01. 保険経営全般

ソルベンシー規制の方向性

18日に公表されたかんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会の調査報告書をざっと読んでみました。
報道のとおり、募集人アンケート(かんぽ生命の募集業務に従事する日本郵便の職員3万8839人が回答)で、不適正募集を職場で見聞きしたことがあると回答した人が半数程度もいたというのが衝撃的です。多くの職員が不適正募集の事実を知っていたにもかかわらず、その情報が上層部に届くことはなかったのですね。
さらに、監督官庁の1つである総務省の事務方トップが日本郵政の幹部に機密情報を漏らしていたとは。これを契機に法令を改め、監督は金融庁に一本化すべきではないでしょうか(もちろん総務省からの出向も禁止ですね)。

タイムラインを仮置き

さて、本題はこれからです。金融庁が公表した「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議(第5回)」の事務局資料を見ると、金融庁は11月の会議で規制の方向性をある程度示そうとしたことがうかがえます。

例えば4ページには、「単純にESRの水準のみに基づく機械的・画一的な規制とするのではなく、『3本の柱』の考え方に基づく健全性政策全体のあり方を検討していく」(ESRは経済価値ベースのソルベンシー比率のことです)とありますし、1つの考え方として、「第1の柱の基準や監督介入の内容を過度に厳しいものとしない一方で、第2の柱と第3柱を通じて適切な規律が働くような枠組みとする」(5ページ)とも書かれています。

より注目すべきは、「現時点においては2025年からの国内規制の適用開始を一旦の前提とし、それまでの準備期間に必要な対応についても議論を深めていくことが必要ではないか」(6ページ)とタイムラインが示されていることでしょうか。
確かにそうでもしないと、いつまでも先に進まないでしょうから、タイムラインの設定は重要だと思います。これですんなり決まるかどうかはわかりませんが、導入時期が決まれば保険会社も必要な準備を進めることができるでしょう。

実質資産負債差額について

事務局資料には、「経済価値ベース規制への移行時には、ソルベンシー規制からは実質資産負債差額に関する定めを撤廃したうえで、会計ベースのバランスシートに関する補完的な指標として必要な場合に活用していくことが適当ではないか」(11ページ)という記述もありました。

経済価値ベースのソルベンシー規制を導入したら、実質資産負債差額は当然廃止するのだろうと思いきや、メンバー・オブザーバーの意見は必ずしも一致していないようです。
これまでの議事要旨にも廃止に反対する意見が載っています。

「(新規制下においては)経済価値ベース指標のみに機械的に依存するのではない多面的な監督の枠組みを確保することが重要であり、実質資産負債差額はその1つの方策としての可能性はあると思う。仮に廃止するとことになった場合、経済価値ベースの指標のみでデジタルに会社の状況が判断されることがないように、標準責任準備金制度や商品認可制度なども含め多面的な監督の枠組みを確保する必要があると思う(後略)」(11月)

「実質資産負債差額は、解約返戻金もしくは全期チルメルベースの標準責任準備金を上回る時価ベースの資産を保有しているかという指標であり、金利リスクへの対応というよりも別のものを見るためのものと理解している。標準責任準備金制度の中では非常に重要なパーツであり、一定の修正は必要かもしれないが、存置する方向ではないかと思う」(10月)

「実質資産負債差額は、財務諸表を見るための補強材料として機能している部分があるので、そうした観点からの意義はあるのではないか」(10月)

過去の議事要旨やJARIP(日本保険・年金リスク学会)大会での議論などからすると、実質資産負債差額という規制を残したいという声は、どうも業界サイドから上がっているようです。
しかし、解約返戻金または全期チルメル式の標準責任準備金を上回る資産を常に確保しておかなければならないとすると、生命保険会社はどうやってALMを実行したらいいのでしょうか。経済価値ベースの保険負債とロックインの責任準備金を両立させるには、多額の資本を持つしかありません。

それでも事務局資料は一定の方向性を打ち出そうとしたということで、20日の会議を含め、今後の議論に引き続き注目しましょう。

※汐留のクリスマス・イルミネーションです。

 

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損保総研で講師を務めます

セミナーのご案内です。
12月17日(火)に損保総研の特別講座で講師を務めます。
演題は「内外ソルベンシー規制の動向と経済価値ベースの保険ERM再考」です。

損保総研では2000年以降、ほぼ毎年講師を務めていまして、保険会社の経営内容や健全性規制などの「定点観測」をお伝えする機会となっています。
例えば10年前の2009年12月には「金融危機と保険会社経営」という演題で、保険会社の経営分析やリスク管理の現状などをお話ししました。
一昨年の演題は「今だからこそ問われる保険会社のERM」、昨年は「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」でした。

今回は、内外ソルベンシー規制にいろいろと動きがありましたので、まずはその話をしたうえで、後半は規制以外の話をしようと考えています。
師走のご多忙な時期だとは思いますが、機会がありましたらぜひご参加ください。

※ユーザー数が11億とは驚きです

 

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損保の安定経営とは

NHKニュースでコメント

19日に大手損保グループの4-9月期決算発表があり、これに合わせてNHKニュースの電話取材を受け、その日の夜9時のニュースに出演(?)しました。
火災保険の保険料がテーマでして、先ほど確認したところ、「保険料が上がるというのは、消費者としてはうれしくないが、保険会社としては妥当」「(料率を上げるのであれば)効率化が求められる」といったコメントが使われていました。

来年の自然災害がどうなるかはわかりませんが、少なくとも昨年、今年と大型の災害が続いたので、考えてみればかなりのニーズ喚起になっているはず。そのような話もしたのですが、使われなかったようです。

損保の安定経営とは

翌日の日経は「損保の災害準備金、半減」「安定経営にきしみ」という見出しで損保決算を大きく報じていました。
大手3グループの異常危険準備金が2年前に比べて半減する見通しとなり、「損保経営の安定がきしみ始めた」というものです。

確かに異常危険準備金は毎期の期間損益を安定させる効果があります。ただ、損保の「安定経営」とは、こうした見かけ上の損益が安定して推移することではなく、毎期の損益は自然災害の発生などで振れるとしても、リスクに対する支払余力に常に一定の余裕があることではないでしょうか。
自然災害リスクを事業として引き受けているのですから、損益が振れるのはむしろ当然とも言えます。それに、異常危険準備金は支払余力の一部にすぎませんので、そこだけ取り出してもあまり意味がないように思います。

再保険のハード化が進むか

NHKの取材では、「損保はリスクを再保険に出しているのに、なぜ値上げとなるのか?」という質問もありました。
「翌年の再保険料が上がるから」というのが1つの回答だと思いますが、実のところ、再保険市場が今後も料率上昇トレンドで推移するとまで言い切る自信はありません。
世界的な金融緩和のなかで再保険市場への資金流入はまだまだ続きそうなので、このところ多額の保険金支払い発生が続いたとはいえ、局地的にはともかく、全体としては思ったほどマーケットがハード化しないことも考えられます。

※写真は多摩川です。

 

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予定利率ゼロの時代

inswatch Vol.1002(2019.10.14)に寄稿した記事をご紹介します。
月次寄稿となってから生保関係の話を書いていて、今回は標準責任準備金を取り上げています。

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生命保険は加入してからの契約期間が長いため、将来の保険金や給付金の支払いに備えた「責任準備金」の確保が保険会社経営のキモとなります。そこで今回は「標準責任準備金」という規制について取り上げてみましょう。

標準責任準備金制度

生保には損保の参考純率のようなものはなく、会社が保険料率を自由に決めることができます(商品認可は必要です)。とはいえ、まったく縛りがないのかと言うとそうではなく、政府は生保の責任準備金を規制することで、保険会社の健全性を確保しようとしています。
定期保険や終身保険、養老保険などの、いわゆる生命保険は「標準責任準備金」規制の対象で、行政当局が定めた「標準生命表」「標準利率」に基づいた責任準備金を積み立てなければなりません(付加保険料や第三分野の入院・手術等の発生率は規制の対象外です)。

例えば、通常の生命保険(平準払い)の標準利率は現在0.25%です。保険会社はそれよりも高い予定利率を使い、保険料を低く設定することは可能ですが、責任準備金は標準利率で計算したものを積む必要があります。
つまり、予定利率を標準利率よりも高く設定してしまうと、顧客から受け取った保険料だけでは責任準備金を積むことができず、不足分を会社が補わなければなりません。それでは経営が持たないということで、標準責任準備金が生保の価格競争の歯止めとなっています。

一時払い終身の標準利率は0%に

標準生命表のほうは、2018年4月の改定に合わせ、多くの保険会社が保険料を変えたり、商品そのものを見直したりしたので、記憶に新しいかもしれません。トレンドとしては長寿化が続いているため、生命表の改定があると、定期保険のような死亡保障の保険料は下がり、個人年金のような生存保障の保険料は上がります。
これに対し、標準利率は一貫して引き下げが続いてきました。標準利率は責任準備金を計算するうえでの割引率なので、利率が下がると、より多くの責任準備金を積まなければならず、保険料は上がります。

標準利率は長期国債の利回りをベースに決めています。ただし、通常の平準払いの生命保険と一時払いの貯蓄性商品では設定方法が異なります。
通常の生命保険では、10年国債利回りの3年平均と10年平均の低いほうをもとに利率を設定するのに対し、一時払いの貯蓄性商品では、利回りの3か月平均と1年平均の低いほうをもとに設定します(一時払い終身保険では10年国債利回りのほか、20年国債利回りも活用)。

すなわち、一時払いの貯蓄性商品は標準利率が金利変動に連動しやすい仕組みとなっているのですが、一部で報道されているように、最近の低金利を受けて、来年1月から一時払い終身保険の標準利率がついに0%に下がることになりました。生保にとって厳しい経営環境が続きます。
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※写真はポーランドの古都クラクフです。旧市街全体が世界遺産とのこと。

 

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保険資本規制の有識者会議

経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議(第1回)の資料と議事要旨が、開催から2か月近くたってようやく公表されました。
金融庁のサイトへ

事務局説明資料の最後のほうにある「主要な論点」に示されている基本的な着眼点(の案)は次のとおりです。

・規制導入がどのような便益をもたらすと考えられるか
・規制導入がどのような経路でどのような意図せざる影響をもたらし得ると考えられるか
・制度設計上の各論点の方向性
・移行措置と今後のタイムライン

この資料にはこれまでの検討状況のほか、国際的な議論の状況や保険会社の現状も出ているので、保険業界に関心のあるかたには参考になりそうです。
ただし、諸外国として取り上げられているのが欧州(ソルベンシーII)と米国だけなのがちょっと残念でして、例えばアジア各国ではすでに経済価値ベースの資本規制(あるいはそれに親和的なもの)が次々に導入されつつあります。

2018年11月の「生命保険経営」に掲載された「アジア太平洋地域の生保資本規制と国際資本基準」によると、著者Wang Luさんが所属する第一生命グループが事業展開している5か国(オーストラリア、タイ、インドネシア、インド、ベトナム)のうち、インドとベトナムを除く3か国で経済価値ベースとの親和性が一定程度認められる規制が導入されているとのことです
(タイは2019年の導入予定)。

他にも、中国では2016年からリスクベースおよび市場に基づく評価を特徴としたC-ROSS (China Risk Oriented Solvency System)を導入していますし、シンガポールも導入済みという認識です。
韓国では最近、金融当局がIFRS17号の採用と同じタイミングでK-ICS(Korean Insurance Capital Standard)を導入するとアナウンスしています
(長期間の移行措置が設けられるようですが)。

つまり、導入の賛否は別として、アジア・太平洋地域の主要国で経済価値ベースのソルベンシー規制を導入していない(または導入時期を示していない)国はもはや少数派と言える状況なのですね。

※スイーツ三昧!

 

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減収は増益要因

inswatch Vol.993(2019.8.12)に寄稿した記事の紹介です。
メディアが生保会計を理解したうえで報じてくれるといいのですが、そうでないと不信感をあおることになってしまいそうです。

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日本郵政グループの不適切な保険販売は、商品供給を担うかんぽ生命や日本郵便の上層部と、現場で販売を担っている郵便局の距離の遠さをはじめ、グループ固有の要因が大きいのかもしれません。
それでも、他の保険関係者にとって対岸の火事と言い切れるでしょうか。「こんなことありえない」と切り捨てるのではなく、自らに置き換えて考えてみることが代理店経営を強くするのではないかと思います。

業績予想は「修正なし」

ところで、かんぽ生命の植平社長は7月の会見で、2020年3月期の業績予想は今のところ「修正なし」とコメントしています。
かんぽ生命は上場会社なので、当期純利益などの大幅な増減が見込まれるようであれば、適時開示制度に基づいて速やかに公表しなければなりません。当面は積極的な営業活動を行わない方針を打ち出したこともあり、今期の新契約が大きく落ち込むのは避けられないでしょう。それにもかかわらず「修正なし」というのは、影響の大きさが現時点ではよくわからないというだけではなく、保険会計の特殊性が関係していると考えられます。

新契約の減少は増益要因

生命保険会社が新契約を獲得すると、その年度に入ってくる保険料を「保険料収入」として計上します。平準払(回払)であれば、契約者は何年もかけて保険料を支払うので、当期の決算に計上されるのは実際に払い込まれた数回分の保険料だけです。
他方で、保険会社が事業を遂行するための経費は、発生した時点で「事業費」として計上します。新契約を獲得するには代理店手数料や広告宣伝費をはじめ、多額のコストがかかります。大手生保(かんぽ生命を含む)の場合、事業費総額の3、4割が営業活動費です。
保険料収入として計上するのは実際に払い込まれた数回分にもかかわらず、新契約獲得のためにかかった費用はその時点で計上しなければならないため、新契約を獲得すればするほど減益となり、反対に、前年度よりも新契約が減れば増益要因となる、というのが現行の保険会計です。

新契約価値は減少へ

もちろん、新契約が落ち込んだにもかかわらず増益になったとしても、保険会社の経営にとって喜ばしい話ではありません。エンベディッド・バリュー(EV)を公表している会社であれば、新契約価値の減少がEV成長の足かせとなっていることが公表資料からわかるはずです。
さらにいえば、保険会社の会社価値には、将来にわたり新契約を獲得する能力も含まれています。営業基盤の悪化はただちに会計損益に表れるものではありませんが、会社価値には深刻な影響を及ぼします。
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※写真は伊東温泉です(8/3撮影)。

 

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「業績の安定」とは

直近のinswatch Vol.958(2018.12.10)に執筆した記事「『業績の安定』とは何を意味するのか」のご紹介です。損害保険会社の経営について書いています。
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支払い額は過去最大に

自然災害に伴う損保業界の保険金支払いが、前回(10月8日)の本誌で、「場合によっては、年度別の支払い額が過去最高となった2004年(7449億円)に匹敵することもあるのかもしれません」と書いたところ、ご承知のとおり、これを大きく上回る1兆円規模の保険金支払いとなることが判明しました。
ただし、自然災害の発生トレンドをどう見るか、つまり、まだ過去のトレンドの延長線上と言えるのか、あるいは、地球温暖化などの影響でトレンドが変わってしまったと見るべきなのかは、見解が分かれている模様です。

日経新聞の社説

ところで、11月24日の日本経済新聞に「損保は異常気象対策を万全に」という社説が載ったのをご存じでしょうか。
「災害が相次ぐ日本を地盤とする日本の損保は、保険金支払い能力を盤石にするのはもちろん、業績を安定させるあらゆる努力が欠かせない」としたうえで、業績安定のため、損保業界が異常危険準備金の税制優遇拡大を求めていることと、火災保険の料率引き上げを目指していることを紹介しています(後者については「コスト削減の徹底が前提」だそうです)。
ここで言う「業績」とは、決算における純利益のことです。事業として自然災害リスクを積極的に引き受けている保険会社にとって、本当に「業績の安定」が欠かせないのでしょうか。

「業績」は会計ルールに左右される

自然災害に伴う多額の支払いが見込まれる状態で決算を迎えた9月期決算では、3メガ損保の国内損保事業が赤字または大幅減益となりました。前回書いたように、9月に発生した自然災害は支払いに至っていないケースが多いため、異常危険準備金の取り崩しがほとんどなかったためです。
他方で通期の決算では、支払いが進み、異常危険準備金を取り崩すため、「業績」予想は総じてそれほど悪くありません。
損保の経営にとっては(税制優遇の話を除けば)同じ自然災害により発生した支払い義務なのに、会計ルールがそうなっているというだけで、「9月期の業績は悪化」「通期では安定」というのはおかしな話ですが、社説をはじめ、メディアの多くは(結果として)こうとらえているようです。

似たような話は保有する国内株式についても生じます。
有価証券の減損を、3メガ損保のように30%ルール(期末日の時価が取得原価に比べて30%以上下落したものを対象)の会社と、原則通り50%ルールを適用している会社では、同じ銘柄の株価が下落しても、「業績」に与える影響が大きく異なることがあります。

「業績の安定」という見方をやめるべき

もし本当の意味で業績を安定させるのであれば、異常危険準備金を追加的に積んだり、保険料の値上げを理解してもらうべく踏み込んだコスト削減を行ったりしても大きな効果はありません。むしろ、日本の自然災害のようなリスクの大きい引き受けをしなければいいという結論になります。
モノラインであれば別ですが、総合的な保険会社であれば、自らの存在意義を考えた際、自然災害リスクを引き受けないという選択は考えにくいでしょう。少なくとも現時点では事業として成り立つと考えているからこそ、各社は風水災害のリスクの引き受けを続けているのだと思います。

そうだとすると、日本の損保は何年かに1回は多額の支払いが発生するのが普通の状態ということになります。もちろん、会社としてリスク分散やリスクヘッジを進め、経営を安定させる(すなわち、経済価値で見た損益の振れを経営陣が想定したレベルに抑え、資本コストを小さくする)という戦略はあります。しかし、メディアが「業績を安定させるあらゆる努力が欠かせない」などと無理に毎期の決算の安定を求め、それに応じたりすると、かえって経営を歪めることになりかねません。

※丸の内で見かけたクリスマスツリーです。

 

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グローバル戦略の違い

東京海上がグループ傘下の再保険会社をバミューダの再保険会社ルネサンス・リーに売却し、今後は元受保険事業を主体に事業展開していくという発表がありました。
公表資料(PDF)

再保険市場の構造変化

東京海上HDのニュースリリースによると、世界の再保険市場は、「料率競争の激化や再保険会社以外の資本の継続的流入によりソフトマーケットが常態化し収益性が悪化傾向にあります」とのことです。
確かに再保険市場では一時的なものではない、構造変化が生じているように見えます。

2000年代ころまでの再保険市場では、再保険カバーの供給が絞られ、料率が上がり、再保険会社の収益が改善するハードマーケットと、再保険カバーの供給が過剰となり、料率が下がり、再保険会社の収益が悪化するソフトマーケットが数年ごとのサイクルで交代していました。

ところが今は、多額の保険金支払いが生じても、マーケットがなかなかハード化しないという状況です。例えば、2017年は米国のハリケーンなどにより過去最大級の支払額となったにもかかわらず、その後もマーケット全体としてはハード化したとは言えないようです。
背景には、ERMの進展で再保険会社が資本を毀損しにくくなったことのほか、キャットボンドをはじめ、保険リンクの商品に金融市場から資金が流入していることがあると考えられます。

グローバル戦略の違いに注目

このような構造変化のもとで、2018年に入り、フランスのアクサが元受損保と再保険事業を柱とするXLグループを買収(買収価格は発表時点で約1.6兆円)するとか、米AIGがバリダスを買収するといった、元受を主体とした保険グループが再保険事業を買収により取り込む動きも見られます。考えてみれば、日本のMS&AD(アムリン)もSOMPO(旧エンデュランス)も再保険事業を柱の一つとしています。
東京海上はこうした動きとは異なる戦略をとるということで、興味深いです。

※写真は奈良県の今井町(橿原市)です。いい意味で生活感のある町並みでした。

 

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保険毎日新聞のインタビュー

業界紙「保険毎日新聞」の9月21日号と25日号にインタビュー記事が載りました。
同紙で連載が始まった「『保険自由化』20年の軌跡 その影響と今後の展望を探る」という企画の第1弾だそうです。2回にわたるとは思っていなかったので、ちょっとびっくりしました^^

インタビューのお題は「保険会社経営の変化と行政が果たした役割」です。ここでは内容をごく簡単にご紹介しましょう。

前編では保険会社の経営が、前半10年間の守り一辺倒の時代から、後半には攻守バランスのとれた経営を志向できるようになったことや、保険市場でビジネスモデルの異なる新旧勢力がせめぎ合うようになったこと(以前紹介した「旧世界」「新世界」の話です)、ネット社会の急展開は「新世界」の成長を支える一方、この動きがさらに進むと「新世界」の会社どうしの競争が一段と激しくなると考えられること、などを語っています。

後編では、主に保険行政が果たしてきた役割について述べています。1995年の保険業法改正の3本柱である「規制緩和・自由化の促進」「保険事業の健全性維持」「公正な事業運営の確保」を検証し、規制緩和・自由化が進み、アクセスも多様化するなかで、「公正な事業運営の確保」の重要性が高まり、新たな規制につながっていったことを指摘するとともに、健全性維持に関しては試行錯誤が続いているとコメントしました。
いつもお話ししていることではありますが、銀行と違い、保険会社の破綻処理は主に契約者負担で行われたということを忘れてはならないと思います。

機会がありましたら、ぜひご覧ください。
企画はまだ始まったばかりなので、どのような方々が登場するのか楽しみです。

※写真はチューリヒです。土曜日にはフリーマーケットが開かれていました。

 

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物価2%の達成時期を削除

ご承知のとおり、日本銀行は4月27日の金融政策決定会合で、これまで「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)に記述していた2%の物価目標の達成時期の見通し(1月の展望レポートでは「2019年度頃になる可能性が高い」としていた)を削除しました。

異次元緩和政策を始めた2013年4月に「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現」と発表してから早くも5年がたち、もはや実質的には長期戦になっていました(この間、達成時期が何度も延期されてきました)。
とはいえ、この記述を削除したということは、日銀自身が「できるだけ早期に実現」の未達成を認めたということになるのでしょう。

金利上昇に賭ける

物価2%を達成していれば、さすがに10年国債利回りが0%程度とか、30年国債利回りが1%未満とかいう状態ではなくなっているはず。ですから、特に2016年以降、金利水準の低下で会社価値が圧迫されたなかでも、超長期債購入による金利リスクの削減を中断していた生命保険会社があったとしたら、今の超低金利を「政策的」「短期的」なものと判断したのだと考えられます。

言い換えれば、そのような会社はここ数年、金利上昇に賭けたリスクテイクを行っていたというわけで、期待通りに金利が上がれば、実質的な会社価値の拡大が見込めるという経営判断をしたのでしょう(そう理解しなければ説明がつきませんよね)。

ところが、日銀が物価2%の達成時期の見通しを示さなくなり、名実ともに短期決戦の旗を降ろしてしまいました。
マイナス金利政策の導入から数えても2年以上たつなかで、「政策的」はともかく、少なくとも「短期的」なものという判断は残念ながら結果的に誤りだったことになります。

リスクテイクの結果をどう総括

金利上昇に賭けた保険会社は、金利が上がらなかった(右肩上がりの金利曲線だったので、実質的には低下した)ことに対する総括が必要ではないでしょうか。

このところ日本企業に対し積極的なリスクテイクが求められています。しかし、リスクテイクした結果をきちんと評価し、失敗の原因を明らかにしたうえで、次の経営判断につなげなければ、ERMもガバナンス改革も絵に描いた餅でしかありません。「株高、円安なのでOK」というのでは総括になりません。

最近報道された生保の2018年度の資産運用計画からは、私には金利リスクテイクの総括をうかがうことはできませんでした(消去法で国債回帰という報道はありましたが…)。
今後何らかの手掛かりが外部に出てくるでしょうか。

※GW後半は台北出張なのです。写真は日本人で賑わう氷屋さん。

 

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