避難生活「戻れない」65%

 

東日本大震災から1か月に合わせ、避難所で暮らす約600人に対し、
NHKが今後の住まいについてアンケートを行ったそうです。

「同じ場所でもう一度生活したいか」と尋ねたところ、
岩手県と宮城県では「戻りたいが戻れない」「戻りたくない」
という回答が、合わせて65%に上ったとのこと。

回答からは、「住み慣れた場所を離れたくはないが、
生活も仕事も失ってしまった現実を直視すると、
戻りようがない」という姿が浮かび上がり、胸が痛みます。

一方、福島県の避難所では88%の人が「戻りたい」
と答えたそうです。岩手県や宮城県とは異なる結果でした。

地震や津波による直接的な被害よりも、原発事故によって
避難しているかたが多いからでしょうか。

ただ、原発事故の発生から1か月たっても事態が
収束する兆しはなく、放射性物質の拡散が続いています。
自宅がほぼ無傷だとしても、放射性物質による影響を
どう考えればいいのか、現時点ではわからない状況です。

まさに被災者が最も気にしていることで、かつ、多くの人は
まだ必ずしも希望を捨ててはいないというタイミングで
今回の「10年、20年住めない」発言が出てしまいました。

※写真は東京・池上本門寺です

 

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経済教室「ベキ分布」

 

7日の日経「経済教室」は、明治大学の高安秀樹さんによる
「平均の概念 意味なさず」でした
(「統計の常識」超す大災害の本質という副題あり)。

興味深く拝読したものの、どこかモヤモヤが晴れませんでした。

ポイントは次の通りです。

・特異な性質を持つ「ベキ分布」の研究進む
・大震災、ブラック・スワン現象が随所に発生
・想定外への対処、ヒト、モノ、知恵総結集で

ベキ分布とは、発生する確率がその値のベキ乗(累乗)に
比例するというもので、地震をはじめ、多くの自然現象や
経済現象、社会現象で観測される非常に重要な分布だそうです。

Wikipediaへ

高安さんは本稿のなかで、

「ベキ分布に従う災害では、過去のデータから平均的に
リスクを推定するという常識的な科学の方法自体に
本質的な限界がある。残念ながら、この問題の深刻さは
まだあまり広く認識されていない」

と述べています。
ただ、少なくとも金融界でリスク管理に関わっていれば、
これはもはや常識ではないでしょうか(ベキ分布は知らなくても)。

金融危機で正規分布を踏まえたリスク管理の限界が示された後も
相変わらずVaRなど正規分布を前提としたツールを使っているのは
代わりとなる適当なツールが見当たらないからにすぎません。

そして、ツールの限界を補うためにストレステストを実施したり、
エマージングリスク対応を行ったりしているのが実情です
(どこまで有効に機能しているかどうかはともかく)。

過去データから分布図を描き、それで管理ができるのであれば
正規分布でもベキ分布でも活用可能のように思えます。

問題は分布の形状ではなく、どの程度の規模の事象が
どういう頻度で発生するかを、過去データから本当に予測できるのか、
という点ではないでしょうか。

したがって、私には問題の本質は分布の違いにあるとは思えないのです。

なお、日経新聞ばかりで恐縮ですが、9日の国際面に興味深い記事
「震災、変わる海外のまなざし」が出ていました。

欧米では「考えられないことを考えよ」「決して起こらないとは
決して言うな」が安全保障や危機管理の専門家の合言葉。
これに対し、日本では「起こってはならないこと」とのこと。

むしろ「大災害の本質」はこちらなのかもしれません。

※いつもの通り個人的なコメントということでお願いします。

 

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人は見たいものしか見ない

 

情報提供というよりは、自戒を込めて。

週末にSPEEDI(放射能影響予測ネットワークシステム)
の存在を知り、さらに、ドイツやオーストリアの気象庁が
放射性物質の拡散予測図を随時公表していると知りました。
ドイツ気象庁のHP(予測図は下のほうにあります)

ドイツ気象庁が公表しているのは、福島から放出される
放射性物質の相対的な濃度の予測図です。

「相対的」というところが重要で、実際の濃度は反映されておらず、
単に放出された有害物質がある気象条件のもとで、
どのように広がって(薄まって)いくかを予測したものです。

ですから、別途に放射性物質の濃度を確認しなければ
この予測図だけでは危険度はわかりません。
ただ、もし高い濃度の放射性物質が放出された場合には、
この予測図が参考になりそうです。

ところで、私は「週末に知った」と書きましたが、
実は2週間くらい前に同じような情報を、息子から聞いたようなのです。

しかし、その時の私は多忙だったこともあり、
「ネットでは不安を煽るような情報が多い」とか何とか言って、
ちゃんと話を聞かなかったらしいのです(全く記憶にありません)。

地震で高校が早々と休みになり、自宅でPCに向かってばかりの
息子の情報で、しかも、どこかにネット世界への偏見もあり
(自分でもブログやSNSをやっているにもかかわらず)、
全く心に響かなかったというわけですね。

同じような話は会社の経営陣とスタッフの間でも
しばしば起こるだろうなあと、つくづく考えてしまいました。
ERMは奥が深いです。

※日吉駅で横浜マリノスの募金活動です。
  もちろん私も募金に協力し、中村俊輔選手と握手しました^^

 

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スカンディアの決断

週刊東洋経済4月2日号の日本国債特集のなかで、
次のような記述がありました。

「スウェーデンでは94年、同国最大手の生保スカンディアの社長が、
 『政治家が真剣に財政赤字削減に着手すると確信できないかぎり、
 スウェーデン国債を買わない』と公言。これを契機に国債利回りが急騰、
 通貨クローナが急落した。危機感を抱いた政府は歳出削減や増税など
 の財政再建計画を拡充し、やっと通貨安が収まったという経緯がある。」

なかなかすごい話ですね。

スカンディアのCEOが1994年7月に国債購入の停止を決めたことは
学術誌にも掲載されています。
 The Geneva Papers on Risk and InsuranceのPDFファイル

もう少し掘り下げてみると、スカンディアはこの時期、
ビジネスモデルの大変革に取り組んでいたことがわかります。

伝統的な生損保を主体とした総合保険グループだった
スカンディアは1990年代に入り、ユニットリンク保険、
つまり変額商品に経営の軸足を移していきます。
損保事業や再保険事業もグループから切り離しました。

しかも、自前チャネルではなく外部チャネルを活用し、
資産運用も外部の専門家に委ね、自らは商品・システム開発と
販売支援に特化するという革新的なビジネスモデルでした。

この大変革の結果、スカンディアは変額商品で世界有数の
保険グループに成長しました。

ですから、おそらく経営が会社価値の向上を真剣に考えた結果が
ビジネスモデルの変革であり、国債購入の停止だったのではないかと
思えてなりません。

ただし、この話には続きがあります。

2000年代初頭のITバブル崩壊の影響を強く受け、
米国スカンディアの売却など、スカンディアはグループ展開の
縮小を余儀なくされます(日本法人も売却しましたね)。
さらに経営陣のボーナスや住宅をめぐる問題なども発生し、
ついに2006年にはオールドミューチュアルの傘下に入りました。

これをもって、「ビジネスモデルを見直すべきではなかった」と
考えるべきかどうか。なかなか興味深いテーマですね。

※井の頭公園の「自粛」ポスターです。
 「天罰」と口走った人が「被災者へ配慮」だなんて。

 

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加入率と付帯率

 

地震保険に関する記事や資料を見ていると、
「加入率は23%」「付帯率は5割近く」というように
2種類のデータがあることに気がつきます。

「付帯率」とは、ある年度に契約された火災保険
(住宅物件)のうち、地震保険が付帯されている割合です。

2009年度のデータをみると、全国平均は46.5%と
新規に火災保険に加入した人の半分は
地震保険にも入っていることがわかります。

宮城県の付帯率は66.9%と高く、岩手県は42.2%、
福島県は39.0%です。

付帯率が6割を超えているのは宮城県のほか、
岐阜県、愛知県、徳島県、高知県、宮崎県、鹿児島県です。

他方、一般に「加入率」と言うときは、地震保険の契約件数を
住民基本台帳に基づく世帯数で割った数、つまり、
全世帯のうち地震保険に加入している世帯の割合のことです。

阪神大震災のあった1994年度の加入率(全国平均)は9.0%。
これが2009年度には23.0%まで高まりました。
宮城県は32.5%、岩手県は12.3%、福島県は14.1%です。

加入率の高い県は宮城のほか、愛知(34.5%)、東京(30.0%)、
神奈川(28.3%)となっています。

付帯率に比べて加入率が低いのは、
地震保険は火災保険とセットで加入することになっている
(火災保険の加入率は2002年時点で53%)ほか、
火災保険の加入段階では地震保険を付帯しても、
保険料負担などから更新しない人も多いからでしょうか。

もっとも、現行の地震保険制度には、

①民間の責任限度額が危険準備金残高を上回っている
 (2009年度末で2300億円)

②大震災発生で準備金が枯渇すると、次の大震災への備えがない
 (ただし、政府による資金あっせんや融通が可能)

といった制度上の問題点があります。

毎年の保険料等からの準備金が積み上がるまでは、
責任限度額に対して備えが十分でない状態が続いてしまうのです。

 

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プロ野球の開幕問題

迷走を続けていたプロ野球の開幕問題は、
ようやく4月12日のセ・パ同時開幕で決着しました。

落ち着くべきところに落ち着いたという感じですが、
またしてもプロ野球のガバナンスの弱さが露呈してしまいました。

日本のプロ野球は社団法人日本野球機構(NPB。文部省が所管)が
セントラルリーグとパシフィックリーグを統括しています。

機構の会長は日本プロフェッショナル野球組織のコミッショナーです。
コミッショナーは正当な理由なく任期中に解任されず、

「コミッショナーが下す指令、裁定、裁決及び制裁は、最終決定であって、
 この組織に属するすべての団体及び関係する個人は、これに従う」

となっています。

しかし、実際にはコミッショナーが権限を発揮するのは難しいようで、
今回も残念ながら一部オーナー等に押し切られそうになりました。

結果的には選手会、政府、そして世論を無視できなかったわけですが
2004年のプロ野球再編問題で指摘されたガバナンス改革は
道半ばという感じがします。
相撲協会もそうですが、もっと外部の目線が必要ではないでしょうか。

参考までに、NPBの定款では組織の目的として、

「野球の普及による国民生活の明朗化と文化的教養の向上」
「野球を通してスポーツの発展に寄与し、日本の繁栄と国際親善に貢献」

を挙げています。決してオーナー企業の発展のためではありません。

※写真はサンフランシスコのジャイアンツです。
 もしメジャーリーグだったら、どんな対応をしたのでしょうね。

 

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自然災害リスク分析会社

 

「米リスク管理会社AIRワールドワイドの13日時点の試算によると、
 11日に起きた東北地方太平洋沖地震で150億~350億ドル
 (約1兆2200億~2兆8600億円)相当の損害保険対象資産に
 被害が出たもようだ。(14日 WSJ日本版)」

「米災害リスク評価会社EQECAT(カリフォルニア州)は16日、
 保険会社や再保険会社が東日本大震災に関連して120億~
 250億ドル(約9600億~2兆円)の損失を受けるとの見通しを
 明らかにした。(18日 SankeiBiz)」

「米リスク分析モデル会社RMSは21日、東日本大震災による
 日本の経済的損失について、暫定試算値で最大3000億ドル
 (総生産の約5%相当)になると推定した。
 損失額は2000億─3000億ドルの間となり、保険でカバーされる
 損失額の評価は時期尚早としながらも、保険でカバーされるのは
 『わずかな比率』にとどまると予想している。(21日 朝日新聞)」

東日本大震災の損害額に関する記事にしばしば登場する
「AIR」「EQECAT」「RMS」は、一般にはなじみのない名前ですが、
損保(特に再保険)では重要な役割を果たしています。

というのも、この3社の自然災害リスク評価モデルが
ある種の「共通言語」のような存在になっているからです。

多くの保険会社や再保険会社では再保険取引等の際に、
RMSなどのモデルを活用し、参考にしているようです。

ただし、記事にある試算値は、一定の前提を置いたうえで
モデルによりざくっと計算したものだと思いますので、
あくまでも参考程度に見ておくべきなのでしょうね。

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※節電のため、東横線は全て各駅停車となっています。
 私は特急・急行の停まらない駅に住んでいるので、
 むしろありがたいかも^^

 

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電気供給約款

 

今日(19日)は東京電力の計画停電が実施されず、
家族は久しぶりに落ち着いて過ごすことができたようです。

ところで今回の計画停電は「電気供給約款」に基づいたものの
ようです(約款というと、つい反応してしまいます^^)。

そうだとすると、具体的には次の通りです。

40 供給の中止または使用の制限もしくは中止
(1) 当社は,次の場合には,供給時間中に電気の供給を中止し,
 またはお客さまに電気の使用を制限し,もしくは中止していただく
 ことがあります。
イ 異常渇水等により電気の需給上やむをえない場合
ロ 当社の電気工作物に故障が生じ,または故障が生ずるおそれが
  ある場合
ハ 当社の電気工作物の修繕,変更その他の工事上やむをえない場合
ニ 非常変災の場合
ホ その他保安上必要がある場合

東京電力HPへ

今回は「イ」あるいは「二」に該当するのでしょう
(公表文がないので確認できません)。

ただ、同じ約款の42が気になります。

42 損害賠償の免責
(1) 40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)(1)によって
 電気の供給を中止し,または電気の使用を制限し,もしくは
 中止した場合で,それが当社の責めとならない理由によるもの
 であるときには,当社は,お客さまの受けた損害について
 賠償の責めを負いません。

私は法律の専門家ではないのでよくわかりませんが、
もしどこかに「当社の責めとなる理由」があった場合
(例えば点検を怠っていたとか)、裁判で勝てるのかなあと
素人ながら思ってしまいます。

例えば、原子力安全・保安院は東京電力に対し、
次のような注意処分をしていますので(3月2日です)。
保安院のHPへ
毎日新聞HP

※写真は17(木)夕方の東横線渋谷駅です。
 私の後ろの人がNHKのインタビューに答えていました。

 

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震災後の円高

大震災後に円高が進んだ背景として、
「保険会社が多額の保険金支払いに備え、海外資産の売却を進める」
という話を耳にします。

それはないだろう、というのが私の見解です。

例えば損保です。

地震保険の責任限度額は政府分を入れると5.5兆円。
このうち元受会社の負担分は0.6兆円にすぎません。
これに地震火災費用保険、企業保険の一部がどの程度加わるかどうか。

しかも、請求は一気にというよりは五月雨式に来ますし、
請求があれば即支払いというものでもありません
(もちろん可能な限り迅速な支払いは求められますが)。

再保険からの回収には時間差があり
一時的な資金負担は考えられるとしても、
昨年度末の現預金・コールローンの残高は1.2兆円、
国債も4.4兆円あります(インシュアランス統計号より)。
加えて毎月の収入保険料や当座貸越等も活用できます。

他方、損保が保有する外国証券は4.4兆円です(同)。
このなかには円建外債やヘッジ付きもあるでしょうし、
そもそも外国為替市場の規模は1日100兆円単位ということを
忘れてはなりません。

生保については、より現実的な話ではありません。

仮に数万人への支払いだったとしても
数百億円から数千億円というオーダーにしかならず、
生保が保有する流動性の高い資産残高
(現預金・コールローンは約7兆円、国債は12兆円)
を考えると、ほとんど問題になりません。

また、生保の外国証券残高は数十兆円になるものの、
公表資料によると、ヘッジ付きがかなりを占めています。
強いストレスを受けたのは日本なので、
海外資産を一気に手放す理由がありません。

円高の背景はよくわかりませんが、こうしてみると、
少なくとも保険会社が「犯人」ではないように思えます。
いかがでしょうか?

 

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大震災発生のとき

今回の大震災で被災されたかたには、心よりお見舞い申し上げます。

地震発生のとき、私は日本保険・年金リスク学会(JARIP)の
「ソルベンシーⅡと保険会社のERM」フォーラムに参加するため、
東京・丸の内の日本工業倶楽部3階大ホールにいました
(パネリストとして登場する予定でした)。

開催を告知してからわずか3日間で締め切りという人気で、
会場には大勢の参加者がぎっしり座っていました。

3人目のスピーカーとして東京海上のTさんが登場してから
10分くらいでしょうか。実のところ、それほど大きい揺れとは
感じなかったのですが、ゆっくりした揺れだなあとは思いました。
スピーカーのTさんも異変に気づき、話を中断。

しばらくしてから、どなたか(たぶんホールの係の人)から
「シャンデリアの下にいる人は離れて下さい」という声。
この会館は経済界のクラシックな社交場という雰囲気で、
大ホールの高い天井には見事なシャンデリアがあるのです。

皆さんがあわてて席を離れた直後のことです。
大きく揺れていたシャンデリアの1つが壊れ、一部が落下しました。
もし誰も声をかけず、そのまま下に人がいたらと思うとぞっとします。

実のところ私は「まさかこの程度の揺れで落ちることはないだろう」
と考えていたので、本当にびっくりしました。

結局、フォーラムは中止となり、私はパネリストから帰宅難民へと
立場が大きく変わってしまったのですが、いざ事が起きてしまうと、
状況を正確に判断し、的確な対応をすることがいかに難しいかを
思い知りました。

 

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