06. リスク管理関連

銀行と生保のALMの違い

 

銀行の国債購入が目立っており、金利上昇時に
損失が発生するリスクが懸念されています。

他方、生保も超長期債などの投資を増やしているため、
「生保も大丈夫?」という声を時々耳にします。

ただ、同じ国債投資でも、銀行と生保のALMはかなり違います。

銀行の負債は預金が中心なので、長い債券の購入は
金利リスク(金利上昇時に損失を被るリスク)につながります。
しかも、金利上昇時に預金が流出するリスクも無視できません。

これに対し、生保の負債は一般的に非常に長いので、
超長期債を購入しても、そう簡単には資産と負債の
ミスマッチが埋まらないという現状があります。

もう一歩踏み込んで、生保が抱える超長期債に
損失が発生するのはどのような時か考えてみましょう。

金利が上昇しても、保有区分が「責任準備金対応債券」か
「満期保有目的債券」であれば、含み損を抱えることがあっても
損失は発生しません。
ミスマッチ(負債が長い)を前提にすると、金利上昇時には
負債の価値が小さくなるため、全体として会社価値は改善します。

金利上昇時に含み損を抱えた債券をやむなく売ることになれば、
もちろん売却損が発生します。生保がALMをやむなく崩すとしたら、
多額の保険金等の支払いか、解約の急増でしょうか。

ただ、生保の死亡率や発生率は損保に比べると安定しており、
通常の個人保険で資金繰りに苦しむほどの支払いは考えにくいです。
毎月の保険料収入も資金繰りを緩和します。

解約について想定されるのは、金利上昇時の資金流出と
信用不安に伴う解約ラッシュの2つでしょうか。

確かに銀行が販売した一時払いの貯蓄性商品では
金利上昇時に解約が増える可能性が高いように思います。
しかし、平準払いの保障性商品でALMを崩すほどの
解約ラッシュが発生しうるかどうか
(保険会社はどこまで想定しているのでしょうね)。

信用不安時の顧客動向を予測するのはなかなか困難ですが、
過去の破綻事例をみると、団体年金の流出は目立ったものの、
銀行のように資金繰りに詰まって破綻した生保はなかったようです。

もう一つ考えられるのは、債券をバイ&ホールドではなく、
入れ替えを前提にALMを行っている場合には、
含み損を抱えた債券を売ることになるのかもしれません。

ただ、多くの生保がミスマッチ状態にあることを踏まえると、
入れ替えによるALMの調整がどの程度必要なのか、
純粋なリスクコントロールの観点からはやや疑問です。

こうして検討すると、生保の超長期債投資に全くリスクがない
とは言いませんが、銀行とはかなり状況が異なるように思います。
ちょっと頭の体操をしてみました。

 

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住宅ローンの収益性評価

 

三菱総研のHPで住宅ローンの収益・リスク管理に関する
(私にとって)興味深いコラムを見つけました。
コラムのHPへ

住宅ローンの収益性評価は難しく、勝ち負けがはっきりしない、
採算がわかりにくい商品なのだそうです。

コラムでは、検討すべきポイントとして、

 ・期間の長さ
 ・PDの期間構造(=デフォルト率が経過とともに変化する)
 ・LGDにおける地価要因(=回収率は地価動向に依存する)
 ・プリペイメント(=期限前返済により貸出期間が短くなる)
 ・金利の固定変動相互乗換
 ・優遇金利

を挙げています。

資産/負債の違いはありますが、生命保険の負債分析に
通じるところがありますね。

プリペイメントに関しては、期間短縮による金利リスクへの影響のほか、
信用リスクが低い顧客ほどポートフォリオから早く離脱する
(=ポートフォリオの信用リスクが濃縮される)という指摘もありました。

また、金利上昇時の変動金利型ローンは信用リスクが高まるうえ、
プリペイメントも増えるのだそうです。

確かに収益・リスクの評価が簡単ではないことがわかります。

企業向け貸し出しが伸び悩むなかで、
多くの金融機関が住宅ローンに力を入れており、
激しい競争を展開しています。

しかし、チキンレースのようにも見える競争のなかで、
住宅ローンの複雑さを踏まえた収益・リスク管理を行い、
プライシングに反映している金融機関はどの程度あるのでしょうか。
単なる会計ベースの管理ではちょっと心配です。

このあたりも保険会社と共通したテーマですね。

※写真は前回に続き、東海道・有松の町並みです。

 

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覆面座談会

 

1/31の保険毎日新聞に「保険業界は変わるのか」という、
ERMをテーマとする異色の覆面座談会が掲載されていました。
業界紙でも、このような企画は珍しいのではないでしょうか。

記事の見出しをいくつか引用すると、

「今こそERMの構築を」
「透明性が生き残りの道」
「リスクカルチャーの醸成必要」

など、私が普段口にしているような話が多々出てきますが、
あいにく(?)私はこの座談会メンバーではありません^^
(断っておかないと疑われそうなので...)

いきなり「リスク・アペタイト」という言葉が出てくるし、
読者に言いたいことがうまく伝わるかという心配はあるものの、
面白い試みだと思います。

「日本のアクチュアリーが仮にリスク管理部に配属されても、
 計算技術を期待されるだけに終わってしまうことが多いと
 考えられるが、それではあまりに惜しい」

「本来、リスクは組織のあらゆるところにあり、ある意味で
 組織全員が当事者になり得る。その意識がないところに
 カルチャーは定着しない」

「金融当局が直接、経営者にリスク管理の全体像を問い、
 それに対して自社のリスク・アペタイトがどうなっているか、
 経営者が手元資料を見ずに説明できるような時代が
 待たれているといえる」

といった気になるコメントもありました。

業界紙なのでなかなか入手しづらいかもしれませんが、
機会がありましたらぜひご一読を。

※週末の横浜中華街は満員電車のようでした。

 

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東横線の踏切

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リスクをコントロールするには、リスクの「軽減」、
「移転(=典型的な手段が保険ですね)」のほか、
「回避」、つまりリスクを取らないという方法があります。

例えば「踏切事故を減らすため、踏切をなくしてしまう」
というのがリスク回避の発想です。
現実的ではないケースが多いとは思いますが、
意外に忘れられている発想かもしれません。

ちなみに私は通勤に東横線(渋谷から大倉山まで)
を使っています。あるとき、ふと思いついて
踏切の数を数えてみたら、9か所ありました。

田園都市線の踏切ゼロには及びませんが、
かつてに比べて、だいぶ減ったなあという印象です。

興味深いことに、9か所のうち8か所は
自由が丘駅をはさんだ区間に集中していました。
他の区間で高架化や地下化が進んだ結果、
諸般の事情でこの区間だけが残ってしまったのでしょう。

 

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EUのストレステスト

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欧州連合(EU)は来年、域内主要銀行を対象とした
ストレステストを再度実施するそうです。

EUではすでに主要銀行のストレステストを実施しており、
7月に結果を公表しています。

しかし、対象となった91行のうち、不合格は7行のみと
予想外に少なかったため、市場の信認を得られませんでした。
いったん落ち着いたギリシャやアイルランド、ポルトガルの
金融機関CDSスプレッドは、8月から再び拡大しました。

さらに、EUによるアイルランド支援です。
アイルランド危機の主因は銀行問題にもかかわらず、
先のストレステストでは大手2行とも「合格」でした。

2008年の金融危機では、過去データに基づいた
VaRなど統計的手法によるリスク管理の限界が示され、
代わってストレステストが注目されるようになりました。

ストレステストであれば、ヒストリカルシナリオだけではなく、
将来起こりうる様々な仮想シナリオを自由に設定し、
金融機関の健全性を確認することができるからです。

しかし、今回の欧州の件を見ても、ストレステストが
万能なツールではないことは明らかでしょう。

何よりどのようなストレスシナリオを設定するかが難問です。
シナリオが甘いと今回のような事態を招いてしまいます。
だからといって、全ての銀行が不合格となるシナリオでは、
かえって金融市場を大混乱させてしまうかもしれません。

おそらく再度のストレステストだけでは限界があるでしょう。
様々な政策を組み合わせて、何とか危機の広がりを
防いでほしいです。
仮にPIGSのSまで広がると、もう対岸の火事とは
言えなくなってくるように思います。

※今日は町内会・子供会の餅つきに参加しました。
  もはやベテランなので、筋肉痛とは無縁です♪

 

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住宅ローン金利が1%割れ

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低金利に加え、金融機関の顧客獲得競争が激しくなり、
ついに金利が1%を下回る住宅ローンも現れています(変動型)。

収益性の低迷に悩む日本の金融機関にとって、
住宅ローンは安定的な収益源のはずでした。
しかし、ここまでくると、本当に儲かっているのかどうか。
表面的な利ざやが確保されればいいのではなく、
経費のほか、資本コストも含めた評価はどうなのでしょう。

どうも日本の金融機関では行くところまで行かないと
価格競争が収束しないようです。

保険セクターにも似たようなところがあるように思います。
金融危機以前の変額年金市場はまさにその典型でしょう。
販売チャネルの要求に応えて次々に新たな保証を提供し、
代理店手数料の競争も続きました。

今のダイレクト自動車保険市場も同様のようです。
先日の日本保険学会(年次大会)の発表によると、
ダイレクト損保の自動車保険単価は年々下がり、
ここ数年、ボリュームが増えても収支が改善しない状態に
陥っているとのことでした。

保険商品が価格競争に陥りやすいのはわかります。
ただ、欧米では、引受サイクルに見られるように、
どこかで規律が働いているようにも感じます。

儲からなくても売り続ける状態が続くのは、
日本の保険セクターが健全な経営を行っていない、
つまり、リスクに応じたリターンを得ようという仕組みに
経営がなっていないことの表れではないでしょうか。

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※日産スタジアムの周りでは時々フリーマーケットが開かれています。
 「こんなもの誰が買うんだろう」と思うような品ばかりの店もあったりして、
 マーケットは楽しいですね。

 

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防災の日

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9月1日は防災の日。
政府の防災訓練では東海、東南海、南海の3地震が
同時発生した想定で訓練を行ったそうです。

3つの地震が連動する。
恐ろしい想定ですが、非現実的なことではありません。

・1605年の慶長地震(3地震同時発生)
・1707年の宝永地震(3地震同時発生)
・1854年 安政東海地震の32時間後に安政南海地震が発生
・1944年 東南海地震 → 2年後(1946年)に南海地震が発生
 ※東海地震は発生せず

東海地震は150年以上発生しておらず(=いつ発生してもおかしくない)、
東南海・南海地震は概ね100~150年の間隔で発生するので、
東海地震と東南海・南海地震の連動発生リスクの高まりが
指摘されています。

政府が試算した今後30年以内の地震発生確率をみても、
東海地震が87%、東南海地震が60~70%、
南海地震が60%程度となっています。
「日常生活において無視できるほど小さな値ではない」
とのことです。

地震保険などによる金銭的な備えも重要ですが、
損害を最小限に抑えるリスクマネジメント、とりわけ、
意識の問題が大きいように思います。

※白川郷の家々は木造かつ萱葺き屋根なので、
 花火や歩きたばこの禁止、消防施設の整備など
 火災防止への意識が非常に高いようです。

 

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台風18号の支払見込額

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10月上旬に上陸した台風18号の保険金支払見込額は
約551億円だったそうです。

損保協会のニュースリリースへ

この台風は、50年前に大きな被害を出した伊勢湾台風と
上陸するまでほぼ同じコースをたどり、勢力も強かったので、
大きな被害が出る恐れがあると言われていました。

今回の「551億円」は史上12番目の支払額なので、
決して小さい金額ではないですが、正直言って、
関係者はこの程度の被害にとどまってホッとしたでしょう。

現在のソルベンシー・マージン比率の風水災害リスクは
伊勢湾台風に相当する規模の台風が発生した時の
推定保険金をリスク相当額としています。
金額は今回の10倍以上です。

上陸地点がやや東にずれた(=名古屋を直撃しなかった)ことや、
上陸後の台風のスピードが速かったことなどが
不幸中の幸いだったのでしょう。

とはいえ、地球温暖化の影響からか、強い台風は
発生しやすくなっているようです。
また、海面温度が高いと、日本に近づいても勢力が
衰えない傾向があるとのこと。
油断は禁物ですね。

※今年は地元の大倉山駅前にツリーが登場しました。

 

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新型インフルエンザの現状認識

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保険業界紙「インシュアランス(損保版)」8月号第1集に載っていた
東京海上リスクコンサルティング・指田朝久BCM事業部長のインタビュー記事。
このところ新型インフルエンザが話題になることはほとんどなくなりましたが、
よくまとまっていて勉強になりました。

まず、マスメディアを中心に混乱が目立つとのこと。

・弱毒性が強毒性に変異 → このような変異はしないそうです
・弱毒性だから安心 → 弱毒性でも致死率が2%になりえます
・新型ウイルスは変異する → 新型だけが変異するのではなく、
                    季節性インフルエンザも変化しています

日本では今冬に5000万人が感染するとの予測があります。
少なくとも何千万人単位で感染者が出ると見るべきだそうです。
しかも、WHOでは感染被害が3年間続くと見ています。

今の致死率が低い新型インフルエンザで可能性が高い危機は、

「最初の集団感染企業となり、大きく報道されること(=風評被害)」
「突発的な集団感染で特定の職場の機能が突然マヒすること」

など。強毒性インフルエンザや地震被害のリスクとはかなり違いますね。

※写真はみなとみらいです。

 

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地震動の予測地図

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政府の地震調査委員会は21日、「全国地震動予測地図」を作成し、
公表しました。

地震調査研究推進本部のHPへ

地震調査委員会ではこれまでも「全国を概観した地震動予測地図」を
公表してきましたが、今回の予測地図ではメッシュサイズの細分化
(1km四方→250m四方に変えることで、きめ細かく表現)や、
地震カテゴリーごとの確率論的地震動予測地図の作成
(備えるべき地震がどのようなカテゴリーのものかわかりやすくなった)
などの改良が行われています。

今回の予測地図によると、横浜(市役所付近)で今後30年以内に
震度6弱以上の揺れに見舞われる確率(平均ケース)は66.7%、
千葉(同)は64.0%、大阪(同)は59.5%と、前回よりも大幅に上昇しています。
これは、低地における揺れの増幅率が大きく評価されるようになったため
(市役所はたいてい低地にあります)だそうです。

「今後30年以内に震度6以上の揺れに見舞われる確率が60%」
と言われても普通の人はピンときませんよね。
合わせて公表された解説のなかに、地震など自然災害の発生確率と、
事故や犯罪等の発生確率を比べた表がありました。

事故死や病死の可能性とは違い、地震の発生確率は、
あくまで地震そのものが発生する確率であり、地震による損害が
どの程度の確率で発生するかを示したものではありません。

それでも、「100年に1度の危機」とか言われるなかで、
それよりもはるかに高い確率であることが理解できます。

※写真は台湾の衛兵交代です。

 

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