生命保険論集に論文が載りました

生命保険文化センターの論文集「生命保険論集」の第207号(6月20日発行)に論文が載りました。
タイトルは「生命保険業界における経済価値ベース評価の活用状況に関する考察」です。
1年くらいたつと文化センターのサイトから論文を読めるようになるのですが、ざっと中身をご紹介しましょう。

総資産5兆円超では全社が活用

いよいよ経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に向けた検討が進みつつある(例えば有識者会議の設置フィールドテストの毎年実施など)とはいえ、まだ導入時期が固まっていない状況下において、経済価値ベースの評価に基づく経営管理が生保業界にどの程度浸透したと言えるのか。本稿はこれを公表資料から探ったものです。

経営管理という、外部からは把握が難しいテーマではあるのですが、本稿ではまず、公表資料における経済価値ベースの経営管理に関する記述を調査してみました。
具体的には、生保41社が2018年に公表したディスクロージャー誌に経済価値ベースの経営管理に関する記述があるかどうかを確認しました。記述の有無を判断する際、「経済価値」という記述のほか、「市場整合的な手法」「資産と負債を時価評価」「新契約価値で評価」などの記述も含めています。

もちろん、2018年のディスクロ誌に経済価値に関する記述がなかったからといって、その会社が経済価値ベースの評価を経営管理に取り入れていないと判断するのは無理があります。ただ、記述がある会社に関しては、少なくとも何らかの形で経済価値ベース評価を活用していると判断できます。
調査の結果、41社のうち23社で何らかの記述があり、さらに、総資産が5兆円を超える18社については全社で記述がありました。

活用は道半ばと総括

次に、経済価値ベースの評価が実際の経営管理に活用されている可能性、あるいは活用されているとは考えにくい状況証拠をいくつか挙げてみました。

活用されている可能性を示唆する状況証拠としては、近年の大手・中堅各社における資本調達(主に劣後債務の調達)ラッシュがあります。ソルベンシーマージン比率は高水準で推移し、基礎利益や当期純利益は微増傾向にもかかわらず調達ラッシュが起きているのは、長期金利の水準が下がり、経済価値ベースでみた健全性が悪化したためと考えるのが自然です。

その一方で、金利が下がり、経済価値ベースでみた健全性が悪化した状況下における対応として、それまでのリスク抑制姿勢(特に金利リスク)を改め、金利リスクの更なる抑制をやめ、さらに新たな資産運用リスクをとるという行動をどう理解したらいいのでしょうか。
同じモノサシを使った行動とはとても考えにくく、経済価値ベース評価が示す経営内容への対応よりも、経営として優先すべき何かがあると理解するほかありません。

こうした趣旨の論文ですので、機会がありましたら、ぜひご覧いただければと思います。

※築地市場の解体がだいぶ進みました。
 下の写真は正門跡です。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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