13. 保険マスコミ時評

「ビッグスリー凋落の理由」

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米ビッグスリーの一角を占めるクライスラーが、ついに法的破綻です。
GMはどうなるのでしょうか。

ところで、4/29(水)の日経マーケット面のコラム・大機小機
「ビッグスリー凋落の理由」を読んで、ちょっと違和感を覚えました。

記事の内容は、次のようなものです。
・米企業の経営者には、車を「どれくらい売るか」ほどの執念を
 「どうつくるか」には感じられなかった。
・ビッグスリーが日独の有力メーカーに後れを取ったのは
 経営者が現場を見ずに利を追った側面が大きい。
・GMのトップは4人中3人が財務部門の出身。
 ホンダは歴代社長全員が技術研究所のトップ経験者だ。
・GMとクライスラーの再生には現場に精通したトップの起用が不可欠だ。

このような論調は日本人(特に財界)にとって耳触りがいいようです。
それではなぜ「技術の日産」は10年前に経営危機に陥り、
「世界のトヨタ」は足元で大赤字になり、「大政奉還」に追い込まれたのでしょうか。

保険会社にも、「現場(=営業)を知らないと出世できない」
という文化が非常に色濃く残っています。
でも、営業出身でなければ経営ができないなんてことはあるのでしょうか。
営業出身の社長が専門家を排除した結果、会社が傾いたというケースも
結構あります(→拙著「経営なき破綻」をご参照下さい)。

米ビッグスリーの経営が傾いたのは、財務部門出身のトップが続いたから、
あるいは、研究開発部門や生産現場の経験のないトップが続いたから、
と言い切るのは、あまり論理的・科学的ではないですよね。

※写真は三ツ沢陸上競技場です。部活の応援に行きました。

 

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週刊東洋経済の保険特集

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今週の週刊東洋経済は保険特集です(4/18号)

このなかで私も寄稿しています。
「『平成生保危機』の教訓は経営に生かされているのか」
という題名で、例の破綻生保研究の成果に加え、
今回の金融危機を踏まえた話も書いています。

全体では何と70ページ弱もある大特集です。
ページ数の多くを割いた記事は、商品種目別の解説と
FPによる「ケース別保険見直し術」でした。

前者は保険商品の仕組みの解説です。勉強になります。
商品種目ごとのメリット、デメリット分析はちょっと苦しい感じですね。

後者の「見直し術」はケーススタディです。
「40歳男性、専業主婦の妻と子供2人、住宅ローンあり」が
私に最も近いもの(というか、ほとんどその通り)を見てみると、
共済をベースにしたプランが示されています。

ただ、これはあくまで一例であって、他にもプランがあるように
思えてしまいます。アドバイスする人を複数にすれば
もっと面白かったのではないでしょうか。

このほか一読者としては、FPの内藤眞弓さんによる
「あなたの保険の加入額はいまの時点でも正しい?」、
大手生保のパッケージ型商品の「徹底解剖」、
住友生命、ライフネット生命、埼玉県民共済の「トップ大激論」
(対談ではありませんが、組み合わせが新鮮です)が
興味深かったです。

 

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明治安田生命の営業改革

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本日(4/8)の日経流通新聞に、明治安田生命の営業改革が
取り上げられていました。
日経流通新聞に保険会社の記事が載るのは珍しいことです。

主な内容は次のようなものでした。
・2008年度の新契約年換算保険料は二年ぶりに前年度を上回ったもよう。
・新規契約の獲得より、既存顧客のアフターフォローを重視したことが
 結果的に契約者増につながった。
・業界の常識を覆す営業改革は消費関連メーカーや小売業にも
 参考になりそうだ。

改革が始まってまだ日も浅いですし、そこまでほめるのもどうかと思うのですが、
私も明治安田生命の営業改革には注目しています。
営業職員の均質化や組織的なバックアップなどです。

既契約の訪問活動強化、アフターフォロー重視は
このところ大手生保はどこでも力を入れている点です。
ただ、これで落ち込んだ新契約獲得能力を回復できるのかどうか。
私だったら用もないのに来られても迷惑なだけです。

それだったら用のありそうな人を集める仕組みを考えるとか、
膨大な保有契約という顧客基盤を活用するにしても、
マーケティング手法はいろいろあるように思うのですが。

今の各社の改革は、何となく現状の営業職員チャネルを
前提にしすぎているように思えてなりません。

ということで、私はもう少し時間をかけて評価したいと思います。

※写真は京都・哲学の道です

 

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喜ぶべきなのでしょうが…

週末(4/5)の日経ヴェリタスの「BOOK」欄に
拙著「経営なき破綻」が取り上げられました。

「金融機関の格付けに携わる著者が、財務分析と社員への
 聞き取り調査を通じ、金融のなぞ解きに挑んだ」
「浮かび上がったお粗末な姿は、(中略)米AIGや、
 破綻した大和生命などとも重なり合う」

といったものです。
「社員への聞き取り調査」とされてしまいましたが、
正しくは「経営陣や本社スタッフ」ですね。

それよりもこの記事。
本の紹介なのに、なんと著者の名前が書いてありません。
タイトルと出版社(=日経です)しか出ていないのです。
単なるミスなのでしょうか?

出版から半年になる拙著を取り上げていただくのは
大変うれしいのですが、やっぱり著者名も載せてほしかったですね。

経営なき破綻 平成生保危機の真実(Amazonへのリンク)

 

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3/31の日経「大機小機」

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3/31日の日経・マーケット総合面(17面)の「大機小機」に
「時価会計見直しは正しい選択」というコラムが載りました。

主な内容は次のようなものです。
・もともと時価会計は有価証券などでの資金調達が多い欧米企業の
 経営実態の把握に適した会計方法だった。

・日本的経営の特徴とされる長期的視野に立った経営行動は、
 取得原価主義に基づく会計基準に支えられている。
 資本市場が小さい国々で時価会計を強要すれば、経営に大きなブレが生じる。

・会計基準は経済の安定的成長を促すインフラであり、
 それ自体が変動を生むような制度は修正していくべきである。

これを読んで私はものすごく違和感を感じました。

確かに今私たちは「何をもって時価とするか」という課題に直面しています。
これはなかなか難しい課題です。

しかし、日本が時価会計を採用したのは「国際的な流れ」だけではなく、
取得原価主義会計では経営実態の把握ができなかったためですよね。
だから、時価会計がうまく機能していないからといって、
取得原価に戻ればうまくいくとは到底考えられません。

過去に日本が取得原価会計のもとで大きな成長を遂げたのは、
日本経済そのものが成長期にあったからでしょう。
仮に時価会計だったとしても、やはり大きな成長を遂げたと思います。

しかし、低成長期には経営実態の把握がより重要になります。
経営者は株主や従業員を満足させるためにいるのですから、
監視の目が厳しくなって当然です。

コラムでは「会計基準は長期的に一定のルールに従ったものでありさえすれば、
情報開示において何の問題も生じない」とありますが、
あまりに経営者目線だと感じました。

 

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日経ビジネス「生保危機 再び」

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3/23号の日経ビジネスは生保特集でした(第2特集ですが)。
第1章が「運用難・少子化・過当競争の三重苦」、
第2章が「人口減で生き残る智恵」、
第3章が「財務が生む『不作為の経営』」という構成です。

第1章には「(市場の変化の要因は)少子高齢化と市場の成熟化」
という私のコメントが載っています。
もちろん取材ではこれだけではなく、いろいろな話をしています。

最後の第3章「不作為の経営」はちょっと強引な感じでしたね。
記事では「(危険準備金や価格変動準備金の取り崩しによって)
単年度の業績が覆い隠される経営をどう判断すればいいのか」
と生保の財務構造が不作為の経営につながっていると示唆しています。

しかし、各社の貸借対照表の純資産&各種準備金の動きをみれば、
今回のような局面では経営が厳しいかどうかは一目瞭然。
さすがに経営も深刻さを実感しているはずです。

財務構造と経営の関係を指摘するのであれば、
「各種準備金で補い、単年度の業績が見えにくくなるから問題」
なのではなく、
「新契約獲得能力が落ち込んでいるにもかかわらず、
 保有契約からの利益に隠れ、深刻さが見えにくくなっている」
ことだと思います。

 

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変額年金に関する2つの記事

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3/9(月)の日経に、「変額年金 撤退・縮小広がる」という記事。
運用環境の悪化で変額年金のリスク負担が膨らんだため、
保険会社の撤退や縮小の動きが広がってきたというものです。
投信よりも変額年金が厳しいというトーンです。

他方、3/16号の週刊金融財政事情には、
「10月以降、投信販売額は半減し、年金保険へのシフト進む」
というレポートが掲載されています。
銀行が手数料ビジネスの中心を、投信販売から
年金保険販売にシフトしているという内容です。

二つの記事から言えることは、
・保険会社は最低保証付き運用商品の提供が難しくなっている
・銀行は引き続き手数料ビジネスに力を入れている
・顧客の安全志向が高まっている
などです。

これまでのような顧客のコスト負担が重く、かつ、保険会社の負担も重く、
銀行だけが手数料を稼げるといったビジネスは限界なのでしょう。

ただ、銀行が目先の手数料収入を追うのではなく、
リテール分野に腰を据えて取り組むことになれば、
銀行を通じた保険販売は次のステップに進むのかもしれません。

 

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週刊ダイヤモンドの保険特集

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今週(3/14日号)の週刊ダイヤモンドは保険特集ですね。
全部で50ページもある力作です。

今回は興味深い企画が多かったように思います。

まず、「契約前の約款開示を覆面調査」というのがありました。
今でも約款は簡単に入手できないものなのですね。
「お客は契約書を読まないで契約する」とは本当に変な話です。

次に目を引いたのは、「代理店の手数料を初公開!」です。
キャンペーン期間中のインセンティブやランクごとの手数料率、
保険種類ごとの手数料体系など、興味深いデータが出ています
(L字型の初年度部分だけのようです)。

定期保険の付加保険料比較もあります。
「ライフネット効果」とでも言うべきでしょうか。
ちなみに比較表にはプルデンシャルグループ2社と
アクサ生命が載っていないのですが、どうしてなのでしょうね。

ご参考ですが、保険会社の経営分析のコーナーに
私のコメントが載っています。
朝日生命について、「収益力が低いため内部留保が少ないが、
その割に株式の保有比率が高い」というものです。

数ページ後のトップインタビューでも、
「あまり内部留保を積むことができないまま、今回の金融危機に見舞われた」
と朝日生命の佐藤美樹社長がコメントしています。
「株価の下振れについてはヘッジをした」とのことです。

 

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生保12月期決算の記事

ある保険評論家のかたが、朝日新聞の生保12月期決算(業績報告)記事を
酷評したという噂を耳にしたので、私も14日の新聞6紙を比べてみました。

各紙が取り上げた指標は次の通りです。

 日経=最終損益、有価証券評価損、有価証券含み損益、SMR
 朝日=最終損益、金融危機関連費用、準備金取り崩し額、実質純資産
 毎日=最終損益、有価証券含み損益、SMR
 読売=最終損益、有価証券評価損、保険料等収入
 東京=基礎利益、経常利益、SMR、保険料等収入、新契約ANP
 産経=最終損益、SMR

※SMRはソルベンシー・マージン比率、ANPは年換算保険料、
 金融危機関連費用はキャピタル損益+変額年金の最低保証費用

今回の注目点は、当然ながら金融危機の影響です。
株安や円高、信用スプレッド拡大は「実現損」と「含み損益の悪化」
として表れるので、私は「最終損益」と「SMRまたは実質純資産」
という組み合わせが妥当かと思います。

SMRなのか実質純資産なのかは、大きな問題ではありません。
私だったらSMRを採用しますが、SMR=550%の大和生命が
半年後に破綻したことを考えると、実質純資産を選ぶ気持ちもわかります。
ただ、実質純資産は絶対額なので、相対評価ができないのが弱点です
(大手しか開示していないという弱点もあります)。

この組み合わせ以外だったのは読売と東京ですが、
読売は図表では「実現損」だけとはいえ、記事ではSMRに触れています。
他方、東京は基礎利益と経常利益なので、損益については「実現損」ではなく
金融危機の影響とは別のことを示したかったのでしょう
(経常利益を示した理由はわかりませんが…)。

あとは各紙の個性だと思うので、朝日新聞がなぜ酷評されたのか
私にはわかりません。
「わかりにくい」「凝りすぎ」という意見もあるでしょうけど、
「読者に何とか実態を伝えよう」という気持ちが私には感じられました
(成功しているかどうかはともかく)。

そういう自分だったら何を選ぶか、ですが、
最終損益、SMR、有価証券含み損益に加え、加工した指標を出そうと思います。

例えば、「純資産の部」「危険準備金&価格変動準備金」が
どれだけ減ったのかを見ると、金融危機の影響がよくわかります。
注として増資についてコメントが必要かもしれませんね。
絶対額だけではなく、SMRのリスク合計額で相対化するのが
いいかもしれません。

なんてことを一般紙ですると、酷評されそうですね…

 

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変額年金の運用停止(続き)

本日(12日)の東京新聞1面トップは
「変額年金 株安で停止 ハートフォード生命保険」
という記事でちょっとビックリでした。

私がたきつけているわけではないのですが、
このところ変額年金に関する記事が目立ちます。
今週も週刊ダイヤモンド、朝日新聞(12日、私のコメントあり)、
週刊朝日(同)などが変額年金を取り上げています。

ただ、この「株安で運用停止」が何で1面トップなのかなあと
考えてしまいました。

「同社に入る管理手数料収入がストップ」
「運用停止で約二百億円の損失が発生」
というのは米国本社の発表した通りなのですが、
あくまでこれは米国会計基準の話です
(おそらく繰延新契約費の取り崩しです)。
多くのかたには馴染みがない話かと思います。

他方、日本基準では費用が先に出ているので、
見込んでいた収入がなくなるだけで、損失は発生しません
(見込んでいた収入がなくなるのはマイナスですが)。

おそらく、はじめにこの商品の運用停止の話があって、
記事にするにあたり、いろいろ考えた末に
米国の話を持ってきたのかなあと思うのですが、
これでいいのかなあと思わせる記事でした。

 

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