経済危機とリスク管理

昨年11月の日本アクチュアリー会・年次大会の報告集が公表されました。
すでに昨年11月11日のブログでも簡単にご紹介していますが、登壇したパネルディスカッションの内容が公表されていますので、改めて取り上げてみましょう。

金融危機を知らない世代が増加

パネリストとして登壇したのは11番のERM委員会「経済危機とリスク管理~これからのリスク管理を担う若手のために~」です。
PGF生命の鈴木理史さんが若手の実務担当者の代表として、今のリスク管理の実務に関する疑問をベテラン2人(みずほ証券の藤井健司さんと私)にぶつけるという企画でした。

この企画の背景には、若手の実務家にはバブル経済どころかグローバル金融危機も日本の保険危機もピンとこないという現実があります。中堅生保が相次いで破綻したのは20年前ですし、リーマンショックからも10年たちました。
しかも、こうした危機をも踏まえつつ築かれていった各社のリスク管理の枠組みや当局による健全性規制は、彼らにとっては初めから存在するものなのですね。

若手担当者からの悲鳴と警鐘

鈴木さんによる「若手からの問題提起」は、ERM委員会の若手メンバーを中心とした意見交換の内容に基づいています。
業務負担が年々増えて現場が疲弊しているとか、形を整えることばかりに固執して、有効に機能するリスク管理になっていないとか、考えさせることばかり。
なかには、「(当局に報告する)ORSAレポートに載せたいから、この数字を計算してほしい」「数字が大きくぶれるのは計算方法が悪いから」「ストレステストの結果が悪かったので、シナリオを見直すべき」といった、耳を疑うような「証言」も出ました。

当日は双方向ツールを使って参加者アンケートを行っています。最初のほうでストレステストやORSAについて聞いたところ、やはり「報告やレポート作成自体が目的化し、あまり活用できていない」が4択のうち6割以上の回答を集めました。

なぜ「リスク文化」が選ばれたのか

参加者アンケートは最後のほうでも行いました。「今のリスク管理に足りないもの、強化していくべきものは何か?」という質問に対し、

 リスク文化  55%
 ガバナンス  31%
 PDCAサイクル 11%
 ツール     2%
 外部の関与   1%

と、過半数のかたが「リスク文化」を選んでいます。直前で私が「ガバナンスのところを何とかしないと、せっかくERMの枠組みを作っても、魂が入らない」と熱く(?)語っていますね^^;

当日は進行役の市川さんが、「ツール以上に文化やガバナンスが大事だと皆さんも感じていただけた」とうまくまとめていましたが、この結果をどう捉えるべきか。
若手の実務担当者として、「あるべきリスク文化は自分たちが率先して築いていかなければならない」という表明だったらいいのですが、もしかしたら、「今のままでは意味のない(と思えるような)作業ばかりで、上司や周囲の考えが変わらなければ何も変わらない」という諦めの心境の現れなのかもしれません。
いずれにしても、どこかで「リスク文化」を深掘りするような機会があるとよさそうです。

パネルディスカッションの詳細はこちらをご覧ください。

※浅草のこの展望台には初めて行きました。
 スカイツリーもよく見えます。

 

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「国際線機長の危機対応力」を読む

インシュアランス生保版(2019年4月号第1集)のコラム。今回は書評です。
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パイロットの役割

3月にエチオピアで墜落事故を起こしたボーイングの同型機が各地で運航停止になった。本稿の執筆時点で詳しい原因はわかっていないが、同機に搭載された自動操縦装置が何らかの影響を及ぼしたとの指摘がある。
ボーイングとエアバスでは自動操縦の設計思想が異なるとされてきた。国土交通省の資料によると、エアバスは人為的ミスを防ぐ観点からパイロットよりもコンピュータの制御を優先する設計思想なのに対し、ボーイングの考え方は、コンピュータでは判断できない極限状態ではパイロットの制御を優先するというものだ。
いずれであっても現代の飛行機はパイロットの「腕」で飛ばすものではなく、パイロットが自動操縦装置を使って飛行するものである。つまり、操縦技術よりも、複雑なシステムを動かすオペレーターとしての役割が重要となっている。

未来を変えるためにいま行動する

それではパイロットに求められる資質とは何か。
PHP新書「国際線機長の危機対応力」(横田友宏著)によると、「飛行機の操縦とは、未来を変えるためにいま行動すること」であるそうだ。いま起きている事象を見て、それに対処するだけの人間ではダメで、「まだ事実が事実としての実態を持たない、兆しの段階でそれを捕まえ、その兆しがいかなるものに発展するかを見極め、その兆しに対応するために様々な対応を行っておく」(本書より引用。以下同じ)。しかも、時間的に制約があり、かつ、情報の一部しか知りえない状況下で、意思決定をしなければならない。
これは企業のリスクマネジャー、あるいは経営者にも通じるところがあるように思える。

専門職としてのあり方、考え方

教官として何人もの機長を育てた著者がパイロットに求める要件は非常に厳しい。
そもそも最初に出てくるのが、「パイロットの資質を持たない訓練生はパイロットにさせない」である。そして、「機長は単なる操縦士ではない。機長はフライトというプロジェクトを成功に導くためのプロジェクトマネージャーでなければならない」「機長として大事なのは『自我の抹消』である。(中略)機長は一切のとらわれを離れ、気象状態と管制官の指示やほかの飛行機の流れ、飛行機の状態だけを考えなければならない」「機長は、猛々しいライオンであってはならない。機長は長い耳を持つ、臆病なウサギでなければならない」と続く。
余計な雑念を持たず、チームのなかでリーダーシップを発揮する臆病なウサギに、あなたはなれるだろうか。

次のような記述も耳が痛い。「うまくいかない原因を自分以外の周りの責任にして自分は変わろうとしない人間は、絶対に機長にはなれない」「隣の教官やチェッカーがどう考えているかばかり気にしている副操縦士も、機長にはなれない」。
本書はパイロットという特殊な専門職の話を取り扱っているが、保険業界人にとっても、専門職としてのあり方や、マニュアル化するのが難しい「考え方」「哲学」の伝承を考えるうえで、大いに参考になりそうだ。
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※写真は井の頭公園です。

 

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「節税保険」販売休止の影響

3月期末の30年国債利回りは0.507%と、マイナス金利政策の開始直後だった2016年3月末(0.547%)よりも低い水準でした。厳しいですね。

生保への副作用も大きい

長引く異次元緩和の副作用として銀行経営への悪影響が注目されていますが、生保経営へのインパクトも、現行会計では見えにくいだけで、非常に大きいものがあります。
ソルベンシーマージン比率が高水準にもかかわらず、劣後調達が相次いでいるのを見ても、厳しさの一端がうかがえます。

商品面への影響も大きく、これだけ金利水準が下がってしまうと、円建ての貯蓄性商品の提供は実質的にできません。そこで保険会社が注力してきたのが外貨建ての貯蓄性商品であり、販売休止となった経営者向け保険であったと言えるかもしれません
(もちろん、他にも健康増進型保険など個人向けの保障性商品への新たな取り組みもあります)。

ちなみに金融庁は2月に行われた生命保険協会との意見交換会で、「低金利環境による厳しい収益環境が続いているとはいえ、トップライン維持のために、過去を反省することなく、このように法令や監督指針に照らして問題がある商品まで投入してしまうという保険会社の姿勢はいかがなものか。経営の在り方としてはあまり美しくないと感じざるを得ない」という異例のコメントをした模様です。

経営者保険の保険料は個人保険の3割程度

経営者向け保険が販売休止となったことによる生保経営への影響を考えてみましょう。

最近出た東洋経済オンラインの記事によると、経営者向け保険の推定市場規模は新契約年換算保険料ベースで8000億~9000億円とのこと。
「経営者向け保険」「法人向け定期保険」といった統計はありませんが、個人で保険料を年払いにしている人は少ないと考えられますので、公表されている年払保険料を見ると大まかな傾向をつかむことができます。
2018/3期における個人保険の初年度保険料のうち、年払いは業界全体で8662億円でした。異次元緩和が始まる直前の2013/3期と比べると2160億円、マイナス金利直後の2016/3期と比べても985億円増えていて、内訳を見ると、2つの大手生保グループが大きく寄与しています。

個人保険全体に占める割合をざくっと見ると、新契約年換算保険料と比べて39%、初年度保険料(振れの大きい一時払いを除く)と比べると34%です。
個人向け商品の年間保険料に比べ、経営者向けの1件あたりの保険料が高いので、件数としては全体の1割未満だとしても、保険料収入でみると割合が高くなります。
ちなみに2013/3期はそれぞれ31%/29%、2016/3期はそれぞれ32%/31%だったので、割合は高まっています。

経営への影響をどう見るか

ただし、経営者向け保険の競争が激しかったためか、保障性商品に比べると収益性はかなり低いとみられます。
第一生命ホールディングスによると、第3四半期累計(2018/4-12)の国内3社の新契約年換算保険料3150億円のうち、販売休止となった商品が950億円と、全体の30%を占めたそうですが、新契約価値については年100~200億円程度にとどまるそうです(参考までに2018/3期の新契約価値は3社合計で1651億円でした)。
手掛かりが少なく正確なところはわかりませんが、大手生保のように個人も法人も手掛けている会社では、少なくともこの要因だけで新契約価値が急減することは考えにくいです。

もっとも、個社別に見ると、年払い保険料が初年度保険料(除く一時払い)の7割以上を占める会社がいくつかあり、営業戦略の大幅な見直しを迫られていると考えられます。
同じくこの分野に強みを持ち、節税話法に傾斜していた訪問型代理店への影響も深刻でしょう。
わかっていたリスクがこのタイミングで顕在化したという話ではありますが…

※写真は秩父です。電車はさくら号でも、咲いていたのは梅でした^^

 

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第三者委員会の報告書

ネットで「第三者委員会」と検索すると、NGT48(AKB48グループ)の暴行事件に関する調査報告書が出てきたので、読んでみました。

AKB商法の一端が示される

新潟のNGT48のメンバーがファンの男性から暴行被害を受けたという事件について、運営会社のAKSが第三者委員会を設置し、事実関係や会社関係者の関与、発生原因を調査したものですが、不祥事といっても身内が絡んでいるかもしれない暴行事件ですし、かつ、実行犯の協力も全く得られていないので、事実関係の解明ができたとは言えそうにない報告書でした。

運営会社が所属アイドルの安全確保にあまり気を使っていないことはよくわかりました。
AKB48グループは「会いに行けるアイドル」がコンセプトで、ファンとの接触が多いので、ファンとのトラブルも起こりやすく、実際、数年前には傷害事件も起きています。
それにもかかわらず、総選挙などでアイドルを競わせ、握手券のまとめだし(=お金を出せばファンは特定のメンバーと長時間接触できる)を認め、結果として一部ファンとの私的つながりを持つメンバーが少なくとも12名も存在することが判明した一方で、安全確保は基本的に本人任せという実態が記されています。
事件の根本的な原因はAKB48のビジネスモデルにあるようには感じました。

原因究明には事業の理解が不可欠

不祥事を起こした企業等が第三者委員会を設置し、再発防止に務めようとする動きは、ここ数年でかなり一般的になりました。
ただし、第三者委員会による調査は法的な強制力を持つものではなく、警察による捜査や金融庁の金融検査とは違うので、調査先の全面的な協力が得られなければ、限界があります。

さらに言えば、委員会を弁護士の先生が主導しているためか、もっと経営分析を行えば、より内面に迫れるのではないかと感じることが多いです。
全ての第三者委員会報告書を読んだわけではありませんが、その企業や組織のビジネスモデルや経営環境への深い理解がなく、結果として表面的な原因の発見にとどまっていたり、「ガバナンスの欠如」「企業文化の問題」といった一般論にとどまっていたりする報告書も目立つようです。

例えば、スルガ銀行が昨年9月に公表した第三者委員会調査報告書を見て、確かに不正行為の数々を浮き彫りにしたという点では高く評価できるとはいえ、スルガ銀行のビジネスモデルならではの原因究明が弱いように感じました。
もっとも本件に関しては、金融庁が10月の行政処分のなかで、より踏み込んだ原因究明を行っています。

※写真は浜離宮です。春ですね♪

 

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サイバー保険

サイバー保険の加入率は12%

日本損害保険協会は11日、「サイバー保険に関する調査2018」を発表しました。
売上高が100億円以上、あるいは従業員数1000名以上の大企業では、サイバー攻撃への危機意識を持つ会社が過半数を占め、サイバー保険への加入もある程度進んでいる一方、規模が小さい会社の多くは、自社がサイバー攻撃の対象になる可能性があることを認識しておらず、当然ながらサイバー保険の加入率も非常に低いという結果が示されています。

※調査結果はこちら(PDF)

もちろん、サイバー保険に加入すればサイバーセキュリティ対応になるわけではなく、リスクを認識し、対応方針を決め、管理体制を構築するといった、リスク管理の枠組みを整備し、実践するのが先です。
しかし、調査によると、規模の小さな会社では、多くが「ウイルス対策ソフトの導入」「機密情報を社外に持ち出さない(=そうしたルールがあるということでしょうか?)くらいしか対策を取っておらず、セキュリティ対応を強化する予定もないことがうかがえます。

※参考(備忘録として)
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2019」
経済産業省・IPA「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 2.0」
金融庁「『金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取組方針』のアップデートについて」

部門間の連携ができているか

ところで、一般の事業会社や多くの金融機関には、サイバーリスクは経営を揺るがす脅威でしかありませんが、保険会社にとってサイバーリスクは、脅威であるとともに、ビジネスチャンスでもあるということですね。

ただし、保険会社としてリターンを目指すサイバーリスク(保険引受リスク)と、企業活動に伴うサイバーリスク(オペレーショナルリスク、あるいはBCP対応)は別物なので、前者は保険引受部門や商品開発部門、後者はIT部門などの指示に基づき各事業部門が第1線として対応するのが一般的だと思います
(第2線としてはリスク管理部門が全社的にモニタリングを実施)。

とはいえ、管理体制は別々だとしても、取り扱うリスクそのものは共通しているので、各部門がそれぞれバラバラに業務を行うのではなく、壁を造らず、うまく連携できる体制が理想なのでしょうね。
まさか紺屋の白袴ということはないとは思いますが…

※写真は築地場外市場です。この日は観光客がやや少なめでした。

 

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「アジア都市の成長戦略」

アジアの大都市を分析した書籍「アジア都市の成長戦略」の書評が直近の週刊金融財政事情(2019.3.11)に掲載されました。
著者の後藤康浩さんは日経新聞の記者出身で、現在は亜細亜大学・都市創造学部の教授として「ジャーナリスティック・アカデミア」を追求しているのだそうです。

本書はアジアの経済成長を都市という切り口で分析しています。書評では紹介しませんでしたが、最後の第7章「『都市力』がアジアで牽引する」では、深圳、ホーチミン、シンガポール、ヤンゴン、デリーの5都市をケーススタディとして取り上げ、各都市の具体的な成長戦略を確認しているのも本書の魅力です。
もちろん、昨年末のヤンゴン旅行の参考にもなりました。

※同じヤンゴン川でも景色がだいぶ違いますね

 

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ERMに関する意識調査

損保総研・ERM経営研究会が執筆した「保険ERM経営の理論と実践」でも示されているように、3メガ損保グループは金融庁がERM(統合的リスク管理)に注目する前からERMを推進し、外部からも高い評価を得ています(格付会社S&Pの評価など)。

ERMを構築するうえで、ERMを支える企業文化、すなわち、リスクや収益の概念を軸とした議論や意思決定を行う企業文化を、経営陣だけでなく役職員全体に浸透させることは、ERMの構築を進めるうえで最も重要かつ難しい取り組みだと思います。

このERMカルチャーが組織内にどの程度浸透しているのかを知ることは、外部からはもちろん、経営陣であってもそう簡単ではなさそうですが、損保総研の機関誌「損害保険研究」第80巻第4号(2019年2月)に掲載された浅井義裕さんによる論文「ERMに関する意識調査の概要報告」では、ウェブ上で損害保険会社の社員を探し、ERMに関する意識調査を実施しています。
損保総研のサイトへ(論文の閲覧はできません)

調査では、損害保険会社に勤めていると回答した500人(うち67%が3メガ損保グループ勤務と回答)に対してERMに関する質問を行い、損保社員のERMへの意識を把握しようとしています。「概要報告」とあるので、論文にはアンケート調査のすべてが掲載されているのではなさそうですが、なかなか興味深い結果が出ています。

例えば、「ERMの考え方は、あなたの人事評価に反映されていますか?」という質問に対し、「反映されている」「ある程度反映されている」という回答は30%に達しています。また、「上司などからの指示が、『リスクを考慮しながら、リターンを追求する』を意識したものになってきていると思いますか?」に対しては、回答者の40%が「そう思う」「ややそう思う」を選んでいます。
回答者のうち、国内営業部門、営業支援部門、損害サービス部門が全体の7割を占め、保険代理店の役職員も数%含まれていることを踏まえると、これらは非常に高い数値に見えます。

他方で、「貴社におけるERMの位置付けをどのように評価されますか」という質問に対しては、クロス集計表によると、「わからない」という回答が3メガ損保の社員でも38%に上っています(全体では43%)。
同じ質問に対し、「重要である」という回答割合が3メガ損保の社員では31.5%と他の属性よりも高い(その他国内損保は18%、外資系は16%)ことから、浅井先生は論文のなかで、「ERMは3メガ損保にとって特に重要であることが確認できる」と分析していますが、私はむしろ「わからない」という回答が4割近くを占めることに興味を持ちました。

要するに、「ERMは人事評価に反映されたり、ERM的な考えが上司の指示に見えてきているけど、経営としてERMが本当に重要なのかどうかは半信半疑」と考えている3メガ損保の社員がかなり存在するいうことになりますね。

※写真は札幌市電です。環状線になって便利になりました。

 

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「脱・役所」の金融庁人事

週末にかけて家族旅行で札幌と旭山動物園に行ってきました。数年ぶりにスキーにも挑戦。
それにしても、動物園もスキー場も外国のかたが多くてびっくりです。

読売新聞の金融庁特集

先週28日の読売新聞にコメントが載りました。
いつもの保険関連ではなく、「脱・役所」の金融庁人事のなかで使われています。
リンクがいつまで有効かわからないので、私が関係する部分だけ引用しておきます。

---(引用はじめ)---
出席した一人で金融機関向け助言会社キャピタスコンサルティングで働く植村信保(52)は、リーマン・ショック後の2010~12年に在籍した。危機の教訓から世界中が金融機関の経営に厳しい目を向け、規制強化の流れが進んだ頃だ。

植村は元保険アナリストで保険会社の破綻事例に精通している。リーマン・ショック直後は中堅の大和生命保険が経営破綻し、金融庁は規制見直しに向けて専門家の知見を欲していた。植村は任期を当初の予定から半年延長し、2年余りをかけて経営の健全性を維持させるためのルールづくりに取り組んだ。植村は自負する。「金融庁幹部は問題の本質を理解する能力は高いが、配置換えが早く、専門性が高いとは必ずしも言えない。民間人材の知見を生かせたのではないか」
---(引用おわり)---

「植村は自負する」といった記述は記者さんの創作ですが、記事によると、大蔵省から分離して間もない1990年代後半~2000年代前半が「第1世代」、リーマン・ショックの後が「第2世代」、フィンテック時代の今は「第3世代」だそうで、私は第2世代に当たります
(ちなみに私がそのように整理したのではありません^^)。

「調整力」に偏りすぎていないか

金融庁には弁護士が約40人、公認会計士が約70人、金融機関の出身者やシステムエンジニアなどを加えると民間人材が400人近くも在籍しているそうです。
この「民間人材」には、任期が終わると民間に帰るかたと、民間から金融庁に転職したかたがいます。さらに、金融庁参与も民間人材の活用ですが、この400人に含まれているかどうかはわかりません。

もっとも、民間人材イコール助っ人という感覚は、そろそろ改められるべきではないでしょうか。
他の省庁に比べれば民間人材の活用が相当進んでいるとはいえ、民間出身者がいわゆる幹部となったケースはほとんどありませんし、官と民を行き来する「回転ドア」も、実質的には限られています。
さらに言えば、プロパーでも特定分野に専門性を持つようなかたは珍しく、海外の金融当局とはかなり違うという印象です。

記事にあるように、「権謀術数が渦巻く永田町や霞が関での調整力がなければ、日本では望ましい政策を実現できない」「専門家の正論だけでは対処できない世界は、兄貴分の財務省に一日の長がある」というのは、現実なのかもしれませんが、グローバル化が進む世界において、それで大丈夫なのかと思ってしまいます。

 

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改訂CGコードへの対応状況

本題とは関係ありませんが、この記事の「業界で縁起が悪いとされている地域」に思わず反応してしまいました(苦笑)
ただし、「早期解約の場合は保険会社の費差益がマイナスになってしまうケースが大半」ということはないと思います。
節税保険祭り終了、怒れる国税庁が鳴らした「生保業界再編」の号砲

問題は「順守率の低下」ではない

さて、私のほうは、22日の日経記事「統治指針、順守率が低下」「改定に対応追いつかず」(有料会員限定)が気になったので、こちらを取り上げます。
東京証券取引所がコーポレートガバナンス(CG)コードへの対応状況を公表したことを受けた記事です。

・東証がコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)への対応状況について2018年末時点の集計結果を公表
・「取締役の多様性確保」など2018年6月の指針改定で変更になった原則の順守率低下が目立った

CGコードを「統治指針」と表記するのはともかく、コンプライ率を「順守率」とするのはちょっと違和感があります。
このコードは上場会社が守るべきルールではなく、実効的なガバナンスを実現するための規範を示したものです(原則主義ですね)。ですから、文言や記載よりもその趣旨や精神が重要なのであって、すべての会社が100%のコンプライを目指すようなものではないのです。
「順守率が低下」というと、ルールを守っていない会社が増えたように読めますよね
(以下では「実施率」としておきましょう)。

とにかくコンプライ

改訂前のCGコードの実施率は非常に高い状況でした。高いからいいという話ではありません。上場会社はコンプライアンス対応と同じようにとらえ、原則の内容よりも、とにかくコンプライする方向に走ってしまったようです。

例えば、経済産業省が実施した「平成29年度コーポレートガバナンスに関するアンケート調査」では、CGコードへの対応状況について尋ねています。
そこでは、「コンプライしているものの、形式的な対応にとどまり、実質的な取組にまで至っていないものがある」という回答が28%、「他社の取組水準と遜色ない水準の取組を行う方向で検討いている」が16%、「コンプライすることが当然だという風潮になっていると感じ、強く意識している」が10%ありました(複数選択可)。
このアンケートへも形式的な対応(=優等生的な回答)をした会社があるはずなので、実際の数字はもっと大きいと考えられます。
経産省のサイトへ(参考資料2の26ページ)

形式的な対応で損をしている

東証が取りまとめたCGコードの対応状況で注目すべきは実施率が下がったことではなく、改訂後も実施率が総じて非常に高いことだと思います。
特に、原則3-1(情報開示の充実)が東証1部で92.7%(△1.5pt)、補充原則3-1(1)が99.6%(△0.3pt)という回答が実質を伴っているのであれば、金融審議会ディスクロージャーWG報告に基づく府令の改正も情報開示のガイダンスも必要ありません。

日本では原則主義にあまり馴染みがないとはいえ、形式的な対応をすることで、上場会社はせっかくの対話の機会を逃している、あるいは、開示情報が信頼されず、結果として会社価値を外部から低く見られることになるので、もったいないなあと思います。

※ハワイではなく、横浜で食べました

 

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「健康増進型」保険の特集

近代セールス社の季刊誌ファイナンシャル・アドバイザー春号に寄稿しました。
この号のサブ特集が「健康増進型」保険でして、私が解説した後、保険ジャーナリストの石井秀樹さんが各社の商品内容を紹介し、著名FPの竹下さくらさんが顧客からの質問に答える、といった作りになっていました
(メイン特集は「税制改正で提案はこう変わる!」です)。

私のパートは先ほどのサイトで前半だけ読めるみたいですが、ここでは見出しをご紹介しましょう。

・各社が「健康増進型」保険をリリースしている背景・狙いとは?
 *健康増進を切り口にポジティブな提案が可能
 *顧客との接点を自然に継続して持てる
 *商品開発の背景にあるインシュアテックの進展

・個人の健康情報を活用することでどのようなメリット・デメリットがあるのか?
 *健康増進のために保険に入るのは本末転倒
 *健康状態と保険料の関連性がわからない

・個人の健康情報を活用した商品開発は今後どう進んでいくのか?
 *リスク細分が進むのは良いことばかりではない

主な読者層は現場の第一線で金融・保険商品を提供する皆さんなのでしょうか。本社の営業企画部門や商品開発部門に代わり(?)できるだけ中立的に、かつ、わかりやすく書いたつもりです。
機会がありましたらご覧ください。

※写真は旧築地市場です。解体が進んでいます。

 

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