01. 保険経営全般

損保の「損益」は難しい

 

10日(金)に大手損保2グループ(東京海上、MS&AD)の
4-6月期決算が発表されています(NKSJは13日の予定)。

新聞には「損保2社、大幅減益」とあり、

「株価の下落で有価証券の評価損が膨らんだほか、
 4月の暴風雨や6月の台風4号など自然災害の多発で
 保険金の支払いも増えた」

とのことでした。

「保険金の支払いが増えた」とありますが、大手3社のうち
正味支払保険金が増えたと言えそうなのは三井住友海上だけ
(東京海上日動は減少、あいおいニッセイ同和は微増)。
その三井住友海上も、保険引受利益は増益でした。

損保特有の会計ルールを理解していないと、
損保の決算を読むのは結構大変です。

例えば、最近の自然災害について見てみると...

・2011年3月に発生した東日本大震災の影響が、
 2011年4-6月期の増益要因となっています。
 3月末に積んだ支払備金を取り崩して保険金を支払う
 (=ここまでは決算にはニュートラル)一方、
 異常危険準備金が取り崩されたためです。

・昨年度発生したタイ洪水による影響は、
 2012年4-6月の増益要因となっています。
 支払いが進み、異常危険準備金が取り崩されたためです。
 
・2012年4-6月に発生した自然災害の一部は
 まだ保険金を支払っておらず、支払備金となっています。
 支払いにならなければ異常危険準備金を取り崩せないので、
 損益にはマイナス要因です。

これらが合わさった結果、各社の保険関係の損益と
なっているので、わかりにくいはずですよね。
自然災害の影響を除いて分析するのが一案かもしれません。

※写真は千葉の小湊鉄道・上総上野駅です。
 沿線で写真を撮っている人がたくさんいました。

 

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モラルハザード

 

韓国保険業界のかたから興味深い話を聞きました。

2000年前後に日本で保険会社が経営破綻した際、
責任準備金の削減や予定利率の引き下げ等を通じ、
契約者は何らかの負担を強いられました。

他方、韓国でも1997年末からの金融危機を受けて、
1999年に当時、資産規模で第3位だった大韓生命が
経営破綻したのをはじめ、2000年前後に多くの生保が
「構造調整」(≒破綻処理)を余儀なくされました。
ただし、個人の保険契約は全額保護されました。

日本でも1996年から2005年までペイオフが凍結され、
銀行預金が削減されるようになったのは2005年からです。
韓国でも金融危機の際、ペイオフが凍結されています。
日本と違うのは、預金保険が銀行だけではなく、
保険会社のセーフティーネットも担っているので、
ともに全額保護されたという経緯があります。

ところが、破綻会社の契約者を全額保護した副作用が
今になって出ていると言うのですね。それはモラルハザードです。

「保険会社が破綻しても最後は政府が救ってくれる」
誰もがそう考えているので、経営の規律が働きにくく、
価格競争や販売手数料競争が激しくなりがちだとか。
契約者も、経営内容で保険会社を選んだりしないようです。

確かに、韓国では保険金詐欺が社会問題化するなど、
日本の市場とはやや異なる面がありそうですが、
なるほどなあと思いました。
韓国に於ける保険詐欺に対する取り組みと課題(PDFファイル)

 

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保険と助け合い

 

前々回ご紹介した「物語で読み解く リスクと保険入門」のなかに、
「『一人は万人のために、万人は一人のために』理念募集の限界」
という記述があります。

私も「仕組みとしての相互扶助」と「相互扶助の理念」は別の話
と思っていましたので、これを読んで思わずうなずいてしまいました。

本書では次のように整理しています。

「保険の仕組みが社会的に有用であるのは、相互救済の理念を
 実現するための手段を提供しているからではなく、
 保険という仕組みをとおして社会的に有用な機能を発揮しているため」

「保険が存在した場合には、社会全体のリスクを軽減できる。
 まさにこのことこそがビジネスのなかで保険が存在する根拠である」

いかがでしょうか。

万人が支払った保険料が一人のために使われるのは確かです。
でも、それはあくまで保険という仕組みの話であって、
保険に加入するのは自分のため、すなわち、
「将来の経済的な不確実性を減らすために加入する」
というのが原則でしょう。

相互扶助を目的とした組織を否定するものではありませんが、
保険事業は助け合いのために営まれているわけではないと思うのです。

 

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保険会社の利益の源泉

 

近年のコンバインドレシオを見てもわかるとおり、
損保は保険収支の低迷に悩まされています。
他方、生保の危険差益は安定して推移しています。

保険会社の利益の源泉について、少し考えてみましょう
(資産運用力については今回は触れないことにします)。

利益の中核をなす「危険差益」は、想定した発生率
(=保険料の基となる発生率)を実際の発生率が下回ると
生じるという説明が一般的です。

ただ、これだと料率を高めに設定すれば利益が出ることになり、
「不完全競争だから利益が出る」となってしまいます。
生保の危険差益は不完全競争によるところが大きいのかは?ですが、
完全競争においても保険会社は儲けることができるのでしょうか。

まず「大量の自社データを活用したプライシング」はどうでしょう。
不十分なデータでは大数の法則が働きにくく、
安定して事業を行うことができません。
プライシングの巧拙が利益の源泉というのは言えそうです。

「分散効果」も考えられますね。
地域分散や事業分散により全体としての引受リスクが下がれば
リスク対比のリターンを高めることができるでしょう。
使う資本が少なくてすめば、他に回すことができます。

「選択効果」はどうでしょうか。
健康診断などにより、生保では契約後しばらくは選択効果があり、
危険差益が出やすいことが知られています。
ただ、経済価値ベースで考えた場合、利益の源泉と言えるかどうか。

「選択効果」とは違いますが、不完全競争の市場を選ぶことで
利益をしばらく上げることはできるかもしれませんが...

現状はともかく、市場が全体として完全競争に向かうのであれば、
「大量の自社データを活用したプライシング」「分散効果」、
この2つを意識した戦略が重要ということになりますね。

それでは小規模な保険会社は生き残れないのか。
いつか別の機会に考えてみたいと思います。

※写真は三菱財閥の創業者である岩崎弥太郎の生家です。
 安芸という町の中心からかなり離れたところにありました。

 

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2011年の自然災害

 

ミュンヘン再保険の調査によると、2011年に発生した
世界の自然災害による損失は過去最大だったそうです。

経済損失は3800億ドルで、これまで最大だった
2005年の2200億ドルを大幅に上回りました。
保険金支払額(見込みを含む)は1050億ドルで、
やはり2005年の1010億ドルを上回り、過去最高です。

確かに昨年は大規模な自然災害が相次いで起こりました。
上位5災害は次の通りです。

 ・東日本大震災(経済損失2100億ドル、保険損失350~400億ドル)
 ・タイの洪水(400億ドル、100億ドル)
 ・ニュージーランドの地震(160億ドル、130億ドル)
 ・米国のトルネード(150億ドル、73億ドル)
 ・米国等のハリケーン・アイリーン(150億ドル、70億ドル)

これをみると、東日本大震災とタイの洪水だけで経済損失の2/3、
保険損失の半分程度を占めることがわかりますね。
タイの洪水が100億ドルもの保険損失になるとは驚きでした。

※写真は高知城です。

 

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不払い問題の収束

 

金融庁は16日、生保10社への不払い問題に関する
業務改善命令を解除しました。
金融庁のHPへ

2005年からの保険金不払い・支払漏れ問題という
「事件」はこれで一応の収束となりますが、
事件前と後で保険業界はどう変わったのでしょうか。

日本の保険業界が今後どのような経営を行い、
どのような商品・サービスを提供していくのか、
引き続き注目したいと思います。

ところで報道によると、このところ米国の生保業界でも
保険金支払いに関する問題が持ち上がっているようです。

米国では従来、保険会社は契約者からの死亡通知を受け、
死亡保険金を支払ってきました。通知がない場合には、
被保険者が100歳+αになるまで保険会社が管理し、
その後は未請求の財産として州当局に移すのだそうです。

ただ、米国には公的な社会保障データベースがあります。
保険会社はこれを年金保険の支払い管理のために活用し、
被保険者の死亡がわかりしだい、年金の支払いを止めているとか。

このような死亡保険と年金保険の取り扱いの違いが
最近になって問題視されました。

すなわち、年金保険では社会保障データベースを確認して
年金の支払いを速やかに止めているのだから、
死亡保険でもデータベースを確認し、被保険者の死亡がわかれば
保険金を速やかに支払うべき、という話なのでしょう。

詳細はよくわかりませんが、ニュースを見る限りでは、
そのように言われても仕方がないように思います。

※恒例の町内会もちつき大会に行ってきました。

 

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自然災害の保険カバー率

 

ミュンヘン再保険によると、東日本大震災による
経済損失は2100億ドル(約16兆円)に達するのに対し、
保険による支払額は約300億ドル、カバー率は14%だそうです
(17日の日経など)。

確かに、米国ハリケーン・カトリーナ(2005年)の約5割、
同じく米国のノースリッジ地震(1994年)の35%、
今年発生したニュージーランド地震の約5割に比べると、
日本の保険カバー率は低いと言えそうです
(ちなみに阪神大震災のカバー率は約3%です)。

もっとも、なぜか再保険会社からの言及がないのですが、
同じ自然災害でも台風による風水害のカバー率は
日本がそれほど低いわけではなさそうです。

例えば東京海上研究所の資料によると、
1991年台風19号のカバー率は5割以上、
2004年台風18号でも4割以上となっています。
東京海上研究所HPへ

かつては火災しか担保しなかった火災保険が
段階的に風水害を担保するようになり、
今や実質的に「風水害保険」となっているためでしょう。

つまり、保険カバー率が低いのは地震災害なのですね。

地震リスクのうち家計向け地震保険については
阪神大震災後に徐々に普及が進み、現在では、
火災保険加入者の約半数が地震保険に入っています。

しかし、統計がないので詳細はわかりませんが、
家計向け地震保険の金額に制限があることに加えて、
おそらく企業向けの地震保険があまり普及していないため、
地震災害の保険カバー率が海外に比べて低水準なのでしょう。

この背景には企業のリスクマネジメント意識が低かったことと、
損害保険会社が地震リスクの引き受けに慎重だったことが
あると思います。

地震リスクは低頻度・高損害かつ集積リスクなので、
保険会社がそう簡単に引き受けを増やせないのは理解できます。

ただ、保険会社の存在意義を考えると、今のリスクプロファイル
(大手損保の最大リスクは国内株式ですよね)でいいとは
とても考えられないのですが、いかがでしょうか。

 

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台北の旅(その2)

 

プライベートの旅でしたが、せっかくですので
保険アナリストらしい話もしましょう。

2008年の金融危機以降、台湾では外資系生保の
撤退が相次いでいます。

発表順にING、英プルデンシャル、エイゴンと続き、
今年に入ってからもAIG(南山)、メットライフが
撤退を発表しています。
AIGは2009年の売却計画が台湾当局から却下され、
売却先を変えて交渉中です。

AIGやINGのように、グループの経営危機により
撤退を余儀なくされたところもありますが、
メットライフまでが撤退するところを見ると、
外資系にとって難しいマーケットなのでしょう。

日本に比べ、危険差益を上げにくいのかもしれません。
2009年に台湾を訪れた際、台湾の大手生保から
「日本ではなぜ高水準の危険差益を得られるのか」
と驚かれたのを覚えています。

台湾の大手生保でも、過去の高利率契約が
低金利のなかで経営の重荷となっています。

もし経済価値ベースで負債を評価すると、
危険差益が薄いためか、多額の責任準備金を
積み増す必要が生じるとの懸念が業界大手から
出ている模様です。

 

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こんな公表がありました

 

今回はいろいろ気になる公表等があったので、そのご紹介です。
それぞれコメントしたいところですが、諸般の事情によりご容赦下さい。

1・経済価値ベースのソルベンシー基準についての検討体制強化について
  (日本アクチュアリー会)
 日本アクチュアリー会のHPへ

HPによると、より専門性の高い課題を集中的に検討するために、
4つの特別課題WGを新設しています。
また、金融庁との連携による定期的な検討会である
「ソルベンシー・ジョイント・スタディ・グループ」についての記述もあります。

2.「金融検査結果事例集」の公表等について(金融庁)
 金融庁のHPへ

毎年このような事例集が公表されているようです。
本編のP113からが保険会社です。

3.委託調査に係る報告書の公表について(金融庁)
 金融庁のHPへ

保険関連では「主要国の保険制度に関する調査」があります
(すみません、まだ目を通していません)。

4.東日本大震災に係る地震保険金が総額1兆円超に
  (日本損害保険協会)
 損保協会のHPへ

6/21についに1兆円に達しました。
阪神大震災では783億円であり、その後の普及率上昇を踏まえても、
あらためて今回の震災による影響がいかに大きかったのかがわかります。

5.なぜ今「ぶつからない」クルマが増えているのか(日経)
 日経新聞のHPへ

ネットで見つけた気になる特集記事です。
損害率上昇に悩む損保にとって朗報なのでしょうか。
それとも保険が要らなくなるという話なのでしょうか。

写真の列車(フランスで乗りました)も実は気になる存在でして、
パンタグラフがあるのに架線がないところを走るので変だなあと思い、
あとで調べてみたら、2007年に登場した「ハイブリッド列車」でした。
電化区間は電車、非電化区間はディーゼルカーとして走るのだそうです。

 

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特別勘定の運用利回り

 

大手生保6社の団体年金特別勘定の運用利回りが
2010年度は▲2.64%と、前年度(+18.59%)から
大幅に悪化したそうです(10日の日経)。

国内株式の下落(インデックスでは▲9%)と円高が
主な要因と思われます。

過去5年分の運用利回りは、次の通りです。

 2006年度 + 5.18%
 2007年度 ▲14.81%
 2008年度 ▲22.41%
 2009年度 +18.59%
 2010年度 ▲ 2.64%

参考までに、R&I年金ユニバース・パフォーマンス
(厚生年金基金、企業年金基金等の時間加重収益率)
の推移も見てみましょう。

 2006年度 + 4.55%
 2007年度 ▲ 9.74%
 2008年度 ▲17.02%
 2009年度 +14.18%
 2010年度 ▲ 0.60%

生保特別勘定ほどではないにせよ、こちらも乱高下の激しい
運用成果です。

この記事の見出しには、

 「株価下落、生保離れ加速も」

とありますが、さすがにこれは証拠不十分でしょう。
運用の巧拙を判断するのは意外に?難しいものです。

生保各社はグループ内に投資顧問会社を持っているので、
そこと利回りを比べてみたら面白かったかもしれませんね。

※こいのぼり2題。左は松崎の花畑、右は三鷹台です。

 

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