01. 保険経営全般

スカンディアの決断

週刊東洋経済4月2日号の日本国債特集のなかで、
次のような記述がありました。

「スウェーデンでは94年、同国最大手の生保スカンディアの社長が、
 『政治家が真剣に財政赤字削減に着手すると確信できないかぎり、
 スウェーデン国債を買わない』と公言。これを契機に国債利回りが急騰、
 通貨クローナが急落した。危機感を抱いた政府は歳出削減や増税など
 の財政再建計画を拡充し、やっと通貨安が収まったという経緯がある。」

なかなかすごい話ですね。

スカンディアのCEOが1994年7月に国債購入の停止を決めたことは
学術誌にも掲載されています。
 The Geneva Papers on Risk and InsuranceのPDFファイル

もう少し掘り下げてみると、スカンディアはこの時期、
ビジネスモデルの大変革に取り組んでいたことがわかります。

伝統的な生損保を主体とした総合保険グループだった
スカンディアは1990年代に入り、ユニットリンク保険、
つまり変額商品に経営の軸足を移していきます。
損保事業や再保険事業もグループから切り離しました。

しかも、自前チャネルではなく外部チャネルを活用し、
資産運用も外部の専門家に委ね、自らは商品・システム開発と
販売支援に特化するという革新的なビジネスモデルでした。

この大変革の結果、スカンディアは変額商品で世界有数の
保険グループに成長しました。

ですから、おそらく経営が会社価値の向上を真剣に考えた結果が
ビジネスモデルの変革であり、国債購入の停止だったのではないかと
思えてなりません。

ただし、この話には続きがあります。

2000年代初頭のITバブル崩壊の影響を強く受け、
米国スカンディアの売却など、スカンディアはグループ展開の
縮小を余儀なくされます(日本法人も売却しましたね)。
さらに経営陣のボーナスや住宅をめぐる問題なども発生し、
ついに2006年にはオールドミューチュアルの傘下に入りました。

これをもって、「ビジネスモデルを見直すべきではなかった」と
考えるべきかどうか。なかなか興味深いテーマですね。

※井の頭公園の「自粛」ポスターです。
 「天罰」と口走った人が「被災者へ配慮」だなんて。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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自然災害リスク分析会社

 

「米リスク管理会社AIRワールドワイドの13日時点の試算によると、
 11日に起きた東北地方太平洋沖地震で150億~350億ドル
 (約1兆2200億~2兆8600億円)相当の損害保険対象資産に
 被害が出たもようだ。(14日 WSJ日本版)」

「米災害リスク評価会社EQECAT(カリフォルニア州)は16日、
 保険会社や再保険会社が東日本大震災に関連して120億~
 250億ドル(約9600億~2兆円)の損失を受けるとの見通しを
 明らかにした。(18日 SankeiBiz)」

「米リスク分析モデル会社RMSは21日、東日本大震災による
 日本の経済的損失について、暫定試算値で最大3000億ドル
 (総生産の約5%相当)になると推定した。
 損失額は2000億─3000億ドルの間となり、保険でカバーされる
 損失額の評価は時期尚早としながらも、保険でカバーされるのは
 『わずかな比率』にとどまると予想している。(21日 朝日新聞)」

東日本大震災の損害額に関する記事にしばしば登場する
「AIR」「EQECAT」「RMS」は、一般にはなじみのない名前ですが、
損保(特に再保険)では重要な役割を果たしています。

というのも、この3社の自然災害リスク評価モデルが
ある種の「共通言語」のような存在になっているからです。

多くの保険会社や再保険会社では再保険取引等の際に、
RMSなどのモデルを活用し、参考にしているようです。

ただし、記事にある試算値は、一定の前提を置いたうえで
モデルによりざくっと計算したものだと思いますので、
あくまでも参考程度に見ておくべきなのでしょうね。

※いつもの通り、個人的なコメントということでお願いします。

※節電のため、東横線は全て各駅停車となっています。
 私は特急・急行の停まらない駅に住んでいるので、
 むしろありがたいかも^^

 

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保険に入るということは

 

前回はリース契約について書きましたが、
保険契約でも同じようなことが言えそうです。

生命保険など長期の保険契約を結ぶということは、
長期間の保障と引き換えに、保険会社に何十年間も
お金(保険料)を支払い続ける契約を結ぶということです。

例えば、保険料が月2万円で終身払いの保険に入ると、
仮に50年間だとして、総支払額は合計1200万円にもなります。
金利で割り引いて考えたほうがいいでしょうから、
実質的には700万円程度といったところでしょうか。
いずれにせよ、かなり大きな金額です。

保障を得た代償として、現在の資産と将来の収入のうち
700万円もの金額が固定されてしまうわけですから、
保険料の総支払額と受け取る保険金の損得だけではなく、
保険料の分だけ家計の自由度が下がっていることも
理解しておくべきでしょう。

ただ、保険契約が先のリース契約と決定的に違うのは、
契約者が一方的に解約できる点です。

問題となったリース契約では、自販機を手放すだけではなく、
多額の違約金を支払わなければリース債務が消えないようです。
しかし、保険契約を解約しても保障がなくなるだけで、
多額の違約金支払いなどはありません
(契約初期には一定の解約控除が発生します)。

半面、保険会社からすると、いつ解約されるかわからない
契約をたくさん抱えているということになりますね。
契約者が常に合理的に行動するとは限らないため、
実のところ、きちんと管理するのは結構大変な話です。

※左は姨捨の棚田、右は稲荷山の町並みです。

 

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老後の不安

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もうすぐ70歳になる私の母(元気です)が突然、
「医療保険に入ろうかしら」と言い出したのでびっくりしました。

私 「健康保険に入っているのに?」

母 「病気をすると何かとお金がかかるでしょ。将来不安よねぇ。
   年金生活だから苦しいと思うわ」

私 「高齢者の自己負担は少ないし、貯金もあるでしょ。
   病気になっても収入が途絶えることはないんだし」

母 「でも、貯金は使いたくないわ。いろいろ宣伝してるじゃない」

私 「民間の保険は単に病気になっただけではお金はもらえないよ。
   それに毎月保険料を払うと、それこそ家計の負担になるけど。
   保険料を払うつもりで貯金するのがいいんじゃない?」

こんな会話をしたところ、日曜日(14日)の日経15面に
「退職後の医療保険、加入すべき?」というコラムが載っていて、
FPの藤川太さんが答えていました。

結論は私とほぼ同じとはいえ、さすがプロのアドバイスです。

・老後の医療費は公的な「高額療養費」の活用と貯蓄で
 十分賄えるので、民間医療保険への加入は不要。

・保険料相当額は定期預金など別口座で管理。
 医療だけでなく、様々な事態に備えるお金として生かせる。

・それでも不安が残るなら、リスクの対象をがんに絞ったらどうか。

藤川さんは、こうも書いています。

「漠然とした不安に駆られ、十分な金融資産を持っている人ほど、
 保険に加入する傾向が強くあります」

合理的に考えれば、現在の医療保険ではどうかなと思うのですが、
一般に「老後は経済的に不安」「貯金は取り崩したくない」
という強い意識があるなかで、保険への期待は大きいようです。

願わくは不安に乗じたビジネス(今がそうだという意味ではありません)
ではなく、双方が経済的にも利点があるような保険がいいですね。
今後のイノベーションに期待しましょう。

 

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大阪府民共済の退職金問題

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都道府県民共済グループの大阪府民共済が、
退任した前理事長への退任慰労金2.5億円を、
総代会の明確な議決なしに支払った問題について。

以前、週刊東洋経済の企画で4大共済を取材した際に、

「理事長の不正などを未然に防ぐ仕組みは、
 少なくとも連合会ベースではかなり整備されている」
(週刊東洋経済2007.11.10から引用)

としたものの、共済のガバナンス構造については
やや弱いと見ていたのですが、今回の件は残念でした。

各県の共済(単位生協)は連合会の下にあるように見えます。
しかし、ガバナンス構造は逆で、単位生協のほうが上です。
連合会の組合員は単位生協なので、連合会が単位生協を
コントロールする構造にはなっていません
(共済事業を通じてのコントロールはあります)。

また、単位生協の組合員は一般の共済加入者です。
共済を利用するために加入した人が大半なので、
単位生協の運営に関心を持つ組合員はほとんどいません。

このようなガバナンス構造の弱点をカバーできる唯一の砦が、
「組合員の相互扶助」という理念です。
ところが、報道から判断するかぎり、前理事長やその周囲の役員は
理念にかなった行動をとったとは言えないでしょう。
金額の問題ではありません。

長年経営に関わってきた役員に対し、周囲が何も言えなくなる。
ガバナンスの問題は頭が痛いです。

※写真はどこだかわかりますか。
 ちなみに上記の件とは全く関係ありません
 (この件で大阪に向かったわけではありません^^)

 

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数学のプロ リスク予測

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2日(月)の朝日新聞に「アクチュアリー」の特集記事が載りました。
経済紙ではなく一般紙ということもあり、掲載までにかなり時間が
かかったようですが、担当者の熱意が実ったのでしょう。

単なるアクチュアリーの紹介になりがちなところを、
記事ではアクチュアリーの新たなフィールドや、
日本のアクチュアリーの現状にも踏み込んでいて
興味深い内容になっています。

「リスクを把握して経営に生かす分野に力を入れている人たち」
の例として、松山直樹さん、森本祐司さんが登場しています。
二人ともよく存じ上げている方々なので、これ以上のコメントは
やめておきましょう^^

記事の通り、「雇われている会社の殻に閉じこもり、
経営に直言できずにいるアクチュアリー」が多いのか、
そもそも経営者に進言するような問題意識を持っていない
アクチュアリーが多いのかは、なかなか難しいところです。

ただ、社内でアクチュアリーの存在感がもっと高まらなければ、
日本の保険業界は世界から取り残されてしまうのではないでしょうか。
そんなことを考えつつ、今日(4日)はアクチュアリー会の行事
(委員会等進発式)に出席していました。

※本文と写真は関係ありません。念のため。

 

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大雨による被害

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昨年に続き、この7月も大雨による被害が各地で相次ぎました。

消防庁によると、今年の梅雨期の大雨による被害状況は
ほぼ全国に及んでいます。
住宅への被害も広がっており、床上浸水が2000棟近く、
床下浸水は4000棟を超えました。

詳しくは消防庁のHPをご覧下さい。 消防庁HPへ
自然災害が起きるとこのページで確認するようにしています。

保険アナリストをやっていると、つい損害額の大きさに目が向かい、
損害がかさむと「保険会社の経営は大丈夫?」という発想に
なりがちです。
「地球温暖化で自然災害が大規模化」といったニュースにも
敏感に反応してしまいます。

しかし、考えてみれば、こうした災害への備えとして
保険があるのですよね。
裏を返せば、保険の必要性を多くの人に感じてもらう
絶好の機会でもあるわけです。
もちろん、危機をあおるのは問題ですが...

※いつものようにコメントは個人的なものです。

※写真は地元のケーキ屋さん。
 今日(21日)は娘の誕生日なのです。

 

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生保の社員総代会

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2日に相互会社形態の生保の社員総代会がありました。
しばらくしたら、議事録が各社のHPに掲載されると思います。
この点は以前に比べオープンになりました。

かつては主要生保の大半が相互会社でしたが、
いまや相互会社形態の生保は5社だけ。損保は0社です。

報道によると、第一生命の株式会社化を受けた質問が相次いだとか。
第一生命の株式会社化では約9割の契約者が何らかの
「たなぼた益」を得られたのですから、当然の質問といえるでしょう。

当の第一生命は先月末の株主総会で株主から厳しい指摘が
相次いだようですが、株主であれば誰でも総会に出席し、
質問できるというオープンさを改めて感じました。

相互会社のメリットも確かにあるとは思います。
ただ、単に「相互会社のほうが契約者にメリットがある」と言われても、
理屈ではともかく、なかなか説得力を持ちません。

例えば、協同組織形態である大手共済は、大手生保と違い、
金融危機の影響をそれほど受けていません。
その差はどこにあるのでしょうか。
都道府県民共済のように、加入者への還元率を
アピールしているところもあります。

相互会社形態のメリットを語るのであれば、
何が具体的なメリットなのかをもっと主張してほしいですね。

※意見には個人差がありますので、念のため。

 

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サムスン生命の上場

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日本ではあまり大きく報じられていないようですが、
韓国生保最大手のサムスン生命が上場しました。
第一生命とは違い、もともと非上場の株式会社だったものが、
2007年に韓国政府がIPOを認めたことを受けたものです。

時価総額は約1.8兆円と、第一生命(1.6兆円)を上回りました。
気になるEVとの関係ですが、報道によるとEVの1.4倍程度だそうです。
会計や計算の前提が異なるので単純比較はできませんが、
第一生命(0.6倍程度)とはずいぶん違いますね。

ロイターの記事に載っていた投資家のコメントには、

「韓国の生保市場は日本ほど成熟しておらず、中国ほど成長性はないため、
 この程度のEV倍率は理解できる」

とありました。

それが正しいかどうかはともかく、外国人投資家は当然のように
第一生命とサムスン生命を比べて評価しているのでしょうね。

 

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新型インフルエンザの影響

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1年前の今ごろは新型インフルエンザ騒動で大変でした。
昨年の4/28に政府が発生宣言を出し(当時の厚労相は舛添さん!)、
国内初の感染者が確認されたのが5/9です。
結果的に弱毒性ということで死者は200人弱にとどまったものの、
不安な日々を強いられました。

ところで、生命保険経営学会の機関誌「生命保険経営」最新号(5月号)に
「新型インフルエンザの生保事業への影響」という論文が
掲載されています。

論文の試算によると、重度の新型インフルエンザが発生した場合、
保険金や給付金の支払いは全社合計で6.5兆円に及ぶとのことです。
2008年度末の危険準備金が5.7兆円、ソルベンシー・マージン総額では
23.4兆円あるため、業界全体で見れば健全性が危機的な状況に
なることは考えにくいという結論でした。

前提としている日本政府の被害予測が甘い(想定感染率が低い)
という意見もあるようで、今後の新たな試算に注目したいところですが、
一つの目安として踏まえておきたいと思います。

※休日の井の頭公園にはいろいろな店が出ていて楽しいですね。

 

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