浮かび上がったお粗末な姿は、(中略)米AIGや、
 破綻した大和生命などとも重なり合う」

といったものです。
「社員への聞き取り調査」とされてしまいましたが、
正しくは「経営陣や本社スタッフ」ですね。

それよりもこの記事。
本の紹介なのに、なんと著者の名前が書いてありません。
タイトルと出版社(=日経です)しか出ていないのです。
単なるミスなのでしょうか?

出版から半年になる拙著を取り上げていただくのは
大変うれしいのですが、やっぱり著者名も載せてほしかったですね。

経営なき破綻 平成生保危機の真実(Amazonへのリンク)

 

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