06. リスク管理関連

関東部会でスピーチ

 

3/14(金)に日本保険学会・関東部会でスピーチをしました。
演題は「保険会社ERMの現状と金融行政の動向」です。
日本保険学会のHPへ

質疑応答の際、「行政がERMを促すのは不可解」という質問がありました。
ERMが会社価値の拡大を目的とするのであれば、行政がそれを促すのは
理解できない。最低資本要件だけ設定すれば十分ではないか、という
ご質問だったと思います。

確かに、保険会社にしてみれば、株主から言われるならともかく、
もし行政から「会社価値を高める経営をせよ」と言われるのは、
余計なお世話という気持ちになるのもわかります。

ERMはあくまで保険会社自身のために推進するものですし、
誰かに言われて取り組むものではないと思います。

他方、行政の立場になって考えてみましょう。

保険契約者を保護するには、もちろんコンプラ面も重要ですが、
何より保険会社が潰れてしまっては困るわけです。
そこで行政は保険会社の健全性を確保するため、規制を設けます。

一番簡単なのは、万一に備え、バッファーを持たせることです。
最低限保有すべき資本を設定し、保険会社に守らせます。

しかし、設定すべきバッファーの水準はなかなか難しいものです。
バッファーが小さければ、万一の際に役立ちません。

求めるバッファーを大きくすると、潰れる確率は減るものの、
契約者や株主への還元は犠牲になります。
極論すれば、あまりに要求されるバッファーが大きいと、
保険会社に投資する株主はいなくなってしまいますし、
保険会社を経営しようという人がいなくなってしまいます。

しかも、バッファーが大きくなると、経営者が安心してしまい、
リスク管理が疎かになりがちです。

そこで行政が目を付けたのがERMです。

保険行政として「リターンを挙げて下さい」とは言わないまでも、
「健全性を確保しつつ、会社価値の持続的向上を図る」ための
ERMであれば、健全性の確保という点で契約者保護が図れますし、
「会社価値の向上」ということで経営者の関与も期待できます。

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政府が財宝を泥棒から守るため、ガードマンを雇うことにしました。
まず、ガードマンを雇う基準を決めなければなりません。

そこで、強いガードマンを雇うべきという考えから、明確な基準として
「100㎏のウエートを持ち上げられること」としました。
100人の応募があり、政府はこのうち10人を採用しました。

ところがある日、財宝の一部が泥棒に奪われてしまいました。
政府が残る財宝を守るためには、どうしたらいいでしょうか。

ガードマンを雇う基準を厳しくして、100㎏のところを200kgにする。
それも一案かもしれませんが、応募者は減るでしょうし、
そもそもこの基準がリスクに見合っていないのかもしれません
(まあ、そうでしょうね)。

ある警備会社に聞くと、「うちでは、単なる力持ちではなく、
A、B、Cの条件を満たしたガードマンを派遣している」とのこと。
その結果、この会社は業界で優良企業と言われています。

もう一つの警備会社にも聞いてみました。すると、
「A、C、Dの条件を満たしたガードマンを育て、事業を拡大している」
とのことでした。

どうやら警備業界では、強いガードマンをそろえるのではなく、
A、B、C、Dなどの条件を満たしたガードマンを派遣している会社が
顧客の支持を得ているようです。

そこで政府はガードマンの採用基準を見直すことにしました。
ウエートを150kgに上げるとともに、A、B、C、Dの条件を満たす
ガードマンを雇うと発表し、10人を採用しました。
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やや無理がある例えかもしれませんが、このような政府の行動は
不可解でしょうか?

※写真はオランダの市場です。

 

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東証の企業価値向上表彰

 

皆さま、今年もよろしくお願いいたします。
2014年はどんな年になるでしょうか。

さて、東京証券取引所では「企業価値向上表彰」を実施しており、
2013年度の大賞に丸紅が選ばれました(12月26日)。
東証のHPへ

丸紅が大賞となったのは、「総合商社という業態を踏まえた
経営管理手法を採用し徹底することで、企業価値向上経営を
特に高いレベルで実践していると認められる」からだそうです。

総合商社ではグループ全体のリスクを定量的に把握し、
自己資本と対比する管理が普及しています
(丸紅はリスク量=リスクアセットを公表)。

さらに丸紅の場合、「PATRAC」という経営指標
(連結純利益から資本コスト相当額を控除したもの)を
投資判断のほか、事業の業績評価や撤退の判断に活用しています。
PATRACに基づく業績連動報酬の仕組みも導入しているそうです。

他の総合商社でもやはり同種の指標を活用しているようです。
ただ、選定委員会は丸紅の特に優れた点として、

1.資本コストを意識した経営指標が積極的に活用されていること
2.企業価値向上の取組みが組織に深く浸透していること
3.企業価値向上の取組みとその成果に安定性が認められること

を挙げており、独自の経営管理を通じた企業価値向上経営が
経営に浸透していることを高く評価したのだと思います。

東証が企業価値向上経営に注目するのは当然ですが、
保険会社のERM経営に通じるこのような取り組みを
投資家目線で高く評価していることに私は注目しました。

※除夜の鐘をつきました。20年ぶりくらいでしょうか。

 

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キャピタスERMサーベイ

 

会社で取り組んでいた「ERMサーベイ」の結果概要を
昨日HPにアップすることができました。
ご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。
キャピタスのHPへ

このサーベイ調査の特徴は、次の3つだと思います。

1.日本で活動する主要な保険グループを網羅していること
  (24グループにご参加いただきました)

2.アンケート調査に加え、確認インタビューを行っていること
  (アンケートによる意識調査を超えた調査となりました)

3.専門的知識を持つスタッフによるサーベイであること
  (もちろん私一人ではありません)

「結果概要」にはアンケート結果の一部を掲載したうえ、
インタビューによる気づきなどを記しました。

さらに、項目ごとに「まとめ」を設け、分析結果を
簡単にまとめてあります。

ERMはあくまで会社内部の取り組みなので、
他社の取り組みを参考にしようとしても、
入手できる情報は限られています。

自ら取り組むのが基本とはいえ、他社の取り組みが
参考になることもあるでしょう。
数少ない情報として活用していただければと思います。

※写真は旧万世橋駅です。この階段(1935階段)は
 1935年から駅が休止になる1943年まで使われました。

 

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金融庁のERMヒアリング

 

4日に公表された今年のERMヒアリングの結果について。

今回は当事者ではないので不明な点も多々ありますが、
「各保険会社における態勢整備に向けた取り組みの参考に
 供すること等を目的として、ヒアリングの結果を公表する」
とあるので、少しだけコメントしてみましょう。
金融庁のHPへ

前回のERMヒアリング結果では、主に以下の項目について
「態勢の高度化を図っていく必要がある」とのことでした。

 ・リスク管理部門の担当役員の専門性
 ・内部監査部門の役割
 ・リスクプロファイルの把握と活用
 ・リスク選好の考え方や枠組み
 ・海外保険事業の管理体制の構築
 ・内部モデル見直しにおける妥当性等の検証態勢

今回のヒアリング結果を見ると、前回課題とした「リスク選好」
「内部モデルの妥当性」などに加え、「ERMの活用状況」に
全体の3ページ弱を割いていて、目を引きました。

実際にERMが活用される場面として、次の3つを取り上げています。

 「リスク調整後収益指標の活用」
 「商品開発および商品別収益管理」
 「中期経営計画」

これには次のような考えが前提となっているようです。

・収益性評価にあたって、リスク調整後の指標を利用することは有益。
・社内で収益や業績指標として使用するためには、リスクに対する
 考え方が社内で共有され、ERMが社内で浸透している必要がある。

・商品開発においても、リスクとリターンの関係を考慮することが重要

・将来にわたる事業の継続性評価や経営におけるERMの活用を
 実現するためには、ERMを経営戦略および(中期)経営計画の
 策定に取り込むことが有益

確かにその通りだとは思いつつ、日本の現状を踏まえると、
かなり目線が高いように感じました
(対象が大手だけではないことを踏まえると、特にそう感じます)。

保険会社に対する金融庁の目線の高さは、6日公表の
「金融モニタリング基本方針」でもうかがえます。

こちらは大手生損保等が対象の記述ですが、検証項目のなかに、
「リスクアペタイトフレームワークの経営計画における活用状況」
とあります。すでにフレームワークの構築が前提なのですね。

ところが、銀行(SIFIs及びその他の主要行等)では、
「リスクアペタイトフレームワークの構築状況等」
とあり、保険会社のほうがはるかに踏み込んだ表現です。

IAISがICPとして「ソルベンシー目的のERM」を採択したのが2011年。
金融庁が保険検査マニュアルを全面改定し、検査官がERMを
本格的に確認するようになったのも、ここ数年のことです
(ERMヒアリングも2011年からですね)。

それに、ERMは経営そのものなので、行政当局といえども
外部からそう簡単に把握できるものではありません。
私はアナリストとして何度もそんな経験をしてきました。

目線の高さを否定するつもりはありませんし、背伸びも大切です。
ただ、リスク管理の高度化を促すはずなのに、行政当局だけが
先に行ってしまい、振り返ったら誰もいなかったというのでは
ちょっと困りますよね。

何だかやや辛口なコメントとなってしまいましたが、
今回の結果概要が日本の保険会社におけるERMの現状をうかがう
貴重な材料なのは間違いありません。私もいろいろと勉強になりました。

※桂川があふれるなんて、びっくりです。
 被害を受けた皆さまにお見舞い申し上げます。

 

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「リスクと向きあう」

環境リスク評価研究のパイオニアである中西準子さんによる
「環境リスク学」「リスクと向きあう」を続けて読みました。
それぞれに、「不安の海の羅針盤」「福島原発事故以後」
という副題がついています。

「環境リスク学」は、横浜国大での中西先生の最終講義
「ファクトにこだわり続けた輩がたどり着いたリスク論」のほか、
中西さんによるリスク評価や環境リスクに関する論文から
構成されています。

「リスクと向きあう」のほうは、「福島原発事故に直面して」
「時代の証言者 リスクを計る(=読売新聞の連載)」
の二部構成で、後半は「私の履歴書」のような感じですが、
前半は読みごたえがありました。

中西さんのリスク評価は、
「リスクとリスクがぶつかる時、どうするか」
というところから始まっています。

例えば、原発事故の危険を避けようとすれば、
しばらくは化石燃料への依存を増やさなければならず、
温暖化による悪影響の可能性を高めることになります。
このバランスをどうするかという問題です。

この「リスク・トレードオフ」に答えるには、二つのリスクを
できるだけ共通の尺度で比べることが必要です。

中西さんは河川の計画をしていて、人の安全のためにいいことと、
生態系保全のためにいいことが矛盾することがあると気づき、
悩んだ末にこのリスク評価の研究に取り組むようになったそうです。

保険会社や金融機関におけるリスク論とはやや距離があると
感じられるかもしれませんが、私には興味深い話ばかりでした。

 

中西さんのHPも見つけました → 「中西準子のホームページ」へ

※一見どこのジャングルだろうといった感じですが、
 実は浜離宮の写真です。

 

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リスク管理態勢のばらつき

 

あけましておめでとうございます。
2013年はどんな年になるでしょうか。楽しみですね。

さて、昨年で金融庁を卒業し、保険会社のリスク管理に
これまで以上に深く関わるようになったわけですが、
改めて感じるのは、日本の保険会社のリスク管理態勢には
ばらつきが非常に大きいということ。

「進んでいる」「遅れている」といった次元ではなく、
枠組みや管理手法が様々であるという話です。

日本の保険会社といえば、横並び意識が強い業種の
典型のように言われます。
確かに、格付アナリスト時代から15年以上、保険業界を
観察してきた経験からも、そのように感じることがあります。

保険商品やチャネルが多様化したとはいえ、
大手生保は営業職員を通じた保障の提供が主軸ですし、
損保は引き続き自動車保険が販売の中心です。
本社の経営組織が相似形だったりもします。

会社を超えた業界人のつながりが強いのも
この業界の特徴だと思います。
変な例ですが、私が金融庁を離れるという情報は
かなり早い段階から業界で共有されていたようです^^

しかし、どういうわけか、リスク管理態勢に関しては
独自の進化を遂げているようです。

金融庁の「ERMヒアリングの結果について」
(昨年9/6に公表)に、次のような記述があります。
金融庁HPへ

・(リスクレポートの)報告内容は各社ごと様々だった

・(統合リスク管理の具体的な管理方法について)
 各社により独自の枠組みを構築していた
 リスク管理ツールや管理方法が多様だった

・リスク量の計測に際しても(中略)ばらつきが大きかった
 リスク統合に関しても(中略)様々だった

・各社のALMの実施状況は(中略)ばらつきが非常に
 大きかった

もちろん、リスク管理態勢が横並びである必要はありません。
ビジネスモデルが異なれば、当然ながらそれに適した
リスク管理態勢も異なるはずです。

ただ、独自に構築してきた枠組みが、本当に自社に合った
枠組みとなっているのかは気になるところです。
大きなお世話かもしれませんが...

※写真は初詣で行った伊勢山皇大神宮です。

 

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なぜ記録を残すのか

 

年末の片付けをしていたら、御厨貴先生の新聞記事
「公文書管理 記録残さぬ風土 戦後から」が出てきました
(4/30の読売)。

日本には議事録や記録を公文書として残す伝統が
存在しなかったのではなく、敗戦後、大量の公文書を
焼却したうえ、その後の占領統治のなかで、議事録や
記録をなるべく残さぬことが普通になっていったのだそうです。

民間でもリスクマネジメントを構築するとなると、
やれ文書化だ、やれ記録だと、いろいろ面倒なこと(?)
を求められますよね。

なぜ記録を残さなければならないのか。
御厨先生は記事のなかでこう語っています。

 後世に残すためのアーカイブ化と言うと、ずっと後の
 歴史家のために、なぜ今の決済に忙しい我々がという
 官僚諸氏の不平不満が聞こえてくる。そうではないのだ。

 今の決済や決定を明快に行うためにも、記録や議事録という
 同時並行的によりそうブツの存在が必要なのだ。
 そう、今やっている自分を、もう一人の自分がじっと眺めている
 とでも言おうか。

 そしてそうした記録や議事録は、そう遠くない将来、
 同様のコトが起きた場合、まさにすぐさま応用が利く
 成果をもたらすはずだ。

政府でも民間でも同じことだと思います。

※写真はダイコン畑と直売所。三崎まぐろ祭りの帰りに立ち寄りました。
 皆さん、来年もよろしくお願いいたします。

 

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横須賀線の会話

 

帰宅途中の横須賀線。運よく座っていた私の前で
同じ会社の先輩・後輩と思われる二人の男性が
なぜかリスク管理の話を始めたので、思わず聞き耳...^^

後輩 「リスク管理って、わかっていることだけやってたんじゃ、
    リスク管理にならないんですよね。震災の時もそうだったし...」

先輩 「いや、そういうこと言うヤツいるけど、俺は同意しないね。
    キリがないじゃないか。例えば東京で震度9の地震が起きるとか、
    隕石が落ちてくるとか。そんなこと考えても意味がないね」

後輩 「そういう話じゃないんです。地震よりも津波のほうが深刻だなんて、
    今回の震災が発生するまで考えてもいなかったですよね。
    わかっているリスクを管理しているだけだと...」

先輩 「いやいや、もし東日本大震災並みのことが東京で起きたら、
    被害はあんなもんじゃすまないだろう?それに備えておくの?
    みんな高台に住むの?そんな馬鹿な話はないだろう」

後輩 「そうじゃなくて...(続く)」

30代とおぼしき後輩くんは「エマージング(新興)リスク」、つまり、
現在はリスクとして認識されていないリスクについて話しているのに、
40代と思われる先輩は全く理解してくれません。

思わず会話に割り込み後輩くんをサポートしたい衝動にかられましたが、
何とか自制しました(笑)

システム関連の会社の方々だったようです。

※ミッドタウンのイルミネーション(写真左)は見事でした。

 

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「生損保、相次ぎ資本調達」

 

日本の生損保が相次いで資本調達を進めている、
という掲題の日経記事をご覧になったでしょうか(9日)。
予想外に大きなスペースの記事でした。

保険会社の劣後債発行が続いているという話なのですが、
発行の狙いとして、運用環境の低迷が続いているほか、

「資本調達を急ぐ背景には、国際的な資本規制の厳格化がある」
「将来導入が見込まれる規制強化に前倒しで対応する狙い」

といった分析が続き、

「過度の規制強化は大手機関投資家である保険(会社)の
 投資意欲を委縮させ、それが資本市場の低迷を
 長引かせる悪循環を招く懸念がある」

「大手生保首脳は(将来の)規制が足かせになっていると指摘する」

と、規制強化が資本市場の低迷や経済への悪影響を招く
という論調になっています。

保険会社の劣後債発行が続くと、どうして規制強化への懸念が
記事の中心となってしまうのか、私には理解できません。

素直に考えれば、運用環境の悪化や自然災害の多発を受けて、
リスク管理上、資本調達に踏み切ったと書くのが自然な流れです。
それが「規制が強まるから対応が必要」という話になってしまうのは、
「資本調達は規制対応のために行うもの」という発想があるのでしょうか。

もちろん規制資本への対応を無視するわけにはいきませんが、
それは最低限クリアしなければならない条件であって、
多くの会社は自社のリスク管理のなかで資本政策を考えています。

せっかく保険会社がERMやリスク管理の高度化を進めているというのに、
そこを無視した論調は悲しいですね^^
あるいは、「リスク管理イコール規制対応」という会社があるのかも...

さらに加えると、現行規制は20年に一度起こるリスクへの対応しか
求めていません(資産運用の場合)。
多くの保険会社では、自社のリスク管理のなかでは、
はるかに厳しいレベルの対応を行っていると思われます。
このあたりも踏まえてほしかったですね。

※釧路・和商市場では、お店でご飯と刺身やイクラを買い、
 お好みの「勝手丼(海鮮丼)」を楽しむことができます(写真)。

 

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変額年金市場の盛衰

 

日本保険学会「保険学雑誌」の最新号(第618号)に
日本の変額年金について興味深い論文が掲載されています。
武蔵大学の大塚忠義さんによるものです。

もしかしたら「元マニュライフ生命執行役員の大塚さん」
という紹介のほうがいいかもしれませんね。
マニュライフ生命は変額年金の有力プレーヤーでしたので。

日本の変額年金市場は、大塚さんの言葉をお借りすると
2010年には「ほぼ消滅した」のに対し、
本家の米国では依然として高水準の販売が続いています。
どうしてこれほど違うのでしょうか。

大塚さんは論文のなかで、日本の変額年金市場について、

・販売者に専用商品を提供するビジネスモデル
・元本保証付変額年金の開発

という2つの要因によって拡大し、そして縮小したと述べています。

米国では、銀行は販売者の範囲を超えないのに対し、
日本でハートフォード生命が立ち上げたビジネスモデルは
「販売者が製造者の一員として商品開発に参画する」
というもので、販売者の権限が大きいモデルでした。

しかも、日本の変額年金は、最低年金総額保証などにより
リスクのない商品として市場に普及していきます。

米国では最低保証が特約方式となっているそうで、
変額年金はオプション料を支払えばリスクを回避できる
ハイリスク・ハイリターン商品という位置づけです。

これに対し、日本の変額年金は、オプションを組み込むことで
リスクを排除した商品となりました。

外部環境が悪化し、最低保証の提供が難しくなっても、
米国のような特約方式であれば、最低保証の費用を
高くすることで販売を続けることが可能です。

しかし、保証コストを商品に組み込んでいる日本の場合
(しかも、保証とコストの関係が明確に示されていません)、
販売の主導権を販売者が握っていることもあり、
保険会社はリスク軽減や販売コントロールが難しく、
商品の提供を停止し、市場から退出するしかないという見解です。

大塚さんは、保険会社が市場からの退出を迫られたのは、
経営判断の誤りというより、リスクに対する認識が不十分だったため、
正しい判断ができず対処が遅れたことが原因と考えているようです。

論文を拝見した限りでは、
「正しい判断ができず対処が遅れた」というよりは、
「ビジネスモデルに内在するリスクの認識が不十分だった」
ということのように感じました。

私は生保破綻の研究のなかで、破綻リスクを高めた内的要因として
①ビジネスモデル、②経営者、③経営組織に関するものを挙げました。
変額年金の事例では、各社の経営内部を調べたわけではないので
②と③はわかりませんが、少なくとも①に関する要因はありそうですね。

なお、保険学雑誌は学会メンバー以外でも購買できますが、
HPにアップされるのは2年後とのことです。ご参考まで。
日本保険学会HPへ

※写真は前回に続き、奈良井宿です。

 

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