インシュアランス生保版(11月号第2週)に寄稿したものです。
「主張」というコラムを交代で書いています。
発行元の保険研究所は統計号で有名なところですね。
——————————————–
「教養としての社会保障」を読む
衆院選は小選挙区で当選を重ねた与党の圧勝となったが、今回は(今回も?)選択に困る有権者が多かったのではなかろうか。
NHKが選挙前に行った世論調査では、投票先を選ぶ際に最も重視する政策課題として「社会保障」を挙げた人が29%と最も多かった。共同通信による調査でも、投票で最も重視する点として回答者の約3割が「年金や少子化対策など社会保障」を挙げた。ここから先は私の解釈だが、有権者が政策課題として重視する社会保障とは、「年金をもっと増やしてほしい」「負担をこれ以上増やさないでほしい」といった刹那的要求だけではなく、「少子高齢化が進むなかで、今の社会保障制度はもつのだろうか」という将来に対する不安への回答を求めていると考えられる。
しかし、自民党は今回、消費増税は実施するものの使途を見直し、社会保障の持続可能性という意味では後退する政策を打ち出した。対する野党は、代替財源を明確に示さずに増税凍結を打ち出し、むしろ社会保障の持続可能性を危うくしかねない政策ばかり。有権者はいったい誰に投票したらよかったのか。
そんなことを思いながら、改めて「教養としての社会保障」(香取照幸著)を読んだ。
本書は社会保障の仕事に長年携わってきた元厚生労働省幹部によるもので、「社会保障の全体像、社会保障と経済や政治との関わりを『市民目線』で解き明かし、社会保障をある種の『一般教養』として理解していただこう」(本書より引用)という本である。
社会保障というと、負担と給付ばかりが語られがちだが、本書では産業としての社会保障にも言及し、「社会保障はGDPの5分の1を占める巨大市場」「社会保障は『単なる負担』ではなく、経済成長のエンジンたりうる」と論じており、目から鱗の思いがする。
もちろん、社会保障をどう持続可能なものとするかは本書の中心テーマとなっている。「今や小手先やその場しのぎの改善改革では追いつかない、社会保障全体の組み立てを見直さないといけないというところまで事態は進んでいるように思えます」というのが制度設計の専門家としての著者の認識であり、労働力人口が減るのに高齢者は増え続ける今後20年から30年の期間を乗り切れるかどうかが一番の課題としている。
「今後、社会保障費の負担増は避けて通れません。(中略)公平性を担保し信頼を得るには、負担も給付もできるだけ見えやすく分かりやすい簡素な仕組みに再構築しなければなりません」
「医療、福祉、介護などの部門では効率化が求められます。(中略)効率を高めるためには、規制緩和や競争政策は有効です」
「高齢者の経済活動を貯蓄から消費へと誘導するためには、社会の安心基盤を構築し、将来の不安を少なくして安心して暮らせる社会をつくることが王道です」
一見して政治の役割は大きいとわかるが、果たして現政権は応えてくれるのだろうか。
——————————————–