外貨建て保険の販売動向

11/25のブログで「外貨建て保険に注目するのであれば、いくら売れたのかという各社の数字を掲載してほしい」と書きました。その後、多少の情報を見つけたのでご紹介します。

銀行窓販は外貨建てが圧倒

まず、12日の日経「外貨建て保険 利回り見える化(有料会員限定)」に掲載されたように、銀行など金融機関チャネルでの一時払い保険の販売は、直近では約9割が外貨建てとなっている模様です。
銀行窓販でトップクラスの市場シェアを持つ第一フロンティア生命のデータからも、外貨建て保険へのシフトがうかがえます。
第一生命HDのIR資料(PDF)

2016年のマイナス金利政策で金利水準が一段と下がった結果、円建ての一時払い商品が消滅してしまい、代わりに外貨建て保険が台頭したかたちです。

一時払以外の保険でも

一時払い以外でも、いくつかの会社が外貨建て保険の販売に関する情報を出しているのを見つけました。

ソニー生命は親会社のIR資料のなかで、商品別の新契約年換算保険料を継続的に載せています。
直近の資料(PDF)によると、2018年度上半期では、外貨(米ドル)建てが全体の約2割、一時払いを除けば14%となっています。

英語になりますが、外資系3社の販売動向もありました。
グラフを見たところ、2017年の新契約年換算保険料のうち、プルデンシャル生命では約4割、ジブラルタ生命でも3、4割が外貨(米ドル)建て保険だった模様です。
Prudential FinancialのIR資料(PDF)

メットライフ生命では、2018年上半期の新契約年換算保険料の77%が外貨建て(2017年は同68%)で、割合としては一時払いが多いとはいえ、平準払いの外貨建て保険だけでも全体の26%を占めています。なお、年換算保険料の定義が日本のものと異なるので、ご注意ください。
MetLifeのIR資料(PDF)

外貨建て保険というと一時払いというイメージがありましたが、会社によっては様子が異なるようですね。

 

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「業績の安定」とは

直近のinswatch Vol.958(2018.12.10)に執筆した記事「『業績の安定』とは何を意味するのか」のご紹介です。損害保険会社の経営について書いています。
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支払い額は過去最大に

自然災害に伴う損保業界の保険金支払いが、前回(10月8日)の本誌で、「場合によっては、年度別の支払い額が過去最高となった2004年(7449億円)に匹敵することもあるのかもしれません」と書いたところ、ご承知のとおり、これを大きく上回る1兆円規模の保険金支払いとなることが判明しました。
ただし、自然災害の発生トレンドをどう見るか、つまり、まだ過去のトレンドの延長線上と言えるのか、あるいは、地球温暖化などの影響でトレンドが変わってしまったと見るべきなのかは、見解が分かれている模様です。

日経新聞の社説

ところで、11月24日の日本経済新聞に「損保は異常気象対策を万全に」という社説が載ったのをご存じでしょうか。
「災害が相次ぐ日本を地盤とする日本の損保は、保険金支払い能力を盤石にするのはもちろん、業績を安定させるあらゆる努力が欠かせない」としたうえで、業績安定のため、損保業界が異常危険準備金の税制優遇拡大を求めていることと、火災保険の料率引き上げを目指していることを紹介しています(後者については「コスト削減の徹底が前提」だそうです)。
ここで言う「業績」とは、決算における純利益のことです。事業として自然災害リスクを積極的に引き受けている保険会社にとって、本当に「業績の安定」が欠かせないのでしょうか。

「業績」は会計ルールに左右される

自然災害に伴う多額の支払いが見込まれる状態で決算を迎えた9月期決算では、3メガ損保の国内損保事業が赤字または大幅減益となりました。前回書いたように、9月に発生した自然災害は支払いに至っていないケースが多いため、異常危険準備金の取り崩しがほとんどなかったためです。
他方で通期の決算では、支払いが進み、異常危険準備金を取り崩すため、「業績」予想は総じてそれほど悪くありません。
損保の経営にとっては(税制優遇の話を除けば)同じ自然災害により発生した支払い義務なのに、会計ルールがそうなっているというだけで、「9月期の業績は悪化」「通期では安定」というのはおかしな話ですが、社説をはじめ、メディアの多くは(結果として)こうとらえているようです。

似たような話は保有する国内株式についても生じます。
有価証券の減損を、3メガ損保のように30%ルール(期末日の時価が取得原価に比べて30%以上下落したものを対象)の会社と、原則通り50%ルールを適用している会社では、同じ銘柄の株価が下落しても、「業績」に与える影響が大きく異なることがあります。

「業績の安定」という見方をやめるべき

もし本当の意味で業績を安定させるのであれば、異常危険準備金を追加的に積んだり、保険料の値上げを理解してもらうべく踏み込んだコスト削減を行ったりしても大きな効果はありません。むしろ、日本の自然災害のようなリスクの大きい引き受けをしなければいいという結論になります。
モノラインであれば別ですが、総合的な保険会社であれば、自らの存在意義を考えた際、自然災害リスクを引き受けないという選択は考えにくいでしょう。少なくとも現時点では事業として成り立つと考えているからこそ、各社は風水災害のリスクの引き受けを続けているのだと思います。

そうだとすると、日本の損保は何年かに1回は多額の支払いが発生するのが普通の状態ということになります。もちろん、会社としてリスク分散やリスクヘッジを進め、経営を安定させる(すなわち、経済価値で見た損益の振れを経営陣が想定したレベルに抑え、資本コストを小さくする)という戦略はあります。しかし、メディアが「業績を安定させるあらゆる努力が欠かせない」などと無理に毎期の決算の安定を求め、それに応じたりすると、かえって経営を歪めることになりかねません。

※丸の内で見かけたクリスマスツリーです。

 

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保険料等収入の内訳は?

少し前に2017年度版のインシュアランス統計号(生保版)が出たので、メディアで取り上げられることの多い、生保の「保険料等収入」について改めて確認してみました。

企業年金の受け入れも保険料収入

まず、保険料等収入の「等」は再保険収入です。漢字生保ではごくわずかですが、プルデンシャルやマニュライフといった外資系、あるいは第一フロンティアなど、再保険を積極的に活用している会社では、「等」のあるなしで数値がかなり違ってきます。

保険料収入について、以前から「保険料収入を売上高と見るのは無理がある」と主張してきましたが、その最たるものは団体年金保険の保険料です。生命保険協会の資料も参考にすると、2017年度では、保険料収入32.4兆円のうち、約3兆円が団体年金でした(全社ベース)。

団体年金保険は「保険」といっても実質的には企業年金などから預かった資金を運用する業務なので、その期に新たな受託資産があるかどうかで保険料収入が決まります。例えば、大手4社(日本、第一、住友、明治安田)の2016年度の保険料等収入は2015年度よりも約2.2兆円少なかったのですが、意外にも団体年金の保険料収入が1兆円以上も減ったことが主因でした。マイナス金利政策を踏まえ、生保が新規の受け入れを抑えたのかもしれません。
いずれにしても、資産運用業務の資金受け入れを売上高と言うのは違和感があります。

個人保険の月払保険料に注目

個人分野(個人保険、個人年金保険)の統計は「初年度保険料」と「次年度以降保険料」に分かれています。
2017年度の場合、個人分野の保険料27.3兆円のうち、初年度保険料は8.4兆円でした(全社ベース)。つまり、当期の保険料収入のうち7割は、過去に獲得した契約から得たものということになります。

さらに、初年度保険料も「一時払」「年払」「その他(主に月払)」に分けることができます。
「一時払」は銀行窓販に代表される貯蓄性商品の販売に伴うもので、初年度保険料に占める割合が高いうえ、変動が大きいのが特徴です。例えば、2015年度には全社ベースで9.2兆円(初年度保険料の77%)だったものが、2017年度は5.6兆円(同67%)にとどまりました。

このように見ると、保険料収入だけで生保の業績を語ろうとすると、企業年金等の資金受け入れがあったかどうかと、一時払の貯蓄性商品が売れたかどうかを追いかけることになってしまうのですね。

生保の収益を支えているのは一時払の貯蓄性商品や年払の経営者保険というよりは、保障性商品である月払の個人保険です。2017年度の場合、個人保険の初年度保険料(一時払、年払を除く)は1.6兆円で、保険料収入の5%程度にすぎません。
もちろん、この部分にもドアノック商品として貯蓄性の高い商品が含まれてしまうとはいえ、会社価値という観点からはこの部分こそが重要で、ここが減少トレンドにある会社は要注意ということになります。

※写真は横浜です。赤レンガ倉庫でクリスマス市をやっていました。

 

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「逆ざや」の早期解消を目指すとは

きんざいにコメント

直近の週刊金融財政事情(2018.12.3)に生保決算に関する次のコメントが載りました。

「各社とも営業職員チャネルによる平準払い保険の販売が好調だったことが決算を下支えしたと考えられる」と評価しつつも、「引き続き外貨建て資産を増やす動きが見られるが、今後の金融市場の不透明感が高まっており、相場急変時に多額の損失が発生しないかどうか注意が必要」と警鐘を鳴らしている。

平準払い保険が売れても当期の会計利益には貢献しないのですが、実質的には外貨建て保険よりも重要ということで、このようなコメントになりました。

逆ざや解消には利配収入の増加が必要

三井生命が来年4月から社名を大樹(たいじゅ)生命に変更するという11月30日の日経記事に、「親会社の日本生命保険と運用ノウハウ活用などを進め、契約者に支払うお金が運用益を上回る『逆ざや』の早期解消を目指す」とありました。ニュースリリースにも他メディアの記事にも逆ざやがどうのという記述はないので、もしかしたら日経としてのコメントなのかもしれません。

確かに主要生保の多くは順ざやとなっているなかで、三井生命と朝日生命だけが逆ざや(=基礎利回りが平均予定利率を下回っている状態)です。これは両社の平均予定利率が他社よりもやや高いのと、基礎利回りがやや低いためです(三井はいずれも推計ベース)。

平均予定利率を一段と下げるには、過去に獲得した高利率契約の転換や解約を促すか、円建ての貯蓄性商品を大量に販売すれば可能です。しかし、いずれも会社価値という観点からはアウトでしょう。
逆に言えば、他社は団体年金や近年の円建て貯蓄性商品の販売で平均予定利率としては下がっていても、過去の高利率契約が残っている状況は全く同じです(追加責任準備金の積み立てをどう捉えるかは、ここでは論じません)。

他方、基礎利回りを上げるには、主な構成要素である利息配当金等収入を増やす必要があります。今の金利水準を踏まえると、円金利よりも利率の高い外国公社債と、配当の期待できる株式を購入すれば、利息配当金等収入は増えます。あるいは私募投信であれば、キャピタルゲインもインカム化できます(懐かしい響きですね)。
しかし、こうして基礎利回りを高め、逆ざやを解消しても、同時に資産運用リスクが拡大するため、経営は今よりも確実に不安定になってしまいます。株式や外国公社債を購入するために国内公社債を売却していれば、資産・負債のミスマッチに伴う金利リスクも増えているでしょう。

いくら親会社の運用ノウハウを活用できるといっても、逆ざや解消を目指すのが適切な経営戦略とはとても思えません。

外国証券への依存

ちなみに各社のディスクロージャー誌で利息配当金等収入の内訳を見ると、外債投資の拡大に伴って、外国証券の利息配当金の割合がかなり高まっていることがわかりました。
例えば2018年3月末時点において、日本生命や住友生命、太陽生命、大同生命、富国生命では、外国証券の利息配当金が利息配当金等収入の4割前後を占めています。

ここ数年の外国証券への投資拡大が順ざやに大きく貢献していることがわかるとともに、ここまで依存度が高まってしまうと、外国証券をそう簡単には売れないのではないかと心配になってしまいます。

※旧築地市場です。暫定道路ができて信号待ちが増えたので、会社が遠くなりました(涙)

 

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大手生保の業績動向

外貨建て保険はいくら売れたのか

22日に主要生保の4-9月期決算が出そろいました。
標準生命表の改定や健康増進型保険の登場など、業績面での注目ポイントは外貨建て保険の販売動向だけではないと思うのですが、新聞報道は「保険料等収入」だけ伝えればいいと割り切ってしまっていて、外貨建て保険など貯蓄性商品の話ばかりでガッカリします。
外貨建て保険に注目するのであれば、せめて4-9月期に外貨建て保険がいくら売れたのかという各社の数字を聞き出し、掲載してほしいです。

大手4社の業績動向

とはいえ、四半期ごとに各社の数値を眺めても、今回はいろいろな要素が混ざっていて、解読するのが難しいです。

<日本>
・個人保険の新契約高と新契約件数が大きく増えたのは、死亡保険の低料や新商品効果でしょうか。第三分野の新契約年換算保険料(ANP)も増えています。経営者保険が数字にどう反映しているかは、今回の開示だけではよくわかりません。
・他方で、新契約ANPが大きく減ったのは、単体では銀行窓販をはじめ貯蓄性商品が振るわなかったためと思われます。ただし、三井生命の増収は日本生命の販売網による一時払い外貨建て養老保険の販売が寄与している模様です。
・日本生命は残念ながらEVを公表していないので、新契約価値(4-9月に獲得した契約が会社価値にどの程度貢献したか)もわかりません。

<第一>
・グループベースでの大幅増収は第一フロンティア生命の貯蓄性商品の販売が好調だったことのほか、ネオファースト生命による経営者保険が貢献しています。
・第一生命は3月に健康増進型の主力商品「ジャスト」を発売しましたが、4-9月期は既存顧客の保障見直しを中心に販売したため、新契約価値が伸びなかったとのこと。今後の動向に注目です。なお、第一生命の新契約件数が大きく増えているのは、「ジャスト」は従来の主契約+特約ではなく、単品の組み合わせとなっているためです。

<住友>
・貯蓄性商品の販売減により保険料等収入は減収となり、メディアに「住友は減収」と書かれてしまいました。しかし、営業職員による保障性商品の販売は好調で、新契約価値はむしろ増えていることに着目すべきでしょう。
・健康増進型の新商品「Vitality」は7月発売で、その影響からか、7-9月の新契約高が急増(純新規と転換がともに改善)し、第三分野の新契約ANPも増えています。

<明治安田>
・昨年8月に発売した外貨建て保険が銀行窓販のほか、営業職員チャネルでも好調で、保険料等収入の増加に貢献しました。第三分野の新契約ANPも大きく増えていて、これは昨年12月発売のシニア向けの終身医療保険が寄与していると思われます。
・ただし、残念ながら4-9月期の新契約価値の公表が昨年からなくなってしまったので、利益率としてどうなのか気になるところです。

あくまで4社だけを見た印象ですが、改めて貯蓄性商品への強いニーズを感じるとともに、生命表改定を契機とした新たな商品戦略を評価するにはもう少し時間が必要だと思いました。

※写真はカエルとカマキリです(わかりますか?)

 

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相次ぐ自然災害の発生(続き)

先日inswatch Vol.949に寄稿した「相次ぐ自然災害の発生」(10/9のブログでご紹介)では、「場合によっては、年度別の支払い額が過去最高となった2004年(7449億円)に匹敵することもあるのかもしれません」と書きましたが、19日に日本損害保険協会から、3つの災害(7月豪雨、台風21号、台風24号)による支払見込額が合計9381億円という発表がありました。
日本損害保険協会のサイトへ

同じ日に3メガ損保グループの決算発表があり、これによると、国内自然災害による上半期の発生保険金(グロス)は合計1.1兆円に達した模様です。協会発表を3メガだけで上回るのは妙なので、協会ベースの最終的な支払額はもう少し大きくなるのかもしれません。

ただし、多額の支払い発生にもかかわらず、3メガ損保の2018年度業績予想(連結純利益)は、東京海上とMS&ADは年初予想を据え置き(2017年度から増益予想)、SOMPOは下方修正したとはいえ2017年度に比べれば増益予想です。
これは、再保険による回収があり、正味の支払見込額は5千億円強であることと、東京海上とMS&ADの場合、国内自然災害に伴うロスの約8割を異常危険準備金の取り崩しでカバー(SOMPOは7割強をカバー)することが大きく寄与しています。

それにしても、同じ発生保険金見込みでも、9月末だと実際の支払いが進んでおらず、異常危険準備金が取り崩しとならなくて減益で、通期決算では取り崩しがあるので増益というのは、何ともわかりにくいですよね。
だからこそ、各社は「修正利益」などを発表しているのですが、生保だけでなく損保でも経済価値的な見方が必要だということが理解できると思います。

その意味で私が最も気にしているのは、自然災害の発生トレンドをどう見るか、つまり、まだ過去のトレンドの延長線上と言えるのか、あるいは、地球温暖化などの影響でトレンドが変わってしまったと見るべきなのかです。後者だとするとなかなか大変です。

※久留里には町のあちこちに水場がありました。

 

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きんざいに書評を寄稿しました

江戸幕府 vs 市場経済

週刊金融財政事情の11月12日号に書評を寄稿しました。今回取り上げたのは「大坂堂島米市場(こめいちば)」で、著者は神戸大学の高槻泰郎先生です。
江戸時代の大阪(大坂)で、現物の受け渡しを想定していない「指数先物取引」が行われていたというのも驚きですが、経済学の知見も、参考となる海外事例も存在しないなかで、先物市場に対する政策を検討し、実行した江戸幕府の試行錯誤を、本書で読んで非常に興味深く感じました。

高槻先生は江戸時代の経験や知識が、いかにして明治以降に引き継がれたのか、あるいは引き継がれなかったのかに関心を持っているそうです。江戸時代の金融市場において培われた経験が、明治期の工業化といかに関わるのか、今後の研究成果に注目したいと思います。

保険代理店にとっての顧客本位の業務運営

せっかくの機会なので、もう一冊ご紹介しましょう。栗山泰史さんによる「保険代理店にとっての顧客本位の業務運営」です。
栗山さんはいわば保険業界のオピニオンリーダー的存在ですが、そのかたによる次のような記述にはちょっとしたショックを受けました。

「保険代理店の中には商品の説明さえうまくできないものがいる。保険会社はそうした保険代理店に対して顧客の紹介のみを期待し、そこから先の契約に至るまでのプロセスは保険会社自身が担うということでよしとした。こうしたものも保険代理店の一部にいるから、保険代理店の数はとにかく多い」

「(顧客本位の業務運営に関する)原則は金融事業者を対象とし、保険代理店は金融事業者に含まれる。多くの保険代理店がこのことさえ知らないというのが現状である」

同じ保険代理店といってもピンからキリまで違いがありすぎるというか、何とも言葉を失ってしまいます。
ちなみに本書では「変化は放物線上に生じる」「変化は放物線を描いて起きる」など、「放物線」という言葉が何度も出てきます。ご本人に確認したところ、物を投げる時の放物線ではなく、数学の放物線、つまり下に凸の二次関数の右側の部分をイメージした表現(=徐々に傾きが大きくなる)とのことでした。

※千葉県のローカル線(久留里線)に乗りました。

 

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歴史を学ぶ意味

パネルディスカッションに登壇

11月8日から9日にかけて日本アクチュアリー会の年次大会があり、その翌日(10日)は日本保険・年金リスク学会(JARIP)の研究発表大会と、まさに勉強の秋となりました。
そのなかで私は、9日のパネルディスカッション「経済危機とリスク管理~これからのリスク管理を担う若手のために~」にパネリストとして登壇しました。

このパネルディスカッションは、保険会社のリスク管理に従事する若手社員が抱いている疑問を、リスク管理や規制の高度化に取り組んできたベテランにぶつけることで、あるべきリスク管理を模索するという異色の企画でした。
若手の疑問や不満を正面から受け止める役回りだったので、90分の持ち時間があっという間にすぎてしまい、オーガナイザーをヒヤヒヤさせてしまいました。果たして会場の皆さんには何らかのメッセージが伝わったでしょうか
(「ベテランは話が長い!」という感想もありそうですが…)。

過去の経緯は重要

私とともにベテラン側として登壇した藤井健司さんは、VaRの登場からその後の普及の経緯を説明したうえで、「『あるべきもの』があって、そこから展開していくのではなく、実務にフィットしたものが業界標準となる」という趣旨の話をしていました。過去の経緯を知らないと、いま行っている業務がどうしてそうなっているかを理解しにくいので、得てして業務そのものが目的となってしまいがちなのですね。

たまたま私も先日ご紹介した保険毎日新聞の書評(保険業界戦後70年史)のなかで、こんなことを書いています。

「例えば保険募集人に対する規制を導入した2014年の保険業法改正や、損害保険会社が自由化後の代理店手数料を決めるために採用した代理店手数料ポイント制度といった、保険流通に関わる多くの業界人が日常的に直面する諸制度が、保険流通のいわば普遍的な『あるべき姿』を想定し、それを実現するための仕組みとして導入されたのではなく、過去の経緯やその時その時の時代背景の影響を受けながら形づくられてきたことがわかるだろう」

過去の歴史を振り返っても、今の仕事にはほとんど役に立たないと思われるかもしれませんが、そうではないのですね。

時代の大きな流れをつかむ

ただし、過去に学ぶといっても、今がどのような時代なのかを踏まえたうえで学ぶべきなのでしょう。
再び書評から引用します。

「戦後50年間続いた『成長の時代』とは、復興期はともかく、人口増加や東西冷戦、高度経済成長といった外部環境に恵まれ、緩やかな競争環境を人為的に確保することが可能だった極めて特殊な時代だったと言えよう。本書の記述からも、極論すればこの時代の業界の歴史とは、規制や制度の歴史だった感がある。こうした恵まれた外部環境はすでに1980年代後半には消滅しつつあったため、日米保険協議に象徴される外圧がなくても、遅かれ早かれ『成長の時代』は終わっていたと考えられる。今後は人口減少という未体験の事象を無視できないとはいえ、長いスパンで見れば、経営者が自らの知恵と決断で事業を切り開いていく普通の時代に戻ったと言うべきかもしれない」

保険会社の経営陣は「成長の時代」のマインドを引きずってはいないでしょうか。若手が心配しているかもしれません。

 

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グローバル戦略の違い

東京海上がグループ傘下の再保険会社をバミューダの再保険会社ルネサンス・リーに売却し、今後は元受保険事業を主体に事業展開していくという発表がありました。
公表資料(PDF)

再保険市場の構造変化

東京海上HDのニュースリリースによると、世界の再保険市場は、「料率競争の激化や再保険会社以外の資本の継続的流入によりソフトマーケットが常態化し収益性が悪化傾向にあります」とのことです。
確かに再保険市場では一時的なものではない、構造変化が生じているように見えます。

2000年代ころまでの再保険市場では、再保険カバーの供給が絞られ、料率が上がり、再保険会社の収益が改善するハードマーケットと、再保険カバーの供給が過剰となり、料率が下がり、再保険会社の収益が悪化するソフトマーケットが数年ごとのサイクルで交代していました。

ところが今は、多額の保険金支払いが生じても、マーケットがなかなかハード化しないという状況です。例えば、2017年は米国のハリケーンなどにより過去最大級の支払額となったにもかかわらず、その後もマーケット全体としてはハード化したとは言えないようです。
背景には、ERMの進展で再保険会社が資本を毀損しにくくなったことのほか、キャットボンドをはじめ、保険リンクの商品に金融市場から資金が流入していることがあると考えられます。

グローバル戦略の違いに注目

このような構造変化のもとで、2018年に入り、フランスのアクサが元受損保と再保険事業を柱とするXLグループを買収(買収価格は発表時点で約1.6兆円)するとか、米AIGがバリダスを買収するといった、元受を主体とした保険グループが再保険事業を買収により取り込む動きも見られます。考えてみれば、日本のMS&AD(アムリン)もSOMPO(旧エンデュランス)も再保険事業を柱の一つとしています。
東京海上はこうした動きとは異なる戦略をとるということで、興味深いです。

※写真は奈良県の今井町(橿原市)です。いい意味で生活感のある町並みでした。

 

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なぜ「経済価値ベースの評価」なのか

インシュアランス生保版(11月号第1集)に執筆した記事のご紹介です。
金融庁が公表した「これまでの実践と今後の方針」を受けたものとなっています。
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動的な監督として経済価値評価を採用

金融庁が公表した「金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)」を読むと、保険会社を取り巻くリスク等に関するモニタリングのなかに、動的な監督として「資産・負債を経済価値ベースで評価する考え方を検査・監督に取り入れていく」という記述を見つけた
(104ページ)。

生命保険会社の経営管理やリスク管理に携わっていないかたには「経済価値ベースで評価する考え方」といってもあまりピンとこないかもしれない。資産・負債を経済価値ベースで評価するとは、市場価格に整合的な手法で評価することであり、もっと噛み砕いて言えば、時価評価のことである。
現行の会計では資産の一部が時価評価される一方、負債の大半は取得原価で評価されている。資産が時価変動で動いても負債は固定されたままであり、それに基づいて計算されるソルベンシー・マージン比率は、支払余力や経営リスクを十分にとらえていない。

金利リスクをどう捕捉するか

ここまで読んでも、やはり自分には関係がないと思うかもしれないが、金融庁が業界団体との意見交換会で次のようにコメントしているのをご存じだろうか。

「わが国の生保は国際的にも突出した金利リスクを有していると認識」
「現行の監督の枠組みでは金利リスクの捕捉が不十分」

日本の伝統的な生命保険は超長期にわたり利率保証があるものが多かったため、生保会社が抱える金利リスクは非常に大きい。生保はその一部を、超長期国債などを購入することでカバー(ヘッジ)してきたものの、それでも金利リスクが突出しているという指摘である。
言い換えれば、今の800%、900%といった高いソルベンシー・マージン比率(経営リスクの4~4.5倍の支払余力を持つという意味)は「虚像」であり、だからこそ金融庁は、超低金利がニューノーマル化するなかで、将来にわたる健全性を確保する動的な監督として経済価値ベースの評価を取り入れるのだろう。
生保としては、リスクヘッジが難しいのであれば、少なくとも新たなリスクテイクには慎重にならざるを得ない。

経済価値ベースでみると…

中堅生保が相次いで経営破綻した時代から約20年がたち、当時の状況をご存じないかたも増えていよう。生保破綻の本質的なところは経営者や経営組織の問題に行き着くとはいえ、直接的には高金利の時代に個人年金など超長期の貯蓄性商品の販売に傾斜し、過度な金利リスクを抱えた状況のまま金利水準が下がってしまい、経営体力を蝕むようになったことが破綻の一因である。
当時、経済価値ベースの評価が普及していれば、経営管理の担当部門は経営陣に対し、より明確な形で警鐘を鳴らせただろうし、監督当局も早期警戒が可能だったはずだ。

今の生保の健全性に問題があるとまで言うつもりはないが、経営内容にそれほど余裕があるわけではないことを、業界関係者であれば知っておいたほうがいいだろう。
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※写真は新選組ゆかりの八木家です。

 

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