02. 保険会社の経営分析

2つの投資案件

大手保険グループの東京海上とSOMPOがたまたま同じ日(10月3日)に投資案件について公表しました。
その内容はそれぞれの経営戦略を象徴しているかのようでした。

米国保険事業を強化

東京海上ホールディングスが公表したのは米国保険事業の買収です。
HNW(High Net Worth、富裕層)向けに特化したスペシャルティ保険グループPrivilege Underwriters(ピュアグループ)を31億米ドルで買収するというもので、米国での大型買収は2008年のフィラデルフィア(買収金額は約5000億円)、2011年のデルファイ(約2000億円)、2015年のHCC(約9000億円)に続くものとなります。

このピュアグループのビジネスモデルが興味深いのはフィー主体というところです。
ピュアグループはあくまで保険契約者が所有するレシプロカル(≒共済)の業務運営を行うのであって、引受リスクをコントロールすることで利益を得る通常の保険事業とは異なるのですね。

なお、本件は「当社が目指す『持続的な利益成長と分散の効いた事業ポートフォリオ』の実現の一環」とのことです。ただし、地域分散という観点からすると、米国事業への集中度合いは際立っています。
というのも、東京海上が5月に公表した事業別利益(2019年度予想)3730億円のうち、国内損保1420億円に対し、海外保険は1770億円で、このうち北米が1590億円です。北米が海外事業の9割近くを占めていて、かつ、国内損保を上回っている状況なのです。今回の買収によって、北米の利益ウエートが一層高まることになりますね。

シェアリングエコノミー市場への展開

SOMPOホールディングスが公表したのは駐車場シェアリング事業への新規参入です。
駐車場シェアリング事業の最大手であるakippa(アキッパ)社の株式を取得し、関連会社化しました(持ち分は33.4%)。

シェアリングサービスは日本でも徐々に普及しつつありますが、駐車場シェアリングは比較的新しい分野で、アキッパ社が事業を始めたのは2014年とのこと。
現在の会員数は約150万人、駐車場の拠点数は全国で約3万ですが、SOMPOグループの保険代理店が駐車場を開拓することで、2022年には駐車場拠点を20万に拡大し、会員数1000万人を目指すそうです。

SOMPOグループは2019年に入り、個人間カーシェアリング事業とマイカーリース事業に参入(いずれもDeNAと合弁)するなど、MaaSと呼ばれる移動のサービス化に取り組んでいます。
本件自体の投資規模は10億円単位だと思いますが、将来を見据えた布石として興味深いものと言えるでしょう。

※この週末は地元のお祭りです。

 

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生保の契約動向

生保の4-6月期決算が出そろったようです。
経営者保険の販売が多かったと考えられる会社の契約動向を確認してみました。

特化型の会社

経営者保険に特化した戦略をとっている会社(エヌエヌ生命など)や、経営者向けが多かったとみられる会社(マニュライフ生命、FWD富士生命など)では、個人保険の新契約年換算保険料(ANP)が、まるでジェットコースターのような動きをしています。1-3月期に急増した後、この4-6月期には一転して急減となり、前年同期を大幅に下回る水準となりました。

例えばエヌエヌ生命、マニュライフ生命の新契約ANPは次のとおりです。

      10-12月 1-3月 4-6月
 エヌエヌ  259  644  29億円
 マニュ   234  375  51

      前期比  前年同期比
 エヌエヌ △95.4% △84.7%
 マニュ  △86.4  △68.4

損保系生保

特化型の会社ほどではありませんが、損保系生保の新契約ANPも4-6月期は前期比および前年同期比で大きく落ち込みました。
経営者保険以外の要素も加わっているとは思いますが、損保代理店による生保クロスセルや保険ショップでの販売が中心であれば、ここまで前年同期比で落ち込むとは考えにくいです。

      前期比  前年同期比
 あんしん △55.3% △58.6%
 MSA   △49.1  △29.1
 ひまわり △45.7  △38.9

大手生保など

日本生命は前期比では落ち込んでいるものの、前年同期比ではそうでもありません。会社全体で見れば、主力商品を販売しつつ、経営者保険にも力を入れていたということかもしれませんが、銀行窓販による増収が下支えとなった面もあるようです。
参考までに、日本生命グループの営業職員等チャネルは前年同期比△19.1%でした。

第一生命グループ(第一生命とネオファースト生命)は前期比、前年同期比ともに大きく落ち込んでいます。グループとして経営者保険にかなり傾斜していたと言うべきか、あるいは、ネオファースト生命の経営者保険が大ヒットしていたと言うべきなのか、評価が分かれそうです。
もっとも、第一生命だけでは前年同期比△3.9%で、落ち込みは軽微でした(銀行窓販は第一フロンティア生命が担当)。

      前期比  前年同期比
 日本   △52.6% △15.1%
 第一G   △62.5  △55.8
 住友   △ 9.1  △13.2
 明治安田 △31.6  △31.6

コンサルティングセールスを主力とする2社(ソニー生命、プルデンシャル生命)も年払保険料がそこそこ大きく、数値もジェットコースター型となっています。
ただし、特化型の会社とはちがい、前年同期比ではそれほど落ち込んでいないので、経営者保険の落ち込みをそれ以外の保険販売でカバーできたということかもしれません。

     10-12月 1-3月 4-6月
 ソニー  150  277  140億円
 POJ    183  273  163

      前期比  前年同期比
 ソニー  △49.4% △12.6%
 POJ   △40.2  △ 6.1

公表データからわかるのはこのくらいでしょうか。

※写真は沼津港です(8/4撮影)

 

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業界紙のインタビュー記事

7月9日と10日の保険毎日新聞に私のインタビュー記事が載りました。
いずれも2018年度決算の総括と19年度の展望ということで、9日が生保、10日が損保でした。
これまでブログで紹介した決算関連のコメントと基本的には同じ内容ですが、以下のような話もしています。

基礎利益について(9日)

「もともと基礎利益という指標は、生保業界で破綻した会社が出たり、毎年多額の逆ざやが計上されていたりした時代に、『生保会社は、逆ざやが危険差益や費差益で埋めきれないで、支払余力を取り崩して身を削っているので、何年間かたつと支払余力がなくなってしまうのではないか』という外部からの誤った見方に対する反論として、三利源損益を見せる代わりに、それらの合算に近い基礎利益という指標を開発し、公表したという経緯がある。(中略)当時は意味があったのかもしれないが、今の状況では基礎利益に意味を見いだすのは難しい。メディアで取り上げるから経営が重視せざるを得ないというおかしなことになっている」

損保の事業費構造(10日)

「各社の事業費率の構造のうち、諸手数料および集金費、つまり、代理店手数料まわりの部分は高止まりしており、場合によっては正味収入保険料に対して上昇している。(中略)代理店の大型化に伴い、代理店手数料テーブル(水準)が高い代理店の募集人が増えた結果だとは思うが、この状況を保険会社としていつまで許容できるのか。今後の動向に注目していきたい」

海外展開の影響(10日)

「今後、海外事業における収益の貢献が一定程度を占める保険グループでは、かつてのように国内中心の事業運営で、国内の経営陣だけが経営を担っていくことは難しくなってくるだろう。仮に海外で買収した企業には高い規律を求め、リスクに対する高いリターンを要求する一方で、国内では従来通りの『シェア重視』『利益よりはトップラインを重視』といったダブルスタンダードになっている保険グループがあるならば、今後はそうしたグループ運営はできなくなっていくだろう。(中略)保険グループが海外事業に注力すればするだけ、より経営の変革を迫られることになるだろうし、また、そうあるべきだと思っている」

※歩くのが不自由になって、エレベーターやエスカレーターのありがたさを実感しています。

 

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生命保険論集に論文が載りました

生命保険文化センターの論文集「生命保険論集」の第207号(6月20日発行)に論文が載りました。
タイトルは「生命保険業界における経済価値ベース評価の活用状況に関する考察」です。
1年くらいたつと文化センターのサイトから論文を読めるようになるのですが、ざっと中身をご紹介しましょう。

総資産5兆円超では全社が活用

いよいよ経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に向けた検討が進みつつある(例えば有識者会議の設置フィールドテストの毎年実施など)とはいえ、まだ導入時期が固まっていない状況下において、経済価値ベースの評価に基づく経営管理が生保業界にどの程度浸透したと言えるのか。本稿はこれを公表資料から探ったものです。

経営管理という、外部からは把握が難しいテーマではあるのですが、本稿ではまず、公表資料における経済価値ベースの経営管理に関する記述を調査してみました。
具体的には、生保41社が2018年に公表したディスクロージャー誌に経済価値ベースの経営管理に関する記述があるかどうかを確認しました。記述の有無を判断する際、「経済価値」という記述のほか、「市場整合的な手法」「資産と負債を時価評価」「新契約価値で評価」などの記述も含めています。

もちろん、2018年のディスクロ誌に経済価値に関する記述がなかったからといって、その会社が経済価値ベースの評価を経営管理に取り入れていないと判断するのは無理があります。ただ、記述がある会社に関しては、少なくとも何らかの形で経済価値ベース評価を活用していると判断できます。
調査の結果、41社のうち23社で何らかの記述があり、さらに、総資産が5兆円を超える18社については全社で記述がありました。

活用は道半ばと総括

次に、経済価値ベースの評価が実際の経営管理に活用されている可能性、あるいは活用されているとは考えにくい状況証拠をいくつか挙げてみました。

活用されている可能性を示唆する状況証拠としては、近年の大手・中堅各社における資本調達(主に劣後債務の調達)ラッシュがあります。ソルベンシーマージン比率は高水準で推移し、基礎利益や当期純利益は微増傾向にもかかわらず調達ラッシュが起きているのは、長期金利の水準が下がり、経済価値ベースでみた健全性が悪化したためと考えるのが自然です。

その一方で、金利が下がり、経済価値ベースでみた健全性が悪化した状況下における対応として、それまでのリスク抑制姿勢(特に金利リスク)を改め、金利リスクの更なる抑制をやめ、さらに新たな資産運用リスクをとるという行動をどう理解したらいいのでしょうか。
同じモノサシを使った行動とはとても考えにくく、経済価値ベース評価が示す経営内容への対応よりも、経営として優先すべき何かがあると理解するほかありません。

こうした趣旨の論文ですので、機会がありましたら、ぜひご覧いただければと思います。

※築地市場の解体がだいぶ進みました。
 下の写真は正門跡です。

 

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「生保決算を読む」

直近のinswatch Vol.984(2019.6.10)に執筆した記事のご紹介です。
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2018年度の国内系生保11社の決算データを見ると、「増収」「増益」といった見かけの好調さと実態の厳しさのギャップが非常に大きいことがうかがえます。

「増収」は外貨建て保険の販売増

個人分野の保険料等収入は11社合計で前期比6200億円の増収でした(第一フロンティア生命、フコクしんらい生命を含む)。このうち銀行窓販による保険料収入の増収が6700億円程度(大樹生命を除く)とのことなので、銀行窓販による保険料収入の多くが一時払いの外貨建て貯蓄性保険であることを踏まえると、増収は外貨建て保険の販売増によるものと説明できてしまいます。
裏を返せば、経営者保険の販売が絶好調だったにもかかわらず、外貨建て保険の増収がなければ保険料等収入はマイナスだったわけです。要は貯蓄性商品の販売が多ければ増収、少なければ減収となるのが保険料等収入なので、この指標は生保ビジネスの一部分だけを示しているにすぎません。

では、銀行窓販以外の生保ビジネスはどうだったのかといえば、第三分野で増収を果たした会社もあれば、新契約件数が今ひとつ伸び悩んだ会社もあり、統一感はありません。ただし、昨年度は経営者向け保険が好調だったことを考慮すると、今年度の業績がかなり下振れする会社も出てくるのではないかと思います。

「増益」は外貨建て資産の利息収入が貢献

次は「増益」についてです。昨年度は大手を中心に、基礎利益が増益となる会社が目立ちました。
基礎利益(最低保証リスク対応の影響を除く)は11社合計で1300億円の増収でした。このうち逆ざや(順ざや)額の改善効果が1000億円、それ以外が300億円でした。それ以外がプラスになったのは3社だけで、何か特殊要因がありそうですが、いずれにしても、基礎利益の増益には逆ざや(順ざや)額の改善が大きかったことがわかります。11社合計で見ると、平均予定利率の低下による効果が大きく、さらに、会社によっては利息配当金等収入の増加も貢献しています。
利息配当金等収入の内訳は現時点では公表されていません。前々年度データによると、外債投資の増加とともに外国証券利息・配当金収入の割合が概ね3、4割まで高まっていることが確認できます(ソニー生命、かんぽ生命を除く)。外債投資の残高は年々増えているので、昨年度はさらに高まったかもしれません。
基礎利益には安定的に貢献しても、外債投資ですから、為替リスクや海外金利の変動リスク、外国債の信用リスクなど、運用リスクを伴う投資を増やした結果の、これまた一部分だけを見ているにすぎません。

実態はどうだったのか

では、全体として生保の損益はどうだったのかといえば、30年国債利回りが0.5%まで下がってしまった影響は大きく、各社が公表するEV(エンベディッド・バリュー)をご覧いただければ、厳しさの一端をうかがうことができます。
昨年度も生保各社は、健全性指標を下支えするべく劣後債務の調達を相次いで行いました(日本生命、第一生命、明治安田生命、かんぽ生命など)。このことだけを見ても、国内系生保が少なくとも好決算で浮かれた状況にはないことがわかります。

実のところ、2月に行われた「生命保険協会との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」には、「今後クレジット市場全般において、リスクが顕在化した際には、保険会社の財務にも、相応の影響を与えるのではないかと考えている」「最近のドル円の為替ヘッジコストの上昇は、外国証券による運用成果にも大きな影響があるものと考えている」という辛口の記述がありました。
浮かれているのはメディアと保険販売の現場だけとならないよう、生保経営の実態をしっかり確認していく必要がありそうです。
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なお、今週の週刊ダイヤモンドの保険特集でも、同じく生保の経営内容に関する分析記事を執筆していますので、機会がありましたらこちらもご覧いただければ幸いです。

※写真は横浜・みなとみらいです。

 

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生保決算から

こんどは生保決算について。
見かけと実態のギャップが大きいというのが私の総括です。

メディアは好決算と報道

ここ数日の業界紙(保険毎日新聞)の1面トップはご覧のとおりでした。

「日本生命 基礎利益が開示以来の最高益」(5月29日)
「明治安田生命 グループ・単体共に2年連続最高益」(30日)
「住友生命 連結基礎利益、堅調に推移」(31日)

29日の日経「生保決算を読む(上)」も、見出しは「マイナス金利でも最高益」で、次のような記述がありました。

「外国債券や株式など、国債以外のリスク資産に運用資金を配分し、マイナス金利による運用難の逆風をはね返した」
「最高益によって保険契約者には配当増という恩恵が及ぶが、膨らんだ運用リスクをどう管理するか新たな課題も浮かぶ」

金利低下の影響は小さくない

しかし、好決算はあくまで見かけ上の話であって、実態は結構厳しかったというのが私の見方です。
何より長期金利の水準が、日銀がマイナス金利政策を開始した直後の2016年3月末よりも下がってしまったのは、多くの生保にとって誤算だったと思います。
「誤算」というのは、ここ数年の各社が行ってきた、金利リスクの削減を主な目的とした超長期債の購入を抑え、あえてリスクを抱えるという判断が裏目に出ているからです。
損保グループの健全性が金利低下の影響を受けて悪化しているのですから、より大きな金利リスクを抱える生保が影響を受けていないはずはありません。

外貨建資産の積み上げも、基礎利益には確実にプラスとはいえ、株式保有とともに経営のボラティリティを高める要因となっています。
外貨建資産のうち6割程度は為替リスクをヘッジしているようですが、昨今のヘッジコストの上昇を受け、一定の為替リスクをとるかたちでのデリバティブ活用も見られるなど、ヘッジ外債戦略はますます苦しくなってきたように思えます。

最高益は見かけにすぎない

「最高益」といっても、外国証券の利息配当金収入などが増えたことによる基礎利益が過去最高益では、そこに積極的な意味を見出すのは難しいのではないでしょうか。
日経記事の「最高益によって保険契約者には配当増という恩恵が及ぶ」というのも、本当にそうなのか、甚だ疑問です、

実はこうした内容の文章を、今月のどこかで発売される週刊ダイヤモンドの保険特集に寄稿しました。機会がありましたらご覧ください。
保険特集の全体像は私も知らないので、楽しみにしています。

(追記)週刊ダイヤモンドの保険特集は6月10日発売(つまり次週号)の掲載という案内が出ていました。

※写真の美麗島駅(台湾・高雄)は美しい地下鉄駅として知られています
 (ちびまる子ちゃんもいました)。

 

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損保決算から

生損保の2018年度決算が概ね出そろいました。
今回は損保について取り上げたいと思います。

過去最高の支払い額

昨年度の風水災による支払保険金が、12月ころの見込み(1兆円程度)を大幅に上回ったことがわかりました。
20日に損保協会が公表した3つの巨大災害、すなわち、「7月豪雨(1955億円)」「台風21号(1兆142億円)」「台風24号(3060億円)」の支払保険金の合計は1.5兆円に達しました。
また、同じく20日に3メガ損保が公表した支払保険金(元受・国内のみ)の合計は1.66兆円(東京海上5067億円=報道ベース、MS&AD 6550億円、SOMPO 4988億円)となりました。

財務内容には大きな影響なし

支払保険金は過去にない規模となりましたが、3メガ損保の財務内容に深刻な影響があったのかといえば、答えはノーです。
先ほどの1.66兆円は元受ベースであり、再保険回収後の正味ベースでは6400億円とのこと。経営内容を揺るがすといったレベルではありません。

各社は健全性の手掛かりとして、ESR(Economic Solvency Ratio)という、内部モデルに基づいた独自の健全性指標をそれぞれ公表しています。
リスクに対して経営体力をどの程度備えているかを示したもので、高いほうが余力があることになります。
各社の数値は次のとおりです(2018/3末 ⇒ 2019/3末)。

 東京海上 201% ⇒ 174%
 (ターゲットは150~210%、信頼水準99.95%)

 MS&AD  211% ⇒ 199%
 (ターゲットは180~220%、信頼水準99.5%)

 SOMPO  229% ⇒ 227%
 (ターゲットは180~250%、信頼水準99.5%)

いずれも低下したとはいえ、各社が定めたターゲットの範囲に収まっています。
実のところ、ESRを押し下げた要因は自然災害の影響で純資産が積み上がらなかったことのほか、長期金利の低下によって生保事業の純資産が減ったことが大きい模様です。

ESRから見える各社の経営方針

計算方法や想定するストレスの程度が異なるので単純な比較はできませんが、東京海上の下げ幅が大きいように見えます。
公表資料からは、おそらく次のような説明ができるのではないかと思います。

・MS&AD、SOMPOに比べて出再が少なく、保有が大きかった。
・政策株式の売却規模が3社のなかで最も小さかった。
・MS&ADは劣後債を発行し、純資産を増強。
・SOMPOは生保事業で終局金利を使用(ESRの金利感応度が低い)。

(追記)
「出再・保有」の話は資本の積み上げに影響する要因として挙げましたが、それなら株主還元にも触れたほうがよさそうですね。
各社の説明を総合すると、金利の影響が最も大きかった模様です。

※高雄(台湾)では数年前からトラムが走っています。

 

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生保の資産運用

株式・貸付金から公社債・外国証券へ

4月19日に生命保険協会が公表した提言レポート「生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組について」の3ページめに、過去70年間の生保運用資産の構成割合の推移が示されています。
70年間というスパンで見ると、日本国債をはじめとする公社債と、年々増えている外国証券が中心を占めるようになったのは最近のことであって、かなりの期間は株式と貸付金が主体だったことがわかります。
外国証券の割合がここまで高いのも、過去にはなかったことのようです。

生保資産運用の社会的役割

レポートによると、生保の資産運用が果たしてきた社会的な役割は時代によって変わっています。
高度成長期(1950年代~70年代初)には融資・株式投資を通じて、重工業中心の経済成長に貢献しました。低成長期(石油危機~90年頃)には多様な産業への投融資を通じて、第三次産業の発展に貢献しました。そして低成長期(90年代~現在まで)には国債投資を通じて、高齢化社会移行に伴う財政負担を下支えしており、加えて2000年代後半からはESG投融資等を通じて、持続可能な社会の実現に貢献しています。

確かにそのとおりなのですが、民間企業としての生命保険会社の資産運用を考えた場合、これらはあくまで結果としてそうだったという話であって、これらの社会的役割を果たすために生保が加入者から保険料を集めてきたのではないと理解すべきだと思います。
例えば、米国の生保(一般勘定)が株式や国債ではなく社債を中心に運用しているからといって、「米国の生保が社会的な役割を果たしていない」と批判するのはおかしいですよね。

何を優先すべきなのか

生保として最も優先すべきことは長期にわたる保険契約を全うすることであり、資産運用もそのために行っているはずです。
そこを踏まえないと、生保はいつまでも「お金が湧いてくる便利なポケット」のようにとらえられてしまいます。株式と貸付金が主体の資産運用の時代の亡霊は令和の時代にはふさわしくありません。

生保が提供している商品は超長期にわたり固定金利を保証しているので、よほど自己資本が余っていて、それが許容される状況であれば別ですが、そうでなければ保険負債の金利リスクをヘッジする投資行動となるのが自然な姿だと思います。

※写真は釜山の甘川文化村です。町おこしの成功例と言えるのかもしれません。

 

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「節税保険」販売休止の影響

3月期末の30年国債利回りは0.507%と、マイナス金利政策の開始直後だった2016年3月末(0.547%)よりも低い水準でした。厳しいですね。

生保への副作用も大きい

長引く異次元緩和の副作用として銀行経営への悪影響が注目されていますが、生保経営へのインパクトも、現行会計では見えにくいだけで、非常に大きいものがあります。
ソルベンシーマージン比率が高水準にもかかわらず、劣後調達が相次いでいるのを見ても、厳しさの一端がうかがえます。

商品面への影響も大きく、これだけ金利水準が下がってしまうと、円建ての貯蓄性商品の提供は実質的にできません。そこで保険会社が注力してきたのが外貨建ての貯蓄性商品であり、販売休止となった経営者向け保険であったと言えるかもしれません
(もちろん、他にも健康増進型保険など個人向けの保障性商品への新たな取り組みもあります)。

ちなみに金融庁は2月に行われた生命保険協会との意見交換会で、「低金利環境による厳しい収益環境が続いているとはいえ、トップライン維持のために、過去を反省することなく、このように法令や監督指針に照らして問題がある商品まで投入してしまうという保険会社の姿勢はいかがなものか。経営の在り方としてはあまり美しくないと感じざるを得ない」という異例のコメントをした模様です。

経営者保険の保険料は個人保険の3割程度

経営者向け保険が販売休止となったことによる生保経営への影響を考えてみましょう。

最近出た東洋経済オンラインの記事によると、経営者向け保険の推定市場規模は新契約年換算保険料ベースで8000億~9000億円とのこと。
「経営者向け保険」「法人向け定期保険」といった統計はありませんが、個人で保険料を年払いにしている人は少ないと考えられますので、公表されている年払保険料を見ると大まかな傾向をつかむことができます。
2018/3期における個人保険の初年度保険料のうち、年払いは業界全体で8662億円でした。異次元緩和が始まる直前の2013/3期と比べると2160億円、マイナス金利直後の2016/3期と比べても985億円増えていて、内訳を見ると、2つの大手生保グループが大きく寄与しています。

個人保険全体に占める割合をざくっと見ると、新契約年換算保険料と比べて39%、初年度保険料(振れの大きい一時払いを除く)と比べると34%です。
個人向け商品の年間保険料に比べ、経営者向けの1件あたりの保険料が高いので、件数としては全体の1割未満だとしても、保険料収入でみると割合が高くなります。
ちなみに2013/3期はそれぞれ31%/29%、2016/3期はそれぞれ32%/31%だったので、割合は高まっています。

経営への影響をどう見るか

ただし、経営者向け保険の競争が激しかったためか、保障性商品に比べると収益性はかなり低いとみられます。
第一生命ホールディングスによると、第3四半期累計(2018/4-12)の国内3社の新契約年換算保険料3150億円のうち、販売休止となった商品が950億円と、全体の30%を占めたそうですが、新契約価値については年100~200億円程度にとどまるそうです(参考までに2018/3期の新契約価値は3社合計で1651億円でした)。
手掛かりが少なく正確なところはわかりませんが、大手生保のように個人も法人も手掛けている会社では、少なくともこの要因だけで新契約価値が急減することは考えにくいです。

もっとも、個社別に見ると、年払い保険料が初年度保険料(除く一時払い)の7割以上を占める会社がいくつかあり、営業戦略の大幅な見直しを迫られていると考えられます。
同じくこの分野に強みを持ち、節税話法に傾斜していた訪問型代理店への影響も深刻でしょう。
わかっていたリスクがこのタイミングで顕在化したという話ではありますが…

※写真は秩父です。電車はさくら号でも、咲いていたのは梅でした^^

 

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2018年度第3四半期報告から

2月14日までに生命保険会社の2018年度第3四半期の業績がほぼ出そろいました
エヌエヌ生命は過年度決算を再度訂正しているようで、第3四半期も未公表です)。

この四半期(2018年10-12月)だけを見ると、株価が下落し、長期金利も下がり、主要通貨に対して円高が進むという、多くの生保にとって金融市場は逆風となりました(下記参照)。
その影響はEVを見るとよくわかりますし、ソルベンシーマージン総額の減少などからも部分的にうかがうことができます。

日経平均 24120円 ⇒ 20015円(-17%)
TOPIX  1817 ⇒ 1494(-18%)

円・ドル  114円 ⇒ 110円(-4%)
円・ユーロ 132円 ⇒ 126円(-5%)
円・豪ドル  82円 ⇒ 77円(-6%)

10年国債利回り 0.13% ⇒ 0.01%
30年国債利回り 0.89% ⇒ 0.72%

この間、大手生保の資産運用がどうだったのかを公表資料から探ってみたところ、なんと大手5社のいずれもが、昨年9月末時点よりも外債投資を減らし(外国公社債の帳簿価額から推計)、責任準備金対応債券区分の国内公社債を増やしていました。
第3四半期報告では残存期間や為替ヘッジの情報開示がないので、為替リスクや金利リスクがどうなっているのかまではわかりませんが、これまでとは動きが変わってきているのかもしれませんね。

※この週末は地元・大倉山公園の梅祭りでした。

 

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