02. 保険会社の経営分析

生保決算から

こんどは生保決算について。
見かけと実態のギャップが大きいというのが私の総括です。

メディアは好決算と報道

ここ数日の業界紙(保険毎日新聞)の1面トップはご覧のとおりでした。

「日本生命 基礎利益が開示以来の最高益」(5月29日)
「明治安田生命 グループ・単体共に2年連続最高益」(30日)
「住友生命 連結基礎利益、堅調に推移」(31日)

29日の日経「生保決算を読む(上)」も、見出しは「マイナス金利でも最高益」で、次のような記述がありました。

「外国債券や株式など、国債以外のリスク資産に運用資金を配分し、マイナス金利による運用難の逆風をはね返した」
「最高益によって保険契約者には配当増という恩恵が及ぶが、膨らんだ運用リスクをどう管理するか新たな課題も浮かぶ」

金利低下の影響は小さくない

しかし、好決算はあくまで見かけ上の話であって、実態は結構厳しかったというのが私の見方です。
何より長期金利の水準が、日銀がマイナス金利政策を開始した直後の2016年3月末よりも下がってしまったのは、多くの生保にとって誤算だったと思います。
「誤算」というのは、ここ数年の各社が行ってきた、金利リスクの削減を主な目的とした超長期債の購入を抑え、あえてリスクを抱えるという判断が裏目に出ているからです。
損保グループの健全性が金利低下の影響を受けて悪化しているのですから、より大きな金利リスクを抱える生保が影響を受けていないはずはありません。

外貨建資産の積み上げも、基礎利益には確実にプラスとはいえ、株式保有とともに経営のボラティリティを高める要因となっています。
外貨建資産のうち6割程度は為替リスクをヘッジしているようですが、昨今のヘッジコストの上昇を受け、一定の為替リスクをとるかたちでのデリバティブ活用も見られるなど、ヘッジ外債戦略はますます苦しくなってきたように思えます。

最高益は見かけにすぎない

「最高益」といっても、外国証券の利息配当金収入などが増えたことによる基礎利益が過去最高益では、そこに積極的な意味を見出すのは難しいのではないでしょうか。
日経記事の「最高益によって保険契約者には配当増という恩恵が及ぶ」というのも、本当にそうなのか、甚だ疑問です、

実はこうした内容の文章を、今月のどこかで発売される週刊ダイヤモンドの保険特集に寄稿しました。機会がありましたらご覧ください。
保険特集の全体像は私も知らないので、楽しみにしています。

(追記)週刊ダイヤモンドの保険特集は6月10日発売(つまり次週号)の掲載という案内が出ていました。

※写真の美麗島駅(台湾・高雄)は美しい地下鉄駅として知られています
 (ちびまる子ちゃんもいました)。

 

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損保決算から

生損保の2018年度決算が概ね出そろいました。
今回は損保について取り上げたいと思います。

過去最高の支払い額

昨年度の風水災による支払保険金が、12月ころの見込み(1兆円程度)を大幅に上回ったことがわかりました。
20日に損保協会が公表した3つの巨大災害、すなわち、「7月豪雨(1955億円)」「台風21号(1兆142億円)」「台風24号(3060億円)」の支払保険金の合計は1.5兆円に達しました。
また、同じく20日に3メガ損保が公表した支払保険金(元受・国内のみ)の合計は1.66兆円(東京海上5067億円=報道ベース、MS&AD 6550億円、SOMPO 4988億円)となりました。

財務内容には大きな影響なし

支払保険金は過去にない規模となりましたが、3メガ損保の財務内容に深刻な影響があったのかといえば、答えはノーです。
先ほどの1.66兆円は元受ベースであり、再保険回収後の正味ベースでは6400億円とのこと。経営内容を揺るがすといったレベルではありません。

各社は健全性の手掛かりとして、ESR(Economic Solvency Ratio)という、内部モデルに基づいた独自の健全性指標をそれぞれ公表しています。
リスクに対して経営体力をどの程度備えているかを示したもので、高いほうが余力があることになります。
各社の数値は次のとおりです(2018/3末 ⇒ 2019/3末)。

 東京海上 201% ⇒ 174%
 (ターゲットは150~210%、信頼水準99.95%)

 MS&AD  211% ⇒ 199%
 (ターゲットは180~220%、信頼水準99.5%)

 SOMPO  229% ⇒ 227%
 (ターゲットは180~250%、信頼水準99.5%)

いずれも低下したとはいえ、各社が定めたターゲットの範囲に収まっています。
実のところ、ESRを押し下げた要因は自然災害の影響で純資産が積み上がらなかったことのほか、長期金利の低下によって生保事業の純資産が減ったことが大きい模様です。

ESRから見える各社の経営方針

計算方法や想定するストレスの程度が異なるので単純な比較はできませんが、東京海上の下げ幅が大きいように見えます。
公表資料からは、おそらく次のような説明ができるのではないかと思います。

・MS&AD、SOMPOに比べて出再が少なく、保有が大きかった。
・政策株式の売却規模が3社のなかで最も小さかった。
・MS&ADは劣後債を発行し、純資産を増強。
・SOMPOは生保事業で終局金利を使用(ESRの金利感応度が低い)。

(追記)
「出再・保有」の話は資本の積み上げに影響する要因として挙げましたが、それなら株主還元にも触れたほうがよさそうですね。
各社の説明を総合すると、金利の影響が最も大きかった模様です。

※高雄(台湾)では数年前からトラムが走っています。

 

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生保の資産運用

株式・貸付金から公社債・外国証券へ

4月19日に生命保険協会が公表した提言レポート「生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組について」の3ページめに、過去70年間の生保運用資産の構成割合の推移が示されています。
70年間というスパンで見ると、日本国債をはじめとする公社債と、年々増えている外国証券が中心を占めるようになったのは最近のことであって、かなりの期間は株式と貸付金が主体だったことがわかります。
外国証券の割合がここまで高いのも、過去にはなかったことのようです。

生保資産運用の社会的役割

レポートによると、生保の資産運用が果たしてきた社会的な役割は時代によって変わっています。
高度成長期(1950年代~70年代初)には融資・株式投資を通じて、重工業中心の経済成長に貢献しました。低成長期(石油危機~90年頃)には多様な産業への投融資を通じて、第三次産業の発展に貢献しました。そして低成長期(90年代~現在まで)には国債投資を通じて、高齢化社会移行に伴う財政負担を下支えしており、加えて2000年代後半からはESG投融資等を通じて、持続可能な社会の実現に貢献しています。

確かにそのとおりなのですが、民間企業としての生命保険会社の資産運用を考えた場合、これらはあくまで結果としてそうだったという話であって、これらの社会的役割を果たすために生保が加入者から保険料を集めてきたのではないと理解すべきだと思います。
例えば、米国の生保(一般勘定)が株式や国債ではなく社債を中心に運用しているからといって、「米国の生保が社会的な役割を果たしていない」と批判するのはおかしいですよね。

何を優先すべきなのか

生保として最も優先すべきことは長期にわたる保険契約を全うすることであり、資産運用もそのために行っているはずです。
そこを踏まえないと、生保はいつまでも「お金が湧いてくる便利なポケット」のようにとらえられてしまいます。株式と貸付金が主体の資産運用の時代の亡霊は令和の時代にはふさわしくありません。

生保が提供している商品は超長期にわたり固定金利を保証しているので、よほど自己資本が余っていて、それが許容される状況であれば別ですが、そうでなければ保険負債の金利リスクをヘッジする投資行動となるのが自然な姿だと思います。

※写真は釜山の甘川文化村です。町おこしの成功例と言えるのかもしれません。

 

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「節税保険」販売休止の影響

3月期末の30年国債利回りは0.507%と、マイナス金利政策の開始直後だった2016年3月末(0.547%)よりも低い水準でした。厳しいですね。

生保への副作用も大きい

長引く異次元緩和の副作用として銀行経営への悪影響が注目されていますが、生保経営へのインパクトも、現行会計では見えにくいだけで、非常に大きいものがあります。
ソルベンシーマージン比率が高水準にもかかわらず、劣後調達が相次いでいるのを見ても、厳しさの一端がうかがえます。

商品面への影響も大きく、これだけ金利水準が下がってしまうと、円建ての貯蓄性商品の提供は実質的にできません。そこで保険会社が注力してきたのが外貨建ての貯蓄性商品であり、販売休止となった経営者向け保険であったと言えるかもしれません
(もちろん、他にも健康増進型保険など個人向けの保障性商品への新たな取り組みもあります)。

ちなみに金融庁は2月に行われた生命保険協会との意見交換会で、「低金利環境による厳しい収益環境が続いているとはいえ、トップライン維持のために、過去を反省することなく、このように法令や監督指針に照らして問題がある商品まで投入してしまうという保険会社の姿勢はいかがなものか。経営の在り方としてはあまり美しくないと感じざるを得ない」という異例のコメントをした模様です。

経営者保険の保険料は個人保険の3割程度

経営者向け保険が販売休止となったことによる生保経営への影響を考えてみましょう。

最近出た東洋経済オンラインの記事によると、経営者向け保険の推定市場規模は新契約年換算保険料ベースで8000億~9000億円とのこと。
「経営者向け保険」「法人向け定期保険」といった統計はありませんが、個人で保険料を年払いにしている人は少ないと考えられますので、公表されている年払保険料を見ると大まかな傾向をつかむことができます。
2018/3期における個人保険の初年度保険料のうち、年払いは業界全体で8662億円でした。異次元緩和が始まる直前の2013/3期と比べると2160億円、マイナス金利直後の2016/3期と比べても985億円増えていて、内訳を見ると、2つの大手生保グループが大きく寄与しています。

個人保険全体に占める割合をざくっと見ると、新契約年換算保険料と比べて39%、初年度保険料(振れの大きい一時払いを除く)と比べると34%です。
個人向け商品の年間保険料に比べ、経営者向けの1件あたりの保険料が高いので、件数としては全体の1割未満だとしても、保険料収入でみると割合が高くなります。
ちなみに2013/3期はそれぞれ31%/29%、2016/3期はそれぞれ32%/31%だったので、割合は高まっています。

経営への影響をどう見るか

ただし、経営者向け保険の競争が激しかったためか、保障性商品に比べると収益性はかなり低いとみられます。
第一生命ホールディングスによると、第3四半期累計(2018/4-12)の国内3社の新契約年換算保険料3150億円のうち、販売休止となった商品が950億円と、全体の30%を占めたそうですが、新契約価値については年100~200億円程度にとどまるそうです(参考までに2018/3期の新契約価値は3社合計で1651億円でした)。
手掛かりが少なく正確なところはわかりませんが、大手生保のように個人も法人も手掛けている会社では、少なくともこの要因だけで新契約価値が急減することは考えにくいです。

もっとも、個社別に見ると、年払い保険料が初年度保険料(除く一時払い)の7割以上を占める会社がいくつかあり、営業戦略の大幅な見直しを迫られていると考えられます。
同じくこの分野に強みを持ち、節税話法に傾斜していた訪問型代理店への影響も深刻でしょう。
わかっていたリスクがこのタイミングで顕在化したという話ではありますが…

※写真は秩父です。電車はさくら号でも、咲いていたのは梅でした^^

 

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2018年度第3四半期報告から

2月14日までに生命保険会社の2018年度第3四半期の業績がほぼ出そろいました
エヌエヌ生命は過年度決算を再度訂正しているようで、第3四半期も未公表です)。

この四半期(2018年10-12月)だけを見ると、株価が下落し、長期金利も下がり、主要通貨に対して円高が進むという、多くの生保にとって金融市場は逆風となりました(下記参照)。
その影響はEVを見るとよくわかりますし、ソルベンシーマージン総額の減少などからも部分的にうかがうことができます。

日経平均 24120円 ⇒ 20015円(-17%)
TOPIX  1817 ⇒ 1494(-18%)

円・ドル  114円 ⇒ 110円(-4%)
円・ユーロ 132円 ⇒ 126円(-5%)
円・豪ドル  82円 ⇒ 77円(-6%)

10年国債利回り 0.13% ⇒ 0.01%
30年国債利回り 0.89% ⇒ 0.72%

この間、大手生保の資産運用がどうだったのかを公表資料から探ってみたところ、なんと大手5社のいずれもが、昨年9月末時点よりも外債投資を減らし(外国公社債の帳簿価額から推計)、責任準備金対応債券区分の国内公社債を増やしていました。
第3四半期報告では残存期間や為替ヘッジの情報開示がないので、為替リスクや金利リスクがどうなっているのかまではわかりませんが、これまでとは動きが変わってきているのかもしれませんね。

※この週末は地元・大倉山公園の梅祭りでした。

 

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きんざいの生保経営分析

直近の週刊金融財政事情(2019年2月4号)で「主要生保経営の現状と課題を探る」を執筆しました。
先日ご紹介した保険毎日新聞のインタビュー記事をより詳しくした感じです
(いずれも4-9月期決算を踏まえたものなので)。

インタビュー記事でも触れましたが、メーカー(商品提供会社)としての大手生保は販売チャネルの多様化に動く一方で、営業職員を主体とする販売会社としては、グループ化や業務提携により商品ラインナップの充実を図っています。

大手生保が保険ショップの買収を含め、マルチチャネル化を積極的に進めているのは、自前の営業職員チャネルだけではアクセスが難しい層が増えており、マルチチャネルに転じなければ先細りになってしまうという判断だと思います。新しい販売網はもはや営業職員チャネルの補完を超えた存在になりつつあるようです。
その一方で、大手各社の営業職員チャネルでは、他社商品を取り扱い、かつ、相応の業績を上げているケースが目立ちます。

他社商品の取り扱いがグループの範囲に収まる、あるいは補完的な分野に限られているのであれば、「メーカーによるマルチチャネル化」「販売会社による他社商品の取り扱い」の両立は可能です。でも、保険ショップやネット通販、乗合代理店といった、台頭するライバル販売チャネルに対し、それで販売会社としての競争力を維持できるかどうか。

決算分析と言いつつ、そのようなことも書いていますので、機会がありましたらご覧ください。

RINGの勉強会で金沢へ。茶屋街の近くで豆まきがあったようです。

 

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損保決算のインタビュー記事

生保に続き、損保についても保険毎日新聞にインタビュー記事が載りました(23日)。
「損保会社2018年度上半期決算の評価 植村信保氏(保険アナリスト)に聞く 重要な自然災害リスクの見極め」というもので、決算を踏まえた大手損保グループ経営の現状を次の3点で整理しました。

自然災害多発の影響が上半期決算に大きく影響した

・各社の支払い余力の水準やリスク管理体制を踏まえれば、1兆円規模といえども健全性を揺るがすほどのものではない。

・多発した自然災害をどう捉えるべきか、保険会社の見方は分かれている。災害発生のトレンドが変わってきているという見方もあれば、確率上は数十年に1回しか発生しないようなことが起きたとはいえ、あくまで想定の範囲内という見方もある。

・今後の自然災害リスクをどう捉えるかによって、保険会社としての備えもプライシング戦略も大きく変わってくるため、この見極めが非常に大事になる。

自然災害を除き、国内損保事業は堅調に推移した

・主力の自動車保険では、損害率が若干上がり気味ではあるものの、収支残を十分確保できている。過去の料率引き上げや等級制度の見直しが効いていて、今のところ安定している。

・今後の自動車保険の収支を悪化させる要因として、消費税率の引き上げと、債権法(民法)の改正による法定利率の引き下げがある。足元の料率引き下げトレンドに加え、火災保険の料率引き上げも見込まれている中で、この二つの要因をどこまで自動車保険の料率に反映できるだろうか。

国内損保事業への依存度が徐々に下がっている

・今回の上半期決算は、事業や地域の多角化が進んだことを実感させるものでもあった。3メガ損保グループの通期業績予想(連結純利益)がいずれも黒字かつ増益なのは、異常危険準備金の取り崩しに加え、国内生保事業や海外保険事業による下支え効果も大きい。

・特に国内生保事業は、会計上の貢献度は小さく見えるものの、保有契約もEVも拡大傾向が続き、グループ経営を支える存在となっている。

・海外事業展開については、買収による拡大だけでなく、業績の立て直しや事業再構築などの動きも起きている。買収時にどんなに慎重に見極めたとしても、その後想定外のことが起きやすい。東京海上グループが再保険事業を売却したのも非常に興味深い動きと受け止めている。

機会がありましたらご覧ください。
保険毎日新聞のサイトへ

※築地を歩くと古い建物に出会います

 

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生保決算のインタビュー記事

17日の保険毎日新聞にインタビュー記事が載りました。
「生保会社2018年度上半期業績の評価 植村信保氏(保険アナリスト)に聞く、外貨建資産が経営に大きく影響」というものです。骨子は次のとおりです。

「一般勘定の資産構成で外貨建て資産の占める割合は決算のたびに高まり、会計上の利益でも外貨建て資産の影響が大きくなっている」

「運用リスクを高めているとはいえ、健全性の面では大きな変化は見られない。新契約価値の積み上げに加え、この上半期には株価が上昇し、長期金利も若干だが上昇。円安も進んだため、生保のリスクテイクがプラスに働き、支払い余力の増強につながった」

「商品・販売面を見ると、外貨建て保険、特に貯蓄性の強い商品が売れたかどうかで各社の保険料収入が大きく変動するのが目立つほか、収益性が高く、会社価値拡大を支えている保障性商品の販売は比較的堅調であった模様だ」

「近年の保険会社のグループ化や業務提携の動きが販売面に表れていることも注目される」

機会がありましたらご覧ください。
保険毎日新聞のサイトへ

※写真は旧万世橋駅です。

 

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責任準備金組入率とは?

毎日新聞の投書欄に「保険批判への反論も載せて」という保険関係者による投書がありました(11日)。
ビジネス誌による生命保険特集に掲載されている保険コンサルタントや評論家による商品評価の内容が、独自の視点による一刀両断といった内容ばかりで、しかも、的外れの内容があまりに多いので、せめて保険会社の言い分も載せるべきという内容でした。
保険数理のプロに「読む度にため息が出る」と言わせてしまうような記事が例えばどのような内容なのか、興味がありますね。心当たりが全くないわけではありませんが…

やや話がずれてしまいますが、私もこの週末に日吉駅の書店(ローカルですみません)で思わずため息が出てしまいました。
保険関係のコーナーにはなぜか三田村さん(大手生保の出身だそうです)というかたの書籍ばかりが並んでいて、いずれも保険会社を見極める指標として「責任準備金組入率(積立率)」を薦めていました
(個社ごとに指標の推移が載っていました)。

ここで言う「責任準備金組入率(積立率)」とは、損益計算書の保険料等収入に対し、経常費用の1項目である「責任準備金等繰入額」の占める割合です。
この数字が概ね40%あれば健全な財務力がある会社と考えられ、数字が低い会社は積み立てるべき責任準備金を積めていないとのこと。
思わずのけぞってしまった読者も多いかもしれませんが、このかたは少なくとも10年以上前から同じ主張を続けています。

当期の保険料等収入と責任準備金等繰入額を比べて何がわかるのでしょうか。
シンプルに説明すれば、保険会社は当期の保険料等収入のうち将来支払う見込みの部分を責任準備金として繰り入れる一方、責任準備金を取り崩す(戻入する)ことで、当期の保険金や給付金の支払いに充てています。ただ、繰入額と戻入額はネット表示なので、満期や解約などが多ければ責任準備金等繰入額が小さくなったり、収益として責任準備金戻入額が計上されたりします。さらに言えば、保険料等収入も、貯蓄性商品の販売により大きく変動します。

ですから、組入率(積立率)が小さいのは、単にその期の保険金等支払金が相対的に大きかったというだけであり、積み立てるべき責任準備金を積めていないわけでは決してありません。
2000年前後に破綻した会社の数字がいずれも小さかったので、この数字を重視しているのかもしれませんが、当時は生保への信用不安が解約の増加につながり、責任準備金の戻入が大きくなったという話です。高水準の解約が続いているので指標が低水準で推移しているというのであればまだしも、単にこの数字の大小をもって生保の健全性を見極めるというのは、どう考えても無理があります。

ということで、今回は「ため息が出る」話でした。

※ビュースポットに立つと富士山が見えました

 

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保険料等収入の内訳は?

少し前に2017年度版のインシュアランス統計号(生保版)が出たので、メディアで取り上げられることの多い、生保の「保険料等収入」について改めて確認してみました。

企業年金の受け入れも保険料収入

まず、保険料等収入の「等」は再保険収入です。漢字生保ではごくわずかですが、プルデンシャルやマニュライフといった外資系、あるいは第一フロンティアなど、再保険を積極的に活用している会社では、「等」のあるなしで数値がかなり違ってきます。

保険料収入について、以前から「保険料収入を売上高と見るのは無理がある」と主張してきましたが、その最たるものは団体年金保険の保険料です。生命保険協会の資料も参考にすると、2017年度では、保険料収入32.4兆円のうち、約3兆円が団体年金でした(全社ベース)。

団体年金保険は「保険」といっても実質的には企業年金などから預かった資金を運用する業務なので、その期に新たな受託資産があるかどうかで保険料収入が決まります。例えば、大手4社(日本、第一、住友、明治安田)の2016年度の保険料等収入は2015年度よりも約2.2兆円少なかったのですが、意外にも団体年金の保険料収入が1兆円以上も減ったことが主因でした。マイナス金利政策を踏まえ、生保が新規の受け入れを抑えたのかもしれません。
いずれにしても、資産運用業務の資金受け入れを売上高と言うのは違和感があります。

個人保険の月払保険料に注目

個人分野(個人保険、個人年金保険)の統計は「初年度保険料」と「次年度以降保険料」に分かれています。
2017年度の場合、個人分野の保険料27.3兆円のうち、初年度保険料は8.4兆円でした(全社ベース)。つまり、当期の保険料収入のうち7割は、過去に獲得した契約から得たものということになります。

さらに、初年度保険料も「一時払」「年払」「その他(主に月払)」に分けることができます。
「一時払」は銀行窓販に代表される貯蓄性商品の販売に伴うもので、初年度保険料に占める割合が高いうえ、変動が大きいのが特徴です。例えば、2015年度には全社ベースで9.2兆円(初年度保険料の77%)だったものが、2017年度は5.6兆円(同67%)にとどまりました。

このように見ると、保険料収入だけで生保の業績を語ろうとすると、企業年金等の資金受け入れがあったかどうかと、一時払の貯蓄性商品が売れたかどうかを追いかけることになってしまうのですね。

生保の収益を支えているのは一時払の貯蓄性商品や年払の経営者保険というよりは、保障性商品である月払の個人保険です。2017年度の場合、個人保険の初年度保険料(一時払、年払を除く)は1.6兆円で、保険料収入の5%程度にすぎません。
もちろん、この部分にもドアノック商品として貯蓄性の高い商品が含まれてしまうとはいえ、会社価値という観点からはこの部分こそが重要で、ここが減少トレンドにある会社は要注意ということになります。

※写真は横浜です。赤レンガ倉庫でクリスマス市をやっていました。

 

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