前回に続き、生保決算と実態のギャップについて。
2016年3月期決算で最も実態から乖離した指標は
「実質純資産額」(または「実質資産負債差額」)
だったように思います。
この指標はソルベンシー・マージン比率とともに
行政監督上の指標(=早期是正措置の発動基準)
となっていて、もし数値がマイナスとなった場合には、
当局は業務停止命令を出すことができるという
重要度の高い指標です
(ただし、ALMと流動性を考慮した措置があります)。
実質純資産額は時価ベースの資産の合計から
負債の合計(資本性の高い負債を除く)を差し引いて
算出します。
全ての保有区分の有価証券含み損益が反映される
一方、ソルベンシー・マージン比率では支払余力として
考慮される劣後ローンは、こちらでは反映されません。
2016年3月期決算では、株価下落にもかかわらず、
各社とも実質純資産額が1年前よりも増えました。
例えば明治安田生命の公表資料を見ると、
株式と外国証券の含み損益は▲9378億円でしたが、
実質純資産額は6163億円も増えています。
同社のソルベンシー・マージン比率の分子
(支払余力)は▲3851億円減っているのに、
実質純資産額が増えたのは、全ての保有区分の
公社債含み損益が反映されるためです。
公社債含み損益は全体で約1.5兆円増えています。
その内訳は次の通りです。
その他有価証券(公社債): +1483億円
満期保有目的債券 : +3422億円
責任準備金対応債券 : +1.0兆円
同社にかぎらず、生保が保有する超長期債の多くは
「満期保有目的債券」か「責任準備金対応債券」なので、
日銀のマイナス金利政策を受けた金利低下によって
債券価格が上昇し、実質純資産額を押し上げました。
しかし、生保が超長期債を大量に保有しているのは
超長期の保険負債の金利リスクをコントロールする
ためなので、保有する超長期債の価格が上がり、
実質純資産額が増えたからといって、決して喜ばしい
状況ではありません
(保険負債の価値はもっと増えているので)。
そのことは生保の経営者もよく理解しているはずで、
例えば、昨年から今年にかけて複数の国内系生保が
外部から劣後債務の調達を行い、支払余力の水準を
引き上げようとしていることからもうかがえます。
もっとも、EVやESR(経済価値ベースの資本十分性)を
公表していない会社の場合、金利低下による影響を
外部から判断する手掛かりがほとんどありません。
いくら自己資本の絶対額を示されても、果たして
会社が望ましいと考えている健全性を確保できている
のかどうかわかりませんので、手掛かりとなる情報を
ぜひ開示してもらいたいものです。
※日比谷公園のバラがきれいでした。