国債保有のストレステスト

 

前々回のブログでは、次のようなコメントをしました。

「生保の超長期債投資に全くリスクがないとは言いませんが、
 銀行とはかなり状況が異なるように思います」

しかし、生保の保有資産が国債に集中しているのは確かです。
さらに強いストレスを加えた場合にはどうでしょうか。

週刊ダイヤモンドの人気コラム「野口悠紀雄の『超』整理日記」
最新号(3/12)は「日本国債に関してこれから起こること」でした。

野口先生はコラムのなかで、

・国債消化が困難になれば、日銀が引き受けるにしても、
 海外で購入してもらうにしても、インフレ&円安がもたらされる。

・以上のような事態が予測されると、資産の海外逃避が
 起こる可能性がある。

と述べています。

このようなシナリオを想定した場合、生保の国債保有に
どのような影響が考えられるでしょうか。

このシナリオでは、おそらく長短金利は上昇しています。
前にも触れたとおり、ミスマッチ(負債が長い)を前提にすると、
金利上昇で負債の価値が小さくなり、全体として会社価値は
改善します。

ただ、契約者から見れば、インフレは将来受け取る保険金等が
目減りすることを意味します。
物価が仮に10倍になってしまえば、1000万円の保険金は
実質的に100万円の価値になってしまうわけです。
これでは「生命保険は役に立たない」となってしまいます。

しかも、円安の進行です。強権的な為替管理でもないかぎり、
保険を解約して(円預金の引き出しが先かもしれませんが)
ドルやユーロなど外貨建ての資産に移す動きが加速し、
生保がALMを崩さざるを得なくなる...

個人がそこまで機敏に動くとは考えられないかもしれません。
でも、そういえば1990年代初頭の高金利時代には、
長信銀のワイドを求めて長い行列ができたのを思い出します。

「インフレによって生命保険への信認が揺らぐなか、
 円安を背景に生保からの資金流出が加速する」

というシナリオ設定にどこまで現実感があるかどうか。
これにはまだまだ議論の余地がありそうです。

同時に、ストレステストの難しさも理解できるのではないでしょうか。

※いつもの通り個人的なコメントということでご容赦下さい。

※有松から徒歩20分くらいのところに桶狭間の古戦場がありました。
 公園として整備されたのは最近のようです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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最終講義

 

博士課程で大変お世話になった早稲田大学・西村吉正先生
(「住専問題」の時の大蔵省銀行局長ですね)の
最終講義がありました(5日)。

タイトルは「世界史における日本の位置づけと金融の将来」。
西洋史学科出身の私には興味津津です。

「経済力(GDP)」=「人数(人口)」×「単価(1人当たりGDP)」とすると、
経済力の拡大は「人数増加」「単価上昇」のいずれかでとなります。

過去2000年間(!)の歴史を振り返ってみると、
経済力は「人数」で決まっていた時代が長く続いていましたが、
19世紀半ばあたりから、欧米が単価を高めることで先進国となり、
現在に至っています。

しかし、単価を高めることができるのは欧米だけではなく、
日本も戦後に高度成長を実現し、今は中国がそうです。
この結果、世界は再び「人口」が経済力を左右する時代に
回帰しているというわけです。

そのようななかで、日本はどうするか。
人口が減るなかでは単価アップで勝負するしかありません。

現在の「高付加価値のモノづくり」からさらに単価を上げるには、
「金融立国」、すなわち、「ヒトの上前をハネる力」を
持てるかどうかが鍵となります。

それには、つまるところ日本人の競争力を高めることが
必要というわけです。

これだけ大局的な話を具体的なデータをもとに、
かつ、冷静に分析してみせるところに、
西村先生のすごさを感じました(お世辞抜きで^^)。

会場の大教室にはシニア世代から現役の院生まで
大勢が集まりました。金融関係者もたくさんいた模様です。

※今回は珍しく写真と内容が合ってますね(苦笑)

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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銀行と生保のALMの違い

 

銀行の国債購入が目立っており、金利上昇時に
損失が発生するリスクが懸念されています。

他方、生保も超長期債などの投資を増やしているため、
「生保も大丈夫?」という声を時々耳にします。

ただ、同じ国債投資でも、銀行と生保のALMはかなり違います。

銀行の負債は預金が中心なので、長い債券の購入は
金利リスク(金利上昇時に損失を被るリスク)につながります。
しかも、金利上昇時に預金が流出するリスクも無視できません。

これに対し、生保の負債は一般的に非常に長いので、
超長期債を購入しても、そう簡単には資産と負債の
ミスマッチが埋まらないという現状があります。

もう一歩踏み込んで、生保が抱える超長期債に
損失が発生するのはどのような時か考えてみましょう。

金利が上昇しても、保有区分が「責任準備金対応債券」か
「満期保有目的債券」であれば、含み損を抱えることがあっても
損失は発生しません。
ミスマッチ(負債が長い)を前提にすると、金利上昇時には
負債の価値が小さくなるため、全体として会社価値は改善します。

金利上昇時に含み損を抱えた債券をやむなく売ることになれば、
もちろん売却損が発生します。生保がALMをやむなく崩すとしたら、
多額の保険金等の支払いか、解約の急増でしょうか。

ただ、生保の死亡率や発生率は損保に比べると安定しており、
通常の個人保険で資金繰りに苦しむほどの支払いは考えにくいです。
毎月の保険料収入も資金繰りを緩和します。

解約について想定されるのは、金利上昇時の資金流出と
信用不安に伴う解約ラッシュの2つでしょうか。

確かに銀行が販売した一時払いの貯蓄性商品では
金利上昇時に解約が増える可能性が高いように思います。
しかし、平準払いの保障性商品でALMを崩すほどの
解約ラッシュが発生しうるかどうか
(保険会社はどこまで想定しているのでしょうね)。

信用不安時の顧客動向を予測するのはなかなか困難ですが、
過去の破綻事例をみると、団体年金の流出は目立ったものの、
銀行のように資金繰りに詰まって破綻した生保はなかったようです。

もう一つ考えられるのは、債券をバイ&ホールドではなく、
入れ替えを前提にALMを行っている場合には、
含み損を抱えた債券を売ることになるのかもしれません。

ただ、多くの生保がミスマッチ状態にあることを踏まえると、
入れ替えによるALMの調整がどの程度必要なのか、
純粋なリスクコントロールの観点からはやや疑問です。

こうして検討すると、生保の超長期債投資に全くリスクがない
とは言いませんが、銀行とはかなり状況が異なるように思います。
ちょっと頭の体操をしてみました。

 

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住宅ローンの収益性評価

 

三菱総研のHPで住宅ローンの収益・リスク管理に関する
(私にとって)興味深いコラムを見つけました。
コラムのHPへ

住宅ローンの収益性評価は難しく、勝ち負けがはっきりしない、
採算がわかりにくい商品なのだそうです。

コラムでは、検討すべきポイントとして、

 ・期間の長さ
 ・PDの期間構造(=デフォルト率が経過とともに変化する)
 ・LGDにおける地価要因(=回収率は地価動向に依存する)
 ・プリペイメント(=期限前返済により貸出期間が短くなる)
 ・金利の固定変動相互乗換
 ・優遇金利

を挙げています。

資産/負債の違いはありますが、生命保険の負債分析に
通じるところがありますね。

プリペイメントに関しては、期間短縮による金利リスクへの影響のほか、
信用リスクが低い顧客ほどポートフォリオから早く離脱する
(=ポートフォリオの信用リスクが濃縮される)という指摘もありました。

また、金利上昇時の変動金利型ローンは信用リスクが高まるうえ、
プリペイメントも増えるのだそうです。

確かに収益・リスクの評価が簡単ではないことがわかります。

企業向け貸し出しが伸び悩むなかで、
多くの金融機関が住宅ローンに力を入れており、
激しい競争を展開しています。

しかし、チキンレースのようにも見える競争のなかで、
住宅ローンの複雑さを踏まえた収益・リスク管理を行い、
プライシングに反映している金融機関はどの程度あるのでしょうか。
単なる会計ベースの管理ではちょっと心配です。

このあたりも保険会社と共通したテーマですね。

※写真は前回に続き、東海道・有松の町並みです。

 

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銀行窓販で明暗?

 

今回の生保4-12月期決算は、「銀行窓販で明暗」という切り口で
語られることが多いようです。

定額年金や一時払終身で収入を伸ばす会社がある一方、
変額年金主体の会社は最低保証リスク対応が利益を圧迫し、
売り上げも伸びなかったためです。

日本ではすっかり厄介者扱い(?)の変額年金ですが、
金融危機の震源地だった米国の販売状況をみると、
2010年の販売高は前年を9%も上回っています。

下がったとはいえ、日本に比べると金利水準が高い、
販売の担い手が必ずしも銀行に偏っていない
(日本のように預金代替商品としての性格が強くない)
といった背景はありそうですが、ずいぶん違いますね。

他方、日本の窓販商品の主役となった定額系の貯蓄商品に
落とし穴はないのでしょうか。

定額系商品ですから、保険会社が予定利率を保証しています。
規模にもよりますが、ALMの失敗は命取りです。

その際、気になるのは金利上昇時の契約動向です。
販売の担い手は自前チャネルではなく銀行なので、
保険会社が想定していた以上の資金流出が発生し、
やむなくALMを崩し、損失が発生することも考えられます。

ですから、単純に「銀行窓販で明暗」といった話ではなく、
貯蓄性商品による規模拡大に伴うリスクについて
むしろ警戒するべきなのかもしれません。

※いつもの通り個人的なコメントということでお願いします。

※名古屋市内にこのような町並みが残っているとは奇跡的ですね。

 

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「代理店型」と「通販型」

 

20日(日)の日経13面「家計 ここを教えて」で、
FPの藤川太さんが自動車保険の加入方法について書いています。

記事によると、「代理店型」と「通販型」に分けた場合、
それぞれのメリット、デメリットは次の通りだそうです。

代理店型のメリット
 ・専任の担当者がいて安心感が得られる
 ・熱心な担当者なら、手厚い対応が期待できる

 デメリット
 ・通販型と比べると保険料が高い

通販型のメリット
 ・条件によるが一般的に保険料が安い

 デメリット
 ・担当者に対面で説明してもらえない

たぶん私が聞かれても同じように答えると思います。

ただ、そういえば「代理店型」のほうに「保険会社」が出てきませんね。
保険会社と代理店が良好なパートナー関係を築いていることが
前提となっているのでしょう。

それには代理店が対面のメリットを発揮できるように、
保険会社がサポートする(少なくとも足を引っ張らない)ことが
不可欠だと思います。

たまにプロ代理店の皆さんの話を聞く機会もあるのですが、
いろいろと考えさせられてしまいます。

 

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「減益」報道に違和感

 

主要生損保の2010年4-12月期決算が出そろいました。

「主要生保 8社減益」
「3メガ損保 2社が減益」
「生保8社 株価低迷などで5社が減益」
「損保は2社が減益」

このような報道が中心だったようですが、
果たして「減益」にどのような意味があるのでしょうか?

例えば生損保の最終利益は、たまたまその期に
多額の資産売却益があると大きく膨らむでしょう。
評価損の場合には、株価下落の影響が同じであっても、
採用する減損ルールによって計上額が全く異なります。

保険関連の損益にしても、販売が好調な時ほど
新契約獲得費用がかさみ、減益になりがちです。
損保の損害率が上昇しても、異常危険準備金が
ある程度クッションになります(枯渇してしまえば別ですが)。

今回の生保決算では基礎利益の減益要因として
変額年金の最低保証関連コストが大きかったようです。
しかし、これは「本業のもうけを示す」のでしょうか。

今の日本の保険会計をもとに、他業界と同じ流れで
「減収となったものの、基礎利益は増加した」
「増収ながら減益を余儀なくされた」
などと解説しても、何も言っていないのと同じだと思います。

もう少し中身に注目したほうがいいのではないでしょうか。

※いつものように個人的なコメントということでお願いしますね。

 

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林原の倒産

 

岡山を代表する優良企業と言われていた林原が
2/2に会社更生法の適用を申請しました。

林原は不動産で稼ぎ、研究開発に投資するといった
同族企業ならではの事業構造だったようです。
これが甘味料「トレハロース」や抗がん剤「インターフェロン」など
世界的な発明につながっています。

しかし、不動産投資や研究開発費が過剰債務となり、
さらに、多額の簿外債務など不正経理問題も発覚し、
経営が行き詰まった模様です。

ERMという観点から林原の倒産をみると、
やはりガバナンスの欠如ということになるのでしょうね。

非上場の同族企業で、社長は就任してから50年にもなります。
メインバンクの中国銀行は林原が10%強の大株主です。
外部チェックが入りにくかったのは明らかでしょう。
会計監査人も置いていなかったそうです
(銀行は何をしていたのでしょうか?)。

よくある話と言えばそれまでですが、
ある程度の社会的存在になると、それでは済まないでしょう。

※地元・大倉山の梅林です(下の写真は大倉山記念館)。

 

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捜査情報の提供

 

大相撲の八百長問題が連日ニュースを賑わせています。
「裏切られた!」と怒っている人もいるとは思いますが、
むしろ、「やっぱりね」という人が多いのかもしれません。

八百長が道義的に見ておかしいのは間違いありません。
ただ、警察も認めているように、法令違反ではなさそうです。

それでも警察が捜査情報の一部を文部科学省に提供したのは、
「日本相撲協会の事業に関する公益性が高い事項と判断」
(警察庁長官)したとのこと。

八百長問題で暴力団との関係を立証したのなら別ですが、
法的に問題がないと見ている段階で、公益性をたてに
捜査情報を他省庁に出していいものかどうか。

確かに八百長問題を調べることができるのは警察だけでしょう。
文部科学省の要請で警察が動いていたのかもしれません。

しかし、報道によれば、あくまで野球賭博問題の捜査のなかで
法的には問題ないが、公益性の観点から問題のある
「八百長」の証拠が見つかったので、情報提供したという話です。
この件で暴力団との関係は、今のところ見えていません。

「公益性」というのは、かなり曖昧な概念ですよね。
ちょっと引っかかってしまいます。

参考までに、2/3の読売新聞によると、情報提供は、

「国の行政機関が一体となって業務遂行することを義務付けた
 国家行政組織法2条などに基づいて行われた。 同庁は、
 暴力団関連企業を公共事業から排除するため国土交通省に
 情報提供したり、国際テロ関連の情報を外務省などと交換したりしている」

とのこと。また、同日の時事通信には、

「刑事訴訟法は、捜査上の証拠書類を裁判の開始前に公にしてはならない
 としているが、公益上の必要性がある場合などは、例外的に認めている」

と別の話がありました。

 

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破綻生保の既契約

 

米プルデンシャルは2/1(火)、AIGエジソン生命と
AIGスター生命の株式取得を完了したと発表しました。

金融危機後のAIGグループ生保の再編がおおむね終了し、
プルデンシャルは日本の生保市場で最大規模の
外資系グループとなりました。

このグループのもう一つの特色は、破綻した生保の既契約が
重要な顧客基盤となっていることです。

 日産生命(あおば生命) → プルデンシャル生命が買収

 東邦生命 → GEエジソン生命(現AIGエジソン生命)に包括移転

 (第百生命 → マニュライフ生命に包括移転)

 大正生命 → 大和生命(現PGF生命※)に包括移転

 千代田生命 → 破綻後、AIGスター生命へ

 協栄生命 → 破綻後、ジブラルタ生命へ

 (東京生命 → 破綻後、T&Dフィナンシャル生命へ)

 大和生命 → 破綻後、PGF生命※へ

  ※プルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル生命

つまり、破綻した生保8社のうち6社が、回りまわって
プルデンシャルの傘下となっているのですね。

破綻生保の契約者は、将来の安心を買ったつもりが、
加入した生保の経営危機でかえって不安な思いをしたうえ、
最終的に何らかの不利益を被るという、心情的には
「ありえない」経験をしています。

当時を経験している役職員のかたも多いでしょうから、
経営管理やリスク管理などの面で生かされるといいですね。

※いつものとおり個人的なコメントということでお願いします。

※写真は御茶ノ水駅。聖橋の上から撮りました。

 

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